著者
帆足 喜与子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.65-74,126, 1961-08-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17

要求水準とパーソナリティとの間に関係ありと認められた事柄は次のとおりである。(1) 安定感のあるものは, 成功すれば水準を上げ, 失敗すれば下げるというふうに適応的反応をする。(2) 失敗をまともにうけ入れるものも適応的反応をする。(3) 自分の地位に満足するものも適応的反応をする。(4) 妥協的, 協調的のものは場面によって設定態度を変化させる。(5) 競争心の強いものは目標を固執する傾向にある。(6) 本実験においては, 常にパーソナリティ評点のよいものの方がGDSが大きかった。個人について設定態度が比較的固定しているところから見ても, また特定のパーソナリティと特定の設定態度との関連性の存在から見ても, 要求水準には個性が相当にあらわれるといいうる。
著者
馬場 安希 菅原 健介
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.267-274, 2000-09
被引用文献数
7

本論文では現代女性の痩身化の実態に注目し, 痩身願望を「自己の体重を減少させたり, 体型をスリム化しようとする欲求であり, 絶食, 薬物, エステなど様々なダイエット行動を動機づける心理的要因」と定義した。痩身は「幸福獲得の手段」として位置づけられているとする立場から, 痩身願望の強さを測定する尺度を構成するとともに, 痩身願望が体型への損得意識を媒介に規定されるモデルを検討した。青年期女子に質問紙による調査を行い, 痩身願望尺度の一次元構造を確かめ, ダイエット行動や摂食行動との関連について検討し, 尺度の信頼性, 妥当性が確認された。また, 体型への損得意識に影響を及ぼすと考えられる個人特性と, 痩身願望との関連性を検討した結果, 「賞賛獲得欲求」「女性役割受容」「自尊感情」「ストレス感」などに関連があることが示された。そこで, これらの関連を検討したところ, 痩せれば今より良いことがあるという「痩身のメリット感」が痩身願望に直接影響し, それ以外の変数はこのメリット感を媒介して痩身願望に影響することが明らかになり, 痩身願望は3つのルートによって高められると考えられた。第1は, 肥満から痩身願望に直接至るルートである。第2は, 自己顕示欲求から生じる痩身願望で, 賞賛獲得欲求と女性役割受容が痩身によるメリット感を経由して痩身願望と関連しており, 痩身が顕示性を満足させるための手段となっていることが示唆された。第3は, 自己不全感から発するルートである。自尊感情の低さと空虚感があいまったとき, そうした不全感の原因を体型に帰属し, 今の体型のせいで幸せになれないといった「現体型のデメリット感」を生じ, さらにメリット感を経由して痩身願望に至ることが示された。これらの結果から, 痩身願望が「女性的魅力のアピール」や「自己不全感からの脱却」を目的として高まるのではないかと考えられた。
著者
濱口 佳和 藤原 健志
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.59-75, 2016
被引用文献数
6

本研究は, 高校生用の自記式能動的・反応的攻撃性尺度の作成, 能動的・反応的攻撃性と身体的攻撃・関係性攻撃との関連, 能動的・反応的攻撃性類型の心理・行動的特徴を明らかにすることを目的として行われた。高校1~3年生2,010名に対して, 中学生対象に開発された自記式能動的・反応的攻撃性尺度を実施し, 探索的因子分析を実施したところ, 中学生同様の6因子が得られた。検証的因子分析の結果, 仲間支配欲求, 攻撃有能感, 攻撃肯定評価, 欲求固執からなる能動的攻撃性と報復意図と怒りからなる反応的攻撃性の斜交2因子モデルが高い適合度を示した。6下位尺度については, 攻撃肯定評価でやや低いものの, 全体として高い信頼性が得られ, 情動的共感尺度や他の攻撃性尺度等との相関により併存的妥当性が実証された。重回帰分析の結果, 性別と能動的・反応的攻撃性によって, 身体的攻撃の約40%, 関係性攻撃の約30%が説明されることが明らかにされた。クラスター分析の結果, 能動的攻撃性・反応的攻撃性共に高い群, 反応的攻撃性のみが高い群の2種類の攻撃性の高い群が発見され, Crapanzanoの重篤モデルを支持する結果が得られた。
著者
藤野 京子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.403-411, 2002-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
1

