著者
飯村 周平
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.364-375, 2016
被引用文献数
7

高校受験は, 多くの中学生にとってストレスフルな出来事である一方で, 生徒に心理的な成長をもたらす可能性もある。本研究では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートが高校受験を通じたストレス関連成長に及ぼす影響を検討する。対象者は中学3年生(男子96名, 女子87名)であり, パーソナリティ特性, 知覚されたサポート, およびストレス関連成長で構成される尺度に回答した。階層的重回帰分析の結果, パーソナリティ特性と知覚されたサポートは, ストレス関連成長の全分散の30-50%程度を説明した。男子では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの交互作用がストレス関連成長と関連を示し, 女子では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの主効果のみが確認された。以上の検討から, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの効果は, 生徒の性別や両要因の組み合わせによって異なることが示唆された。
著者
千島 雄太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.352-363, 2016
被引用文献数
2

本研究の目的は, 自己変容の想起がアイデンティティ形成にもたらす影響について明らかにすることであった。今のどのような自分を(現実自己), この先どのような自分に(理想自己)変えたいと思っているかを尋ねる項目に加えて, 志向性, 変容後のイメージ, 計画性を尋ねる項目が作成された。研究1では, 大学生393名を対象に質問紙調査が行われた。分析の結果, 自己変容を望まない者は, 自己変容を望む際に具体的な現実自己や理想自己を想起する者よりも, 反芻的なアイデンティティ探求が低いことが示された。研究2では, 大学生230名を対象に実験的操作を用いた2回の質問紙調査が行われた。分析の結果, 理想自己を伴って自己変容を想起した群は, 何も想起しなかった群と比べて, 反芻的探求が有意に減少した。また, 2つの研究を通して, アイデンティティ形成に影響を及ぼす要因は, 理想自己に変わった姿をイメージすることや理想自己への変容のための計画を持つことであることが明らかにされた。
著者
大西 恭子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.340-351, 2016
被引用文献数
5

本研究では, 一般的な学生の学業領域に固有の知覚された無気力について探索的な検討を行った。研究1では, 学業領域固有の無気力状態測定尺度(PASS-A)を作成し, 学業への取り組みの実際との関連から妥当性を検討した。研究2では, スチューデント・アパシーと抑うつとの相関から作成した尺度の特徴を検討し, クラスタ分析を用いて学業領域固有の知覚された無気力を類型化した。2つの研究の結果, 労力回避, 葛藤, 達成非重視という3つの知覚された無気力と, 無気力群, 低無気力群, 中間群, 達成非重視低群という4つの群が得られた。達成非重視は, これまでの無気力研究では検討されていないものである。その特徴は無気力的な行動が狭い範囲にとどまり, アパシー的な感情を感じることも少なく, 病的なモラトリアムではなく, アイデンティティの確立にむけて将来を考えている状態であることが示された。一方で学業課題の達成を非重視できない一群の学生は病的なモラトリアムの状態に固着しており, アイデンティティの確立に課題を抱きやすいことが示唆された。
著者
外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.317-326, 2016
被引用文献数
10

本研究の目的は, 楽観性と悲観性を独立に測定できる"子ども用楽観・悲観性尺度"を新たに作成し, それらの信頼性・妥当性を検討することであった。研究1より, "楽観性"と"悲観性"の下位尺度から構成される子ども用楽観・悲観性尺度10項目が作成された。また, 子ども用楽観・悲観性尺度の信頼性(内的一貫性と時間的安定性)と妥当性の一部(構造的な側面の証拠, 外的な側面の証拠)が確認された。さらに, 研究2より, 何らかのストレスフルな出来事を経験した後に, 楽観性が高い子どもはサポート希求や問題解決といった接近型のコーピング方略を用いる傾向が強く, そうしたコーピング方略を媒介して, 学校適応につながりやすいことが示された。一方で, 悲観性が高い子どもは行動的回避といった回避型のコーピング方略を用いる傾向が強く, そうしたコーピング方略を媒介して, 学校不適応や精神的不健康につながりやすことが示された。本研究の結果より, 楽観性と悲観性とでは独自の役割を担っていることが明らかになった。
著者
鈴木 豪
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.327-339, 2016
被引用文献数
2

