著者
文野 洋
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.498-509, 2008-12

本研究では,小笠原村父島で行われたエコツアーの参与観察を行い,ツアー参加者へのインタビューにおける語りを社会文化的アプローチによって検討することにより,環境の学びのプロセスの特徴を明らかにした。持続可能性のための教育の視点からエコツアーにおける環境の学びの4つの側面を導き,これらがいかに語られるかを,ツアー経験の参照,他者の言及に焦点づけて分析した。その結果,1)エコツアーにおける環境の学びのきっかけとなるツアー経験の内容は一様ではなく,各参加者はさまざまな活動において学びを触発されていること,2)自分自身の生活環境を含む地域環境の持続可能性に関する語りは,交流を通じて見通すことが可能になった,エコツアーの活動に従事する人びとの小笠原の地域環境に対する認識や保護に取り組む姿勢を媒介としてなされることが示された。この結果から,エコツアーにおける環境の学びは,単線的なプロセスモデルでは適切にとらえられないこと,各参加者の学びのプロセスを把握する上で社会文化的アプローチが有効であることを論じ,最後に本研究の知見がエコツアーのプログラム編成に与える示唆について考察した。
著者
水本 深喜
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.111-126, 2018-06-30 (Released:2018-08-10)
参考文献数
36
被引用文献数
8

本研究では,青年期後期にある子が捉える親との関係について「精神的自立」と「親密性」から捉え,それらの父息子・父娘・母息子・母娘関係の差を明らかにした。首都圏の大学生に質問紙調査を行い,まず「親子関係における精神的自立尺度」および「親への親密性尺度」を作成した(分析Ⅰ)。これらの尺度を用いて親子関係差を分析すると,娘が捉える母親との関係は,他の組み合わせの親子関係と比較して信頼関係が高く,親密性が総じて高かった。加えて,娘は父親とは分離した認識を強く持っていた(分析Ⅱ)。精神的自立と親密性との関連をみると,親子関係の組み合わせにより,親との信頼関係の築き方が異なっていた(分析Ⅲ)。最後に「信頼関係」と「心理的分離」の2軸による親子関係の4類型を用い,親との関係が子の自尊感情,自律性,主体性に与える影響について検討すると,父親との関係においては,心理的に分離することが,子の適応や発達を高めていた。自尊感情において性差が見られ,母親と信頼関係を築かないままに心理的に分離している場合の娘の自尊感情は低かった(分析Ⅳ)。総合考察では,これらの検討から明らかになった親子関係の性差について論じた。
著者
勝井 晃
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.42-49, 1968-03

立体空間における方向概念の発達過程を明らかにするために,3才から11才までの児童を対象とし,かれらが上下・前後・左右のコトバ自体をその空間方向や対象物においてどのように把握しているかを発達的に検討した結果,下記の諸点が明らかにされた。 1. 自己身体を基準とした空間方向に対する客観的な理解の水準は各方向によって異なり,発達的にも明確な差が認められた。すなわち,上下方向は年令的にもっとも早く3∼4才において理解され,ついで前後方向が5∼6才において,さらに遅れて左右方向は7∼8才においてほぼ正確となる(Fig. 4)。 2. 方向判断の基準を対面人物に移動させたり,姿勢条件を変化させた場合には視点の移動が困難となり,多くの自己中心的な誤りを示す。この傾向は6才ないし7才までの児童において顕著であった(Table 2)。 3. 自己身体の左右および対面人物自体の左右に対する理解においても発達的に明確な差が認められ,年令的にみて両者間にはほぼ2年近くのずれが存在する。とくに,自己と対面者との相対的な逆関係が理解しうるのは8才ないし9才においてである(Fig. 4)。 4. 面前に定置された2個および3個の対象物相互の左右関係の理解において,3個の場合は,2個の場合にくらべてその相対的な関係判断が困難となる。発達的にみて7才ないし8才までは自己身体の左右を基準として絶対的判断をする傾向が強く,10才ないし11才において視点の移動が可能となり,対象物相互の相対的な左右関係が理解されうるようになる(Fig. 5)。 5. 自己と対面人物および対象物相互間の左右関係に対する理解能力と知能水準との間には正の相関関係が認められ,また,各被験者群間における地域差,学校差が認められた(Table 7, Table 8)。
著者
宮本 美沙子 福岡 玲子 岩崎 淑子 木崎 照子 中村 征子
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.139-151,189, 1964

