著者
水品 江里子 麻柄 啓一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.573-583, 2007

日本文の「~は」は主語として使われるだけではなく, 提題 (~について言えば) としても用いられる。従って日本文の「~は」は英文の主語と常に対応するわけではない。また, 日本語の文では主語はしばしば省略される。両言語にはこのような違いがあるので, 日本語の「~は」をそのまま英文の主語として用いる誤りが生じる可能性が考えられる。研究1では, 57名の中学生と114名の高校生に, 例えば「昨日はバイトだった」の英作文としてYesterday was a part-time job, を,「一月は私の誕生日です」の英作文としてJanuary is my birthday. を,「シャツはすべてクリーニング屋に出します」の英作文としてAll my shirts bring to the laundry. を提示して正誤判断を求めた。その結果40%~80%の者がこのような英文を「正しい」と判断した。これは英文の主語を把握する際に日本語の知識が干渉を及ぼしていることを示している。研究2では, 日本語の「~は」と英文の主語の違いを説明した解説文を作成し, それを用いて高校生89名に授業を行った。授業後には上記のような誤答はなくなった。
著者
黒丸 正四郎
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.48-53, 1956-03-25

It is not long since clinical psychology became a popular subject of study in Japan. Therefore, studies on the method of diagnosing and treating the patients have not been sufficiently made. The writer of this article wants to comment on methodology of clinical psychology. 1. Needless to say, clinical psychology aims to treat and cure the patients. Its practice calls for specific techniques as well as careful examination of general (or theoretical) psychology. 2. "To diagnose" means to detect the cause of the illness for treatment. To give correct diagnosis, clinicians should be versed with Jaspers' theory of method. Jaspers contends that it is most important in psychopathological studies to apply understanding (verstehende) psychology and explaining (erklaerende) psychology independently. 3. There are three methods in psychotherapy : namely, directive, non-directive and psychoanalytic. Only in actual practice, should one decide which of the three methods is desirable.
著者
藤友 雄暉
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.66-69, 1981

