著者
宮前 公一 大塚 知博 大塚 芳明 永芳 実 濱田 泰之
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.97, no.5, pp.743-747, 2006-07-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
8

(目的) 血塊による膀胱タンポナーデの症例報告は多く見られるが, まとめて検討した報告は非常に少ない. 今回, 我々が経験した血塊による膀胱タンポナーデの原因, 背景, 治療について retrospective に検討した.(対象と方法) 対象は2002年10月から2005年9月までに膀胱タンポナーデで当院救急外来または当科外来を受診した20例. それぞれの症例の原因, 患者背景, 凝固系検査, 治療内容について検討した. 平均年齢は740歳 (60歳~89歳) で男性17例, 女性3例であった.(結果) 抗凝固薬を内服していた症例は8例, 脳梗塞または心筋梗塞の既往を有する症例が6例, 抗コリン薬を内服していた症例は4例, 前立腺肥大または尿道狭窄を有する症例は9例であった. 出血源は膀胱腫瘍からが9例, 前立腺癌からが1例, 放射線性膀胱炎による例が3例, 慢性膀胱炎による例が1例, 腎悪性リンパ腫による例が1例, 医原性による例3例, 原因不明が2例であった. 1例を除き他19例全例に凝血塊の除去及び生理食塩水による膀胱内持続洗浄を施行し, 同処置のみで肉眼的血尿が消失した症例は8例であった. 同処置にて肉眼的血尿が消失しない症例には, 経尿道的手術を施行し, 10例出血が消失した. 1例は血尿が消失せず膀胱全摘除術を施行した.(結論) 高齢者の割合が増加するにつれ排尿障害や抗凝固薬使用が増加し, 膀胱腫瘍や放射線性膀胱炎以外にも血塊による膀胱タンポナーデ症例が増加する可能性があると考えられた.
著者
堀田 浩貴 熊本 悦明
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.85, no.10, pp.1502-1510, 1994-10-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
19
被引用文献数
1 2

夜間睡眠時勃起現象 (nocturnal penile tumescence: NPT) は, ほとんどの健康男子に認められる生理現象である. NPTの指標を測定することで性機能評価が可能であることから, NPTは臨床応用されてきているが, その基本となるべき年齢別正常値がこれまで整理されていなかった. そこで健康男子189例を対象にNPTの各指標を測定し, 日本人のNPTの加齢性変化について検討した.NPTの各指標は10歳を過ぎる頃急激な増加を示したが, この増加には思春期前後で劇的な変化を遂げる視床下部, 下垂体そして精巣系の加齢性変化の関与が考えられた. またNPT時間, 一回あたりのNPT持続時間のピーク以後の減少傾向にも androgen の低下の関与が考えられた. 陰茎周最大増加値 (一晩の最大陰茎周変化値), 陰茎周最大増加率 (陰茎周最大増加値の弛緩時の陰茎周値に対する割合) は50歳代後半からその減少傾向が強まったが, これには androgen の低下とともに陰茎血管系および陰茎海綿体の加齢性変化が関与している可能性が考えられた.NPTの各指標は加齢性変化を示すことが明らかとなり, 男性の性成熟あるいはその衰退を表す可能性が示唆された. また本邦におけるNPTの各指標の基準値が形成され, 今後の性機能の臨床において意義深いものと考えられた.
著者
太田 匡彦 大園 誠一郎 池田 朋博 中農 勇 平尾 佳彦 渡辺 秀次 高島 健次 平尾 和也
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.95, no.5, pp.705-710, 2004-07-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

