著者
水越 敏行
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.8-23, 1995-02-10 (Released:2017-07-18)

マルチメディアに代表される新技術は、新しい質の良いリテラシーを要求する。この論文では、この10年ほどの間になされた研究を次の視点で考察した。(1)視聴能力の構造、(2)視聴能力の発達、そして(3)視聴能力の形成。これらはメディア・リテラシーの基礎研究ともいえる。その後の研究では、映像の読解力を重視すると共に、操作能力や表現・発信する能力にも重点をおくようになってきた。そのためにメディア・パッケージやカリキュラムの開発を行って、長期的で計画的な実践研究が、東京や金沢で進められてきた。また、マルチメディアの疑似体験と直接体験との出し入れの問題、テレビ番組比較視聴を通じての批判的視聴能力の基礎研究など、最近の研究を考察する中で、近未来の研究の方向を示唆した。
著者
大島 純
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.3-9, 2014

本稿では,学習科学という研究領域を教育メディア学会の読者の皆様にご理解いただくために,方法論という切り口から解説を試みた.代表的研究手法であるデザイン研究を,最新の論文を交えて論じることにより,これまで不明瞭であった方法論の特徴を著者なりの視点で明らかにする.この切り口を先行オーガナイザーとして,読者の皆様が本学会誌の論文を学習科学的視点から吟味することができるようになれば幸いである.
著者
小柳 和喜雄
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.15-31, 2016 (Released:2017-09-14)
参考文献数
36

教員はICTを駆使して学びの質や深まりを意識した学習等にも対応していくことが求められてきている。そこで,本研究では,その学習活動のデザインと密接にかかわる教員の専門知識を磨く取り組みとして,Technological Pedagogical Content Knowledge(TPACK)の考え方に目を向けた。そして,その研究成果や具体的な取り組み事例の整理を行い,養成プログラムや研修プログラムの要素,プログラムの構成,質保証とつながるプログラム評価の方法に関して検討を行った。結果として,養成プログラムと研修プログラムにおいて,現在日本の取り組みでは,1)養成プログラムで技術に関する知識を教師の専門知識として位置づけるフレームワークが明確でなかったこと,2)ICTの活用を段階的にとらえていく見通しが明確になっていないこと,3)取り組みの評価や成果の評価をする方法などが明確になっていないこと,が手薄な部分であることが明らかになった。
著者
下 孝一
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.43-46, 1999-12-20 (Released:2017-07-18)
被引用文献数
1

認知に及ぼす映像の効果については、これまで感性的認識、情動作用、鏡効果など様々な指摘がなされてきたが、今一歩より細密な解明が待たれているように思われる。授業感想文に表われた学習者の認知的変容の具体を子細に見つめ分析することを通して、"映像ならではの効果"と思われるものを抽出し、まずその内の「強力な認知的不協和を喚起する力」について、レーザー光が鉄板を切っていくシーンをとりあげ、その映像刺激が認知的動態にどのように効いているのかを、言語刺激だけで説明した場合との比較において測定し考察した。それによって、この効果が映像ならではの力と見なし得ることを明らかにした。
著者
黒田 昌克 森山 潤
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.43-54, 2018 (Released:2018-04-14)
参考文献数
14

本研究では,全国の小学校教員を対象にプログラミング教育の意義の感じ方や育成を目指す資質・能力,背景となる社会観に対する意識などを調査した(n=522)。その結果,「プログラミング的思考」,「さまざまな現実的な問題をコンピュータで解決できるような形式の問題に変換する力」,「モデル化やシミュレーションができるように,データを変数として扱えるようにする力」等の資質・能力(思考力等),「コンピュータの働きをより良い人生や社会づくりに生かそうとする態度」等の資質・能力(態度),「今後の社会において,コンピュータを作業の効率化を図るために使うより,創造的な活動に使うことの方が重要になる」等の社会観がそれぞれ小学校教員のプログラミング教育に対する意義形成に寄与していることが明らかになった。
著者
田口 真奈 寺嶋 浩介 中橋 雄 加藤 友香 水越 敏行
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.13-25, 2000-03-20

