著者
前田 有美恵 石川 雅章 山本 政利 寺田 志保子 増井 俊夫 渡辺 佳一郎
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.447-450, 1985-12-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
16
被引用文献数
5 4

イワシについて焼く, 煮るめ調理を行なった場合のイワシ中の不飽和脂肪酵の安定性を明らかにするために, 脂肪酸組成およびEPA, DHA含有量の変化を検討した。またイワシ中の脂肪酸とEPA食品のそれとを比較し, 次の知見を得た。1) イワシ中のEPA, DHAをはじめとする不飽和脂肪酸は, 焼く, 煮るの加熱調理を行なっても安定で脂肪酸組成は変化しなかった。2) 生魚に比べ焼魚はEPAが17%, DHAが15%減少したが, これは脂質の減少 (20%) にほぼ比例していた。また煮魚ではEPAおよびDHAはほとんど減少しなかった。すなわち, 焼魚, 煮魚ともに調理によるEPAおよびDHAの極だった損失はないことが明らかになった。3) イワシ (11月) は可食部1g当たりEPAを24.9mg, DHAを31.7mg含有していた。同量のEPAおよびDHAを摂取するのにEPA食品ではイワシの12~36倍も高価であった。こうしたことより安全性, 経済性および栄養の面を考慮すると, EPAおよびDHAの摂取にはEPA食品よりもイワシを活用するほうが望ましい。
著者
本窪田 直子 駒居 南保 鈴木 麻希 林 育代 森谷 敏夫 永井 成美
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.65-74, 2016 (Released:2016-04-15)
参考文献数
36
被引用文献数
4 3

生体リズム位相には個人差があり, 日中に活動しやすい朝型と夕方から夜間に活動しやすい夜型があることが知られている。そこで, “朝型と夜型では体内時計支配下にある自律神経活動や胃運動・食欲感覚の日中の変動が異なる”という仮説を立て, 実験による検証を行った。前夜22時より絶食した若年女性34名の胃電図, 心電図 (心臓自律神経活動) , 食欲感覚, 眠気, 深部体温 (耳内温) を8-20時まで1時間毎に測定した。食事と間食は定時に供した。全測定後に朝型-夜型を質問紙によりスコア化し, 中央値以上を朝型傾向群, 未満を夜型傾向群として結果を比較した。夜型傾向群は朝型傾向群と比べて, 終日, 交感神経活動優位の自律神経活動と高い心拍数, 眠気スコアが示された。また, 午前中の空腹感スコアが低く, 食後胃運動の周波数シフトに有意な上昇を認めなかった。本結果より, 午前中の食欲や活動が減弱しやすい夜型傾向群の特徴が示唆された。
著者
樫村 淳 原 喬 中島 良和
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.117-122, 1993 (Released:2010-02-22)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

パラチノースオリゴ糖 (以下IBOと略す) 摂取がヒトの糞便中の腸内腐敗産物 (インドール, スカトール, p-クレゾール, フェノール), アンモニア, 有機酸 (コハク酸, 乳酸, ギ酸, 酢酸, プロピオン酸, イソ酪酸, 酪酸, イソ吉草酸, 吉草酸) 含量およびpH, 腸内フローラ, 発がんに関係すると注目されているβ-グルコシダーゼ, β-グルクロニターゼ活性に及ぼす影響について検討した。健康なボランティア7名にパラチノースオリゴ糖を1日20g摂取させた。試験期間は20日間で最初の10日間をコントロール期, 次の10日間を摂取期間とした。食事はすべてのボランティアにコントロール期の10日間と摂取期10日間同しメニューを摂取させ, その量については各ボランティアごとに各期で同量とした。各期間の5日目と7日目に新鮮便を回収し, それぞれ測定した。IBO摂取により, アンモニアと腸内腐敗産物のインドール, p-クレゾールが, 統計的に有意ではなかったが減少し, とくに便秘症のボランティアには顕著であった。また有機酸は乳酸, 酢酸, ギ酸が有意に増加した。腸内フローラはBifidobacteriumが有意に増加する一方, Bacteroidaceaeが有意に減少した。また腸内腐敗菌として知られるウェルシュ菌 (Clostridium perfringens) がIBO摂取により検出されなくなった。またpHはIBO摂取により有意に低下した。β-グルクロニダーゼ活性には著しい変化は認められなかったが, β-グルコシダーゼ活性はIBO摂取により有意に上昇した。
著者
米代 武司
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.297-304, 2022 (Released:2022-12-22)
参考文献数
37