(背景) 最近, 健康ブームで, スポーツ人口が増加しているが, 一部に運動後血尿を認める場合があり, 運動性血尿として注目されている. そこで, 最も一般的な運動であるランニングと血尿の検討を夏季において行った.(対象と方法) 泌尿器科的疾患のないヘルシーボランティア109名に運動前安静時尿採取後, 5kmランニングを行い, 運動後尿を採取した. 評価可能例は90名で運動前後尿につき, 検尿, 尿沈査, フローサイトメトリーにより赤血球数, 赤血球形態について比較した.(結果) 運動後の尿中赤血球数増加例が83名であり, 運動後顕微鏡的血尿例 (赤血球数3個/hpf以上) は32名であった. そのうち赤血球形態学的検討で dysmorphic pattern が23名と最多であった.(結論) ランニングにより血尿が誘起され, 糸球体性血尿が中心と考えられた.
著者
松下 真史 川崎 芳英 岡田 康弘
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.95, no.7, pp.817-819, 2004-11-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
10

77歳男性. 2001年9月19日初診, 右尿管膀胱癌の診断で術前化学療法としてMVAC療法を3コース施行し同年12月12日に右腎尿管膀胱全摘除術 (ileal-neobladder) を施行した. 病理診断はTCC, G3, pT3N0M0であった. 外来 follow 中食欲不振を訴え2003年4月30日に入院. 胸腹部CT, 骨シンチで明らかな転移は認めなかった. その後, 全身筋力低下, 頚部硬直が出現, 頭部CT, MRIで水頭症を認めたため癌性髄膜炎が疑われ髄液検査を施行した. 髄液検査では髄液圧の上昇, 糖の低下, 蛋白の上昇, 細胞診で class V (urothelial carcinoma) が認められた. 癌性髄膜炎の診断6日後に死亡した. 尿路上皮癌 (移行上皮癌) の癌性髄膜炎は本邦8例目であった.
著者
杉山 高秀
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.80, no.8, pp.1134-1140, 1989-08-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
14

排尿あるいは性機能に障害を訴える55人の患者を対象として, 挙睾筋反射を主とし, 球海綿体反射, 膀胱内圧測定などを組み合わせて測定した. 挙睾筋反射の測定は, 知覚閾値の約10倍の単発電気刺激で, 大腿内側皮膚又は, 陰茎背側皮膚を刺激し, 両側恥骨部の高さにおいて挙睾筋に刺入した同芯針電極によって導出した誘発活動電位について行なった. その結果, 神経学的に異常のない20人に対しては全例において挙睾筋反射を認め, その平均潜時は大腿刺激で72.5±4.5msec, 陰茎刺激で74.3±5.3msecであった. 平均バースト長は大腿刺激で55.2±3.5msec, 陰茎刺激で54.0±4.8msecであっ. これより挙睾筋反射は脊髄機能障害, 脳血管障害の患者においてはその脊髄内障害部位を測定するのに極めて有用であった. さらに, 膀胱内圧測定, 球海綿体反射などを組み合わせることによりさらに詳細な脊髄内障害部位診断が可能と考えられた.
著者
石岡 淳一郎 影山 幸雄 一柳 暢孝 斉藤 吉宏 野津 聡 西田 一典 福田 博志 東 四雄
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.98, no.6, pp.752-756, 2007-09-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
11
被引用文献数
3 3

(目的) Cold resect によるTURBTと化学放射線療法を用いて浸潤性膀胱癌に対する膀胱温存治療を行い, その成績を検討した.(対象・方法) TURBTと化学放射線療法による膀胱温存治療を, 浸潤性膀胱癌26例に行った. 深達度はT2:15例, T3:9例, T4:2例, 異型度は, G2:3例, G3:23例であった. TURは, 進達度診断の正確を期するため, 深部筋層まで, 止血のための最小限の電気凝固を用いながら生検鉗子で切除した. その後, 40Gyの外照射を行い, メソトレキセート30mg/m2の全身投与, シスプラチン70mg/m2の動脈内投与を2クール併用した. 治療終了後, 残存腫瘍の有無をTURで確認した. 治療後のTURも膀胱周囲脂肪に至るまで生検鉗子で組織を採取した.(結果) 26例中24例がTURBTを施行され, pT0が13例 (50%), pT1が9例 (35%), pT2が2例 (8%) であった. 平均観察期間24ヵ月 (3.9~69.8), 中央値21.9ヵ月で, 経過中に筋層浸潤癌として再発した2例に膀胱全摘除術を行った. 膀胱温存率は26人中24人, 92%であった. 遠隔転移は4例 (15%) で, 全例局所再発は認めなかった. 2年疾患特異的生存率は91%であった. 重篤な有害事象は認めなかった.(結論) Radical TURBT と化学放射線療法による膀胱温存治療は, 浸潤性膀胱癌に対する安全で有効な治療になり得る可能性が示唆された.
著者
斉藤 博
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.96, no.6, pp.632-639, 2005-09-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
23
被引用文献数
2

