著者
山下 陽子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.77-82, 2022 (Released:2022-04-19)
参考文献数
23

近年, 食品の三次機能である生体調節機能を持つ食品成分に注目が集まっている。筆者は, 多様な機能性を有することが明らかにされているポリフェノールのうち, プロシアニジンやテアフラビンなどの縮合型タンニンの生体調節機能の検証を行ってきた。これらのポリフェノールは, ほとんど体内に吸収されない難吸収性であり, 生体利用性が低いと考えられている。本稿では, 難吸収性のポリフェノールの特性に着目して, 消化管を起点とする新規な生体調節機能として, 消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1 (GLP-1) の分泌促進を介した肥満・高血糖予防作用とその作用機構について解説する。また, 難吸収性ポリフェノールによるGLP-1分泌促進作用は, 血管内皮型一酸化窒素合成酵素の活性化を介した血管機能の向上にも寄与することも紹介する。さらに, プロシアニジンの生体調節能と体内時計の関係についても触れる。これらのことから, 難吸収性のポリフェノールは多臓器間のシグナルネットワークを介してさまざまな生体調節機能を発揮しうることと, 機能を発揮するのに適したタイミングがあることがわかった。
著者
森田 達也
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.63-69, 2022 (Released:2022-04-19)
参考文献数
27

従来, 小腸における食物繊維の生理作用は, 同時に摂取した栄養素と食物繊維との消化管内における相互作用を反映した結果から論じられ, 食物繊維の消化管自体に対する作用を研究した例は限られていた。本総説では, 食物繊維摂取時の小腸杯細胞応答とムチン分泌量について, 主に食物繊維の嵩と粘性から解析した結果について紹介し, 小腸由来ムチンが発酵代謝産物である短鎖脂肪酸を介して宿主‐腸内細菌の相利共生関係を下支えする内因性食物繊維として機能することについても言及する。さらに, 植物細胞壁由来の古典的食物繊維にくわえ, 近年, 新しい食物繊維素材として注目されている消化抵抗性デンプンや難消化性デキストリン類の消化管内動態を推定する上で, 現行のProsky消化を基本とする食物繊維定量法を用いることの妥当性を議論した。
著者
田中 照佳
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.71-76, 2022 (Released:2022-04-19)
参考文献数
8

腹部大動脈瘤は, 腹部大動脈の進行的な拡張を特徴とする疾患である。腹部大動脈瘤の詳細な発症メカニズムは不明であるため, 有効な治療薬の開発には至っていない。我々は, ヒトおよび腹部大動脈モデルマウスに破骨細胞が存在することを世界で初めて発見し, この破骨細胞が動脈瘤の発症に関与することを明らかにした。また, 高血糖は動脈瘤発症のネガティブリスクファクターであることが知られているが, 本研究ではその詳細な解析を明らかにした。糖尿病モデルマウスに動脈瘤形成を誘導化したところ, 高血糖によりマクロファージ活性化が抑制されたことにより, 動脈瘤形成は有意に抑制され, これらのメカニズムにLiver x receptorが関与することを明らかにした。さらに, 破骨細胞の分化を抑制するクズイソフラボンであるプエラリンを動脈瘤モデルマウスに投与すると動脈瘤形成は有意に抑制された。これらの知見により, 今後は破骨細胞を標的とした腹部大動脈瘤の治療のための臨床研究や食品・栄養成分による予防法の確立が期待される。
著者
大和 孝子 紀 麻有子 小畑 俊男 太田 英明 青峰 正裕
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.85-91, 2002-04-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
18
被引用文献数
3 3

コーヒーとその主要構成成分 (カフェイン, クロロゲン酸) のラットにおけるストレス緩和効果について調べた。ラットの脳海馬における神経伝達物質セロトニン (5-HT) とドーパミン (DA) 放出レベルを in vivo マイクロダイアリシス法を用いて調べ, ストレッサーとして拘束を採用し, 拘束ストレスの負荷前後と, コーヒーと構成成分投与後の拘束負荷前後の5-HTとDA放出レベルを比較した。投与量はヒトがコーヒー1杯を摂取する際の量を基準にラットの体重に換算した値を用いた。拘束ストレス (100分間)は脳海馬細胞外5-HTレベルを著しく上昇した。コントロール実験として2回目拘束の直前に生理的食塩水投与を行った。2回目拘束を行った場合の5-HTレベルの上昇は1回目に比べ約85%であった。コーヒー投与では2回目拘束で1回目の約37%と低下し, 生食水の場合と比べて有意 (p<0.05) であった。カフェイン投与でもほぼ同様 (約33%, p<0.05 vs 生食水) であったが, クロロゲン酸投与ではむしろ1回目より若干増加した。DAレベルに関しても同様な傾向はあったが, 5-HTレベルほど顕著ではなかった。以上のことから, コーヒーは, ラットにおいても, ストレスを緩和するのに貢献していることを示唆する。
著者
吉田 博
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.3-10, 2022 (Released:2022-02-23)
参考文献数
38

