著者
村野井 均 宮川 祐一
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.28-38, 1995

『できるかな』は、NHK教育放送で21年に渡って放送された番組である。この番組には2つの映像が提示されていた。一人は男性主人公の「ノッポさん」であるが、彼は一言も話さなかった。もう一人は動物で、時々鳴き声をあげる「ゴン太くん」であった。一方、この番組には2つの音声が提示されていた。一つは「ゴン太くん」の声であり、もう一つは女性ナレーターの声である。主人公が話さない役であったため、この番組は子どもにとって音声と映像の統合が難しかった。190名の大学生の回想から、音声と映像を統合する過程に現れるつまづきを分析したところ、11.1%の学生が「ノッポさん」を女性と思ったことがあり、40.7%の学生が音声と映像の組み合わせをまちがった経験を持っていた。画面に現れないナレーターという人工的存在を認識するために、子どもは音声と映像の組み合わせを試行錯誤する経験と教育的支援が必要であることを論じた。
著者
池尻 良平 山本 良太 仲谷 佳恵 伏木田 稚子 大浦 弘樹 安斎 勇樹 相川 浩昭 山内 祐平
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.31-44, 2020 (Released:2020-09-17)
参考文献数
16

近年の高校の歴史教育では,ある時代の因果関係を多面的に分析する歴史的思考力の育成が重視されている。しかし,歴史的思考力の程度が多様な中堅高校において,各生徒の思考力や関心に合わせて柔軟に歴史的思考力を育成できる授業モデルは確立されていない。そこで本研究では,中堅高校における生徒の多様な関心に対応できる動画を複数用意して事前に学習させ,その学習内容をグループで組み合わせることで,ある時代の因果関係を多面的に分析する歴史的思考力を育成するアラカルト型反転授業を開発した。授業実践を通した評価の結果,事前に比べて事後で歴史的思考力が有意に向上し,中程度の効果があることが示された。また,事前ではクラス内での歴史的思考力にばらつきがあったのに対し,事後では26名中25名が中レベル以上の歴史的思考力を身につけていることも示された。さらに,生徒の関心の多様性についても対応できた上で,該当時代の関心が事後で有意に向上し,小~中程度の効果があることが示された。
著者
大久保 紀一朗 和田 裕一 窪 俊一 堀田 龍也
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.19-35, 2018 (Released:2018-11-30)
参考文献数
31
被引用文献数
1

本研究は,マンガの読みに固有の読解力や,文章の読みと共通する読解力の内実を明らかにするために,マンガの読解力と文章の読解力の関係性について検討することを目的とした。マンガの読解力および文章の読解力の測定にあたっては,マンガと文章それぞれについて,van Dijk & Kintsch(1983)の文章理解モデルにおける3つのレベルの表象(表層レベル・テキストベース・状況モデル)を反映する設問からなる理解度テストを実施し,得点間の媒介分析ならびに相関分析を行った。その結果,マンガと文章の表層レベルに関する問題の得点はテキストベースに関する問題の得点を媒介して,状況モデルに関する問題の得点に影響していることが示され,マンガの読解においてもvan Dijk & Kintsch(1983)の文章理解モデルが適用できることが示唆された。また,マンガと文章の読解力の関連性に関して,表層レベルの理解では異なる認知能力が寄与している一方,テキストベースや状況モデルの読解では共通する認知能力が寄与していることが示唆された。本研究で得られた知見を踏まえ,マンガの読解と文章の読解の共通点や相違点について議論した。
著者
池尻 良平 相川 浩昭 池田 めぐみ
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.27-37, 2022 (Released:2022-03-31)
参考文献数
15

