著者
葛谷 雅文 山本 孝之 葛谷 文男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.499-503, 1991-07-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
14
被引用文献数
6 6

鏡に写したごとく, 左右逆転して文字が書かれる鏡像書字は, 脳の器質的障害の後にさまざまな頻度で出現すると言われている. しかしその出現機構, 責任病巣は現在のところ不明である. 今回, 老年者113名に書字検査を施行し, 鏡像書字の出現程度により, 高度, 中等度, 軽度, 正常の4群に分類し, 各群の出現率並びに脳血管障害, 脳障害部位との関係, また知的機能レベルとの関係につき検討した. 右手書字での鏡像書字発現は一例もみられなかった. 左手書字可能例は93名で, 鏡像書字発現程度は, 正常: 34.4%, 軽度: 24.7%, 中等度20.4%, 高度: 20.4%であった. 特に右片麻痺例と, 書字訓練を受けていない失語症例において高率に鏡像書字を認めた. 単純頭部CTで脳血管障害を確認できた症例64名の鏡像書字発現程度は, 正常: 32.8%, 軽度: 20.3%, 中等度: 26.6%, 高度: 20.3%であった. CTで正常と診断された6名においては, 正常: 33.3%, 軽度: 66.6%であり, 中等度および高度はなく, 鏡像書字と脳血管障害との関連性が強く示唆された. 障害部位では両側半球障害, また左半球障害に高い出現率をみとめたが, 右半球障害例にもかなりの頻度で鏡像書字を認めており, 単一の損傷部位または片半球のみにその責任病巣を求めるのは困難であった. 長谷川式知的機能診査スケールは, 正常: 28.5±3.6, 軽度: 25.2±6.9, 中等度: 22.2±6.7, 高度: 23.1±6.1で, 中等度と高度出現例では, 正常例に比較し有意に知的機能レベルの低下を認めた. また長谷川式スケール20点以下の痴呆例では, 94.9%に鏡像書字を認め, 鏡像書字出現と知的機能障害との密接な関係が示唆された.
著者
島田 千穂 高橋 龍太郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.221-226, 2011 (Released:2011-07-15)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

高齢者終末期ケアでは,一律に治癒を目標にすることはできず,より安楽にすること,本人や家族の希望に沿うことが求められる.多元的な価値観が必要となり,多職種間で関わる意義を生かすため,ケア目標を共有し,目標に沿って役割を果たすことになる.医師の役割も,医療的なアセスメントと医療提供,家族の意向確認,家族への説明など多岐にわたる.終末期ケアは,地域や施設の多職種連携が試されるケアであるともいえる.
著者
鳥越 俊宏 福原 徹
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.374-382, 2015-10-25 (Released:2015-12-24)
参考文献数
13

目的:脳卒中では,その治療法の進歩により救命できる症例が増加しているが重篤な後遺症が残存することも多い.この際,患者の意識障害のため,治療方針の判断は患者親族に委ねられることがほとんどであるが,出血性脳卒中の場合,血腫摘出術により救命が期待できる場合でも,残存する後遺症のため,外科的治療の選択を躊躇される場合もある.また多くの場合緊急の決定を要するため,親族の心理的負担は非常に大きい.親族への看護ケアにあたり,この判断に影響を与える因子を理解することは重要と考え,以下の研究を行った.方法:当院へ入院した出血性脳卒中患者の親族30名に,アンケート調査により,程度の異なる後遺症が残ると説明された場合を想定して,それぞれの場合での外科的治療の希望を回答して頂き,統計学的に分析した.結果:後遺症の程度が悪化すると,外科的治療の希望が減少したが,親族の判断に独立して影響を与える因子は「自分自身の場合の希望」であった.また同様のアンケートを脳神経系病棟勤務の看護師18名へも行い比較したところ,看護師は認知能が保たれる場合は外科的治療を希望する傾向が強かった.結論:重篤な後遺症を残す可能性のある場合の治療選択は,通常は患者の意思によって決定されるが,脳卒中の場合は意識障害のため,既に患者には治療を選択する判断能力がない場合が多い.この際に本人が事前に意思表示をしておくことが重要であるが,ほとんどの場合親族が決定せざるを得なくなっている.この治療選択を緊急に行って頂く場合も多いが,その状況でも,患者の意思を推察しての判断を促すこと,また,期待できる回復の程度について丁寧な説明を心がけることが必要である.看護師として,親族が後悔のないような判断ができるように最善の配慮をすることが望まれる.
著者
松本 俊一 山田 正信
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.147-157, 2022-04-25 (Released:2022-06-02)
参考文献数
11