動脈硬化性心血管疾患の予防には, 脂質異常症をはじめとする多様な危険因子の包括的管理が重要である。代表的な危険因子である脂質異常症の治療は, 薬物療法に先んじて食事療法が基本であり, そのなかで機能性食品等の役割も期待される。また, LDLコレステロール (LDL-C), HDLコレステロール (HDL-C), トリグリセライド (TG) などの血清脂質の量的評価のなかで, LDL-Cの高値は主要な動脈硬化リスク因子として位置付けられているが, 高TG血症やHDL-Cの低値はリスク因子として未解決の課題がある。我々は動脈硬化危険因子に対するより優れた包括的な管理の確立を目指し, ビタミンEやカロテノイドなどの抗酸化物質により脂質代謝関連バイオマーカーの改善, 血清脂質の量的精密分析および質的評価の開発などをはじめ, 一貫して代謝栄養学的な研究を展開してきた。これらの成果が人々の健康寿命の延伸に役立つことを期待する。
著者
伴野 太平 小森 ゆみ子 鈴木 聡美 田辺 可奈 笠岡 誠一 辨野 義己
出版者
日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.229-235, 2016
被引用文献数
1

<p>さつまいもの一種である紅天使を健康な女子大学生22人に摂取させた。加熱後皮をむいた紅天使の食物繊維は2.9 g/100 gだった。摂取開始前1週間を対照期とし, その後1週間単位で紅天使を1日300 g, 0 g, 100 gとそれぞれ摂取させた。排便のたびに手元にある直方体の木片 (37 cm<sup>3</sup>) と糞便を見比べ便量を目測した。その結果, 対照期には1.8±0.2 (個分/1日平均) だった排便量が, 300 gの紅天使摂取により約1.6倍に, 100 g摂取により約1.5倍に増加した。排便回数も紅天使摂取量の増加に伴い増加した。300 g摂取でお腹の調子は良くなり便が柔らかくなったと評価されたが, 膨満感に有意な変化はなかった。各期の最終日には便の一部を採取し, 腸内常在菌構成を16S rRNA遺伝子を用いたT-RFLP法により解析した結果, 紅天使摂取により酪酸産生菌として知られる<i>Faecalibacterium</i>属を含む分類単位の占有率が有意に増加した。</p>
著者
山田 和彦 田中 弘之 石見 佳子 梅垣 敬三 井出 留美
出版者
日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.91-99, 2017
被引用文献数
2

<p>食品の機能性に関する表示は, 消費者が食品を選択する際の一つの有効な手段となる。保健機能食品は, 食品表示法に基づく食品表示基準に規定されており, 特定保健用食品, 機能性表示食品および栄養機能食品からなる。特定保健用食品は, 健康増進法においても規定されており, 特定の保健の用途に適する旨を表示するもので, 販売に当たり国の許可が必要である。機能性表示食品は, 2015年に新しく創設された制度であり, 事業者の責任において体の構造と機能に関する機能性表示をすることができる。販売前に機能性と安全性に関する科学的根拠資料を国に届出る。栄養機能食品は, 規格基準型の食品で, 国の許可を受けることなく栄養素の機能表示をすることができる。2015年の特定保健用食品の市場規模は約6,400億円, 栄養機能食品といわゆる健康食品を合わせて1兆5千億円と試算されている。これらの食品の機能性に関する表示は消費者に正しく理解される必要があり, 普及・啓発が重要である。これにより, 人びとの健康の維持・増進が期待される。</p>
著者
江崎 治 窄野 昌信 三宅 吉博 井藤 英喜
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.19-52, 2007-02-10 (Released:2009-01-30)
参考文献数
175
被引用文献数
2 1