本研究では、同じテーマで構造の異なる2つの番組を続けて視聴したとき、先行する番組におけるテーマの取り扱い方の違いが後に視聴する番組の視聴や概念形成にどのような影響を与えるのかを検証した。NHK一般番組『クローズアップ現代』とCTW制作の小学生向け教育番組『3-2-1 CONTACT』とから、「ゴミ」を扱った番組を選定し、調査の題材とした。小学生と大学生という発達段階の大きく異なる被験者137名を対象とした質問紙調査を行った結果、先行する番組の視聴は、後に視聴する番組の見方そのものには影響を及ぼさないが、視聴後の概念形成には影響を与えることが明らかとなった。
著者
稲井 達也
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.57-72, 2006

戦後の占領下で発行された文部省検定の中学校国語教科書は,「言語編」と「文学編」に分冊されて編集された。「言語編」では,民主主義社会を生きるための言語技能の向上が企図され,メディアを理解する教材をはじめ,学校図書館の使い方や討論会,会議の方法など,言語技術を中心にした先進的な教材が多く掲載された。しかし,学校現場においては,文学教育に重きを置いた,戦前の道徳教育的な国語教育は改まらず,「言語編」の学習内容は普及しないままに終わった。以降の国語教科書に,メディア教育に関わる教材は殆ど掲載されなくなった。
著者
柴田 隆史 原田 みや子
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.35-45, 2017 (Released:2017-05-29)
参考文献数
21

本研究では,学校や非常災害時において多様に応用できる三角巾法に焦点をあて,その基本となる本結びを自己学習により習得するための方法を提案し,その有効性を検討した。三角巾法の自己学習は自分の大腿部を使って行うことが多い。そこで,実際の風景に映像を重ねることができる光学透過型HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を用いて,映像教材を学習者の膝付近に表示する方法を考案した。評価実験では,教職課程を履修する大学生を対象として,試作した教材による学習効果を従来の映像教材および教科書と比較した。その結果,提案するHMD教材は,三角巾の結びの形や両端の位置関係の理解において,ビデオ映像よりも分かりやすいと評価されたが,教科書との差異はみられなかった。しかし,一人称視点による分かりやすさに加えてアニメーション映像を用いていることで,提案するHMD教材は手技の手順に間違いがあった場合に気付きやすく,正しい手技の習得を自己学習できることが示唆された。
著者
和田 正人
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.20-24, 1999-12-20

本研究は、笑い中心型暴力番組接触の影響は自分より他人が大きいとする第三者効果を実証的に明らかにすることであった。そこで、次の仮説が設定された。仮説1:笑い中心型暴力番組の影響は自分よりも他人の方が大きいと認知する。仮説2:笑い中心型暴力番組の第三者効果において、他人の影響は、接触と関連する。この仮説を検証するために、大学1年生423名を調査対象として、笑い中心型暴力番組11番組について、自分自身と他人(一般人)の影響と接触の推測が測定された。被調査者は自分自身への影響の大きさで3群に分けられた。分析結果より、影響小群のみが仮説1、2を支持した。影響小群では、自分自身の番組接触が他人よりも大きいにもかかわらず、自分自身への影響は他人よりも小さいことが明らかにされた。
著者
後藤 康志
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.27-42, 1996

本研究では、ハイパーメディアによる情報検索活動と直接体験を組み合わせたオープン性の高い単元を構成し、児童の学習の支援を目指した。単元の学習を分析した結果、学習は情報検索の活動から情報発見と新たな活動へ、そして見学を含む他のメディアによる情報活動に発展していき、その結果(1)伝統工業に携わる人々の苦労に関する知識の構成と、(2)知識の実感とそれに基づく知識の再構成という、クローズドな学習ではできなかった学習の支援が可能になったことが明らかになった。
著者
苅宿 俊文 朝川 哲司 石井 理恵 中尾根 美沙子
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-11, 2012-03-31

