著者
増田 彰則
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.815-820, 2011-09-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1

不登校を合併した子どもの睡眠について調査したので報告する.対象:当院を受診した患者108名(10〜18歳)のうち,不登校合併例51名,不登校合併のない心身症例57名と健常高校1年生64名である.結果:不登校例では,(1)31%が入眠障害を訴え(健常高校生は3%),24%が中途覚醒(同8%)を訴えた.(2)不眠でつらい思いをしている割合は24%(同8%),朝だるさを訴える割合は61%(同36%),悪夢をみる割合は53%(同36%)であった.(3)テレビを3時間以上みる割合は52%(同13%)で携帯電話,インターネット,ゲームを3時間以上する割合はそれぞれ18%(同11%),18%(同5%),10%(同2%)であった.(4)これら電子機器を1日5時間以上すると答えた患者の62%は不登校を合併していた.考察:不登校合併例の多くに睡眠障害がみられた.特に入眠障害と朝起きられない問題を抱えていた.原因の1つとして子どもの生活が深夜型化していることが挙げられた.
著者
石﨑 優子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.39-43, 2017 (Released:2017-01-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1

発達障害児はその発達特性により, 学校や集団で不適応を起こしやすく, また自己の感情表現が苦手なため, 身体化して心身症を発症しやすい. よって子どもの心身症, 問題行動や不登校に対峙する際には, 背景にある児の認知の問題, すなわち発達特性を知り, 特性と児を取り巻く環境の関係について考えることが重要である. そしてその問題の解決に向けては, 児を取り巻く環境, 特に学校関係者と連携し, 児の特性に応じた配慮を求めることが肝要である.
著者
福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.45-52, 2011-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
25

心身医学では,陰性情動がどのように成立するのか,そしてその異常がなぜ生じるのか,という問題が特に重要である.代表的な心身症である過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の病態生理を解くことはこの問題解決につながる.生体に加わった刺激は大脳皮質と皮質下の処理により情動を惹起する.情動にはどんな感じがするかという感情と身体状態である情動状態の2つの成分があり,変化した身体状態(内的感覚)が感覚信号を介して再び中枢に入力される.この刺激の作用点を内臓に置くことにより,内的感覚から情動が生成される根本的な機序を解明できる.健常者の大腸を刺激すると,視床,島,前帯状回,前頭前野の活性化が認められ,同時に腹痛と不快情動が惹起される.IBS患者では同一の刺激に対するこれらの部分の活性化が大きく,腹痛と陰性情動も強い.これらの内臓刺激による中枢処理は個体のもつ性格,遺伝子,先行する強い陰性情動体験によってパターンが異なる.これまでの研究から,島,扁桃体,前帯状回を中心とする局所脳の活性化の程度とセロトニンやcorticotropin-releasing hormone(CRH)などの制御物質が腹痛と陰性情動を決めることが示唆される.次の課題はこれらがどのような回路,細胞,物質の動態により制御されるかを明らかにすることであろう.
著者
村上 正人 松野 俊夫 金 外淑 小池 一喜 井上 幹紀親 三浦 勝浩 花岡 啓子 江花 昭一 橋本 修
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.893-902, 2009
参考文献数
24
被引用文献数
5

近年わが国でも注目されてきた線維筋痛症候群(fibromyalgia syndrome;FMS)は,長期間持続する全身の結合織における疼痛と多彩な愁訴を呈する慢性疼痛のモデルともいえる病態であるが,心身症としての側面を濃厚に有している疾患でもある.発症の背景には何らかの遺伝的,生理学的要因に加え,女性の内分泌的な内的環境の変化やライフサイクル上の多彩な心理社会的ストレス要因も大きく関係する.患者の90%以上に発症の時期に一致して手術・事故・外傷・出産・肉体的過労・過剰な運動などのエピソードがあり,天候,環境変化や不安・抑うつ・怒り・強迫・過緊張・焦燥などの心理的ストレスと連動して病態が変動する,強迫,完全性,執着などの性格特性がみられる,など強い心身相関が認められる.患者の尿中セロトニン,ノルアドレナリンの代謝産物である5HIAAやMHPG,骨格筋の解糖系に関与するアシルカルニチンはうつ病患者と同等に低値であり,FMSの痛みや倦怠感,多彩な身体症状,精神症状の背景にモノアミンやカルニチン代謝が関与していることが示唆される.FMSの治療には通常の対症療法が奏効しないため,的確な薬物療法が重要でSSRIやSNRIなどの抗うつ薬,抗けいれん薬,漢方薬などが併用される.さらにストレス緩和のための生活指導や心身医学的な視点からのカウンセリング,認知行動療法など全人的治療が必須である.この考え方はFMSのみならず他の慢性疼痛にも共通しており,薬物や理学的治療法などの「医療モデル」に加え「成長モデル」からアプローチする重要性は変わらないものである.
著者
本田 美和子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.692-697, 2016 (Released:2016-07-01)
参考文献数
11