少年鑑別所に入所中の221名の男子少年を対象に, 最近一緒にいる友人一人を思い浮かべさせ, その交友関係について調査した。まず, 大半の少年が, その交友について, 親をはじめとする周囲が認めており, 今後もその関係を断つつもりがないことが示された。その友人と一緒にいる理由については,「信頼・親和」,「被受容・被理解」,「不快回避」の3因子が抽出され, その友人との実際の付き合い方については, 「内面共有」,「防衛」,「享楽」,「独立」の4因子が抽出された。これらの回答結果からは, その交友関係が, うわべを取り繕ったその時その場限りのものではないことが示された。また, これらの因子間の関係を分析したところ, 「内面共有」には「被受容・被理解」及び「信頼・親和」が,「独立」には「信頼・親和」及び「不快回避」が影響を及ぼしていることが明らかにされた。加えて, それぞれの因子に, 非行少年自身の年齢, 非行歴, 加えて, 友人の非行歴がいかに影響を及ぼしているかについても検討した。
著者
田中 真理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.193-205, 2013 (Released:2013-10-10)
参考文献数
30
被引用文献数
3

本研究は, 注意欠陥/多動性障害児・者(以下, AD/HD者)の自己認識について, 自分のパフォーマンスに影響を与えた要因をどのように自身がとらえているのかという原因帰属スタイルの様相に焦点をあてた研究動向について検討することを目的とした。原因帰属は自己統制感や効力感に関する自己認識のひとつの側面であり, 抑うつ状態などの二次障害への心理的支援において重要な知見を提供している。研究方法としては, 呈示された項目についてどのような原因帰属をするかを対象者自身が評定していく質問紙による調査と, 対象者がある課題を実際に遂行しそのパフォーマンスについて自分自身がどのような原因帰属をするかを評定する実験的調査とに分類された。原因帰属については統制性, 安定性, 特殊性, 内在性の複数の次元にわたり検討されており, 定型発達者との比較検討の結果, 児童・思春期のAD/HD者では, 失敗状況に対しては安定的・全体的および外在的原因帰属スタイルがみられ, 成人期では安定的・全体的・内在的な原因帰属スタイルがみられたことが共通して示された。最後に, AD/HD者にとっての適応的な原因帰属スタイルと学習性無力感との関連が議論された。
著者
髙橋 高人 松原 耕平 中野 聡之 佐藤 正二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.81-94, 2018-03-30 (Released:2018-04-18)
参考文献数
45
被引用文献数
7

本研究の目的は,中学生における認知行動的な抑うつ予防プログラムの効果を標準群との比較,さらに2年間のフォローアップ測定から検討することであった。介入群を構成した51名の中学1年生が,プログラムに参加した。標準群は,中学生1,817名から構成した。介入内容は,全6回の認知行動的プログラムから構成した。プログラムの効果を測定するために,子ども用抑うつ自己評定尺度,社会的スキル尺度,自動思考尺度が,介入前,介入後,フォローアップ測定1(1年後),2(2年後)で実施された。結果から,抑うつについて介入前と標準群1年生の比較では差が見られなかったのに対して,介入群のフォローアップ測定1と標準群2年生の比較では,有意に介入群の抑うつが低いことが示された。また,社会的スキルの中のやさしい言葉かけとあたたかい断り方,ポジティブな自動思考に関して,介入前よりも介入後,フォローアップ測定において向上することが示された。ユニバーサルレベルの抑うつ予防プログラムが,中学生に対して効果的な技法であることが示唆された。
著者
浅野 志津子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.141-151, 2002-06-30
被引用文献数
6

生涯学習に参加し続けるためには,学習に意欲的に取り組む「積極的関与」のみならず,長期的に学習を続けようとする「継続意志」も必要となる。研究1では,これら2つがどのような要因によって促進されるのかを学習動機を中心に検討する。放送大学と一般大学学生等計879名に質問紙調査を行い,「積極的関与」「継続意志」「学習動機(5尺度)」の各尺度を構成した。「積極的関与」「継続意志」は,放送大学学生が一般大学学生よりも高く,生涯学習参加における重要な側面であることが示唆された。重回帰分析の結果,「積極的関与」を強化する主な学習動機は「特定課題志向」であり,「継続意志」に関しては「自己向上志向」と「特定課題志向」であった。研究2では,これらの学習動機がどのように生涯学習を促進するようになったのかその過程を検討するために高齢の放送大学学生13名に面接を行った。その結果,「自己向上志向」の学習動機は青少年期の学習不充足感に端を発し,仕事上の挑戦,すぐれた人との比較を経て強められ「継続意志」につながり,「特定課題志向」は青少年期の学校または仕事外で課題に取り組む経験を経て,現在の課題に対する「積極的関与」を高めている傾向が示唆された。
著者
小野田 亮介 鈴木 雅之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.433-450, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
48
被引用文献数
6