幼児のことばの研究は, 幼児の生活場面において, メモや録音器を用いてことばを採集し, それを分析することが主流をなしてきた。しかし, このような資料は, 対象児の数が少数とならざるを得ないこと, 対象児によって採録した時の環境が異なり, 資料を直接比較できない場合があること, 対象児間に個体差が大であること, 資料が記述的なものになり勝ちなこと, 実験的に再現し, 追試により実証をすることが困難であることなどが短所として存在していた。それに対して, このような短所を克服する方法として, 全くの実験的手法, 特に学習実験によるものが考えられ, 実施されてきた。しかしながら, 実験的手法によるものは, 幼児の生活場面におけることばとは, かけ離れ過ぎたものが多く, したがって, 得られた結果は現実の幼児については, ほとんど何も言及することができないというような新たな問題を生じた。このような2つの方法が持つ短所を補うものとして, ある程度統制した条件下において, 幼児のことばを採集し, 分析する方法が考えられる。藤友 (1977a, 1977b, 1978, 1979a, 1979b, 1979c, 1979d) は, 幼児に絵カードを提示し, 口頭作文を作らせるという統制条件下において, 幼児のことばを研究した。用いられた被験者は, 4歳児, 5歳児, 6歳児各34名, 計102名, 用いられた絵カードは21枚の採色がほどこされたものであった。得られた資料の分析には, FIG. 1に示された品詞の分類規準が用いられた。自立語の11品詞について, 藤友 (1979a) では4 歳児, 藤友 (1979d) では5歳児, 藤友 (1978) では6歳児の品詞別語彙数と総語数, 及び品詞別語彙表を得た。藤友 (1977a) では, 動詞・助動詞, 形容詞, 接続詞, 名詞の誤用例が分析された。藤友 (1977b) では, 幼児が作った口頭作文の内容分析, 助詞の誤用, 語音の脱落, 構音の誤りが分析された。藤友 (1979b) では, 正しく使用された助詞を分析の対象として, 幼児の助詞の習得に関する発達的研究が行われた。藤友 (1979c) では, 藤田・藤友 (1975) によって得られた93名の4・5歳児の助詞の理解に関する資料と, 藤友 (1979b) によって得られた68名の4・5歳児の助詞の生成に関する資料とが, 比較研究された。本研究は, 藤友 (1977a, 1977b, 1978, 1979a, 1979b, 1979c, 1979d) と同一の資料を用いて, 正しく使用された助動詞を分析の対象として幼児の助動詞の習得に関する発達的研究を行うものである。<BR>大久保 (1967) は, 1人の幼児の1歳から3歳までの発話資料における助動詞を分析して,(1) 「た」「ない」「ん」「う」「よう」「ます」「です」「だ」「れる」「られる」「せ」「させ」「そうに」「そうな」「ように」「みたいに」「たい」などを3歳までに使用している。(2) 大部分の助動詞が3歳までに初出し, 過去, 現在, 未来, 可能, 命令, その他様々の表現が出来るようになってきている。(3) 助動詞全体では終止形がいちばん早く使われ多用され, 連用形, 未然形, 連体形の使われかたは少なかった。初出もおそい。との結果を得た。<BR>また, 竹田・望月・丸尾 (1969) は, 1歳, 1歳6か月, 2歳, 2歳6か月の幼児各20名と3歳児11名の発話資料における助動詞を分析して,(1) 発話内容を品詞別に分類して得られる助動詞の出現率は, 1歳6か月で 1.4%, 2歳0か月で5.7%, 2歳6か月で9.0%, 3 歳0か月で14.3%である。(2) 1歳6か月では完了・過去の夕の使用が稀にみられる。2歳では打消しのナイ, 断定ダ, デス, 2歳6か月では意志を表わすウ, ヨウの使用が増加している。2歳6か月以後, 僅かではあるが, 受身, 可能のラレル, 使役のサセルなどの助動詞も用いられる。(3) 活用形の上からみると終止形が最も多く, 連用形, 未然形の順になり, 仮定形, 連体形は殆ど使用されていない。との結果を得た。<BR>藤友 (1977a) では, 助動詞の誤用例が分析研究されたが, 使役「せる・させる」, 受身「れる・られる」, 可能「れる・られる」, 断定「だ」, 確認・過去「た」に関連する誤用がみられた。<BR>以上引用してきた研究はいずれも助動詞を独立の単語とみとめる立場に立つものであるが, 鈴木 (1968) 「学校文法のいわゆる付属語 (助詞, 助動詞) は, ここでは独立の単語と認めず, 語尾 (単語のおわりの部分), あるいはくっつき (付属辞) とみとめ, ともに単語の文法的な形あるいは文法的な派生語をつくるための文法的な道具とみる。」の立場に立つことも可能であることを付記しておきたい。
著者
山本 真理子 松井 豊 山成 由紀子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.64-68, 1982-03-30
被引用文献数
36
著者
磯部 美良 佐藤 正二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.13-21, 2003-03-30

本研究の主な目的は,関係性攻撃を顕著に示す幼児の社会的スキルの特徴を明らかにすることであった。年中児と年長児の計362名の攻撃行動と社会的スキルについて,教師評定を用いて査定した。関係性攻撃得点と身体的攻撃得点によって,関係性攻撃群,身体的攻撃群,両高群,両低群の4つの群を選出した。社会的スキルについて群間比較を行った結果,両低群に比べて,関係性攻撃を高く示す子ども(関係性攻撃群と両高群)は,規律性スキルに欠けるものの,この他の社会的スキル(友情形成スキルと主張性スキル)については比較的優れていることが明らかになった。また,関係性攻撃群は,教師に対して良好な社会的スキルを用いていることが示された。さらに,関係性攻撃群の男児は友情形成スキルが全般的に優れているのに対して,関係性攻撃群の女児は友情形成スキルが一部欠けていることが見出された。これらの結果から,関係性攻撃の低減には,規律性スキルの習得を目指した社会的スキル訓練が効果的であることなどが示唆された。
著者
湯澤 正通 山本 泰昌
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.377-387, 2002-09-30
被引用文献数
8

本研究では,理科と数学の関連づけの仕方を変えた授業が,生徒の学習にどのように影響するかを調べた。公立中学校の2年生が金属の酸化に関して定比例の法則(化合する物質の質量比は一定である)を2種類の授業方法で学習した。実験群の生徒は,最初に,定比例の法則を原子モデルから演繹した後,数学で学習した比例の知識を用いて,酸化前後の金属の質量比を求める課題を2回行った。その際,理科と数学の教師がチームで指導に当たった。他方,統制群の生徒は,マグネシウムの酸化の実験を行い,そこから,定比例の法則を帰納した。また,酸化前後の金属の質量比を求める課題を1回行い,すべて理科の教師から指導を受けた。その結果,成績高群の場合,実験群の生徒は,統制群の生徒よりも,授業後のテストで,数学の関数の知識を用いて,酸化前後の金属の質量関係を予測し,計算する得点が高かった。また,実験群の生徒は,統制群の生徒よりも,誤差のある測定値を適切に理解することができた。
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.240-252, 2001
被引用文献数
1

