著者
香川 秀太 茂呂 雄二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.346-360, 2006-09-30
被引用文献数
1

本研究は,密接に関連する状況間の移動と学習に関する状況論的な諸議論に新たな知見を追加するため,看護学校内学習から周手術期の臨地実習へ移動する看護学生の学習過程を検討した。研究Iでは観察を行い,「校内では,学生は,根拠に基づいて看護することの重要性が実感できず,その学習が希薄になってしまう傾向にあるが,臨地実習に入ると,その重要性をより実感して厳密に実施することを学習する。それはなぜか。」という問いを設定した。研究IIでは,実習期間終了直後の学生に半構造化面接を実施し,修正版グラウンデッドセオリーに基づく分析を行い,この学内と臨地の差異の背景と考えられるものの一つを,【時間の流れ】の相違(異時間性)として概念化した。臨地では,学生の現在の行為が未来の患者の容態変化と繋がっている(共時)上,学生は,患者の変化のつど,継続的に行為を調整していく(通時)が,学内では,学生の現在の行為は看護対象の未来の容態変化ではなく,合格・不合格と繋がっている(共時)上,対象と行為の関係が一時点で終わる(通時)。こうした異時間性が,根拠立ての重要性の実感の差異を説明することが示唆された。
著者
安西 祐一郎 内田 伸子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.323-332, 1981

The purpose of this paper is to identity children's internal process during production of writings. A new procedure was devised to deal with the problem of estimating the internal dynamics of chidren from 8 to 12 years of age. At first, a simple procedural model of discourse production was presented ; then, where and how long pauses were generated during writing was recorded for each child subject. Each child was also interviewed for the introspective report of what he or she thought at each pause.
著者
山森 光陽
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.71-82, 2004-03-31

本研究では,中学校1年生の英語学習に対する学習意欲はどの程度持続するのか,また持続させている生徒とはどのような生徒なのかについて検討を行った。具体的には,中学校1年生の英語学習に対する学習意欲はどの程度持続するものであるのかを生存時間分析を用いて検討し,さらに,学習意欲を持続させている生徒とはどのような生徒なのか,またどのようなことが切っ掛けとなって学習意欲が失われるのかを検討した。その結果,中学校1年生の英語の学習においては,初回の授業では9割以上の生徒が英語の学習に対して高い学習意欲を有していることが確認された。しかし,それを持続させることが出来たのは6割程度の生徒であったことが確認された。また,1年間の中でも,特に2学期において学習意欲が低くなる生徒が顕著に多いことが,本研究の結果明らかになった。さらに,試験で期待通りの成績が得られたかどうかではなく,「もうこれ以上がんばって勉強できない」と感じることの方が,その後の学習意欲の変化に影響を及ぼす可能性のあることが示唆された。さらに,学習意欲が上昇する生徒についても考察を行った。
著者
松岡 弥玲 加藤 美和 神戸 美香 澤本 陽子 菅野 真智子 詫間 里嘉子 野瀬 早織 森 ゆき絵
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.522-533, 2006-12-30

本研究では,成人期を対象に,複数の他者(子ども,配偶者,両親,友人,職場の人)から望まれている自己(他者視点の理想自己)と現実自己のズレが自尊感情に及ぼす影響について,性,性役割観,世代,就業形態との関連から検討した。調査参加者は就学前もしくは大学生の子どもを持つ成人期(子育て期,巣立ち期)の男女計404名。自尊感情を基準変数,5つの他者視点の理想-現実自己のズレを説明変数とした重回帰分析を行った結果,際立った性差がみられ,全体的に男性は職場のみ,女性は複数の他者(子ども,友人,両親のうち2者)の視点からの理想-現実自己のズレが自尊感情に影響していた。また,性役割観の違いによってどの他者視点から影響を受けるのかが異なり,子育て期の男性では伝統主義の場合は職場が影響していたが,平等主義群では子どもが影響していた。女性においては性役割観の違いが両親と友人の影響の差として現れ,世代差は子どもと職場の影響の違いにみられた。就業形態別では,専業主婦は両親のみが影響していた。以上のことから他者視点の理想-現実自己のズレが自尊感情に及ぼす影響は性,性役割観,世代,就業形態によって異なることが示された。
著者
池田 幸恭
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.487-497, 2006-12-30