児童の興味を, 単に興味の種類や領域の実態をとらえるだけでなく, 条件場面を設定し, そこから展開する知的興味の種類と深さが, 児童の能力や内的成熟により, 興味の展開にどのような機能をもつて働きかけるのか, その質的なありかたを分析究明する方法を開発することを目的とした。<BR>まず, 児童の知的興味がどのような方向にあるのかを知る手がかりを得るため, 予備研究として, 小学2・3・4年児約850名を対象に疑問調査を行なつた。その結果児童の疑問の種類11項目を選出した。<BR>予備研究によつて得た項目の, それぞれの内容を代表するテーマを選び, 写真および絵により11枚の図版を作成した。小学3年児男子20名, 女子20名, 計40名を対i象に, 個人面接法により図版を提示し, 「知つているごと」「知りたいと思うこと」の2面から, 知的興味の展開を自由に口述させた。<BR>児童の知的興味の展開を, その反応を種類別に分類するのでなく, なぜ知的興味をもつに至つたのか, 児童の考えかたの展開の面から, 児童の反応の質的差異を中心にして分類し, 次の6分類項目を選出した。すなわち,(1)画面の説明 (画面に固執してそれ以上に発展しないもの),(2)自分の感情・感じていること,(2)自分の経験 (2)および(3)は, 画面からやや離れた考えかたをしていながら, 自分というわくから脱け出せないもの),(4)単に事象・現象のみをとらえた考えかた (画面から発展し, 目に見える現象や事象を, そのものの分類・性質・定義の面からとらえているもの),(5)事象・現象の原因や起る過程をとらえた考えかた (4)よりは発展しているが, まだ機能的な考えかたとしては説明不十分なもの),(6)事 象・現象を, 子どもなりに機能的にとらえた考えかた (現象を機能的に把握して考えを進めているもの) の6 分類項目が設定された。<BR>各個人のなまの反応を, 各図版ごとに上記の6つの分類項目にはめて区分整理し, 1枚の表に全貌がわかるように書きこみ, 個人の知的興味の展開が一目でとらえられるようにした。<BR>児童の反応の結果を,(1) 分類項目別, 図版別,(3) 男女別,(4) 学業成績との関係, から考察した。<BR>その結果, 小学校3年児は多くの疑問をもつており, その領域も広範囲にわたつていることがわかつた。また知的興味の展開には個人差がみられた。この年令では, おおむね物事を事象や現象の原因や起る過程をとらえた考えかたをする傾向があり, 興味の集中したテーマからみると, 知的興味の方向が社会へと拡大している姿がみられた。この研究からは知的興味における男女差はみられなかつた。知的興味の展開における発達的段階と学業成績の良さとは, 必ずしも平行していなかつた。このことから, 適切な指導と教育により, 児童の疑問や興味をとおして, 学業成績などには現われない児童の潜在的な能力をのばしうることが, 可能であるし必要であると思われる。また教科の内容のありかたを検討し, 指導の方針を考えてみることも必要であると思われる。いいかえれば, 児童の興味・関心を, より総合的, 体系的に方向づけることにより, 断片的な興味としてとどまるだけでなく, 学問的な態度へと発展させてゆく可能性もあるものと考えられる。<BR>以上の結果から, 児童の知的興味の展開をこのように質的に分析することにより, いままでに接近できなかつた角度を究明することができると考えられる。
著者
高坂 康雅
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.338-347, 2010
被引用文献数
3

