著者
川瀬 良美 松本 清一
出版者
Japanese Soiety of Psychosomatic Obstetrics and Gynecology
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.43-57, 2006-03-31 (Released:2017-01-26)
被引用文献数
1

先行研究ならびに臨床的知見によると,大学生など若年女性の月経前症状は,月経開始と共に減少あるいは消失するという月経前症候群(PMS)の定義にあてはまらないことが報告されており,我々はその症状の増悪の推移が月経痛の推移に一致することに着目した.そこで本研究では,月経痛症を伴う月経前症状の中には,月経痛に起因する症状が含まれているのではないかということを,大学生を対象に検証することを目的とした.日本の大学生109名のPMSメモリーによる238周期の即時的記録による月経前期(月経前7日間)と月経期(出血期間)の随伴症状について,下腹痛の有無を類別して因子分析によってその構造と特性を検討した結果,腹痛なし群では,「貯留症状と気分の変化因子」「攻撃的変化因子」「PMS身体症状因子」「高揚的因子」の4因子を抽出した.主症状は乳房症状と皮膚症状で,月経前症状を中心とした月経前症候群(premenstrual syndromes: PMS)様のパターンを示した.一方,腹痛群は「負の気分と社会性低下因子」「PMS身体症状因子」「能力感低下因子」「気力低下因子」「高揚的因子」「活動性低下因子」「健康感低下因子」の7因子を抽出した.これらの因子の症状は月経前期に発症しても月経期まで持続し月経期にピークを示す様態にその特性があり,イライラ,不安,無気力,一人でいたいなどを主症状とした精神症状と社会的症状であった.下腹痛との因果関係を回帰分析によって検討した結果,腹痛群の特性は下腹痛に起因することが明らかとなり,従来のPMSの定義とは相容れない特徴であることから「周経期症候群」(peri-menstrual syndromes: PEMS)を提唱した.そして周経期症候群の定義を「月経前期から月経期にかけておこり,月経中に最も強くなる精神的,社会的症状で,月経終了と共に消失する月経痛に起因する症状」とした.本研究の結果から,大学生の月経前症状には,PMSとPEMSとがあり,その鑑別は月経痛の有無で可能であり,また「周経期症候群」(PEMS)の治療は,月経痛症に対する治療と同様な方法で症状の消失,軽減を得ることが可能と考えられる.
著者
辻 裕美子 木村 武彦 桑野 譲 赤松 達也 斎藤 裕 吾郷 晋浩 矢内原 巧 国谷 誠朗
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.57-61, 1999
被引用文献数
1

女性にとって更年期は心身ともに不安定になりやすい時期である.ストレスとなるライフイベントが重なると,うつ状態を呈することがあり,ときに自殺念慮を生じる場合もある.患者に自殺の可能性が考えられる場合,交流分析の再決断療法では,まず「自殺しない契約」をとることが重要なプロセスであると考えられている.これは,患者自身の決断として,自殺しないことをはっきりと表明するものである.この介入方法について,本法が有効であった更年期外来症例,二例を通して報告した.
著者
野村 由実 荒木 智子 吉岡 マコ 杉田 正明
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.153-164, 2021 (Released:2021-12-02)
参考文献数
27

【目的】本研究は,新型コロナウイルス感染症流行下における産後女性の健康増進を目的としたオンラインプログラムについて精神的・身体的側面から効果検証を行った.【方法】産後セルフケアオンライン教室に参加する産後1年未満の女性のうち研究同意が得られた研究参加者142人の中で,4回のプログラムおよび4回のアンケート調査を完遂した71人を対象とした.プログラムはストレッチ・筋力トレーニング・参加者間の対話・セルフケアで構成された.オンラインビデオ会議システムを介して週1回75分,4回行い,母親と乳児は自宅から参加した.評価指標は身体症状,セルフケアの行動変容,主観的健康感(WHO Subjective Well-being Inventory)に関する23項目を設定し,プログラム実施前(ベースライン),実施直後,終了後1カ月,終了後3カ月の4時点でwebアンケート調査を行った.【結果】身体症状(慢性的な疲労を感じる,肩がこる,腰が痛い),主観的健康感(陽性感情,陰性感情,自信,至福感,精神的コントロール感,身体的不健康感),セルフケアの行動変容(セルフケア実施頻度,腰や関節の痛みへの自覚,疲労の予測,肩や体のこりに対する予防・調整,腰や関節への痛みに対する予防・調整,疲労に対する予防・調整)において経時的変化が認められた.陽性感情はベースライン(41.6±5.9)から1カ月後(43.5±6.2)まで有意に高まり(p=0.002),3カ月後(41.4±6.8)にはベースラインの水準に戻っていた(p=0.000).陰性感情はベースライン(49.7±5.8)から3カ月後(53.8±6.4)にかけて有意に低下した(p=0.000).【考察】運動と対話で構成されたオンラインプログラムは,身体症状の改善,主観的健康感の向上,セルフケアの継続,健康への意識や取組の変化など,母親の心身の健康増進に寄与した.
著者
藤林 真美 齋藤 雅人 大田 香織 松本 珠希 森谷 敏夫
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1-2, pp.86-93, 2008-06-30 (Released:2017-01-26)

