著者
後藤 宗理
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.85-93, 1979-06-30

The two following experiments were carried out in order to point out that earlier studies of social reinforcement were defective in the way of presenting reinforcement, and to state that the social context should be chosen as a determinant of social reinforcement effectiveness. The manipulations in each experiment had much in common. First, day-nursery boys and girls were subjected to a 10-minute treatment session, in which they received the reinforcing stimuli either twice (deprivation) or 16 times (satiation) from a male experimeter. This was followed by a discrimination test made of 75 trials, in which the same reinforcing stimuli as in treatment session were given to all correct responses by the experimenter. At the end of the test, they were inquired about their awareness of response-reinforcement contingencies. The measure analyzed was the number of correct responses in the test. In experiment I, the partial replication of Massari (1971) study was carried out to point out that earlier studies of social deprivation-satiation were defective in the way of presenting reinforcement. Forty subjects were instructed to read picture books in treatment session, in which they received the reinforcing stimuli, either "orikou-san-dane" ("good child" in Japanese) or a sound of bell, on the fixed schedule. This was followed by a discrimination test. The dependent measure for the four experiment groups was subjected to an analysis of variance. The results of the analysis showed no significant effects for the type of reinforcement (social-nonsocial) and the treatment (deprivation-satiation). It was discussed that the mechanical presentation of reinforcement in treatment session caused these results. And it was proposed that social reinforvement, in order to find the social deprivation-satiation relation should be presented in social context, and that the procedure in treatment session should be modified Experiment II was carried out to show that social context was an important factor of social reinforcement effectiveness. One hundred and thirty-six subjects took part in playing with building blocks in a 10-minute treatment session, either with an experimenter (social interaction condition) or alone (no interaction condition). In this session, two-thirds of them received the stimulus words on the fixed schedule, but one-third of them received no words. This was followed by the test. In interaction condition, only boys made more correct responses in the deprivation group than in the satiation group. Among girls in interaction condition, Ss of the satiation group tended to make fewer responses than those in no word condition. These results suggested that the social deprivation-satiation hypothesis was supported only when reinforcement was given in the context of social situation, not when it was given according to the method used in earlier studies. In a general discussion, it was pointed out that social reinforcement ought to be presented in a social context.
著者
下仲 順子 中里 克治
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.231-243, 2007-06-30

本研究は25〜84歳の地域住民(男187,女225)を対象にして,目的1)創造性の年齢差と性差要因を分析すること,目的2)創造性に影響を及ぼす要因を分析することを行った。創造性の測定はJ.P.Guilfordの指導の下に考案されたS-A創造性検査を用い,活動領域(応用力,生産力,空想力)と思考特性(流暢性,柔軟性,独創性,具体性)を測定した。目的1では教育年数を共変数として,5年齢群と性を要因とした共分散分析を行った。結果は,活動領域の応用力,生産力と思考特性の流暢性と独創性では年齢差はなかった。性差は生産力と流暢性で女性が男性よりも有意に得点が高かった。結果より,創造性の量的側面は加齢と共に低下するが,質的側面は成人期中維持され,創造性の成熟が示唆された。また,性差は創造性に余り影響しないことが結論された。目的2では,活動領域と思考特性に共通して開放性と実際的問題解決能力が寄与し,人格と日常生活上の経験によって育まれてゆく解決能力が創造性の基礎となっていた。自尊感情,病気の有無,社会的問題解決能力は創造性の種々の側面に異なって寄与することが示された。
著者
原田 杏子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.344-355, 2004-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

