著者
春日 彩花 土田 宣明
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.184-198, 2016
被引用文献数
2

本研究の目的は, 大学(院)生が力学のプリコンセプションをどの程度有しているかを明らかにし, プリコンセプションから科学的概念への変容過程を検討することである。対象者67名に中学校で学習する力学課題を提示したところ, 多くの者が, 学校で教えられる「科学的概念」と不一致の概念を所持していることが確認された。この結果をもとに, Hashweh(1986)の概念変容モデルに沿って教材を作成し, 全問正答者を除く52名に提示した。概念の変容が比較的容易な課題(課題1)では, 提示された新情報と自分の考えを関連付けて整理する(関連付け)ことで, 科学的概念へ変容し得ることがわかった。一方, プリコンセプションが強固で概念の変容が難しい課題(課題2, 3, 4)では, 新情報に対して疑問を示す(懐疑)ことで受容しなかったり, 新情報を自分の考えと関連付けることでプリコンセプションの不整合には気付いたものの(関連付け), 新情報をそのまま取り入れず再解釈して, プリコンセプションを部分的に変化させたりした可能性が示された。また, 提示された「科学的概念」が他の現象も統一的に説明できることに注目しなかったために, 変容には至らなかった可能性も考えられた。
著者
伊藤 大幸 村山 恭朗 片桐 正敏 中島 俊思 浜田 恵 田中 善大 野田 航 高柳 伸哉 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.170-183, 2016
被引用文献数
8

一般小中学生における食行動異常の実態について, 性別・学年による差異, 併存症状としてのメンタルヘルス指標との関連, リスク要因としての社会的不適応との関連という3つの観点から検討した。一般小中学生を対象に質問紙調査を実施し, 4,952名(男子2,511名, 女子2,441名)から有効回答を得た。独自に作成した小中学生用食行動異常尺度について確認的因子分析を行った結果, "やせ願望・体型不満"と"過食"の2因子構造が支持されるとともに, 性別, 学年段階, 体型による因子構造の不変性が確認された。"やせ願望・体型不満"は, 全体に女子が男子より高い得点を示したが, 特に中2, 中3で女子の得点が顕著に高くなっていた。"過食"では顕著な男女差や学年差が見られなかったが, 女子では, 学年とともにやや得点の上昇が見られた。メンタルヘルスとの関連では, "やせ願望・体型不満"が抑うつと比較的強い相関を示したのに対し, "過食"は攻撃性と比較的強い相関を示した。社会的不適応との関連では, "学業", "家族関係"に加え, 男子では"友人関係", 女子では"教師関係"が食行動異常と有意な関連を示した。
著者
村上 達也 西村 多久磨 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.156-169, 2016
被引用文献数
10

本研究の目的は, 小学生および中学生を対象とした対象別向社会的行動尺度を作成し, その信頼性と妥当性を検討することであった。小学4年生から中学3年生までの1,093名を対象とし質問紙調査を実施した。探索的因子分析の結果, 家族に対する向社会的行動, 友だちに対する向社会的行動, 見知らぬ人に対する向社会的行動の3因子を抽出した。加えて, 確認的因子分析により, 向社会性という高次因子を仮定したモデルが最終的に採択された。対象別向社会的行動尺度の内的一貫性および再検査信頼性係数は十分に高いことが確認された。中高生版向社会的行動尺度, 共感性尺度, 自己意識尺度, 学級生活満足度尺度といった同時に測定した外的基準との関連が概ね確かめられた。また, 尺度の内容的妥当性についても確認された。尺度得点に関しては, 男女差がみられ, 女子の得点の方が男子の得点よりも高いことが確認された。また, 学年差に関して, 概ね, 小学生の得点の方が中学生の得点よりも高いことが確認された。最後に, 本尺度の利用可能性について考察されるとともに, 今後の向社会的行動研究に関して議論された。
著者
加藤 弘通 太田 正義
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.147-155, 2016
被引用文献数
6

