著者
伊藤 直子 渡辺 修一郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.364-374, 2017-07-25 (Released:2017-08-29)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

目的:呼気筋訓練(Expiratory Muscle Strength Training:以下EMST)は,呼吸筋力や咳嗽能力を向上させるだけではなく,嚥下機能や発声機能を向上させる効果も期待されている.本研究では,地域在宅高齢者を対象としてEMSTを実施し,口腔機能および呼吸機能に及ぼす効果を明らかにする.方法:通所リハビリテーションを利用中の高齢者より対象を募り,応募者のうち介入群31名(76.2±5.1歳),対照群15名(78.1±6.5歳)とした.介入群に対しては,最大呼気圧の75%負荷圧のEMSTを5回を1セットとして1日5セット,毎日8週間継続させた.口腔機能の評価には3回唾液嚥下時間,舌上の湿潤度,舌圧,オーラル・ディアドコキネシス(Oral Diadochokinesis:OD)最大発声持続時間(Maximum Phonation Time:MPT),呼吸機能の評価は最大呼気圧(Maximum Expiratory Pressure:PEmax)および最大吸気圧(Maximum Inspiratory Pressure:PImax)を用いた.介入群と対照群のEMST前後の比較は,対応のあるt検定を用いた.さらに,介入効果を検討するために性別,年齢,ベースライン時の値を調整した一般線形モデルを用いた分析を行った.結果:3回唾液嚥下時間は,介入群の嚥下時間の短縮がみられ,性別,年齢およびベースライン値を調整後の比較においてもその差は有意であった.MPTは,介入群では平均2.1秒増加したのに対し,対照群では平均0.4秒減少しており,その差は有意であった.PEmaxは,介入群で平均5.7 cmH2O増加したのに対し,対照群では平均4.6 cmH2O減少しており,その差は有意であった.PImaxにおいても介入群は平均r544.0 cmH2O増加したのに対し,対照群では平均6.4 cmH2O減少しておりその差は有意であった.結論:EMSTは地域在宅高齢者の口腔機能および呼吸筋機能を向上させることが示唆された.嚥下・発声および呼吸に要する通路は一部共有し機能しており,呼気時に舌骨筋群等の収縮を繰り返し行うことで嚥下時間の短縮につながったのではないかと考えられた.また,発声時間については,EMSTにより呼気の保持時間が増し,発声の持続力を強化したことが考えられた.
著者
岩田 充永 梅垣 宏行 葛谷 雅文 北川 喜己
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.330-334, 2008 (Released:2008-07-14)
参考文献数
5
被引用文献数
4 3

目的:夏季の高温多湿が進む日本では,熱中症が増加することが予想されるが,高齢者の熱中症については十分な検討がなされていない.高齢者熱中症の特徴を明らかにするために,65歳以上高齢者で入院となった熱中症例について検討した.方法:2006年の7∼9月とおよび2007年の7∼9月に名古屋掖済会病院救命救急センターを熱中症で受診し,入院となった65歳以上高齢者を対象に,発症日の気候,同居家族,発症環境,空調設備の有無や利用状況,基本的ADL,かかりつけ医の有無,認知症の有無,介護サービスの利用状況,重症度,入院期間,転帰について調査した.結果:研究期間中の熱中症受診104例中31例(31%)が入院となり,そのうち65歳以上高齢者は25例中20例(80%)で,若年者79例中11例(13.9%)に比較して有意に入院率が高かった(p<0.001).平均入院期間は20.6±17.8日で,65歳以上入院群27.5±18.6日,65歳未満入院群5.3±3.0日と高齢者群の入院期間は有意に長期となった(P<0.001).自宅内発症の熱中症は16例で,全例65歳以上で入院を必要とし,65歳以上高齢者の入院熱中症症例(20例)の80%を占めた.自宅内発症例の多くは,最高WBGT 28°C以上(14例),空調設備を有していない(11例),ADL自立(10例),認知症(12例),介護サービス未利用(11例),独居もしくは配偶者と2人暮らし(14例)などの特徴を認めた.入院症例のうち12例(60%)が自宅に退院できなかった.結論:高齢者は通常の自宅生活でも熱中症を発症する危険があり,WBGT28°C以上の日は特に危険が高い.高齢者の熱中症を予防するためには,(1)ADLが比較的保たれ介護サービスを受けない高齢者や独居もしくは配偶者と2人暮らしの高齢者に対する見守り体制の構築,(2)住居における空調設備の設置援助と適正利用への啓発と見守り体制の構築の2点が重要である.
著者
荻原 俊男 森本 茂人 中橋 毅 島本 和明 松本 正幸 大内 尉義 松岡 博昭 日和田 邦男 藤島 正敏
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.396-403, 1994-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
24
被引用文献数
9 8

