著者
伊藤 公平 田久 賢一郎
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.1187-1190, 2001-10-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
11
被引用文献数
1

通常のSi結晶中には28Si,29Si,30Siの3種類の質量および核スピン数が異なる安定同位体が存在し,それぞれの組成比は92.2%(28Si),4.7%(29Si),3.1%(30Si)と常に一定である.この組成を変化させたSi結晶を作製することで,さまざまな物性の改質・制御が実現する.最近では同位体組成や分布を原子レベルで制御する結晶成長法も確立され,今後の半導体素子の発展に「半導体同位体工学」が大きく寄与することが期待される.本稿では,半導体同位体工学に基づく高熱伝導Siウエハーの実現を紹介した後,将来のSi同位体工学の役割を議論する.
著者
田島 道夫 小椋 厚志
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.87, no.9, pp.655-659, 2018-09-10 (Released:2019-09-26)
参考文献数
28
被引用文献数
1

太陽電池やパワーデバイスの高性能化に向け,シリコン結晶基板の高品質化が求められている中で,有害な残留炭素不純物の低減が課題となっている.そこで,従来法では検出できなかった低濃度の炭素を,電子線照射により発光活性化させ,そのフォトルミネセンスを利用して定量する手法が注目されている.この手法は1012cm-3台に達する高い検出感度をもつ一方,液体ヘリウム温度での測定が必要という障害があった.本稿では,最適化した低波長分散分光計により,扱いが容易な液体窒素温度で,より高速・高感度で炭素定量が行えることを示す.さらに室温においても炭素関連発光を検出でき,定量に利用できる可能性が高いことを紹介する.

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著者
高橋 秀俊
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.488-493, 1972-05-10 (Released:2009-02-09)
参考文献数
1
著者
村上 陽一 池田 寛
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.12, pp.755-758, 2022-12-01 (Released:2022-12-01)
参考文献数
27

世の中には冷却により取り除かなければならない熱が多く存在する.エンジンなどの熱機関,データセンターのCPU群,パワー半導体,バッテリなどの運転に伴い生じてしまう排熱がそれである.これらの熱には冷却の義務が伴う.従来の固体ベースの熱電変換は,発生場所から外に出たあとでまだ利用価値が残存している廃熱についてエネルギー回収を行う試みが大半であった.他方,積極除去の義務が伴う「発生場所から発生しつつある熱」については,その冷却と熱電発電を統合した技術は未開拓であった.筆者らは2015年より強制対流冷却と「液体側で行う熱電発電」とを統合する新技術を開発してきた.2019年には発電密度が0.5W/m2以下だったが,改良によって2021年には10W/m2と急増させている.本稿では本技術のコンセプトと成果の概要を紹介する.
著者
安田 憲司
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.12, pp.750-754, 2022-12-01 (Released:2022-12-01)
参考文献数
29

分極の方向を電場によって制御可能な強誘電体は,情報の保持が可能な不揮発性メモリとして機能する.不揮発性メモリの微細化のうえでは,強誘電体の薄膜化が重要であるが,従来の強誘電体では薄膜化が困難であり,物質科学的にこの問題を解決する必要があった.この問題に対し我々は,ファンデルワールス積層構造と呼ばれる構造を作製することで人工的に2次元強誘電体を作り出した.もともと強誘電性を持たない層状ファンデルワールス化合物である窒化ホウ素に対して,積層構造を人工的に変えることで強誘電体へと変化させることに成功した.得られた強誘電体はナノメートル以下の厚さにもかかわらず室温まで安定であり,これを用いて我々は不揮発性強誘電体トランジスタを実現した.さらに我々は半導体遷移金属ダイカルコゲナイドを同様に強誘電体へと変換することで,本設計指針の汎用(はんよう)性を実証した.
著者
吉川 貴史 齊藤 英治
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.12, pp.745-749, 2022-12-01 (Released:2022-12-01)
参考文献数
18

電子の熱運動を介して温度勾配から電圧を生み出すゼーベック効果は,熱電変換技術の根幹を担ってきた.また近年,この電子スピン版であるスピンゼーベック効果が見いだされ,電子スピンの熱揺らぎを,スピン流を介して電圧に変換することも可能となった.しかしこれらの熱電現象は電子由来に制限されており,低温域では電子系のエントロピー凍結により抑制されてきた.本稿では最近我々が観測に成功した,固体中の核スピンを利用した熱電変換現象―核スピンゼーベック効果―について報告する.大きな核スピン(I=5/2)と強い超微細相互作用を示すMnCO3とPtの接合系において,極低温100mKまで増大する熱起電力を見いだし,その振る舞いが約30mKという小さなエネルギースケールで熱励起が可能な核スピンに由来することを示した.本実証により“核スピンの利用”という,低温域の熱利用技術に対する新しい視座が得られた.
著者
島﨑 佑也
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.12, pp.740-744, 2022-12-01 (Released:2022-12-01)
参考文献数
39