本研究では,アーギュメント構造が意見文評価に与える影響について,影響の論題間差と評価方法による差異に着目して検討した。アーギュメント構造としては,主張への賛成論だけを示す「反論なし文」,賛成論に加えて反論を想定する「反論文」,賛成論と反論想定に加えて再反論を行う「再反論文」の3構造を設定した。また評価方法としては,1つの論題について構造の異なる3つの意見文を相対的に評価する「相対評価法」と,1つの論題について単一の構造の意見文のみを評価する「独立評価法」の2つを設定した。実験1では,大学生41名を対象に相対評価法による説得力評価を求めた。混合効果モデルによる分析を行った結果,論題にかかわらず再反論文は他の構造の文章よりも高く評価され,反論文が他の構造の文章よりも低い評価を受けた。実験2では,大学生123名を対象に独立評価法による説得力評価を求めた。その結果,平均すると,アーギュメント構造による説得力評価の差異はみられなかったが,アーギュメント構造の影響の方向性は論題によって異なっていた。以上より,アーギュメント構造が意見文評価に与える影響は論題や評価方法によって異なることが示唆された。
著者
数井 みゆき 遠藤 利彦 田中 亜希子 坂上 裕子 菅沼 真樹
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.323-332, 2000-09-30
被引用文献数
4

本研究では現在の親の愛着とそれが子の愛着にどのように影響を及ぼしているのかという愛着の世代間伝達を日本人母子において検討することが目的である。50組の母親と幼児に対して, 母親には成人愛着面接(AAI)から愛着表象を, 子どもには愛着Qセット法(AQS)により愛着行動を測定した。その結果, 自律・安定型の母親の子どもは, その他の不安定型の母親の子どもよりも, 愛着安定性が高いことと, 相互作用や情動制御において, ポジティブな傾向が高いことがわかった。また特に, 未解決型の母親の子は, 他のどのタイプの母親の子よりも安定性得点が低いだけでなく, 相互作用上でも情動制御上でも行動の整合性や組織化の程度が低く混乱した様子が, 家庭における日常的状況において観察された。ただし, 愛着軽視型ととらわれ型の母親の子どもは, 安定型と未解決型の母親の子どもらの中間に位置する以外, この両者間での差異は認められなかった。愛着の世代間伝達が非欧米圏において, 実証的に検証されたことは初めてであり本研究の意義は大きいだろう。しかし, さらなる問題点として, AAIやAQSの測定法としての課題と母子関係以外における社会文化的文脈の愛着形成への影響という課題の検討も今後必要であろう。
著者
坂上 裕子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.411-420, 1999-12-30
被引用文献数
4 3

本研究では,人格特性と認知との関連を検討するため,大学生169名を対象に,個人の感情特性と図版刺激における感情情報の解釈との関連について調べた。感情特性の指標として,5つの個別感情(喜び,興味,悲しみ,怒り,恐れ)の日常の経験頻度を尋ねた。また,感情解釈の実験を行う直前に,被験者の感情状態を測定した。感情解釈の課題としては,被験者に,人物の描かれた曖昧な図版を複数枚呈示し,各図版について,状況の解釈を求めた上で登場人物の感情状態を評定するよう求めた。両者の関連を調べたところ,喜びを除く全ての感情特性と,それぞれに対応した感情の解釈との間に,正の相関が認められた。すなわち,被験者は,自分が日頃多く経験する感情を図版の中にも読みとっていた。また,特定の感情(悲しみと怒り,恐れと悲しみ,恐れと怒り)については,感情特性と感情解釈との間に相互に関連が認められた。感情特性と感情解釈の相関は,感情状態の影響を取り除いてもなお認められたことより,感情特性は,感情状態とは独立に個別の感情に関する認知と関連を持っていることが示唆された。
著者
島田 英昭
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.296-306, 2016
被引用文献数
3

