著者
坂上 裕子 菅沼 真樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.156-166, 2001-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

大学生を対象に, 対人様式としての愛着と情動制御との関連を検討した。情動制御の一側面として, 本研究では意識レベルでの情動情報の処理に着目した。まず研究1で,「個別情動に対する意識的態度尺度」を作成した。これは, 代表的な4情動 (怒り, 悲しみ, 恐れ, 喜び) に対して, 個人が意識の上でどのような態度や備えを有しているかを測る尺度であり, 4つの下位尺度 (内省傾向, 自己の情動の覚知, 他者の情動の覚知, 情動に対する不快感) から構成された。次に研究2で, 大学生208名に, 愛着に関する尺度(戸田, 1988)と個別情動に対する意識的態度尺度への回答を求め, 両尺度の関連を検討した。その結果, 両者には弱いながらも関連が認められた。すなわち, 愛着の安定性の高い人は, 自他の悲しみや喜びに対する内省や覚知が高く, 回避性の高い人は, 悲しみや喜びに対する不快感が高い傾向があった。また, 両価性の高い人は, 自他の怒り, 喜びの覚知が低い傾向があった。以上より, 各愛着特性は, 特定の情動に対する意識の上での異なる態度や構えと関連しており, それらの態度や構えが, 各愛着スタイルを維持するように働いているのではないかと考察された。
著者
山内 香奈
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.383-392, 1999-09-30
被引用文献数
1

論文×評定者×観点という3相の論文評定データに,多相Raschモデルと分散分析モデルを適用し,データの整合性の視点から問題となる特異な評定値の検出結果に関して両モデルを比較検討した。データとしては,教育心理学の卒業論文の要旨25編を,大学院生10人が5つの観点について5段階評定したものを用いた。特異な評定値の検出には,いずれのモデルにおいても,実際の評定値とモデルから期待される評定値との残差が用いられる。得られた結果かち,評定値の特異性のタイプによってモデル間で検出精度にやや違いがみられるものの,両モデルの残差は非常に高い相関を示し,両者の性質はほぼ同じものであることがわかった。この類似性は,モデルの適合度を様々に変化させた人工データでも確認された。論文を含む交互作用を考えない多相Raschモデルとの比較のため,分散分析モデルについては主効果モデルが用いられたが,実際のデータにおいて論文×評定者の交互作用を調べたところ,無視できないほど大きな交互作用があることがわかった。そこで,論文×評定者の交互作用を含む分散分析モデルによって特異な評定値の検出を試みたところ,主効果モデルでは複数の交互作用が相殺されたために検出できなかった特異な評定値を一部検出することができた。このように分析目的に応じて柔軟に交互作用をモデルに組み込めることや,分析に必要なデータの大きさ,さらにソフトウェアの利用し易さなど,いくつかの点で分散分析モデルの方が多相Raschモデルより実用的に優れていると判断された。
著者
西村 邦子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.168-178,192, 1963

非行者の理解から矯正・予測・健全育成までを結ぶ一連の研究過程の出発点として, 非行少年に特徴的な気質のパターンを集団的にも個人的にもとり出す目的で本研究は計画された。そのために実験的方法が用いられ, 12 の気質, その他の項目3について知能テストを含めて40 のテストが実施された。被験者は, 非行群として横浜少年鑑別所収容少年30名, 統制群として日本鋼管従業員教習所生徒20名, 橘学苑女子高等学校生徒10名, 計60名であつた。その結果, 非行群と統制群とを比較した場合, 以下の18項目のテストについて特徴的な差異が見出された。すなわち, 1. Embedded pattern, 2問題解決 (迷路), 3. 問題解決 (3語の類似), 4. 数暗示テスト, 5. 焦躁反応検査, 6. ラッキ―パズル (欲求不満の耐性) 7. G. S. R., 8. Aircraft range test,9. 犬→猫, 10 猫→ネズミ, 11. 円→四角, 12分類, 13. タッピング 14. Sears-Hovland test, 15. ラッキ―パズル (持続性), 16. ラッキ―パズル (おちつきのなさ), 17. わなげ, 18. 桐原一Downeyテスト-6 (正確さへの欲求), である。
著者
伊藤 裕子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.84-87, 1981

