著者
三浦 哲都 惠谷 隆英 三嶋 博之 古山 宣洋
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.606-629, 2022-12-01 (Released:2022-12-15)
参考文献数
129

The Japanese word rizumu-kan is a common word that somewhat refers to an ability to perceive and recognize rhythm. It could also mean an ability to move rhythmically involving cognition. Although the word is widely used in scientific discourses, it has not been given a straightforward definition. This paper aimed to discuss what the word rizumu-kan encompasses for human cognition and behavior, especially for artistic physical expression in the field of cognitive science. First, we showed that the ambiguity of rizumu-kan comes from the fact that rhythm is ubiquitous on various spatiotemporal scales and that the definition of rhythm varies from one discipline to another. Second, we reviewed and classified scientific studies on rizumu-kan. Finally, to further understand rizumu-kan for artistic physical expression in cognitive science, we propose the following: (1) to put these studies in a broader context where the behavior is situated, and (2) to develop a mixed research method within the framework of ecological psychology while giving some caveats that should be considered in planning and designing such studies.
著者
板垣 寧々 谷貝 祐介 三浦 哲都 三嶋 博之 古山 宣洋
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.285-302, 2023-09-01 (Released:2023-09-15)
参考文献数
30

Musicians have to coordinate movements interpersonally to perform in an ensemble. As such, this study explores how violinists coordinate movements to play the same melody together in terms of the leader–follower relationships revealed by players’ movements. Twelve violinists participated in the study and played a violin ensemble in pairs. We applied Granger causality analysis to the three-dimensional displacement data of players’ heads, violins, and bows to identify leader–follower relationships between players. The results revealed the following: i) the participants adopted leader–follower roles during trials; ii) as the performance proceeded, the participants swapped roles; iii) the more difficult the parts of the score, the more notable the leader–follower relationships; iv) compared with between-head and between-violin data, the movements for between-bow data were more similar in more parts of the score that demonstrated leader–follower relationships. Further examination of cases where the leader–follower relationships were identified showed that players may have employed their own strategies to achieve a stable, coordinated state. These results suggest that, when the roles of players are not fixed in violin ensembles, performance can be adjusted in multiple ways, including swapping leader–follower roles, which is in stark contrast to previous studies that reported fixed leader–follower relationship when the first violinist only led the other parts in a string quartet.
著者
関 巴瑠花 三浦 哲都 向井 香瑛 工藤 和俊
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集 第69回(2018) (ISSN:24241946)
巻号頁・発行日
pp.111_2, 2018 (Released:2019-01-18)

緊張や不安を感じながらも大観衆の前で美しく踊るバレリーナには、どのような心理生理学的な反応が生じているのだろうか。これまでパフォーマンス不安による心理生理学的な反応は、主に実験室での模擬的な環境内で測定されてきており、実環境におけるパフォーマンス本番での測定は極めて少ない。また、パフォーマンス不安に関する研究は楽器演奏をする音楽家や低強度運動時のスポーツ選手を対象にしたものが多く、同様の結果が中から高強度で運動をする人にも当てはまるかどうかは不明である。そこで本研究ではパフォーマンス不安が、中から高強度運動時の心拍数にどのような影響を与えるのか検討した。実際の観衆(400名以上)の前で踊るプロのバレリーナ1名が、中から高強度の運動強度で踊っている最中のR-R間隔を心拍計により計測した。心拍数はR-R間隔より算出した。舞台上でのリハーサルと本番での心拍数を比較した。その結果、本番での最大心拍数は180拍/分を超えており、リハーサル時よりも本番中の方がおよそ10拍/分心拍数が高かった。これらの結果から、中から高強度運動時においても、パフォーマンス不安により心拍数が増加することが明らかになった。
著者
三浦 哲司 Satoshi Miura
出版者
同志社大学政策学会
雑誌
同志社政策科学研究 = Doshisha University policy & management review (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.63-76, 2011-09-10

本稿では東京都中野区の「地域センター及び住区協議会構想」に焦点を当て、主に「構想の概要の確認」「構想の実践の把握」「構想廃止過程・要因の整理」という3つの作業に取り組む。というのも、平成の大合併が終息した今日では、大都市で都市内分権や地域自治組織のしくみが要請されている状況にあり、先行事例である中野区について分析することで、他都市で何らかのしくみを導入し運営するうえでの留意点が導き出されると考えるからである。もっとも、本稿のねらいは、先の3つの作業によって今後の研究の足がかりを確立することにあり、独自の視座からの分析ができているわけではない。ともあれ、本稿が扱う中野区の「地域センター及び住区協議会構想」とは、区内に15住区を設定し、それぞれに「地域センター」と「住区協議会」を置いて、双方が連携して地域自治の活性化を進めるという内容であった。そして、この枠組みを通じ、なかには熱心に活動する住区協議会もみられた。しかし、その後に区行政当局の対応や協議会委員の固定化などで問題が生じ、構想自体が2006年1月に廃止されてしまったのである。こうした動向をふまえつつ、今後の研究においては特定の住区を対象として、時系列的な分析や最新の実態分析を行う必要がある。あるいは、住区協議会が廃止された住区と、廃止されずに継続している住区とを取り上げて、双方を比較するといった作業も欠くことができない。このように中野区の「地域センター及び住区協議会構想」についてさらなる研究を進めることにより、都市内分権や地域自治組織を導入し運営する他の大都市にとっての留意点が提示できよう。
著者
矢萩 智裕 宮川 康平 川元 智司 大島 健一 山口 和典 村松 弘規 太田 雄策 出町 知嗣 三浦 哲 日野 亮太 齊田 優一 道家 友紀
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