甲状腺は甲状腺ホルモン(TH)を分泌し,体内の蛋白,脂質,糖代謝それぞれの分解と合成といった,相反する代謝に作用し生体の恒常性を維持している重要な臓器である.甲状腺疾患には大きく「甲状腺機能異常」と「甲状腺腫瘍」がある.また高齢者ではポリファーマシーとなることも多いため「薬剤性甲状腺障害」も考慮する必要がある.近年,甲状腺疾患領域は新しい治療方針や取り扱い方法なども増え日々進歩している.
著者
新井 武志 大渕 修一 小島 基永 松本 侑子 稲葉 康子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.781-788, 2006-11-25 (Released:2011-02-24)
参考文献数
29
被引用文献数
24 20

目的: 本研究は, 地域在住高齢者の介入前の身体機能レベルと運動介入による身体機能改善効果との関係を明らかにすることを目的とした. 方法: 対象は東京都内の7つの自治体の地域在住高齢者276名 (平均年齢75.3±6.5歳) であった. 個別評価に基づいて高負荷筋力増強トレーニングとバランストレーニング等を組み合わせた包括的な運動トレーニングを3ヵ月間行った. 運動介入の前後に最大歩行速度, Timed Up and Go, 開眼・閉眼片足立ち時間, ファンクショナルリーチ, 筋力, 長座位体前屈などの身体機能測定を行い, 各体力要素の改善効果と初期の身体機能レベルとの関係を検討した. 結果: 対象者の運動介入前の平均最大歩行速度は85.8±30.6m/分と虚弱な対象であったが, トレーニングの脱落率は8.0%と低値であった. トレーニング後, 閉眼片足立ちを除き, すべての身体機能において有意な改善を認めた (P<.01). 最大歩行速度の変化量以外, 身体機能の変化量・変化率は, 初期の身体機能レベルと負の相関を示した(|r|=.20~.59, P<.01). また, 重回帰分析の結果, 各身体機能の変化量を説明する変数として複数の身体機能要素が抽出された. 結論: 虚弱高齢者を含んだ対象への運動介入の結果, 身体機能レベルが低い者ほど, 身体機能改善効果が高いことが示された. 適切な対象を選択することがトレーニングの効果を高める重要な点であることが示唆される. トレーニングの対象をより明確にして介入を加える, いわゆるハイリスクアプローチが有効であると考えることができる.
著者
庹 進梅 樺山 舞 黄 雅 赤木 優也 呉代 華容 清重 映里 畑中 裕美 橋本 澄代 菊池 健 神出 計
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.459-469, 2021-07-25 (Released:2021-09-06)
参考文献数
26
被引用文献数
1 2

目的:“いきいき百歳体操”は住民への介護予防の取り組みの一つとして,全国で広く実施されている体操である.本研究では,身体機能への効果についての検証を行うことを目的とし,合わせて主観的健康感への影響,社会活動との関連についても検討することとした.方法:本研究は,2015年10月~2019年6月の期間に,大阪府能勢町において,介護予防事業として実施されている,いきいき百歳体操に参加した町民を対象とした.初回から半年ごとに体力測定,基本チェックリスト,いきいき百歳体操支援アンケートを実施しており,体力測定については初回と1年後のデータを比較した.体力測定項目は,5 m間最大歩行,Time Up and Go Test,5回立ち上がり時間,握力である.対象者におけるフレイル状態有無は基本チェックリストを用いて判定した.性別,フレイル有無別に体力測定結果を比較した.結果:本研究期間にいきいき百歳体操に一度でも参加し,調査を行えたのは1,028人であった.女性が766人(74.5%)と多く,平均年齢は72.6±8.0歳,506人(49.2%)が前期高齢者であった.データの揃っている464名において,体力測定での測定値の変化について,初回と1年後を比較したところ,4項目すべてで有意な改善を認めた.主観的健康感が良いと回答した者は,初回の29.1%から半年後には45.4%に増えていた.毎月1回以上参加している社会活動については,半年後,1年後に,老人クラブ,ボランティア活動など一部の社会活動への参加割合が増加していた.結論:いきいき百歳体操は地域在住高齢者の身体機能を維持・改善させることが示唆された.加えて,体操参加により,主観的健康感が高まり,社会活動も活発化する可能性があり,特に高齢化の進む地域や自治体において推奨される介護予防事業であると考えられた.
著者
府川 則子 湯村 和子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.352-357, 2018-07-25 (Released:2018-08-18)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