女性の就業率が増加し,多忙で不規則な生活を強いられることと相俟って,簡便で即効性の保湿・栄養効果があり,尚且つ爽快感や心地よさなどの心理的作用を期待できるスキンケアが求められている.本研究では,化粧水などの液状製剤を含浸させたシート型コスメティック・フェイシャルマスクによる心身のリラクセーション効果を自律神経活動の観点から評価することを試みた.14名の健康な若年女性(年齢21.2±0.8歳)を対象に,フェイシャルマスクを15分間装着させ,マスクの使用前・使用中・使用後の心電図を胸部CM_5誘導より測定した.自律神経活動は,心拍のゆらぎ(心電図R-R間隔)をパワースペクトル解析し,非観血的に交感神経活動と副交感神経活動を弁別定量化した.また,フェイシャルマスク使用前後に,Visual Analog Scale(VAS法)を用いて主観的心理反応(さわやかさ,うるおい感)も計測した.その結果,マスク使用前と比較して,心拍数は,使用中(p<0.05),使用後(p<0.05)に有意に低下した.総自律神経活動は,使用中に有意に増加(p<0.05),副交感神経活動については使用中(p<0.05),使用後(p<0.05)ともに顕著な増加を示した.また使用感スコアは,フェイシャルマスク使用後,さわやかさ(p<0.01),うるおい感(p<0.01)ともに顕著な上昇を認めた.これらの結果から,フェイシャルマスクの総合的な質感が,直接的あるいは間接的に自律神経系に作用し,副交感神経活動の亢進により,心拍数を減少させたことが考えられた.また短時間のフェイシャルマスクの装着により,肌のうるおい感と心理的な爽快感を生み出すことから,心身のリラクセーション効果も得られることが推察された.
著者
岡野 禎治 斧澤 克乃 李 美礼 GUNNING Melanie D MURRAY Lynne
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.172-179, 2002
被引用文献数
7

産褥期の精神障害の中でも産後うつ病は,10〜15%と罹患率が高く,適切な対応が遅れると,女性の社会的不適応のみならず家族関係に大きな影響を与える.婚姻関係の破綻,夫のうつ病の発症,さらに乳幼児に対する健全な愛着形成の遅れ,拒絶,虐待のほかに,近年の縦断的研究によって乳幼児の認知障害や知的障害を引き起こすことも判明している.今回は,産後うつ病が家族関係に及ぼす多彩な影響の中でも,母子相互関係に与える影響について調査した.産後4ヵ月の時点における日本人正常対照群(N=5)と産後うつ病群(N=4)における母子相互関係について,Global Rating of Mother-Infant Interaction at Two and Four Monthsというビデオ観察法を用いて,「mothers」,「infants」,「interaction」の総得点と各項目の得点を評価して比較した.「mothers」と「interaction」の平均総得点は,産後うつ病群の方が有意に低い値を示した.両群の個別評価ついてもいくつかの項目で有意な差異が認められた.すなわち,産後うつ病の母親は愛情度が低く,乳児の行動への受容が低く,乳児の要求を敏感に察知し,それに的確に反応することができなかった.さらに子供への要求度が高く,子供を不快にするような行動が多く,不安・緊張が高いことが判明した.相互作用については,円滑で満たされた相互のコニュニケーションに欠けていた.母親から乳幼児への愛着(attachment)形成に最も敏感である,いわゆる感受期(sensitive period)に予測される母子関係の障害を無視することはできない.今後,日本でも母子相互作用の包括的で長期的な研究が重要である.
著者
森 美加 馬渕 麻由子 酒井 佳永 安田(鹿内) 裕恵 岩満 優美 飯嶋 優子 日高 利彦 亀田 秀人 川人 豊 元永 拓郎
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.132-145, 2013-07-15 (Released:2017-01-26)