国土地理院では全国に約1,300点のGNSS連続観測施設(電子基準点)を設置し,1HzサンプリングのGNSS連続観測を実施している.データ取得及び解析系まで含めた一連のシステムはGEONET(GNSS連続観測システム)と呼ばれ,GEONETで得られた観測データや解析結果等は,我が国の位置の基準を定める測量や地殻変動監視,高精度測位サービス等の幅広い分野で利用されており,現代社会を支えるインフラの一つとしての役割を担っている.防災面においても,これまでGEONETは地震や火山活動に伴う地殻変動の検出等で大きな貢献を果たしており,平成23年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)後には,短周期地震計等により推定された地震発生直後の地震規模が過小評価だったことを踏まえ,より信頼度の高い津波警報初期値への利用を視野に,GEONETのリアルタイムデータを用いた地殻変動結果による地震規模の即時推定技術について大きな期待が寄せられているところである.このような背景を踏まえ,国土地理院では,平成23年度から東北大学との協同研究の下,新たなGEONETのリアルタイム解析システム(REGARD:Real-time GEONET Analysis system for Rapid Deformation Monitoring)の開発を進めてきた.REGARDでは,GEONETで収集されたデータをRTKLIB 2.4.1(Takasu, 2011)をベースとした解析エンジンで処理し,RAPiDアルゴリズム(Ohta et al., 2012)又は緊急地震速報(Kamigaichi et al., 2009)を用いて検知された地震発生に伴う各電子基準点の変位量を入力値として矩形断層モデルの即時自動計算(西村, 2010)を実行することで,地震規模が推定される.平成24年度からは東北地方を中心とした143観測点によるプロトタイプ版を開発して連続稼動の試験運用を実施するとともに,GEONET運用後に発生した過去の大規模地震時の観測データ等を利用したシステムの能力評価を行ってきた.一例として,平成23年東北地方太平洋沖地震のケースでは,推定される矩形断層モデルとCMTとの比較では位置及びメカニズムに若干の差異はあるものの,地震発生から約3分でMw8.9を推定可能であること,Mw7.5を下回る規模の地震の場合にはS/N比が低くなり推定精度が落ちること等が明らかとなった.平成25年度には,プロトタイプシステムをベースに,解析範囲を全国の電子基準点に拡大するとともに,解析システムをGEONET中央局内で二重化すること等により冗長性を高めた新たな全国対応システムを構築した.また,解析設定ファイル作成や結果ファイル閲覧等の支援機能についても追加で実装している.同システムについて平成26年4月から本格的な運用に向けた試験を開始している.本講演では,過去の観測データから得られた検証結果及び全国対応システムの概要を報告するとともに,将来的な津波警報への活用に向けた取り組みや課題について報告する.
著者
内田 直希 松澤 暢 三浦 哲 平原 聡 長谷川 昭
出版者
SEISMOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
地震. 2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.287-295, 2007-03-25
参考文献数
26
被引用文献数
5 4

Spatio-temporal distribution of quasi-static slip on the plate boundary east off Miyagi and Fukushima prefectures, NE Honshu, Japan is estimated by using small repeating earthquake data. The analysis of small repeating earthquakes has advantages of relatively high spatial resolution, especially near the trench, and the availability of long-term data (22 years) compared to GPS data. The results show that the repeating earthquakes are distributed outside the coseismic slip areas (asperities) of large earthquakes, showing that fault creep is dominant outside the asperities. The cumulative slip (slip histories) of small repeating earthquake groups reveal the existence of many non-steady aseismic slip events. Most of the episodic quasi-static slip events are associated with <I>M</I>≥ 6 earthquakes and they are frequently seen in the areas near the Japan trench in particular. Minor afterslip (∼15cm) of the 2005 Miyagi-oki earthquake (<I>M</I>7.2) is also estimated in the area which encompasses the coseismic slip area of the 2005 earthquake.
著者
三浦 哲司
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-18, 2014-07-31