日本人の飽和脂肪酸の摂取基準策定 (2005年版) に用いた論文をエビデンステーブル (表) として提示し, 策定の基本的な考え方を詳しく述べた。飽和脂肪酸は摂取量が多いと肥満や心筋梗塞が増加し, 少ないと脳出血が増加する至適摂取範囲の狭い脂肪酸である。このため, 飽和脂肪酸の目標量は18歳以上で4.5%エネルギー以上, 7%エネルギー未満に設定された。飽和脂肪酸摂取量が増加すると, 肥満度, 血中LDL-コレステロール値が増加し, 糖尿病, 心筋梗塞罹患が増加する。米国での飽和脂肪酸摂取量を10%エネルギー以下 (National Cholesterol Education Program Step I diet) または7%エネルギー以下 (National Cholesterol Education Program Step II diet) にした多くの介入研究で, LDL-コレステロール値低下, 体重減少が認められている。米国のコホート研究 (観察研究) でも, 飽和脂肪酸摂取量が増加すると, 用量依存性に心筋梗塞や糖尿病罹患の増加が認められている。日本人の飽和脂肪酸摂取量のエネルギー比率の中央値 (50パーセンタイル値) は男性18歳以上で4.9-7.2%エネルギー, 女性18歳以上で5.4-7.9%エネルギーとなり, 平均では約6.3%エネルギーとなる。日本人の現状, あるいは伝統型食生活も考慮に入れて, 心筋梗塞, 肥満, 糖尿病の予防のため, 7%エネルギーが目標量 (上限) に設定された。日本人中年男女を対象にした観察研究では, 飽和脂肪酸の摂取量が少ないと, 血圧, 肥満度, コレステロール値, 喫煙, アルコール摂取量を考慮しても, 脳出血の発症頻度の増加が認められている。ハワイ在住中年男性日系人の観察研究でも, 飽和脂肪酸の摂取量が10g/day未満の人は, 10g/day以上の人に比べ, 約2倍の脳卒中による死亡数の増加を認めている。これらの研究結果から, 18歳以上で, 4.5%エネルギーが下限値に設定された。
著者
太田 篤胤
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.387-395, 1999-12-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
50
被引用文献数
4 3

The importance of indigestible carbohydrates such as dietary fiber is well recognized. In recent years, the stimulatory effects of indigestible sugars such as fructooligosaccharides (FOS) on mineral absorption have been discovered and examined. This review provides an overview of current research work in this field. FOS are not digested by human enzymes. Dietary FOS are effective for increasing not only apparent but also true intestinal calcium (Ca) absorption in rats. Dietary FOS also stimulate magnesium (Mg) and iron (Fe) absorption. These effects show dose dependency and are long-lasting. FOS increase the absorption of Mg from natural foods such as cocoa and rice bran. The increase in Ca and Mg absorption is diminished by cecectomy. Ca and Mg disappear from the colorectal contents in the course of transit from the cecum to the anus. The absorption of cecally infused Ca and Mg is increased by dietary FOS. Moreover, dietary FOS increase large intestinal calbindin-D9k. These results suggest that the stimulatory action of FOS is exerted in the large intestine. FOS improve the bioavailability of these minerals in sever disease models rats. Dietary FOS prevent osteopenia in both ovariectomized rats and gastrectomized rats. In gastrectomized rats, FOS feeding also prevents anemia. Supplying a diet with a high Ca and high phosphorus content markedly decreases Mg absorption, and rats fed such a diet exhibit typical symptoms of Mg deficiency. However, these symptoms are suppressed by FOS feeding. The Ca absorption-promoting effect of FOS has been confirmed in humans by two different methods (balance study and double isotope method). Therefore, it is expected that many clinical applications of FOS will be established in the near future.
著者
萩原 清和 小篠 栄 矢野 友啓 市川 富夫
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.111-116, 1994-04-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
37
被引用文献数
1 2

