著者
酒井 麻紀子 窪田 由紀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.236-251, 2019-12-30 (Released:2020-01-24)
参考文献数
40
被引用文献数
6

本研究の目的は,小学校教師の職場における援助要請を促進・抑制する要因を検討することである。本研究では,援助要請における個人の態度として「被援助志向性」,状況認知的要因として「自己による内的な帰属」と「他者による内的な帰属の予測」,環境要因として「協働的風土」に着目し,各変数が援助要請意図におよぼす効果について,問題(不登校・学業不振・学級経営)や援助者(同僚・管理職)の違いごとに検討した。小学校の通常学級担任176名を対象に場面想定法を用いた質問紙調査を行った。共分散構造分析の結果,全ての場面に共通するパスと,問題や援助者によって異なるパスの存在が明らかになった。そのうち,協働的風土が被援助志向性の「肯定的態度」を媒介して援助要請意図を促進するプロセスは,問題や援助者の違いにかかわらず,全ての場面で示された。この結果から,職場の協働的風土が,教師の援助要請を促進する重要な要因であることが示された。
著者
田中 優子 楠見 孝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.514-525, 2007-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
21
被引用文献数
8 1

本研究では, 大学生を対象とし, 目標や文脈という状況要因が批判的思考の使用に関わるメタ認知的判断に及ぼす影響を検討することを目的として, 研究1では, 批判的思考が「効果的」な文脈と「非効果的」な文脈を収集した。研究2では, 収集した文脈の分類を行い, それぞれの特徴を抽出した。2つの文脈にはそれぞれ異なる特徴がみられた。研究3では,「正しい判断をする」「物事を楽しむ」という2つの目標と文脈を独立変数として, 批判的思考をどの程度発揮しようとするかというメタ認知的な判断に及ぼす影響を検討した。その結果,「物事を楽しむ」という目標よりも「正しい判断をする」という目標においてより批判的思考を発揮しようと判断すること, 同じ目標であっても文脈によって批判的思考の発揮判断が変化することが明らかになった。さらに, 批判的思考の発揮判断は, 目標や文脈を考慮するものの全体的に批判的思考を発揮しようとするタイプ, 効果的な文脈で非常に高く批判的思考を発揮しようとするタイプ, 非効果的文脈では目標に関係なくほとんど発揮しようとしないタイプという3タイプによって特徴づけられることが示された。
著者
赤松 大輔
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.265-280, 2017 (Released:2017-09-29)
参考文献数
64
被引用文献数
15

本研究では, 高校生723名を対象として, 英語の学習観と学習方略および学業成績の関連を検討した。因子分析の結果, 教科共通の学習観として学習量志向と方略志向, 教科固有の学習観として伝統志向と活用志向, 間接的方略としてメタ認知的方略と社会的方略, 直接的方略として体制化方略, イメージ化方略, 反復方略, そして音声記憶方略が見いだされた。パス解析の結果, 学習観においては教科共通の学習観が教科固有の学習観を規定し, 学習方略においては間接的方略が直接的方略を規定するというように, 学習観内と学習方略内にそれぞれに規定関係があることが確認された。また, 学習観と学習方略の間には, 教科共通の学習観が間接的方略を予測する教科共通の学習プロセスと, 教科固有の学習観が直接的方略さらには学業成績を予測する教科固有の学習プロセスがあることが明らかになった。この結果を踏まえ, 学習行動全体を改善するためには教科共通の学習プロセスに注目し, 英語学習における学業成績を改善するためには教科固有の学習観に注目するというように, 学習観と学習方略の関係を教科共通と教科固有の両観点から捉える必要性が示唆された。
著者
春日 彩花 土田 宣明
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.184-198, 2016 (Released:2016-08-08)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