本研究の目的は, 青年の友人関係における"異質な存在にみられることに対する不安"(被異質視不安)と"異質な存在を拒否する傾向"(異質拒否傾向)について, 青年期における変化と, 友人関係満足度との関連を明らかにすることであった。中学生260名, 高校生212名, 大学生196名を対象に, 被異質視不安項目, 異質拒否傾向項目, 友人関係満足度項目について回答を求めた。被異質視不安項目と異質拒否傾向項目をあわせて因子分析を行ったところ, 「被異質視不安」と「異質拒否傾向」に相当する因子が抽出された。友人関係満足度を含めて, 青年期における変化を検討したところ, 異質拒否傾向は変化せず, 被異質視不安は減少し, 友人関係満足度は高校生女子が低いことが明らかとなった。さらに, 異質拒否傾向, 被異質視不安, 友人関係満足度の関連をパス解析にて検討した結果, 女子及び高校生男子において, 異質拒否傾向が友人関係満足度を低め, 大学生男子以外で, 異質拒否傾向が被異質視不安を高め, さらに, 高校生女子と大学生男子において, 被異質視不安が友人関係満足度を低めていることが明らかとなった。
著者
阿部 健一
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.73-77, 1988

The development of 3 to 6-year-old children's orienting activity was investigated by examining the accuracy of their estimation as to whether they could jump over an object. Sixty children in each age group were put into three different conditions of jumping. In Standard Condition, the children stood in front of a white line and stepped back as far as possible from where they judged to be able to jump and then were to jump from there. In Physically Loaded Condition, the children performing under the same condition as described above except for a cushion they were to hold in their arms. In Objectively Loaded Condition, the similar procedure was employed except that the children had to jump on a 30&times;30cm-mat whithout falling out of it.Analyses of the discrepancy between their estimation and actual performance showed that (a) orienting activity developed all through the 3 to 6 year-old bracket, and (b) 6-year-old children's orienting activity was shown differenciating according to conditions.
著者
原田 唯司
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.12-21, 1982
被引用文献数
2

本研究は, まず最初に, 青年期における政治的態度を測定する視点として, 保守的, 革新的それぞれの態度を仮定し, その年齢や性別による差異を知ろうとした (調査1)。次に, 調査IとNHK調査 (1978) の結果の矛盾を解釈するために, 面接調査を実施した (調査II)。<BR>調査Iと調査IIの結果に基づいて, 政治的態度をとらえる視点として, 政治志向 (保守的-革新的) と政治への関与 (積極的-消極的) の両側面を設定した。そして, それぞれの測定尺度を作成し, さらに, 政治的態度に関連する要因を明らかにするために, 質問紙調査を行った (調査III)。<BR>本研究で得られた結果は以下のようである。<BR>1. 青年の政治志向はかなり革新的であり, 保守的傾向は弱い。また, 年齢とともにより革新的傾向が強まり, 保守的傾向は弱まる。<BR>2. 政治的態度には, 政治的関心, 投票やデモ, 陳情の有効性の感覚, 政治的な団体への好意や興味, 社会をよくするための活動などの要因が関連している。社会統計学的要因はあまり関連を持たない。
著者
平石 賢二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.320-329, 1990-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
50
被引用文献数
3 3

In the present study, the structure of self-consciousness as an index of psychological health in adolescence was examined. At first, items were gathered using data from clinical case studies on adolescents in order to develop a questionnaire apparatus. It consisted of four subscales which were categorized in terms of two axes (toward others-toward self and healthy-unhealthy). The questionnaire was subsequently administered to 537 high school students and 386 undergraduate students. The result of a two-step hierachical principal component method (principal component analysis -oblique promax rotation) showed three primary components at each subscale and two higher components. The two secondary components were named “sense of self -establishment” and “sense of self-diffusion,” and these components were considered as an index of psychological health in adolescence.
著者
中井 大介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.263-275, 2018-12-30 (Released:2018-12-27)
参考文献数
23
被引用文献数
5