本研究は, 小学校高学年生を対象とし(5年生269名, 6年生123名), 3種類(A, B, C)の算数記述型課題の回答内容と学習観(意味理解志向学習観と暗記再生志向学習観)との関連を検討した。分析の結果, 暗記再生志向学習観の得点が高いほど, (1) 調査課題Aで, 外れ値があるときに外れ値を含んだ平均をそのまま用いる回答である確率が高かった。暗記再生志向学習観が, 課題中の目立つ特徴をそのまま適用しようとする傾向と関連することが明らかとなった。また, 意味理解思考学習観の得点が高いほど, (1) 調査課題Bで, 省略されたグラフについて, 具体的な数値を述べて判断すべきであることに着目する回答, (2) 調査課題Cで, 印刷された図形と現実を現実場面と対応させ, 図を回転させるといった工夫のある回答である確率が高かった。課題文中の内容が現実場面でどのような意味を持つかを考慮する傾向と意味理解志向学習観とが関連することが示唆された。また, 暗記再生志向学習観の得点が高いほど, 調査課題Cで無答である確率が高く, 暗記再生志向学習観が無答と関連する可能性も一部示唆された。
著者
三和 秀平 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.307-316, 2016
被引用文献数
6

本研究では, 新任教師265名を対象に, 教科指導学習動機と教職における自己有能感および健康状態との関連について, 小学校教師と中学校教師および高等学校教師(以下, 中高教師)において検討した。まず, 小学校教師と中高教師の各変数の得点を比較したところ, "内発的動機づけ", "教材解釈・教材開発"は中高教師の方が小学校教師よりも高いことが示された。次に, 教科指導学習動機と教職における自己有能感および健康状態との関連について, "教科指導学習動機→授業力の自己認知→子どもの授業態度→教職における自己有能感および健康状態"の仮説モデルに従い検討した。その結果, 小学校教師と中高教師ともに"内発的動機づけ", "子ども志向"が, また中高教師のみにおいて"熟達志向"が授業力の自己認知や子どもの注視・傾聴の態度を媒介して, 教職における自己有能感および健康状態とポジティブな関連があることが示された。このことから, 教師の学びにおいて, 興味や関心に基づいた動機づけや, 子どもに対して価値を認めた動機づけをもつことが有効であることが明らかになった。さらに, 中高教師においては自己の熟達を目指して学ぶことも重要であることも示された。
著者
解良 優基 中谷 素之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.285-295, 2016
被引用文献数
7

本研究は, 課題価値概念におけるポジティブな価値とコストが学習行動に及ぼす影響について, それぞれの主効果に加えて交互作用効果がみられる可能性について検討した。4年制大学の大学生と短大生計434名を対象に, 心理学の授業について課題価値評定および持続性の欠如について測定した。重回帰分析の結果, 努力コストにおいてのみポジティブな価値とコストの交互作用効果が有意であった。単純傾斜の検定を行った結果, 努力コストを高く認知している者にとって, ポジティブな価値の認知はより強い影響をもつことが明らかとなった。また, 機会コスト, 心理コストについては, それぞれポジティブな価値とコストの主効果のみが有意であり, ポジティブな価値は学習の持続性に正の影響を, コストは負の影響を及ぼしていた。興味価値・実践的利用価値の2つのポジティブな価値の間では概ね共通した結果がみられ, 学習者のもつポジティブな価値のみでなく, コスト認知についても考慮する必要性が示唆された。
著者
須藤 邦彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.268-277, 2008-06

