- 著者
-
太田 大介
- 出版者
- 一般社団法人 日本女性心身医学会
- 雑誌
- 女性心身医学 (ISSN:13452894)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, no.3, pp.215-220, 2020 (Released:2020-04-09)
- 参考文献数
- 8
総合病院総合病院心療内科を訪れる原因不明の身体症状を有する患者は,これまでに受診した医療機関での説明に納得がいかなかったり,本人の望むレベルでの症状改善が得られなかったり,またそのためにドクターショッピングを重ねてきた方々であり,そのような患者のニーズに応えるには,初診時にある程度の時間をかけて,患者の解釈モデルとこちらへの期待を聴取し,必要に応じて検査を行い,身体科医としての経験に基づきこちらの患者理解を伝え,その上で,患者の期待に対する現実的な治療目標を設定する必要がある.忙しい外来では再診時に十分に時間をかけることが難しいが,診察時間が短いことは必ずしも悪いことではない.短い診察時間のもとで患者も治療者も重要課題を意識するため,治療目的を志向しやすくなり患者が治療者に過度に依存的になるなどの退行を防止することができる.そのような短い診察時間の中では,治療者が話しすぎないよう留意することで患者が自分の話を聞いてもらえたという満足度もあがる.患者が主役であることを意識させることで治療者への依存が適度に抑制される.そのような短い診察の繰り返しのなかでは,治療の継続性が治療的に重要な役割を果たしており,安定した治療構造自体が患者の精神状態や身体症状を安定させる働きを持っている.原因不明の身体愁訴の背景にある抑うつ,不安,認知機能低下,患者自身の身体的な衰えなどの諸要因を意識しながら,患者自身の健康な部分を伸ばしていくことも重要である.「この症状さえなければ」と症状に固執しがちな患者に対して,症状の原因検索はほどほどに,症状のためにうまくいかなくなっている日々の生活全般を整えていくことに目を向けるように促していく.日々の生活全般を可能な範囲で整えていくことで,やがては身体症状も改善するという見通しを伝えることが重要である.