本研究では,教師との関係の形成・維持に対する動機づけと,教師への援助要請場面における利益とコストの予期,および相談行動との関連を検討した。中学生288名を対象に質問紙調査を実施した。第一に,担任教師との関係の形成・維持に対する動機づけが担任教師に対する相談行動の利益・コストの予期を媒介し,担任教師に対する相談行動に及ぼす影響を性別に検討した。その結果,(a)「内的調整」「同一化」といった自律的動機づけが主に相談実行の利益の予期と正の関連,「取り入れ」「外的調整」といった統制的動機づけが主に相談実行のコストの予期と正の関連を示すこと,(b)その関連の様相は性別によって異なること,(c)主に自律的動機づけである「内的調整」が相談行動と正の関連,相談回避の利益の予期である「問題の抱え込み」が相談行動と負の関連を示すことが明らかになった。(d)また,動機づけで調査対象者を類型化した結果,すべての動機づけが高い「高動機型」は,他の類型に比べ相談実行の利益の予期が高い傾向にあるだけでなく,相談実行のコストの予期も高い傾向にある中で,より相談行動の得点が高いなど,類型によって援助要請の特徴が異なる可能性が示唆された。
著者
榊原,彩子
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, 2004-12-30

絶対音感の発達には臨界期が存在し, 6歳を超えると絶対音感習得が困難であることが指摘されている。加齢にともなう変化が絶対音感の習得可能性を減じていると考えられるが, 本研究では年齢の異なる幼児(2歳児4名, 5歳児4名)に対し, 同一の和音判別訓練法による絶対音感習得訓練を実践して彼らの絶対音感習得過程を縦断的に明らかにし, 年齢によって習得過程の様相も異なるのか調べることで, 加齢にともなう変化を検討した。音高という属性に「ハイト」と「クロマ」の2次元があるという考えに従えば, 絶対音感とはクロマの特定能力であり, その習得とはクロマの参照枠形成とみなせる。訓練課題のエラーから聴取傾向を記述すると, 習得過程中, 年少児は早い段階でクロマに着目し, 全体的にクロマ次元を重視した聴取傾向を示したのに対し, 年長児はクロマ次元の利用が少なく, 一貫してハイト次元に依存した聴取傾向を強く示した。加齢にともなう変化として, クロマ次元に依存する傾向が減じ, 逆にハイト次元に依存する傾向が増すという変化が示唆され, クロマの参照枠形成である絶対音感習得が, 加齢により不利になる様が示された。
著者
香川 秀太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.167-185, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
37
被引用文献数
1 1

本研究は, 従来の学内学習と現場実践との関係に関する議論を, 状況論の立場から検討し, 従来の徒弟制重視説や学内学習固有機能説に代わる, 緊張関係説を示した。これに基づき, 学内学習から臨地実習への看護学生の学習過程を調査した。学内学習を経て臨地実習を終えた学生に半構造化面接を行い, グラウンデッドセオリーアプローチによる分析を行った。その結果, 看護学生は, 学内学習では, 教員の指導にかかわらず, 架空の患者との相互行為を通して, ほぼ教科書通りの実践にとどまっていた。しかし, 臨地実習で, 本物の患者や看護師との, 学内とは異なる相互行為を通して, 教科書的知識を「現場の実践を批判的に見せるが柔軟に変更もすべき道具」と見なすように変化した。これを本研究では, 学内-臨地間の緊張関係から生まれる, 第1の学内学習のみにも, 第2の臨地での学習にも還元できない独特な知識, つまり「第三の意味(知)」ないし「越境知」として議論した。また, 学内と臨地の各場面での相互行為過程を, 「異なる時間的展望同士が交差・衝突し変化する過程(ZTP)」として考察した。最後に, 結果に基づき, 省察やリアリティ豊かな学習を促進する, 「越境知探求型の学習」を提案した。
著者
内田 照久
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.1-13, 2005-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
5 6