心配は, 制御困難な思考であると同時に, 困難な問題に対処するために能動的に制御された過程でもある。心配研究の主要な課題は, 心配がなぜ制御困難性になるのかを説明することである。本論文では, 先行研究を,(1) 心配の背後の自動的処理過程を制御困難性のメカニズムとして重視する流れと,(2) 心配の能動性そのものの中に制御困難性の要因を見いだそうとする流れ, の2つに分けたうえで,(2) に重点を置いて概観する。(2) の立場からの研究の課題は, さらに, a. 心配の機能や目標を明らかにするという大局的なものと, b. そのような機能や目標を実現するための方略を明らかにするという微視的なものとに区分される。本論文では特にb. のような微視的な視点に立った研究の必要性を提唱する。
著者
藤原 健志 村上 達也 西村 多久磨 濱口 佳和 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.187-196, 2014 (Released:2015-03-27)
参考文献数
38
被引用文献数
4 4

本研究の目的は, 小学生を対象とした対人的感謝尺度を開発し, その信頼性と妥当性を検討することであった。小学4年生から6年生までの1,068名を対象とし, 対人的感謝, ポジティブ感情, ネガティブ感情, 共感性, 自己価値, 友人関係認知, 攻撃性を含む質問紙調査を実施した。主成分分析と確認的因子分析の結果, 1因子8項目から成る対人的感謝尺度が構成された。対人的感謝尺度は高いα係数を示し, 十分な内的一貫性が認められた。また, 対人的感謝尺度は当初の想定通り, ポジティブ感情や共感性, 友人関係の良好さと正の関連を, 攻撃性と負の関連を有していた。以上より, 対人的感謝尺度の併存的妥当性が確認された。さらに, 尺度得点については, 男女差が認められ, 女子の得点が男子の得点よりも有意に高かった。最後に, 本尺度の利用可能性について考察されるとともに, 今後の感謝研究に関して議論された。
著者
伊藤 美奈子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.293-301, 1993-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
10
被引用文献数
3 3

Two concepts: social orientedness and individual orientedness, relating to two-dimensionality of self-consiousness, were proposed in order to grasp personality traits and adjustmental level and developmental level. Three questionnaires: an orientedness scale, a SD self-concept scale, and a self-esteem scale were administered to adolescent and adult subjects. The results showed that orientedness scores rose with increasing age, but a difference between males and females on both changing phase and process was found. Each orientedness changed in content, such as social orientedness following the next process: from dependency and others-direction to coexistence; on the other hand, individual orientedness followed the next process: from egocentrism to autonomy. These orientednesses mean the content of horizontal axis and vertical axis of two-dimensional developmental schema. From the relation with self-esteem, and discrepancy scores between real self image and two ideal-images: ‘social ideal self’,‘individual ideal self’, by SD self-concept scale, it was clear that the individuation process on emotional aspect, and the socialization process on the cognitive one could be observed.
著者
海津 亜希子 田沼 実畝 平木 こゆみ 伊藤 由美 SHARON VAUGHN
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.534-547, 2008-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
65
被引用文献数
2 10

Response to Intervention/Instruction (RTI) を基にした, 通常の学級における多層指導モデル (Multilayer Instruction Model: MIM〔ミム〕) の開発を行った。MIMを用いて小学1年生7クラス計208名に行った特殊音節の指導の効果が, 学習につまずく危険性のある子どもをはじめ, その他の異なる学力層の子どもにおいてもみられるかを統制群小学1年生31クラス計790名との比較により行った。まず, 参加群, 統制群を教研式標準学力検査CRT-IIの算数の得点でマッチングし, 25, 50, 75パーセンタイルで区切った4つの群に分けた。次に, パーセンタイルで分けた群内で, 教研式全国標準読書力診断検査A形式, MIM-Progress Monitoring (MIM-PM), 特殊音節の聴写課題の得点について, 参加群と統制群との間で比較した。t検定の結果, 4つ全てのパーセンタイルの群で, 読み書きに関する諸検査では, 参加群が高く, 有意差がみられた。参加群の担任教員が行った授業の変容を複数観察者により評価・分析した結果, MIM導入後では, 指導形態の柔軟化や指導内容, 教材の多様化がみられ, クラス内で約90% の子どもが取り組んでいると評定された割合が2倍近くにまで上昇していた。
著者
落合 良行
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.332-336, 1983-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
6
被引用文献数
3 7