本研究の目的は, 中学校における学級の荒れと規範意識および他者の規範意識の認知の関係について検討することにあった。そのために公立中学校2校の中学生1~3年生906名を対象に質問紙調査を実施した。学級タイプを通常学級と困難学級に, 生徒タイプを一般生徒と問題生徒に分け分析を行った結果, 規範意識に関しては通常学級と困難学級では差は見られなかったが, 他の生徒の規範意識に関しては, 通常学級と困難学級で差が見られ, 困難学級の生徒のほうが学級全体の他の生徒の規範意識をより低く評価していた。以上のことから, 学級の荒れには, 生徒自身の規範意識の低下が関係しているのではなく, 他の生徒の規範意識を低く見積もる認知が関係していることが示唆された。こうした結果をふまえ, 学級の荒れを解決するためには, 従来から指摘されている生徒の「規範意識の醸成」よりも, 実際にはそれほど低くない他の生徒の規範意識を知ることが必要であり, そのための手立てとして, 生徒相互の「規範意識を巡るコミュニケーション」の活性化が必要だろうということが議論された。
著者
夏堀 睦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.334-344, 2002-09-30

本研究では,学校内での子どもが創作した物語の評価についての人々の信念を検討した。調査1では,短大生,大学生および大学卒業者40名が,評価者が教師である場合に創作される物語,評価者が仲間である場合に創作される物語,民話,ミステリー,恋愛小説,ノンフィクションの6つの物語のジャンルについて,25の物語評価項目の重要度を評定した。調査2では,専門学生,短大生,大学生および大学卒業者64名が,展開性と意味内容が異なる児童が創作した4つの物語を,教師の視点と被調査者自身の視点から評定した。その結果,学校での評価の特徴として,「物語の技巧性」と「物語の道徳性」の2つの観点から評価されること,他の物語の評価と比較すると「物語の技巧性」はあまり重視されないが「物語の道徳性」は重視する傾向があることが見出された。また,「教師の視点」における評価と「被調査者自身の視点」における評価のずれは,物語の展開性ではなくその物語が内包する意味内容や特徴的な表現に対して生じることも示された。さらに被調査者たちは物語の意味論的レベルを中心に評価するが,教師の評価はそうではないと考えていることが明らかになった。
著者
小林 夏子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.379-388, 1990-12-30

A personal expression indicates a position of the person who tells the story, that is whether he is involved in the story or not. The 1st person : he stands inside of the story and is a teller. The 3rd person : a teller stands outside. In order to make use of the personal expression as a clue to a deeper story comprehension, the purpose of this study is to investigate what kind of knowledge is related with the position of the teller. Subjects (76 university students) are asked to produce a sequel of the beginning of a story which implies that the protagonist suffers adversity. Ss are given two types of the beginnings whose protagonist is written in the 1st-or 3rd-person. The major results are as follows : 1) The number of phrases is larger in the 1st-person type, but the frequency of the movement is smaller. 2) The 1st-person type produces more on mental states, while the 3rd-person type produces more on action. 3) Moreover, the substance of productions differs in the way of solving the problem.
著者
内田 伸子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.327-336, 1989-12-30

The purpose of this study was to examine the role of "deficit-complement" schema played in a semantic integration of narrative sequences and the development of the same schema. Eighty-four 4-year-old and 5-year-old children were divided into three homogeneous groups, and assigned to one of three conditions: a non-restricted information with an undetermined deficit, a restricted information, or a non-information. The children were shown an abstract drawing story and were asked to describe each picture and perform a free-recall of the story and comprehension tasks. The results showed that the hypothesis, "the deficit information facilitating semantic integration of narrative sequences" was supported. It also showed that for the 4 year-old, influenced by the perceptual feature of each picture, in order to reconstruct interpretation the restricted information was difficult to utilize, while the 5 year-old could utilize the information and construct coherent interpretation. As a result, qualitative differences of cognitive basis for story production between the two age groups were shown.
著者
須藤 文 安永 悟
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.474-487, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
20
被引用文献数
2