CKDは透析予備軍であり,腎保護効果を期待し,高齢患者においても,0.8 g/kg・標準体重/日を目安にたんぱく質摂取制限が推奨されている.しかし,高齢CKD患者では,食事全体量が少なくなり,摂取エネルギー量が低下,体蛋白異化により低栄養が進行する場合も散見する.高齢CKD患者においては,CKDステージ4~5であっても十分な余命が見込まれる場合においてのみ,現状のBMIを維持すべき十分なエネルギー量を確保した上で,たんぱく質の摂取量を考慮する必要がある.
著者
中島 敏晶 江見 充
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.229-233, 1999-04-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
23

動脈硬化は極めて多数の要因の集積により発症するものであり, 食事, 喫煙といった要因に加え, 遺伝素因も重要な因子となる. 本稿では動脈硬化の発症に深く関連する脂質代謝, リポ蛋白代謝に異常をきたす遺伝子変異, 多型について概説する. 今回とりあげたのはリポ蛋白リパーゼ, 肝性トリグリセリドリパーゼ, レシチンコレステロールアシル転換酵素, LDL受容体およびアポ蛋白遺伝子の遺伝子変異, 多型であり, 各々の遺伝子において nonsense 変異, missense 変異, 挿入/欠失変異および splicing 変異など数多くの変異, 多型が報告されている. また, アポ蛋白AI-CII-AIV cluster 領域の Xmn I多型と家族性混合型高脂血症との関連などのように蛋白の機能異常は明らかではないが, 特別な allele と高脂血症の関連についても多くの報告がある. しかしながら遺伝子異常が解明された部分は僅かにすぎない. 今後, 多型の解析が進み, 複数の遺伝子の相互作用や遺伝子の重積効果が明らかになることが期待される.
著者
田中 伸哉
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.136-145, 2019-04-25 (Released:2019-05-16)
参考文献数
14

1990年代以降,多くの骨粗鬆症治療薬が開発されてきた.しかし,現存の骨粗鬆症治療薬では効果不十分な症例にしばしば遭遇する.最新の骨粗鬆症治療薬は高い骨同化作用と骨折抑制効果が証明されており,そのような症例に対しても効果が期待できる.骨粗鬆症治療は長期的な戦略が必要であるが,これらの骨粗鬆症治療薬を適切に使用することにより戦略は飛躍的に進歩する.最新の骨粗鬆症治療薬の概略と治療戦略上の位置付けについて解説する.
著者
富田 哲治 長瀬 隆英
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.440-443, 2001-07-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
34
被引用文献数
7 9

哺乳類, 昆虫などにおいて感染防御を司る生体内の抗菌物質の存在については以前より知られている. ヒトにおける抗菌ペプチドはディフェンシンと総称され, 細菌, 真菌など広範囲にわたり抗菌活性をもち, このうち粘膜上皮の感染防御に関与しているのがβ-defensin である. 現在, 3種類のβ-defensin が単離・構造決定されているが, human β-defensin-2 (hBD-2) は, 1) 肺, 気管にて発現がみられる, 2) 細菌感染や炎症性サイトカイン刺激にて発現誘導される, という特徴をもっている. そのため, hBD-2は呼吸器感染症により密接な関係をもつことが示唆されている. その抗菌活性機序として従来より細菌細胞膜表面にディフェンシン重合体が孔 (pore) を形成し, 細胞膜透過性を亢進するためと考えられているが, hBD-2ではそれ以外に膜電位への静電気的な関与によるものと考えられている. また発現誘導されるhBD-2の転写活性としてはCD14と Toll like receptors (TLRs) を介してNF-κBを活性化すると報告されている. hBD-2は元来生体で産生されるものであり, 広範囲に抗菌活性を有することより, 今後の臨床的応用が期待される.
著者
松本 哲哉
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.27-33, 2022-01-25 (Released:2022-03-08)
参考文献数
7
被引用文献数
1

