著者
鈴木 雅之 西村 多久磨 孫 媛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.372-385, 2015
被引用文献数
7

本研究では, 中学生の学習動機づけの変化を規定する要因として, 「テストの実施目的・役割に対する学習者の認識」であるテスト観に着目して研究を行った。中学1—3年生2730名を対象に, 定期テストが実施される度に調査を行い(2013年6月, 9月, 12月, 2014年2月の計4回), マルチレベル分析によって学習動機づけとテスト観の個人内での共変関係を検討するとともに, 構造方程式モデリングによって, テスト観が学習動機づけに与える影響について検討を行った。これらの分析の結果, テストの学習改善としての役割を強く認識することによって, 内的調整や同一化的調整といった自律的な学習動機づけが高まることが示された。その一方で, 学習を強制するためにテストが実施されていると認識することによって, 内的調整が低下し, 統制的な学習動機づけとされる取り入れ的調整と外的調整は高まることが示された。以上のことから, 中学生のテスト観に介入することによって, 自律的な学習動機づけを維持・向上させることが可能であることが示唆された。
著者
輕部 雄輝 佐藤 純 杉江 征
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.386-400, 2015
被引用文献数
4

本研究の目的は, 大学生が企業からの不採用経験をいかに乗り越え就職活動を維持していくかという就職活動維持過程に焦点を当て, 当該過程で経験する行動を測定する尺度を作成し, その信頼性と妥当性を検討することである。2013年および2015年新卒採用スケジュールの就職活動を経験した大学生に対して, 2つの質問紙調査を行った。研究1では, 212名を対象に6つの下位尺度から構成される就職活動維持過程尺度を作成し, 一定の内的整合性と妥当性が確認された。研究2では, 72名を対象に作成尺度と就職活動の時期との検討を行い, 時期によって行われやすい行動が明らかとなり, 過程を測定する尺度としての妥当性が確認された。以上から, 就職活動の当初より行われやすいのは, 不採用経験を受けて当面の活動を維持するための現在志向的行動であり, 当該経験の蓄積や一定の就職活動の継続に伴って次第に, より現実的な将来目標を確立していく思考的作業を含む未来(目標)志向的行動が追加的に行われるようになることが示唆され, 作成尺度が就職活動維持過程における一次的過程と二次的過程を捉えうることが示された。
著者
上山 瑠津子 杉村 伸一郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.401-411, 2015
被引用文献数
2

保育の質の向上が望まれている現在, 保育者の実践力に関する量的な指標を用いた研究が必要である。そこで本研究では, 保育者による実践力の認知と保育経験および省察との関連を保育者434名を対象に検討した。まず, 保育実践力尺度に関して因子分析を行い, 因子構造と信頼性の確認をした。その結果, 「生活環境の理解力」「子ども理解に基づく関わり力」「環境構成力」の3因子構造となり, 確証的因子分析の結果, 適合度も一定水準の許容範囲内であることが確認された。次に, 相関分析を行い, 経験年数と省察との関連よりも, 経験年数と実践力の認知との関連が強く, それ以上に省察と実践力の認知との関連が強いことを示した。さらに, 実践力の認知を従属変数にして重回帰分析を行った結果, 省察の下位尺度の中では「子ども分析」の説明の程度が最も強いことが示唆された。以上の結果から, 経験年数の少ない若手保育者であっても, 省察を行うことで実践力の認知が高まり, 省察においては, 子どもの状態に気づき分析的に振り返ることが実践力の認知に繋がると考えられた。
著者
大対 香奈子 大竹 恵子 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.135-151, 2007-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
99
被引用文献数
3 3 6