女性が多数を占める疾患である関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis : 以下,RAとする)患者がどのような心理的支援を望んでいるのか,そのニーズを調査し,さらに,RA患者に対するサービスのあり方を検討し,ニーズに合わせた支援プログラムを提案することを目的として,2011年2月から8月,RAに罹患し医療機関にて治療を受けているRA患者で,研究参加に同意した20名(女性18名,男性2名)を対象として,調査票および面接による調査を行い,面接の逐語記録の文書データをグラウンデッドセオリーアプローチを参考にして分析した.その結果,電話相談,ホームページ,メール相談,個別心理相談,心理教育,セルフケアグループすべての支援に対してニーズがあり,特に電話相談(必要時),個別心理相談(通院先),心理教育のニーズは顕著であった.そこで,個別心理相談,心理教育を中心とした,チームによる包括的なケアシステムがRA患者のQOLを高めるためには有効なのではないかと考えられる.また,心理教育のテーマとしては,確定診断時においては,(1)病気の具体的な説明,(2)身体的ケア,(3)心理的ケア,(4)療養上の工夫が,生物学的製剤開始時においては,(1)効果と副作用を中心とした具体的説明,(2)自己注射について,(3)費用について,(4)生物学的製剤を使用する上での不安と期待についてが,家族向けとしては,(1)病気の説明,(2)RA患者の心理について,(3)家族へのケアが考えられる.さらに,不安の受容と変化を併せ持った心理療法的チームアプローチであるDBTを参考にした包括的ケアシステムの開発は,不安と安心の間で揺れ動くRA患者の心理的ケアのモデルとして有効であり,また,RA患者の長期的Quality of Lifeを最大にすることを治療目標とするT2T(Treat to Target)の有効性に繋がるのではないかと考えられる.
著者
今井 千鶴子 今井 正司 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1-2, pp.309-316, 2007-04-30 (Released:2017-01-26)

本研究の目的は,心身ともに健康な女子大学生を対象に,不安感受性(anxiety sensitivity)が痛み経験(痛みの閾値,痛みの耐性の程度,痛みの主観的評価,痛みへの恐怖感,痛みへの認知的対処方略)に及ぼす影響について実験的に検討することであった.実験参加者31名は,日本語版不安感受性尺度によって,不安感受性低群(n=12)ならびに不安感受性高群(n=19)に分けられ, 3℃の冷水に手を浸す課題(コールドプレッサーテスト)に取り組むことが要求された.コールドプレッサーテスト中に閾値,耐性の程度の測定を行うとともに,コールドプレッサーテスト終了後には,ペインスケール(痛みの主観的評価),多面的痛み尺度(痛みへの恐怖感),日本語版coping strategy questionnaire (痛みへの認知的対処方略)を実施した.その結果,不安感受性高群は不安感受性低群に比べて,痛みの主観的評価が高いことや,自分自身を励ますといった肯定的な自己教示の対処方略を多く用いていることが示された.以上の結果から,不安感受性は痛みの主観的評価や痛みへの認知的対処方略に影響を与える重要な変数であることが示唆された.
著者
丸山 知子 吉田 安子 杉山 厚子 須藤 桃代
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.93-99, 2001
被引用文献数
3