本研究では,1名の自閉性障害児を対象に,困難な状況にある他者を援助する行動を獲得させ,援助行動を生起させるための様々な弁別刺激の効果を検討した。ここでは,援助行動を生起させるための弁別刺激を,(1)相手から援助を要求される言語刺激(言語刺激条件),(2)相手の物品の不足という状況刺激(状況刺激条件),(3)相手から援助を要求される言語刺激と観察反応を自発させる刺激(複合刺激条件),という3点で統制した。その結果,言語刺激条件や状況刺激条件のみならず,複合刺激条件においても標的行動が生起し,それが維持・般化した。このことから,自閉性障害児が,言語刺激や状況刺激のような手がかりだけでなく,観察反応を自発させる刺激のような援助者自身に属する手がかりを援助行動の弁別刺激として利用できる可能性が示唆された。また,これらの刺激を複合して,より高次な援助行動を生起させることができることも推察された。
著者
藤田 敦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.122-132, 2005-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
12
被引用文献数
4

概念受容学習事態において, 複数の具体的事例を提示して概念の説明を行うと, 学習した概念の般化が促進されるという知見がある。この促進効果を, 科学的な概念領域において検証し, 説明することが本研究の目的である。まず, 66名の大学生を被験者として, 具体的な実験事例を提示しながら気圧の力学的な性質について説明する実験授業を行った。その後, 被験者が, 提示された実験事例とどの程度類似する般化問題であれば, 学習した概念を適用可能であるかを調べた。その結果, 提示する事例数が少ない場合には, 表面的な特徴が提示事例と類似する問題に対しては学習した知識を適用できること, 提示事例数が増えることで, 表面的には異なるが構造的には類似しているというタイプの問題に対しても, 知識の適用範囲が拡がることが確認された。この結果に基づき, 概念受容学習事態において複数事例を提示する効果は, 学習者が, 提示される事例間の共通点を手がかりとして, 学習した概念の適用範囲を判断するための基準を再構成していくことによって生じるのではないかという考察を行った。
著者
田中 政子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.19-28, 1973-12
被引用文献数
5

personal spaceの構造が異方的そあることを検証するため,「近すぎて気づまりな感じがする」という基準によって二者の間にとられる物理的距離(対人距離)の測定がされ,この距離は「自己にとっての他者の刺激価が一定である距離」と見徴された。測定は,明空間と時空間において,被験者が特定の人物(同年齢の初対面の同性)に近づいて行く場合(接近距離)と,その人物が被験者に近づいて'くる場合(被接近距離)について,それぞれ,身体を中心とする前後・左右の両軸によって照合される等角度の8方向に関してなされた。被験者はMPIによって抽出された内向群,外向群の男子学生であった。
著者
伊藤 亜矢子 松井 仁
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.449-457, 2001-12-30
被引用文献数
1

本研究は,わが国の教育事情に即応し,学校臨床実践における学級の見立てに寄与する学級風土質問紙の作成と,それによる学級風土の記述の提案を目的とした。学級観察や生徒面接,教師コンサルテーションなど実践的な情報を基にして質問項目を作成し(伊藤,1999a),その結果を,欧米の主力な学級風土質問紙(CES・LEI・CAS)の理論的枠組みと比較検討し,実践的情報と理論的情報の双方から質問紙を作成した。21中学校85学級2465名に質問紙を実施し,分析単位問題に配慮して,学級を単位に分析を行い,グループ主軸法によって項目割付の妥当性を検討した。その結果,「学級活動への関与」「生徒間の親しさ」「学級内の不和」「学級への満足感」「自然な自己開示」「学習への志向性」「規律正しさ」「学級内の公平さ」の8尺度を得た。これを用いて学級風土の事例を記述し,質問紙結果から学級の現状や課題を導くことができ,コンサルテーションや教師の学級経営資料として質問紙結果の活用が期待されることを示した。
著者
柳井 晴夫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.145-160,190, 1967
被引用文献数
2