孤独感の構造を解明した研究に基づいて, 孤独感の類型判別を行う手がかりとして, 2下位尺度からなる孤独感尺度 (LSO) が作成された。尺度項目の選出は, 因子分析の結果に基づいて行われ, 16項目 (LSO-U 9項目, LSO-E 7項目) がLSOの尺度項目として選定された。妥当性の検討は, 孤独感研究の現状から, 今後検討されるべき点も残されているが, LSOはかなり妥当性のある尺度であることが明らかにされた。また信頼性の検討は, 安定性の観点から行われ, LSOの信頼性は高いことが明らかにされた。以上の検討を経て作成された孤独感尺度LSOは, 孤独感 (とくに青年期の孤独感) の類型を判別する上でひとつの有効な手がかりとなるであろう。
著者
香川 秀太
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.167-185, 2012
被引用文献数
1

本研究は, 従来の学内学習と現場実践との関係に関する議論を, 状況論の立場から検討し, 従来の徒弟制重視説や学内学習固有機能説に代わる, 緊張関係説を示した。これに基づき, 学内学習から臨地実習への看護学生の学習過程を調査した。学内学習を経て臨地実習を終えた学生に半構造化面接を行い, グラウンデッドセオリーアプローチによる分析を行った。その結果, 看護学生は, 学内学習では, 教員の指導にかかわらず, 架空の患者との相互行為を通して, ほぼ教科書通りの実践にとどまっていた。しかし, 臨地実習で, 本物の患者や看護師との, 学内とは異なる相互行為を通して, 教科書的知識を「現場の実践を批判的に見せるが柔軟に変更もすべき道具」と見なすように変化した。これを本研究では, 学内-臨地間の緊張関係から生まれる, 第1の学内学習のみにも, 第2の臨地での学習にも還元できない独特な知識, つまり「第三の意味(知)」ないし「越境知」として議論した。また, 学内と臨地の各場面での相互行為過程を, 「異なる時間的展望同士が交差・衝突し変化する過程(ZTP)」として考察した。最後に, 結果に基づき, 省察やリアリティ豊かな学習を促進する, 「越境知探求型の学習」を提案した。
著者
海津 亜希子 田沼 実畝 平木 こゆみ 伊藤 由美 VAUGHN SHARON
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.534-547, 2008-12-30

Response to Intervention/Instruction (RTI)を基にした,通常の学級における多層指導モデル(Multilayer Instruction Model:MIM 〔ミム〕)の開発を行った。MIMを用いて小学1年生7クラス計208名に行った特殊音節の指導の効果が,学習につまずく危険性のある子どもをはじめ,その他の異なる学力層の子どもにおいてもみられるかを統制群小学1年生31クラス計790名との比較により行った。まず,参加群,統制群を教研式標準学力検査CRT-IIの算数の得点でマッチングし,25,50,75パーセンタイルで区切った4つの群に分けた。次に,パーセンタイルで分けた群内で,教研式全国標準読書力診断検査A形式,MIM-Progress Monitoring (MIM-PM),特殊音節の聴写課題の得点について,参加群と統制群との間で比較した。t検定の結果,4つ全てのパーセンタイルの群で,読み書きに関する諸検査では,参加群が高く,有意差がみられた。参加群の担任教員が行った授業の変容を複数観察者により評価・分析した結果,MIM導入後では,指導形態の柔軟化や指導内容,教材の多様化がみられ,クラス内で約90%の子どもが取り組んでいると評定された割合が2倍近くにまで上昇していた。
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.64-80, 2014