本研究の目的は, 法律相談を題材として,「専門的相談がどのように遂行されるのか」を, 実践現場からのデータに基づいて明らかにすることである。データ収集においては, 弁護士及び相談者 (クライエント) の同意を得て, 12件の法律相談場面の会話を録音した。データ分析においては, 質的研究法の1つであるグラウンデッド・セオリー・アプローチを用い, 分析の途中段階で法律家によるメンバー・チェックを受けた。分析の結果, 15の弁護士発言カテゴリーが見出され, それらはさらに【I問題共有】【II共鳴】【III判断伝達】【IV説得・対抗】【V理解促進】【VI終了】という6つの上位カテゴリーにまとめられた。分析結果からみるに, 専門的相談は, 問題をめぐる様々な情報を相談者との間で共有し, 専門的立場から判断を伝えることを中心として遂行される。加えて, かかわりの基本的態度としての共鳴, 相談者の不適切な解決目標や思い込みに対する対抗, 相談者の理解を促進する働きかけ, 相談の終了を導く働きかけなどが見出された。法律相談の実践現場から導かれた本研究のカテゴリーは, 既存の援助モデルで十分扱われていない専門的相談の特徴を明らかにしている。
著者
林 美樹雄
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.11-17, 1955-07-15

美的観照を力動的な対象把握過程と考え、その力動性を画面の均衡把握について吟味するために成人式及び中学校生徒男女587名を対象としてテストを行った。テストの内容は単純図形を、画面としての矩形の内部に定位し中央位及び両側偏位の3種の構図について順位づけを求めた。被験者が幾何学的均衡(中央構図)と力動的均衡(偏位構図)との何れを選ぶかを18図形につき分析した結果を要約すれば次の通りである。(1)一般的傾向として中央構図の選択率%は略々50%を占め相称構図が支持せられる。これは特に相称図形において著しい(80%)。(2)図形が方向性緊張をもつ場合には方向性と逆方向の偏位構図が支持せられる。抽象幾何図形群においても方向性が把握せられるがそれが意味づけによって強化せられた 場合に偏位支持率が顕著となる。(3) 上下方向の変位図形においては下方偏位構図が支持せられる。(4)構図選択傾向を数値化した場合発達差よりも性差が著しく又その値は略々一定している。この差は主として男子群の方向性偏位支持率が集中的であるのに対し女子群のそれが稍曖昧である点によると思われる。(5)このテストと他種アーティストとの相関は極めて低い。知能テストとの相関は0.318であった。以上の結果はこのテストが諸条件を単純化しているために一般的な構図選択や複雑な画面の観照に適用することは出来ないが、而もそれは幾何学的図形においても相貌的方向性が認められそれが構図的均衡に影響を与えること、偏位は図形の方向性と逆方向において支持せられる等の点を明かにし力動的異質的均衡を分析する手掛りを提供する。この発展としては稍複雑な図形と連続的偏位法を用いて画面の均衡点を見出す操作により群差及び性差を一層明瞭に規定することと、画面諸要素の重さ及び方向性を精細に吟味することによって力動的均衡の特性を明らかにする側面とが残されている。但しこの様なテスト形式では画面の左右上下による重さの不等性を含む力動性の分析には不適当でありこの目的のためには瞬間露出法が有利であると考えられる。
著者
遠藤 愛
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.116-126, 2008-03-30

本研究では,特殊学級の教師を対象に,自閉性障害と診断された生徒に対する指導行動を改善する上で有効なフィードバックの検討を行った。具体的には,教師の抵抗感を高めないことを考慮し,教師の指導行動を評価対象とせず,教師の指導場面に類例した「放課後支援」を実施する学生支援スタッフの指導場面を評価対象として,教師に対し2種類の間接的フィードバック(書面によるフィードバックとビデオによるフィードバック)を実施した。その結果,ビデオによるフィードバックの導入後,教師の指導行動が肯定的に変容し,対象生徒の行動も改善した。同時に,教師が行った特定の生徒への指導により,指導効果が期待されていなかった他生徒にも積極的な授業参加が認められた。
著者
五十嵐 哲也 萩原 久子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.264-276, 2004-09-30