本研究は女子青年の性役割意識を多次元的に捉え, その構造を明らかにすることが目的であった。取り上げた指標は, 性度, 性役割観, 職経歴選択, 性の受容の4変数で, 136名の女子学生を被調査者として数量化理論III 類による検討を試みた。結果は以下の3点にまとめられる。<BR>1. 得られた軸は第2根までで, 第1軸は〈男性的-女性的価値〉の次元, 第2軸は〈両価的因子内在〉の次元であった。<BR>2. 第2根の第1根への回帰はきれいなU字型を示し, 尺度構成上有益な示唆を得た。<BR>3. 反応カテゴリーのパターンから3類型が導き出され, それらは男性的価値指向型, 女性的価値指向型, 個人内価値指向型であった。<BR>本研究で得られた基本次元および3類型は, 別の側面から検討された既婚男女の結果と基本的に通じるものであり, その存在の普遍性の一部を裏付けていた。
著者
伊藤 裕子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.168-174, 1986
被引用文献数
5

The purpose of this study was to examine (a) the concepts of masculinity and femininity, and their interrelation,(b) the appropriateness of the scale for measurements of sex-roles, and (c) the difference of role expectations for both sexes. Using two types of adjective lists, scores concerning desirabilities for men, women, and 'self' were factor analyzed respectively in unipolar scales among 155 undergraduates and in bipolar (SD) scales also among 217 undergraduates. In both scales, three factors were identified; "agency" emphasizing personal abilities or properties,"communion" oriented to cooperation with-or consideration for others, and "delicacy-charms" consisting of tenderness and sexual attractiveness. The scale was termed ISRS (Ito Sex Role Scale). Agency and communion were the main structural dimensions of sex-roles, mutually related with desirability for both men and women. The unipolar scales were more suitable for measurements of sex-roles than SD scales for the independence of factors. Role expectations for men consisted of agency and communion, while delicacy-charms were added to those for women. Reliability and validity of ISRS were substantiated in various aspects.
著者
伊藤 裕子 秋津 慶子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.146-151, 1983-06-30
被引用文献数
1
著者
町 岳 中谷 素之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.322-335, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
29
被引用文献数
5 5

本研究では, 小学校5年生の算数グループ学習における相互教授法(Palincsar & Brown, 1984)の介入効果を, 学習課題達成度(分析1)・グループ学習への肯定的認知(分析2)・発話プロセス(分析3)により検討した。相互教授法による教示を行った介入群と, 自由に話し合いをさせた対照群を比較したところ, 介入群では学習に関連する深い発話が多く非学習関連発話が少ないことや, 学習課題の達成度が高く, グループ学習への関与・理解に対する認知が向上するといった, 相互教授法の介入効果が示された。次に児童を向社会的目標の高・低によりH群・L群に分割し, 児童の個人的特性と相互教授法介入との交互作用効果について検討した。その結果, グループ学習開始前には低かったL群児童のグループ学習への関与・理解に対する認知が, 介入群において向上した。また発話プロセスの分析からは, 相互教授法による話し合いの構造化によって, 向社会的目標L群児童では, 非学習関連発話が抑制されることで, グループ学習への関与が促されるという結果が見られた。またH群児童においても, 学習に関連する深い発話が促されるなど, より能動的な関与を促進する可能性が示された。
著者
鈴木 雅之
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.131-143, 2011
被引用文献数
1 10

