著者
山本 幹枝 和田 健二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.547-552, 2018-10-25 (Released:2018-12-11)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

わが国のみならず世界的に認知症者数が増加し,社会経済的な問題となっている.2015年の全世界認知症者数は4,680万人と推定され,2050年には1億3,150万人にのぼることが予測されている.欧州や北米では認知症有病率は低下しているものの,アジアやアフリカなど特に低中所得国での増加が顕著である.わが国では,2012年時点での65歳以上高齢者における認知症有病率は15%(462万人)と推計されている.とくに80歳以降に多く人口の高齢化や生存率の改善を反映していると考えられる.超高齢化社会においては認知症の診断が難しい場合も多く,繰り返し正確な疫学調査が必要である.また,認知症による社会的負担の軽減のためにも,治療法や予防法の確立に向けて世界的に一層の取り組みが進むことが期待される.
著者
池田 夢子 及川 欧 村岡 法彦 塚田 鉄平 才田 良幸 呂 隆徳 大田 哲生
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.184-190, 2023-04-25 (Released:2023-05-23)
参考文献数
17

今回,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:以下COPD)があり,新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)罹患を契機に長期人工呼吸器管理となった80代の患者に対するリハビリテーション(以下リハビリ)について報告する.患者は人工呼吸器管理のため26日間の長期臥床となり著明な筋力低下をきたし,日常生活動作(activities of daily living:以下ADL)は全介助となった.人工呼吸器からの離脱と廃用症候群の進行予防を目的としてリハビリを開始した.リハビリ内容としては,離床,基本動作練習,関節可動域運動,筋力トレーニングを実施した.24日間のリハビリの結果,人工呼吸器から離脱し,下肢筋力は徒手筋力検査(manual muscle testing:以下MMT)にて4相当と改善,歩行器歩行が可能なレベルまでADLの改善が得られた.1年後の調査において,ADLは自立し,仕事復帰を果たしたことを確認した.
著者
出口 晃 川口 恵生
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.148-149, 2018-01-25 (Released:2018-03-05)
参考文献数
3

在宅以外で行われている経管栄養の実態を知るため,特養,老健,介護療養型医療施設(介護型),医療型療養病床(医療型)入所者を対象とし,経管栄養患者数と胃瘻造設後の年数を2006年,11年,16年に調べた.経管栄養者の割合は,介護型・医療型で21.9~44.4%であり,特養・老健の4.4~11.7%よりも高かった.造設3年,5年以上経過者は最近5年間で17.4%,18.1%増えていた.経管栄養開始後長期間経過した者の受け皿である療養病床の代替が必要である.
著者
大西 俊一郎 小林 一貴 横手 幸太郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.417-426, 2019-10-25 (Released:2019-11-22)
参考文献数
41

高齢者においても,総コレステロール(TC),Non HDLコレステロール(Non-HDL-C),LDLコレステロール(LDL-C)値が高くなれば,冠動脈疾患の発症は増加する.一方で,高齢者における脂質異常症と脳卒中,認知症発症,ADLとの関係は明らかとは言えない.このように高齢者の脂質異常症の病態は成人(65歳未満)と類似点が多く,基本的には同様に扱う.続発性脂質異常症を鑑別したうえで,日本動脈硬化学会の定める基準を用いてリスクに応じた治療目標を設定し,食事療法と運動療法を基本として治療する.また,高齢者には身体機能や合併症など種々の多様性があり,治療においては高齢者特有の病態への配慮が必要である.食事療法では極度のカロリー制限は避け,重度の腎機能障害がなければ筋肉量維持の観点からたんぱく質の摂取を積極的に勧める.運動療法では有酸素運動と,可能であればレジスタンス運動を併用するが,高齢者は運動器・呼吸器・循環器などの障害を有していることも多く,個々人に合った運動メニューを考慮する.薬物療法としては二次予防および前期高齢者(65歳以上75歳未満)の一次予防においてスタチンの有用性が示されている.2019年にはエゼチミブ単剤投与による後期高齢者(75歳以上)の一次予防効果が本邦より報告され,今後のガイドラインへの反映が期待される.
著者
磯部 秀樹 高須 直樹 水谷 雅臣 木村 理
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.599-605, 2007 (Released:2007-11-30)
参考文献数
15
被引用文献数
6 5