本研究の目的は,青年期における母親に対する感謝の心理状態について明らかにすることである。そのため,母親に感謝しているときに感じる気持ちと,自分が苦労しているのは母親のせいだと感じる気持ちを合わせて検討した。中学生,高校生,大学生の585名に質問紙調査を実施した結果,次の3点が示された。(1)母親に感謝しているときに感じる気持ちとして,援助してくれることへのうれしさ,産み育ててくれたことへのありがたさ,負担をかけたことへのすまなさ,今の生活をしていられるのは母親のおかげだと感じる気持ちという4種類の気持ちが抽出された。(2)援助してくれることへのうれしさ,産み育ててくれたことへのありがたさ,今の生活をしていられるのは母親のおかげだと感じる気持ちは,青年期のどの時期でも感じられていた。(3)青年期における母親に対する感謝には,自分が苦労しているのは母親のせいだと感じる傾向がみられる要求的な心理状態から,負担をかけてすまないと感じる自責的な心理状態が現れ,そして負担をかけたことへのすまなさと自分が苦労しているのは母親のせいだと感じる傾向が小さくなる充足的な心理状態が現れるという変化の順序性がみられた。
著者
安藤 史高 布施 光代 小平 英志
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.160-170, 2008-06-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,児童の積極的授業参加行動に対する動機づけの影響について,自己決定理論の枠組みを用いて検討することであった。小学校3年生から6年生までの1064名を2群に分け,国語または算数いずれかの積極的授業参加行動と動機づけに関する調査を実施した。分析の結果,「注視・傾聴」「挙手・発言」「準備・宿題」の3つの積極的授業参加行動がどちらの教科でも確認され,その尺度得点についても教科差は見られず,積極的授業参加行動は両教科において共通してみられるものであることが示された。積極的授業参加行動に対する動機づけの影響について構造方程式モデリングによる検討を行ったところ,内発的動機づけは全ての積極的授業参加行動を促進しているが,低自律的外発的動機づけは積極的授業参加行動を抑制することが明らかとなった。また,高自律的外発的動機づけは「挙手・発言」と関連しておらず,子どもの授業に対する意欲・動機づけを判断するためには,多様な行動を考慮する必要があると言える。さらに,学年差についても検討を行ったが,学年が上がることに伴う何らかの方向性を持った変化は確認されなかった。
著者
野口 隆子 鈴木 正敏 門田 理世 芦田 宏 秋田 喜代美 小田 豊
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.457-468, 2007-12-30

本研究では,教師が実践を語る際に頻繁に用いる語に着目し,語が暗黙的に含み込む多様な観点を明らかにするとともに,幼稚園及び小学校教師が用いる語の意味について比較検討をおこなった。対象となる語として「子ども中心」,「教師中心」,「長い目で見る」,「子ども理解」,「活動を促す」,「環境の構成」,「仲間作り」,「トラブル」の8語を選択。幼稚園計9園に勤務する保育者計92名(平均経験年数6.33年,SD=7.27),小学校計6校に勤務する教師101名(平均経験年数17.1年,SD=9.68)に対し語のイメージを連想し回答する質問紙調査を実施した。各語毎に内容をカテゴリー化し,幼稚園・小学校教師の発生頻度を比較したところ,全ての語において有意な偏りがみられた。全体的に,幼稚園教師は子どもの主体性や自発性を重視し,内面や行動について教師側が読み取りをおこない共に活動をおこなっていく観点を持っている。一方,小学校教師は教師側の指導,方向付けを重視し,子どもを理解する際直接な対話を重視する観点を持っていた。同じ語を対象としながらも,幼稚園・小学校の教師間では語の受けとめ方や理解に相違があることが示唆された。
著者
若松 養亮 大谷 宗啓 小西 佳矢
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.219-230, 2004-09-30
被引用文献数
1

本研究は, 小・中学生を対象に, 学習意欲と「現在の学習活動が自身の成功や幸福の実現のために有効であるとの認知」(学習の有効性認知)との関係について検討した。学習の有効性認知は, 「学習内容や活動の意義や正統性を認める(a)」, 「将来の職業や生活で役立つ(b)」, 「進学や就職の試験で役立つ(c)」, 「有効性を認めない(d)」という4カテゴリーを設定した。分析の結果, 小・中学生どちらにおいても, (1)学習の有効性認知と学習意欲の間には正の関係があること, (2)各カテゴリーの有効性認知を強く有する人を比較すると, a, b, c, dの順で学習意欲が高いこと, (3)「好きな教科の多少」で統制しても, 学習意欲は有効性認知a, b, c, dの順に高いこと, が明らかとなった。
著者
橘 春菜 藤村 宣之
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-11, 2010-03-30
被引用文献数
1 1