わが国の大都市では現在、小学校区や中学校区において、地縁団体関係者とともに市民活動団体関係者が参加する地域住民協議会の設立が進んでいる。大阪市でも2012年度から、本格的に市内全域で大阪市版の地域住民協議会である「地域活動協議会」の設立を進めてきた。しかし、性急な協議会設立のうごきに対して地域の側の理解が深まっておらず、大半の協議会が試行錯誤している状況にある。そのようななかで、鶴見区の緑地域活動協議会は自主財源を確保しながら多面的な活動を実践している。そこで、この協議会について検証したところ、1)協議会設立以前からの地域活動の蓄積が協議会活動のあり方を左右する、2)活動の持続性向上には自主財源の確保が求められる、3)必要に応じた外部主体との連携が地域住民協議会にとって有効となる場合もある、という示唆を抽出することができた。今後の研究では、他事例との一致比較や差異比較を視野に入れながら、引き続き協議会活動の活性化要因の解明を進めていきたい。
著者
小野澤 正喜 小池 庸生 周東 聡子 泉水 清志 三浦 哲也 伊藤 優子 櫻田 涼子 幸田 麻里子 金子 義隆 藤原 愛 大島 宗哲
出版者
育英短期大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

グローバル化の中で外国人との接触が増え、日本人の異文化に関する意識に大きな変容が生じている。異文化との共生の中、群馬県の青年層が異文化をどのように捉え価値観を見いだしているのか調査を行った。調査では、地域のコミュニティよりも学校生活における友人関係が、異文化に対し強く影響を与えている傾向が見られた。
著者
大槻 憲四郎 藤巻 宏和 中村 教博 松澤 暢 三浦 哲 山内 常生 松沢 暢 三浦 哲
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

近い将来に危惧される宮城県沖大地震を予知するため、民間・地方自治体から深度1000m前後のボアホールと温泉を計10カ所前後借用し、遠隔自動受信による「深層地下水観測システム」を構築した。精密な水温・水位・ラドン濃度・炭酸ガス濃度を観測し続け、岩手・宮城内陸地震を含む7個の地震のpre-およびco-seismicな変動を捉えた。
著者
首藤 伸夫 三浦 哲 今村 文彦
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

標準的には、津波は海底地震にともなって発生するものとされており、その初期波形を断層パラメーターに基づいて計算するのが現在の一般的な手法である。しかし、断層運動と海底地盤の変動の大小とに一定の関係が存在するという保証はない。(1)2枚の断層からなる1983年の日本海中部地震では、断層運動から推定される津波と現実の津波の間に矛盾があった。その最大の難点は、現実の津波が深浦地点で約2分、能代辺りで約10分早く到達することである北断層では主断層と共役である方向に副断層の存在した可能性があり、これを考慮すると深浦への到達時間は説明できた。南断層では、通常の地震計では記録できない地盤変動が生じたとすると能代周辺の津波到達時間を説明できた。しかし、この時、何故この第1波が能代の検潮記録に記録されなかったかの疑問が残る。当時の写真から第1波のソリトン波列への発達が確認され、検潮所の水理特性により記録されないことが確認された。(2)1992年のニカラグァ津波では、陸地で感じられた地震動が震度2(気象庁震度階)であった。津波発生のメカニズムを検討した結果、地震動を伴ってはいたが、津波地震とするのが適当であることが判った。(3)1993年の北海道南西沖地震で発生した津波の内、北海道西岸を襲った津波第1波は、その襲来が早かった。断層位置から発生した津波は、現実の津波より5分ほど到達が遅い。断層と海岸の間で、地震とは直接関係の無い津波発生機構があった事が強く示唆された。(4)地震動を伴わない津波発生の内、犠牲者3万人を越えると言われている1883年クラカトア島陥没による津波発生を再現した。発生箇所での急激な陥没を不安定を起こさずに計算できる手法を開発した。
著者
大庭 卓也 荒河 一渡 三浦 哲也 秋重 幸邦
出版者
特定非営利活動法人 産学連携学会
雑誌
産学連携学 (ISSN:13496913)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1_17-1_23, 2021-01-31 (Released:2021-03-15)
参考文献数
1

島根県には日本で発達したたたら製鉄と関連のある特殊鋼関連企業の集積がある.島根大学ではキラリと光る地方大学実現と地域の金属産業の活性化に資するため交付金事業を活用し,次世代たたら協創センター(NEXTA)を設立した.オックスフォード大学教授をセンター長に迎え,材料工学の4つの柱をバランスよく配置し,先端金属素材のグローバル拠点の創出を目指している.
著者
山本 真 飯島 典子 三浦 哲也
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