(目的) ヒポクラテス (紀元前460年頃) は古代ギリシア, コスの有名な医師で, 彼の業績は, 後世『ヒポクラテス全集』に記載されている. 私は『ヒポクラテス全集』の結石に関する記述を研究した.(方法)『ヒポクラテス全集』(ラーブ版, 大槻版, 今版) の尿路結石の記述を採集し, コス学派とクニドス学派とで比較した.(結果) 尿路結石に関する記述は24ヵ所で, 発生病理に関する記述は12ヵ所 (50%), 症状6ヵ所 (25%), 治療4ヵ所 (17%), その他2ヵ所 (8%) あった. 尿路結石の症状は血尿, 腹痛, 排尿痛, 排尿障害, 排石であった. 膀胱結石15ヵ所 (63%), 腎結石4ヵ所 (17%), 2ヵ所 (8%) は腎と膀胱結石の両方であった. 7ヵ所 (29%) は部位の記述はなかったが, 多分, 膀胱結石と推測された. 尿路結石の記述のうち, コス学派, クニドス学派, 学派不明の記述は15ヵ所 (63%), 4ヵ所 (17%), 5ヵ所 (21%) であった. コス学派の膀胱結石に関する記述は比較的多く, 腎結石に関する記述は少ないが, クニドス学派が多かった. 尿路結石に対する治療法は, 薬, 多分, 排石を助ける薬, 痛み止め, 痛みに対する入浴, 温罨法, 患部が腫れて盛り上がったら, 腎切開をする.(結論)『ヒポクラテス全集』には尿路結石の記述があるが, コス学派による膀胱結石の記述が多い. 膀胱切石術の記述はなく,“宣誓”では, 尿路結石の治療には切開術を禁じている. しかし, クニドス派の“内科疾患”には, 腎切開, 多分, 腎切石術を推測させる記述があった.
著者
金子 立 宮崎 一興
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.84, no.8, pp.1479-1488, 1993
被引用文献数
4 2

射精不能者に対して, さまざまな人工的精液採取法が行われているが, Brindley 法とパルス電流を用いるように改良した Seager 改良法による電気射精を, 脊髄損傷40例, 直腸癌根治術後の射精不能例1例に対して行い, その有用性を検討した. Seager 改良法では, 刺激に際して患者に与える電気エネルギーを減じるため, 正弦交流にかえ両極性のパルス電流を用いた. Brindley 法では18例中11例から精子を回収し, Seager 改良法では29例中24例から精子を回収した. 直腸癌根治術後の射精不能例1例も Seager 改良法により精子を回収することができた.<br>電気射精の副作用としては, 自律神経過反射と疼痛がみられた. 自律神経過反射は, 刺激の中止により速やかに消失し, この点でネオスチグミンのくも膜下腔注入法より安全な方法と考えられた.<br>脊髄損傷例の精液所見では, 受傷後経過期間とともに回収できた総精子数は減少する傾向がみられ, 運動率は慢性期のみならず, 受傷後1ヵ月以内の急性期の症例においても低下がみられた. したがって, 脊髄損傷における精巣, 精巣上体等の障害はかなり早期からおこる可能性が示唆された.
著者
近藤 厚生 木村 恭祐 磯部 安朗 上平 修 松浦 治 後藤 百万 岡井 いくよ
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.551-559, 2003-07-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