1.大学における9つの系への適性診断検査を作成するために, 性格, 興味, 能力, 職業への関心, 高校教科の得意, 不得意の45の尺度からなる適性検査を大学の専門課程に学ぶ480名の学生に実施した。<BR>2.これらの被験者のうち, 現在学んでいる自分の専門にじゆうぶん適応していないとおもわれる人を除外し, 残つた人を9つの系の基準群として, これらの人が自分の所属している系に, 最も近く診断されるように多重判別関数方式, 因子分析方式による診断方式に従つて診断を行なつた。<BR>3.多重判別関数方式による診断によると, 9つの系は, 4つの因子でかなり明確に分離され, 各人の8つの因子得点と9つの系の重心との距離を測つて, 最も距離の短くなる系を最も適している系とする診断方式によつて, 基準群被験者360名のうちの76.1%が自分の所属する系に最も適していると診断される結果がえられた。<BR>4.因子分析の主因子解によつてえられた因子得点に基づく診断は, 多重判別関数方式による診断よりかなり精度が低いことが判明した<BR>5.距離の算出においては, 多重判別関数方式では市街モデルの方が, 因子分析方式がユークリッドモデルの方がより精度の高い診断がされた。<BR>6.多重判別関数と因子分析によつて得られる函子構成にはかなりの相違がみられる。<BR>6.自分の現在学んでいる専門にじゆうぶん適応できていない人の90%近くは, 自分の所属している系に遠いと診断され, 自分の現在学んでいる専門に比較的適応できていて, 自分の所属している系に遠いと診断された人は14名前後である。これらの結果から, 全体的にみてかなりの高い精度の診断の結果が得られたといえる。 (多重判別関数方式の市街距離モデルによる診断)<BR>7. 1人の例外もなく誤つた診断がされないようにしていくためには, テスト尺度の構成や新しい診断の理論方式についての検討が行なわれていかなければならない
著者
江角 周子 庄司 一子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.268-280, 2016 (Released:2016-08-08)
参考文献数
25
被引用文献数
3

本研究の目的は, 中学生を対象に聴くことを学ぶ研修を実施し, 研修を通した中学生の聴く行動の変容プロセスを認知面の変化の点から明らかにすることであった。中学1年生から3年生計30名を対象に1回60分の研修を4回実施し, 全てに参加した14名を対象にインタビュー調査を行い, 行動変容プロセスについて認知面の変化に焦点をあて, M-GTAにより分析を行った。分析の結果, まず, 認知面の変化と行動変容を合わせて11概念と6カテゴリーが得られた。つぎに, 聴くことに関する行動変容プロセスを明らかにするため, 各カテゴリーと概念間の関連を検討した結果, 研修における聴いてもらう体験, 聴く体験, 観察体験のそれぞれで異なる行動変容の仮説プロセスが見出された。なかでも, 聴いてもらう体験は他の2つの体験に比べより多くの気づきが得られることが示された。さらに, 聴く行動の変容により, 更なる認知面の変化がもたらされ般化が維持されること, 他者との積極的な関わりが促進されることが示された。
著者
犬塚 美輪
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.13-25, 2016
被引用文献数
5

本研究では, 学習者が数学をどのような学問だと捉えているかを数学信念と定義した。本研究の目的は, 第1に, その因子構造を明らかにすることである。第2に, 数学信念の個人差を説明する要因を検討することを目的とした。先行研究と予備調査をもとに質問紙を作成し, 本調査では大学1年生762名の回答を分析した。探索的因子分析と確認的因子分析から, 数学信念が「有用性」「思考プロセス」「固定性」「困難性」の4因子によって説明できることを示し, 各因子の負荷の高い4項目を用いた数学信念の構造モデルを採用した。さらに, 性別, 学力(得意度・入試難度), および学習経験(専攻・数学学習経験・受験経験)が, 数学信念の4因子をどの程度説明するか, 共分散構造分析によって分析した。その結果, 学力や学習経験にかかわる変数と数学信念の関連が見られた。具体的には, 数学得意度は, 全ての因子と関連し, 得意度が高いほど有用性や思考プロセスの評定が高く, 固定性や困難度の評定が低かった。また, 入試難度・学習経験と受験経験から思考プロセスには有意な正のパスが示され, 固定性には有意な負のパスが示された。さらに, 専攻が理系であると, 思考プロセスの評定が高かった。一方, 性別と信念の4因子の間に有意なパスは見られなかった。
著者
黒田 祐二 桜井 茂男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.86-95, 2003
被引用文献数
6