VE欠乏ラットのGSH低下による腎臓障害に対するγ-glutamylcysteine ethyl esterの投与効果を明らかにするため, リポフスチン生成および腎臓機能や組織障害を指標に検討を行った。1) γ-GC投与およびGly+γ-GC投与は腎臓内GSH量を増加させ, リポフスチン量の急激な上昇を抑制した。2) Gly+γ-GC投与は血清クレアチニン量の増加, LDH活性の上昇, および腎臓内酵素活性の低下を抑制した。3) γ-GC投与は近位尿細管上皮細胞壊死を完全には防御することはできなかったが, Gly+γ-GC投与は近位直尿細管上皮細胞の壊死が観察される程度に障害をとどめることができた。4) GSHは過酸化脂質からのリポフスチン生成を抑制し, 腎機能低下や腎障害の防御に関与する可能性が強く示唆された。
著者
森口 覚 村賀 民佳子 清水 英治
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.23-27, 2000-02-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
12

It is estimated that one fourth of Japan's population in the 21st century will be older than 65 years of age. Accompanying this increased percentage of elderly people will be an increased incidence of life-style-related diseases and infectious diseases associated with the reduced cellular immunity that occurs during aging. If this decrease of cellular immunity can be minimized, it might improve the health of older persons and prolong life expectancy. This paper summarizes the effect of nutrition and exercise on decreased cellular immunity in the aged. Obesity (BMI>30) in the aged induced marked decreases of T cell proliferation following in vitro activation with PHA or Con A and natural killer cell (NK) activity. In contrast, exercise training improved not only the decreased phagocytic activity but also the responsiveness to macrophage-activating factor (MAF) produced from activated T cells among alveolar macrophages (AM) in aged rats (24 months old). In addition, reduction in the activities of daily life (ADL) was closely associated with decreased NK activity in elderly people admitted to health service facilities for the aged. In conclusion, this study suggests that obesity is one of the risk factors for deteriorating health in the aged, and that maintenance of physical activity in the aged is important for retaining cellular immunity in this population group.
著者
上原 万里子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.281-289, 2021 (Released:2021-12-20)
参考文献数
31

食品の成分には, ミネラル, ビタミンおよび植物性機能物質などが含まれている。これらは微量ではあるが, 糖・脂質・タンパク質代謝, 骨代謝, あるいは複数の代謝系を調節する重要な作用を有している。著者らは, 植物エストロゲンの臨床研究応用を目指した時間分解蛍光免疫測定法 (TR-FIA) を開発し, 自身の基礎研究にも応用した。フラボノイドの代謝には腸内環境が影響することから, プレバイオティクスとの併用摂取による代謝変動と骨粗鬆症モデルに対する効果を検討した。イソフラボン代謝産物のequolには鏡像異性体が存在し, (S) 体の方が (R) 体よりも生体利用率が高く, 骨量減少抑制作用も強いことが示唆された。柑橘系フラボノイドのhesperidinは, コレステロール合成経路を介して骨量減少抑制することが推察された。抗炎症作用を有する含硫化合物のsulforaphaneは, 従来の破骨細胞分化因子の抑制に加え, 破骨細胞融合分子の抑制を介し, 破骨細胞分化を制御することを明らかにした。鉄欠乏状態では脂質過酸化は起こりにくいとされて来たが, これまでの定説とは逆の鉄欠乏が惹起する生体内酸化メカニズムの一端を明らかにした。さらに, 鉄欠乏時のβ-カロテンおよびα-トコフェロールの代謝変動は, これらビタミン代謝に関与する鉄含有酵素により引き起こされる可能性を示唆した。
著者
矢島 由佳 髙澤 まき子 鈴木 裕一
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.297-305, 2021 (Released:2021-12-20)
参考文献数
44

味覚は, 栄養素を感知する機能を介してエネルギーや栄養素の摂取量の調節に大きな役割を果たしている。本研究の目的は, 味覚感受性が季節変動を示すかどうかを明らかにすることである。女子大学生を対象に, 夏期 (7月下旬‐8月上旬) と冬期 (1月下旬‐2月上旬) の2回にわたって, 塩味, 酸味, 甘味, うま味, 苦味の基本5味の刺激閾値と認知閾値について測定した。その結果, 刺激閾値は塩味と甘味について夏期よりも冬期の方が有意に上昇していた。認知閾値についても, うま味以外の4つの味 (塩味, 酸味, 甘味, 苦味) について夏期より冬期の方が有意に上昇していた。以上より, 冬期には味覚感受性が全般的に低下していることが示唆された。
著者
海老原 清
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.3-9, 2008 (Released:2008-12-19)
参考文献数
40
被引用文献数
9 9

