著者
宇都宮 一典
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.193-197, 2020 (Released:2020-10-19)
参考文献数
13

日本人の食事摂取基準2020年版の主たる改訂点の一つに, 「生活習慣病とエネルギー・栄養素との関連」の項目立てを新設したことがあげられる。糖尿病は生活習慣病中でも重要な疾患として取り上げられており, 糖尿病診療ガイドライン2019との整合性を図る形で, その内容を反映するものとなっている。糖尿病の予防と管理の上で基本になるのが, 総エネルギー摂取量の設定である。従来, BMI=22を標準体重として, これに見合うエネルギー設定をしてきたが, 総死亡率が最も低いBMIには幅があり, その関係はフレイル予防を目指す高齢者では異なっている。また, BMI=30を超える肥満者が22を目指すことは難しい。そこで, 標準体重という言葉を廃して, 目標体重と改め, 患者の属性や現体重などから柔軟に設定することとした。今後, 二重標識水法による実際の消費エネルギー量を踏まえ, 実効性の高い設定法を検討する必要がある。
著者
阿左美 章治 平塚 静子 北野 隆雄 江指 隆年
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.117-122, 1994-04-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
20
被引用文献数
3 3

生後4週齢のフィッシャー系雌ラットにカゼインをタンパク質源とし, その含有量をそれぞれ10%, 20%, 40%とした飼料, すなわち10%カゼイン食 (C-10), 20%カゼイン食 (C-20), 40%カゼイン食 (C-40) を5週間与えカルシウム (Ca), リン (P), マグネシウム (Mg) の出納実験を行った。また, ミネラル出納に影響を及ぼす腎臓についてその肥大や組織の形態学的な観察を実施した。さらにCaの恒常性に関する血清中のCa量, PTH量, 大腿骨や腎臓中のCa量についても検討した。結果は以下のとおりであった。1) Caの尿中排泄率はC-40が3群中最高値を示した。2) 腎臓の肥大はC-10, C-40に認められるもののC-10についてはCaの尿への高排泄を伴わなかった。3) C-10の腎臓Ca量はC-40のおよそ60倍を示し遠位尿細管部に著しいCaの沈着が認められた。4) C-40の血清中遊離Ca量は3群中最低値を示した。5) C-40の血清中PTH量は3群中最高値を示した。6) C-10の大腿骨中Ca量は3群中最低値を示した。以上の結果から, タンパク質の摂取レベルに対するCa代謝の対応は腎臓を中心に異なることが考えられた。
著者
木村 美恵子 糸川 嘉則
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.31-42, 1990-12-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
19
被引用文献数
3 1

To assess loss of the minerals; Na, K, P, Ca, Mg, Fe, Zn, Mn, Cu during cooking, their contents in food were determined before and after cooking. The results obtained were as follows. 1) The mineral contents in cooked food were on average about 75% of those in raw or uncooked food. 2) Among various cooking methods, loss of minerals was largest for squeezing after boiling and for soaking in water after thin slicing, followed by parching, frying and stewing. 3) Cooking losses were almost the same for both large-scale and home cooking. 4) Measures for preventing cooking loss are (1) eating with soup after boiling, (2) addition of a small amount of salt (about 1% NaCl) when boiling, (3) avoidance of excessive boiling, and (4) selection of a cooking method causing less mineral loss (stewing, frying or parching).
著者
苅谷 泰弘 木内 律子 三上 尚美 土井下 仁美 小玉 健吉
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.43-48, 1990
被引用文献数
1 3

若狭の"サバなれずし"は, 他地域で作られるものとは異なり, "へしこ"を原料とするもので, 清酒モロミ様の芳香を有するものである。この"なれずし"製造過程における各種成分の変化を調べて以下の結論を得た。<BR>製品の香気の主成分はエチルアルコールと酢酸エチルであり, 漬け込み床液の表面に増殖する皮膜形成酵母の増殖とともに増加するものである。<BR>"なれずし"の熟成は, 漬け床の還元糖量が減少し, アミノ態窒素の増加, 有機酸量の増加によってもたらされるもので, 魚肉では遊離型アミノ酸, ペプチド型アミノ酸量の増加はもとより, 水溶性タンパク質画分の増加によってなされるものである。
著者
鈴木 和彦 大森 豊緑 川村 悦春
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.271-275, 1995-08-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
23
被引用文献数
1