本研究では,教科書とパワーポイントを使って歴史の内容解説をした後,Googleフォームを用いて生徒が生成した問いに対して教師が回答する世界史の授業形式が,歴史の関心と自立的な探究の態度にどの程度効果があるかを測定した。その結果,歴史の関心に含まれると考えられる実践的利用価値と私的獲得価値が事後で有意に増加した一方,興味価値は有意に増加しなかった。また,自立的な探究の態度で重要だと考えられる適応的要請については事前事後で差がなかった。加えて,生成した問いの数による,歴史の関心と自立的な探究の態度への影響も見られなかった。以上より,本授業形式は歴史の関心には部分的な効果がある一方,自立的な探究の態度に対しては不十分だったことが示された。これらの結果を踏まえ,今後の授業形式や教育メディアの活用法を考察した。
著者
佐々木 輝美 武藤 栄一
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
放送教育研究 (ISSN:03863204)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.57-70, 1987-05-31 (Released:2017-07-18)

While the problem of "ijime (bullying)" has become serious among pupils, few scholars have paid attention to this problem until recently. Among the studies done by scholars, most of them are fact-finding surveys and are not enough to explain why pupils bully others. Pupils' ijime behavior is sometimes very violent and such behavior is often portrayed on TV programs. Thus, it is possible to consider the issue from the view point of TV violence. Many researchers have undertaken studies of TV violence in western countries. Several theories on the mechanics of how television violence affects the viewer have been raised. One such theory, supported by past research, deals with the effects of modeling as well as of desensitization. The objective of this study is to examine the effects of "ijime" TV programs on children within the framework of observational learning theory and desensitization theory. The following three hypotheses will form the basis for this study. 1) Pupils exposed to "ijime" TV programs tend to bully others. 2) Pupils learn ways of bullying more through TV than any other medium. 3) Pupils exposed to "ijime" TV programs are more desensitized to bullying behavior by others. A survey was conducted in order to test the above hypotheses. The subjects were 977 (male 497, female 480) junior high-school students. The questionnaire included the following headings: 1) sex 2) programs frequently watched 3) experiences of bullying behavior 4) media through which students learn this bullying behavior 5) degree of desensitization to real bullying (students were asked how they would react if they happened to see real bullying by others) The first hypothesis was proved as a result of a chi square analysis of the obtained data; while the others were not. By discussing these results, the following were suggested. 1) In measuring desensitization, our questionnaire did not seem to be sensitive enough, and this reminds us of the basic problem of difficulty in measuring attitude. 2) In the process of learning bullying behavior, personal media as well as mass media seem to function as sources of acquiring bullying methods. This suggests that it would be necessary to clarify the interaction of these two types of media. 3) Pupils exposed to " ijime" TV programs tend to bully others and this suggests the necessity to control the portrayal of bullying behavior on TV.
著者
浅井 和行 久保田 賢一 黒上 晴夫
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.35-49, 2009-03-31

メディア・リテラシー教育の重要性は,近年幅広く認識されつつあるが,実践の広がりや定着の度合いは,十分であるとはいえない。メディア・リテラシー教育を公教育の中にカリキュラムとして正式に位置づけ,実践を行っているイギリスとカナダ,そしてオーストラリアのメディア・リテラシー教育カリキュラムを比較し,日本のメディア・リテラシー教育を改善するための留意点を検討した。その結果,日本におけるメディア・リテラシー教育のカリキュラムは,(1)長期的なもの(2)批判的思考について系統的に教えるもの,(3)教科横断的なもの,という3つの留意点をもとに考案すべきものであることが分かった。また,実際の教育を実践していくにあたっては,教員養成や教員研修においてメディア・リテラシー教育をとりあげていくことも大切であることが確認できた。
著者
宇田川 敦史
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.121-132, 2021 (Released:2021-05-08)
参考文献数
11

