著者
中谷 素之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.389-399, 1996-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
3 3

The purpose of this study was to examine the motivational processes of how social responsibility goal influences academic achievements. In the first study, social responsibility goal scale and academic goal scales were developed. Those scales were administered to 591 4th through 6th graders and the reliability was certified. The second study aimed at examining the effects of these goals on motivational processes and academic achievements. In addition to the above two kinds of goal scales, children's classroom behavior inventory and questionnaires on their interests and motivation to school subjects were administered to 238 4th through 6th graders. Also, teachers were asked to rate the strength of children's interests and motivation to school subjects, children's academic outcomes, and the degree of teachers acceptance of the children. A path analysis revealed that both social responsibility and academic mastery goals influenced academic achievements. However, it also revealed that only social responsibility goal was mediated by teachers' acceptance of the children. The unique motivational processes in the classrooms related to children's social responsibility goal were discussed.
著者
森 二三男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3-4, pp.152-158,258, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
9
被引用文献数
1

この研究は, G. S. R.による情緒測定の応用的方法として, テレビドラマを心理的刺激条件としたとき, 被験者を集団的に測定して, その結果を考察したものであつて, G. S. R.のgroup measurementのひとつの試みとして妥当な資料がえられるかどうかを検討したのである。みいだされた結果を要約すると次のようになる。1テレビドラマ視聴時における個人被験者のG. S.R.を測定し, その記録を反応値によつて整理した結果, このドラマ内容の刺激因子に対応する反応として, 被験者の情緒表出をG. S. R.によつてとらえることができた。2個々の被験者の皮膚電気抵抗値を, 直流電気抵抗とみて, これを並列に接続した回路構成によつて, 合成抵抗値を1人の被験者のそれと等しくし, 集団的にG.S. R.を測定した場合, R値を指標として記録を分析するならば, 妥当な資料として集団測定の記録を分析することができた。3テレビドラマを刺激因子として, 上述の集団測定方式によつて集団G. S. R.を測定し, その記録をR値によつて集計整理した結果, 刺激因子に対応する被験グループの, 集団的情緒表出をとらえることができた。被験者個々の反応波自体のパターン, 発現時点, 反応時, 潜時等にはそれぞれ個人差があるが, R値による集計の結果, この指標が妥当かどうかを, 実験後に, 同時記録したテープを再生聴取させて再検討した結果, ドラマの刺激因子と集団G. S. R.値には対応があると判断された。4したがつて, テレビ, 映画等の視聴時における感動を集団的に分析したり, 宣伝, 広告等の効果を集団的に判定する場合, 集団G. S. R測定の記録をRによつて整理して, 心理的な刺激因子を明らかにしようとする試みは, 妥当な方法であると判断してよい。最後に, この実験研究に当たつて, 奥田教授, 狩野教官の御指導御助言に導かれたことを感謝していると同時に, 教室の諸学兄の御協力を謝したいと考えます。
著者
河内 清彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.471-479, 1999-12-30

本研究では,視覚障害学生との交流に対する非障害学生の自己効力を測定するための20項目からなる「キャンパス内交流自己効力尺度(CISES)」を作成した。このCISESによる調査を375名(男子143名,女子232名)の非障害大学生に実施し,その信頼性と妥当性を検討した。因子分析の結果,河内・四日市(1998)の研究で見いだされた2因子と完全に内容が一致した2因子が抽出された。そこで,各因子を代表する10項目からなる「交友関係」と「自己主張」という下位尺度を構成した。下位尺度の再検査信頼性係数はそれぞれ0.778と0.814,Cronbachのα信頼性係数はそれぞれ0.868と0.851であった。また,下位尺度の第1主成分寄与率は,それぞれ47.0%と43.6%で,いずれも満足すべき値であった。G-P分析の結果も,全項目が有意であり,弁別力が確認された。一方,両下位尺度は,視覚障害者との交流に対する当惑の程度を表わす「交流の場での当惑」尺度と負の,また視覚障害者に対する支援意欲と正の関係があり,併存的妥当性が認められた。「交友関係」の下位尺度では,ボランティア活動へのポジティブイメージを表わす「貢献スケール」と正の,またネガティブイメージを表わす「偽善視的スケール」と負の有意な相関関係があったのに対し,「自己主張」の下位尺度では,視覚障害者の能力の過大視の程度を測る「特殊能力」尺度と負の有意な相関関係があった。このことから,両下位尺度の違いが明らかとなり,構成概念妥当性が示された。さらに,両下位尺度は,ボランティア活動参加経験との間にも有意な関連が得られ,基準関連妥当性を示すものと解釈した。
著者
田中 宏二 小川 一夫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.171-176, 1985-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13