褐色脂肪組織 (BAT) は寒冷刺激に応じて活性化して熱産生を行い, 体温と体脂肪量の調節に寄与する。ヒトのBATは加齢とともに機能低下して肥満の一因になるが, 慢性的な寒冷刺激により再活性化が可能で, その結果, 体脂肪が減少する。寒冷刺激の効果は, 温度感受性TRPチャネルの刺激活性を有する食品成分を経口摂取することで模倣できる。TRP刺激活性を有するカプシノイドや茶カテキンなどを単回摂取するとBAT熱産生が活性化し, 慢性摂取することによりBATの再活性化・増量が可能である。また, BATの熱産生活性を制御する因子として, 基質選択性の重要性が明らかになってきた。BATの主なエネルギー基質は脂肪酸と糖であることが古くから知られるが, これに加えて分岐鎖アミノ酸の選択的な代謝分解が不可欠である。これらの知見は, 臨床応用可能な栄養学的介入によるBAT活性化法の確立, ひいては新たな生活習慣病予防法の考案に役立つ。
著者
亀井 康富
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.267-274, 2022 (Released:2022-12-22)
参考文献数
20

骨格筋はヒトの体重の約40%を占める人体で最大の組織であり, タンパク質の形でエネルギー貯蔵を行っている。骨格筋は環境の変化に順応する可塑性があり, 適切な運動トレーニングと十分な栄養によって肥大し, 寝たきりや加齢などによって萎縮する。筋萎縮が生じると, エネルギー消費減少 (肥満) や, 糖取り込み能の低下・血糖値上昇 (糖尿病), そして生活の質の低下へと向かう。FOXO1は筋萎縮を誘導する主要な転写調節因子であり, 作用機序の理解が進んでいる。一方, 運動の作用は, 骨格筋だけにとどまらず, さまざまな臓器に影響する。運動時におけるPGC1α (核内受容体の転写共役因子・転写調節因子) によるミトコンドリアの増加や赤筋化など, 筋機能改善に関する代謝変化の分子機序が明らかになりつつある。本稿では, 筆者らの研究データも含めて, 骨格筋機能における遺伝子発現制御について整理する。
著者
東泉 裕子 金田 恭江 下村 千史 黒谷 佳代 西平 順 瀧本 秀美
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.229-237, 2022 (Released:2022-10-19)
参考文献数
27

日本食品標準成分表2010 (六訂) と日本食品標準成分表2015年版 (七訂) 追補2018年を用いて算出した栄養素等摂取量推定値とを比較し, 食品成分表改訂が栄養素等摂取量推定に与える影響を分析した。北海道在住の地域住民および東京都に勤務する者625名の食物摂取量について, 食事記録法により食事調査を行い, 栄養素等摂取量を算出した。炭水化物以外のすべての栄養素等で成分表の違いにより摂取量に有意な差が認められ, とくに分析方法が更新された総食物繊維摂取量への影響が大きく, 七訂値では六訂値より平均で3.0 g (23.2%) 高値であった。また, 日本人の食事摂取基準 (2020年版) を適用した場合の集団の総食物繊維摂取量の評価にも, 成分表の違いによる影響が認められた。以上より, 食事調査から食物繊維摂取状況を評価する際は, 計算に用いられた食品成分表の正式名称および分析方法を考慮した検討が必要であることが示唆された。
著者
檜垣 俊介 稲井 玲子 松尾 達博
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.223-227, 2022 (Released:2022-10-19)
参考文献数
24
被引用文献数
1