本研究では, テストをフィードバックする際にルーブリックを提示し, 評価基準と評価目的を学習者に教示することの効果について, 中学2年生を対象とした数学の実験授業によって実証的に検討した。また, 返却された答案とルーブリックだけで, 自身の答案内容とルーブリックの記述内容との対応関係が理解できるのかを検討するために, ルーブリックを提示し具体的な添削をする群と, 添削をしない群を設けた。さらに, ルーブリックがなくても具体的な添削があれば, ルーブリックの提示と同等の効果が得られる可能性を考慮し, ルーブリックを提示せずに添削だけを施す群を設定した。その結果, ルーブリックを提示された2群は, 提示されなかった群と比較して, 「改善(自身の理解状態を把握し学習改善に活用するためのものであるという認識)」テスト観や内発的動機づけが高く, 理解を指向して授業を受ける傾向にあり, 最終日の総合テストでも高い成績をおさめた。また, パス解析を行った結果, 動機づけと学習方略, テスト成績への影響は, ルーブリックの提示によって直接引き起こされたのではなく, テスト観を媒介したものであることが示唆された。さらに本研究では, 添削の効果がみられないことが示された。
著者
中井 大介
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.359-371, 2015
被引用文献数
5

本研究では, 自己決定理論による中学生の教師との関係の形成・維持に対する動機づけを測定する尺度を作成し, 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対する信頼感との関連を検討した。中学生483名を対象に調査を実施した。第一に, 探索的因子分析を行い「教師との関係の形成・維持に対する動機づけ尺度」を作成した結果, 「内的調整」「同一化」「取り入れ」「外的調整」の4因子構造であることが明らかになった。第二に, 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対する信頼感との関連を性別に検討した。その結果, (1) 「自律的動機づけ」が担任教師に対する信頼感と正の関連, (2) 「統制的動機づけ」が負の関連を示すこと, (3) その関連の様相は性別に違いがみられることが明らかになった。(4) また, 教師との関係に対する動機づけで調査対象者を類型化した結果, 統制的動機づけの高い類型の生徒, すべての動機づけが低い類型の生徒の担任教師に対する信頼感が低いことが明らかになった。以上, 本研究の結果から教師と生徒の信頼関係は, 教師側の要因と生徒側の要因が相互作用を繰り返すことで次第に親密になっていく過程である可能性が示唆された。
著者
岡田 有司
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.153-166, 2012
被引用文献数
1

本研究では, (1) まず学校生活の諸領域が生徒関係的側面と教育指導的側面の2つの側面から捉えられるのかについて検証した。その上で, (2) これらの側面から生徒を分類し学校適応の違いを検討するとともに, (3) これらの側面と学校適応との循環的な関係について検討した。研究1では, 質問紙調査によって得られた中学生822名のデータ分析の結果, まず学校生活の諸領域が生徒関係的側面(友人関係, クラスへの意識, 他学年との関係)と教育指導的側面(教師との関係, 学業への意欲, 進路意識, 校則への意識)の2つの側面から捉えられることが示された。次に, 生徒関係的側面・教育指導的側面のどちらか一方の側面の得点が高かった生徒は, その側面が学校への心理的適応の支えになっており, 社会的適応についても部分的に支えていることが示された。研究2では, 中学生338名の縦断データ(1学期と3学期に同一の質問紙を実施)の分析から, 生徒関係的側面・教育指導的側面と学校適応の循環的な関係が示唆された。そこからは, それぞれの側面が学校適応に及ぼす影響の違いだけでなく, 学校適応がその後の両側面に与える影響についても示された。
著者
波田野 結花 吉田 弘道 岡田 謙介
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.151-161, 2015
被引用文献数
5

これまでの心理学データ分析では, 概して統計的仮説検定の結果は報告されるが, 効果量の報告や議論は軽視されがちであった。しかし近年の統計改革の中で, 効果量を活用することの重要性が再認識されている。そこで本研究では, 過去4年間に 『教育心理学研究』誌に掲載された論文中で報告された仮説検定について, 論文中の情報から対応する効果量の値を算出し, 検定における<i>p</i>値と効果量との間の関係を網羅的に調べた。分析対象は, 独立な2群の<i>t</i>検定, 対応のある2群の<i>t</i>検定, 1要因および2要因の被験者間分散分析における<i>F</i>検定であった。分析の結果, いずれの場合においても報告された<i>p</i>値と効果量の相関係数は-0.6~-0.4であり, 両者の間には大まかな対応関係が見られた。一方で, 検定結果が有意であるにもかかわらず小さな効果量しか得られていない研究も決して少なくないことが確認された。こうした研究は概ね標本サイズが大きいため, 仮説検定の枠組みの中では検定力分析の必要性が考えられる。また仮説検定の枠組みに留まらず, メタ分析によって関心下の変数ごとに効果量の知見を蓄積することや, ベイズ統計学に基づく新たな方法論などが今後の方向性として考えられる。
著者
島田 英昭
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.296-306, 2016-09-30 (Released:2016-10-31)
参考文献数
29
被引用文献数
3