本邦における高血圧専門家が老年者高血圧の治療方針に関していかなる考え方をしているかについてアンケート法によりその実態を把握することを目的とした. 治療対象について50%の専門家は年齢の上限を考慮しないとしたが, 残り50%は80歳まで, あるいは85歳までを上限としている. 治療対象血圧値は収縮期血圧は60歳代160mmHg以上, 70歳代160~170mmHg以上, 80歳代では170~180mmHgと高齢者程治療対象血圧は上昇, 拡張期血圧は90~95mmHg以上とするものが大部分を占めた. 降圧目標は60歳代では150/90mmHg未満, 70~80歳代では160/90mmHg未満とするものが多く, 80歳代では170~180/95~100mmHg未満と高めに設定するものが20数%あった. 用いる降圧薬ではCa拮抗薬を第一次薬とするものが大部分でありACE阻害薬がこれに次いだ. 一方, サイアザイド, β遮断薬, α1遮断薬を第一次薬とするものは少数であった. 合併症を有する場合の降圧目標や選択降圧薬は疾患によりきめ細かく考慮され, 脳梗塞慢性期, 閉塞性動脈硬化症, 腎障害合併症は70歳代, 80歳代で154~159/89~90, 160~164/90~91mmHgとやや高め, 脳出血慢性期, 虚血性心疾患, 糖尿病, 高脂血症では各々152~153/88, 158~159/89mmHgとやや低めに設定している. Ca拮抗薬はいずれの合併症にもよく用いられ, とくに腎障害, 閉塞性動脈硬化症で高頻度に用いられる. 腎障害ではACE阻害薬が用いられる頻度が低い. β遮断薬は虚血性心疾患で用いられる以外は一般的に用いられない. サイアイド, α1遮断薬は一般的に合併症のある場合にあまり用いられていない. 本邦においても長期介入試験によりこれらを正当化する証明が待たれる.
著者
村地 悌二 中西 孝雄 田坂 仁正
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.8-12, 1965-03-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

7才から70才代に至る健康男子221例, 女子406例について, 視覚単純反応時間を測定した.光源としては220Vネオンランプを用い, 予告後1~2秒後に点燈し, あらかじめ数回練習してから10回測定を行ない, その平均値をもって被検者の反応時間を表すことにした.1) 各年令層とも, 平均値および標準偏差は, 女が男より増大する傾向を示す.2) 平均値, ならびに標準偏差は, 男女とも, 15~19才がもっとも少なく, それより若令の者, 高令の者はいずれも増大の傾向を示す.3) 高血圧者群で検査した成績は, 同年令の前記健康者群と差を示さない. 養老施設で生活する老年者では, 反応時間の延長を認めた.
著者
新野 直明 小坂井 留美 江藤 真紀
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.484-486, 2003-09-25 (Released:2011-02-24)
参考文献数
8
被引用文献数
18 16