音声中の実音声区間と休止区間の時間配分と, 話者の性格印象, 音声の自然性との関係を検討した。パラグラフ・レベルの音声材料を用いて, 大学生581名を被験者として聴覚実験を行った。実音声時間長は, 性格印象, 自然性に特徴的な影響を与えていた。休止時間長の違いによる影響は比較的小さかった。実音声部の発話速度の変化に伴う性格印象の変化パターンは, Big Fiveの特性ごとに固有の2次回帰式で近似できた。勤勉性は速い発話で評価が高く, 遅くなると急峻に低下した。協調性では逆に, 速い発話で評価が低く, 遅い発話で高かった。外向性と経験への開放性はやや速い発話で評価が高く, より速くても遅くても下降した。情緒不安定性には影響は見られなかった。自然性はオリジナルの時間長で評価が最も高く, より速くても遅くても左右対称の形状で低下した。これらのことから音声の変換に伴う自然性の低下の影響は皆無とは言えないまでも, 性格特性ごとの独自性が確認された。この結果は, 性格印象全体の複雑な変化を捉えるために, 音声の時間構造の変化に応じて性格特性ごとに特性値を近似関数で推定し, その推定値を組合せて全体像を捉えるというモデルを支持するものであった。
著者
卜部,敬康
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, 1999-09-30

本研究の目的は,授業中の私語の発現程度とそこに存在している私語に関するインフォーマルな集団規範の構造との関係を検討することであった。中学校・高校・専門学校の計5校,33クラス,1490名を対象に質問紙調査が実施され,私語に関するクラスの規範,私的見解および生徒によって認知された教師の期待が測定された。私語規範の測定は,リターン・ポテンシャル・モデル(Jackson,1960,1965;佐々木,1982)を用いた。また,調査対象となった33クラスの授業を担当していた教師によって,各教師の担当するクラスの中で私語の多いクラスと少ないクラスとの判別が行われ,多私語群7クラスと少私語群8クラスとに分けられた。結果は次の3点にまとめられた。(1)多私語群においては少私語群よりも相対的に,私語に対して許容的な規範が形成されていたが,(2)生徒に認知された教師の期待は,クラスの規範よりはるかに私語に厳しいものであり,かつ両群間でよく一致していた。また,(3)クラスの私語の多い少ないに拘わらず,「規範の過寛視」(集団規範が私的見解よりも寛容なこと)がみられた。これらの結果から,私語の発生について2つの解釈が試みられた。すなわち結果の(1)および(2)から,教師の期待を甘くみているクラスで私語が発生しやすいのではなく,授業中の私語がクラスの規範と大きく関わっている現象であると考察され,結果の(3)から,生徒個人は「意外に」やや真面目な私的見解をもちながら,彼らの準拠集団の期待に応えて「偽悪的」に行動する結果として私語をする生徒が発生しやすいと考察された。
著者
東 安子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.34-40,66, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
10

Purpose: Recent studies on the resumption of an interrupted task (8)(9)(10) conclude that the important factors which determine the resumption are subject's expectation as to whether he can succeed in that task or not, and the substitute value of the interpolated task.The purpose of this study is to test how these factors, success-expectation and substitute value work under different situational conditions.Subjects: Middle school girlsProcedures: Materials are several formboards constituting some simple geometrical figures (cf. figure. 1)Following two different situations are set up by instructions and the instructor's atmosphere.The two different situations are:A...free play situationB...test situationIn each situation, subject's free choice of task is examined after the following conditions:a. after successful experienceb. after failure experiencec. after interruption with expectation of suecessd. after interruption with expectatien of failuree. after being given similar and difficult interpolated taskf. after being given the different and uninteresting task (Kraepelin Test) as the interpolated taskg. After being given interesting puzzles as the interpolatad task.Results: Under the condition a, in the free play situation most subjects select the task which is different from the original task while in the test situation subjects tend to select the same or the similar task as the original successful one. Under condition b, in both situations A and B, subjects select the task which they failed at first.Condition c and d, in free play situation subjects tend to resume the original interuppted task, but in the test situation there is little tendency to resume.Under condition e, subjects resume the interrupted taskUnder condition f, subjects resume the interrupted task.Under condition g, there is scarcely any tendency to resume the interrupted task.Conclusion from these results, we see the factor of success and failure is effective only in the test situation. In the free play situation, subject's selection of task is not significantly influenced by the factor of success-failure. And from the results of e, f, g, we see there are some instances in which subject's resuming behavior seems to be independent of the substitute value of the interpolated task. For example, subjects often resume interrupted task after finishing interpolated task which i s supposed to have high substitute value while they do not resume even after be ng given the task which is supposed to have low substitute value but having different new kind of attractiveness in itself.The author conclude that the quality? and amount of the situational stress is the most importunt factor determining subject's selection of the task. We must first examine the dynamic character of the experimental situation. Without such examination, any formalization on the resumption of an interrupted task may be onesided.
著者
山内 香奈
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.383-392, 1999
被引用文献数
1