本研究では, 中学生の不登校傾向と幼少期の父母への愛着表象との関連を検討した。480名の中学生を対象とし, 以下の結果が得られた。1)「別室登校を希望する不登校傾向」は主に母親の「安心・依存」と「不信・拒否」, 「遊び・非行に関連する不登校傾向」は両親への「安心・依存」と「不信・拒否」が関連していた。また, 「在宅を希望する不登校傾向」では異性親への「安心・依存」と「不信・拒否」が関連していた。一方, 「精神・身体症状を伴う不登校傾向」は, 「分離不安」との関連が強かった。2)女子では, 幼少期の母親への愛着がアンビバレントな型である場合や, 父母間の愛着にズレが生じている場合に不登校傾向が高まる傾向が示された。女子はこうした家族内における情緒的不安定性への感受性が強く, 不登校傾向を示しやすいと言える。3)男子では, 「在宅を希望する不登校傾向」得点が高く, 幼少期の父母両者に対する愛着の「不信・拒否」と関連があることが特徴的であった。これは青年期以降の社会的ひきこもりに見られる状況と一致しており, 登校しながらも在宅を希望している男子の中に, 思春期時点ですでに同様の傾向が示されていると言える。
著者
豊沢 純子 唐沢 かおり 福和 伸夫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.480-490, 2010-12-30
被引用文献数
13

本研究は,脅威アピール研究の枠組みから,小学生を対象とした防災教育が,児童の感情や認知に変化を及ぼす可能性,および,これらの感情や認知の変化が,保護者の防災行動に影響する可能性を検討した。135名の小学校5年生と6年生を対象に,防災教育の前後,3ヵ月後の恐怖感情,脅威への脆弱性,脅威の深刻さ,反応効果性を測定した。また,防災教育直後の保護者への効力感,保護者への教育内容の伝達意図と,3ヵ月後の保護者への情報の伝達量,保護者の協力度を測定した。その結果,教育直後に感情や認知の高まりが確認されたが,3ヵ月後には教育前の水準に戻ることが示された。また共分散構造分析の結果,恐怖感情と保護者への効力感は,保護者への防災教育内容の伝達意図を高め,伝達意図が高いほど実際に伝達を行い,伝達するほど保護者の防災行動が促されるという,一連のプロセスが示された。考察では,防災意識が持続しないことを理解したうえで,定期的に再学習する機会を持つこと,そして,保護者への伝達意図を高くするような教育内容を工夫することが有効である可能性を議論した。
著者
安永 和央 石井 秀宗
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.296-309, 2012 (Released:2013-02-08)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本研究では, 国語読解テストにおける設問の問い方を操作し, 設問設定の違いが受検者の能力評価にどのような影響を及ぼすかを比較検討した。具体的には, 1)一文抜き出し問題に対して, 多枝選択式問題と記述式問題を設定し, 2)会話文中の空所の形及び数を操作し, また, 図の空所の関係を表す「=」の有無を操作し, 3)空所前における単語の説明の有無を操作したものを中学3年生703名に実施した。項目分析の結果, 1)では, 設問形式は評価に影響を及ぼさないことがわかった。2)では, 図に空所の関係性を提示しない場合, 空所の形は同一にしない方が, 得点率及び識別力の値を高くすることがわかった。また, 空所の形が異なる場合, あるいは, 空所の形が同一で空所数が少ない場合, 図に空所の関係性を提示しないことが, 前者では得点率を高くし, 後者では識別力の値を高くすることがわかった。さらに, 空所の数が多く, 形が同一に表記されているなど, テキストが複雑な構成となる場合には, 図に関係性を示す「=」を添えることが, 受検者にとって正答を導く手がかりとなる可能性が示された。3)では, 性別及び群別の検討において, 低群と高群で性差が確認された。これらの結果から, わずかな設問の操作によって受検者の回答傾向に変化が生じることが示された。このことは, 設問などテストの構造的性質について実証的検討を行うことの意義を示している。
著者
岡田 いずみ
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.287-299, 2007-06-30
被引用文献数
1