愛知県常滑市における住民検診に参加した65歳以上の高齢者を対象に転倒の実態を調査した. 2,774人の回答者において, 過去1年間に転倒した人の割合は13.7%であった. 転倒者割合は, 女性に高く, また, 年齢が高い群において高かった. 転倒の発生状況は655人について結果が得られたが, 大部分の転倒が日中, 屋外で発生する, 歩行中の転倒が圧倒的に多い, 転倒原因としては外因の関与が大きい, 骨折は転倒の10%弱に伴う, などの結果が得られた.
著者
鈴木 隆雄 杉浦 美穂 古名 丈人 西澤 哲 吉田 英世 石崎 達郎 金 憲経 湯川 晴美 柴田 博
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.472-478, 1999-07-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
27
被引用文献数
54 43

比較的健康な地域在宅高齢者527名を対象として, 面接聞き取り調査, 身体属性の測定, 腰椎骨密度および歩行能力などの運動能力を1992年の初回調査時に測定し, その後5年間追跡調査を行ない, その間での2回以上の複数回転倒者について, その関連要因の分析を行なった.その結果, 2回以上の複数回転倒者では非転倒者あるいは1回だけの転倒者に比較して初回調査時において, 自由歩行速度, 最大歩行速度, 握力などの運動能力や, 皮下脂肪厚, および老研式活動能力指標総得点などで有意な差が認められた. さらに, 5年間での追跡期間中の複数回転倒の有 (1), 無 (0) を目的変数とする多重ロジスティック回帰モデルによる分析を行なった結果,「過去1年間の転倒経験」が最も強い正の, そして自由歩行速度および皮下厚が負の有な関連として抽出された.このような地域高齢者を対象とする縦断的追跡研究の結果から, 転倒や転倒に基因する多くの骨折に対して,「過去の転倒経験」を問診で詳細に聞き取ることや, 簡便な「自由歩行速度」を測定することにより, 転倒ハイリスク者をスクリーニングすることが可能であり, ひいては転倒・骨折予防に極めて有効な指標となることが考えられた.
著者
森 博愛 小林 総一郎 毛利 三郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.293-297, 1992-04-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
20
被引用文献数
3 5

左脚分枝ブロックの1型である左脚中隔枝ブロックの際には, 横断面QRS軸の方向が変化し, QRS波前方成分が増大する. 健常例のV1, 2のQRS波計測値に基づき, 下記のような左脚中隔枝ブロックの心電図診断基準を設定した.(1) 右室肥大, 完全右脚ブロック, WPW症候群 (A型), 高位後壁梗塞, 肥大型心筋症, 心臓長軸周りの著しい反時針式回転を起こすような胸郭ないし胸郭内異常を除外する.(2) 次の2項目の内, 何れか1つを満たす.(1) V1のR/S>2, かつRV1≧5mm, (2) V2のR/S>2, かつRV2≧15mmまたはSV2<5mm高年者を主対象とする病院の全入院患者における本所見の頻度は3.5%で, 左脚前枝ブロック, 完全右脚ブロックより少ないが, 完全左脚ブロック, 両脚ブロックよりも多く, 高年者の異常心電図所見の1つとして注意を払う必要がある.
著者
川村 皓生 加藤 智香子 近藤 和泉
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.65-73, 2018-01-25 (Released:2018-03-05)
参考文献数
24
被引用文献数
1