論文×評定者×観点という3相の論文評定データに, 多相Raschモデルと分散分析モデルを適用し, データの整合性の視点から問題となる特異な評定値の検出結果に関して両モデルを比較検討した。データとしては, 教育心理学の卒業論文の要旨25編を, 大学院生10人が5つの観点について5段階評定したものを用いた。特異な評定値の検出には, いずれのモデルにおいても, 実際の評定値とモデルから期待される評定値との残差が用いられる。得られた結果から, 評定値の特異性のタイプによってモデル間で検出精度にやや違いがみられるものの, 両モデルの残差は非常に高い相関を示し, 両者の性質はほぼ同じものであることがわかった。この類似性は, モデルの適合度を様々に変化させた人工データでも確認された。論文を含む交互作用を考えない多相Raschモデルとの比較のため, 分散分析モデルについては主効果モデルが用いられたが, 実際のデータにおいて論文×評定者の交互作用を調べたところ, 無視できないほど大きな交互作用があることがわかった。そこで, 論文×評定者の交互作用を含む分散分析モデルによって特異な評定値の検出を試みたところ, 主効果モデルでは複数の交互作用が相殺されたために検出できなかった特異な評定値を一部検出することができた。このように分析目的に応じて柔軟に交互作用をモデルに組み込めることや, 分析に必要なデータの大きさ, さらにソフトウェアの利用し易さなど, いくつかの点で分散分析モデルの方が多相Raschモデルより実用的に優れていると判断された。
著者
神崎 真実 サトウ タツヤ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.241-258, 2018-09-30 (Released:2018-11-02)
参考文献数
34
被引用文献数
4

本研究は,ボランティアと協働することで不登校者を受け入れてきた全日制高校Bで事例研究を行い,一次的援助サービスとしての学級復帰の支援体制について検討することを目的とした。B高校のオープンスペースで,ボランティアとしての参与観察を37回行い,生徒-教師-コーディネーター-ボランティア間の交流を記録し,各支援者の役割を分析した。結果,ボランティアは生徒の学習面,教師や親との関係,友人関係に関わり,中でも生徒同士の友人関係を支える役割を担っていた。コーディネーターは,ボランティアを支援者として位置づけ生徒の状況や支援目標を伝える役割と,支援者として位置づけず自分らしく関わってほしいことを伝える役割を担っていた。教員は,生徒の状況を見立て,授業参加とオープンスペースの滞在をめぐる調整を行っていた。こうした役割分担により,生徒はボランティアとともに様々な居方でオープンスペースに滞在し,多くは学級へ復帰した。結果をふまえ,各支援者の役割と一次的援助サービスとしての学級復帰について考察を行った。従来とは異なる学級復帰支援として,学内における生徒の多様な「居方」を保障する実践を示唆した。
著者
木村 優
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.464-479, 2010
被引用文献数
2

本研究の目的は, 授業における教師の感情経験と, 教職の専門性として説明されてきた認知や行動, さらに動機づけとの関連を検討することであった。高校教師10名に面接調査を実施し, グラウンデッド・セオリー・アプローチによるデータ分析を行った。その結果, 《感情の生起》という現象の中心概念が抽出され, (1) 教師は生徒の行為と自らが用いる授業方略に対して感情を経験し, (2) 状況により教師は異なる感情を混在して経験することが示された。そして, (3)教師が経験する感情の種類, 強さ, 対象によって, 《感情の生起》現象には, 心的報酬の即時的獲得, 認知の柔軟化・創造性の高まり, 悪循環, 反省と改善, 省察と軌道修正, という5つの過程が見出された。喜びや楽しさなどの快感情は教師の活力・動機づけを高めることで実践の改善に寄与し, さらに授業中では教師の集中を高めることで瞬間的な意識決定と創造的思考の展開を促進していた。一方, いらだちなどの不快感情は教師の身体的消耗や認知能力の低下を導くが, 苦しみや悔しさなどの自己意識感情は授業後の反省と授業中の省察に結びつき, 教師が実践を改善し, 即興的に授業を展開するのを可能にしていた。
著者
坂上,裕子
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, 1999-12-30