本研究は, 従来の教材研究が精読を前提とした内容理解を目指していることに対し, 読解初期の動機づけ効果に着目した。典型的な教材の構成要素であるタイトル・サブタイトルの有無, 挿絵・写真の有無, および, 挿絵・写真のモノクロ・カラーを操作した防災教材を作成した。教材の2秒間の一瞥の後, 動機づけと主観的わかりやすさについて, 5段階評定を求めた。その結果, 上記の構成要素は, いずれも動機づけ, 主観的わかりやすさの向上に寄与していた。また, 挿絵・写真・カラーの効果が, タイトル・サブタイトルに比較して大きかった。動機づけ効果のプロセスについて共分散構造分析により分析した結果, 挿絵・写真・カラーについては主観的わかりやすさを介さない感性的要因による動機づけの向上が大きかったが, サブタイトルについては主観的わかりやすさを介する認知的要因による動機づけの向上が大きく, タイトルについてはほぼ同等であった。
著者
梅村 智恵子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.123-131, 1981-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

(1) 読字課題では仮名は音節文字であるために機能的にも連鎖反応が容易で, 音韻の符号化も単一処理ですむために, 音訓両音を持つ漢字よりも音韻の転換速度が速いことがわかった。(2) 再認課題では音韻にのみ依存する仮名は系列的に処理されるために, 文字間の弁別が難しく, 意味を持つ漢字にくらべて再認が悪いことが考察された。また, 同じ漢字でも意味が手がかりとして有効に働かない時は仮名と同様に再認が悪くなった。(3) 自由再生課題ではリストの長短にかかわらず, 直後再生では仮名 (化) 群の方が漢字群よりも良く, 遅延再生では逆に漢字群よりも良くなった。これは短期の記憶では音韻情報が有効に働き, 音連鎖の方略が取りやすかったのに対し, 長期の記憶では逆に意味情報が有効に働いたためと考えられる。また, 同じ漢字でも音韻に依存して符号化する場合と意味も同時に符号化する場合とでは結果が異なることが考察された。
著者
梅村 智恵子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.p123-131, 1981-06

(1) 読字課題では仮名は音節文字であるために機能的にも連鎖反応が容易で,音韻の符号化も単一処理ですむために,音訓両音を持つ漢字よりも音韻の転換速度が速いことがわかった。 (2) 再認課題では音韻にのみ依存する仮名は系列的に処理されるために,文字間の弁別が難しく,意味を持つ漢字にくらべて再認が悪いことが考察された。また,同じ漢字でも意味が手がかりとして有効に働かない時は仮名と同様に再認が悪くなった。 (3) 自由再生課題ではリストの長短にかかわらず,直後再生では仮名(化)群の方が漢字群よりも良く,遅延再生では逆に漢字群よりも良くなった。これは短期の記憶では音韻情報が有効に働き,音連鎖の方略が取りやすかったのに対し,長期の記憶では逆に意味情報が有効に働いたためと考えられる。また,同じ漢字でも音韻に依存して符号化する場合と意味も同時に符号化する場合とでは結果が異なることが考察された。
著者
永井 智
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.44-55, 2013
被引用文献数
15

本研究の目的は, 援助要請自立型, 援助要請過剰型, 援助要請回避型, という3つの援助要請スタイルを測定する尺度を作成し, その信頼性と妥当性を検討することである。大学生を対象とし, 3つの質問紙調査を行った。まず, 研究1において尺度の一定の妥当性と内的整合性が確認された。研究2において, 尺度の再検査信頼性が確認された。研究3では, 縦断調査を行い, 援助要請スタイルと4週間後の実際の援助要請行動との関連を検討した。その結果, 援助要請自立型尺度の高群は, 悩みの程度に応じて援助要請を行っていたのに対し, 援助要請過剰型尺度の高群は, 悩みが少ない時でも援助要請を多く行っていた。また, 援助要請回避型尺度の高群は, 悩みが多い時でも援助要請を行わなかった。このように, 本研究で作成された尺度は実際の援助要請行動のパターンを予測していた。
著者
牛山 聡子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.203-213, 1969