採卵鶏 (Dekalb XL-L) を用い, 飼料に亜麻仁油を2%添加し, α-リノレン酸強化鶏卵 (以下, α-リノレン酸卵; ω3/ω6比0.44) を得た。このタマゴを1日2個, 普段魚介類の摂取が少なく, 血漿ω3/ω6脂肪酸比の低い女子学生 (年齢19~21歳) 4名に3週間摂取させ, その血漿脂質性状と血漿ω3/ω6脂肪酸比への影響をみた。血漿コレステロール値やトリアシルグリセロール値はやや低下の傾向を示したが, 有意な減少ではなかった。ω3系脂肪酸では, α-リノレン酸やイコサペンタエン酸は上昇傾向を示し, ドコサヘキサエン酸は統計的に有意な上昇を示した。ω6系の脂肪酸では, リノール酸はほとんど変化を示さなかったが, アラキドン酸は有意に低下した。これらの結果, 血漿ω3/ω6脂肪酸比は, α-リノレン酸卵摂取前では0.07±0.03 (mean±SD) と低い値であったが, α-リノレン酸卵の3週間摂取後では, 0.16±0.08と有意に高い値に変化した (p<0.01)。したがって, α-リノレン酸卵は魚介類摂取が少ないために生ずると考えられる血漿低ω3/ω6脂肪酸比を高めるために有効な食品になるかもしれない。本研究は (社) 日本栄養・食糧学会倫理委員会の承認を得たものである。本稿の一部は第48回日本栄養・食糧学会 (福岡, 1994年) において発表した。なお, この共同研究は大森豊緑博士が倉敷西地域保健所長在職時に行った。
著者
門田 吉弘 北浦 靖之 遠藤 明仁 栃尾 巧
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.123-131, 2020 (Released:2020-08-19)
参考文献数
35

ケストースは, スクロースに1分子のフルクトースが結合した三糖のオリゴ糖である。我々は, プレバイオティクスとして流通している種々のオリゴ糖との比較試験を実施し, ケストースが, 最も幅広い腸内有用菌に対して良好な増殖を示すオリゴ糖であることを明らかにした。さらに, ケストースの継続的な摂取によって, アレルギー疾患や生活習慣病を予防・改善できる可能性も明らかにしており, ケストースが様々な生理機能を有するプレバイオティクスとして, 人々の健康維持に貢献できる可能性を示した。また, 我々は, ケストースの実用化に関する研究として, 工業的製造の際に使用される酵素の改良にも取り組んでいる。本稿では, ケストースによる有用菌増殖効果をはじめとして, ケストースが有する様々な生理機能および, 製造酵素の改良に向けた取り組みについて紹介する。
著者
金本 郁男 金澤 ひかる 内田 万裕 中塚 康雄 山本 幸利 中西 由季子 佐々木 一 金子 明里咲 村田 勇 井上 裕
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.133-140, 2020 (Released:2020-08-19)
参考文献数
24

2種類の低糖質パンを摂取した時の食後血糖推移を食パンおよび全粒粉パンと比較するとともに, セカンドミール効果および糖質の消化性を評価するために試験を行った。健常成人11名 (男性2名, 女性9名) を対象者とした。摂取する熱量を統一した食パン (糖質38.6 g) , 全粒粉パン (糖質36 g) , マイルド低糖質パン (糖質8.5 g, 高たんぱく) , スーパー低糖質パン (糖質3.4 g, 高たんぱく高脂質) のいずれかを朝食に摂取し, 昼食にカレーライスを摂取する4通りの試験を行い, 食後血糖を経時的に測定した。糖質の消化性はGlucose Releasing Rate法で測定した。その結果, マイルド低糖質パン, およびスーパー低糖質パン摂取後の血糖値は低値を示したが, セカンドミール効果は認められなかった。本研究で用いた2種類の低糖質パンのうち, 消化性, 食後血糖, 満腹度の観点からマイルド低糖質パンの方が優れていると考えられた。
著者
都築 毅 武鹿 直樹 中村 祐美子 仲川 清隆 五十嵐 美樹 宮澤 陽夫
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.255-264, 2008 (Released:2009-01-30)
参考文献数
41
被引用文献数
24 28