本研究では, PISA型読解力の育成を目的に, LTD話し合い学習法に依拠した小学校国語科の授業を設計し, その有効性を検討した。LTDは8ステップからなる過程プランに従って読書課題を読解する学習方略である。個人で行う予習と集団で行うミーティングとで構成されている。本実践では, ステップごとに予習とミーティングを授業時間内で実施した。対象児は同一の公立小学校5年生2クラス52名, 対象単元は説明文(全15時間)であった。授業は, 単元見通しや課題明示など協同学習の基本事項を考慮しながら実施した。学習成果は, PISA型読解力の「情報の取り出し」を測定する「基礎テスト」と「解釈・熟考・評価」を測定する「活用テスト」, 学級集団の特質を測定する「Q-U」で検討した。実践結果を比較対象群(他の公立小学校2校6クラス182名)の結果と比較したところ, LTDに依拠した授業の結果, 活用テストの成績が比較対象群よりも有意に高く, もともと成績が低かった児童の伸びが大きいことが確かめられた。また, 「Q-U」の結果から「学級の雰囲気」「学習意欲」と「承認」が改善され, 学び合える学級集団が形成されていることが確認された。
著者
肥田野 直
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.41-58, 67-68, 1954

低照度下における横組みのローマ字および「かな」の活字の可読閾を測定して結果, 次の諸点が明らかにされた。(1)1音節を表わす場合と単語を表わす場合の何れにおいてもローマ字大文字の可読閾は小文字や「かな」の可読閾に比較して低い。(2)ローマ字小文字は母音を表わす場合は「かな」より可読閾が高いが, 母音以外の音節を表わす場合は「かな」よりも低い。また, 有意味単語を表わす場合は「ひらがな」よりは高いが「かたかな」と同程度の可読閾が得られ, 無意味音節を表わす場合は「ひらがな」と同程度で「かたかな」よりは低い可読閾が得られる。(3)単独の文字として呈示された場合は「ひらがな」も「かたかな」も可読閾においてほぼ等しい。単語して呈示される場合は前者の可読閾が方が低い。しかし, 外来語系統の単語では両者の差がない。(4)単独の文字として呈示された場合, 濁点・半濁点の存在は「かな」の可読閾を著しく高くする。特に「バ」行と「パ」行の「かな」の識別が困難である。しかし有意味単語においてはその影響が殆んどみられない。一方無意味音節においては単独に呈示された文字の場合と同様な影響がみられる。(5)ローマ字小文字は単独に呈示される場合よりも2字以上組み合わせて呈示した場合の方が可読閾が低い。この場合を除いては, ローマ字でも「かな」でも文字数と可読閾との間に一義的関係は認められない。(6)実験に用いられた5種類の音節に関する限り訓令式ローマ字と標準式ローマ字の可読閾に差はみとめられない。(7)単語の意味の有無によって「かな」の可読閾が異なるが, ローマ字の可読閾には殆んど影響がない。(8)ローマ字で表わされた国語の単語と英語の単語の可読閾に差は認められない。ただし, 固有名詞のようにローマ字の形で目に触れる機械の多い単語は一般的な国語の単語よりもローマ字の可読閾が低い。
著者
山本 真子 小松 孝至
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.76-87, 2016 (Released:2016-04-11)
参考文献数
16
被引用文献数
3

本研究では, 小学生の書く日記において, 書き手と書く対象との関係, 書き手と読み手との関係の二側面において明確化する子どもの固有性を自己として捉える観点から, 公立小学校4年生3名が, 小学校での学習の一つとして取り組んだ日記の質的分析を行った。事前調査として学年全体(218名)に質問紙調査を実施した上で, その結果と日記の内容を参考に3名の日記(計537篇)を選択して検討し, うち14篇を用いて, 特に書かれた他者および読み手としての他者との関係に注目したまとめを行った。書き手と書く対象との関係の視点からは, 時系列的に類似する内容を繰り返し書くスタイルの中で, 細部への視点の焦点化, 直接話法を用いた対話的表現, 他者への批判的な表現, 他者との対比などの形で子どもの視点が明確化する際, 他者が種々の役割を果たしている状況が観察できた。また, これらの書き手と対象との関係に関する表現のレパートリーは, 同時に書き手と読み手の関係において, 書き手が自己を定位する行為として考えられた。
著者
小林 敬一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.p297-305, 1995-09