学習者の学習意欲を高めることは難しい。本研究は,学習者の学習意欲を高めるために介入研究を行い,その効果を検討したものである。学習意欲と関連の深いものに学習方略がある。学習意欲と学習方略の関係については「意欲があるから方略を使う」という見方がなされることが多かった。それに対して,本研究では「方略を教授されることで意欲が高まる」という仮説の下,介入を行った。対象は高校生であり,内容は英単語学習であった。英単語学習のなかでも,特に体制化方略を取り上げた。研究1では授業形態で介入を行った結果,学習方略の教授により,ある程度は学習意欲が高まったことが示されたが,十分とは言えなかった。そこで研究2では,方略の学習がより確実なものになるよう,教材を改訂し,介入を行った。また,研究2では,個人差を捉えるために検討項目として,方略志向という学習観と,英単語に対する重要性の認知が学習意欲の変化に及ぼす影響を検討した。その結果,方略志向の高低や,英単語に対する重要性の認知にかかわらず,学習意欲が高まったことが確認された。
著者
藤井 恭子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.146-155, 2001-06-30
被引用文献数
3

本研究では, 青年期の重要な友人との関係における心理的距離をめぐる葛藤について検討する。具体的には, 青年が友人との心理的距離をめぐり, 「近づきたいけれども近づきすぎたくない」, 「離れたいけれども離れすぎたくない」というように, 「適度さ」を模索して生じる葛藤である。本研究ではこの葛藤を, 「山アラシ・ジレンマ」として捉え, (1)青年期の友人関係における「山アラシ・ジレンマ」を抽出する, (2)「山アラシ・ジレンマ」に対する心理的反応の仕方を明らかにする, (3)「山アラシ・ジレンマ」とそれに対する心理的反応の仕方の関係について, 心理的距離の程度から明らかにする, ことを目的として研究を行った。その結果, 近づくことに対するジレンマ, 離れることに対するジレンマにおいて, 心理的要因がそれぞれ2つずつ抽出された。それらは, 対自的要因によるジレンマと, 対他的要因によるジレンマであると整理された。また, 生じた「山アラシ・ジレンマ」に対して, 「萎縮」, 「しがみつき」, 「見切り」という3つの心理的反応があることが明らかとなった。さらに, 対自的要因による「山アラシ・ジレンマ」ほど, 心理的反応に結びつきやすく, その傾向は相手との心理的距離を遠く認知しているほど強まることが明らかとなった。
著者
宮下 一博 小林 利宣
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.297-305, 1981-12-30

本研究では,疎外感尺度を作成し,青年期における疎外感の発達的変化および疎外感と適応との関係を検討した。主な結果は,次の通りである。1.疎外感は青年期において発達的に減少する。2.疎外感は自我同一性(古沢の尺度による)と負の有意な相関がある。3.問題児は,問題を持たない者に比べ有意に高い疎外感を示す。しかし,次のような問題や限界も考えられる。第1に,疎外感の発達的変化は,横断的方法により分析されたが,これは,対象の選択の仕方により,結果が若干異なる可能性もある。今後さらに,縦断的研究によって,この点を検討することが必要であろう。第2に,疎外感と適応との関連を分析する場合に,疎外感の強弱という量的側面からの接近のみでは,十分でないことが考えられる。たとえば,疎外感をどうとらえるか(受容できるもの,或は拒絶すべきものと感じるなど)により,適応の様相も異なってくると想定される。このような観点からは,疎外感は問題行動などのネガティヴな心理側面と密接な関わりを持つと同時に,独創性や創造性や創造性などの人問の積極的な行動特性との関連において,ポジティヴな側面から問題にすることも可能であろう。
著者
宮下 一博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.214-218, 1991-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
8
被引用文献数
2

The purposes of the present study were to explore the possibility of typing need for uniqueness proposed by Snyder and Fromkin, and to examine the characteristics of these types. New items measuring need for uniqueness, the Japanese version of the need for uniqueness scale developed by Snyder and Fromkin, and the mental set scale for creativity by Mishima et al. were administered to 224 university students. By means of various statistical analyses, a new reliable and valid scale for measuring need for uniqueness (Uniqueness Scale) was constructed. In accordance with this scale, need for uniqueness was divided into four types: (a) going my way (calm) type; (b) repressed type; (c) self-exhibited type, and (d) self-centered type. Among these types, going my way and self-exhibited types were seen showing higher scores in mental set scale for creativity.
著者
徳舛 克幸
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.34-47, 2007-03-30
被引用文献数
2