本研究は, 従来の教材研究が精読を前提とした内容理解を目指していることに対し, 読解初期の動機づけ効果に着目した。典型的な教材の構成要素であるタイトル・サブタイトルの有無, 挿絵・写真の有無, および, 挿絵・写真のモノクロ・カラーを操作した防災教材を作成した。教材の2秒間の一瞥の後, 動機づけと主観的わかりやすさについて, 5段階評定を求めた。その結果, 上記の構成要素は, いずれも動機づけ, 主観的わかりやすさの向上に寄与していた。また, 挿絵・写真・カラーの効果が, タイトル・サブタイトルに比較して大きかった。動機づけ効果のプロセスについて共分散構造分析により分析した結果, 挿絵・写真・カラーについては主観的わかりやすさを介さない感性的要因による動機づけの向上が大きかったが, サブタイトルについては主観的わかりやすさを介する認知的要因による動機づけの向上が大きく, タイトルについてはほぼ同等であった。
著者
小野田 亮介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.121-137, 2015-06-30 (Released:2015-08-22)
参考文献数
35
被引用文献数
4 7

マイサイドバイアスとは, 反対立場に有利な理由に比べ, 賛成立場に有利な理由が多く産出される傾向を指す。マイサイドバイアスが強い意見文は説得力, 信頼性ともに低く評価される傾向にある。そこで本研究では, 児童の意見文産出におけるマイサイドバイアスの低減を目的とし, 目標提示とそれに伴う方略提示, および役割付与の効果を検証した。4年生65名を対象とした予備実験の結果, 反対立場の読み手を想定するという条件下において, 児童は反論を想定するものの, その反論に対する再反論は十分に行わないことが示された。そこで, 5年生90名を対象とした本実験では, 反論への再反論を促すため, (1) 反対立場の優勢性の検討, (2) 理由の明確化, (3) 読み手に対する意識, を促進するための目標を与え, 目標提示のみが行われる「対照群」, 目標に加えて目標を達成するための方略が示される「方略提示群」, 目標と方略の提示に加え, 目標達成を義務とする役割が与えられる「方略・役割群」とで産出される意見文の比較を行った。その結果, 方略提示によって反論に対する再反論の産出数が増加し, さらに役割付与がその効果を促進することが明らかになった。
著者
坂本 篤史
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.584-596, 2007-12-30
被引用文献数
2

本研究は,現職教師の学習,特に授業力量の形成要因に関し,主に2000年以降の米国での研究と日本での研究を用いて検討し,今後の展望を示した。現職教師の学習を1)授業経験からの学習,2)学習を支える学校内の文脈,3)長期的な成長過程,という3つの観点から包括的に捉えた。そして,教師を"反省的実践家"と見なす視点から、現職教師の学習の中核を授業経験の"省察(reflection)"に据えた。授業経験からの学習として教職課程の学生や新任教師の研究から,省察と授業観の関係や,省察と知識形成の関係が指摘された。学校内の文脈としては教師共同体や授業研究に関する研究から,教師同士の葛藤を通じた相互作用や,校内研修としての授業研究を通じた学習や同僚性の形成が示唆された。長期的な成長過程としては,教師の発達研究や熟達化研究から,授業実践の個性化が生じること,"適応的熟達者(adaptive expert)"として発達を遂げることを示した。今後の課題として,現職教師の個人的な授業観の形成過程に関する研究,教師同士が学び合う関係の形成に関する実証的研究方法の開発,日本での教師の学習研究の促進が挙げられた。
著者
出口 拓彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.219-229, 2001-06-30