Various resources can be used to prevent from forgetting things : for example, habitual actions to use external memory devices, metamemory knowledge of external memory devices, script knowledge for planning, and others' aids. The availability of the resources is not equal for anyone, however. The purpose of the present study was to examine developmental changes in contents of the available resources and the relationships among the resources for elementary school children in their homes. The questionnaires concerning the resources were administered to seventy second graders, sixty-six fourth graders, seventy-one sixth graders, and their parents. As results, the children's knowledge increased with grades, while parental aids decreased with grades. Significant (marginally significant) correlation between children's knowledge and parental aids were found in fourth graders only. Moreover, there was a significant (marginally significant) correlation between children's habitual actions to put the room in order and children's script knowledge in fourth and sixth graders, although differences in habitual actions among graders were not significant.
著者
栗山 直子 上市 秀雄 齊藤 貴浩 楠見 孝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.409-416, 2001-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
21
被引用文献数
1

我々の進学や就職などの人生の意思決定においては, 競合する複数の制約条件を同時に考慮し, 理想と現実とのバランスを満たすことが必要である。そこで, 本研究では, 高校生の進路決定において, 意思決定方略はどのような要因とどのような関連をもっているのかを検討することを目的とした。高校3年生359名に「将来の目標」「進学動機」「考慮条件」「類推」「決定方略」についての質問紙調査を実施した。各項目の要因を因子分析によって抽出し, その構成概念を用いて進路決定方略のパスダイアグラムを構成し, 高校生がどのように多数存在する考慮条件の制約を充足させ最終的に決定に達するのかの検討を行った。その結果, 意思決定方略には,「完全追求方略」「属性効用方略」「絞り込み方略」「満足化方略」の4つの要因があり, 4つの要因間の関連は,「熟慮型」と「短慮型」の2つの決定過程があることが示唆された。さらに,「体験談」からの類推については, 重視する条件を順番に並べて検討する「属性効用方略」の意思決定方略に影響していることが明らかになった。
著者
田中 国夫 松山 安雄
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.8-14,59, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13

社会的態度を因子分析のQテクニックの方法を用いて, 解明しようとするのが我々の主題である。本研究に於ては, 次の2つの点に問題をおいた。第1は, 青年学生集団に於ける, 天皇及び親に対する態度類型を見出すこと, 第2は, 被験者を家族という小集団に求めて, アメリカ及び新中国に対する態度の個人間の態度布置を見出すことである。第1の問題については, 先づ141名の大学生に, 天皇と親に対する態度尺度を与え, 平均的傾向を算出した。その結果は, 天皇に対しては中立的, 親に対しては比較的好意的である。尚天皇に対する態度と, 親に対する態度との間の相関は, γ=0.086で, その関係は全くみられない。次に上記被験者より30名を選び, 天皇及び親に対する態度尺度に含まれる各意見を, 各自の好みに従い品等させ, 個人間の相関を求めた。その結果を因子分析すると, 次の如き類型を見出し得た。即ち, 天皇に対する第1の類型は, 家父長的信頼型因子であり, 第2の類型は, 天皇制否定型因子である。親に対する第1因子は, 純敬愛型因子であり, 第2の因子は, 批判的愛情型と解釈された。又天皇に対して第1類型に属する者が, 親に対しては第2類型に属するという如く, 天皇と親に対する態度が, 同一個人内に於て統一した体系をなして居られぬ事が見られる。第1因子とも第2因子ともつかぬ, 明確な判断を欠く者は女性に多かった。第2の問題については, 被験者を2つの家族に選定した。大阪市在住と神戸市在住の家庭で, 成員はいずれも 5名である。各家族成員に, アメリカ及び新中国に対する態度尺度に含まれている意見を与え, 品等させ, Qテクニックにもとづき因子分栃したその結果得た因子行列を, 直交座標上にプロットすると次の事が判った。両家族とも, アメリカに対する類型は, アメリカの対目政策を批判し乍らも, 世界の文化のリーダーとして敬愛する類型と, 徹底的に批判乃至非難する類型との2つの因子がある。中国に対する態度は, 両家族ともに同一方向に群り, 家族成員間に対立的布置が余りみられないで, 皆同一類型に属している様子が見られる。今日の中国に対するマス・コミユニケーションのあり方の一端をも伺い得て興味深いものがある。
著者
牛山 聡子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.79-89, 1973-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
6
被引用文献数
1