(目的) 神経管閉鎖障害に罹患する胎児の発生リスクは, 母親が妊娠前に葉酸を摂取すると低減できる. 研究目的は, 女性が食事から摂取する葉酸について検討し, 葉酸血清濃度を測定することである.(対象と方法) 対象者は一般女性, 二分脊椎患者の母親, 妊婦, 二分脊椎患者, 看護学生の5群からなる222名の女性. 食事から摂取した葉酸量は, 食事記録を5訂日本食品標準成分表に準拠して解析した. 葉酸血清濃度は化学発光免疫測定法で測定した.(結果) 対象者は食事から葉酸を平均293μg/日摂取しており, 血清濃度は平均8.1ng/ml, エネルギー摂取量は平均1,857Kcalであった. 妊婦が食事から葉酸を最も多く摂っており, 血中濃度も最高値を示した.「日本人の栄養所要量」が規定する葉酸量を充足しない対象者の割合は, 成人女性が22%, 妊婦が72%であった. 葉酸は第3食品群 (香川綾分類) から最も多く摂取されていた. 葉酸サプリメント400μg/日を16週間内服すると, 基線値は7.8ng/mlから17.3へ上昇した.(結論) 葉酸経口摂取量は平均293μg/日, 血清濃度は平均8.1ng/mlであった. 妊婦の過半数は政府が勧告する葉酸量を摂取していなかった. 妊娠可能期の女性は葉酸に富む第3食品群を多く摂り, 妊娠を計画する女性は妊娠4週前から妊娠12週まで葉酸サプリメント400μg/日の内服が望ましい.
著者
丸茂 健 長妻 克己 村井 勝
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.90, no.12, pp.911-919, 1999-12-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
24
被引用文献数
1 3

(目的) 性機能に影響を与える危険因子についての検討が, これまで様々な方法でなされている. 著者らは質問紙法を用いて, 加齢と疾病が男性性機能に与える影響を検討した.(方法) 通常の日常生活を送る男性1,020例を対象として, 国際勃起機能スコア (International Index of Erectile Function, 以下IIEF) 質問紙を用いて男性性機能を評価し, 各疾病の有無と加齢が勃起機能, 極致感, 性欲, 性交の満足度, 性生活全般の満足度の尺度となるスコアに与える影響を検討した.(結果) 有効回答は967例 (94.8%) であった. 回答をもとに分散分析法を用いて解析を行ったところ, 高血圧症, 心臓病などの循環器系疾患, 糖尿病, 高脂血症が50歳代の男性において勃起機能に有意な影響を与えることが示された (p<0.05). これらの危険因子を有する対象を除外し, 健常と考えられた男性において, 加齢が勃起機能, 極致感, 性欲, 性交の満足度に有意に影響することが示されたが (p<0.001), 性生活全般の満足度に影響するものではなかった (p=0.146).(結論) 従来より勃起障害の危険因子考えられていた疾病と加齢が男性性機能に影響を与えることを質問紙法の結果から示した. IIEFは勃起障害を治療する際の治療効果の評価のみならず, 各種疾病または生活習慣などが勃起機能に与える影響を検討するための, 疫学的検討にも有用であると考えられた.
著者
水沢 弘哉 小口 智彦 道面 尚久 小泉 孔二 三村 裕次 齊藤 徹一 加藤 晴朗
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.105, no.1, pp.17-21, 2014-01-20 (Released:2015-01-30)
参考文献数
14
被引用文献数
2 3

