著者
岩動 孝一郎
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.85, no.8, pp.1189-1212, 1994-08-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
132
被引用文献数
1

男性仮性半陰陽は性腺として精巣が分化していながら内外性器系の男性化が障害される先天異常で, 極めて多彩な発生病理に基づく性分化異常症の一型である. 従来, 本症の分類は主として外性器の形態, 女性内性器の分化の有無, および思春期における二次性徴の性差を中心に行われてきた. しかし発生機序に関する要因は殆ど不明であり, 分類法での配慮は殆どなされていなかった. 近年, 性分化の機構に関する研究が大幅に進展し, Y染色体上に座位のある精巣決定因子TDFもSRY遺伝子として同定された. また胎生期精巣の分泌するミューラー管抑制ホルモン (AMH) に関する研究も進み, 内性器分化とその異常に関する知見も一新された. Androgen Receptor (AR) についても遺伝子のクローニングの結果, ARと genomic DNA との相互作用についても重要な情報が蓄積されつつある. 現在では, 古来の臨床的な分類に加えて, MPHを発生機序の面から捉えた分類法を確立し, 当面の患者に対しより適切な社会的な適応を目的とした性の決定を可能とし, その後の治療をも容易ならしめる基準を普及させる必要がある. 最近の傾向では, MPHをSRYおよび性決定に関連する一定の遺伝子の異常を含めた機序に起因する性腺分化の障害; 胎生期精巣より分泌される androgen およびAMHなどの性器分化誘導物質生成の障害; そして androgen receptor (AR) の異常に伴う感受性障害 androgen insensitivity の3つの要因に大別して扱う報告が多い. このほか性腺腫瘍, 腎腫瘍 (Wilms' tumor) あるいは腎障害の合併などを示す症例の存在も注目され, その発生機序の解明は出生前診断, 予防法さらには治療法の開発にもつながる重要な研究分野であると考えられる.
著者
石井 玄一 田中 祝江 原 啓 石井 延久 松本 英亜
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.98, no.6, pp.757-763, 2007-09-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
40
被引用文献数
1 1

(目的) クローン病患者における尿路合併症は比較的少ないが, その診断や治療に難渋することがある. 現在, それに対する治療指針はいまだ確立されていない. 今回, 我々はクローン病患者における尿路合併症の頻度, 診断, 治療について報告する.(対象と症例) 1994年1月から2002年5月の間, 社会保険中央総合病院にクローン病で通院中の1,551人を retrospective に検討した.(結果) 1,551例中75例 (4.8%) に尿路合併症を認めた. 内訳は尿路結石60例, 消化管膀胱瘻14例, 尿膜管膿瘍1例であった. 尿路合併症の診断を受けた患者のうち実際に泌尿器科を受診したのは41例 (55%) である. 内訳は尿路結石26例 (43%), 消化管膀胱瘻14例 (100%), 尿膜管膿瘍1例 (100%) であった. 尿路結石に対しては20例に保存的治療, 4例にESWL, 2例にTULを行い, 全ての症例で良好な結果を得た. 消化管膀胱瘻は12例 (86%) の症例で, 保存的治療で腸管の炎症をコントロール後に瘻孔, 炎症腸管の切除を行った. 尿膜管膿瘍は尿膜管, 責任腸管切除と膀胱部分切除を行った.(結論) 尿管結石の治療は非クローン病患者と同様の治療方法を行うべきと思われた. 消化管膀胱瘻は成分栄養等の保存的治療を先行させた後に外科的治療を行うことでQOLが早期に改善され, 腸管切除も回避できる可能性が示唆された.
著者
金子 智之 西松 寛明 小串 哲生 杉本 雅幸 朝蔭 裕之 北村 唯一
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.99, no.1, pp.35-38, 2008-01-20 (Released:2011-01-04)
参考文献数
9
被引用文献数
1 5

