著者
三島 徳雄 久保田 進也 永田 碩史
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.919-927, 2004-12-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

専門家が高い立場から管理監督者を指導するリスナー研修はニーズに合わなくなりつつある. われわれは, 管理監督者が自ら傾聴の方法を発見する発見的体験学習法を開発した. ここでは背後にある発想を紹介し, 研修効果も報告する. この方法では最初は聴き方を説明しない. グループ練習で, 話し手が長く話すように聴き手が聴き万を工夫することを通して, 聴き方を発見するように促す. その後に参加者の発見を共有する際に指導者が参加者を傾聴する. この方法により某自治体職員を対象にリスナー研修を行い, 研修前, 1ヵ月後, 3ヵ月後に積極的傾聴態度評価尺度で効果を評価した. その結果, 傾聴態度の改善を認め, リスナー研修の有効性が示された. 本稿では, 職場のメンタルヘルス対策の1つとしてわれわれが行ってきた管理監督者を対象とする職場のリスナー研修について, その概要を報告する. これまでわれわれは, 独自に開発した方法を中心としてリスナー研修を進めてきた.
著者
加藤 直子 山岡 昌之 一條 智康 森下 勇
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.609-615, 2003-09-01

多彩な解離症状を呈した15歳女子に対し,本人へのカウンセリングおよび薬物療法,さらに親へのガイダンスを行い,症状の改善が認められたので報告した.思春期の解離症状に対しては,退行的側面と前進発達的側面の理解が必要である.家族および治療者は,行動化や外傷体験の背後にある情緒に共感し,解離した体験をつなぐ補助自我的な役割を果たす一方で,発達阻害的な退行を助長しないことが肝要であると思われた.解離症状に伴う強い不安や興奮,身体化症状には薬物療法が有効であった.
著者
松野 俊夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.939-943, 2017 (Released:2017-09-01)
参考文献数
3

心理職の国家資格化に対する具体的な動きは, 近年では1990年に厚生省 (当時) による臨床心理技術者業務資格制度検討会として開始された. 検討会は厚生科学研究事業と名称を変えながら2001年度まで継続され, その後約15年の関係者による努力の結果が 「公認心理師法」 として2015年9月に実現した. 2016年9月には大学および大学院での養成カリキュラム, 試験科目, 現在心理職として業務を行っている者への特例措置, など法律の内容を具体化するための検討会が始まり, 2017年5月31日に 「公認心理師カリキュラム等検討会報告書」 として公表され, 公認心理師法の具体的な内容が明らかになった. 特に医療の領域ではこれまで医師の指導・指示の下であっても, 無資格で心理療法・心理検査などのさまざまな心理臨床活動を行ってきた状況が, 「公認心理師」 法の施行により心理職の職能と責務が明確となり, チーム医療の一員として真に職責を担う環境が整ったと考えられる.今後心身医療の中で公認心理師が関わることが期待されている勤労者のストレス予防に対する取り組みについて, 公認心理師法成立の経過をたどりながら課題を整理した.
著者
大島 彰 岡田 隆雄 玉井 一 松林 直 高橋 進 楊 思根 美根 和典 中川 哲也
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.59-65, 1990-01-08
被引用文献数
3

Acute gastric dilatation (AGD) is one of the life-threatening complications which needs accurate diagnosis and appropriate treatment as soon as possible, although it occurs rarely in anorexia nervosa. We have unexpectedly experienced a case of AGD in anorexia nervosa caused by superior mesenteric artery (SMA) syndrome during the early stage of the treatment. An 18-year-old senior highschool girl was admitted to our hospital because of anorexia nervosa without any episodes of bulimia or vomiting. About one year before admission, considering herself overweight she had started dieting and had reduced her weight from 60kg to 33.8kg. After admission, she started taking, 1,000kcal of food by herself in addition to 200kcal of elementary diet by the tube feeding. On the 2nd hospital day, a plain chest X-ray picture showed the left-sided pleural fluid because of the pulmonary tuberculosis. The chest drainage tube was inserted on the 6th hospital day, and she was forced to lie on the bed. On the 8th hospital day, she suddenly felt nauseous and vomited. A plain abdominal X-ray picture showed the sign of AGD. A barium X-ray study on the 11th hospital day proved that the AGD was caused by SMA syndrome, showing vertical cut off sign at the 3rd portion of the duodenum obstructed by the SMA and oral side duodenal loop and the stomach were dilated. She was treated conservatively, and barium meal examination, on the 46th hospital day, proved that the signs of SMA syndrome had disappeared. After the completion of our step-by-step treatment program on the basis of cognitive behavior therapy with anti-tuberculosis drugs, she was discharged at the weight of 46.7kg, and she has been in good condition since then.
著者
勝倉 りえこ 伊藤 義徳 児玉 和宏 安藤 治
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.139-147, 2008-02-01
被引用文献数
1