本研究では,コミュニケーション能力の育成を目的とした,東京都内の私立中学校にて実施されたコミュニケーション・デザイン教育における具体的な学習成果を視覚化することを試みた。学習成果の視覚化に際しては,参加生徒による内省的な振り返りを目的として書き記した外在化カードのデータを用い,同データの分析法として,テキスト・マイニングによる形態素解析と質的研究法による概念形成を組み合わせた方法を導入した。同分析法を通じて18の概念を生成し,改めてアンケート調査を用いて,これらの概念のクラス内での共有の度合いを確認した。また,次年度の同活動にて継続的な妥当性の検証を行った。これらの検証を通じて,18の概念の全てが,同教育活動向けに開発した学習プログラムの有効性を認め得る学習成果として視覚化することができた。
著者
岩井 俊祐 川本 佳代 橘 啓八郎
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.13-25, 2001-03-30

ハイパーメディア学習は、構成主義的学習観を実現する学習の1つとして期待されている。さらに、コンピュータネットワークの発達に伴い、共同学習への応用が可能となった。ハイパーメディアを用いた共同学習では、学習者が、自身の自主性、興味・関心、発想などに応じた学習を行い、異なる思考や経験を交流し、たがいに気付かなかったことを発見しながら創造的学習を行うことが期待できる。本研究では、その創造的学習への可能性を示し、さらに、学習者特性として社交性を考慮した分析を行った。その結果、社交性の高い学習者には「特恵モデル」、低い学習者には「補償モデル」として創造的学習を促進することが分かった。このことから、ハイパーメディアを用いた共同学習は、創造的学習を促進する動機付けとなり、学習者が主体的に考え、自分を表現し、自立的で積極的な姿勢を身に付けるのに効果的な学習であると考えられる。
著者
保崎 則雄 鈴木 広子
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.25-37, 1997-03-31

字幕つき映像においては、画面上で視るものが、映像情報と文字情報の2種類存在する。その情報内容は、音声と映像の提示技術と相まって、重複したり、異なったりという様相を絶え間なく繰り返しつつ進行するため、初級者にとっては、認知負荷が増し、混乱を招き、理解の干渉になっていることが確認されている。一方、英語上級者にとっては、字幕は新たな効果的情報源となりうると示唆される。ところが、その上級者の視聴過程に踏み込んで分析した研究は、ほとんどない。本研究では、現在までに収集した英語上級者の字幕つき音声映像の特徴的な視聴モデルを紹介する。映像と字幕間の三角形の情報処理パターン、ネイティブスピーカーの多角形視聴パターン、安定した字幕読みのパターン、上級者と初級者の視点注視時間のパターンの違いなどを具体的な視線運動の分析を中心として示し、上級者の視聴モデルについて実例を交え考察する。
著者
西貝 雅人
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.49-56, 0000

映像制作には守られるべき文法ともいえる幾つかの原則がある。"イマージナリー・ライン"(被写体となる複数の人物の間を結ぶ仮想上の線)もその一つで,イマージナリー・ラインを超えて撮影したカットをそのまま編集して繋げると,視聴者が正確に人物の位置関係を把握できなくなる。そこで講師はシナリオA,Bを用意し,高校生の作業班に撮影課題として与えた。2日に渡って行なったワークショップのうち,初日は何も解説せずにシナリオAを撮影・編集させた。2日目にイマージナリー・ラインに気づかせる誘導を含む講義・解説を挟んで,シナリオBの撮影・編集をさせた。この結果,シナリオAを制作した全てのグループがイマージナリー・ライン越しのカットを撮影したが,指導後の制作でイマージナリー・ライン越しのカットを排除した作品制作が出来るようになった。