The purpose of the present study was to analyze the influence of father's occupation on career choices of their children in connection with children's inheritance of their father's occupation. The subjects were children whose father's occupation has long been either school teacher (n=267), or college professor (n=363), or architect (n=153). The main results were as follows. 1) Compared with the ratios of eldest children choosing any of the three occupations mentioned above other than the father's, those entering the same as their father's weresignificantly high. 2) As for the environmental models as in Holland's theory, the relationships existing between father and son together with father and daughter, was related to his hypothesis. 3) Using the quantification method II as a method of determinant analysis in the process of occupational inheritance, parental expectation and identification, the age of a child and its educational background was found to contribute largely to decide upon its occupational inheritance.
著者
岡安 孝弘 嶋田 洋徳 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.302-312, 1993-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
6 18

The purpose of this study was to investigate the effects of the expectancy of social support in junior high school students on school stress. 917 boys and girls, from 1st to 3rd grade, completed the Scale of Expectancy for Social Support (SESS), the School Stressor Scale, and the Stress Response Scale. The results indicated that (a) the SESS had a single-factor structure,(b) social support alleviated school stress more effectively in girls than in boys,(c) the alleviation effects of social support were dependent on the differences of stressful events, support resources, or stress responses, and (d) father support, which was less expected than mother support, was the most effective in alleviating stress responses in girls, but not in boys, Finally, the implication of social support for school stress process was discussed.
著者
住吉 チカ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.75-84, 1996-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
3

The aim of this study is to examine a role of kusho behavior in remembering English spellings. Japanese and Chinese subjects were given the task of verifying English spellings. In experiment 1, kusho behavior was observed among the majority of Japanese subjects. Furthermore, two types of kusho behavior were observed. One was the type gazing at their fingers during the task while the other was a non-gazing type. In Experiment 2, two groups were arranged according to their frequency of kusho behavior, in order to compare frequency of kusho behavior and its type. The esult showed that medium-high frequency group showed kusho behavior as frequently as Experiment 1, even though the task words were all phonetically discriminable. The medium-high frequency group showed no gazing and low frequency group made the only gazing type. Experiment 3 was done to clarify whether Chinese speakers, who use Chinese characters and obey a rich phonological system, would show kusho behavior in remembering English spellings. Kusho behavior was also observed among Chinese subjects, though their kusho behavior was all gazing type.
著者
菊地 一彦 中山 勘次郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.254-264, 2006-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

中学生は, 英語学習の中で特にリスニング活動に対して苦手意識を持つ傾向が強い。このため本研究では,“生きた”英語に接する機会を提供する外国映画 (ここでは英語話者の俳優によって会話される映画をさす) を, 教材として用いることが試みられた。外国映画は, リスニングする場面に魅力的な文脈を与え, また英語表現に対する様々な発見をもたらすことを通じて, 英語リスニングへの内発的興味や挑戦意欲を喚起し, 学習を促進すると予測された。実際の外国映画の一場面を視聴する条件の他, 同一内容を静止画とALTによる吹き替えで提示する条件, 日常場面での会話に置き換えてALTが演じる条件の3つの教材が比較された。その結果, 外国映画群は教材への興味や有能感が最も高かっただけでなく, 教材を用いた家庭学習にも自発的に取り組み, さらにリスニング得点も他の群より向上していた。これらの結果は,“生きた”英語に接する機会を提供し, 内発的興味を喚起する諸要因をも備えた外国映画を, リスニング教材として用いることの有効性を支持するものであった。
著者
守屋 慶子 森 万岐子 平崎 慶明 坂上 典子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.205-215, 1972-12-31
被引用文献数
1

自己認識の発達を明らかにするために11人の小学生の作文を1年生から5年生まで追跡し,分析してみた。その結果,次のようなことが明らかになった。(a)自己の認識は,他を媒介として可能になる。(b)自己の認識は,はじめは外面的なもの(行動)の認識にとどまるが,次第に内面的なもの(意識内容)の認識が可能になる。(C)自己の認識は,まず現在の自己の認識から始まり,ついで,過去の自己の認識が可能となる。その結果,変化するものとして自己を認識することができる。(d)自己の認識は,個人としての他を媒介として始まるが,次第に,集団としての他を媒介にして深まり,そして,集団の中の個としての自己の認識へと進む。
著者
西村 邦子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.168-178,192, 1963