目的: 外来患者に対して,簡便で手軽なマインドフルネスに基づくストレスリダクションプログラムの効果を検討することを目的とした.方法: 外来患者8名を対象に,1カ月間,自宅での瞑想訓練の実施と,毎回の練習前後の気分状態と,ベースラインから3カ月後フォローアップまでの6段階における特性指標(心身の健康度,認知的スキル,認知スタイル,スピリチュァルな精神的態度)の測定を行った.結果と考察: 瞑想訓練による気分への即時的改善効果は認められなかった.特性指標の変化として,心配に関するネガティブな信念といったメタ認知的信念の改善が認められた.また,これらの効果の媒介要因である破局的思考を緩和させる認知的スキルの向上と,自動的処理思考が減少した.さらに訓練を十分に行えた患者のほうが,認知的スキルの獲得が促進された.本プログラムが医療現場における日常臨床を補完する可能性が示唆された.
著者
岡田 宏基
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.991-1000, 2014-11-01

日常臨床で一般医を悩ませるのが,医学的に説明できない愁訴や症状である.わが国ではかつて不定愁訴と呼ばれていたが,国際的には近年MUS(medically unexplained symptoms)と表現されるようになった.これらのうち,機能的症状という側面からFSS(functional somatic syndromes)という概念も使われる.しかし,わが国ではこれらの概念の浸透はいまだ不十分である.DSM-IVでの身体表現性障害は精神科的病名であり,心身相関を中心に据えたわが国の「心身症」とはまた別の概念である.これらの概念の中では,MUSが症候単位の概念であるため最も広い病態を含んでおり,FSSと身体表現性障害も含んでいる.本稿では「心身症」を含めたこれら概念の整理を試み,またこれらの患者が多くの一般医を悩ませている欧州で開発された,一般医向けの対応トレーニングプログラムについても概説する.
著者
斎藤 清二
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1014-1021, 2012-11-01

医療プロフェッショナリズムの教育には,全人的医療を志向する心身医学が貢献できる可能性は大きい.しかしこれまで,共感性,利他性,自省性などの医師に必要とされる美徳をどのように教育するかについての理論的,方法論的な議論は不十分であった.近年主張されている,物語に基づくプロフェッショナリズムの教育は,医療における中核的な矛盾に直接アプローチできる有力な教育法である.物語に基づくプロフェッショナリズムにおける最重要概念は,苦境にある他者の物語を認識し,吸収し,解釈し,それに動かされて行動することのできる能力(物語能力)である.この能力を高めるための教育法を確立するためには,物語技能,物語的訓練などの概念を整理する必要がある.本稿では,米国において実施されている物語的訓練法としてのパラレル・チャート,および本邦で実施されている「複数の視点からの物語作成実習」「Webシステムを利用した反省的記述と物語共有を通じての経験的学習」の実際について紹介した.
著者
駒田 陽子 井上 雄一
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.9, pp.785-791, 2007-09-01
被引用文献数
1

多くの疫学研究により,睡眠障害が非常に頻度の高い疾患であることが明らかにされている.近年,睡眠障害の診断にあたって,睡眠の量や質だけでなく日中の生活機能障害が重視されており,その社会生活への悪影響を数量化した研究が散見される.本稿では,睡眠障害の中で頻度の高い不眠症および日常生活で経験することの多い睡眠不足が社会生活に及ぼす影響について概説した.不眠は,耐糖能障害や免疫機能低下など,系統的に身体機能に影響を及ぼすことがわかっている.また精神生理機能への影響も大きく,慢性不眠症者では一般人に比べて産業事故リスクが7倍と報告されている.不眠によって集中力・記憶・日常の仕事をやり遂げる能力・他人との関わりを楽しむ能力が低下し,QOL (quality of life)水準は悪化する.さらに,不眠はうつ病の前駆症状として考えられてきたが,近年うつ病発症リスクの有意な要因としても重要視されている.睡眠不足症候群は先進諸国ではかなり多く,無視できない睡眠障害の一つである.睡眠不足症候群での眠気水準は他の一般的な過眠性疾患と同水準であるが,運転事故既往者では眠気重症度が有意に高い.睡眠不足は,身体的,精神生理的機能に影響を及ぼし,睡眠の充足感が低いほど抑うつ得点が高くなることが示されている.睡眠障害に対しては,十分な治療を行うことにより症状が改善し,社会生活への悪影響も抑制される.国民のQOLを向上し健康な社会生活を送るために,睡眠障害の早期発見・早期治療と睡眠健康に関する啓発活動が今後必要である.
著者
貝谷 久宣 金井 嘉宏 熊野 宏昭 坂野 雄二 久保木 富房
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.279-287, 2004-04-01
被引用文献数
1