目的:通所リハビリテーション事業所(以下,通所リハ)利用者の生活活動度を構成する因子は多様であるが,様々な生活背景や既往歴を持つ高齢者の生活活動度の関連因子について多方面から調査した研究は少なく,また生活活動度の違いがその後の要介護度の変化にどのような影響を与えるのかについては不明な点が多い.今回は,通所リハ利用者に対し精神・社会機能も含めた複合的な調査を行い,生活活動度の関連因子および,約1年後の要介護度変化の差について検討することを目的とした.方法:2カ所の通所リハ事業所利用者のうち,65歳以上であり,要支援1・2・要介護1いずれかの介護認定を受け,屋外歩行自立,MMSE(Mini-Mental State Examination)≧20の認知機能を有する83名(平均年齢79.5±6.8歳)を対象とした.主要評価項目の生活活動度はLife Space Assessment(LSA)にて評価した.LSAとの関連を調査する副次評価項目として,一般情報(年齢,既往歴,要介護度など),身体機能・構造(握力,Timed Up and Go test(TUG),片脚立位など),精神機能(活力,主観的健康感,転倒不安など),社会機能(友人付き合い,趣味,公共交通機関の有無など)について調査した.また,調査開始から約1年後の要介護度について追跡調査を行った.結果:重回帰分析の結果,TUG(β=-0.33),趣味の有無(β=0.30),友人の有無(β=0.29),近隣公共交通機関の有無(β=0.26),握力(β=0.24)の順にLSAとの関連を認めた.次に,LSA中央値54点でLSA高値群,LSA低値群に二分し,約1年後の要介護度変化(軽度移行・終了,維持,重度移行)についてカイ二乗検定にて検討したところ,群間の分布に有意な差を認めた(p=0.03).結論:通所リハ利用者の生活活動度には,身体機能に加えて,外出目的となり得ることや実際の外出手段を有することといった複合的な理由が関連していることが示唆された.また高い生活活動度を有することにより,その後の要介護度の軽度移行や利用終了に結びつきやすくなる可能性が推察された.
著者
山本 ひとみ 牧上 久仁子 福村 直毅 牛山 雅夫
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.516-524, 2019-10-25 (Released:2019-11-22)
参考文献数
18

目的:回復期リハビリテーション(回復期リハ)病棟で入院患者に積極的な摂食嚥下リハビリテーション(嚥下リハ)と栄養療法の強化を行い,入院中の肺炎発症予防効果を検討する.方法:本研究は後ろ向きコーホート研究である.46床の回復期リハ病棟において,積極的な嚥下リハ手法(新手法)が導入された前後で,入院患者の肺炎発症率を比較した.アウトカムは入院中の肺炎発症とした.新手法群で新たに導入した手法は,入院時全症例に嚥下内視鏡検査を行って食形態・摂食体位を指示する,体位による唾液貯留位置のコントロール等による慢性唾液誤嚥対策,経口・経管あわせて原則2,000 kcal/日を目標として栄養管理を行う,などである.新・旧手法群で患者背景が異なっていたため,統計的手法を用いて新しい嚥下リハ手法の肺炎発症予防効果を検討した.結果:新手法の嚥下リハを受けた291人と,それ以前に入院した460人を対照群として比較した.新手法群は旧手法群より嚥下障害の患者の割合が多かった(新手法群59.1%,旧手法群33.0%).肺炎発症者は新手法群5人(1.7%),対照群13人(2.8%)であった.肺炎発症を従属変数とし,年齢・性別と各患者背景を投入したロジスティック回帰を行ったところ,嚥下障害の調整オッズ比は24.0(95%信頼区間3.11~186.0,p=0.002)と大きかった.年齢,性別と嚥下障害の有無で調整した新しい嚥下リハ手法と入院中の肺炎発症の関連をみたオッズ比は0.326(95%信頼区間0.11~0.95,p=0.040)であった.結論:嚥下障害は肺炎発症の重大なリスクであり,内視鏡等を用いて積極的に嚥下障害をスクリーニングし,栄養療法やリハを行うことで回復期リハ病棟入院中の肺炎発症を抑制できる可能性がある.
著者
北 正人 藤井 信吾
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.507-510, 2000-07-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
22