症例は56歳, 男性. 陰茎腹側の硬結を主訴に来院した. 1歳時と2歳時に尿道下裂に対して尿道形成術を施行された既往があった. 5年前と2年前に尿道結石に対して尿道切石術を施行されていた. 尿道結石再発と診断し, 尿道切石術を施行した. 結石には尿道から発生した多数の毛が含まれており, 形成尿道からの発毛が結石形成の原因と考えられた. 結石再発の予防目的に除毛剤の尿道内注入を行ったが除毛効果がみられなかったため, 半導体レーザーを用いて経尿道的レーザー脱毛を行った. 術後5ヵ月で再発毛を1本認めるのみであり, ほぼ完全な脱毛が得られている. 尿道発毛は皮膚弁を用いた尿道形成術後にみられる晩期合併症であり, 結石形成や尿路感染の原因となる. 経尿道的レーザー脱毛は, 尿道発毛に対して有用な低侵襲治療と考えられた.
著者
河野 南雄 佐々木 則子 棚橋 豊子 村岡 祝子 東 ちえ子
出版者
社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.742-752, 1975

There are many reports on the relationship among malignant tumors, blood clotting and fibrinolytic enzyme system. The present report describes the fibrinolytic enzyme system in plasma of rats with experimental urinary bladder tumor. The plasma was separated into three fractions with lysinesepharose affinity chromatography. The materials were Wistar-Imamichi strain male rats which had been administered a dose of 0.02mg/head/day of N-butyl-N-(4-hydroxybutyl)-nitrosamine (BBN) from 8 weeks old to 16 weeks old and then sacrified at 28 weeks old. Fraction-I did not contain either plasmin (PL) or plasminogen activator (PLg-act). Though the normal rat plasma sometimes has a slight antiplasmic action, the plasma of rats which had been administered BBN had a marked antiplasmic action. However, the action did not correspond with bladder tumor and hyperplasia. The rat plasma had an antiurokinase activity irrespective of BBN-administration. Sometimes fraction-II had also PLg-act irrespective of BBN-administration. On the rats which had been administered BBN, the activity of PLg-act in the bladder tumor-group and in the hyperplasia-group had an increasing tendency which was more marked than that in the unchanged group. Fraction-III revealed mainly the PL-activity. Normal rats had no activated PL, but the animals administered BBN revealed PL-activity. The PL-activity in the unchanged group had a more marked increasing tendency that in the bladder tumor group and hyperplasia group.
著者
山本 雅司 山田 薫 平田 直也 河田 陽一 平山 暁秀 柏井 浩希 百瀬 均 塩見 努 末盛 毅 夏目 修 平尾 佳彦
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.88, no.12, pp.1005-1012, 1997-12-20
参考文献数
22
被引用文献数
1

(背景) 二分脊椎における生命予後を左右する種々の合併症に対する治療法の進歩に伴い, 患者のQOLも向上し, 思春期や成人した女性症例より結婚および妊娠・分娩についての相談を受ける機会が多くなってきた. 本論文では, 妊娠・分娩を経験した二分脊椎症例について報告する.<br>(方法) 当院にて経過観察中に二分脊椎症例のうち妊娠・分娩を経験した5例を対象とした. 初回妊娠時の平均年齢は27.6歳 (26~32歳) であり, 5例においてのべ6回の分娩を経験した. 妊娠前に4例が泌尿器科にて手術を受けており, うち1例は膀胱拡大術が施行されていた. これらの症例につき, 妊娠中の尿路の形態的変化, 尿路感染, 腎機能, 産科的経過および合併症などについて検討した.<br>(結果) 妊娠中に上部尿路の悪化が3回の妊娠において見られたが, 分娩後は妊娠前の状態に回復した. 血清BUN値およびCr値は4例において妊娠経過中安定していたが, 6回の妊娠のうち3回に腎盂腎炎の合併がみられた. 分娩様式は経膣分娩が4回, 帝王切開が2回であった. 産科的合併症は早産, 微弱陣痛, 児頭骨盤不均衡が各2例および羊水過多1例であった. 出生児は平均在胎日数38w2d, 平均出生体重2784gであり, 全例健常児であった.<br>(結語) 二分脊椎症例においても, 予測される合併症を念頭に入れた泌尿器科的および産科的管理を行うことにより, 安全に妊娠・分娩が可能であると考えられた.
著者
松木 雅裕 國島 康晴 鰐渕 敦 井上 隆太 武居 史泰 久滝 俊博
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.107, no.3, pp.149-154, 2016-07-20 (Released:2017-07-21)
参考文献数
17