ノーマライゼーションや平等主義的規範が行き渡った今日においても, 障害者に対する偏見や差別の問題は未だ社会に残っており, これらの背景となる態度について調べることが重要である。従来の障害者に対する態度研究は, 質問紙による自己報告式の測定方法が主流であった。しかしながら, これらの顕在的態度測定は, 社会的望ましさに影響されやすく, 無意識的・非言語的な態度を捉えることができない。偏見や差別のような, 表明が避けられる態度を捉えるためには間接測定による潜在指標が有効だと考えられる。本論文は, 潜在指標を用いて障害者に対する態度を調べた研究についてレビューを行った。障害者に対する潜在指標として, 主に, 投影法, 生理学・神経科学的手法, さらに近年では反応時間指標が頻繁に用いられるようになってきており, 多くの研究において障害者に対するネガティブな態度が示されていることがわかった。潜在的態度と顕在的態度の関連性について, 潜在指標の有用性と今後の課題について議論した。
著者
吉田 寿夫 村山 航
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.32-43, 2013
被引用文献数
5

これまで, 「学習者は専門家が学習に有効だと考えている方略を必ずしも使用していない」ということが, 学習方略の研究者によって示唆されてきた。本研究では, こうした実態について定量的に検証するとともに, なぜこうしたことが起きるのかに関して, 「コスト感阻害仮説」, 「テスト有効性阻害仮説」, 「学習有効性の誤認識仮説」という3つの仮説を提唱し, 各々の妥当性について検討を行った。また, その際, 先行研究の方法論的な問題に対処するために, 学習方略の専門家から収集したデータを活用するとともに, 各学習者内での方略間変動に着目した分析を行った。中学生(<i>N</i>=715)と専門家(<i>N</i>=4)を対象にした数学の学習方略に関する質問紙調査を行い, それらのデータを分析した結果, 実際に学習者は専門家が学習に有効だと考えている方略を必ずしも使用していないことが示された。また, 学習有効性の認識に関して専門家と学習者の間に種々の齟齬があることが示されたことなどから, 学習有効性の誤認識仮説が概ね支持され, どのような方略が学習に有効であるかを学習者に明示的に伝える必要性が示唆された。
著者
前田 啓朗 田頭 憲二 三浦 宏昭
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.273-280, 2003-09-30
被引用文献数
3

本研究では,日本の高校生英語学習者による語彙学習方略(以下VLS)の使用に焦点を当て,VLS使用の一般的傾向と異なる学習成果の段階における傾向を明らかにすること,簡便にVLS使用を測定できる質問紙を提供すること,英語学習をより促進できるようなVLS指導への示唆を導くこと,を目的とした。先行研究で示された高校生英語学習者のVLSを用いて調査を行い,15高等学校からの1,177の回答を分析し,先行研究に示される「体制化方略」「反復方略」「イメージ化方略」の3因子を仮定するモデルが確認された。同時に学習成果を測定し,上位・中位・下位に分割して分析を行った結果, VLS使用の強さが上位・中位はあまり異ならないがそれら2群と下位では顕著に異なり,異なるVLS間の相関は中位と下位ではあまり相違ない一方で上位ではイメージ化方略と他の2方略が比較的独立している,という結果が得られた。このことから,VLS指導や語彙指導の際に,学習成果の度合いに応じて効果的なVLSは異なるという点に留意する必要性が示唆された。
著者
小浜 駿
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.325-337, 2010-09-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,大学生が学業課題を先延ばししたときに,その前・中・後の3時点で生じる意識の感じやすさを測定する先延ばし意識特性尺度を作成し,その信頼性および妥当性を検討することであった。研究1では,先延ばし意識特性尺度の作成と尺度の内的整合性および構成概念妥当性の検討を行った。研究2では,尺度の再検査信頼性の検討を行った。探索的因子分析によって先延ばし意識特性尺度の7因子構造が採択され,確認的因子分析でその構造の妥当性が確認された。同尺度とこれまでに作成された先延ばし特性尺度との関連から弁別的証拠が,同尺度と認知特性,感情特性との関連から収束的証拠が得られ,構成概念妥当性が確認された。先延ばし意識特性尺度と他の尺度との関連から,否定的感情が一貫して生起する決断遅延,状況の楽観視を伴う習慣的な行動遅延,気分の切り替えを目的とした計画的な先延ばし,の3種類の先延ばし傾向の存在が示唆された。考察では3種類の先延ばし傾向と先行研究との理論的対応について議論され,学業場面の先延ばしへの介入に関する提言が行われた。
著者
中川 恵正 新谷 敬介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.23-33, 1996-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13