本研究では,日常的なメディア・インフラである検索エンジンのメディア・リテラシーを育成するワークショップをデザインし,実践した。参加者は,自身が事前に投票した集計データを示された上で,そのデータからランキングを計算するアルゴリズムを考えるグループワークをオンラインで実施した。事前・事後の質問紙を定量的に比較した結果(1)検索エンジンにアルゴリズムが介在していることに気づき(2)検索エンジンのランキングの信頼性・正確性を批判的に意識する姿勢が育成できることが示された。さらに定性分析では,ワークショップ・デザインの効果として実際に送り手の立場を体感したこと,グループワークで多様な可能性を実感したことが,メディア・インフラのリテラシー育成に寄与していることが示唆された。
著者
木村 明憲 黒上 晴夫
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.133-150, 2021 (Released:2021-05-08)
参考文献数
21

本研究では,小学校社会科の6年生の歴史学習で,自己調整的な学習を行いながら,歴史に関わる知識の習得を保証し,情報活用能力を身につけられる学習過程モデルを開発した。そして,その効果を検証するために,①単元の最後に実施した単元テストについての調査,②単元の導入時に指導者が示した重要語句(小学校学習指導要領解説社会科編の内容の取り扱いで示されている指導事項及び,第一筆者がその時代の歴史を学習する上で必要であると判断した語句)が,単元の終盤に作成する連続資料(児童が収集した情報を整理,分析し,単元の最後に表現,創造した文書資料を連続資料と示す)で説明された割合についての調査,③児童が作成した連続資料のルーブリック評価による調査,の3つの調査から分析を試みた。その結果,本学習過程モデルで授業実践を行うことで,知識の習得については問題がないこと,情報活用能力の収集力,整理力,分析力,表現力,創造力が身につくことが示唆された。
著者
阿部 真由美 向後 千春
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-12, 2020 (Released:2020-09-17)
参考文献数
29

本研究では,英語の自主的な学習での学習方法に対する「好み」の構造と傾向,および「好み」が学習行動に及ぼす影響を明らかにすることを目的に,オンライン調査を行った。その結果,「好み」の因子として「拡散的好奇心」「特殊的好奇心」「達成感」「刺激」が確認された。また,学習方法をクラスタ分析により「音声・活字言語教材型」「映像メディア型」「活字メディア型」「人と交流型」に分類して「好み」の傾向を比較したところ,「拡散的好奇心」「特殊的好奇心」「有効性」はクラスタ間で大きな違いはなかった。一方,「達成感」「刺激」「低コスト」はクラスタによって異なる傾向が示された。さらに,「好み」が学習行動に及ぼす影響を調べたところ,「拡散的好奇心」が学習の期間や継続に影響を及ぼすこと,また,コスト感の低さが学習の頻度や継続に影響を及ぼすことが明らかになった。
著者
後藤 康志
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.27-42, 1996-03-31

本研究では、ハイパーメディアによる情報検索活動と直接体験を組み合わせたオープン性の高い単元を構成し、児童の学習の支援を目指した。単元の学習を分析した結果、学習は情報検索の活動から情報発見と新たな活動へ、そして見学を含む他のメディアによる情報活動に発展していき、その結果(1)伝統工業に携わる人々の苦労に関する知識の構成と、(2)知識の実感とそれに基づく知識の再構成という、クローズドな学習ではできなかった学習の支援が可能になったことが明らかになった。
著者
鈴木 克明
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.13-27, 1995
被引用文献数
4

本論では、状況的学習観に基づく算数の問題解決領域の授業を支援するためのバンダービル大学における教材開発研究「ジャスパープロジェクト」を詳細に取り上げ、教室学習文脈へのリアリティ付与について、その可能性と課題を考察した。ジャスパー教材群の中心をなす6つの冒険物語と7つの教材設計原則(ビデオ提示、物語形式、生成的学習、情報埋め込み設計、複雑な問題、類似冒険のペア化、教科間の連結)を紹介し、評価研究のあらましを述べた。3つのジャスパー教材の利用形態(積み上げ式直接教授法、構造的問題解決法、生成援助法)とそれを支える授業観を吟味し、プロジェクト推進者の推奨する「生成援助型」の授業における教師の役割変化について言及した。最後に、授業設計モデルと状況的学習観からのジャスパー批評をまとめ、教室学習文脈のリアリティについて吟味した。
著者
森田 健宏 堀田 博史 佐藤 朝美 松河 秀哉 松山 由美子 奥林 泰一郎 深見 俊崇 中村 恵
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.61-77, 2015 (Released:2017-09-14)
参考文献数
40