本研究の目的は,社会不安障害を簡便にスクリーニングできる尺度を開発することである.社会不安障害患者97名,パニック障害患者37名,健常者542名を対象に自記式の調査を行った.探索的因子分析の結果,本尺度は「人前でのパフォーマンス不安と他者評価懸念」,「身体症状」,「対人交流に対する不安」の3因子28項目と日常生活支障度に関する項目で構成された.各因子および全項目の内的整合性は高かった.また「人前でのパフォーマンス不安と他者評価懸念」得点,「身体症状」得点,合計得点は,社会不安障害群と他の2群を弁別可能であった.したがって,本尺度は高い信頼性と妥当性を有することが明らかにされた.
著者
町田 知美 町田 貴胤 田村 太作 遠藤 由香 福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.460-466, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
10

14歳, 女児. 11歳から不登校傾向, 対人恐怖が顕在化しA病院精神科に通院開始した. 中学入学頃から食事量も減りはじめやせ願望も明らかになった. 14歳 (中学2年生) になると30kgまで体重が減少したため神経性やせ症 (摂食制限型) と診断され当科に入院した. 入院時は身長149cm, 体重26.6kg, BMI 12.0. 初めは経口摂取カロリーは1日500kcal以下でほとんど体重は増加しなかったが, コミュニケーション能力の低さと対人恐怖のために心療内科的介入は困難だった. 内科的治療を主体とせざるを得なかったが, 行動観察の中で食行動に自閉症的な独特のこだわりがあることがわかった. これを生かした食事の工夫を試みたことで摂取カロリーを1,400kcalまで増やすことができ, 体重は33.5kgに達して退院した. 自閉症スペクトラム合併症例での治療では, 患者特有の特徴を理解したうえで独自の工夫が必要である.
著者
丸岡 秀一郎 釋 文雄 村上 正人
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.317-321, 2016

気管支喘息 (以下, 喘息) の病態形成には, 遺伝因子と環境因子が深く関与している. 環境因子の一つとして心理社会的ストレス (以下, ストレス) がある. ストレスがどのように呼吸器疾患の発症機序に影響を及ぼしているのか依然不明な点が多い. 近年, エピジェネティクスという学問領域が注目されている. DNAメチル化, ヒストン修飾, ノンコーディングRNA (non-coding RNA : ncRNA) などにより遺伝子の暗号を変化させることなく, 疾患関連遺伝子の発現調整をするシステムであり, 環境因子 (ストレスなど) によりエピゲノムに修飾が起こり, 疾患の表現型決定に影響し, さらに世代を超えて保存される. 本稿では, ストレス誘導性エピゲノム修飾について総括し, 呼吸器心身症の代表である喘息の病態形成について考察する.
著者
Al-Adawi Samir 鄭 志誠 辻内 琢也 葉山 玲子 吉内 一浩 熊野 宏昭 久保木 富房
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.933-941, 2005-12-01

国際的にみて, 精神的外傷を引き起こすような死別に対し, 十分に対処がとられている社会は少ない.これにもかかわらず, 死別に対する反応を社会的特性という観点でとらえる人類学的研究はごくわずかであり, 死への悲嘆反応は, 心身医学的問題としてとらえられている傾向がある.本稿では, オマーンの伝統的な社会に存続する不慮の死における死者の生き返り(zombification), そして呪術や魔法に関する信仰(信念)を紹介する.これらの反応は社会的に容認されており, 死者の死の否定を基礎としている.さらに考察では, これらを説明モデルという概念を用いて分析し, 世界各地で観察される類似する悲嘆反応を欧米のタナトロジー(死亡学)研究におけるそれと比較し, 新たな視点で論じる.
著者
古口 高志 山内 祐一 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.467-474, 2002-07-01

心療内科不登校入院治療例67例をDSM-III-R,IVに準じた形式で多軸評定した.各軸ごとに診断名を1〜8カテゴリーに分類した後,結果を集計,さらにその結果を基に性差と年齢差を検討した.この結果,1軸は摂食障害,不安障害,気分障害,2軸は未熟性,4軸は家庭内問題ストレス,いじめストレスがそれぞれ多症例に確認された.また,3軸になんらかの診断がなされた者は26例(39%)であった.年齢差,性差については, 1 軸診断数(カテゴリー該当数) : 中学生・高校生<大学生, 2 軸になんらかの診断を有する率 : 男<女であった.以上,不登校症例の病態特徴は多様であり,多側面からのアセスメントと対応が必要であると考えられた.