目的:がん罹患率のなかで大腸癌が増加しているが,高齢者に対する手術や化学療法も増加してきている.高齢者に対する外科治療の問題点を明らかにすべく,近年の高齢者大腸癌の特徴を調べた.方法:1990年から2004年までの15年間に手術を施行した80歳以上の高齢者大腸癌67例(男性38例,女性29例)について,70歳∼74歳の大腸癌症例130例を対照とし,臨床病理学的特徴,手術術式,術前の併存基礎疾患,術後合併症,化学療法,術後生存率に関して検討した.結果:大腸癌の進行度としては80歳以上群でDukes Bが多く,70∼74歳群でDukes Aが多かった.結腸癌では2群間に手術術式による差はなかったが,直腸癌においては,80歳以上群にハルトマン手術と経肛門的局所切除が多かった.リンパ節郭清では結腸癌においては有意差をみとめなかったが,80歳以上群の直腸癌において郭清度が低く,直腸癌において2群間に有意差を認めた.根治度には有意差はなかった.術前併存基礎疾患は80歳以上群で76%に認められ,循環器疾患が多く,次いで呼吸器疾患,脳梗塞後遺症,老人性認知症が続いた.80歳以上の51%に術後合併症が認められ,70∼74歳群と比べ術後せん妄が多かったが他の合併症に差はなかった.80歳以上群に術死は認めなかった.結論:高齢者においても全身状態に応じた手術を行うことにより,合併症の発症を抑えQOLを損なうことなく安全な手術を行うことができると考えられた.
著者
大野 一将 小原 聡将 竹下 実希 井上 慎一郎 水川 真二郎 長谷川 浩 神﨑 恒一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.179-185, 2017-04-25 (Released:2017-06-07)
参考文献数
24
被引用文献数
4 3

症例は86歳男性,ADLは自立しており,70歳で遺伝性出血性毛細血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia:以下HHT)と診断された.以来当科外来に通院していたが,今回初発の意識障害を来し,当院に緊急入院となった.受診時に羽ばたき振戦を認め,血清アンモニア値は128 μg/dlと高値であり,肝性脳症と診断した.精査のため血管造影を行ったところ,肝内びまん性門脈肝静脈シャントを認め,それに伴った肝性脳症と診断した.HHTの本態は,血管構築の異常による末梢血管拡張やシャント血管の形成が特徴であり,さらに年齢を重ねるごとにシャント量が増加する.そのため,高齢になると肝内びまん性門脈肝静脈シャントをも形成し,ごく稀に肝性脳症を来たすことがある.近年,本疾患の管理の質が向上しHHT患者は高齢化してきている.今後肝性脳症をきたすHHT患者が増加すると予想されるため貴重な症例と考え,ここに報告する.
著者
吉村 芳弘
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.214-230, 2023-07-25 (Released:2023-09-21)
参考文献数
82

高齢者の栄養状態と健康リスクについての知見は時代とともに変化しており,複数の慢性疾患を抱えた高齢の低栄養患者を診療する機会が増えている.低栄養はマラスムスやクワシオコルだけでなく,疾患に伴う全身炎症の存在も原因となる.低栄養は健康リスクを高める要因として重要であり,高齢者は低栄養に関連した複数の病態を抱えている.入院高齢患者の低栄養は免疫能の低下,感染症,創傷治癒遅延,サルコペニア,フレイル,悪液質,入院,施設入所,日常生活動作の低下,生命予後の悪化など,さまざまな健康関連アウトカムに影響を及ぼす.低栄養は医療経済にも影響を与えており,入院期間の延長や合併症のマネジメントのための費用が増加するだけでなく,健康寿命の短縮や医療サービスの集中的な利用も引き起こす.そのため,低栄養の予防や治療は個々の患者だけでなく医療制度全体にとっても重要な課題である.低栄養の診断は栄養評価のプロセスに組み込まれており,スクリーニングツールや統一診断基準を使用して行われる.また,フレイルやサルコペニアといった身体的脆弱性にも注目が集まっており,muscle healthを通したこれらの状態の同定と管理も重要である.栄養療法は低栄養やフレイル,サルコペニアの予防・治療に有効であり,特にたんぱく質の摂取が重要であるとされている.栄養介入のみならず,運動介入や口腔管理,薬剤管理などの総合的なアプローチが重要であるとされている.リハビリテーション栄養の考え方も重要であり,全人的評価と栄養評価を組み合わせることで高齢者の機能・活動・参加,QOLの向上につながる.総じて,高齢者の栄養状態と健康リスクに対する理解が進んでおり,総合的なアプローチを取ることで高齢者の健康寿命の延伸につながる可能性がある.医療の考え方も変化しており,「治す」だけでなく「ケア」に重点を置くことが求められている.
著者
二木 立
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.54-57, 2012 (Released:2012-03-29)
参考文献数
6