非行者の理解から矯正・予測・健全育成までを結ぶ一連の研究過程の出発点として, 非行少年に特徴的な気質のパターンを集団的にも個人的にもとり出す目的で本研究は計画された。そのために実験的方法が用いられ, 12 の気質, その他の項目3について知能テストを含めて40 のテストが実施された。被験者は, 非行群として横浜少年鑑別所収容少年30名, 統制群として日本鋼管従業員教習所生徒20名, 橘学苑女子高等学校生徒10名, 計60名であつた。その結果, 非行群と統制群とを比較した場合, 以下の18項目のテストについて特徴的な差異が見出された。すなわち, 1. Embedded pattern, 2問題解決 (迷路), 3. 問題解決 (3語の類似), 4. 数暗示テスト, 5. 焦躁反応検査, 6. ラッキ―パズル (欲求不満の耐性) 7. G. S. R., 8. Aircraft range test,9. 犬→猫, 10 猫→ネズミ, 11. 円→四角, 12分類, 13. タッピング 14. Sears-Hovland test, 15. ラッキ―パズル (持続性), 16. ラッキ―パズル (おちつきのなさ), 17. わなげ, 18. 桐原一Downeyテスト-6 (正確さへの欲求), である。
著者
石井 怜子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.498-508, 2006-12-30

本研究は,図表呈示と未完成図表の完成タスクが第二言語の読み手の説明文理解に及ぼす影響を検証した。第二言語学習者は,中〜上級になっても言語処理になお困難があり,認知資源容量の制約から,読む過程で結束的なテクスト表象を形成することが難しい。図表は第二言語の読み手の言語処理の負担を減じ,外的表象として,テクスト中のアイデアの記憶保持とその統合を助けると予想される。実験参加者は成人中級後半日本語学習者40名で,実験計画は図表呈示群・未完成図表完成群・統制群の被験者間要因計画である。約1800字の歴史説明文を用い,母語による筆記再生を,テクスト構造における階層及びテクストの冒頭から終結部に至る全体把握の2つを指標にして分析した。結果は,中位階層とテクスト後半部で,呈示群が統制群より有意に多く再生した。図表の呈示は,重要なアイデアを選び取り構造化するのを助けることが示唆された。他方,完成群は上位のアイデアの再生が統制群より有意に低かった。図表完成タスクは,言語の表層レベルの処理に終わるような場合には,必ずしも理解を促進しないことが示唆された。
著者
伊藤 寛子 和田 裕一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.346-353, 1999-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23

本研究では, 非漢字圏日本語学習者の漢字の記憶表象の特性について, 自由放出法を用いて検討した。漢字能力が異なる外国人 (初級者, 中級者, 上級者) および口本人に, 思いついた漢字を15分間できるだけ多く書くように求め, その後, 各々の漢字の想起に用いられた手がかりが何であったかについての質問をした。この手がかりの内容を検討した結果, 初級者の漢字の記憶検索には意味手がかりよりも形態手がかりが多く用いられるが, 漢字能力の向上に伴って形態手がかりより意味手がかりのほうが多く用いられるようになることが明らかになった。この結果は, 第二言語の語彙表象と概念表象との間の直接的な結び付きの程度の変容という点から議論された。また, 日本人よりも外国人の検索において, 部首よりも小さな漢字の構成要素が形態手がかりとして用いられることが多いこと, さらに, 外国人の形態手がかりには, 書き順から考えて不自然な取り出し方をした漢字の部分があることが示された。これらのことは, 外国人の漢字の記憶には日本人とは異なる形態的記憶表象が存在することを示唆するものであると考えられる。
著者
伊藤 裕子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.84-87, 1981

本研究は女子青年の性役割意識を多次元的に捉え, その構造を明らかにすることが目的であった。取り上げた指標は, 性度, 性役割観, 職経歴選択, 性の受容の4変数で, 136名の女子学生を被調査者として数量化理論III 類による検討を試みた。結果は以下の3点にまとめられる。<BR>1. 得られた軸は第2根までで, 第1軸は〈男性的-女性的価値〉の次元, 第2軸は〈両価的因子内在〉の次元であった。<BR>2. 第2根の第1根への回帰はきれいなU字型を示し, 尺度構成上有益な示唆を得た。<BR>3. 反応カテゴリーのパターンから3類型が導き出され, それらは男性的価値指向型, 女性的価値指向型, 個人内価値指向型であった。<BR>本研究で得られた基本次元および3類型は, 別の側面から検討された既婚男女の結果と基本的に通じるものであり, その存在の普遍性の一部を裏付けていた。
著者
須賀 恭子 波多野 誼余夫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.65-78, 1969-06-30