高齢社会を迎えた日本では, 加齢によって認知機能が低下するにつれてケア実施困難となる高齢者が増加している. 現在の医学・看護学は「治療の意味が理解でき, 検査や治療に協力してもらえる人」を対象とすることを前提にしているが, 認知機能が低下した方々にとってはその前提条件は必ずしも得られていない. 提供される医療やケアが自分のためと理解できずに激しく抵抗する人々に, ケアを行う人が疲弊して職を辞すなど, 看護・介護人材の離職にも直結している. ユマニチュードは体育学を専攻するイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの36年にわたる経験の中から創出した, 知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションに基づくケア技法である. 「あなたは大切な存在です」という言語および非言語によるメッセージを, ケアを受けるひとが理解できる形で届けるための方法でもある. 本稿では, このケアの基本的な考え方と基礎技術について論述する.
著者
内藤 明子 印東 利勝
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.357-360, 1982-08-01 (Released:2017-08-01)

We report two cases of young women with psychogenic gait disturbance. Case 1 was a 25-year-old female who was difficult to take the first step forward at start for 5 years.Case 2 was a 14-year-old female who attempted suicide by taking high doses of sleeping drugs and showed astasia-abasia after recovery from comatose state. These two cases showed a discrepancy between neurological findings and neuroanatomical examinations.Both psychological and social backgrounds were significantly positive in each case.Whenever discrepancies were found between neurological findings and neuroanatomical standpoints, we postulate that psychosomatic consideration is essential prior to a neuroradiological approach or laboratory examinations.
著者
大内 佑子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.1192-1196, 2016 (Released:2016-12-01)
参考文献数
2

Acceptance and commitment therapy (以下, ACT) を用いたケースでの心理教育の実践例について, 模擬事例をもとに報告した. 模擬事例としては, 医療現場での個別の心理療法の場面, その中でも心身医学的問題として過敏性腸症候群のケースを扱った. ACTの心理教育は, 随伴性と悪循環の理解を重視する点は従来の認知行動療法と共通するが, 疾患ごとのモデルや特定の症状モデルを用いることはほとんどないという点が異なる. ACTでは, クライエントが現実を体験することに重点を置くが, 並行してそれらの体験を通して体験の回避や認知的フュージョン, アクセプタンスとコミットメントという概念の理解を促進することも目的としている. したがってACTは, 他の療法に比しても心理教育的な要素を重視する心理療法ととらえることができるかもしれない.
著者
金 外淑 松野 俊夫 村上 正人 釋 文雄 丸岡 秀一郎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.327-333, 2018 (Released:2018-05-01)
参考文献数
7

慢性痛のセルフマネジメントに有効とされる認知行動療法を取り上げ, 線維筋痛症患者に対する多元的な視点による痛みのアセスメントと, 痛みの変化や今ある痛みと上手に付き合うための支援について述べた. また, 地域での新しい取り組みとして, 痛みで困っている患者やその家族を対象とした, 心理教育を中心とするセルフヘルプ支援をグループで学ぶ認知行動療法を試みた. 4つの地域での自由記述と予備調査の結果, 患者と家族間の考え方のズレや葛藤が読み取れ, さらに痛みが起こりやすい考え方や行動タイプなどの共通点が推測された. 特に慢性痛に現れやすい痛み関連行動が起きやすい内的・外的状況を把握し治療環境を整えることが, 今後起こり得る痛み行動の予防につながることも再認識できた. 最後には, これらの結果を踏まえ, 症例でみる痛み関連行動が起こる前後の状況に応じた支援の実際について報告した.
著者
水野 資子
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.7, 2005-07-01

