著者
稲吉 玲美
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.114-122, 2018 (Released:2018-12-07)
参考文献数
21

月経随伴症状に対しては,医学的アプローチと並行して心理社会的な視点からの支援が重要である.心理学的視点からは,症状がありながらもそれらとうまく付き合いながら,女性が自分の価値に沿った生活を送るための支援をしていくことが求められる.しかし,現存の尺度は症状の種類や程度を測定するためのものであり,女性が症状によって日常的に抱く心理的な苦痛を定量化する手段が存在しない.そこで,本研究では,先行研究をもとに月経随伴症状負担感尺度を作成し,月経随伴症状に対する有効な心理学的アプローチのあり方を検討する際の有用な知見を得ることを目的とした.20~39歳の女性318名を対象としたインターネットによるアンケート調査を実施した.因子分析の結果,「コントロール不能感」および「不遇感」の2因子からなる尺度が作成された.各因子のCronbach's α係数から,それぞれ高い内的整合性が得られた.また,月経随伴症状の程度を測定する月経随伴症状日本語版および国外にて作成された症状による心理社会的影響を測定する尺度との間に,それぞれ有意な正の相関がみられた.よって,この尺度は妥当性と信頼性があることが示された.また,日本語版Ten Item Personality Inventoryとの間には,「コントロール不能感」と「協調性」および「不遇感」と「外向性」に弱いながらも有意な負の相関関係が示された.即時的・回顧的回答および属性による得点差についてダミー変数を用いた重回帰分析によって検討したところ,月経中に比して月経前の方が負担感およびコントロール不能感をより抱くことが示された.本尺度は,月経随伴症状とうまく付き合っていくための心理的アプローチの介入効果を検討する指標となることが期待される.また,本尺度によって女性が月経随伴症状による二次的な負担感を明示することにより,女性の苦痛について,社会の理解を促すことに貢献すると考えられる.
著者
李 貞美 小川 俊樹
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.120-143, 2010

社会が望む美の基準に合わせるために,醜いと考えている身体部分に手を加えることは自分の外見を変える方法の一つである.現代社会において外見の魅力はますます強調されている.本研究では女性を対象に,美容のために体に手を加えることに関する認識の特徴を検討するために,"美容のための身体可変性の認識尺度(BMB)"を作成し,"有用性の認知および結果に対する期待"と"罪悪感および人工性の観点にとらわれない傾向"の2つの次元で構成されていることを確認した.この結果は,女性が美容のために体に手を加える際の葛藤を明確に示している.いくつかの例外を除けば,多くの身体加工においてBMBの第1因子の特性が重要であること,またBMBの第2因子はより危険性が高い身体加工と関与していることが示された.韓国と日本の女子大生を対象にBMBと身体可変リストについて比較検討を行った結果,身近に行われる身体加工について受容しやすくなることが推察された.また自分の体に手を加えて外見を変えられるという認識は,主に体重と関連した統制の認識とは異なる概念である可能性も示唆された.
著者
木村 真理 渡邉 映理 岸田 聡子 今西 二郎
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.268-282, 2012-03-31 (Released:2017-01-26)