閉経とは卵巣機能の衰退・消失によって起こる月経の永久的な閉止である. ヒト女性の閉経年齢は平均50歳前後であり, 環境因子や排卵状態などの個体差の影響を受けにくい. 卵巣の寿命を規定する遺伝子はX染色体上にあると考えられているが, その発現メカニズムは明らかになっていない.卵巣機能の最初の老化徴候は35歳頃より卵胞からの inhibin 分泌が低下しはじめることであると考えられている. 40歳代を過ぎると, この傾向が著明になり下垂体からのFSH分泌は亢進する. 卵胞期間は短縮し黄体の寿命も短縮し月経周期は短縮する. 卵巣の原始卵胞数は急に減少しはじめる. 卵胞のホルモン反応性が悪くなると今度は卵胞発育は遅延し, 月経周期の延長や無排卵周期がみられるようになる. この間, 原始卵胞の数はますます減少する. 卵胞からのE2分泌の低下を代償するために, 間脳からのGnRH分泌は亢進し下垂体からのLH分泌も亢進する. しかし, しばらくするとFSH・LHの上昇にも卵胞は反応しなくなり, 卵胞発育は不十分となり排卵に至らなくなる. E2分泌は低下し, 子宮内膜の反応も低下する. じきに月経は停止し閉経となる.閉経後2~3年以内に卵巣の卵胞は消失し, estrogen の分泌がなくなる. その後の estrogen の主体は体内の末梢組織のアロマターゼで androgen から転換された estrone であるが, その値は閉経前に比べてかなり低く, 閉経以降の女性は相対的に androgen 過剰状態となる. GnRH・LH・FSH分泌は亢進の状態が続き, 70歳代にはいって徐々に下降する.閉経による低 estrogen 状態は身体的悪影響を及ぼすが, 基本的にはホルモン補充療法によって代償が可能である. しかし, 閉経に伴う排卵の停止の予防や治療は困難である.
著者
奥町 恭代 山下 大輔 肥後 智子 高田 俊宏
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.354-358, 2015-10-25 (Released:2015-12-24)
参考文献数
7
被引用文献数
3

目的:一般の市中病院において高齢の高度認知症患者が死亡に至る理由を検討する目的で,認知症を合併する高齢者の入院が多い当科での死亡退院症例を検討した.また,当院の全診療科において作成された死亡診断書を後ろ向きに閲覧し,認知症患者の死因についてさらに検討した.方法:①2010年6月からの3年間に大阪府済生会中津病院老年内科に入院し,入院中に死亡あるいは回復が見込めないと判断され自宅で看取り退院となった高度認知症の31名につき入院時・死亡時の病名と死亡に至る背景を検討した.②2013年4月1日からの1年間に大阪府済生会中津病院で死亡診断書が作成され直接死因欄に老衰あるいは肺炎と記載された症例について,死亡の原因と関連する疾患の記載につき調査した.結果:①高度認知症で死亡退院した31名のうち,3分の2にあたる21名で認知症の進行に伴う摂食・嚥下障害の存在が死亡と関連していた.②全診療科の死亡診断書において,「老衰」と記載されていた13名はカルテ等で調査したところ全例に高度の嚥下障害があり,11名が高度認知症,2名がパーキンソン病末期であった.直接死因欄に「肺炎」あるいは「嚥下性肺炎」と記載された症例のうち,死因に関連する疾患の欄に認知症や嚥下障害に関連した病名が記載された症例はなかった.結論:認知症患者の終末期像として,摂食・嚥下障害や嚥下性肺炎が認められた.認知症は嚥下障害を引き起こし,ひいては死亡につながる疾患であるという事実が広く認識されることが必要であり,当該する患者では認知症もしくは認知症の原因疾患名を死亡診断名として使用するのが適切であると考えられた.
著者
磯谷 一枝 山中 学 石川 元直 扇澤 史子 望月 友香 稲葉 百合子 山本 直宗 山中 崇 大塚 邦明
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.570-571, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

入院中の高齢者において抑うつは疾患治療を困難にする重要な問題であるが影響を与える因子については明らかではない.65歳以上の入院高齢患者174名を対象に,Geriatric depression scale(以下,GDS)を実施し,性別,年齢,基礎疾患,居住形態,認知機能との関連を検討したところ,患者の居住形態がGDSに最も強く独立して関連し独居群は家族同居群よりもGDSが高く治療意欲の低下を支持する回答が多く,独居高齢者では入院中に心理的援助がより必要である.
著者
大類 孝
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.558-560, 2010-11-25
参考文献数
14