乳幼児のメディア使用については、その賛否や使用のあり方など、わが国でも様々な研究や提言等が見られるが、それらに大きな影響を及ぼしている先行的な知見の1つにアメリカの専門機関における声明文等がある。本研究では、最近発表されたアメリカ小児科学会(AAP)の「Media Use by Children Younger Than 2 Years.(2011年11月)」およびアメリカ幼児教育協会(NAEYC)「Technology and Interactive Media as Tools in Early Childhood Programs Serving Children from Birth through Age 8.(2012年1月)」の内容について、関連する文献と共に調査し、わが国における今後の乳幼児のメディア使用の課題について検討した。
著者
瀬戸崎 典夫 佐藤 和紀
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.15-24, 2017 (Released:2017-05-29)
参考文献数
18
被引用文献数
5

戦後70年以上が経過し,被爆体験証言者の高齢化にともなった継承者の減少は,喫緊の課題である。また,若い世代の関心を高めるような平和教育の方法について検討する必要がある。近年,教育現場への普及が推進されているタブレット端末を有効活用したアプリケーションを開発し,学習効果に関する実践的な知見を得ることは意義があると言えよう。そこで,本研究はタブレット型全天球パノラマVR教材を用いた自由な探索活動および,他者への学習内容の発信を取り入れた平和教育を実践し評価すること,さらにノートテイキングの有無を分析の要因として学習効果を検討し,本教材の有効活用についての知見を得ることを目的とした。授業実践による理解度テストの得点変移について分析した結果,知識獲得の観点において,本教材による自由探索的活動は,ノートテイキングと同等の効果が得られることが示された。また,主観評価の結果から,本教材の利用時にノートテイキングをすることで,学習内容に対する関心や意欲を喚起することが示された。
著者
佐藤 知条
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.29-39, 2009-09-30 (Released:2017-07-18)

本稿では映画が教育的に利用可能なメディアとして学校教育の枠組みの中に位置づけられる過程を,他に先駆けて授業での映画利用を行った小学校訓導関猛の理論と実践を分析することで考察した。映画がまだ「活動写真」と呼ばれていた1910年代から20年代において教育関係者は活動写真の娯楽性や大衆性を批判し,悪影響を与えるという理由で児童や学校から遠ざけるべきものとして扱った。こうした状況下で映画教育を開始した関猛は,当時一般的ではなかった「映画」の語を使うことで,娯楽性や大衆性といった面を切り捨てて映像メディアとしての機能や教育的効果といった側面を焦点化させた。そして映画の利用が学校教育における目標達成に資することを示した。その結果,「映画」は学校教育の枠組みにおいて了解可能かつ利用可能な教材として位置づけられた。「映画」の語の出現とその意図的な使用は,授業での利用と研究を正当化させたという点において,映画教育という文化を生み出す上で重要な要素であった。
著者
涌井 史郎 飯田 行恭 川島 徳道 許 俊鋭 南 和友
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.75-85, 2003-03-31

桐蔭横浜大学では、遠隔医療教育の研究を進め、2001年9月にISDNとテレビ会議装置を使ってドイツ ノルトライン・ウェストファーレン州 バートエーンハウゼンの心臓病センターと桐蔭横浜大学とを結んだ心臓手術中継実験を行った。この実験成果を踏まえ、翌年2002年6月に共同利用型の遠隔医療教育の実証実験として同心臓病センターと桐蔭横浜大学、埼玉医科大学との3地点間を結んだ多地点心臓手術中継実験を行い、学生に対するアンケート調査によりその教育的効果を分析した。アンケートの結果では、学生は遠隔医療に対して高い関心をもっており、遠隔医療教育による講義を望んでいることが分かった。また、多地点での遠隔討論については教育効果を高めるという評価結果であり、共同利用型遠隔医療教育の有用性が確認された。
著者
菊江 賢治
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.1-6, 2009