本研究の目的は, 大学(院)生が力学のプリコンセプションをどの程度有しているかを明らかにし, プリコンセプションから科学的概念への変容過程を検討することである。対象者67名に中学校で学習する力学課題を提示したところ, 多くの者が, 学校で教えられる「科学的概念」と不一致の概念を所持していることが確認された。この結果をもとに, Hashweh(1986)の概念変容モデルに沿って教材を作成し, 全問正答者を除く52名に提示した。概念の変容が比較的容易な課題(課題1)では, 提示された新情報と自分の考えを関連付けて整理する(関連付け)ことで, 科学的概念へ変容し得ることがわかった。一方, プリコンセプションが強固で概念の変容が難しい課題(課題2, 3, 4)では, 新情報に対して疑問を示す(懐疑)ことで受容しなかったり, 新情報を自分の考えと関連付けることでプリコンセプションの不整合には気付いたものの(関連付け), 新情報をそのまま取り入れず再解釈して, プリコンセプションを部分的に変化させたりした可能性が示された。また, 提示された「科学的概念」が他の現象も統一的に説明できることに注目しなかったために, 変容には至らなかった可能性も考えられた。
著者
杉村 伸一郎 竹内 謙彰 今川 峰子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.340-349, 1992-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
12
被引用文献数
2

This study aimed to examine three factors in the spatial perspective-taking problem (presented stimulus, response modes, and effects of experience), based on the premise that spatial cognition has two types of cognitive modes. Subjects were four-, six-, and eight-year-old children. The experiment was divided into three sessions (pre-test, experiential trial, and post-test). In the pre- and post-tests, children were asked to anticipate the visual percepts from the marker (a small doll). In the experiential trial, they were shown arranged objects rotated or moved to the marker so they could view arranged objects. Results were as follows: (1) In contrast to standard perspective-taking problems, even for four-year-old children most were easy to solve when object configurations were already separated from their surroundings.(2) Interactions between the response modes (object construction or photo selection) and viewpoints (oneself or the other) were seen.(3) There were some effects of experience overall, but no difference among the types of experience except for 6 year-old.
著者
磯部 美良 佐藤 正二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.13-21, 2003-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14
被引用文献数
3 5

本研究の主な目的は, 関係性攻撃を顕著に示す幼児の社会的スキルの特徴を明らかにすることであった。年中児と年長児の計362名の攻撃行動と社会的スキルについて, 教師評定を用いて査定した。関係性攻撃得点と身体的攻撃得点によって, 関係性攻撃群, 身体的攻撃群, 両高群, 両低群の4つの群を選出した。社会的スキルについて群間比較を行った結果, 両低群に比べて, 関係性攻撃を高く示す子ども (関係性攻撃群と両高群) は, 規律性スキルに欠けるものの, この他の社会的スキル (友情形成スキルと主張性スキル) については比較的優れていることが明らかになった。また, 関係性攻撃群は, 教師に対して良好な社会的スキルを用いていることが示された。さらに, 関係性攻撃群の男児は友情形成スキルが全般的に優れているのに対して, 関係性攻撃群の女児は友情形成スキルが一部欠けていることが見出された。これらの結果から, 関係性攻撃の低減には, 規律性スキルの習得を目指した社会的スキル訓練が効果的であることなどが示唆された。
著者
小川 翔大
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.267-277, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
25
被引用文献数
4 1

本研究の目的は, ネガティブな出来事の原因への帰属の違い, 及び同情した人との親密さの違いが同情された時のポジティブ感情やネガティブ感情の生起に及ぼす影響を明らかにすることである。大学生304名を対象に, 病気, 学業の失敗, 対人トラブルに対して同情される話を読んでもらい, 同情された時の様々な感情について評定を求めた。その結果, すべての場面で, ネガティブな出来事の原因を運や他者からの妨害に帰属した人よりも自分自身の能力に帰属した人の方が落ち込み感情が高くなった。また, すべての場面で, 同情した人があまり知らない人の場合よりも親しい人の場合の方が, 喜び感情は高く反発感情は低くなった。以上より, 落ち込み感情はネガティブな出来事の原因帰属によって異なり, 喜び感情と反発感情は相手との親密さによって異なることが明らかになった。
著者
小林 敬一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.297-305, 1995-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15