(症例1)患者は28歳の女性.腹痛と頻尿・残尿感を主訴に産婦人科クリニックを受診した.MRI検査で膀胱頂部に接する5 cm径の腹膜外腫瘤を認め,尿膜管腫瘍の疑いがあると当科へ紹介された.下腹部正中に鶏卵大の硬い腫瘤を触知した.尿所見は正常,膀胱鏡検査で膀胱頂部の粘膜の一部に発赤を認めたが尿細胞診検査は陰性であった.尿膜管腫瘍の診断で手術を開始したが,術中迅速診断でデスモイド腫瘍と診断され,腫瘤摘除術を施行した.術後7年を経て再発転移を認めていない.(症例2)患者は71歳の男性.下腹部膨隆を主訴に当院外科を受診した.CT検査で15 cm径の腫瘍が膀胱前腔に存在し,尿膜管腫瘍の疑いがあると紹介された.下腹部に小児頭大の硬い腫瘤を触知した.尿所見の異常はなかった.膀胱鏡検査で膀胱頂部は著明に圧排されていたが粘膜面の異常はなかった.尿膜管腫瘍の診断で手術を行ったが,術中迅速診断は悪性所見なしであった.腫瘤は膀胱と連続していたため,腫瘤摘除術・膀胱部分切除術を施行した.最終診断は孤立性線維性腫瘍であった.術後5年以上経過しているが再発転移はみられていない.膀胱頂部に存在する腫瘍は尿膜管癌を念頭に手術を行うことになるが,良性腫瘍の可能性も考えて手術に臨み,過大手術とならないよう留意すべきである.
著者
岡村 廉晴 徳中 荘平 八竹 直
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.82, no.9, pp.1487-1493, 1991-09-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
13
被引用文献数
3 4

ヒト外尿道括約筋 (n=13) をATP-ase染色を用い組織化学的に検討した. 構成している筋線維型の割合 (遅筋型筋線維: 35.6~97.7%, 平成65.7%, 標準偏差16.6) には個体差があり, その比率と性別や年齢との間に一定の傾向を認めなかった.13例の平均筋線維径は, t検定上有意 (p<0.05) に, 遅筋型筋線維 (15.7~30.3um, 平均22.3μm) よりも速筋型筋線維 (19.2~42.4um, 平均27.8um) の方が太かった. 個々の症例毎に見た場合, 全男性10例は, 速筋線維の方が遅筋線維よりも有意に太い結果であった. 女性3例は, 両筋線維型の太さに有意差のない2例と, 男性症例とは逆に遅筋線維の方が, 速筋線維よりも有意に太い1例であった.構成している筋線維型の比率と太さとの間に一定の傾向を認めなっかた. 今回の検討から, ヒト外尿道括約筋には, 著しい個体差が存在する結果となった. また, 女性は少なく即断できないが, 性差の存在する可能性が考えられた.
著者
早川 隆啓 三矢 英輔 小島 宗門 早瀬 喜正
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.93, no.3, pp.450-456, 2002-03-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

(目的) 性感染症 (STD) としての男子尿道炎の臨床像について検討した.(対象・方法) 2000年1月より12月までの1年間に, STD性の男子尿道炎と診断した患者414例を対象に, 感染相手・感染経路・起因菌・淋菌の薬剤耐性や咽頭感染に対する認識などについて検討した.(結果) 年齢は16~60歳で平均31歳であった. 未婚者は305名 (73.7%) で, 感染相手は commercial sexual worker (以下CSW) が288名 (69.6%) であった. 感染経路は咽頭よりが199例 (48.1%), 膣からが42例 (10.1%), 両者が173例 (41.8%) であった. 起因菌は, 淋菌のみ206例 (49.8%), 淋菌, クラミジアの混合感染46例 (11.1%), クラミジアのみ47例 (11.3%), 非淋菌性非クラミジア性115例 (27.8%) であった. 淋菌の薬剤耐性はペニシリン耐性61例 (57.5%), ニューキノロン耐性22例 (20.8%), 耐性を認めなかったのが39例 (36.8%) であった. 咽頭感染の認識は, 301例中174例 (57.8%) はなかった.(結論) 男子尿道炎の蔓延の一因は, 咽頭感染の認識の低さと, 性行為におけるコンドームの非使用と考えられた. 広い年齢層に対して, 尿道炎の実態を啓蒙するとともに, 適切な薬剤選択についての検討が必要と思われる.
著者
新美 文彩 久米 春喜 熊野 信太郎 石川 晃 西松 寛明 冨田 京一 高橋 悟 武内 巧 北村 唯一
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.98, no.5, pp.713-717, 2007-07-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
22