「ジャンケン」は乱率部分強化の特性をもっている。本研究の目的は, そのことが幼児の「ジャンケン」行動の生起を促し, 「ジャンケン」模倣を生じ易くさせ, その後の「ジャンケン」行動もを維持させることを検証することである。また, 代理強化の効果は直接強化によって影響されることを検証する。モデリング刺激としては, 6つのビスケットを「ジャンケン」して勝った方が食べるという内容の映画が使われた。交互条件では, 女のおとなと子どもが「ジャンヶン」の結果, 3つずっビスケットを食べる6子ども勝利条件では子どもが全部食べる。映画は群別, 性別にまとめてみせる。実験は, 映画-自発的遂行測定-(1- 2日後) 映画-自発的遂行測定-(10日過ぎに)-自発的遂行測定の順で行なった。自発的遂行測定では, 被験児 (5才6か月~6才6か月) は2人1組にされ, まず 1つの玩具で遊ぶ。その後, お礼として出された「ビスケット」を食べる。被験児の行動は観察室から観察される。11回目の自発的遂行測定後の質問に対し, 両条件のほとんどの被験児がモデルの「ジャンケン」行動に言及し, 子ども勝利条件の被験児の半分以上 (男女同数) が, 子どもが全部ビスケットを食べたことに言及した。2つのモデリング刺激は男児と女児に異なる効果を及ぼした。子ども勝利条件の女児に比し, 交互条件の女児のより多くが, 明確な「ジャンケン」模倣を示した。男児では最後の1個のビスケットでのみ「ジャンケン」をする傾向があり, 2つの条件の比較をほとんど無意味にした。「ジャンケン」の遂行を促し, 維持するのは「ジャンケン」そのもののもつ部分強化の特性によるという仮説は検証された。また, 代理強化の効果は直接強化によって影響され易いことが示された。
著者
平 直樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.134-144, 1995-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31
被引用文献数
2 2 3

The present study attempted to measure a kind of writing ability. In order to reduce the individual variations of better basic language skills, a story production task was given to 153 junior and senior high school students. They were shown a picture which had been picked up from a picture book and were asked to make essays the picture would inspire them. It was required that they should make stories supposed to be read aloud to 1st grade children of elementary school by their mothers. In order to keep high quality of evaluation, essays were rated by 7 experts. The reliability coefficients based on the generalizability theory showed quite reasonable values. The path diagram showed that the effects of the basic language skills to the quality of essays could be ignored, but that the emotional factors on writing and reading, and voluntary habit of writing in a daily life had significant effects. Moreover, it was suggested that favourable experiences on books in preschool period had an influence on cultivating a positive emotional attitude on writing and reading, but compulsory trainings for writing had nothing to do with other factors.
著者
中川 恵正
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.114-123, 1980-06-30

本研究は,2個の弁別課題を併行して訓練する併行弁別事態において,後述学習における先行学習の適切次元の有無を変数として,過剰訓練の効果を検討した。 5×2の要因計画が用いられ,第1の要因は移行の型であり,全体逆転移行(W),部分逆転移行(P),半次元外移行-I (HEDS-I), 半次元外移行-II (HEDS-II)か次元外移行(EDS)であった。第2の要因は過剰訓練の有無であり,過剰訓練0試行か過剰訓練24試行かであった。被験者60名(平均年齢4歳1か月; 平均知能115.3)の幼児で,6名ずつ下位群に分けられた。先行学習の規準(5回連続正反応)到達後,あるいは所定の過剰訓練後,ただちに5個の移行条件(W, P, HEDS-I, HEDS-II, EDS)のいずれかを行った。移行学習規準は5回連続正反応であった。正反応に対する強化は"あたり"という言語強化と,ブザー音と黄色ランプの点灯の非言語強化とであった。 主要な結果は次の通りであった。 (1),全体逆転移行群の学習は過剰訓練によって促進される傾向がみられた。また半次元外移行-II群の逆転群の逆転課題の学習は過剰訓練によって促進された。しかし過剰訓練は部分逆転移行群の学習を遅延した。 (2),過剰訓練は半次元外移行-II群の次元外移行課題の学習を促進したが,次元外移行群の学習を促進も遅延もしなかった。 (3),全体逆転移行群と部分逆転移行群の後続学習課程は,標準訓練条件下では異ならないが,過剰訓練条件下では互に異なっていた。 (4),次元外移行課題における学習行程は,半次元外移行-I群,半次元外移行-II群および次元外移行群の3群間に差がみられなかった。 本研究の結果は,後続学習における先行学習の適切次元の有無が過剰訓練の効果を規定する重要な要因であることを示している。さらに先行学習の適切次元が後続学習に存在する場合には,過剰訓練は次元外移行学習をも促進することを明らかにしている。
著者
大江 由香 亀田 公子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.467-478, 2015
被引用文献数
1