不登校やいじめなど, 子どもの学校不適応問題が深刻化し続けている中, 子どもの学校不適応に関する研究や不適応改善のための取り組みが盛んに実施されている。しかし, 学校適応の定義が一貫していないために, 学校適応の測定に用いる指標や介入の効果検証の仕方は研究間で様々である。特に現在注目を集めているのは不適応の予防であり, 効果的な予防介入を実施するためには, 子どもの学校適応の正確かつ妥当なアセスメントが必要になる。本論文では, 先行研究の展望により学校適応の概念をまとめ, 学校適応アセスメントの理論的基盤となる三水準モデルを提唱した。このモデルでは, 水準1として感情や認知を含めた子どもの行動的機能, 水準2として子どもの行動が学校環境の中でどのように強化され形成されるのかという環境の効果に注目した学業的・社会的機能, 水準3として個人の行動と環境との相互作用の結果として生じる子どもの学校適応感という3つの水準から子どもの学校適応状態を把握する。また, これまでに実施されている予防介入の限界と課題から, より効果的な予防介入に必要なアセスメントについて三水準モデルをもとに検討する。
著者
高橋 亜希子 村山 航
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.371-383, 2006-09-30
被引用文献数
1 6

総合的な学習(総合学習)の時間の導入から3年が経過し,成果の一方さまざまな困難も指摘されている。総合学習で生徒への適切な支援やカリキュラム編成を考えていくためには,総合学習の達成を促進する要因を検討する必要がある。本研究では,先行研究ではあまり検討されてこなかった総合学習に特徴的な学習様式に着目し,総合学習を達成するために必要な要因を検討した。特に,量的検討と質的検討を組み合わせた手法を用いて,探索的な検討を行った。調査1では,総合的な学習に参加した高校生106人に対して質問紙調査を行った。その結果,教科の成績のみならず,テーマ決定や学習者の意欲・作業の進捗状況などが,総合学習の成績と相関を持つことが示された。調査2では,調査1において残差が大きかった生徒を抽出してインタビューを行い,事例を通した質的な検討を行った。その結果,「生徒の自我関与の深い領域とテーマとの結びつき」「研究の枠組み・計画の明確性」「情報収集や支援・資源へ向かう能動性」「教師からの適切な支援の有無」の4つの主要な要因が得られた。それぞれの要因に関して,総合学習独自の学習様式との関連から考察を行った。
著者
関口 雄一 濱口 佳和
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.295-308, 2015
被引用文献数
5

本研究は, 小学生が抱いている関係性攻撃についての知識構造である関係性攻撃観の因子構造を明らかにするとともに, その関係性攻撃観と表出性攻撃, 関係性攻撃の関連を検討するために行われた。小学5, 6年生児童446名を対象に, 関係性攻撃観尺度暫定項目, 小学生用P-R攻撃性質問紙, 関係性攻撃経験質問項目を含む質問紙調査が行われ, 更に同意が得られた児童163名に対して再検査信頼性の検討を目的とした再調査が実施された。因子分析の結果, 関係性攻撃観尺度は"否定的認識", "身近さ", "正当化", "利便性"の4因子構造であることが示され, 各因子の内的一貫性も概ね確認された。そして, 加害経験のある児童ほど攻撃行動に親和的な関係性攻撃観の下位尺度得点が高いことが示され, 関係性攻撃観尺度の基準関連妥当性が示された。また, 再検査信頼性を検討したところ, 関係性攻撃に関与する立場の継続と, 関係性攻撃観の安定性の高さとの関連が示された。さらに, 重回帰分析の結果, 表出性攻撃を統制した上でも, 否定的認識得点, 身近さ得点, 利便性得点は関係性攻撃得点と有意に関連することが明らかにされ, 攻撃行動に親和的な関係性攻撃観が実際の攻撃行動を規定する可能性が示唆された。
著者
浦上 涼子 小島 弥生 沢宮 容子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.309-322, 2015
被引用文献数
7