The present study aimed at investigating the acquisition process of number conservation by 2 training experiments. Ninety-eight 4-6 year-old children, who had been non-conservers at a Pre-test, served as Ss of Exp. I. Elghteen out of them could anticipate correctly changes of the number of a coliection under transfarmations including addition and subtraction and spatial rearran.gement of elements simultaneously. They were divided into a' gr. and b' gr. (Each had 9 Ss) The remaining 80 children could only antici-pate nuinerical changes without spatial rearrange-ment. They were clivided into a, b, c, d and e grs. (Each had 16 Ss) Each 2 children assigned to a' and b gr. did not participate in the training session. Five different training procedures were adopted : Practice in <)onflict situations with external reinfor-cement CSs of a and a' grs. received this method of training), Practice in conflict situations without external reinforcement (b and b''grs. ), Practice in reinforded conservation situations (c gr.), Practice in mixed situations with reinforcement Cd gr. ), and Practice in conflict situations without reinforcement+some auxiliary steps (e gr. ). Each training procedure consisted of 2 sessions of 24 trials, and was given Ss on 2 consecutive days.
著者
水谷 聡秀 雨宮 俊彦
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.102-110, 2015
被引用文献数
2

いじめ被害経験は心身状態に長期的な影響を及ぼす。従来の研究は, 子どもの頃のいじめ被害経験が後年における自尊感情や特性不安, 抑鬱, 孤独などに影響を与えることを示している。本研究では, いじめの発生状況をとらえ, 小学校と中学校, 高等学校のうちどの時期のいじめ被害経験が大学生のWell-beingに影響を与えるか, また自尊感情を媒介したWell-beingへの影響があるのかを検討する。そこで, 自尊感情, 主観的幸福感, 特性怒り, 特性不安, 各時期にいじめられた頻度について尋ねる質問紙を用いて大学生に調査を実施した。その結果, いじめ経験の頻度は高等学校よりも小中学校で高かった。パス解析により, 中学校や高等学校の頃のいじめ被害経験が大学生のWell-beingに影響を及ぼしていることを明らかにした。また, いじめ被害経験がWell-beingに直接的にも, 自尊感情を介して間接的にも影響を与えていることを見出した。これらの結果はいじめ被害経験が長期的に心的状態に影響を及ぼすことを支持するものである。
著者
南 雅則 浅川 潔司 秋光 恵子 西村 淳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.144-154, 2011
被引用文献数
6

本研究の目的は, 小学6年生の予期不安に関する調査を実施し, 中学校入学後の学校適応感との関連を検討することであった。小学生の予期不安は, 16名の中学生を対象に実施された予備調査を経て開発された「中学校生活予期不安尺度」によって測定された。さらに学校適応感を測定するため, 浅川・尾崎・古川(2003)の「学校生活適応感尺度」が使用された。研究参加者は, 男子小学生195名, 女子小学生153名であった。学校生活適応感尺度の下位尺度において以下のような結果を得た。(1) 教師との関係得点に時期×予期不安水準×性別の2次の交互作用が見出され, 予期不安低群において4月末では男子よりも女子の方が高かったが, 5月末にはその差は見られなかった。また, 予期不安高群において4月末では男子と女子の得点に有意差は見られなかったが, 5月末では男子よりも女子の方が高かった。(2) 情緒的安定性得点は, 予期不安水準の「低群」, 「中群」, 「高群」の順に高かった。(3) 部活動への意欲得点は, 4月末から5月末にかけて低下していた。以上の結果をふまえ, 学校心理学における個人&mdash;社会的発達の支援の視点から考察がなされた。
著者
大久保 智生
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.307-319, 2005-09
被引用文献数
1