本研究では,高校生のペアでの問題解決に焦点をあて,他者と相互に知識を関連づける協同過程を通じて,概念的理解をともなう知識統合が個人内の変化としてどのように促進されるかを検討した。問題解決方略の質的変化(複数の知識を個別に説明する方略から複数の知識を関連づけて包括的に説明する方略への変化)が想定される数学的問題を事前課題-介入(協同または単独)-事後課題のデザインで実施した。実験1では(1)協同条件では単独条件よりも事前から事後にかけての解決方略の質的変化が生じやすいこと,(2)協同場面での複数の要素を関連づけた説明が事後課題での包括的説明方略の適用と関連が強いことが示された。実験2では,方略の質的変化をより促進するため,介入課題において,実験1の教示(以後,一括教示)と比べて,要素の関連づけ過程やその前段階の要素の抽出過程の活性化を目指した段階的教示を行った。その結果,(1)段階的教示では,事前から事後にかけての方略変化が一括教示よりも生じやすく,協同条件でその促進効果が顕著であること,(2)方略の質的変化が生じる協同過程では,ペアで相互に知識を構築する協同過程がみられることが示された。
著者
橘 春菜
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.469-479, 2007-12-30

本研究の目的は,幼児期後期から児童期中期の子どもを対象に描画課題を実施し,他者に情報を伝える意図をもつことで対象物の非視覚的性質の表現をどのように調整するか,その発達的変化を検討することであった。具体的には,幼児22名,小学校2年生20名,4年生21名を対象に次の課題を実施した。まず,対象児に外観が同じ2つの対象物の重さを区別する体験をさせた後に,それらの対象物の絵を自由に描かせた(自由課題)。続いて対象物の重さの違いを絵で他者に伝える意図を明示して,再度対象物の絵を描かせた(伝達課題)。分析では,対象児の描画と言語報告に基づき,その表現方略を年齢間で比較した。その結果,自由課題では表現方略に年齢差がみられなかった。伝達課題では,幼児では言葉による説明を付加しながら物語的に重さを伝える「継時付与方略」,2年生では対象物の大きさの違いのみで重さを伝える「同時単独方略」,4年生では媒介物(例:シーソー)等の非実在物を同時に提示することで重さを比較させる「同時付与方略」が多いこと等が示された。これらの結果より,発達にともない他者にわかりやすく意図を伝える表現における質的な変化が示唆された。
著者
樽木 靖夫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.130-137, 1992-06-30
被引用文献数
1

Effects of positive and negative feedback on students' self-evaluation were investigated. Junior high school students were administered self-esteem scale, the Guess-Who-Test (class members nominations) and rating scales on self-confidence and self-evaluation relating to group behavior items. Then, class teachers gave each student positive feedback based on the peer ratings. The main results were as follows : (1) Though on the whole positive feedback had raising effects on self-confidence and self-evaluation, it was found larger for low self-esteem students than for high self-esteem students ; (2) Additional negative feedback only to high self-esteem students did not lower their self-confidence and self-evaluation but roused their willingness to improve their behavior when they were convinced of the truth of negative feedback. Based on the above results, effects of positive and negative feedback on students' self-evaluation were discussed.
著者
針生 悦子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.349-357, 1993-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
9

According to Markman and Wachtel (1988), children assume that words stand for mutually exclusive object categories, and so each object must have only one category label. This study examined whether children suspended their use of this assumption and interpreted a given novel label as referring to a familiar object; that is, an object whose name they already knew in their mother tongue (Japanese), when they were informed that the label came from a foreign language (English). The result showed that five-year-olds accepted the novel English label for a familiar object, while the three-year-olds and four-year-olds were not willing to accept it. To explain such result, the following hypotheses were considered. Children younger than 5 used mutual exclusivity to interpret a novel English label:(1) because the limitation of their capacity (Case, 1972) did not allow them to suspend the use of mutual exclusivity effectively, even if they knew English;(2) simply because only a few of them knew English. As a result, four-year-olds who knew English were found to suspend their use of mutual exclusivity when interpreting English labels. The second hypothesis was thus supported.
著者
松岡 弥玲 加藤 美和 神戸 美香 澤本 陽子 菅野 真智子 詫間 里嘉子 野瀬 早織 森 ゆき絵
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.522-533, 2006-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
42

本研究では, 成人期を対象に, 複数の他者 (子ども, 配偶者, 両親, 友人, 職場の人) から望まれている自己 (他者視点の理想自己) と現実自己のズレが自尊感情に及ぼす影響について, 性, 性役割観, 世代, 就業形態との関連から検討した。調査参加者は就学前もしくは大学生の子どもを持つ成人期 (子育て期, 巣立ち期) の男女計404名。自尊感情を基準変数, 5つの他者視点の理想-現実自己のズレを説明変数とした重回帰分析を行った結果, 際立った性差がみられ, 全体的に男性は職場のみ, 女性は複数の他者 (子ども, 友人, 両親のうち2者) の視点からの理想-現実自己のズレが自尊感情に影響していた。また, 性役割観の違いによってどの他者視点から影響を受けるのかが異なり, 子育て期の男性では伝統主義の場合は職場が影響していたが, 平等主義群では子どもが影響していた。女性においては性役割観の違いが両親と友人の影響の差として現れ, 世代差は子どもと職場の影響の違いにみられた。就業形態別では, 専業主婦は両親のみが影響していた。以上のことから他者視点の理想-現実自己のズレが自尊感情に及ぼす影響は性, 性役割観, 世代, 就業形態によって異なることが示された。
著者
林 昭志 竹内 謙彰
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.129-137, 1994-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
12
被引用文献数
1