本研究は, 友人関係場面における目標志向性と抑うつとの関係に介在するメカニズムを明らかにすることを目的として行われた。両者に介在するメカニズムとしては, Dykman (1998) により提唱されたディストレス生成モデル (目標志向性が対人行動を通してネガティブな出来事を促進 (ないし抑制) し, その結果抑うつが促進 (ないし抑制) される) に加えて, 新たにユーストレス生成モデル (目標志向性が対人行動を通してポジティブな出来事を促進 (ないし抑制) し, その結果抑うっが抑制 (ないし促進) される) を提唱し, この2つのモデルを検討した。重回帰分析による結果から, 3つの目標と抑うつとの関係はいずれもユーストレス生成モデルで説明できることが示された。すなわち,(1) 「経験・成長目標→関係構築・維持行動及び向社会的行動→ポジティブな出来事の発生→非抑うつ」,(2)「評価一接近目標→関係構築・維持行動→ポジティブな出来事の発生→非抑うつ」,(3)「評価一回避目標→関係構築・維持行動の不足→ポジティブな出来事の非発生→ 抑うつ」,という結果が示された。本研究の関連する既存の研究領域及び教育的介入に対する示唆が論じられた。
著者
江角 周子 庄司 一子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.268-280, 2016
被引用文献数
3

本研究の目的は, 中学生を対象に聴くことを学ぶ研修を実施し, 研修を通した中学生の聴く行動の変容プロセスを認知面の変化の点から明らかにすることであった。中学1年生から3年生計30名を対象に1回60分の研修を4回実施し, 全てに参加した14名を対象にインタビュー調査を行い, 行動変容プロセスについて認知面の変化に焦点をあて, M-GTAにより分析を行った。分析の結果, まず, 認知面の変化と行動変容を合わせて11概念と6カテゴリーが得られた。つぎに, 聴くことに関する行動変容プロセスを明らかにするため, 各カテゴリーと概念間の関連を検討した結果, 研修における聴いてもらう体験, 聴く体験, 観察体験のそれぞれで異なる行動変容の仮説プロセスが見出された。なかでも, 聴いてもらう体験は他の2つの体験に比べより多くの気づきが得られることが示された。さらに, 聴く行動の変容により, 更なる認知面の変化がもたらされ般化が維持されること, 他者との積極的な関わりが促進されることが示された。
著者
市川 玲子 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.228-240, 2016
被引用文献数
3

自己愛傾向と対人恐怖心性は, 自己愛性パーソナリティ障害の下位概念との近似性があり, 共通して恥の感じやすさとの関連が考えられる。本研究は, 特に恥が喚起されやすい他者の面前での失敗場面において, 自己愛傾向と対人恐怖心性の高低による5類型間の, 自己呈示欲求(賞賛獲得欲求, 拒否回避欲求)が失敗経験後に生じる感情(恥, 敵意, 抑うつ)に及ぼす影響の差異を明らかにすることを目的とした。大学生を対象とした質問紙調査を実施したところ, 368名が分析対象者となった。分析の結果, 失敗場面は2因子に分類され, "自分の失敗場面"と"他者からの指摘・叱責場面"が抽出された。そして, "他者からの指摘・叱責場面"では, いずれの類型においても失敗経験後の恥が抑うつに寄与するが, 自己愛傾向のみが高い誇大型と, 対人恐怖心性のみが高い過敏型において特に拒否回避欲求が恥に強く影響していることが示された。これらの結果から, 自己愛傾向か対人恐怖心性のいずれかが高い類型では特に, 他者の面前での失敗経験後の恥は評価過敏性の影響を強く受けており, 失敗を自己全体に帰属することで自己評価が著しく傷つけられ, その結果として抑うつが強く喚起されることが示唆された。
著者
海津 亜希子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.241-255, 2016
被引用文献数
8