本研究の目的は, 個人-環境の適合性の視点から適応状態を測定する青年用適応感尺度を作成し, その信頼性と妥当性を検証すること(研究1), 作成された適応感尺度と学校生活の要因(友人との関係, 教師との関係, 学業)との関連を検討すること(研究2)であった。研究1では中学生621名, 高校生786名, 大学生393名が, 研究2では中学生375名, 高校生572名が調査に参加した。作成された尺度の因子分析の結果から, 従来の適応感尺度の因子とは異なる「居心地の良さの感覚」, 「課題・目的の存在」, 「被信頼・受容感」, 「劣等感の無さ」の4因子が抽出された。また尺度の信頼性と妥当性を検討したところ, 個人-環境の適合性の視点から作成された適応感尺度は, 十分な信頼性と妥当性を有していると考えられた。学校生活の要因と適応感との関連について重回帰分析を用いて学校ごとに検討した結果, どの学校においても「友人との関係」が適応感に強く影響を与えていた。一方, 「教師との関係」, 「学業」と適応感の関係の構造は学校ごとに異なっていた。以上の結果から, 青年の学校への適応感について, 各学校の特徴を踏まえた上で研究を進めていく必要性が示された。
著者
細田 絢 田嶌 誠一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.309-323, 2009
被引用文献数
5

本研究の目的は中学生の自己肯定感, 他者肯定感と周囲からのソーシャルサポートとの関連を検討することであった。ソーシャルサポート内容として, 直接的にストレスには焦点を当てないが結果的に援助的な効果をもたらす共行動的サポートに焦点を当て, サポート源は父親, 母親, 友人, 教師の4者とし, 中学生305名を対象に調査を行った。サポート源とサポート内容の2点から検討した結果 (1) 自他への肯定感の高い中学生の方が両親からのサポート得点が高いこと, (2) 友人からのサポートは自己肯定感に関連していること, (3) 教師からの道具的サポートにおいて, 男子と女子では自己肯定感の高さによってサポート量の知覚に差があること, が明らかになった。全体として両親からのサポートの重要性と, サポート関係の性差が確認された。また教師以外のサポート源において自他への肯定感の高い中学生の方が共行動的サポートの得点が高く, 親子間や友人間での共行動的サポートの有効性が示された。加えて新たに, 父親による間接的なサポートの効果が示唆された。
著者
大谷 和大 岡田 涼 中谷 素之 伊藤 崇達
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.477-491, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
48
被引用文献数
11

本研究は, 学級で強調される社会的な目標である, 「学級の社会的目標構造」に焦点をあて, 学級の社会的目標構造が, 児童の学習における動機づけに関連するプロセスを検討することを目的とした。研究1では, 小学5, 6年生, 289名を対象に, 向社会的目標構造と規範遵守目標構造から構成される学級の社会的目標構造尺度を作成することを目的とした。その結果, 本研究で作成された尺度は, 一定の信頼性を有し, 既存の学級環境を測定する尺度と概ね予想される関連を示したことから, 妥当性の一部を有すると考えられた。研究2では, 小学校23校(117学級)に所属する小学5, 6年生合計3,609名を対象に, 学級レベルと児童レベル双方において, 学習動機づけに関連するプロセスを検討した。その結果, 両レベルにおいて, 向社会的目標構造は相互学習を通じ内発的動機づけおよび, 自己効力感と関連することが示された。一方, 規範遵守目標構造は児童レベルにおいてのみ, 有意な媒介効果を示したものの, その値自体は小さなものであった。本研究の研究・教育実践上の意義について論じた。
著者
中井 大介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.359-371, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
29
被引用文献数
5

本研究では, 自己決定理論による中学生の教師との関係の形成・維持に対する動機づけを測定する尺度を作成し, 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対する信頼感との関連を検討した。中学生483名を対象に調査を実施した。第一に, 探索的因子分析を行い「教師との関係の形成・維持に対する動機づけ尺度」を作成した結果, 「内的調整」「同一化」「取り入れ」「外的調整」の4因子構造であることが明らかになった。第二に, 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対する信頼感との関連を性別に検討した。その結果, (1) 「自律的動機づけ」が担任教師に対する信頼感と正の関連, (2) 「統制的動機づけ」が負の関連を示すこと, (3) その関連の様相は性別に違いがみられることが明らかになった。(4) また, 教師との関係に対する動機づけで調査対象者を類型化した結果, 統制的動機づけの高い類型の生徒, すべての動機づけが低い類型の生徒の担任教師に対する信頼感が低いことが明らかになった。以上, 本研究の結果から教師と生徒の信頼関係は, 教師側の要因と生徒側の要因が相互作用を繰り返すことで次第に親密になっていく過程である可能性が示唆された。