(目的) 限局性腎腫瘍症例のうち無治療経過観察の方針となった患者の臨床経過を検討した. (対象と方法) 限局性腎細胞癌と臨床診断され,無治療経過観察の方針となった観察可能な15例と即時手術治療を施行した68例を対象とし,後ろ向きに検討した. (結果) 無治療経過観察群の年齢は即時手術治療群と比較し有意に高齢であった(中央値,81対65歳,P<0.01).Charlson Comorbidity Indexは無治療経過観察群で有意に高く(中央値,5対2,P<0.01),経過観察の一因となった合併症を有した症例は10例(67%)であった.無治療経過観察群の原発腫瘍径中央値は2.5cm(1.5~10.1cm)で,両群間に統計学的差はなかった.無治療経過観察群の観察期間中央値は19カ月(6~55)であり,腫瘍増大速度中央値は0.29cm/年(-0.19~0.65)であった.CTによる無治療経過観察後に手術をうけた症例は4例であり,全例淡明細胞癌であった.無治療経過観察群の最終転帰は他因死2例,転移症例1例で,癌死症例はいなかった. (結論) 本検討では1例で転移を認めており,無治療経過観察を選択する場合はその妥当性についてよく検討する必要があると思われた.一方で,無治療経過観察群2例に他因死を認めており,高齢もしくは合併症症例に対して,無治療経過観察は許容できる選択肢の一つと考えられた.
著者
磯野 誠 堀口 明男 田崎 新資 黒田 健司 佐藤 全伯 朝隈 純一 瀬口 健至 伊藤 敬一 早川 正道 淺野 友彦
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.103, no.6, pp.691-696, 2012-11-20 (Released:2013-12-03)
参考文献数
13

(目的) 尿道狭窄症に対する内尿道切開術の有効性について検討した. (対象と方法) 当院で内尿道切開を行った尿道狭窄症19例を対象とした.狭窄部位は球部尿道17例,膜様部尿道1例,振子部尿道1例であった.狭窄長は1 cm未満13例,1~2 cmが2例,2 cm以上が4例で,狭窄原因は騎乗型損傷7例,経尿道的手術後7例,骨盤骨折1例,不明4例であった.全例とも手術はガイドワイヤーを併用した,cold knifeによる切開で行った.術後尿道カテーテルの留置期間は5~35日(平均12.8日)であった.術後観察期間は1カ月から139カ月で,術後再狭窄の定義は画像上の再狭窄,もしくは自覚症状の悪化とした. (結果) 術後19例中13例に再狭窄を認めた.術後3カ月,6カ月,5年時点での無再狭窄率はそれぞれ44.4%,38.1%,20.3%であった.再狭窄例のうち7例に2回目の内尿道切開術を行ったが,6例に再々狭窄を認めた.再々狭窄を認めた6例のうち2例に3回目の内尿道切開術を行ったが,2例とも尿道カテーテル抜去直後から再狭窄により尿閉となった.統計学的有意差は認めなかったが,1 cm以上の狭窄例は1 cm未満の例に比べて再狭窄率が高い傾向にあった. (結論) 内尿道切開術の有効性は低く,過剰に適応されている可能性がある.内尿道切開術は長い狭窄や術後再狭窄例に対しては適応すべきではない.