本実験は次のことを検証することを目的として行なわれた。<BR>(1) 幼児は, 幼児に対し特に影響力を持つとは考えられないモデル (この場合女子学生) の社会的に望ましいとされている行動をどの位模倣するか。(実験I)<BR>(2) その際, 代理強化はどの程度の効果を及ぼすか。 (実験I)<BR>(3) 模倣された行動はどの程度維持されるか。(実験I)<BR>(4) モデルが同年令児である場合の幼児の模倣の程度。 (実験II)<BR>(5) 暗示的な質問の模倣に及ぼす効果。(実験II)<BR>そのため実験1の被験児には, 4才児組から男児22名女児18名, 5才児組から男児16名, 女児22名をとり, 実験IIの被験児には, 5才児組から男児14名, 女児8名をとった。2名の幼児に1個の玩具しか与えなかったときの幼児の遊び方を観察するために, 被験児は性と年令を同じにしてふたり1組にされた。被験児たちはモデルの行動を観察する前と後, および玩具をかえて, その遊び方を観察された。実験1の被験児たちには, 8mm映画によって, モデルの行動のみ (無報酬群), あるいは, モデルの行動と賞賛の声 (報酬群) が示された。統制群にはそうしたものはなにも示されなかった。実験IIの被験児たちには, 女子学生モデルの行動のみか, あるいは, 幼児モデルの行動のみが示された。その後の遊びの途中で「仲よく遊べたか」という暗示的な質問が与えられた。モデルたちは, まず玩具の使用をゆずりあい, それから「ジャンケン」をし, 交代で玩具を使った。実験1の5才児のみが, モデルの行動を2回観察した。被験児の行動は観察室から観察され, 観察は, おもに, 玩具の所有の移動についてなされた。観察者は, 玩具が移動した時の時間, 移動のしかた, 玩具の所有者, 被験児たちの会話を記録した。会話はテープにも録音された。<BR>実験の結果は次のようであった。<BR>(1) モデルの行動を観察させる前には, 1組の被験児たちも「ゆずりあい」や「ジャンケン」をしなかった。統制群の被験児たちは実験の間中,「ゆずりあい」も「ジャンケン」もしなかった。無報酬群・報酬群 (実験1), および女子学生モデル群 (実験II) の少数の5才児たちが, モデルのゆずりあいとジャンケンを模倣した。以上のことは, 5才児はたった1回または2回, モデルの行動を観察するだけでも, 特に影響力を持つとは考えられないモデルの社会的に望ましいとされている行動を模倣するということを示しているといえよう。<BR>(2) モデルに対する報酬を観察させること (代理強化) は, 必ずしも, モデルの行動の模倣を促進させなかった。<BR>(3) 模倣された行動は, たとえ玩具がかわっても維持される傾向にあった。.<BR>(4) 同年令児モデル群の幼児が1名もモデルの行動を模倣しなかったという事実と, 幼児の自発的な会話から, たとえ幼児はモデルと自分たちとの類似性に気づき, モデルの行動と自分たちの行動との相違に気づいたにしても, それだけで, モデルの行動を模倣するわけではないということがわかった。<BR>(5)「仲よく遊べたか」という暗示的質問は, あらたにモデルの行動の模倣を生じさせはしなかった。
著者
千島 雄太 水野 雅之
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.228-241, 2015
被引用文献数
5

本研究の目的は, 大学入学前に持っていた複数の領域に渡る大学生活への期待と, 実際に経験した大学生活に関して探索的に把握し, 大学適応への影響について実証的に明らかにすることであった。文系学部の大学生84名を対象とした予備調査によって, 大学生活への期待と現実に関して探索的に検討し, それぞれ項目を作成した。続いて, 文系学部の新入生316名を対象とした本調査を行い, 探索的因子分析の結果, 大学生活への期待は, "時間的ゆとり", "友人関係", "行事", "学業"の4つの領域が抽出された。対応のある<i>t</i>検定の結果, 全ての領域において期待と現実のギャップが確認された。さらに, 大学環境への適応感とアパシー傾向を従属変数とした階層的重回帰分析を行った。その結果, "時間的ゆとり"と"友人関係"において, 期待と現実の交互作用が認められ, いずれにおいても現実得点が高い場合に, 期待得点はアパシー傾向と負の関連が示された。特に, 期待したよりも時間的ゆとりのある大学生活を送っている場合に, アパシー傾向が高まることが明らかにされ, 大学における初年次教育の方向性に関して議論された。
著者
猪原 敬介 上田 紋佳 塩谷 京子 小山内 秀和
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.254-266, 2015
被引用文献数
4