本研究では,人格特性と認知との関連を検討するため,大学生169名を対象に,個人の感情特性と図版刺激における感情情報の解釈との関連について調べた。感情特性の指標として,5つの個別感情(喜び,興味,悲しみ,怒り,恐れ)の日常の経験頻度を尋ねた。また,感情解釈の実験を行う直前に,被験者の感情状態を測定した。感情解釈の課題としては,被験者に,人物の描かれた曖昧な図版を複数枚呈示し,各図版について,状況の解釈を求めた上で登場人物の感情状態を評定するよう求めた。両者の関連を調べたところ,喜びを除く全ての感情特性と,それぞれに対応した感情の解釈との間に,正の相関が認められた。すなわち,被験者は,自分が日頃多く経験する感情を図版の中にも読みとっていた。また,特定の感情(悲しみと怒り,恐れと悲しみ,恐れと怒り)については,感情特性と感情解釈との間に相互に関連が認められた。感情特性と感情解釈の相関は,感情状態の影響を取り除いてもなお認められたことより,感情特性は,感情状態とは独立に個別の感情に関する認知と関連を持っていることが示唆された。
著者
河内 清彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.81-90, 2001-03

本研究では,視覚障害学生及び聴覚障害学生に対し大学生が想起するイメージの意味構造を解明するため,体育学系の男子学生108名と,教育・社会学系の男女学生137名にイメージ連想テストを実施した。得られた2686の記述語を,KJ法により分類し,43項目を選んだ。これらの記述語に数量化理論III類を適用し,標的概念と記述語の重み係数により相互の関連を検討した。その結果,障害学生の標的概念は,障害,性,学科を超え,「痛ましさ」と「忍耐力」の軸に囲まれた意味空間に位置していたが,記述語のレベルではグループ差がみられた。これらの標的概念と最もかけ離れていたのは,「好みの女子学生」と,「学力優秀な学生」の標的概念であったが,ここでは性と学科の影響が推測された。スチューデント・アパシー傾向を示す「自分自身」の標的概念は,他の標的概念との関連はなかった。障害学生の標的概念について記述語別の出現頻数による考察を行ったが,「視覚障害学生」は努力家で強く素晴らしいが,大変で苦しいという相反する記述語が共存していた。「聴覚障害学生」も全体的にはこれと類似していたが,性格面では前者が暗く,後者が明るいなど,部分的には障害種別の違いが示された。
著者
河内 清彦
出版者
教育心理学研究
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.81-90, 2001
被引用文献数
1

本研究では, 視覚障害学生及び聴覚障害学生に対し大学生が想起するイメージの意味構造を解明するため, 体育学系の男子学生108名と, 教育・社会学系の男女学生137名にイメージ連想テストを実施した。得られた2686の記述語を, KJ法により分類し, 43項目を選んだ。これらの記述語に数量化理論III類を適用し, 標的概念と記述語の重み係数により相互の関連を検討した。その結果, 障害学生の標的概念は, 障害, 性, 学科を超え,「痛ましさ」と「忍耐力」の軸に囲まれた意味空間に位置していたが, 記述語のレベルではグループ差がみられた。これらの標的概念と最もかけ離れていたのは,「好みの女子学生」と,「学力優秀な学生」の標的概念であったが, ここでは性と学科の影響が推測された。スチューデント・アパシー傾向を示す「自分自身」の標的概念は, 他の標的概念との関連はなかった。障害学生の標的概念について記述語別の出現頻数による考察を行ったが,「視覚障害学生」は努力家で強く素晴らしいが, 大変で苦しいという相反する記述語が共存していた。「聴覚障害学生」も全体的にはこれと類似していたが, 性格面では前者が暗く, 後者が明るいなど, 部分的には障害種別の違いが示された。