本研究では,若手小学校教師(教師歴1年目〜3年副の教師の実践共同体への参加の過程を正統的周辺参加(Lave & Wenger,1991)概念を主な分析の視点として検討した。半構造化面接によって調査を実施し,トランスクリプションを作成した。そして,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(木下,1999,2003)を分析方法として用い,若手小学校教師の認知に基づく実践共同体への参加(学習)過程モデルを作成した。若手小学校教師は,教師として身につけるべきスキルや知識があると語る一方で,他の教師や児童,保護者,地域との相互交渉によって教師としての学習がなされると考えていることがわかった。そのため,「教師になる」とは,個人主義的に達成されるものではなく,社会的相互交渉によって社会的に達成されることが示唆された。さらに,学習の概念とは,従来の個人主義的な達成に加え,社会的達成物であることも示された。
著者
田村 綾菜
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.13-23, 2009-03-30
被引用文献数
4

本研究は,加害者の謝罪の言葉と表情が児童の謝罪認知(怒りの変化および罪悪感の認知)に及ぼす影響について,その発達的変化を検討したものである。大学生を対象とする予備調査により表情図の妥当性を確認した後,小学校1,3,5年生(N=346)を対象に質問紙調査を行った。仮想場面における加害者の表情(罪悪感あり顔,罪悪感なし顔)×謝罪の言葉(あり,なし)の4条件を被験者内要因とし,怒りの変化と罪悪感の認知についての回答を求め,その学年差を検討した。その結果,加害者の表情は怒りの変化と罪悪感の認知の両方に影響すること,その影響は3年生以降にみられることが明らかになった。他方,謝罪の言葉は怒りの変化にのみ影響すること,その影響は1年生でもすでにみられることがわかった。これらの結果から,謝罪を識別することが可能となる3年生以降においても,「ごめんね」と言われたら「いいよ」と答えるという言葉のやりとりが強く根づいている可能性が示唆された。
著者
杉澤 武俊
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.150-159, 1999-06-30
被引用文献数
2

日本でなされている教育心理学の研究では, 統計的検定によって有意な結果が得られる確率(検定力)はどのくらいであろうか。本研究では, 1992年から1996年までに発行された『教育心理学研究』に掲載されている論文で用いられている検定について調査し, ある特定の大きさの母集団効果量(小・中・大)が存在するときに, その研究で用いられた大きさの標本によって有意な結果が得られる確率を求めた。その結果, 対象となった論文の60%は中効果量を検出できる確率さえ.8にも満たないことがわかった。実験的方法を用いることが多い認知的側面を扱った研究は, 調査による研究を行うことの多い情緒的側面を扱った研究に比べて, 同一の母集団効果量に対する検定力が低くなっていた。また, 帰無仮説を研究仮説とした場合は, 特に高い検定力が必要であるにもかかわらず, 有意でない結果をもって仮説を支持できるほど検定力が高いとはいえなかった。また, 標本効果量を算出し, Cohen(1992)の効果量の基準の見直しを試みた。一部基準が不適切であるようにも考えられるものがみられたり, 研究領域や研究方法によって異なった基準を用いるべきであることを示唆する結果が得られたが, この点に関しては今後更なる検討が必要である。さらに, 標本効果量と標本の大きさの関係について分析した結果, 研究者は検定力を明確に意識こそしていないが, 効果量の小さいものに対しては標本を大きくして検定力を高めていることが示唆された。検定力は日本ではほとんど問題とされてこなかったが, 統計的検定が分析の中心となっている以上, もっと検定力に目をむけていかなければならない。
著者
佐藤 有耕
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.347-358, 2001-09-30
被引用文献数
1