食物繊維は難消化性のために,栄養素中心の栄養学では注目されることはなかった。しかし,食物繊維には栄養素では達することのできない種類の栄養・生理機能があり,健康を維持する上で必須な食品成分であることが明らかにされた。現在,食物繊維の定義,分類,分析法については,まだ意見の一致をみていない。食物繊維の研究が進む中で,小腸で消化されないでんぷんの存在が明らかになり,それらはレジスタントスターチとよばれ,食物繊維と同様の栄養・生理機能を有することが明らかになった。食物繊維の栄養・生理機能は粘性やかさ形成能などの物理・化学的特性によって影響された。食物繊維やレジスタントスターチは生活習慣病予防を目的とした食品の開発に応用されている。
著者
大武 由之
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.37-42, 1983
被引用文献数
2

食肉工場で原料肉処理の際, 輸入めん羊枝肉から得られた3頭分の上腕骨, 大腿骨, 肩甲骨および肋骨から, それぞれ骨髄脂質を抽出し, それらの脂肪酸組成と, 骨髄脂質のトリアシルグリセロール (TG) 内の脂肪酸分布を調べた。ついで, めん羊骨髄脂質をアセトン分別結晶法によって分画し, 製取した画分についても脂肪酸組成と脂肪酸分布を調ベた。<BR>めん羊の骨髄脂質は, 融点が40℃近くで, 飽和脂肪酸に富み, C<SUB>18: 0</SUB>が比較的多かった。骨髄脂質はほとんど大部分が中性脂質から成っていたが, そのリン脂質画分は全脂質に比べてC<SUB>16: 0</SUB>やC<SUB>18: 1</SUB>が少なく, 多価不飽和脂肪酸に富んでいた。<BR>骨髄脂質のTG内の脂肪酸分布では, C<SUB>16: 0</SUB>は1-位置に多く, C<SUB>18: 0</SUB>は1-および3-位置に多く結合していて, これに反してC<SUB>18: 1</SUB>とC<SUB>18: 2</SUB>はTGの1-位置と3-位置よりも, 2-位置に多く結合していた。<BR>アセトン分別結晶法によって骨髄脂質から, 飽和脂肪酸含量が多くて融点の高い2画分と, 軟質な脂肪の画分と, 室温では淡黄色の液状油の画分とを分取した。画分の融点が低くなるにつれて飽和脂肪酸が減少し, 不飽和脂肪酸は増したが, Frac. 1はその90%近くが飽和酸から成り, 液状油ではその70%近くが不飽和酸から成っていた。<BR>分別した画分にあっても, C<SUB>18: 0</SUB>はTGの1-位置と3-位置に多く, C<SUB>18: 1</SUB>とC<SUB>18: 2</SUB>は2-位置に多く結合していて, 1-および3-位置は2-位置に比ベて飽和脂肪酸含量が多かった。
著者
中出 麻紀子 木林 悦子 諸岡 歩
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.265-271, 2021 (Released:2021-10-18)
参考文献数
12
被引用文献数
3

本研究では若年成人における主食・主菜・副菜の揃った食事と関連する食習慣について明らかにすることを目的とし, 平成28年度ひょうご食生活実態調査に参加し, 回答に欠損のない20, 30歳代の男女343名のデータを解析した。主食・主菜・副菜の揃った食事 (1日2回以上) の頻度により, 高頻度群 (週4日以上) と低頻度群 (週3日以下) に分け, 食習慣項目をカイ二乗検定で比較した後, 属性項目で調整した二項ロジスティック回帰分析を行った。その結果, 高頻度群, 低頻度群の人数と割合はそれぞれ227 (66.2%), 116 (33.8%) であった。二項ロジスティック回帰分析の結果, 朝食摂取頻度 (週4日以上), 外食頻度 (週3回以下), 米飯の食事摂取頻度 (朝食, 昼食, 夕食) (5日以上) の人は, そうでない人と比較して高頻度群の割合が有意に多かった。以上より, 朝食摂取頻度や米飯の摂取頻度が高いこと, 外食頻度が低いことは主食・主菜・副菜の揃った食事頻度が高いことと関連することが示唆された。
著者
勝川 史憲
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.255-263, 2021 (Released:2021-10-18)
参考文献数
28