希少糖とは, 自然界に存在量が少ない単糖である。その一つであるᴅ-アルロースは, これまでの研究から, 抗肥満・抗糖尿病など種々の有益な効果を発揮することが明らかにされている。一方, 落葉性潅木の一つであるズイナは, 希少糖ᴅ-アルロースとアリトールを大量に含むが, ズイナそのものの摂取による機能性を検討した報告はない。そこで本研究では, ズイナ乾燥粉末5%添加食をラットに摂取させ, ᴅ-アルロースと同様に体脂肪蓄積抑制作用があるか否かを検討した。3週齢のWistar系雄性ラット16匹を2群に分け, それぞれ対照食およびズイナ食を自由摂食させて8週間飼育した。体重増加量, 摂食量, および食餌効率には, 2群間に差は見られなかったが, 屠体脂肪量および総体脂肪量は, 対照群に比べてズイナ食群で有意に小さかった。これらのことから, ラットにおいてズイナ乾燥粉末には体脂肪蓄積抑制作用があることが示唆された。
著者
坂田 利家 倉田 一夫 伊藤 和枝 藤本 一真 寺田 憲司 衛藤 宏 松尾 尚
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.271-277, 1987 (Released:2010-02-22)
参考文献数
18
被引用文献数
2 2

行動療法としての食事確立療法に固形食化超低エネルギー食を導入し, 8名の中等度肥満患者の減量効果およびその維持について検討した。全治療期間, すなわち初診時より治療後12カ月までの平均体重減少は-20.6±7.8kg, 入院による併用療法実施期間中では-5.7±0.7kg, 退院後12カ月間の維持期間でも-4.3±2.5kgであった。空腹感および血清脂質類は正常化され, 脂肪細胞容積の縮小と体総脂肪量の減少を認めた。この減量効果とその維持はこれまでのどの成績よりも優れていた。以上の本併用療法による好結果は両療法の治療的相乗効果による。なかでも, 超低エネルギー食を液体食に代えて固形食化したことで, 低エネルギー摂取でも咀嚼法を実施でき, したがって十分な満腹信号を視床下部中枢へ送れたと考えられること, また, 今回用いた栄養組成がβオキシ酪酸の血中濃度を至適に上昇させたため, 空腹感を抑え摂食量を減少させたことなど, これらが認知能の変容を起こさせるのに重要な要因になったと考えられた。
著者
長南 治 伊藤 彰敏 大橋 あけみ 綿貫 雅章 古江 尚
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.11-17, 2002-02-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
18

イチョウ葉抽出物摂取が高血圧者の血圧に及ぼす影響を調べる目的で, プラセボを用いた比較対照試験を実施した。高血圧者16名を対象者とし, イチョウ葉抽出物40mgを含む飲料もしくは対照飲料を1日1本, 12週間飲用した際の血圧変化を調べた。さらに, 飲用開始時ならびに飲用終了時に採血を行い, 一般血液検査および血液生化学検査を行った。試験期間中, 対照飲料摂取による血圧変化は観察されなかったが, イチョウ葉抽出物飲料摂取により, 収縮期血圧, 拡張期血圧, 平均血圧の有意な低下が観察された。また, イチョウ葉抽出物飲料摂取により, 血中尿酸濃度の低下が認められた。飲用終了後のリバウンド現象はみられず, 自覚症状, 体重および一般血液検査・血液生化学検査などの諸検査においても, イチョウ葉抽出物飲料摂取によりGOT, GPTの上昇が認められた一例を除き, 問題となる変化は認められなかった。
著者
河村 亜希 杉田 正明
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.199-205, 2020 (Released:2020-10-19)
参考文献数
32