本研究では, 体型に関するメディアの情報を受けた個人が, その影響から痩身理想をどの程度内在化しているかを評価するSociocultural Attitudes Towards Appearance Questionnaire-3 Revised(SATAQ-3R ; Thompson, van den Berg, Keery, Williams, Shroff, Haselhuhn, & Boroughs, 2000)の日本語版を作成し, 大学生の痩身理想の内在化とメディア利用頻度との関連性について検討した。研究1では, 男女大学生1,054名を対象に調査を実施し, 29項目(4下位尺度)の日本語版SATAQ-3Rを作成し, 尺度の信頼性と妥当性を確認した。研究2では, 男女大学生998名を対象に日本語版SATAQ-3Rとインターネットやテレビ, 雑誌といったメディア利用頻度との関連性を調べた結果, 男性より女性のほうが, メディアの影響を受けて痩身理想を内在化し, メディア情報を重要だと考え, 外見に関するプレッシャーを感じていることが示された。一方でスポーツマン体型への内在化は女性より男性のほうが高いことが示された。また, メディアのうち特にテレビと雑誌が大きく影響を及ぼす可能性が示され, わが国の摂食障害患者の増加を防ぐためにも, 学校教育におけるメディアリテラシー教育の重要性が示唆された。
著者
山本 渉
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.279-294, 2015
被引用文献数
2

本研究の目的は, 中学校の担任教師が, 生徒・保護者への対応において, スクールカウンセラー(以下, SCと略記)の活動をどのように生かし, その結果どのような体験をしているのかを, 担任教師の視点からボトムアップ的に把握することであった。半構造化面接法にて収集された16名の中学校教師のインタビュー・データを, グラウンデッド・セオリー・アプローチを援用して分析した。その結果, 担任教師がSCの活動をどのように生かしているのかは, ≪担任のしづらい動きを担ってもらうことでゆとりを得る≫, ≪SCの情報や発言から生徒・保護者への理解を深める≫, ≪対応にあたってのガイドを得て判断の参考にする≫, ≪気持ちや考えへの保証を得て精神面の回復に役立てる≫の4つに整理されることが示唆された。これらのいずれか, あるいは複数の生かし方をした結果, 担任教師はそれまでよりも生徒・保護者に≪安定して対応できる≫ようになると考えられた。さらに, SCとの協働を経て≪安定して対応できる≫ようになることがきっかけとなり, 担任教師自身の≪対応スタンスの変化が促される≫場合もあることが示唆された。
著者
麻柄 啓一 進藤 聡彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.267-278, 2015
被引用文献数
3

事例と共にルールを教授しても, 学習者がルール情報に着目せず, 事例情報のみからの帰納学習が行われる場合がある。このことを指摘した工藤(2013)は, その原因として事例情報が与えられたことによってルール表象の形成が不十分になることを示唆した。しかし, これまでなぜルール表象の形成が不十分になるかについては解明されていない。そこで本研究では, この点の解明を目指した。研究Iでは42名の大学生が, 研究IIでは87名の大学生が対象となった。「銅は電気を通す」という事例情報とともに「金属は電気を通す」というルール情報を与えて実験を行った結果, 以下の点が明らかとなった。「一般・個別」という知識の枠組みを不十分にしか持っていない学習者は, 与えられた2つの情報から「金属の銅は電気を通す」のようなイメージを形成していることが示唆された。すなわちルール情報中の「金属」という概念名辞が単に「銅」に係る修飾語としてイメージされてしまう。その結果, ルール表象が形成されないこと, また, さらにその結果, 当該のルールを後続の問題に対して適用できなくなることを示唆する結果を得た。本研究では概念名辞がその抽象性を失い単に事例の修飾語として位置づけられる現象を概念名辞の「まくら言葉化」と表現した。
著者
高原 龍二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.242-253, 2015
被引用文献数
6

公立学校教員の都道府県別精神疾患休職率に関して, 教員を対象とした質問紙調査より得た職場環境認知とストレス反応を個人レベルデータとして, 政府統計から得た教育行政や教員のメンタルヘルスに関する施策を都道府県レベルデータとして用いたマルチレベルSEM(Structural Equation Modeling)による検討を行った。小学校教員, 中学校教員の両モデルにおいて, 個人レベルでは伝統的な職業性ストレスモデル(e.g., Karasek, 1979)に従って職場環境の認知がストレス反応を説明することが示され, 集団レベルでは, 教員の意識が教育行政やメンタルヘルス施策と精神疾患休職率の関係を媒介することが示された。小学校, 中学校の両方で共通あるいは類似する要因として挙がったのは, 非正規教員比率, 児童生徒数に対する教員や教育委員会の体制, 労働組合の組織率, 学校数であった。本分析の結果は, 都道府県レベルのような広い範囲であっても, 組織的な環境調整や施策によって, ストレス反応や精神疾患休職を予防できることを示唆しているものと考えられる。
著者
齊藤 彩
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.217-227, 2015
被引用文献数
4