日本人の食事は世界から健康食として注目されている。しかし,日本人の食事をニュートリゲノミクス手法を用いて遺伝子発現レベルで,欧米の食事と比較し評価した研究はない。そこで本研究は,「日本食」と「米国食」を飼料としてラットへの給与試験を実施し,DNAマイクロアレイを用いて両食事の肝臓遺伝子発現レベルの相違を網羅的に検討した。日本食(1999年)と米国食(1996年)の献立を作成し,調理し,凍結乾燥粉末に調製したものを試験試料とした。ラットに3週間これを摂取させ,肝臓から総RNAを抽出し,DNAマイクロアレイ分析を行った。その結果,日本食ラットは米国食ラットと比べてストレス応答遺伝子の発現量が少なく,糖・脂質代謝系の遺伝子発現量が多かった。とくに,日本食では摂取脂質量が少ないにもかかわらずコレステロール異化や排泄に関する遺伝子の発現量が顕著に増加していて,肝臓へのコレステロール蓄積が抑制された。よって日本食は米国食と比べて,代謝が活発でストレス性が低いことから,日本食の健康有益性が推察された。
著者
三嶋 智之 中野 純子 唐沢 泉 澤田 未緒 伊佐 保香 柴田 克己
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.27-31, 2014 (Released:2014-03-03)
参考文献数
20

本研究では母乳中の葉酸濃度の経時的変化について縦断的に調べた。25名の授乳婦より提供された産後1週目から8週目までの母乳中の葉酸濃度をバイオアッセイにより定量した。授乳婦の食事調査は行っていないため葉酸の摂取量は不明であった。本研究で分析した200検体の母乳中葉酸濃度は54.2±31.9 μg/L (平均±標準偏差) , 中央値が46.6 (4.9-161.9) μg/Lであり, 被験者全体の葉酸濃度は5週目まで上昇し, 1週目と比較して3週目から8週目の各週では有意に高値を示した (p<0.05) 。また, 1週目の葉酸濃度の中央値にて2群に分けて解析を行ったところ, 高値群の母乳中葉酸濃度は低値群に対してすべての週において有意に高値を示した (p<0.05) 。
著者
大村 節子 門司 和彦 竹本 泰一郎
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.349-356, 1994-10-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
18
被引用文献数
3 1

慢性便秘患者を対象にDF摂取状況およびDF摂取に影響を与える要因について, 食事形態を1. 主食・主菜・副菜の料理の組合せ, 2. 欠食, 3. 外食, 4. 間食, 5. 摂取時間の五つに分類検討し, 以下の結果を得た。1) 栄養素等摂取量は栄養所要量に対して不足の傾向にあり, とくにDFはその傾向が顕著であった。2) 食品総摂取重量は低く, 個人における食品総摂取重量とDF摂取量との間には強い相関が認められた (γ=0.797, ρ<0.001)。3) 食事形態別摂取量は「完全食」群が栄養素等摂取量, 充足率, 食品群別摂取量, 食品群別DF摂取量において他の食事形態と比べ顕著に優良な結果が認められた。4) DF摂取量と五つの食事形態との問は「料理の組合せ」がもっとも高い寄与率を示し, DF摂取量と食物摂取量および五つの食事形態との間では, 「食物摂取量」次いで「料理の組合せ」が高い寄与率を示した。
著者
佐藤 駿 永田 龍次 福間 直希 島田 謙一郎 田宮 大雅 中山 保典 韓 圭鎬 福島 道広
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.81-91, 2020 (Released:2020-06-18)
参考文献数
38
被引用文献数
1

大麦品種BARLEYmax (BM) は一般品種の大麦より食物繊維やレジスタントスターチを豊富に含む。本研究では一般大麦品種であるハインドマーシュならびに対照区であるセルロースと比較してBMのin vitroにおける腸内発酵特性を検討した。実験1では2種の大麦を同等に使用し, 実験2ではBMに難消化性画分が多く含まれることを考慮して検討した。大麦試料を消化酵素により加水分解してその残渣物をin vitro培養槽に供試し, 48時間の培養試験を行った。実験1において, BM添加区はハインドマーシュ添加区より培養後期での高い短鎖脂肪酸産生を示した。実験2ではそれに加えて, BM添加区は培養期間を通して短鎖脂肪酸産生の増加およびアンモニア態窒素の低下を示した。以上の結果から, BMは短鎖脂肪酸を持続的に産生し, さらにその多量な難消化性成分により, 有効な腸内発酵特性を示す可能性が示唆された。
著者
田中 充樹 津嘉山 泉 山本 登志子 中村 孝文
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.93-101, 2020 (Released:2020-06-18)
参考文献数
40
被引用文献数
2