症例は27歳女性. 気胸の既往があり他院にて加療されていた. 2回目の左気胸発症時に肺生検にて肺リンパ管筋腫症 (LAM) と診断された. その後の精査目的のCTで右腎前面に径10cmの脂肪濃度を含む腫瘤を認め, 腎血管筋脂肪腫 (AML) と診断され, 当科に紹介された. 当科にて腎部分切除術が施行された. 腫瘍は腎実質と5cm程度の部分で連緯しており, 有茎状に発育していた. LAMは病理学的に肺の気道, 血管, リンパ管周囲の平滑筋の異常増生を示し, 気道閉塞による多数の肺嚢胞状病変形成が特徴とされ, 殆どの症例で経過中に気胸を発生する予後不良の疾患である. また47~60%の症例にAMLを合併することが知られている. LAMを合併したAML患者の特徴としては20代から30代の生殖可能な女性に好発しており, 結節性硬化症に合併するAMLと比較すると片側単発傾向ではあるが, 両側例が25~62%と比較的多く, また多発例も報告されている. LAMは予後不良のため, AMLに対しては出血などの症状が出現するまで無治療で経過することが多く, 治療としては腎摘除術が多い. しかしながら, 最近の報告ではLAMの予後はやや改善してきており, AMLの再発例も認められることから, 可能な限り腎温存を図るべきである. 本症例は本邦10例目である.
著者
皆川 倫範 加藤 晴朗 杵渕 芳明 山口 建二 古畑 誠之 矢ヶ崎 宏紀 石塚 修 井川 靖彦 西沢 理
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.100, no.6, pp.646-649, 2009 (Released:2012-02-01)
参考文献数
9

17歳男性.空手の練習中に右側腹部を蹴られたのち肉眼的血尿を認めた.CTで右腎被膜下出血を認めた.出血は軽微であり, 経過観察とした.1カ月後のCTで, 右腎周囲に腎実質を圧迫する嚢胞性病変を認めた.このころから血圧が徐々に上昇し, 160/80mmHgとなった.超音波ガイド下経皮的嚢胞穿刺を施行し, 茶褐色透明な液体を吸引した.内容液はリンパ液で, 穿刺後に血圧は低下したが, 嚢胞内容は再貯留し, 血圧が再上昇した.以上の経過から, 外傷性腎被膜下リンパ嚢腫に伴うPage kidneyと診断した.腹腔鏡下リンパ嚢腫開窓術を施行した.術後, 血圧は低下した.しかし, 手術1カ月後のCTで液体の再貯留を認め, 血圧の上昇を認めた.再手術を薦めたが, 本人の希望がなく, 現在降圧剤内服で保存的に加療中である.
著者
坂本 昭彦 金子 智之 金谷 淳志 木村 将貴 高橋 さゆり 山田 幸央 三宅 康史 坂本 哲也 中川 徹
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.112, no.2, pp.65-69, 2021-04-20 (Released:2022-04-20)
参考文献数
13
被引用文献数
1