思春期の子どもにおける不注意および多動性・衝動性に関する行動傾向が引き起こす二次的な内在化問題の存在が指摘されてきているものの, その発現メカニズムや具体的な関連要因についての十分な実証研究は行われていない。本研究は, 通常学級に在籍する中学生を対象とし, 不注意および多動性・衝動性から成る注意欠陥/多動傾向が学校ライフイベント, 自尊感情を媒介して内在化問題と関連するかどうかを検討することを目的として行われた。中学生826名と学級担任教員22名を対象に質問紙調査を実施し, 教員評定により生徒の不注意および多動性・衝動性を測定し, 生徒の自己評定により学業と友人関係に関するライフイベントの経験頻度, 自尊感情, 内在化問題を測定した。不注意, 多動性・衝動性, 注意欠陥/多動傾向の各変数と内在化問題との間には有意な正の相関関係が確認されたが, パス解析の結果, 注意欠陥/多動傾向から内在化問題への直接の有意なパスは見られず, 注意欠陥/多動傾向は, 学業ならびに友人関係の両イベント, 自尊感情を媒介して内在化問題へと関連することが明らかとなった。
著者
児玉 裕巳 石隈 利紀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.199-216, 2015
被引用文献数
5

本研究では「学習に対する認知的・行動的・情緒的側面からなる態度」に着目し, 中学・高校生(<i>N</i>=1361)を対象に尺度を作成し, 因子構造と信頼性・妥当性, 中学生と高校生の差異, およびプロフィールの特徴について検討した。その結果, 認知的側面では「関与肯定」「コスト受容」「遂行目標の重視」の3因子が, 行動的側面では「習慣的な積極行動」「テスト課題対処」「対処回避」の3因子が, 情緒的側面では「充実感」「統制感」「学習の不安」の3因子が見出され, 一定程度の信頼性と妥当性を確認した。また中学生はポジティブな態度と対処回避の負の関連が強く, 高校生はテスト課題対処と遂行目標の重視および学習の不安との正の関連が強いこと, 遂行目標の重視は高校終盤で下がること, 概ね学年が進むにつれて習慣的な積極行動とテスト課題対処は低くなること, 学校移行期あたりは充実感と統制感は低く学習の不安は高いこと, 中学生の間にポジティブな態度を持つ群は減少してしまうこと, 高校生になると学習のネガティブ感情を持つ群は減ると同時に学習以外のことに関心を持つと推察される群は増えること等が明らかとなった。
著者
中垣 啓
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.369-378, 1990-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
1

The present study was designed to examine so-called context effect on performance in number conservation tasks. Twenty-two nonconservers.(mean age 4 years 11 months), in standard number conservation tasks received same kind of tasks in three modified conditions. Main findings were as follows. In the first place, even the subjects who failed a one-to-one correspondence task gave conserving responses in a meaningful context. In the second place, many subjects gave conserving responses even in the condition in which the transformation of elements was accompanied with addition of one element and therefore non-conserving responses were in fact correct. In the third place, conserving responses could be induced even in a condition without context, if only a perceptual contrast of elements after transformation would be enough weakened. These results were interpreted as evidences of degeneration theory, proposed by the author, according to which conserving responses in a meaningful context would not mean the facilitation of conservation competence inherent in young children, but induced by evading cognitive perturbations which were essential in standard conservation tasks.
著者
田村 修一 石隈 利紀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.438-448, 2001-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
38
被引用文献数
4 11 27