【目的】健常成人女性を対象に,鎮静,または覚醒作用が期待される精油を用いてハンド・フットマッサージを実施し,心身への効果の違いを検討するため試験を行った.【方法】対象者は,試験説明を行って同意を得られた22-30歳の健康成人女性16名であり,精油なし,真正ラベンダー2.5%+ゼラニウム2.5%(LA/GE),ペパーミント2.5%+レモングラス2.5%(PE/LE)の3条件で,30分間のハンド・フットマッサージを1名ずつ実施した.試験デザインは無作為化クロスオーバー対象比較試験とした.対象者は心拍計を装着し,10分間安静,30分間の施術,10分間安静の順で試験を行い,心拍変動解析によりHF値,LF/HF比を算出した.また,施術前・中・後(10分安静後)の3回唾液を採取し,コルチゾール(CS)濃度,イムノグロブリンA(IgA)濃度を分析,測定した.施術前後の2回,心理質問紙への記入を行った.【結果】二元配置分散分析により,施術中30分に「LA/GE」条件では,HF値の上昇,LF/HF値の低下が,逆に「PE/LE」条件ではHF値の低下,LF/HFの上昇が見られた.また,施術後10分に「LA/GE」及び「PE/LE」条件でCS濃度が大きく低下した.心理指標は「精油なし」条件と比較して「LA/GE」条件で,否定的感情を示す得点が大きく低下し,「PE/LE」条件では,肯定的感情は「精油なし」と比較してより大きく上昇し,他の2条件に比べて疲労度が最も低下した.また,LF/HFやCS濃度,IgA濃度は対象者の月経周期,自覚的健康度に強く影響されており,これらを被験者間因子として二元配置分散分析を行うと,3条件によるCS,IgAの施術前・中・後の動きが有意に異なることが示された.【結論】健常成人女性にハンド・フットマッサージを施すと,精油の使用によって心身への効果がより高まり,精油の種類により,同じ手技のマッサージを行っても異なる効果が得られることが示された.アロマセラピー・ハンド・フットマッサージにおいて鎮静作用や覚醒作用を有する精油を使い分けることは,女性特有の症状緩和のために有効であると思われる.
著者
後山 尚久 池田 篤 植木 實
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.177-184, 2003
被引用文献数
2

元来の神経質素質と心気的傾向に医師の不用意な言葉を強化子として形成された頑固な骨盤内疼痛(身体表現性疼痛障害)の診療を経験した.患者は36歳の事務員.仕事に没頭し,男女交際を避けていた生活において36歳で男性との性的初体験の際の「ささいな」骨盤内違和感から,しだいに下腹部の堪え難い疼痛となり,慢性的な全身倦怠感,肩こり,不安感を認め,生活(仕事,家庭内の日常的内容)に支障をきたした.相手の男性への心担い言葉に対するアンビバレンス感情の中で,行動の抑制ができなくなり,骨盤内疼痛への執拗なとらわれ,日常の行動に疼痛顕示行為がみられた.薬物療法への消極的な姿勢のため,治療6ヵ月過ぎから通常の心理療法に加えて森田療法的アプローチ,オペラント条件づけなどを積極的に行ったところ,奏効し,前向きの人生を描くことができるようになり,治療1年で治癒した.本症例は,元来の性格に,異性の問題,職場への固執などがストレス要因としてからみ,些細な身体違和感から疼痛症状が固定化した身体表現性疼痛障害に分類される慢性骨盤内疼痛(chronic Del vieoain: CPP)である.医師の一言が強化子となっていることが判明したため,行動論的カウンセリングを行った.またヒポコンドリー性判断が容易になされる性格であったので,森田療法的アプローチも行い、運良く奏効,前向きの人生に向けて再出発できた.
著者
中村 晃士 鈴木 優一 山尾 あゆみ 加藤 英里 瀬戸 光 沖野 慎治 小野 和哉 中山 和彦
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.121-125, 2012-07-15 (Released:2017-01-26)

われわれは,家族内葛藤から生じたと思われる心因性難聴と診断された女児Aを経験した.16歳の女児Aの幼いころの家庭では,父親がアルコールによる病的酩酊があり,父親から母親に対する暴力が日常的にあった.患者自身は被害に遭うことはなかったが,母親が父親に暴力を振るわれる姿をいつも見ており,緊張した毎日を送っていたと思われる.こうした中,患者は小学校低学年から耳が聞こえにくいという症状を呈していたが,耳鼻科を受診するも耳鼻科の診断がなされるが精神科治療に結びつくことはなかった.患者が小学5年生のときに両親は離婚しているが,父親の仕事をAが手伝うといった形をとっていたため,家庭,そして両親のバランスをAがとるという調整役を担わされていた.その結果として,難聴は次第に悪化し,16歳まで遷延化したため,精神科治療に導入された.診察の結果,Aの難聴は心因性であるとされ治療が開始された.面接の中で,Aにとって難聴は,意思を表明しないための道具であり,防衛として理解された.すなわち,Aは両親の狭間で意見を求められたり,ときにはどちらにつくのかといった態度の表明を迫られたりし,それを出来ないAにとっての防衛策が難聴だったのである.Aは家庭内で調整役を担わされているために葛藤状況が生じていると考えられ,Aの思いを言語化するよう治療では促された.もちろん,防衛としての難聴をAが手放すには時間がかかるが,Aが家庭内での調整役を担わなくても家族が崩壊しないことを現実生活の中で体験していけば,少しずつ難聴を手放せていけると思われた.また現代社会の中で,家庭環境はより複雑化していく一方であり,このような患者が増えていくことが予想される.治療者は,家族内の病理が女性や子どもといった弱い立場の人の身体症状という形で表面化しやすいということを念頭に治療に当たらなければいけない.
著者
甲斐村 美智子 久佐賀 眞理
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.143-152, 2008-11-30 (Released:2017-01-26)