食品の嚥下しやすさ評価への嚥下音と筋電図の応用性を検討するために, 嚥下のしやすさの異なる食品を嚥下した際の嚥下音信号と筋電図のパワーと発生時間を解析した。食品にはポタージュ, ヨーグルト, プリン, 及びヨーグルトと同程度のとろみに調整したジュースと自然薯粉末溶液を用いた。健康な成人男性13名について, 3 gの試料を一度に嚥下した際の嚥下音信号を小型コンデンサーマイクで甲状軟骨部から, 筋電図を右側顎二腹筋表面から記録した。テクスチャー解析で得た食品のかたさは嚥下しやすさが増すと増加した。嚥下音信号のパワーはかたさの対数と有意に逆相関したが (r = -0.435, p < 0.01) , 発生時間は有意な相関を示さなかった (r = -0.151) 。筋電図については, パワー及び発生時間のかたさの対数についての相関係数はそれぞれ0.261と0.176であり, 有意な相関はみられなかった。かたさは嚥下しやすさに関係することから, 嚥下音信号のパワーはゾル状食品の嚥下しやすさの評価に応用できる可能性の一端が示された。
著者
木村 恵子 西村 弘行 木村 いづみ 岩田 伊平 水谷 純也
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.343-347, 1984-08-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
18
被引用文献数
5 4

タマネギを油で炒めると非常に香ばしい風味を生じるが, タマネギをシリコーンオイルで炒めることによっても, よい香りが生じた。そこで, 種々の夾雑物を避けるために, タマネギをシリコーンオイルで炒め, 生じた香気成分をGC-MSによって同定した。そして, 生タマネギの香気成分と比較した。さらに, 炒めたタマネギの香気成分をカラムクロマトグラフィーで分画し, よい香りがどのフラクションに溶出されるかを検討した。1) シリコーンオイルを入れ, 140℃に調節した電気鍋の中に, みじん切りにしたタマネギを加え, 25分間炒めた。急冷後, エーテルを加え, ナイロンゴースで搾った。搾り汁はエーテルを除去し, 4時間水蒸気蒸留して, 炒めたタマネギの香気成分を調製した。収率は, シリコーンオイルの熱分解物も含めて4mg%であった。2) GC-MSから, 炒めたタマネギの主成分は, 2, 4-dimethylthiophene, methyl propyl trisulfide, propylpropenyl trisulfide (cisおよびtrans) であったが, これらの化合物はネギ臭がし, 香ばしい匂いではなかった。3) 生タマネギの香気成分 (エーテル抽出物) では, 2, 3-dimethylthiophene, propyl propenyl disulfide (cisおよびtrans), dipropyl disulfide, dipropyltrisulfideが主成分であった。生タマネギに比べると, 炒めた場合は, より安定なtrisulfide類が増加した。4) 炒めたタマネギの香気成分を, カラムクロマトグラフィーによって分画すると, 単独では香ばしい匂いのするフラクションは見あたらなかった。しかし, いくつかのフラクションを混ぜ合わせると, 香ばしい匂いに近づいた。
著者
村田 卓士 久野 友子 穂積 正俊 玉井 浩 高木 雅博 上脇 達也 伊東 禧男
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.165-171, 1998-08-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
23
被引用文献数
4 7

卵殻カルシウムを添加したチョコレートおよび卵殻カルシウムを含まないチョコレートをヒトに投与し, 糞便中総脂質, 脂肪酸, カルシウムを測定するとともに, その安全性について検討を行った。1) 卵殻カルシウムを添加したチョコレート摂取群(Ca添加群) は, 卵殻カルシウムを含まないチョコレート摂取群 (コントロール群) に比して糞便中総脂質が有意に高値であった。2) 糞便中カルシウム濃度と糞便中総脂質濃度は, 有意な正の相関関係にあった。3) 脂肪酸分析の結果, Ca添加群は, コントロール群に比してパルミチン酸およびステアリン酸の吸収率が有意に低値であった。4) 試験期間中, 2群間で血清中各種脂質, カルシウム, リン, 脂溶性ビタミンに有意な変動はなかった。5) いずれのチョコレートの摂取期間中も重篤な副作用は認めなかった。以上より, ヒトにおいて卵殻カルシウムはチョコレート中に含まれる脂質の吸収抑制効果を示すことが示唆された。
著者
梶本 五郎 村上 智嘉子
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.209-218, 1999-08-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
49
被引用文献数
10 11