本調査の目的は,妊娠後期から出産後2年間の女性の心理・社会的状態と育児に対する意識,及びその影響要因について分析することである.本報は,妊娠後期の心理・社会的状態について分析を行った.1.対象と方法:対象者は,札幌市内8ヵ所及び道内7ヵ所の産婦人科病院または総合病院で妊婦健診を受け,研究に同意の得られた妊娠28週以降の妊婦である.調査期間は,平成12年3月下旬から5月上旬である.調査方法は,外来受診時,依頼文書,質問紙を渡し,郵送によって回収した.調査内容は,調査者が作成した29項目からなる心配尺度の質問紙(丸山知子.心身医.1999),ローゼンバーグ(1965)のセルフエスティーム(SE),及びエジンバラ産後うつ病調査票(EPDS)を用いた.2.結果:妊婦695名に配布し,467名より回収(回収率67.2%),そのうち有効回答数は465名であった.(1)対象の背景は,初妊婦61.5%,経妊婦38.5%,平均年齢は28.9歳,最終学歴は高校卒業が最も多く48.1%であった.家族構成は核家族が83.0%,拡大家族は10.8%であった.職業は,専業主婦が70.8%,有職者は28.0%であった.(2)心配尺度とEPDSは0.618,SEは-0.448で各々有意に相関があった(p<0.001).(3)妊婦の援助者は実母が最も多く(59.8%),次いで夫であった(43.4%).今回の妊娠は,計画的43.9%,計画外23.2%,どちらでもよかった30.1%であった.(4)妊娠中の心配尺度が平均3以上の項目は,夫の育児への協力,夫が側にいてほしいという夫のサポートと,妊娠前の容姿にもどるか気になる,体重が気になるという身体的イメージに関する項目であった.この他,育児や子供の健康状態,疲労感,体調不良,いらいら等,心身疲労や情緒不安定も70%以上の者にみられた.(5)心配尺度と年齢,学歴,計画の有無,妊娠歴,職業,援助者との関連をみた.その結果,初妊婦,計画外妊娠では心配尺度が有意に高かった.
著者
松岡 治子 竹内 一夫 竹内 政夫
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.46-54, 2002
被引用文献数
1

本研究の目的は,障害児をもつ母親が現在受けているソーシャルサポートと母親のメンタルヘルス,特に抑うつ症状との関連を明らかにすることである.肢体不自由児を中心とした療育施設,G療護園に子どもが入園あるいは通園している母親169名を対象として,ソーシャルサポートと母親のメンタルヘルスに関する自記式質問紙を用いて調査を行った.その結果,児の障害について夫など他者から母親のせいといわれた経験をもつ母親は46名,自分のせいと「いつも」あるいは「時々」思う母親は76名で,これらの母親はそうでない母親よりも有意に抑うつ性得点が高かった(P<0.01).母親へのサポートの量については,夫からのサポートと母親の親・兄弟・親戚からのサポートが多かった.また,母親の抑うつの程度は夫のサポートの程度,および子どもの障害を自分のせいと思うことが関連していた(それぞれ,β=-0.304,p<O.01; β=0.284,p<O.01).
著者
土井 麻里
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.186-192, 2019

<p>近年,女性の生き方は多様化し,女性を取り巻く社会的・家庭的状況は大きく変化した.現代社会では女性が女性性の尊重と自己実現の双方を求めるようになった結果,心理社会的ストレスは複合的になり,結婚・妊娠・子育て等のライフイベントと就労との両立,ワークライフバランスの不均衡,給与面の男女間格差,企業や組織でのガラスの天井,多様な家族関係での対人関係ストレス,自己実現における困難等が,女性の健康に大きな影響を与えている.そのため女性の健康を維持するためには,女性のリプロダクティブな生物学的特性・心理特性・ライフサイクルの理解に基づく社会対策と女性心身医療が必要である.さらにスピリチュアリティを含めた生き方を尊重,支援することも求められ,身の医療は,こころ,体,いのちの健康改善とバランス回復に重要な役割を果たしている.「身」の医療が普及し,個人また社会全体が性に対する文化社会的な偏見・とらわれから解放され,性差に対する相互理解,相互尊重が深まり,より包括的な精神性を持つ成熟した社会の創造が望まれる.</p>
著者
岸 恵美子
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.226-237, 2002
被引用文献数
2

本研究の目的は,介護者が有効にサービスを利用できる支援のあり方を検討するために,性役割意識が介護への考え方および介護サービス利用に及ぼす影響を明らかにすることである.研究方法として,介護講座受講生に自記式質問紙調査を実施し,371名から有効回答を得た.利用することに最も抵抗を感じる介護サービスは,「特別養護老人ホーム」,次いで「ショートステイ」「ホームヘルプサービス」であった.性役割尺度得点は,介護について,「家族の力で行うべき」「介護は女性が担うべき」「介護は長男の嫁が行うべき」「子どもに介護してもらいたい」という考えに肯定的な者では有意に低くなっていた.またサービスを利用することについて,「人を頼むと気を遺う」「人を頼むと周囲の批判の目が気になる」「人を頼むと罪悪感を感じる」「介護者の犠牲は仕方がない」,という考えに肯定的な者では,同様に性役割尺度得点が有意に低くなっていた.サービス利用への抵抗感があり,サービスを利用しないで家族で介護すべきという考え方に肯定的な者では,性役割尺度得点が有意に低く,伝統的性役割意識が強いことが明らかになった.必要なサービスを利用できるよう,介護者の性役割意識に直接働きかける支援と,意識改革のための健康教育の重要性が示唆された.
著者
志賀 令明
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.315-320, 2012-03-31 (Released:2017-01-26)