Various resources can be used to prevent from forgetting things: for example, habitual actions to use external memory devices, metamemory knowledge of external memory devices, script knowledge for planning, and others' aids. The availability of the resources is not equal for anyone, however. The purpose of the present study was to examine developmental changes in contents of the available resources and the relationships among the resources for elementary school children in their homes. The questionnaires concerning the resources were administered to seventy second graders, sixty-six fourth graders, seventy-one sixth graders, and their parents. As results, the children's knowledge increased with grades, while parental aids decreased with grades. Significant (marginally significant) correlation between children's knowledge and parental aids were found in fourth graders only. Moreover, there was a significant (marginally significant) correlation between children's habitual actions to put the room in order and children's script knowledge in fourth and sixth graders, although differences in habitual actions among graders were not significant.
著者
深谷 達史
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.342-354, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
27
被引用文献数
1 2

様々な学習領域に共通する知識構築活動として自己説明が知られている。いくつかの研究によって学習者の自己説明を訓練する効果が示されているが, どのような訓練が科学的概念に関する深い理解の達成を可能にするかは十分明らかではない。そこで本研究は, 生物・生態システムなどの働きを捉える枠組みであるSBF理論を参照し, 有効だと考えられる自己説明訓練法を提案し, その効果を検証することを目的とした。学習講座に参加した中学2年生を, システムの構成要素の仕組みと機能について質問および解答作成を行った実験群(n=48)と, そうした制限を設けずに質問および解答作成を行った対照群(n=26)に割り当て, 訓練の効果を検討した。その結果, 文章中に答えが明記されていない理解テストにおいて, 実験群のテスト成績が対照群よりも高い傾向が見られた。また, テストの文章を学習する際に記入を求めたコメントの分析から, 仕組みと機能に関する推論(SBF説明)がテスト成績に影響を及ぼしていたことが示された。本研究の結果より, 生物・生態システムの仕組みと機能を捉えるSBF理論に基づく自己説明訓練が, 科学的概念の理解を促す上で有効である可能性が示唆された。
著者
丹藤 進
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.470-477, 1996-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16

This study was to examine changes in intelligence among elementary school children across different generations. The results of group intelligence tests conducted between 1956 and 1985 at 38 elementary schools and 10 junior high schools located in 7 separate regions of Aomori Prefecture were analyzed. Data were compiled from the schools Student Records which are considered as public records. The main results were as follows: 1) In the 5 concerned regions made primarily of agricultural and fishing communities, children's intelligence statistics up to 1960 were proved lower than average. However, between 1961 and 1970, the above mentioned figures rose dramatically and reached the average standard on the intelligence test. 2) In one urban region, children's intelligence levels were consistently higher than norm on the intelligence test regardless of the age group. No changes were observed between different the generations. 3) Children living in regions distant from urban areas showed a tendency to have lower intelligence scores than children living in regions closer to urban areas. Recently, however, these regional variations were found to be less pronounced.
著者
中村 玲子 越川 房子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.129-142, 2014 (Released:2015-03-27)
参考文献数
36
被引用文献数
5 3

いじめはその深刻さが指摘されており, 学校現場での対応が求められている問題である。いじめの減少困難や助長の要因として傍観者が挙げられており, 傍観者層の多寡は, 被害者の多寡と最も強い有意な相関を示すことが見出されている(森田, 1990)。本研究では中学生を対象としたいじめの抑止を目的とする心理教育的プログラムを開発し, その効果の検討を行った。プログラムは, いかなるいじめも容認されないとする心理教育と, いじめへの介入スキルの学習から構成された。プログラムの所要時間は授業1回分であり, 対象校生徒の実情に合った内容を用いての, ソーシャル・スキルス・トレーニングの技法に基づくロール・プレイングを含むものであった。事前・事後分析の結果, 本研究で開発されたいじめ抑止プログラムは, いじめ停止行動に対する自己効力感といじめ否定規範の向上, いじめ加害傾向の減少に一定の効果をもつことが示された。また, いじめの抑止のためには, いじめ否定規範の高い生徒にはいじめに介入するためのスキルの学習が, いじめ否定規範の低い生徒にはスキルの学習と同時にいじめ否定規範を高める指導・支援を行うことが有効である可能性が示された。
著者
岡田 いずみ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.287-299, 2007-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24
被引用文献数
2