本稿では, 再犯防止を図るための効果的な指導法を探索することを目的として, 近年重要性が認識されつつあるメタ認知と自己統制力, 自己認識力, 社会適応力との関連について文献研究を行った。メタ認知能力が低い者ほど, 必要な情報を察知できず, 視野の狭い短絡的・感情的・主観的な判断・行動をしやすいと言う。そして, メタ認知能力に乏しいと, 衝動性が高くなり, 自己に関連する情報や他者の非言語的なメッセージを読み誤りやすくなる傾向があることが分かり, 文献研究の結果, メタ認知の能力の乏しさが犯罪・非行への準備性を高める得ることが推察された。メタ認知能力は, 知的障害や発達障害などがあってもトレーニングによって鍛えることができ, マインドフルネスを含む第三世代の認知行動療法などによっても涵養し得ることから, 今後犯罪者・非行少年の処遇にメタ認知の向上を目的とした指導法を積極的に取り入れていくことが重要と考えられた。
著者
西村 多久磨 村上 達也 櫻井 茂男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.453-466, 2015
被引用文献数
3

本研究では, 共感性を高めるプログラムを開発し, そのプログラムの効果を検討した。また, プログラムを通して, 社会的スキル, 自尊感情, 向社会的行動が高まるかについても検討した。介護福祉系専門学校に通う学生を対象に実験群17名(男性6名, 女性11名 ; 平均年齢20.71歳), 統制群33名(男性15名, 女性18名 ; 平均年齢19.58歳)を設けた。プログラムを実施した結果, 共感性の構成要素とされる視点取得, ポジティブな感情への好感・共有, ネガティブな感情の共有については, プログラムの効果が確認された。具体的には, 事前よりも事後とフォローアップで得点が高いことが示された。さらに, これらの共感性の構成要素については, フォローアップにおいて, 実験群の方が統制群よりも得点が高いことが明らかにされた。しかしながら, 他者の感情に対する敏感性については期待される変化が確認されず, さらには, 社会的スキル, 自尊感情, 向社会的行動への効果も確認されなかった。以上の結果を踏まえ, 今後のプログラムの改善に向けて議論がなされた。
著者
三和 秀平 外山 美樹
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.426-437, 2015
被引用文献数
6

本研究は, 教師の学習の特徴を踏まえた"教師の教科指導学習動機尺度"を作成しその妥当性および信頼性を検討すること, またその特徴を検討することを目的とした。研究1では教師202名を対象に, 予備調査によって作成された原案54項目を用いて因子分析を行った。その結果, "内発的動機づけ", "義務感", "子ども志向", "無関心", "承認・比較志向", "熟達志向"の6因子29項目から構成される教師の教科指導学習動機尺度が作成され内容的な側面の証拠, 構造的な側面の証拠および外的な側面の証拠が一部確認され, 尺度の信頼性も確認された。研究2では現職教師243名および教育実習経験学生362名を対象に, 分散分析により教師の学習動機の違いについて検討した。その結果, 特に現職教師と教育実習経験学生との間に学習動機の差が見られ, 教育実習経験学生は"承認比較志向"が高いことが示された。研究3では教師157名を対象に, 教師の学習動機とワークエンゲイジメントとの関係について重回帰分析により検討した。その結果, 特に"内発的動機づけ", "子ども志向", "承認・比較志向"がワークエンゲイジメントと正の関連があることが示された。