海外の先行研究により, 読書量, 語彙力, 文章理解力には緊密な相互関係が存在することが明らかになっている。しかし, 我が国の小学校児童に対する調査はこれまでほとんど行われてこなかった。この現状に対し, 本研究では, これまで調査がなされていなかった1・2年生を含めた小学校1~6年生児童992名に対して調査を実施した。また, 読書量推定指標間の関係についても検討した。その際, 海外では使用例がない小学校の図書貸出数と, 新たに作成したタイトル再認テストの日本語版を含め, 6つの読書量推定指標を同時に測定した。結果として, 全体的にはいずれの読書量指標も語彙力および文章理解力指標と正の相関を持つこと, 読書量推定指標間には正の相関があるもののそれほど高い相関係数は得られなかったこと, の2点が示された。本研究の結果は, 日本人小学生児童における読書と言語力の関係についての基盤的データになると同時に, 未だ標準的方法が定まらない読書量推定指標を発展させるための方法論的貢献によって意義づけられた。
著者
大久保 智生
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.307-319, 2005-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
41
被引用文献数
23 28

本研究の目的は, 個人-環境の適合性の視点から適応状態を測定する青年用適応感尺度を作成し, その信頼性と妥当性を検証すること (研究1), 作成された適応感尺度と学校生活の要因 (友人との関係, 教師との関係, 学業) との関連を検討すること (研究2) であった。研究1では中学生621名, 高校生786名, 大学生393名が, 研究2では中学生375名, 高校生572名が調査に参加した。作成された尺度の因子分析の結果から, 従来の適応感尺度の因子とは異なる「居心地の良さの感覚」,「課題・目的の存在」,「被信頼・受容感」,「劣等感の無さ」の4因子が抽出された。また尺度の信頼性と妥当性を検討したところ, 個人一環境の適合性の視点から作成された適応感尺度は, 十分な信頼性と妥当性を有していると考えられた。学校生活の要因と適応感との関連について重回帰分析を用いて学校ごとに検討した結果, どの学校においても「友人との関係」が適応感に強く影響を与えていた。一方,「教師との関係」,「学業」と適応感の関係の構造は学校ごとに異なっていた。以上の結果から, 青年の学校への適応感について, 各学校の特徴を踏まえた上で研究を進めていく必要性が示された。
著者
本間 友巳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.390-400, 2003-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
2 4

本研究の目的は, いじめ加害者の特徴やいじめ加害の停止と関連する要因を明らかにすることを通して, いじめ加害者への対応について検討することである。調査対象は1,245名の中学生である。主要な結果は,(1) いじめ加害者によるいじめの停止に正の関連を持つ要因は, いじめやいじめ被害者に対する道徳・共感的な認知や感情であった。いじめ加害者のいじめ停止理由の自由記述でも, この結果は支持された。(2) いじめ加害者によるいじめ停止理由の記述を通して, いじめ停止に教師の指導が大きな影響を与えていることも明らかとなった。(3)「加害・継続群」は, 他の群に比べて,いじめ加害に関して大きな問題性を有していた。(4) いじめ加害者への対応として, 感情面まで踏み込んで道徳・共感性を高める取り組みを行うことが重要と考えられた。特に「加害・継続群」の生徒への対応は, 加害者個人のみならず, 加害グループや学級集団にも向けられる必要性が議論された。
著者
木村 晴
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.230-240, 2005-06

ある思考を抑制するとかえって関連する思考が増幅する抑制の逆説的効果が報告されている。この効果は, 抑制の意図が高いほど生じやすいとされていることから, 本研究では, 個人が持つ抑制スタイルが抑制の成否に及ぼす影響を検討した。思考を徹底的に頭から締め出そうとする積極的抑制スタイルを持つ者は, 抑制意図を高め, かえって抑制の逆説的効果を経験するが, 侵入思考を受け流そうとする受動的抑制スタイルを持つ者は, 相対的に逆説的効果が生じないと予測された。実験1では, 参加者は受動的もしくは積極的な抑制スタイルを誘導され, 中性刺激の抑制を行った。また, 実験2では, 事前に行われた質問紙によって, 積極的抑制スタイル群, 受動的抑制スタイル群に分けられ, 個人的な日常の悩みを対象として抑制を行った。両実験において, 積極的抑制スタイルを持つ者は, かえって逆説的効果を生じさせたのに対し, 受動的な抑制スタイルを持つ者は, 逆説的効果を生じさせず, 予測どおりの抑制スタイルの影響が示された。また, 抑制スタイルにかかわらず, 抑制時に代替思考を用いた方略使用抑制群では, 逆説的効果が生じなかった。抑制対象, 抑制方略, そしてメタ評価が抑制の成否に及ぼす影響を論じる。