新型コロナウイルス感染症に対して,ワクチンを用いた対策は重要な役割を担っていることは言うまでも無い.国内でも積極的に接種が進められた結果,高齢者の重症化予防や感染者数の低下など一定の効果が得られており,接種率も世界のトップレベルに至っている.その一方で,抗体価の低下やブレイクスルー感染,3回目接種など新たな課題も生じており,今後の収束に向けて,さらに工夫を行いながら対策を講じていく必要がある.
著者
川上 浩司
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.434-440, 2019-10-25 (Released:2019-11-22)

法に基づいて実施されている乳幼児健診や学校健診を,その場限りの受診勧奨だけではなく,個人情報保護に配慮しつつデータベースを構築するとともに,個人や地域に分析を還元し,また生涯を通じたライフコースデータとして本人の健康増進や医学研究に役立てていくための基盤構築を行っている.また,全国の医療機関と連携して,診療情報データベース(RWD-DB)を構築することで,医療機関における診療の可視化や,臨床疫学研究や薬剤疫学研究を通じた医療の評価ができるような基盤が確立している.これらの基盤は,健康長寿社会に向けた政策にも重要である.
著者
豊島 久真男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.14-18, 1988-01-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
11

がん遺伝子は最初レトロウイルスの発がん性を担う遺伝子として発見されたが, その後正常細胞由来の遺伝子であることが明らかとなった. 正常細胞のがん遺伝子を, がん原遺伝子 (プロトオンコジン) と呼ぶが, 細胞のがん化はがん原遺伝子の変異などによる活性化が原因と説明しうるようになった.がん原遺伝子は, 正常時には成長因子やそのレセプター, 或いはシグナル伝達系, 遺伝子発現制御系などの細胞増殖制御にからんだ物質をコードする遺伝子である. その発がんへの活性化は, レトロウイルス以外に, 突然変異や染色体転座, 遺伝子増幅など, いろいろな変化によっておこる. しかし, 正常な細胞のがん化には, そのような1段の変化のみでは不十分で, 2段以上の変化がからんでいると考えられる. がん遺伝子以外に, がん発現抑制遺伝子も, 遺伝がんの研究から見出されている.
著者
埴原 和郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.30, no.11, pp.923-931, 1993
被引用文献数
8

本稿で紹介した日本人集団の二重構造モデルは従来の諸説を比較検討し, また最近の研究成果に基づく統計学的分析によってえられた一つの仮説である. このモデルの要点は次のとおりである.<br>(1) 現代日本人の祖先集団は東南アジア系のいわゆる原モンゴロイドで, 旧石器時代から日本列島に住み, 縄文人を生じた.<br>(2) 弥生時代から8世紀ころにかけて北アジア系の集団が日本列島に渡来し, 大陸の高度な文化をもたらすとともに, 在来の東南アジア系 (縄文系) 集団に強い遺伝的ならびに文化的影響を与えた.<br>(3) 東南・北アジア系の2集団は日本列島内で徐々に混血したが, その過程は現在も進行中で, 日本人は今も heterogeneity, つまり二重構造を保っている.<br>以上の観点からさらに次のことが導かれる.<br>(1) 日本人集団の二重構造性は, 弥生時代以降とくに顕著になった.<br>(2) 弥生時代から現代にかけてみられる日本人集団の地域性は, 上記2系統の混血の割合, ならびに文化的影響の程度が地域によって異なるために生じた. 身体形質や文化における東・西日本の差, 遺伝的勾配なども北アジア系 (渡来系) 集団の影響の大小によるところが大きいと思われる.<br>(3) アイヌと沖縄系集団の間の強い類似性は, 両者とも東南アジア系集団を祖先とし, しかも北アジア系集団の影響が本土集団に比較してきわめて少なかったという共通要因による. 換言すれば, 弥生時代以降著しく変化したのは本土集団であった.<br>(4) 古代から中世にかけてエミシ, ハヤトなどと呼ばれた集団は, 本土集団とアイヌ・沖縄系集団が今日のように分離する前の段階にあったもので, その中間的形質をもっていたと考えられる.
著者
糀屋 絵理子 樺山 舞 山本 真理子 樋上 容子 小玉 伽那 向井 咲乃 矢野 朋子 奈古 由美子 中村 俊紀 廣谷 淳 福田 俊夫 玉谷 実智夫 奥田 好成 生島 雅士 馬場 義親 長野 正広 樂木 宏実 神出 計
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.602-609, 2021-10-25 (Released:2021-12-08)
参考文献数
21