In this study, two experiments were conducted in order to reexamine Borke's task, based on the degeneration theory. The aim of Experiment 1 was to clarify the relationship among the three mountains task, Borke's turntable task and some subordinate abilities tasks. The result of this experiment suggested that Borke's turntable task was at the same level as the topological abilities tasks, but it differed from the three mountains task. In Experiment 2, which makes the turntable task easy, the object familiarity or the marker-object nearness were examined. Though all 19 children, aged 4-5, could solve the “near” tasks, some made errors on the “distant” task. The result of these two experiments proved that Borke's task did not measure the true perspective-taking ability.
著者
黒田 祐二 有年 恵一 桜井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.24-32, 2004-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
7 3

本研究の目的は, 大学生の親友関係における関係性高揚と精神的健康との関係について検討すること, 及び, その関係に相互協調的-相互独立的自己観が及ぼす影響について検討することであった。結果から, 日本の大学生において, 自分たちの親友関係を他の親友関係より良いものであると評価する「積極的関係性高揚」と, 悪くはないと評価する「消極的関係性高揚」は, 相対的幸福感・自尊感情・充実感と正の関係を示し, 抑うつと負の関係を示すことが見出された。さらに, この関係性高揚と精神的健康との関係は, 相互協調的自己観ないし相互独立的自己観が自己に内在化されている程度によって異なることが示された。すなわち, 相互協調的自己観の低い者より高い者において, そして, 相互独立的自己観の高い者より低い者において, 関係性高揚 (積極的関係性高揚及び消極的関係性高揚) と精神的健康との関係が強くなることが示された。
著者
藤野 京子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.26-37, 2023-03-30 (Released:2023-03-25)
参考文献数
36

自身の行為が謝罪に値するかもしれない状況下,どのようなコーピング方略を用い,それらが謝罪するかどうかにどう影響するか,さらに,ソーシャルサポートの有無やエゴ・レジリエンシー(ER)が,それらにどのような影響を及ぼすかを検討するため,20代(N=834)を対象にウェブ調査を実施した。研究協力者は自身のERについて自己評定し,さらに人に暴言を吐いたというシナリオを提示され,自身がその人だと想定して,いかにその状況で反応するかを回答するよう教示された。研究協力者は周りからサポートを提供される支援群,提供されない静観群にランダムに割り振られた。 ソーシャルサポートの有無によって,とられるコーピング方略の多寡や謝罪の程度に違いが見られた。また,コーピング方略のうち,計画立案方略は謝罪を促進させ,放棄・諦め方略は抑止させることが明らかになった。加えて,支援群では,放棄・諦め方略が少なくなり,謝罪が促進されるのに対して,静観群では,計画立案方略が少なくなり,謝罪が抑止される等の結果が得られた。加えて,ERは肯定的解釈に正の,放棄・諦め方略に負の影響を与えることが示された。
著者
奈田 哲也
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1-12, 2023-03-30 (Released:2023-03-25)
参考文献数
23

本研究の目的は,奈田他(2012)を踏まえ,ネガティブ感情を含め,感情が,如何に個の知識獲得を促すのかを検討することであった。そのため,実験参加者(小学3年生)が示した考えを前半は否定するものの,後半は賞賛していくNP条件,その逆のPN条件,終始賞賛するPP条件というように,感情の生起のさせ方が異なる3条件を設定し,奈田他(2012)と同様の手続きで実験を行った。その結果,PP条件,NP条件,PN条件の順で,知識獲得が促されやすくなることが判明した。加えて,やりとりにおける思考上の積極性を示す指標に関しても,PP条件が最も高く,やりとりを通した知識獲得においては,相手の考えを賞賛することで,個の中に自他の考えに対する柔軟な姿勢を作っていくことが重要であることが判明した。ただし,ネガティブ感情にも,自身の考えを振り返り,見直させる働きがあり,NP条件のように,こういった働きを強化していくことで,知識獲得をある程度は促すことができることも判明し,ポジティブ感情による知識獲得の促しとは異なった過程で,知識獲得が促される過程があることも明らかになった。