本研究の目的は,月経用布ナプキンの反復使用が,女子学生の不定愁訴に及ぼす影響を明らかにすることである.布ナプキンの使用経験が無い19〜22歳の女子学生32名を対象に,平成19年1月〜7月の間布ナプキンを使用してもらい,介入前から終了まで2ヵ月毎に自記式アンケート(月経の経験,不定愁訴(MDQ・VAS),月経観,自尊感情,性の受容,ライフスタイル)を実施し,月経毎に月経記録,介入終了後にインタビューを実施した.分析方法は,不定愁訴の関連要因を重回帰分析で,介入前の状態を基準値とし,その後2ヵ月毎の不定愁訴・関連要因の変化,並びに不定愁訴改善群・非改善群の変化をt検定で分析した.介入前の不定愁訴に影響を及ぼす要因は性の受容,肯定的月経観であった.介入後の変化を見ると,布ナプキン使用2ヵ月後に月経観,4ヵ月後に月経痛,6ヵ月後に不定愁訴,自尊感情及び性の受容が改善した.最初に変化した月経観の詳細変化では,「厄介」「自然」「衰弱」という順で有意な改善を示した.この変化と記録・インタビューの時系列変化から,布の感触とナプキン洗濯時の月経血の観察が月経観を「厄介」から「自然」に変化させ,それが不定愁訴,関連要因の改善につながっていた.不定愁訴改善群と非改善群を比較すると,介入前のMDQ改善群は月経時の「痛み」「行動変化」,VAS改善群は月経前から続く「痛み」「負の感情」がより強いという特徴が見られた.以上より,布ナプキン使用は月経周辺期の不定愁訴の改善に有効で,使用を継続することで自尊感情や性の受容の改善にも役立つことが明らかとなった.また,不定愁訴改善群と非改善群の比較から,布ナプキン使用が有効に作用する対象は月経周辺期の痛み,負の感情,行動制限が強い人であった.
著者
水野 真希
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.294-301, 2016

本研究の目的は,人工妊娠中絶ケアに携わる看護者を対象に,中絶ケア体験により生じたトラウマによる心理的反応とその関連要因について明らかにすることを目的とした.2011年10月〜2012年1月に,人工妊娠中絶を実施している医療機関に勤務する202名の看護者を対象に,個人属性,中絶ケアを負担と感じる要因,そして中絶ケア体験から生じたトラウマによる心理的反応を測定するため改訂版出来事インパクト尺度を用いて無記名自記式質問紙による調査を実施した.重回帰分析の結果,中絶ケアに携わる看護者の心理的反応(改訂版出来事インパクト尺度)と有意に関連が見られたのは,「生きる可能性のある胎児が中絶されること」,「ケア中の感情コントロールの困難さ」そして「中絶された胎児に触れなければならないこと」であり,分散の24%が説明された.また31名(15.3%)が心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder:PTSD)ハイリスク群に分類された.看護者の業務に対する意思を尊重し,業務を変更するなどの配慮をすると同時に看護者への支援体制を構築することが,ケアの質向上につながることが示唆された.
著者
後山 尚久 野坂 桜 池田 篤 植木 實
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.34-43, 2005