早期の段階での算数に焦点を当て通常の学級で実施するアセスメントを開発した。本研究では多層指導モデルMIM(海津, 2010; 海津・田沼・平木・伊藤・Vaughn, 2008)のプログレス・モニタリング(PM)としての機能を有するかについて検証した。対象は小学校1年生400名。MIM-PM算数版を年間通じて定期的に実施した。妥当性の検証では反復測定による分散分析の結果, 実施回における主効果が認められ, 回を経るごとに得点が高くなる傾向が示された。標準化された学力検査算数とも比較的高い相関があった。また, 既存のMIM-PM読み版とテスト・バッテリーを組み, 双方の得点傾向から3群(算数困難群, 高学力群, 低学力群)に分類し, 比較分析を行った。3群の学力検査算数の得点でも差異がみられた。算数困難群は全体の5.15%であった。実施回×学力特性群の2要因混合計画の分散分析を行った結果, 有意な交互作用, 2要因とも主効果が認められた。MIM-PM算数版の実施により把握できた算数困難群や低学力群は, 高学力群のような有意な得点上昇が一貫してみられなかったが, 当該学習に関する直接的な指導が実施されている期間では有意な伸びが確認された。MIM-PM算数版の活用でつまずきの早期把握の可能性が示唆された。
著者
湯 立 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.212-227, 2016
被引用文献数
8

本研究では, 一般的個人興味を測定する尺度を作成し, 大学生の専攻している分野への興味の変化様態について検討した。研究1では, 感情, 価値, 知識の3側面から成る大学生用学習分野への興味尺度を作成した(<i>N</i>=202)。内的整合性の観点から信頼性が確認された。確認的因子分析の結果, 因子構造の交差妥当性が確認された(<i>N</i>=288)。内的調整, マスタリー目標, 自己効力感と正に関連したことから, 一定の構成概念妥当性が確保された(<i>N</i>=268)。研究2では, 大学生新入生(<i>N</i>=499)を対象に, 専攻している分野への興味について, 6ヶ月の短期的縦断調査を行った。潜在曲線モデルを用いて分析した結果, 全体的な変化パターンについて, "感情的価値による興味""認知的価値による興味"は緩やかに減少したが, "興味対象関連の知識"はより急速に増加した。入学後1ヶ月の時点ですでに個人差が存在し, "感情的価値による興味"の変化のパターンは個人差がより大きいことが示された。"認知的価値による興味"の変化パターンにおいて男女差が見られた。今後, 興味の発達における個人差を説明する要因の検討は意義があることが示唆された。
著者
永井 暁行
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.199-211, 2016
被引用文献数
5

本研究では, 大学生の友人関係の取り方の特徴と, 友人関係と学校適応感の関連を検討した。そのために, 友人への援助要請のスタイルと友人からのソーシャル・サポートの受容が友人関係の取り方によってどのように異なるのか, またそれらが学校適応にどのように影響するのかを友人関係ごとに取り上げた。大学生270名(男性140名, 女性130名)を対象とした質問紙調査を行った。分析の結果, 大学生の友人関係は4群に分類することができ, それぞれ友人関係回避群, 接触遠慮群, 積極的関係群, 友人関係尊重群とした。友人関係4群による学校適応感の違いを検討したところ, 友人関係回避群のみ学校適応感が低いという結果が得られた。また, 4群ごとに援助要請スタイルとソーシャル・サポートの受容が学校適応感に及ぼす影響を検討した。その結果, 友人関係回避群ではソーシャル・サポートの受容が負の影響を示し, 援助要請自立傾向が正の影響を示した。接触遠慮群ではソーシャル・サポートの受容が正の影響を示した。本研究から友人関係の違いによってソーシャル・サポートの効果が異なることが明らかになった。