(目的) 帝京大学附属病院において,過去10年間にフルニエ壊疽と診断・加療された15例の患者背景,臨床的指標および予後に影響を与える因子を明らかにすること. (対象と方法) 2009年5月から2019年4月までの10年間に,帝京大学医学部附属病院においてフルニエ壊疽と診断・加療された15症例を対象とした.患者背景およびFournier Gangrene Severity Indexを含めた臨床的指標を記述した.生存例と死亡例における臨床的指標の比較を行い,予後に影響を与える因子について検討した. (結果) 15例の年齢中央値は67才,全例が男性であった.糖尿病合併例は9例(60%)であった.14例(93%)に対して外科的デブリドマンが施行された.精巣摘出術を要したのは5例(33%),膀胱瘻造設術を要したのは3例(20%),人工肛門造設術を要したのは3例(20%)であった.死亡例は3例(20%)であった.生存例と比較して,死亡例は有意に高齢であり(p=0.043),BMI低値であった(p=0.038).Fournier Gangrene Severity Index等の予後予測指標は死亡例で高い傾向を認めた. (結論) 当院における過去10年間のフルニエ壊疽15例の死亡率は20%であった.2010年代においても,フルニエ壊疽は死亡率の高い疾患であった.
著者
木下 茜 山田 大介 本多 一貴 團野 哲也 徳永 まゆ子 宮川 仁平 田口 慧 秋山 佳之 山田 雄太 佐藤 悠佑 久米 春喜
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.113, no.4, pp.147-151, 2022-10-20 (Released:2023-10-20)
参考文献数
17

48歳女性.前医婦人科にて子宮筋腫,子宮内膜症に対し子宮全摘術と両側卵巣囊胞切除術を施行された.術後に腎機能の増悪を認め,病理組織検査で尿管組織を指摘され,左尿管損傷修復について当科紹介受診した.腎瘻からの順行性腎盂造影検査にて尿管欠損部は9.5cmであった.尿管損傷修復として尿管膀胱吻合は困難と考えられ,右腸骨窩の癒着が強くなく血管が確保できれば自家腎移植術の方針とした.術中操作で骨盤内の血管を確保できたため,左腎の右腸骨窩への自家腎移植術を施行した.術6カ月後の腎機能は保たれ,エコーで水腎を認めず腎血流も良好であった.尿管損傷の再建法を苦慮し文献検索をした経験から,尿管損傷長によるアルゴリズムを作成した.
著者
西澤 恒二 八田原 広大 大西 裕之 吉田 徹
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.112, no.2, pp.53-57, 2021-04-20 (Released:2022-04-20)
参考文献数
10

(背景) 近年去勢抵抗性前立腺癌治療薬が複数登場し,予後の延長が期待される一方,治療は高額になる可能性がある.そこで,当院で行われた去勢抵抗性前立腺癌治療薬の費用を検討した. (対象と方法) 2014年から2017年に当院で診断された前立腺癌のうち,転移ありか前立腺特異抗原(PSA)が100ng/ml以上の進行性癌症例を中心に,手術か薬剤で去勢治療を行った.去勢抵抗性が確認されたのちはドセタキセル,カバジタキセル,アビラテロン,エンザルタミドによる治療を行い,治療経過と費用を検討した. (結果) 257例に前立腺癌が検出され,進行性癌は56例(21.8%)だった.81例(31.6%)に去勢治療が行われ,進行性前立腺癌の30例が中央値10カ月(範囲3~39)で去勢抵抗性癌となった.去勢抵抗性癌治療薬は,25例に中央値20カ月間(範囲3~50)投与された.診断からの観察期間中央値48カ月(範囲13~75)で,15例が前立腺癌で死亡した.薬剤による去勢治療のみの症例では,治療費は中央値で年間23.4万円(範囲5.0~31.5)だった.一方,去勢抵抗性癌症例では,去勢抵抗性癌治療のみでも中央値で年間204.1万円(範囲34.6~501.7)に達した. (結論) 去勢抵抗性癌治療の費用は非常に高額で,医療費抑制の観点から,去勢抵抗性癌に至りやすい進行性前立腺癌を減らすことは重要と考えられた.