本研究では, 大学生の自己嫌悪感と自己肯定の間の関連を検討した。目的は, どのような自己肯定のあり方が, 大学生の自己嫌悪感を高めているのかを明らかにすることである。自己嫌悪感49項目, 自尊心48項目, 自愛心56項目から構成された質問紙が, 18才から24才までの大学生ら535名に実施された。その結果明らかにされたことは, 以下の通りである。(1)自己嫌悪感は, 自分を受容的に肯定できるかどうかと関連が強い。(2)自己に対する評価も低く, 自己に対する受容も低いというどちらの次元から見ても自己肯定が低い場合には, 自己嫌悪感が感じられることが多い。(3)しかし, 最も自己嫌悪感を感じることが多くなるのは, 自分を高く評価するという点では自己を肯定している一方で, 受容的な自己肯定ができていない場合である。本研究では, 自己嫌悪感をより多く感じている青年とは, 自分はすばらしいと高く評価していながら, しかし現在の自分に満足できず, まだこのままではたりないと思っている青年であると結論した。
著者
宮下 一博
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.p455-460, 1991-12
被引用文献数
2

the purposes of the present paper were to examine the relations of narcissistic personality to Ss' present recollections concerning their parents' earlier attitudes and home environment. The Narcissistic Personality Inventory (NPI) revised by Miya-shita and Kamiji (1985), and three other questionnaires measuring mother's and father's attitudes together with the home environment were administered to 270 college students. Correlations were performed between NPI scores and the other three measures. The results showed that in case of females, a significant negative correlation was found between narcissism and the emotional acceptance of the mother : such result supported the theory of narcissism. In the case of male subjects a significant positive correlation was found between narcissism and the father's dominating attitude. With such a result, it was suggested that the father could not be neglected in the theory of narcissism.
著者
加藤 司
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.225-234, 2000-06

本研究の目的は, 友人関係を起因としたストレスフルなイベント, すなわち, 対人ストレスイベントに対するコーピングの個人差を測定する対人ストレスコーピング尺度(Interpersonal Stress-Coping Inventory;ISI)を作成し, その信頼性と妥当性を検証することである。因子分析の結果から, ISI(34項目)はポジティブ関係コーピング(16項目), ネガティブ関係コーピング(10項目), 解決先送りコーピング(8項目)の3つの下位尺度から構成されていることがわかった。信頼性に関しては, 内的整合性がα=.79-.87, 再検査法による信頼性係数がγ=.86-.92であった。妥当性に関しては, 内容的妥当性, 及びラザルス式ストレス・コーピング・インベントリー、尾関のストレス反応尺度, 抑うつ傾向を測定するCES-D, 友人関係に関する満足感との比較による構成概念妥当性の検証がなされた。その結果, 妥当性に関して幾つかの課題が残るものの, ISIの信頼性と妥当性を確認することができた。
著者
一柳 智紀
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.373-384, 2009-09-30
被引用文献数
1 2

本研究の目的は,児童の聴くという行為および学習に対する教師のリヴォイシングの影響を明らかにすることである。小学5年生2学級の社会科を対象に,直後再生課題と異なるタイプの問題からなる内容理解テストを行った。結果,話し言葉ならびに板書を伴う教師のリヴォイシングが,児童に発言を自分自身と結びつけて聴く機会を与え,聴くという行為を支援していることが明らかとなった。さらに教師のリヴォイシングの違いが,話し合いの中で1)何を,2)どのように聴くかという,聴くという行為の2つの側面に影響を与え,児童の内容理解の仕方にも影響することが明らかとなった。リヴォイシングにより発言児が主題に沿って位置づけられる学級では,児童が話し合いの流れを捉えて聴いており,授業内容を授業の文脈に沿って統合的に理解していた。一方教師のリヴォイシングが位置づけの機能を持たないもう一方の学級では,リヴォイシングにより個々の発言内容が明確化されており,児童は発言の「著者性」を維持したまま自らの言葉で捉えて発言を聴いていた。テストにおいても後者の学級の児童は授業内容を自らの言葉で積極的に捉え直せるように理解していた。