目的:セロトニントランスポーター(5-HTT)の蛋白発現量と機能は5-HTT遺伝子の転写調節領域(SLC6A4)の遺伝多型によって調節される. 扁桃体を介した恐怖条件づけや日常生活におけるストレスに対する感受性に, この遺伝子多型が関与するという報告がある. 脳機能イメージングを用いた恐怖および怒りの表情認知課題において, 右扁桃体の賦活がSLC6A4遺伝子の"l/l"型に比し"s"アリルをもつ個体において強いことが報告された. 扁桃体と腹内側前頭前野(vmPFC)との間に存在する豊富な神経投射は情動の表出に関連するとされ, 大うつ病患者ではこの回路の過活動が報告されている. また, 前頭前野から扁桃体への伝達にセロトニン神経系が関与することが知られている. よって, セロトニン神経の伝達を調節するとされるトランスポーターの遺伝子多型が扁桃体-vmPFCの情報伝達を調節すると考えられる. 著者らは, トランスポーターの機能が低く, 気分障害や自殺企図との関連が報告される"s"アリル保持者で扁桃体とvmPFC間に強い連絡があると仮説づけ, これを検証した. 方法:対象は29名の健常男性である. 全員に5-HTT遺伝子の多型分析を行った. 課題には情動刺激として快, 不快の情動を想起させる写真を用いた, また, コントロールとしてneutralな写真を用いた. 課題遂行中の脳血流変化(BOLD)をfunctional MRIを用いて測定し, 遺伝子多型との関連性を検討した. 脳画像解析にはSPMを用いた. 結果:遺伝子解析の結果, s/s型9例, s/l型11例, l/l型9例であった. Friskらの報告と同様に, 不快または快刺激の提示時に扁桃体の活動がみられた. また, 不快刺激提示時にのみ右扁桃体と"s"アリルの相関がみられた. 一方, 快刺激提示時の扁桃体の賦活と遺伝子多型の相関はみられなかった. また, 扁桃体とvmPFCの局所血流量上昇の共変性が観測された. この共変性と遺伝子多型に相互作用がみられ, 左扁桃体と左vmPFCの共変性が"l/l"型の個体に比し"s"アリル保持者において強いことが明らかとなった. 考察:本研究は扁桃体-vmPFCの連合強度の5-HTT遺伝多型による差を証明した最初の報告である. 今回の結果は5-HTTの機能が負の感情形成に関与するという先行研究を支持した. また, "s"アリル保持者における不快刺激に対する高い過敏性を示唆した.
著者
岡 孝和 松岡 洋一 小牧 元 三島 徳雄 中川 哲也
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.405-409, 1991-06-01
被引用文献数
2

A case of Akatsuki disease was reported. Akatsuki disease which was named and reported first by Dr. Sakamoto in 1964 is defined as the skin lesions that are induced by neglect of skin hygiene and based upon certain psychological mechanisms. A 58 year-old female diagnosed as Akatsuki disease was referred to our department by a bermatologist. She had not been able to bathe for more than seven years because she felt burning sesations on her face when she took a bath. When she was admitted to our hospital, her cheeks looked red. When she put her hands into hot water, her face became more red and that state lasted over ten hours. However, endocrinological studies could not explain her complaints. As she was in a hypochondriacal state and also suspected to be in a hypersensitive state of the vasomotion of her face, Autogenic Training as well as the image therapy called "Nanso no Hou" were introduced in addition to supportive psychotherapy and congnitive, behavioral modification. As the result, the redness of her cheeks disappeared and she became able to take a hot shower in two months, and was discharged from the hospital.
著者
長谷川 和夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.411-417, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
20

高齢化社会の現在, 高齢者の幸福度は健康, 家族そして収入であろう. ことに高齢になると身体機能の衰退に加えて精神機能が低下し心身医学的な保健, 医療, 福祉の対応が基盤として整備されていることが必要になり, 私たち日本心身医学会に期待されている. 中でも認知症への対応は喫緊の課題であり, 薬物療法や対応するケアそして一般市民への啓発活動を行って, 虚弱高齢者を含めた地域ではぬくもりのある絆を作っていくことが求められる. 認知症ケアの国際的な主流であるパーソンセンタードケアの実施, すなわち個別的な自分史を十分に理解し, その人らしさを尊重する支え方が大切になる. さらに認知症の当事者が自分の体験を語る機会が増えているが, 患者さんや利用者の想いを取り入れていくことや, 介護する家族らを支えていくことなど, 私たち心身医療者へのなすべき責務を痛感する次第である.
著者
芝山 幸久 坪井 康次 中野 弘一 筒井 末春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.111-117, 1998-02-01
被引用文献数
1

心療内科のコンサルテーション・リエゾン活動の現状を調査解析し, 心療内科の専門性としての役割と位置づけを明らかにすることを試みた.対象は5年間に心療内科で入院治療した患者のうち, 他科からコンサルテーションの依頼を受け, 兼科で受けもった患者133例(26.8%)で, 5年間の患者数は一定していた.依頼科は内科が最も多く, 依頼理由は心因の関与の疑い, うつの治療要請などが多かった.治療介入としては心身相関の評価, 疾病に対する不安やうつの軽減, 治療者患者関係の調整などであった.兼科入院は心療内科の入院患者総数の1/4を占め, 依頼理由や治療内容から, コンサルテーション・リエゾン活動は心療内科の専門性の一つであることが確かめられた.