スポーツ現場におけるn-3系脂肪酸摂取の有用性が示唆されているが, スポーツ選手を対象とした先行報告は極めて少ない。本研究は, n-3系脂肪酸であるエイコサペンタエン酸 (EPA) およびドコサヘキサエン酸 (DHA) の24か月間の摂取が女子長距離選手における血中脂肪酸濃度の変化に及ぼす影響を知ることを目的とした。12名の選手に対してEPA 664 mg, DHA 284 mgを24か月間毎日摂取させ, 1か月に1回の血液検査を実施した。その結果, 血中EPA濃度は介入前と比較し3か月後に126% (p<0.01) 増加し, 血中アラキドン酸 (AA) 濃度は1か月後に17% (p<0.05) 減少した。EPA/AA比は介入前 (0.41±0.04) と比較し3か月後 (0.86±0.05) に110% (p<0.01) 増加し, その後0.67‐0.98の範囲で推移した (p<0.05, p<0.01) 。一方, DHAの血中濃度に変化は見られなかった。従って, 女子長距離選手におけるEPAおよびDHAの日常的な摂取は, 血中EPA濃度を増加させ, 血中AA濃度を低下させることで長期的にEPA/AA比を高めることが確認された。
著者
嶋本 康広 佐藤 孝義 花形 吾朗 池内 義弘 西田 元之 松野 一郎
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.147-160, 2022 (Released:2022-08-24)
参考文献数
37

ビタミンKは血液の凝固や骨代謝に関与している脂溶性の機能性分子である。植物油にはフィロキノン (ビタミンK1) のみが含まれるが, 乳類には極性がフィロキノンより高く, トリグリセリド等の夾雑物に性質が近いメナキノン-4 (ビタミンK2) が含まれるため分析法を開発する上で夾雑物除去の前処理条件が重要なポイントとなる。われわれはエコフレンドリーな分析法の開発を目的として前報では手作業で検討を行い, シリカゲルカラムによる夾雑物除去工程においてシリカゲルと環境負荷に影響を与える有機溶媒の使用量を従来法よりも大幅に削減した効率的分析法を報告した。本報では自動固相抽出装置を導入したことによりシリカゲル処理に張り付く拘束時間を大幅に削減することができた。装置を用いてさらなる効率化を検討し, 脂質量に応じてカラムをスケールアップ/ダウンする際にシリカゲルと溶出液の量を最適化できる式を導出した。式に基いて設定した条件を用いると装置を用いず手作業でも同等の精度で分析可能だった。本分析法を用いればこれまでよりも少ない量のシリカゲルと有機溶媒を用いてさらに効率的にビタミンKの分析を行うことが可能になる。
著者
今井 具子 加藤 友紀 下方 浩史 大塚 礼
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.161-173, 2022 (Released:2022-08-24)
参考文献数
40

一般住民の食事データを用いて日本食品標準成分表2015年版 (七訂), 及び2020年版 (八訂) で算出した栄養素等摂取量についてデータベース切り替えによる影響を検討した。対象は老化に関する長期縦断疫学調査の第1次から第7次調査参加者のうち秤量法による3日間食事調査を完了した累計男性7,596名, 女性7,566名とした。男女別に検討したところ, 有意な相関はあるものの, 七訂と八訂の差は測定法が変更されたエネルギー (5.1%), 炭水化物 (5.8%), アミノ酸組成によるたんぱく質 (6.0%) や, 成分値の収載数が大きく変わった有機酸などの栄養成分項目の算出値に差が生じ, 系統誤差が生じる可能性が明らかとなった。またこれらの差には性差が見られ, 対象者の食事内容により影響を受ける程度が異なる可能性も考えられた。栄養アセスメントの側面では, データベースの切り替えを慎重に行う必要があることが示唆されたが, 対象者をランク付けする等の疫学研究ではデータベース改訂の影響が比較的小さい可能性も示唆された。
著者
小川 博 堺 通子 高寺 恒慈 目黒 忠道
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.127-132, 1997-04-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
24
被引用文献数
3 3