目的:多病を抱える高齢者の疾患管理において,季節変動に伴う血圧の変化が,臨床上,問題であると指摘されている.本研究では,在宅医療を受療中の在宅療養高齢者において,季節変動に伴う血圧変動の実態を把握するとともに,療養中イベントとの関連,変動に関連する要因を検討した.方法:包括的在宅医療確立を目指したレジストリー研究(OHCARE研究)の協力機関にて在宅訪問診療を受療している,65歳以上の患者,かつ初回調査と追跡調査(平均追跡日数368日)で,夏季(6/1~8/31),冬季(12/1~2/28)に調査を行った57名を対象とした.診療記録より,患者の基本属性,血圧値,療養中イベントを含む情報を収集し,季節変動に伴う血圧値を把握した.また,収縮期血圧における季節間血圧変動について,中央値を基準に,季節変動大・小の2群に分け,対象の特性を比較するとともに,療養中イベント(入院,転倒,死亡)との関連の有無を検討した.結果:対象の約60%は要介護3以上と虚弱状態であった.患者の血圧平均値は,夏季120.5±12/66.9±8 mmHg,冬季124.7±11/69.5±7 mmHgと冬季の方が有意に高値であった(P<0.01).また血圧変動レベル大小2群で特性を比較すると,変動レベルが大きい群の方が小さい群より,夏季血圧が有意に低かった.また,血圧変動レベルが大きい群の方が「療養中の入院」の発生割合が有意に高かった(P=0.03).結論:在宅医療を受ける高齢療養者において,季節間で血圧は変動し,特に夏季の血圧低下が変動に影響する可能性が考えられた.また,血圧変動性の大きさが療養中の入院イベントリスクと関連する可能性が示唆された.これらの変動を把握した上で,医療者は臨床的な諸問題を考慮し,患者個々に最適な治療,ケアを検討する必要がある.
著者
水川 真二郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.50-58, 2008 (Released:2008-03-10)
参考文献数
23
被引用文献数
3 3