子供の主治医の小児科医より診療依頼を受け, 心身医学的治療を行った中高年女性を経験した.3名の患者の子供は全員が疾患を有していたため, 小児科医師が子供の治療経過の中で母親の心身医療の受診の必要性を認めた.第1例目は, 子供が摂食障害の発症により母親への依存行動が出現し, 気分障害となった.子どもはその後強迫性障害を発症したが, 薬物療法に加え, 現状を"ありのまま"に受け入れることと, 子供の立場や考え方を"わが身に引き当てて"子供の目線で母親(自分)の行動を客観的に観察することにより, 行動の歪みを認知でき, 子供に対し自然な接し方ができるようになった.第2例目は, 子供が過換気症候群を契機に不登校となった.家族の誰にも自分の苦しみを表明できないうちに, 気分障害を発症した.周囲に苦しみを分け与えたこと, 子供の不登校を"ありのまま"に受け入れ, 世の中のすべては"諸行無常"であるという仏教的概念を心理療法の中心として薬物療法に加えて実施したところ, 徐々に考え方が楽になり, 6カ月後には不登校には変化がないものの, 自覚的には健康感が回復した.第3例目は, 配偶者との結婚直後から20年間に及ぶDV, 精神発達遅滞の子供の10年間に亘る介護, 「世間体が悪い」との理由による両親からの一方的な絶縁の申し出などにより月経前不快症候群(PMDD)を発症した.本例も薬物療法を行いながら"諸行無常"という仏教的概念を中心とした心理療法を行ったところ, 月経3周期目には自覚的な精神, 身体症状が著明に改善した.治療として, いずれも仏教的思想, 概念, 教義を加味した心理療法を行い, それぞれが「さとり」に近い心理状況を得たことが治療効果を促進したと思われた.
著者
大坪 昌弘 岩佐 弘一 菅原 拓也 菊地 真理子 伊藤 文武 辰巳 弘 岩破 一博 北脇 城
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.110-116, 2014

【目的】うつ病性障害や不安障害で骨密度(BMD)が低くなるとされるが,その原因は多岐にわたる.閉経後の精神疾患女性においてBMD低下に影響する因子を後方視的に検討した.【方法】本研究は非介入試験である.2009年から2012年の初診患者のうち,大腿骨近位部および腰椎BMDをDXA法により同時測定した閉経後女性165名を対象とした.調査項目は年齢,初経年齢,閉経年齢,エストロゲン暴露期間(年),閉経後期間(年),身長,体重,BMI,分娩回数,喫煙の有無,飲酒習慣,骨折家族歴の有無,大腿骨近位部・腰椎(L2〜L4)のBMD・%YAM値とした.精神疾患の有無によりA群(あり:72名)とB群(なし:93名)に分け,統計解析により比較検討した.【成績】精神疾患(A群)の内訳はうつ病性障害15名,適応障害45名,不安障害12名であった.年齢,初経年齢,身長,分娩回数,喫煙の有無,飲酒習慣,骨折家族歴の有無について両群間に差はなかった.閉経年齢,エストロゲン暴露期間,閉経後期間,体重,BMIはA群で有意に低かった(p<0.01).大腿骨近位部,腰椎のBMD,%YAM値はA群で有意に低かった(p<0.01).大腿骨近位部%YAM値,腰椎%YAM値と有意に関連の度合いの強い変数はともに閉経後期間,体重であった(p<0.01).体重,閉経後期間を調整因子として共分散分析したところ,大腿骨近位部%YAM値,腰椎%YAM値の両群間の有意差は認めなかった.【結論】閉経後女性の骨密度低下は閉経後期間が長いことと低体重と関連するが,精神疾患と骨密度低下との関連はないことが示唆された.
著者
日比野 由利
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.100-105, 2009

女性の生殖にまつわる経験,すなわち妊娠,出産,あるいは中絶や流産などのリプロダクティブ・ヒストリーと女性のメンタルヘルスとの関連を明らかにするために,自記式質問紙調査を行った.女性(30.3歳,範囲16-43歳)を対象に質問票を配布し,177票を回収した(回収率;63.2%).メンタルヘルスの評価にはローゼンバークの自尊感情尺度を用いた.自尊感情に違いが見られた30歳未満と30歳以上のグループに分けて自尊感情とリプロダクティブ・ヒストリーの関連を分析したところ,30歳以上の対象者で,過去に一度でも中絶経験がある女性では,そうでない女性に比べて自尊感情が有意に低いという結果が得られた(p=0.035).これらの結果から,より長期的に見て,女性のメンタルヘルスの低下を防ぐためには,望まない妊娠を防ぐとともに,中絶後のケアが必要であることを論じた.