本研究は, グループ学習に対する指導を独立変数, グループ学習の効果および問題点に対する児童の認知を従属変数として, 複数の指導の組み合わせの効果について検討することを目的とした。16名の小学校高学年の教師にはグループ学習に対する指導について尋ね, 495名の児童にはグループ学習の効果および問題点に対する認知について尋ねた。グループ学習に対する指導をクラスター分析により「討議に関する指導」と「参加・協力に関する指導」に分類し, 各指導の効果を分散分析によって検討した。その結果, (a)「討議に関する指導」と「参加・協力に関する指導」を共に行っている学級において, 最も肯定的な認知がなされていること, (b)「討議に関する指導」のみを多く行い「参加・協力に関する指導」はあまり行わなかった学級において, 最も否定的な認知がなされていること, などが示された。このことから, グループ学習の指導の際には, 「討議に関する指導」と「参加・協力に関する指導」を共に行うことの重要性と, 「討議に関する指導」のみを行うことの問題が示唆された。
著者
益川 弘如
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.331-343, 2004-09-30
被引用文献数
8

本論文では, 大学学部生を対象に学生自身が協調的な活動を通して知識を構成していく2つの授業の実践と評価を報告する。認知科学研究の基礎資料を理解させる1998年度学部3年生の授業では, 学生自身が担当した研究事例を調べて発表し, 互いの研究事例を関連付け, 全体を統合する3つのフェイズが段階的に含まれるカリキュラムで, これらの学習活動を協調活動作業支援ツールで支援した。理想的な協調学習が起きた場合を想定した学習者モデルを作成し, その学習者モデルとシステムログデータを照らし合わせて分析した。結果, 想定していた積極的な他人のノート参照, 関連付け活動が確認された。特に活発なグループは, 個々の研究例の繋がりを挙げつつ問題解決の特徴をまとめた質の高いレポートを提出していた。この授業成果を元に, 2000年度は授業に段階的に関連付け活動を入れて, 幅広い対象領域においても相互に関連付ける活動を促進させる工夫をした。結果, 統合型のレポートを提出する割合が増加した。以上より, 研究事例の関連付け活動をシステムとカリキュラムで工夫して導入したことで学習者自身による協調的な知識構成活動を促進させることができたと言える。
著者
萩原 俊彦 櫻井 茂男
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-13, 2008

本研究の目的は,大学生の職業選択に関連すると考えられる"やりたいこと探し"の動機を明らかにし,その動機の自己決定性と進路不決断との関連を検討することであった。まず,どの程度自己決定的な動機で職業選択に関わる"やりたいこと探し"をしているかを測定する尺度を作成し,信頼性と妥当性を検討した。尺度項目の因子分析の結果から,やりたいことを探す動機として,非自己決定的な「他者追随」,自己決定性においては中間的な「社会的安定希求」,自己決定的な「自己充足志向」の3因子が抽出され,尺度の信頼性と妥当性が確認された。作成された"やりたいこと探し"の動機尺度を用いて,"やりたいこと探し"の動機の個人差と進路不決断との関連を検討したところ,"やりたいこと探し"の動機のうち,非自己決定的な動機である「他者追随」が相対的に高い非自己決定的動機群は,進路不決断の面で問題を抱えている可能性が示唆された。本研究で得られた結果は,現代青年のキャリア意識として広く支持されている"やりたいこと"志向と職業選択との関連を検討する上で意義があると考えられる。
著者
大野 久
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.p100-109, 1984-06
被引用文献数
1