目的:近年,わが国では高齢者人口の急激な増加に伴い,「高齢者の終末期医療」に対する関心が高まっている.しかし,高齢者にとって「望ましい死」とは何か,「高齢者の終末期医療」ではどのような医療環境やケアを優先すべきかなど数多くの課題が残されている.この研究では,高齢患者と家族および医師を含めた医療従事者が,「高齢者の終末期」をどのように捉え,「高齢者の終末期医療」において何が最も重要な要素であると認識しているのかについてアンケート調査を実施した.そして,これらの成績を解析することにより,「高齢者の終末期医療」における老年科医の役割について検討した.方法:対象は「高齢者の終末期医療」に関するアンケート調査に同意の得られた高齢患者148名(患者群),患者の家族76名(家族群),医師105名(医師群),看護師784名(看護師群)および介護職員193名(介護職員群)である.結果:"「高齢者の終末期」とはどのような状態か"の問いに対して,「生命予後の危機」と解答したものは医師群,看護師群,介護職員群でいずれも70%以上であった.しかし,患者群と家族群ではそれぞれ61%と52%で,医師群(75%)と比較して少なかった.これに対して「日常生活動作の低下」と解答したものは,患者群と家族群ではそれぞれ36%と45%で,医師群(23%),看護師群(8%),介護職員群(24%)よりも多かった."「高齢者の終末期医療」で重要な要素は何か"の問いに対しては,「鎮痛・苦痛除去」,「死に対する不安の解除」,「友人や家族とのコミュニケーション」,「尊厳をもった扱い」の4つを最重要と回答したものがいずれの群でも多かった(>70%).一方,「信条・習慣への配慮」は,医師群(63.8%)と比較して患者群(16.1%),家族群(28.2%)でいずれも少なかった.「在宅死」を重要な要素と回答したものは,医師群(37.5%)と比較して患者群(21.0%)と家族群(7.1%)で少なかった.結論:「高齢者の終末期医療」に対する捉え方や考え方は,患者や家族あるいは同じ医療に携わるものでも,その立場や職種によって大きく異なっていた.高齢者医療を専門とする老年科医は,「高齢者の終末期」に生じる様々な問題を全て医療の手法によって解決しようとはせずに,「高齢者の終末期医療」を患者や家族との共同作業であると捉え,共通の認識に基づいた医療の実践に努力すべきであると考えられた.
著者
小山 珠美
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.561-569, 2021-10-25 (Released:2021-12-08)
参考文献数
22

誤嚥性肺炎患者は心身が衰弱した状態で起こる全身疾患であることから,人生の最期まで食べ続けられるQOLへの支援が求められる.そのためには,不必要な絶飲食を避け,早期に経口摂取が開始できるような包括的食支援のシステム作りが必要である.本稿では,早期経口摂取開始による在院日数短縮,経口移行率増加などの成果を含めて,超高齢社会に生きる要介護高齢者の口から食べる幸せを守るための支援について紹介する.
著者
秋坂 真史 田中 旨夫 鈴木 信
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.312-323, 1997
被引用文献数
1

日本最長寿男性において, 百寿達成に至るまでの長寿に関する背景因子および100歳以後の健康保持の要因について考察を加えるため, 平成8年10月に112歳になった本邦における最長寿男性に焦点を当て基礎・臨床さらに社会医学を含めた包括的アプローチによって, 百寿達成以後の12年間にわたって縦断的に検討した. 生活歴では, 貧農の生まれであったが自由奔放で闊達な青年期をおくり, 家族は妹一人 (92歳) 以外をすべて沖縄戦で失った. 85歳まで独居にて農業をし, 97歳時より次男夫婦と同居した. 86歳以後も散歩等の運動を続け, 常に健康に留意していた. 臨床医学的所見では, 心電図での一部変化を除き, 異常はほとんどみられなかった. 血液検査でも, 各パラメーター値の低下は比較的緩徐であった. ADLの年次推移は, 在宅であった108歳まではほとんど低下を示さなかったが, 入院を機に急激に劣化した. 100歳時の栄養調査では肉, 野菜あるいは豆腐等を中心にバランスよく摂取しており, 1日の摂取エネルギーは1,361kcalであった. 中高年時の性格特性として心疾患親和性行動パターンを調べると, 総得点でタイプAに属するが, そのプロフィールは典型的な沖縄百寿者のパターンを示した. 改訂版長谷川式簡易質問票による痴呆度評価は, 106歳時は正常範囲であったが3年後には「痴呆」の判定になった. ADLや精神機能など108歳時の入院を機会に急に低下した機能も多く, QOLあるいはADLに関連して自立を重視した立場から言えば, 長寿を目指す意味においても, 事情の許す限り在宅で家族と共に迎える老後の方が一般的には望ましいと考えられた. また男性であっても, 青壮年から老年期にかけての不適切な生活習慣を改善し, 正しい健康意識を保持し, 自立できる豊かなADLを維持するよう運動および食事習慣に留意することによって, 100歳を超える健康長寿も期待できることが示唆された.

1 0 0 0 OA 加齢と内分泌

著者
橋爪 潔志
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.503-504, 2004-09-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
6