「日本人の食事摂取基準2020年版」は, 健康の保持・増進, 生活習慣病 (高血圧, 脂質異常症, 糖尿病, 慢性腎臓病) の発症予防および重症化予防に加えて, とくに高齢者の低栄養予防やフレイル予防も視野に入れた策定が行われた。エネルギーについては, 摂取量と消費量の出納バランスが適切なレベルで維持されている状態を示す指標としてBMIを採用した。目標とするBMIの範囲は, 観察疫学研究で最低死亡率を呈するBMIをもとに4つの年齢階級別に設定し, 高齢者 (65歳以上) では, 実際のBMIの分布や肥満に伴うdisabilityのリスク等も考慮した。本稿では, エネルギーに関する概要とともに今後の課題をまとめた。
著者
福与 真弓 原 征彦 村松 敬一郎
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.495-500, 1986
被引用文献数
10 42

先にわれわれは緑茶より抽出した茶葉粗カテキン (タンニン) は血中コレステロール濃度を低下させる作用を持つことを観察したも。<BR>この事実をさらに調べるために, われわれは緑茶カテキンの主成分である (一) エピガロカテキンガレート (EGCg) を分離し, 15%ラードと1%コレステロール含有25%カゼイン食 (高脂コレステロール含有食) 投与ラットの脂質代謝に対する効果を調べた。EGCgは0.5%, 1.0%濃度で添加した。飼育期間は全実験で4週間とした。EGCgの添加は成長および飼料摂取に対して影響を与えなかった。高脂コレステロール含有食を与えたラットでは, 25%カゼイン食 (正常食) を与えたラットに比べて血漿および肝臓コレステロール濃度は増加した。EGCg投与で血漿総コレステロールとLDL-コレステロール濃度は減少し, HDL-コレステロール濃度は増加した。肝臓全脂質, 全コレステロールおよびトリグリセリド濃度は高脂コレステロール含有食投与ラットで増加したが, EGCg添加群ではこれらの濃度は減少した。さらに, EGCg投与は糞中への全脂質およびコレステロールの排泄量を増加させた。25%カゼイン食への1.0%EGCg添加では, 血漿および肝臓コレステロール濃度に影響を与えなかった。<BR>これらの結果は, EGCgはコレステロール投与ラットの血漿コレステロール低下作用を持つことを示している。
著者
大嶋 萌永 鈴木 絵莉花 井原 勇人 永井 宏平 岸田 邦博
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.155-169, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
51

フルクトースの過剰摂取は, メタボリックシンドローム発症との関連が指摘されている。油脂は, 構成する脂肪酸により生理作用が大きく異なる。本研究は, 高フルクトース食に含まれる油脂の違いがラット脂質代謝に与える影響を比較した。ラードを対照として魚油, 大豆油または中鎖脂肪酸油を含む高フルクトース食をラットに4週間給餌したところ, 魚油群は, 著しい脂質代謝改善作用が認められた。大豆油群は, 肝臓脂質の低下が認められたが, 魚油群と比較してその作用は小さかった。中鎖脂肪酸油群は, 腸間膜脂肪における脂肪酸合成関連遺伝子の発現が著しく高く, 脂質代謝改善作用は観察されなかった。肝臓タンパク質発現プロファイルは, 魚油群が特徴的であり, 脂肪酸酸化や酸化ストレス応答に関連するタンパク質発現の上昇が認められた。これらの結果から, 高フルクトース食給餌下における油脂の生理作用の違いが明らかになった。
著者
安井 健 松本 万里 渡邊 智子 安井 明美
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.171-180, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
7

日本食品標準成分表2020年版 (八訂) (以下, 2020年版) では, 日本食品標準成分表2015年版 (七訂) (以下, 2015年版) で利用していたエネルギーの計算方法を変更している。本講座では, 2020年版のエネルギー計算方法, 特に, 2020年版で利用している収載値の不確かさの程度によって, 利用可能炭水化物 (単糖当量) あるいは差引き法による利用可能炭水化物のいずれかを用いるかを決定する方法について解説する。次いで, 2020年版に収載している食品のエネルギー値について, 2015年版のエネルギー換算係数とエネルギー計算方法によるエネルギー値とを比較し, 食品群別, 2015年版でエネルギー計算に利用したエネルギー換算係数の由来別および2020年版でエネルギー計算に利用した主なエネルギー産生成分の成分項目の組み合わせ別のエネルギー値の違いを説明する。さらに国民健康・栄養調査の基礎データを用いて, 摂取エネルギーへのエネルギー値の変更の影響を見る。