日中戦争前期(1937-1941)、中国からの短波ラジオ、教科書、抗日宣伝雑誌、映画、歌曲などを通じて、サラワク華僑に対して、民族意識や祖国の抗戦が宣伝された。これに応え、華僑は救国義捐金運動を展開した。太平洋戦争時期(1941-45)には、サラワクは激戦地とはならず、華僑を含む現地住民への大規模な虐殺は概ね発生しなかった。しかし、日本の軍政は「ビンタ」や犯罪容疑者に対する酷刑などにより威圧的様相を強く呈した。また、資源の収奪、既存の流通網の寸断、統制経済は、民生を混乱に陥れた。中国から注入された抗日戦争のイメージと太平洋戦争での経験が複合することにより、華人の対日歴史記憶が形成された。
著者
三浦哲郎著
出版者
新潮社
巻号頁・発行日
1987
著者
伴 雅雄 及川 輝樹 山崎 誠子 後藤 章夫 山本 希 三浦 哲
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.131-138, 2019-06-30 (Released:2019-07-06)
参考文献数
27

Based on the history of volcanic activity of Zao stage VI, we examined possible courses of future activity of Zao volcano. All activities will start with precursory phenomena. Next, phreatic eruptions from Okama crater or other place inner part of Umanose caldera will occur, and may cause ballistic materials release, ash fall, pyroclastic surge, and lahar. The possibility of small scales edifice collapse and lava flow swelled out is very low but should be included. When the activity progresses, magmatic eruptions will be taken place from Goshikidake, and cause same phenomena as in the phreatic eruptions but larger in scale. The possibility magmatic eruption takes place without preceding phreatic eruption can not be excluded. Rarely, the activity will go up further and resulted in sub-Plinian eruption. Aside from the above sequence, larger scale phreatic eruption from Goshikidake area should be listed, although the possibility of this is very low.
著者
山本 希 三浦 哲 市來 雅啓 青山 裕 筒井 智樹 江本 賢太郎 平原 聡 中山 貴史 鳥本 達矢 大湊 隆雄 渡邉 篤志 安藤 美和子 前田 裕太 松島 健 中元 真美 宮町 凛太郎 大倉 敬宏 吉川 慎 宮町 宏樹 柳澤 宏彰 長門 信也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

蔵王山は,東北日本弧中央部に位置し宮城県と山形県にまたがる第四紀火山であり,現在の蔵王山の火山活動の中心となる中央蔵王においては,火口湖・御釜周辺での火山泥流を伴う水蒸気噴火など多くの噴火記録が残されている.一方,蔵王山直下では,2011年東北地方太平洋沖地震以後,深部低周波地震の活発化や浅部における長周期地震や火山性微動の発生が認められ,今後の活動に注視が必要であると考えられる.そのため,地震波速度構造や減衰域分布といった将来の火山活動推移予測につながる基礎情報を得るために,「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の一環として,人工地震を用いた構造探査実験を実施した.本人工地震探査は,全国の大学・気象庁あわせて9機関から21名が参加して2015年10月に行われ,2箇所のダイナマイト地中発破 (薬量200kgおよび300kg) によって生じた地震波を132点の臨時観測点 (2Hz地震計・500Hzサンプリング記録) および定常観測点において観測した.測線は,屈折法解析による火山体構造の基礎データの取得およびファン・シューティング法的解析による御釜周辺の地下熱水系の解明を目指し,配置設定を行った.また、地中発破に加え、砕石場における発破も活用し、表面波解析による浅部構造推定の精度向上も目指した.得られた発破記録から,解析の第一段階として,初動到達時刻を手動検測して得られた走時曲線のtime term法解析を行った結果,P波速度5.2~5.5 km/sの基盤が地表下約0.5kmの浅部にまで存在することが明らかとなった.また,本人工地震探査時および2014年に予備観測として行った直線状アレイを用いた表面波の分散性解析の結果も,ごく浅部まで高速度の基盤が存在することを示し,これらの結果は調和的である.一方,ファン状に配置した観測点における発破記録の初動部および後続相のエネルギーを発破点からの方位角毎に求め,御釜・噴気地帯を通過する前後の振幅比から波線に沿った減衰を推定した結果,御釜やや北東の深さ約1km前後に減衰の大きな領域が存在することが示された.中央蔵王においては,これまで主に地質学的手法により山体構造の議論が行われてきており,標高1100m以上の地点においても基盤露出が見られることなどから表層構造が薄い可能性が示唆されてきたが,本人工地震探査の結果はこの地質断面構造とも整合的である.一方で,得られた速度構造は,これまで蔵王山の火山性地震の震源決定に用いられてきた一次元速度構造よりも有意に高速度であり,今後震源分布の再検討が必要である.また,御釜やや北東の噴気地帯直下の減衰域は,長周期地震の震源領域や全磁力繰り返し観測から推定される熱消磁域とほぼ一致し,破砕帯およびそこに介在する熱水等の流体の存在を示唆する.今後のさらなる解析により,震源推定の高精度化など,火山活動および地下流体系の理解向上が期待される.