- 著者
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麻原 きよみ
- 出版者
- 公益社団法人 日本看護科学学会
- 雑誌
- 日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, no.1, pp.1-12, 1999-03-25 (Released:2012-10-29)
- 参考文献数
- 35
- 被引用文献数
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6
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本研究は, 過疎農山村における家族介護者の老人介護と農業両立の意味を探求することを目的とした. 方法論としてエスノグラフィを用いた. データ収集は27名の要介護老人の介護者, 住民および保健医療福祉関係者に対するインタビュー, 参加観察, 村の書類, 資料等の検討であった. 得られたデータを方法と動機の観点から分析した結果, 以下のことが明らかとなった.(1) 農村介護者は介護と農業両立の仕事の調整方法として, 1日の生活時間に両者を組み込でいく <介護と農業の組み込み戦略> を用いていた.(2) 介護と農業両立の動機づけには, <伝統的価値規範の内面化>, <村落共同体的集団原理に従う>, <農業継続困難な現状の受け入れ>といった消極的動機づけ, <老人に対する愛情>, <生き甲斐としての農業>, <行為へ価値づける> 積極的動機づけがみられ, これは介護と農業を調整する自己認識の調整であった.(3) 農村介護者の消極的動機づけによる介護と農業継続の内面化, および自らの主体性に意味づける積極的動機づけから, <農村介護者は介護と農業を両立できることに自己存在の意味を見出す> をテーマとして抽出した. このテーマは, 農村介護者の現実への対処行動だけでなく, 自己を積極的に意味づけて生き抜く, 農村介護者の生き方をも示していた.以上のことから, 農村介護者の伝統的価値規範を問題意識化することなく受容する認識面, およびそれを支持する社会的環境面の問題を提示するとともに, 介護と農業継続に関する農業の重要性について述べ, 地域看護実践のあり方を考察した.