この研究は, 指導・援助上の困難に直面した教師が, どのように他の教師に援助を求めるかについて明らかにし, 加えてバーンアウトとの関連について明らかにすることを目的に実施された。日本の中学校の教師155名から質問紙を回収した。分析の結果, 以下のことが明らかになった。男性教師の場合は, 教師自身の指導・援助に対する同僚からの批判を感じている人と, 同僚に助けてもらうことに抵抗のある人のバーンアウト得点は深刻であった。そして, 同僚からのソーシャル・サポートがある人のバーンアウト得点は低かった。女性教師の場合は, 生徒からの反抗の多い教師と, 同僚に助けてもらうことに抵抗のある人のバーンアウト得点は深刻であった。この結果から, 教師へのサポートをどのように供給したらよいかについて, 考察された。
著者
坂田 成輝 音山 若穂 古屋 健
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.335-345, 1999-09-30
被引用文献数
1

本研究では,教育実習期間中に実習生が経験するストレッサーを継時的に測定する尺度(教育実習ストレッサー尺度)の開発を目的とした。157名の実習生を対象に,34の刺激事態項目に対してその経験の有無と不快に感じた程度を実習期間中に計3回評定させた。同時に心理的ストレス反応尺度(PSRS-50R),高揚感尺度,身体的反応尺度に対しても継時的に評定させた。項目分析の結果,5つのストレッサー・カテゴリー(基本的作業,実習業務,対教員,対児童・生徒,対実習生)から構成される教育実習ストレッサー尺度(計33項目)が作成された。教育実習ストレッサー尺度で測定された各ストレッサー得点と心理的ストレス反応得点との継時的な関係を検討した。実習開始直後では多くの心理的ストレス反応に作用するストレッサーに共通性が認められた。しかし実習中頃になると反応毎に作用するストレッサーが異なり,実習が終了近くなると再び多くのストレス反応に作用するストレッサーが共通してくることが示された。以上の結果から,実習生に生起する心理的ストレス反応へのストレッサーの作用を捉える上で教育実習ストレッサー尺度は有効な尺度であることが示された。
著者
森本 哲介 高橋 誠 並木 恵祐
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.181-191, 2015
被引用文献数
1

本研究では, 高校生女子の自己形成意識を高めることを目的に, 自己の強みを日常生活の中で活用する自己形成支援プログラムを実施し, その効果を検証した。プログラムは, 第1週目に参加協力者の"性格的な強み(Character Strengths : 以下CSとする)"を測定し, 第2週目に参加協力者自身の中で上位5つのCSを個人毎にフィードバックした。そしてその後1週間の日常生活で, 各参加協力者がフィードバックされたCSを自分なりの新しい方法で活用するよう促す, という手順で行われた。効果検証のために, 「可能性追求」と「努力主義」からなる自己形成意識尺度を測定した。また実験群では, 自己の上位5つの強みについての主観的な感覚を測定した。群(実験群・統制群)×test時点(pre・post)の2要因分散分析の結果, 実験群ではプログラムの前後で可能性追求と努力主義の得点が有意に上昇したが, 統制群では得点に有意な変化はみられなかった。さらに実験群の参加協力者は, 自己の強みをより意識し重要であると感じやすくなり, また自己の強みを活用しているという感覚が有意に高まっていた。これらの結果から, 自己の強みを活用する自己形成支援プログラムが高校生女子の自己形成意識を高めるために有効であることが示された。
著者
原田 杏子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.54-64, 2003-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