田七人参粉末投与が通常食飼育SHRSPの血圧ならびに脂質代謝に及ぼす影響について検討を行った。1) SHRSPの血圧上昇は投与5週間目より7週間目にわたって抑制が観察され, 6週間目で有意な上昇抑制が認められた。2) 血清脂質代謝においては, 血清脂質含量への影響は認められなかったが, 血清apoE含量の有意な上昇が観察された。この上昇はHDLの亜分画の一つであるapoEに富むHDL (HDL1) の上昇に基づくものであった。さらに動脈硬化指数の一つであるapoB/apoA-Iの有意な低値が認められた。以上のことから田七人参粉末投与による血清脂質代謝改善作用が示唆された。3) 肝臓脂質代謝においては, 肝臓脂質含量ならびにマイクロソーム分画のコレステロール代謝関連酵素活性, いずれも有意な変動は認められず, 田七人参粉末投与が肝臓脂質代謝に及ぼす影響は小さいものと考えられる。
著者
古市 幸生 窪田 靖司 杉浦 洋一 梅川 逸人 高橋 孝雄 河野 省一
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.165-172, 1989-04-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
23
被引用文献数
1

エクストルーダーによる大豆タンパク質の組織化に最低必要とされている140℃よりもかなり高い温度 (175, 216, 239℃) で全粒大豆を二軸エクストルーダーで処理し, 以下の結果を得た。1) 処理温度が高くなるに従って褐変現象は顕著となったが, 塩酸加水分解後定量のアミノ酸の組成には差は認められなかった。さらに, FDNB法によって求めた有効性リジン含量についても変化は認められなかった。2) レクチン, ウレアーゼおよびトリプシン・インヒビターはほぼ完全に失活した。3) トリプシン・インヒビターの失活により, トリプシンによる人工消化試験での消化性は顕著に高くなった。また, 動物実験によって求めた栄養価 (PER, BV, NPU) についても顕著な向上が認められた。
著者
森藤 雅史 市川 聡美 高橋 沙織 北出 晶美 木村 勝紀
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.103-112, 2022 (Released:2022-06-17)
参考文献数
26

野菜と異なる用量の発酵乳 (乳タンパク質, 乳酸菌代謝物, 植物油脂などを含む) を同時摂取した後のカロテノイドの血中濃度の違いを比較することを目的に, 18名の健常男性を対象として, 3群3期のランダム化クロスオーバー試験を実施した。野菜 (235 g), 野菜と低用量の発酵乳 (7.5 g), 野菜と高用量の発酵乳 (15 g) のいずれかを摂取し, 摂取前, 摂取2, 4, 6, 8時間後に採血を行い, 全画分, triacylglycerol rich lipoprotein (TRL) 画分の血漿カロテノイドを測定した。TRL画分血漿α-カロテン, β-カロテン, リコペンの上昇曲線下面積 (iAUC) は, 野菜摂取とくらべ, 野菜と発酵乳の摂取により低, 高用量ともに有意に高値となった。全画分血漿ルテインのiAUCは, 野菜摂取とくらべ, 野菜と高用量発酵乳の摂取により有意に高値となった。これらの結果から, 野菜と発酵乳の摂取は, 野菜のみ摂取したときとくらべ, カロテノイドの吸収を促進させる可能性が示唆された。
著者
高橋 純一
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.113-118, 2022 (Released:2022-06-17)
参考文献数
23
被引用文献数
1

ニホンミツバチApis cerana japonicaのハチミツは, 自然発酵することが知られている。しかし, 発酵したハチミツは, 販売されることがほとんどない未利用資源となっている。本研究では, 発酵したニホンミツバチのハチミツを食品として利用するため一般成分と25種の遊離アミノ酸を分析した。発酵したハチミツは, グルタミンやGABA, シスチン, フェニルアラニン, プロリンの5種で大幅な含有量の増加が確認された。さらに, 未発酵のハチミツでは未検出であったヒスチジンやシトルリン, テアニン, シスチン, メチオニン, トリプトファンの6種が発酵したハチミツのみに確認された。一方で, 一般栄養成分には大きな相違は見られなかった。発酵したハチミツのみで増加していた遊離アミノ酸の存在が, 今回はじめて確認された。これらのアミノ酸は, ヒトやミツバチにとって有用であることから, 未利用資源である発酵ハチミツの利用が期待できる。
著者
鈴木 麻希 泉 杏奈 村 絵美 林 育代 森谷 敏夫 永井 成美
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.163-171, 2016 (Released:2016-08-26)
参考文献数
26