学習者の学習意欲を高めることは難しい。本研究は, 学習者の学習意欲を高めるために介入研究を行い, その効果を検討したものである。学習意欲と関連の深いものに学習方略がある。学習意欲と学習方略の関係については「意欲があるから方略を使う」という見方がなされることが多かった。それに対して, 本研究では「方略を教授されることで意欲が高まる」という仮説の下, 介入を行った。対象は高校生であり, 内容は英単語学習であった。英単語学習のなかでも, 特に体制化方略を取り上げた。研究1では授業形態で介入を行った結果, 学習方略の教授により, ある程度は学習意欲が高まったことが示されたが, 十分とは言えなかった。そこで研究2では, 方略の学習がより確実なものになるよう, 教材を改訂し, 介入を行った。また, 研究2では, 個人差を捉えるために検討項目として, 方略志向という学習観と, 英単語に対する重要性の認知が学習意欲の変化に及ぼす影響を検討した。その結果, 方略志向の高低や, 英単語に対する重要性の認知にかかわらず, 学習意欲が高まったことが確認された。
著者
田中 瑛津子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.23-36, 2015 (Released:2015-08-22)
参考文献数
24
被引用文献数
4 10

理科における種類の異なる興味を弁別可能な尺度を作成し, それぞれの興味の特徴について検討することを目的とし, 小学5年生から高校1年生まで1,998名を対象とした質問紙調査を行った。結果, 理科に対する興味は「自分で実験を実際にできるから」などの項目からなる「実験体験型興味」, 「実験の結果に驚くことがあるから」などの項目からなる「驚き発見型興味」, 「わかるようになった時うれしいから」などの項目からなる「達成感情型興味」, 「色々なことについて知ることができるから」などの項目からなる「知識獲得型興味」, 「自分で予測を立てられるから」などの項目からなる「思考活性型興味」, 「自分の生活とつながっているから」などの項目からなる「日常関連型興味」, 以上6つに分類されることが示された。また, 「思考活性型興味」や「日常関連型興味」は, 「意味理解方略」や「学習行動」と関連のある重要な種類の興味であるにもかかわらず, どの学年においても他の種類の興味に比べて低い, ということが示唆された。
著者
濱口 佳和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.248-264, 2017 (Released:2017-09-29)
参考文献数
54
被引用文献数
5

本研究は自記式能動的・反応的攻撃性尺度(大学生用: SPRAS-U)を作成し, 因子構造, 信頼性, 妥当性を検討するとともに, 身体的攻撃, 言語的攻撃, 関係性攻撃との関連を明らかにすることが目的とされた。SPRAS-U原版は, 能動的攻撃性として他者支配欲求, 攻撃有能感, 攻撃肯定評価, 欲求固執, 反応的攻撃性として, 易怒性, 怒り持続性, 怒り強度, 報復意図, 外責的認知の合計9下位尺度, 合計75項目から構成された。1短大・5大学の学生616名(男子294名, 女子322名)から妥当性検討の尺度が異なる2種類の質問紙に対する回答を得た。因子分析の結果, 想定された9因子が得られ, α係数による信頼性は7下位尺度で.70以上の値を示し, 概ね使用可能な範囲にあった。反応的攻撃性の下位尺度の殆どがBAQの敵意や怒り喚起・持続性尺度, FASの報復心と中程度以上の正の有意相関が見られ, 能動的攻撃性の各下位尺度は一次性サイコパシー尺度やFASの支配性と中程度の正の有意相関を, 共感性とは負の有意相関を示し, 併存的妥当性が実証された。重回帰分析の結果, 身体的攻撃は主に反応的攻撃性と, 言語的攻撃は主に能動的攻撃性と, 関係性攻撃は能動的・反応的両攻撃性の下位尺度と有意な関連を示した。
著者
中村 玲子 越川 房子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.129-142, 2014
被引用文献数
3