若年女性の性交疼痛障害の一例が報告された.症例はA市で,双子の妹として生まれたが,その母親によって幼い頃から「性交」を嫌い恐れるようにしつけられた.症例は,A県の郡部出身の男性と結婚したが,彼は「イエ」を継ぐのが当たり前として育ってきており,郡部で,実家の母親と妻と一緒に暮らしたいと考えていた.結婚初夜から症例の性交疼痛障害は始まり,約2年間持続した.カップルカウンセリングが行われ,夫,妻双方ともその実家からの精神的な自立ができていないことが明らかになった.特に症例は,夫により,彼の「イエ」に連れ去られるのを恐れていた.症例の性交疼痛障害は,我が国での伝統的なイエ制度とそれを維持しようとする夫に対する異議申し立てであると解釈された.
著者
高木 絢加 山口 光枝 脇坂 しおり 坂根 直樹 森谷 敏夫 永井 成美
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.193-205, 2012
被引用文献数
1

邦人若年女性の約半数が日常的に四肢などに冷え感を有していることが報告されている.我々はこれまでに,若年女性の冷え感と低いエネルギー摂取量や体温・熱産生に関与する交感神経活動が関連していることを見出している.この結果に基づき本研究では,「若年女性の冷え感は,体熱産生が低いために,深部体温は保持されるものの末梢体温が低下し,その自覚症状として表れている」との仮説を立て,以下の実験による検証を試みた.被験者は,「四季を通じて日常的に四肢などに強い冷え感を自覚している女性(冷え群)」と「四季を通じて日常的に四肢などに冷え感をほとんど自覚したことのない女性(非冷え群)」各10名(18-21歳)とした.前夜から絶食した被験者に半袖半ズボンの検査衣を着用してもらい,異なる2日の午前8時30分に,体組成と安静時エネルギー消費量測定,もしくは体温と温度感覚(冷え感),交感神経活動(心拍変動解析)測定を26℃の実験室で行った.深部体温の指標として鼓膜温,末梢体温の指標として手先と足先の皮膚温度を,高感度サーモセンサーで60分間連続測定した.冷え感はビジュアルアナログスケールを用いて15分間隔で測定した.冷え群では非冷え群と比較して,体温・熱産生に関与する交感神経活動が有意に低く,除脂肪体重あたり安静時エネルギー消費量も低値傾向を示した.鼓膜温は全測定ポイントで2群で差がなかったが,冷え群では60分後の体温較差(鼓膜-手先,鼓膜-足先)が開始時と比べて有意に増加した.足先の冷え感スコアと鼓膜-足先の体温較差には,有意な正の相関を認めた.以上の結果から,日常的こ強い冷え感を有する若年女性は,(1)低い安静時エネルギー消費量,(2)深部体温には差がないが26℃・60分の曝露で深部-末梢体温較差が増加,(3)体温較差が大きいほど冷え感を強く感じるといった特徴を有することが示唆され,本研究の仮説が支持されたと考えられる.
著者
甲斐村 美智子 上田 公代
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.412-421, 2014-03-30 (Released:2017-01-26)
被引用文献数
1

本研究の目的は,若年女性における月経随伴症状と関連要因がQOLに及ぼす影響について,因果モデルを用いて構造的に明らかにすることである.2012年4月〜12月,熊本市と隣接市の看護系及び非看護系の4年制大学5校に在籍する1,215名の女子学生を対象に,無記名式自記式質問紙調査を実施した.その結果,月経随伴症状を軽減させる要因は肯定的月経観と健康的生活習慣であり,増強させる要因は効果的ではない症状対処行動であった.月経随伴症状はQOLを低下させる要因であり,向上させる要因は健康的生活習慣,自己効力感,ストレス対処行動であった.生活習慣,自己効力感,ストレス対処行動はQOLへ直接関連しているだけでなく,月経随伴症状を介した間接的な関連も示されたことから,月経随伴症状を軽減しQOLを向上させるためには,生活習慣を整えるとともに自己効力感,ストレス対処行動に焦点を当てた支援が有効であることが示唆された.特に生活習慣は月経随伴症状,QOLの両者に直接関連していることから,重要だと考える.