結晶格子のモアレ干渉を利用した超格子である2次元物質のモアレ格子系は,電子や励起子の多体系物理を研究するための新しいプラットフォームとして注目を集めている.特にツイスト2層グラフェンにおいては電子輸送研究により,超伝導相や多彩な絶縁電子相の発見が相次いでいる.半導体2次元物質である遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)においては光学測定による励起子物性の研究が盛んに行われてきた一方で,輸送測定の難しさからモアレ格子系の電子物性の探索は十分になされていなかった.本稿では半導体TMDのモアレ格子系において励起子共鳴を利用することで光学分光測定から電子物性の探索を行い,強相関電子状態を発見した成果について紹介する.
著者
米田 安宏
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.12, pp.729-735, 2022-12-01 (Released:2022-12-01)
参考文献数
23

強誘電体はキャパシタ,メモリやセンサ材料など多岐にわたって利用されてきた.強誘電体材料の多くは複雑な組成の固溶体で構造は平均化される.特にリラクサ強誘電体などの擬立方晶構造の分極発現機構を明らかにするには従来型の周期的構造を仮定した平均構造解析だけでなく,局所構造解析を行わなければならない.2体相関分布関数法は粉末X線回折から動径分布関数を導出し,周期的構造を仮定せずに実空間でモデルフィッティングを行う局所構造解析法である.ビスマスフェライトとチタン酸バリウムの固溶体を例に強誘電体における局所構造解析の必要性について考察したい.
著者
藤井 幹也
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.11, pp.688-692, 2022-11-01 (Released:2022-11-01)
参考文献数
18

マテリアルズ・インフォマティクスについて,その背景から筆者らの最近の研究例を紹介する.マテリアルズ・インフォマティクスは物質科学と情報科学の融合分野であり,産学両面から注目を集めている.それは,両者の融合によって,これまでの物質科学の限界を超えて材料開発を加速する可能性を秘めているからである.本稿では,物質科学の歴史的な変遷からマテリアルズ・インフォマティクスを捉えることから始めて,MIに寄せられる期待や意義を述べる.続いて,最近の研究例では,シミュレーション速度や精度の向上というような物質科学における狭義の目的を情報技術で解決するものではなく,これまでの物質科学にはなかった概念が情報科学との融合によって生み出されていることをお伝えする.
著者
堀部 陽一
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.11, pp.679-682, 2022-11-01 (Released:2022-11-01)
参考文献数
10

遷移金属化合物における自己組織化した異方的ナノ材料は,その物性の多様性と構造制御の観点から注目を集めている.通常,異方的ナノ構造作製のためには,試料作製条件の調整や高温処理が必要である.一方,スピネル型マンガン酸化物におけるナノメートルスケールでのスピノーダル分解を利用したナノ構造作製は,比較的低温での単純な熱処理のみで可能である.本稿では,磁性スピネル(Co,Mn,Fe)3O4において行われた研究例を紹介する.本系は遷移金属酸化物にもかかわらず,375℃という低い温度での熱処理によりMn-richな正方晶ナノドメインとMn-poorな立方晶ナノドメインが形成される.これらのナノドメインが複雑に相関し合うことでチェッカーボード型ナノ構造やラメラ型ナノ構造が出現し,磁性に影響を及ぼす.
著者
秋永 広幸 浅井 哲也
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.41-45, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
18
被引用文献数
2

アナログ抵抗変化素子(RAND)は,絶縁性酸化物における抵抗スイッチ効果を利用して,不揮発に電気抵抗値を記憶できる素子です.このRANDを用いれば,小型で低消費電力の脳型情報処理を実現できます.本稿では,RANDの概要と抵抗変化の制御方法,RANDを用いた脳型アーキテクチャについて紹介します.また,RAND回路の性能評価を行った例を紹介します.人工知能(AI)研究における,ソフトとハードを一体的に開発することの必要性や必然性を感じていただければ幸いです.
著者
阿波賀 邦夫
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.304-308, 2001-03-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
38
被引用文献数
1

有機ラジカル固体の磁気的性質の研究は古いが,このような物質群に強磁性的性質を付加しようという分子磁性研究が近年急速に進歩し,有機物は強磁性体にならないといった常識は完全に打ち破られた.さらに最近は,このような静的な強磁性を追い求めた研究から踏み出し,分子磁性体の動的な側面を強調した展開が盛んに試みられている.本稿では,有機強磁性研究の流れを概説した後,新規低次元分子磁性体に見いだされたスピンギャップ状態と特異な相転移,さらに刺激応答性の分子磁性体について紹介する.
著者
田代 睦聡 伊東 恭佑
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.4, pp.220-223, 2022-04-01 (Released:2022-04-01)
参考文献数
10