いじめはその深刻さが指摘されており, 学校現場での対応が求められている問題である。いじめの減少困難や助長の要因として傍観者が挙げられており, 傍観者層の多寡は, 被害者の多寡と最も強い有意な相関を示すことが見出されている(森田, 1990)。本研究では中学生を対象としたいじめの抑止を目的とする心理教育的プログラムを開発し, その効果の検討を行った。プログラムは, いかなるいじめも容認されないとする心理教育と, いじめへの介入スキルの学習から構成された。プログラムの所要時間は授業1回分であり, 対象校生徒の実情に合った内容を用いての, ソーシャル・スキルス・トレーニングの技法に基づくロール・プレイングを含むものであった。事前・事後分析の結果, 本研究で開発されたいじめ抑止プログラムは, いじめ停止行動に対する自己効力感といじめ否定規範の向上, いじめ加害傾向の減少に一定の効果をもつことが示された。また, いじめの抑止のためには, いじめ否定規範の高い生徒にはいじめに介入するためのスキルの学習が, いじめ否定規範の低い生徒にはスキルの学習と同時にいじめ否定規範を高める指導・支援を行うことが有効である可能性が示された。
著者
佐藤 愛子 岩原 信九郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.232-235,254, 1962-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
5

某県の高校入学者の女子について,入学試験,入学時の知能検査結果,および入学後の学業成績間の相関を求めたところ,入試と学業の相関がきわめて高く,また学業成績は学年がすすんでもあまり相対的位置をかえないにもかかわらず,知能と成績との相関は意外に低く,しかも学年のすすむにつれて低下の傾向を示した。このことは入学後の成績の予言には入試のもつ重みはきわめて高いが,知能の重みは無視できるほど低いことと,学業成績は年とともに知能の因子を含む割合が減少する傾向のあることを示している。この点,大学入学のときの学科試験や進学適性検査のもつ意味といちじるしく異なる。なぜなら大学の場合はこれら2つの変数は入学に適さないものを落すという意味はあるかもしれないが,入学後の成績を予言することは非常に困難であるからである。
著者
都筑 学
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.73-86, 1982-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
136
被引用文献数
6 1
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.240-252, 2001-06-30

心配は, 制御困難な思考であると同時に, 困難な問題に対処するために能動的に制御された過程でもある。心配研究の主要な課題は, 心配がなぜ制御困難性になるのかを説明することである。本論文では, 先行研究を, (1)心配の背後の自動的処理過程を制御困難性のメカニズムとして重視する流れと, (2)心配の能動性そのものの中に制御困難性の要因を見いだそうとする流れ, の2つに分けたうえで, (2)に重点を置いて概観する。(2)の立場からの研究の課題は, さらに, a.心配の機能や目標を明らかにするという大局的なものと, b.そのような機能や目標を実現するための方略を明らかにするという微視的なものとに区分される。本論文では特にb.のような微視的な視点に立った研究の必要性を提唱する。
著者
竹下 浩 奥秋 清次 中村 瑞穂 山口 裕幸
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.423-436, 2016
被引用文献数
4

近年日本の製造業で生産技術者の育成が急務となっており, 高等教育でも「ものづくりPBL」の取り組みが増加している。しかし実際のチームワーク形成過程は解明されておらず, 効果的な授業評価法を確立するために, その解明が求められている。そこで本研究は, ものづくり型PBLのチームワーク形成プロセスを説明・予測できる理論モデルを提示する。6校13名からデータを収集, 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した結果, 42の概念が生成された。ものづくり型PBLにおけるチームワークの形成プロセスは, ものづくり・チーム活動・スキル蓄積という3つの過程で構成されており, 主な特徴は以下の3点である。(1) 製作段階ごとにスキルが試される結果, ものづくり過程はチームワーク形成過程に強制力を有していた。(2) チーム活動課程は, サブチーム(製作物の専攻科別担当チーム)の形成から発達し, 協業あるいは孤島化へと至る。(3) 成員はものづくりを目的としてチーム活動する一方, チーム活動の派生物としてスキルを習得していく。考察では, 先行研究では説明できない点を議論する。さらに, 高等教育や企業の人材育成への示唆を提示する。