エネルギーを有さない人工甘味料のスクラロースが食欲感覚や胃運動に及ぼす影響を, スクロースとの比較により明らかにすることを目的とした。15℃で150 mLのスクラロース溶液 (SR) , 等温・等量・同程度の甘さのスクロース溶液 (S) , コントロール (軟水, W) を, 異なる日の朝9時に前夜22時より絶食した若年女性に負荷した。30 mLずつ分注したサンプルを口に含み口腔内に十分に行き渡らせてから飲み込む方法で甘味刺激を5回繰り返し, 0・1・5杯目の甘味の感じ方を調べた。胃電図, 心電図 (心拍数) , 体温は, サンプル摂取20分前から摂取65分後まで測定し食欲感覚は15分毎に評価した。SとSRともに摂取直後の食欲を一過性に抑制しSRで低下が顕著だった。その後の食欲は溶液の甘味を強く感じるほど高まった。胃電図の応答はSとSRで異なり, 心拍数増加はSでのみ認められた。本結果よりSRは心拍数や体温は上昇させないが, 一過性に食欲を抑制し異なる胃運動を示すことがSとの比較において示唆された。
著者
宮本 賢一
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.137-149, 2011 (Released:2011-08-09)
参考文献数
91
被引用文献数
2 1

リンは生体に広く分布しており, 細胞内シグナル伝達, エネルギー代謝, 核酸合成および酸-塩基などに関与している。リン代謝調節機構は, その破綻が低リン血症や高リン血症から生じる病態によって明白なように生命維持に必須である。低リン血症はクル病および骨軟化症を引き起こす。一方で, 高リン血症は心血管疾患に深く関与している。血中リン濃度維持の中心臓器は腎臓であり, また腸管および骨の三つの臓器が協調してリン代謝を制御している。生体には3種類のナトリウム依存性リントランスポーター (SLC17, SLC20, SLC34) が, 腎臓に発現している。我々は, これらリントランスポーターの同定や機能解析, またノックアウトマウスを作製して, その役割を明らかにした。一方で, 低リン血症や高リン血症を示す疾患の解析から, 新しいリン代謝系 (FGF23/klotho) が明らかにされた。 FGF23/klothoの発見は, 慢性腎臓病に伴うリン代謝異常の病態を理解する上で重要な知見をもたらした。また, 早期慢性腎臓病における心血管障害と食餌性リン負荷との関係も明らかにされつつある。本総説では, 我々の知見をもとに, リントランスポーターの役割と新しいリン代謝系の発見について, 最近の進歩を概説した。
著者
奥 恒行 岡崎 光子
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.201-207, 1999-08-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
19
被引用文献数
8 8

健康な女子学生17名 (延22名) について, ガラクトシルスクロースの1日総摂取量を同一にして一括摂取した場合と1日2-3回に分散して摂取した場合の下痢に対する最大無作用量への影響を観察した。ガラクトシルスクロース60gの一括摂取では被験者14人中9人 (64.2%) が下痢を生じ, 45g一括摂取では被験者8人中3人 (37.5%) が下痢を生じた。しかし, 1日2-3回に分割摂取した場合, 下痢はいずれの被験者にも観察されなかった。さらに, ガラクトシルスクロース60gの一括摂取で下痢を生じた被験者9人のうち5人に30gの3回摂取 (1日90g) させたところ, 3名は下痢を生じなかった。すなわち, ガラクトシルスクロースを分割摂取する場合の下痢に対する最大無作用量は同量の一括摂取よりもかなり高くなるととが明らかになった。ガラクトシルスクロースの一括摂取による最大無作用量は体重kg当り0.80gで, 他の難消化吸収性糖質のそれの2倍以上であった。また, 腹部症状のうち「吐き気」「上部腹痛」「悪心」は, 試験物質量が多い一括摂取にみられ,「グル音」は2-3回分割摂取に多かった。「違和感」「おなら」「おなかが張る」はいずれの摂取時にも観察された。