緑茶, 麦茶を含めいわゆる健康茶として市販されている15種について, これらの熱水抽出物量, 抽出物の抗酸化性およびバナバ茶中の抗酸化成分をTLCとHPLCの組み合わせで検索を試みた。1) 熱水抽出量の最も多いものはローズヒップ茶で, ついで, キダチアロエ茶, 麦茶, ギムネマ茶, 緑茶, 甘茶の順であった。抽出量の少ないものは, ハブ茶, バナバ茶, 柿の葉茶であった。2) ランシマット法による油脂の酸化に対する防止効果は, イチョウ茶, ルイボス茶, 緑茶などで高く, ついで, ヨモギ茶, 麦茶, バナバ茶, 甘茶, 柿の葉茶, びわ茶の順であった。一方, キダチァロエ茶, ローズヒップ茶では抗酸化性は認められなかった。3) 緑茶, 麦茶, イチョウ茶, バナバ茶およびびわ茶は, いずれも添加量が増すにしたがい油脂の酸化防止効果は高くなった。しかしながら, 柿の葉茶やびわ茶は0.1%添加濃度以下では防止効果はみられなかった。4) DPPHラジカル消去能は, 緑茶, バナバ茶ともに認められたが, バナバ茶は緑茶に比べてやや弱いものであった。5) 緑茶, バナバ茶にスーパーオキシド消去能が認められた。消去能は緑茶で高く, バナバ茶でやや低い。6) バナバ茶中に没食子酸, ゲンチシン酸, カテコール, レゾルシノールの存在とプロトカテキュ酸, アピゲニン, ルテオリン, シリンガ酸, バニリン酸, t-シナミン酸などの存在が推測された。7) バナバ茶中には没食子酸が最も多く含まれ, ついで, ゲンチシン酸, カテコール, レゾルシノールの順であった。これらのうち, ゲンチシン酸が最も抗酸化活性が高く, ついで, 没食子酸レゾルシノール, カテコールの順で, ルテオリン, ケルセチンにも認められた。
著者
細野 崇
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.9-13, 2020 (Released:2020-02-17)
参考文献数
15

2018年の日本の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は28.1%であり, 2040年には35.3%になると推計されている。加齢は糖尿病, 運動機能障害, 動脈硬化, 骨粗鬆症, がん, 認知症などの様々な老化関連疾患の危険因子であること, これらの病気は発症までに長い年月がかかることから, 病気の予防法の確立が重要である。これまでに我々は, 食品因子を用いてがんと認知症の予防に関する研究を行ってきた。がん予防に関する研究では, ガーリック香気成分のジアリルトリスルフィドが大腸がん細胞の細胞周期の停止を介して細胞増殖を抑制することや, 肝臓の薬物代謝酵素の活性調節を介して発がん物質などの代謝を促進することを見出してきた。一方, 認知症予防に関する研究では, 加齢に伴って減少する多価不飽和脂肪酸の摂取が, アルツハイマー病モデルマウスの認知機能を改善することを報告した。以上の成績から, 食品因子の利用はがんやアルツハイマー病などの老化関連疾患を予防することが可能であることを示唆しており, 健康寿命の延伸への応用が期待される。
著者
木元 幸一 林 あつみ 草間 正夫 菅原 龍幸 青柳 康夫
出版者
日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.43-48, 1994
被引用文献数
1 4