The present study investigated which factors facilitated solving arithmetic word problems in fifth graders by comparing five training techniques: (1) Self controlinterpretation training(SCI) that was to acquire both the self regulated uses of solving skill and strategy and the self control ability of evaluating one's own solving process, correcting it and interpretating it to others; (2) Blind training(BT) expected to enhance the awareness of solving skill and strategy; (3) Error finding training (EF) that was to monitor the other's solving process; (4) Ordinary teaching training(C) used in a public elementary school, and (5) 30-SCI training(30-SCI) that children had been given the SCI training for 30 hours before the basic learning had begun. In Experiment 1, fifth graders were trained under a given condition for three hours and then given four posttests. Group 30-SCI did better performance on each posttest than the 4 other groups. Group SCI also did better performance on posttests 1, 2, and 3 than Group BT. Experiment 2 using four training techniques confirmed the superiority of the SCI technique to the others found in Experiment 1 in third graders.
著者
久芳 忠俊
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.37-43,55, 1969

一般に気質とは内在的な生来性素質に関する名称であつて性格とは生来性の要素と環境との輻輳によつて獲得されたものとの結合組織化されたものであると言われている。然し吾々が日常観察する児童生徒は, どこまでが気質で, どこまでが性格だと峻別することは甚だ困難である。従つて一括して気質性格として取扱うことが妥当である。若しそのように考えないとしたならば性格陶冶とか性格教育と言われているものを否認することになる。それであるから気質性格は内在的な要因の発達や外力によつて変化するものであると言う立場から意志気質検査を 10才から14才に至る5力年間実施してその結果を要因の上から吟味したのである。<BR>(1) 要因の上から概括的に言うならば年少時では思慮を現わす要因が支配的であるのに対して運動の速度, 決断速度の要因は比較的消極的である。12才~19才頃ではどのような要因が気質性格において支配的であるかは容易に捉えることができない。従つてそれ以後の年令になつて始めて明確なものとなつてくると考えられる。<BR>(12) 類型上からは, 同一型を終始維持している場合は極めて僅少で, このTable8を算出する前に検査の各項目について整理を行つて変動を見たのであるが一定の型に嵌つたような場合は大して見られなかつたが然し低学年では比較的運動速度能力を現わす項目において変動の幅が広く, 精密細心を現わす場合が幅が小さい傾向がうかがわれ, その他拡張, 自信等では幅広い変化が見られた。また男女差を見たのであるが殆んど一致して特に著しく目立つた場合は発見されなかつた。総体的には (±0~±3) の範囲の変動が最も多く全体の75%を示している。そして (±4) の範囲より急に減少している。してみると気質性格は例え変化するとしても逐年的には幅の狭い範囲で変化するもののようである。V要約一般に気質とは内在的な生来性素質に関する名称であつて性格とは生来性の要素と環境との輻輳によつて獲得されたものとの結合組織化されたものであると言われている。然し吾々が日常観察する児童生徒は, どこまでが気質で, どこまでが性格だと峻別することは甚だ困難である。従つて一括して気質性格として取扱うことが妥当その他は各人各様で複雑である。<BR>(3)段階点の変動は (±0~±3) の範囲の場合が多数で, 従つて気質性格は狭い範囲で変化するのであつて, その小範囲の変化の累積によつて人格の或る一部を形成するものであると思われる。
著者
田村 節子 石隈 利紀
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.328-338, 2003-09

本研究では,不登校生徒15例に対する援助チームの実践をもとに,次のことを明らかにすることを目的とした。(1)保護者を含む援助チームの実践モデルを提案し有用性を検討する。ただし,有用性とは援助チームにより援助が促進されることを意味する(2)保護者の状況に応じた援助チームの実践例について,その形態を分類し,その特徴や実践に当たっての問題点を分析・検討する。実践の結果,援助チームは次の4タイプに分類された。タイプ1(典型例)…担任・保護者・スクールカウンセラーの3者で相互コンサルテーションを行う。タイプ2…担任・スクールカウンセラーの2者が相互コンサルテーションを行いながら,それぞれ保護者ヘコンサルテーションを行う。タイプ3…担任がスクールカウンセラーと相互コンサルテーションを行いながら,担任が保護者ヘコンサルテーションを行う。タイプ4…スクールカウンセラーが担任と相互コンサルテーションを行いながら,スクールカウンセラーが保護者ヘコンサルテーションを行い,同時にカウンセリングも行う。このように,担任・保護者・スクールカウンセラーが,核(コア)となって援助を主導し,相互コンサルテーションおよびコンサルテーションを行い,子どもへ援助する形態を"コア援助チーム"と定義し,学校教育においてチーム援助のモデルのひとつとして意義があることを示唆した。