本研究の目的は, 一般の人々による日常的な相談・援助場面の会話に注目し,「人はどのように他者の悩みをきくのか」を明らかにすることである。会話データから帰納的な分析を行うため, 質的研究法の 1つであるグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた。データ収集においては, 大学生の同年代・同性ペアによる実験的な相談・援助場面の会話を録音した。データ分析においては, 〈概念のラベル付け〉から〈最終的なカテゴリーの選択〉へと至る4つの段階を経て, データからカテゴリーを生成した。その結果, 他者の悩みをきく際の発言として,【推測・理解・確認】【肯定・受容】【情報探索】【自己及び周辺の開示】【違う視点の提示】【問題解決に向けた発言】という6つのカテゴリーが抽出された。生成されたカテゴリーを先行研究と比較すると, 悩みのきき手が自分の体験を開示したり, 問題を受容するよう促したりするところに, 臨床面接や援助技法とは異なった日常的な相談・援助のあり方が見出された。これらのカテゴリーは, データに基づいた暫定的なものではあるが, 今まで研究対象として見過ごされてきた日常的な相談・援助に実態像を与えるものとなった。
著者
鈴木 豪
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.138-150, 2015-06-30 (Released:2015-08-22)
参考文献数
16
被引用文献数
2

本研究では, 鈴木(2014)の手続きを改め(グラフの提示と共通点・相違点の発見順序の固定), 多様な考え方の比較検討方法の違いが課題解決に及ぼす影響を検証した。平均を既習である小学5年生(N=44)を, 代表値(平均, 最頻値, 最大値, 最小値)をもとにした四つの考え方について, (a) 共通点・相違点を考える比較検討方法(共通相違群), (b) 最も良い考え方を選びその理由を考える比較検討方法(最良選択群), のいずれかを経験する群に割り当てた。児童は比較検討を行った後, 事後課題2問に回答した。その結果, 外れ値が存在するときに, 次に得られる値を予測する事後課題では, 共通相違群の方が, 外れ値を除いた平均や最頻値をもとに回答できた割合が大きかった。また, 外れ値を含んだ平均をもとに回答した児童のうち, 外れ値の存在に言及した児童の割合も共通相違群の方が大きかった。次に, 2種のデータの大小を比較する事後課題では, 共通相違群の方がより多くの比較方法を示すことができていた。共通点・相違点を考える比較検討方法が, 最も良い考え方を選ぶ比較検討方法よりも, 代表値を用いた課題解決により良い影響を及ぼすことが示された。
著者
板津 裕己
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.86-94, 1994-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1

The aim of this study was to investigate the relation between self-acceptance and interpersonal attitude. Self-acceptance was measured with Self Acceptance Scale (SASSV, Itatsu, 1989, 1993), and interpersonal attitude was done with Interperso nal Attitude Inventory (IAI, Kato & Takagi, 1980) and Interpersonal Relations Inventory (IRI, Fukuyama, 1981). Subjects were 391 male university students. Close relationships were found between many subscales and indices of SASSV, and subscales on IAI and IRI. Every subscale and Basic Trait (Secondary Factor) on SASSV had a close relation with different aspect on interpersonal attitude. Subjects who accepted their own self had a friendly attitude toward others. From the results mentioned above, a hypothesis was built up willing that each trait or factor of self-acceptance had a close relation with specific aspect on interpersonal attitude. DBS (Distance Balance Score), which was one of the indices of SASSV, was related to discrepancy sc ores on IRI. This result meant that inner balance of self-acceptance contributed to disparity between self-attitude and attitude for others.
著者
佐久間 路子 無藤 隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.33-42, 2003-03-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,人間関係に応じて自己が変化する動機,変化に対する意識を測定する尺度の作成および自尊感情との関連における性差を検討することである。大学生男女742名を対象に,変化程度質問,変化動機尺度,変化意識尺度,セルフ・モニタリング尺度,相互独立的-相互協調的自己観尺度,自尊感情尺度などからなる質問紙を実施した。主な結果は以下の通りである。1)変化動機尺度は関係維持,自然・無意識,演技隠蔽,関係の質の4因子,変化意識尺度は否定的意識,肯定的意識の2因子が見いだされ,信頼性と妥当性が確認された。2)変化動機の関係維持,自然・無意識,関係の質は,男性よりも女性の方が得点が高かった。3)男女ともに,変化程度は自尊感情との関連が見られなかったが,女性においてのみ否定的意識と演技隠蔽の自尊感情への負の影響が認められ,変化動機および変化意識と自尊感情との関連には,性別による違いがあることが示された。