誤嚥性肺炎の危険因子として最も重要なものは,脳血管障害および変性疾患に併発しやすい不顕性誤嚥である.不顕性誤嚥は,大脳基底核病変を有している人に多く認められる.降圧剤のACE阻害薬などの不顕性誤嚥の予防薬はハイリスク高齢患者において肺炎の予防効果を有する.また,寝たきり高齢者でも肺炎球菌ワクチン投与は有効で,発熱日数の減少および入院回数の抑制効果が認められる.さらに,寝たきり高齢者で低下し易い細胞性免疫の賦活法としてBCG接種があり,BCG接種は高齢者肺炎の予防効果を有する.<br>
著者
坂本 直治 杉原 栄一郎 朴 宗晋 福田 洋 礒沼 弘 饗庭 三代治 檀原 高
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.47-51, 2010 (Released:2010-03-25)
参考文献数
19
被引用文献数
3 2

目的:肺炎は一般臨床の場でよく遭遇する疾患であり,高齢者にとっては死因の上位を占めている.我が国は高齢化社会を迎えており,高齢者肺炎患者を診る機会も多い.そこで高齢者市中肺炎の死亡例を解析し予後因子の検討を行った.対象と方法:順天堂東京江東高齢者医療センター高齢者総合診療科に2005年1月から2006年12月までの間に入院を要した65歳以上の高齢者の一般市中肺炎患者200例を対象とした.これらの200症例を死亡群,治癒群に分け,入院時において早期に把握できる項目として患者背景,基礎疾患,身体所見,一般検査所見,胸部レントゲン所見,A-DROPを用いた重症度の比較検討を行った.結果:対象患者の死亡率は15%であった.平均年齢は死亡群の方が高く,入院までの期間も死亡群の方が長い経過を要していた.基礎疾患では脳血管障害,循環器疾患,認知症を多く認めたが,複数の基礎疾患を合併している症例が多くみられた.検査所見では死亡群の方が,総蛋白値,アルブミン値は低値,BUN値は高値であった.胸部レントゲン所見では死亡群のほうが陰影の広がりが大きい傾向がみられた.A-DROPによる重症判定では死亡群の方が重症,超重症例を多く認めた.考察:高齢者肺炎死亡例を検討したが予後因子として治療までの期間,総蛋白質値,アルブミン値などの栄養状態や,脱水などの臨床所見,胸部レントゲン所見の広がり具合が重要であった.A-DROPによる重症度判定は簡易に日常臨床の場で行うこともでき有用であると考えられた.
著者
杉浦 彩子 内田 育恵 中島 務 西田 裕紀子 丹下 智香子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.325-329, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
17
被引用文献数
3 1

目的:耳垢は高齢者および知的障害者に頻度が高いことが知られており,湿性耳垢の頻度が高い欧米では高齢者の約3割に耳垢栓塞があるという報告もある.しかしながら乾性耳垢の多い日本においての報告はない.今回,本邦における一般地域住民における耳垢の頻度と認知機能,聴力との関連について検討した.方法:『国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究』第5次調査参加者中,60歳以上で,耳垢確認のための鼓膜ビデオ撮影検査を受け,かつ耳疾患の既往のない一般地域住民男女792人を対象とした.Mini-Mental State Examination(MMSE)と良聴耳の耳垢の有無,良聴耳の4周波数平均聴力との関連について一般線形モデルで検討した.結果:対象792人中良聴耳の耳垢を85人(10.7%)に認めた.MMSE 24点以上の群では良聴耳の耳垢が有るのは10.0%だけだったが,MMSE 23点以下の群では23.3%に耳垢を認めた.また良聴耳の平均聴力は年齢,性を調整しても耳垢有群では無群より有意に悪かった(p=0.0001).また,年齢,性,良聴耳平均聴力,教育歴を調整しても耳垢有の群では有意にMMSE得点が低かった(p=0.02).結論:本邦においても高齢者の1割に良聴耳の耳垢を認め,耳垢により聴力が低下している場合があることが示唆された.また耳垢を有する群では認知機能が悪いことが明らかとなった.
著者
入来 正躬 小坂 光男 村上 悳 村田 成子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.172-177, 1975-05-31 (Released:2009-11-24)
参考文献数
17
被引用文献数
3 2