茶碗蒸しを作るときにキノコなどを入れる場合が多いが, そのときにマイタケを入れた場合, 茶碗蒸しが固まらなくなってしまうことにより, マイタケ中に存在するプロテアーゼに着目した。マイタケ中より数種のプロテアーゼを同定し, 卵白の加熱凝固阻止や, 卵白アルブミンの加熱分解への作用を調べ, 酵素的性質も明らかにした。<BR>オボアルブミンは, 卵白中に50%以上を占める加熱凝固に関わるタンパク質である。SDS-電気泳動により, オボアルブミンの分解パターンを調べたところ, 中性域と酸性域でよく分解されることが観察され, 中性プロテアーゼと酸性プロテアーゼの存在が示唆された。マイタケ抽出液のDEAE-セルロースとSephadex-G75によるゲル濾過によりプロテアーゼA, B, Cと酸性プロテアーゼが同定された。プロテアーゼAは分子量約20,000と推定され, すでに橋本らに報告されているメタルプロテアーゼと良く似た性質を示した。プロテアーゼBについては, 分子量がプロテアーゼAのおよそ2倍の約45,000と推定された。この点は, 橋本らが報告したものとは異なっており, 至適pHも7と中性的であったが, やはりメタルプロテアーゼと思われる。プロテアーゼCについては, Bと同じ分子量であったが, 至適pHは6付近であった。酸性プロテアーゼはペプスタチンで阻害される典型的なカルボキシルプロテアーゼで, 分子量は約45,000と推定された。<BR>プロテアーゼA, B, Cは, いずれもオボアルブミンを分解したが, 卵白に対しては単独では凝固阻止は見られなかった。しかし, 三種のプロテアーゼを混合すると, 凝固が妨げられた。以上, マイタケ中に未知の新たなプロテアーゼが存在することを見出し, また, 卵白の加熱凝固阻止作用についてはマイタケ中のプロテアーゼが共同で関わっていることが明らかにされた。
著者
河崎 祐樹 八木(田村) 香奈子 後藤 純平 清水 邦義 大貫 宏一郎
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.109-115, 2017 (Released:2017-06-23)
参考文献数
21
被引用文献数
2

目的: 健常な日本人が黒ニンニク含有サプリメントを摂取することによる肝機能への有効性を検証すること。試験デザイン: プラセボ対照・二重盲検・ランダム化比較試験。方法: 40名をランダムに2群に割付, 黒ニンニクまたはプラセボを12週間, 摂取させた。摂取前, 6週間後, 12週間後に血液検査 (肝機能, 腎機能, 血糖, 脂質) , 身体測定などを行った。結果: 12週間後の変化量において, 肝機能マーカーであるアラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) は黒ニンニク群のほうが有意に小さい値を示し (p=0.049) , アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST) も黒ニンニク群のほうが小さい傾向を示した (p=0.099) 。結論: 黒ニンニクを12週間摂取することで, 健常日本人に対して肝機能保護作用を示すことが示唆された。本試験はUMINへ登録されている (UMIN000024771) 。
著者
小柳 達男 千葉 茂 鷹觜 テル 及川 桂子 赤沢 典子 常松 澪子 木村 武 小山 寛
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.65-70, 1984-02-10 (Released:2009-11-16)
参考文献数
16

サイアミン, リボフラビン, ビタミンB6, ナイアシン, PA, トコフェロール, カルシウム, 鉄を玄米に含まれる量に似せて強化した新強化米を岩手県農村の高齢者に与え, 血圧, 血色素, 副腎皮質ホルモン代謝物の排泄量, 暗順応能力などに及ぼす影響について調べた。それまでサイアミンだけを強化した米を食べていた人々がこの新強化米を1年間摂取した結果, 1) 最低血圧が81±3から76±3mmHgに低下し, 2) 血色素が13.2±0.2から14.8±0.3g/100mlに増加し, 3) 尿中17-OHコルチコイドが2.4±0.1から1.1±0.1mg/8hrに減少し, 4) 尿中パントテン酸は0.31±0.08が1.11±0.34mg/8hrに増した。これらの変化は従来の強化米に比べ新強化米にとくに多いパントテン酸による効果ではないかと考えられる。とくに血圧を降下させた効果について著者らは, パントテン酸の不足によって低下していた神経組織のアセチルコリン濃度がパントテン酸の供給増加によって改善され, 血圧上昇作用をもつアドレナリン系ホルモンの作用に拮抗したものと考えている。暗順応は新強化米だけでは9か月間の摂取でも暗順応の閾 (いき) 値は8.6±0.8が7.7±1.1mmへとわずかに改善されただけであるが, ビタミンAを補うと著しく改善されて4.5±0,6mm (やや不良) にまで改善された。これは被験者たちは栄養調査ではビタミンAを十分に摂取していることになっているがビタミンAの補給前はその不足があったものと考えられる。