発展途上国を中心に国内外約90拠点をつなぐJICA-Netは2002年から本格運用が始まり,遠隔技術協力に利用されてきた。テレビ会議設備として各国間で業務打合に利用されるだけでなく,遠隔学習の方法論を援用した遠隔セミナーの配信が始まっている。こうした遠隔セミナーを企画・実施するとともに,制作したコンテンツを各国と共同利用できるようにする国際協力のための教材ライブラリを設計した。その設計では,「保存情報資源の自己説明性」と「保存情報資源の国際流通性」を実現するためにOAIS参照モデルに準拠するフリーウェアDSpaceを活用し,OAI-PMH活動に参加できるようにダブリンコアをプロトコルに採用した。さらに,教材の配信・蓄積だけでなく,途上国を直接支援するパイロットテストを実施し,結果をもとに国際協力における遠隔技術協力を24種類のパターンに分類したガイドラインを設定した。
著者
鈴木 克明
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.50-61, 1995

ジョン・ケラーが提唱しているARCS動機づけモデルは、新奇性を超えたレベルで学習者の意欲をシステム的に扱うための提案として、「魅力ある教材」の設計・開発に有効と思われる。ARCSモデルは、教材設計者が教材の設計過程において動機づけの問題に取り組むことを援助するために、注意、関連性、自信、満足感の4要因の枠組みと動機づけ方略、ならびに動機づけ設計の手順を提案したものである。本論では、4要因とその下位分類の理論的裏付けを概観し、これまでに提案されている動機づけ方略とモデルの応用領域を列挙し、さらにARCSモデルについての研究を5つのタイプに整理して紹介している。
著者
鈴木 克明
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.13-27, 1995-12-01 (Released:2017-07-18)
被引用文献数
3

本論では、状況的学習観に基づく算数の問題解決領域の授業を支援するためのバンダービル大学における教材開発研究「ジャスパープロジェクト」を詳細に取り上げ、教室学習文脈へのリアリティ付与について、その可能性と課題を考察した。ジャスパー教材群の中心をなす6つの冒険物語と7つの教材設計原則(ビデオ提示、物語形式、生成的学習、情報埋め込み設計、複雑な問題、類似冒険のペア化、教科間の連結)を紹介し、評価研究のあらましを述べた。3つのジャスパー教材の利用形態(積み上げ式直接教授法、構造的問題解決法、生成援助法)とそれを支える授業観を吟味し、プロジェクト推進者の推奨する「生成援助型」の授業における教師の役割変化について言及した。最後に、授業設計モデルと状況的学習観からのジャスパー批評をまとめ、教室学習文脈のリアリティについて吟味した。
著者
手塚 和佳奈 佐藤 和紀 三井 一希 板垣 翔大 泰山 裕 堀田 龍也
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.101-119, 2021 (Released:2021-05-08)
参考文献数
50
被引用文献数
1

本研究は,日本教育メディア学会における学校教育を対象としたメディア・リテラシー教育の実践研究を,「実践研究が対象としてきたカテゴリ(佐藤ほか 2020)」および「ソーシャルメディア時代のメディア・リテラシーの構成要素(中橋 2014)」に整理し,傾向を分析することにより,これまでの成果を把握し,今後の実践課題を考察することを目的とした。122件の実践研究を整理した結果,「教材開発」「評価・目標達成」をテーマにした実践研究および「メディアのあり方を提案する能力」の育成をねらいとした実践研究の割合が低く,今後の実践課題であることが示唆された。また,1つの実践においてともに育成することが有効である構成要素についての示唆が得られた。