シングルフォトンアバランシェダイオード(SPAD)は,フォトンカウンティングを実現するデバイスとして長年研究されてきた.最近,直接Time-of-Flight方式で自動運転および先進運転支援システムの実現に向けて,物体との距離測定,交差点の認識,路面状況把握などのためLiDAR(Light Detection And Ranging)センサ開発が数多く行われている.本稿では,90nm CMOS互換プロセスを使用し,金属埋め込み型のフルトレンチアイソレーションとCu-Cu接続を備えた,最先端の裏面照射型10µmピッチSPADアレイセンサについて報告する.7µmの厚さのシリコン層,SPAD内で同時に設計されたアバランシェ領域と光電変換領域,および専用プロセスにより905nmの波長で22%を超える高い光子検出率,および超低ダークカウントレートを実現した.本センサを用いた実証実験用SPAD LiDARシステムでは,117kluxの太陽光条件で200m先の95%反射率のターゲットを距離測定誤差0.1%で測距可能なことを実証した.
著者
高村(山田) 由起子 尾崎 泰助
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.86, no.6, pp.488-492, 2017-06-10 (Released:2019-09-26)
参考文献数
18

グラフェンのケイ素版といえるケイ素の蜂の巣格子であるシリセンは,1994年の論文1)でその存在が理論的に予言されていたものの,実験的な合成報告があったのは最近である.黒鉛からの機械的剥離により得られるグラフェンと異なり,炭素と同じ14族元素の蜂の巣格子であるシリセンやゲルマネン,スタネンなどは母材となる層状物質が存在しないため,実験的な合成報告は単結晶基板上へのエピタキシャル成長によるものがほとんどであり,結晶構造と電子状態への基板の影響が無視できない.加えて,同定の決め手となる評価方法が存在せず,複数の相補的な分析法を併用する必要があり,なおかつ,得られた実験結果,特に電子状態の解釈を行うには,第一原理電子状態計算が不可欠であるなど,1つの研究室ではなかなか歯が立たない.本稿では,シリセンのような未知の2次元材料の研究を行うにあたって,実験と計算の協奏(競争?)がいかに重要であるかを,我々のこれまでの共同研究の成果を交えて論じてみたい.
著者
古橋 勉 新田 博幸 工藤 泰幸 真野 宏之
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.821-826, 1999-07-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
9

液晶ディスプレイは,薄型,軽量,低消費電力が特徴であることから,ノートPCなどの表示装置として広く採用されてきている.現在では,対角画面サイズが15インチ以上,解像度が1024×768画素以上の大画面,高精細液晶ディスプレイが各社から製品化されてきている.これに伴い,液晶モニターという新しい市場も拡大してきている.本文では,この液晶ディスプレイの駆動方式と駆動回路ならびに高速伝送技術に関して解説する.
著者
荒川 泰彦 塚本 史郎
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.293-306, 2005-03-10 (Released:2019-09-27)
参考文献数
122
被引用文献数
3

1982年に提案された量子ドットは,自己形成量子ドットを中心とする半導体ナノ技術により,レーザーや単電子素子など現実に動作するナノ素子の基本構造として発展してきている.本総合報告では,量子ドットを中心とした低次元半導体構造について,フォトニック素子への展開を念頭に置きながら,結晶成長・プロセス技術,光・電子物性,素子応用について論じる.まず,半導体ナノ構造の歴史的発展を振り返った後,自己形成量子ドットの展開について議論する.さらに,自己形成手法以外のナノ結晶成長・プロセス技術について概観した後,量子ドットの光・電子物性物理の進展状況を論じる.そして,さらに,量子ドットレーザーを中心にして,ナノフォトニック素子についてその展開を紹介するとともに,量子暗号通信に不可欠な単一光子発生素子について量子ドット応用の立場から述べる.
著者
杉本 大 宮本 秀範
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.8, pp.475-483, 2022-08-01 (Released:2022-08-01)
参考文献数
30

機器が人に優しく,頼りにされる存在になるためには確かな信頼性と性能を兼ね備えていなければならない.技術開発の進化は加速度的に多くの新技術を誕生させ社会を豊かにする.一方,それらは新たな信頼性課題の起源でもあった.これらの課題を克服するサイクルを繰り返すことで,製品はより高い信頼性を獲得してきた.無休で安定な動作が必然とされるようになった現代では,システムがひとたび停止すると,政治経済までを巻き込む問題となる.機器が重要な役割を担うようになればなるほど重要になる信頼性を半導体を1つの切り口として,信頼性とは何かから,課題解決までのアプローチをいくつかの具体例とともに解説する.