65歳以上の男子943名, 女子1671名, 計2614名について腋窩温を測定した. 測定時刻は午後1時より4時の間, 測定時間は30分である. 同時に血圧, 身長, 体重を測定した. 被検者のうち, 独力で普通の日常生活の不可能なもの, 身体の異常を強く訴えるものを除き男子875名, 女子1595名, 計2470名について統計学的検討を行なった. この結果より結論づけることができるのは次の諸点である. 比較のために成人腋窩温についての田坂ら (1957)の報告を用いた.1) 老人腋窩温分布は正規分布に近い分布を示し, その平均値は36.66℃, 標準偏差は0.42℃である.老人腋窩温の平均値は成人腋窩温の平均値36.89℃に比し0.23℃低い.老人腋窩温の標準偏差は, 成人腋窩温の標準偏差0.34℃より大きく, 老人腋窩温の個人によるバラツキが成人のに比し大きいことを示している.2) 男子老人腋窩温は平均値36.55℃, 標準偏差0.41℃であるのに, 女子老人腋窩温は平均値36.72℃, 標準偏差0.42℃である. 男子老人腋窩温の平均値は女子のに比較して0.17℃低い. 成人の腋窩温では男子は女子より高いので, 老人と成人の男女差は逆の傾向を示す.3) 老人腋窩温と最高血圧, 最低血圧, 平均血圧との相関関係は有意ではない. しかし, 老人腋窩温は体型により左右され, 身長, 体重, 比体重と逆の相関関係が成り立つ. 比体重の大きい, すなわち肥満型の人ほど腋窩温が低い.なお本統計は, 独力で普通に生活している老人の日常生活にあらわれる時間的な一断面における腋窩温について述べたもので, 長期間臥床を保っているような条件の老人にこの数値をただちにあてはめることはできないかと考えられる.
著者
飯田 真也 加藤 徳明 蜂須賀 研二 佐伯 覚
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.202-207, 2018-04-25 (Released:2018-05-18)
参考文献数
8
被引用文献数
1

現在,高齢運転者の認知症対策を強化した改正道路交通法が施行され,ニュース等で取り上げられる高齢者の自動車運転に関する話題も多い.自動車運転は「知覚→判断・予測→運動」に至る複合的な機能が動員される複雑な作業であり,本稿ではまず,高齢者の運転特性について,次に高齢者の運転適性を行うにあたり路上運転評価よりはるかに簡便な簡易自動車運転シミュレーターを使用した自動車運転に必要と考えられる高齢者の認知機能面の特徴について論述する.
著者
角 保徳
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.465-468, 2013 (Released:2013-09-19)
参考文献数
9
被引用文献数
6

高齢社会の進展に伴い,嚥下障害患者や口腔管理が自立できない高齢者の数も増加しており,QOLの維持や生きがいの観点から適切な嚥下機能,口腔機能を維持・改善することは重要な課題である.嚥下障害患者は,誤嚥性肺炎に罹患しやすい上に,低栄養状態になりやすい.嚥下障害患者に対する口腔ケアは,単に口腔内を清潔にするだけでなく,死亡原因となる誤嚥性肺炎を未然に防ぐとともに,摂食・嚥下機能の改善,脱水や低栄養状態の予防にかかわり,生活の質(QOL)向上の観点からもきわめて重要である.さらに,口腔ケアは機械的刺激が摂食・嚥下リハビリテーションの間接訓練としての役割も果たす.以上のように,嚥下障害患者における口腔ケアの意義は,(1)誤嚥性肺炎の予防,(2)低栄養の予防,(3)摂食・嚥下リハビリテーションの間接訓練の3点が挙げられる.5分間で終了する標準化した口腔ケアである"口腔ケアシステム"は,口腔期のリハビリテーションとして有効性が期待される.