The purpose of the present research is to investigate the structure of fulfillment sentiment in contemporary adolescence, and to confirm to what extent the sentiment model for contemporary Japanese adolescence proposed by Nishihira(1979)explains the structure of fulfillment sentiment. For the first study, 280 subjects rated 53 items that constituted the fulfillment sentiment instrument. The data were analysed by means of factor-analyses. Results of the analysis revealed that the fulfillment sentiment consisted of 4 factors, thus confirming the model proposed by Nishihira. Four factors were named(1)fulfillment sentiment vs.boredom-emptiness, (2)jiritsu-jishin(independence and self-reliance)vs.amae and lack of self-reliance, (3)solidarity vs.isolation, (4)trust and time-perspective vs.mistrust and time-diffusion. An examination on the pattern of correlations among four scales indicated the followings: the scale for fulfillment vs.boredom-emptiness showed significant positive correlation with the scale for jiritsu-jishin vs.amae and lack of self-reliance, the scale for solidarity vs.isolation, and the scale for trust and time-perspective vs.mistrust and time-diffusion. These results provided positive evidence to support the Nishihira's model. However, it was found that that the Nishihira's model might require a certain modification on the basis of results. The second study was designed to examine stability of each factor of the fulfillment sentiment scale by using the identical factor score method proposed by Bentler(1973). It was found that stability of the fulfillment vs.boredom-emptiness scores was lower than that of jiritsu-jishin vs.amae and lack of self-reliance, solidarity vs.isolation, and trust and time-perspective vs.mistrust and time-diffusion. These results suggested that the scale of fulfillment sentiment vs.boredom-emptiness represented an aspect of mood, while the other scales did the aspect of an ego-identity.
著者
羽野 ゆつ子 堀江 伸
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.393-402, 2002-12-25
被引用文献数
3

本研究は,模擬授業および教育実習を経験することによる教員養成系学生の実践的知識の変容を明らかにすることを目的とした。2年次に模擬授業を行い3年次の教育実習に臨むというカリキュラムで教員養成が行われている滋賀大学教育学部をフィールドとし,模擬授業前,模擬授業後(演習後),教育実習後の3回に,同一の学生を対象として,「教材」メタファ生成課題を行った。その結果,以下の諸点が明らかになった。第1に,演習および実習と経験を重ねるにつれ「食」メタファが増え,その質は教材開発,学習,授業展開など多様な側面に言及されるように変化した。授業を複合的に理解するようになった。第2に,演習後以降,授業実践に対する能動性がみられたが自律性は生まれなかった。第3に,実習後は,教師が教える内容を子どもが吸収する授業イメージが強まった。同時に,教材に対する子どもの多様な思考に対応できない不安定さもみられた。第4に,授業における教材の機能として学生は「認知」と「授業展開」を重視しており,自己および関係形成の媒体としての教材の機能は重視されなかった。教員養成の課題として,教材開発演習および実習後の省察の充実が挙げられた。
著者
小橋川 彗慧
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.9-14, 1966-03-31

本研究の目的は(1)同性のモデルが異性玩具で遊んでいるのを被験児が観察した結果として,被験児の異性玩具に対する反応に脱制止の効果がみられるか否か,(2)異一性モデルが適切玩具(被験児にとっては非適切玩具)で遊んでいるのを被験児が観察した場合にも,脱制止の効果が見られるか否か,の2点を検討することであった。幼稚園男児45名,女児45名(年令範囲5才10か月から6才8か月)が,同性モデル,異性モデル,統制の3群に配置された。同性,異性モデル群は,モデルの行動を短時間観察した後に,統制群は観察なしで,異性玩具と中性玩具の置かれている部屋で10分間の自由遊びの時間が与えられた。幼児の行動は15秒ごとに観察室から観察され記録された。測定値として,幼児が異性玩具に反応するまでの時間(潜時)と,観察中に異性玩具で遊んだ割合(異性-%)が算出された。主な結果は,(1)男児同性モデル群の<潜時>は異性モデル,統制両群の測定値より有意に短く,<異性-%>は異性モデル,統制両群のものより有意に大であった。この結果は,異性役割行動に対するモデルの税制止効果を示すものである。女児のデータでは,税制止効果の傾向が認められただけで,3条件間に有意差は見られなかった。(2)適切な性役割行動をおこなっているモデルを観察した被験児には,税制止効果も禁止の効果もともにみられなかった。幼児の異性主役割行動に対するモデルの税制止効果は,モデルの偏倚的行動と,この行動に対して実験者が無反応であったこと(罰を与えなかったこと),その2つを,観察した結果として解釈された。