2006年に介護予防(新予防給付)が導入されて以降5年間に発表された厚生労働省・政府の諸資料,国内外の実証研究を用いて,5つの柱立てで費用抑制効果の有無を中心にして,介護予防の効果と問題点を再検証した.第1に,私が2006年に行った介護予防の文献レビューの概要を紹介した.次に,保健医療サービスの経済評価の留意点・常識を5つ述べた.第3に,2006年以降に発表された介護予防の経済効果についての日本語文献を検討した.第4に,さまざまな介護予防のうち,国際的にもっとも活発に行われている転倒予防を中心にして,英語文献レビューの検討を行った.第5に,厚生労働省・政府の介護予防の費用抑制効果試算が5年間で大幅に減額されていることを示した.その結果,介護予防事業が始まってから5年経つにもかかわらず,それの介護費用削減効果は国内的にも,国際的にも,まだ実証されていないことを明らかにした.
著者
小沢 利男 半田 昇 氏井 重幸 岸城 幸雄
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.16, no.6, pp.513-521, 1979-11-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
15
被引用文献数
1

体重身長指数は身長との相関が少なく, 体重と相関が大であることを要する. この点について四つの指数I1=W/H (比体重, Wは体重, Hは身長), I2=W/H2 (Body Mass Index, BMI) PI=H/3√W (Ponderal Index), BK=W/(H-100)×0.9 (Broca-桂の指数) を検討した. 対象は10歳代から70歳代に及ぶ健常男子6,272名, 女子7,230名, 計13,502名である. その結果男女各年代層を通じてBMIが身長との相関が最も小さく, 体重との相関は比体重についで大であった. 又20歳代を対象として5cm毎に区分した各身長に対する各指数の変化をみると, BMIが最も一定した値を示した. 加齢に伴うBMIの変化をヒストグラムからみると, 男子では30歳代で20歳代より右に偏るが, その後60歳代に至るまでほぼ同じ分布を示した. 女子では20歳代から加齢と共に漸次右方に偏る傾向がみられた. 血圧との関係ではBMIの高いものに高血圧の出現頻度が高く, 特に男子でこの傾向が顕著であった. 男子における喫煙量とBMIとの間には一定の関係がみられなかった.
著者
柴 隆広 沢谷 洋平 広瀬 環 石坂 正大 久保 晃 浦野 友彦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.149-154, 2020-04-25 (Released:2020-05-29)
参考文献数
21
被引用文献数
1

目的:通所リハビリテーション利用者のサルコペニアの有病率を明らかにする.また,サルコペニアとなりうる危険因子を明らかにする.対象:当事業所の利用者104名を対象(男性56名,女性48名,平均年齢78.6±7.7歳)とした.方法:サルコペニアの診断はAWGSの診断アルゴリズムを基準に分類した.サルコペニアの危険因子の調査では①脳血管疾患,②高血圧,③呼吸器疾患,④循環器疾患,⑤整形疾患,⑥骨折,⑦がん,⑧難病,⑨糖尿病,⑩過去1年間の転倒歴の10項目を調査した.結果:有病率はサルコペニア51.9%であった.サルコペニアの危険因子として「がん」「転倒歴」の項目に有意差が認められた.結語:要支援・要介護高齢者(特にがん,転倒歴を有する者)はサルコペニアのリスクが非常に高く,早期からの介入が望まれる.
著者
和泉 賢一 村上 一雄
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.79-84, 2009 (Released:2009-02-25)
参考文献数
15

症例は72歳男性.2型糖尿病と胃癌の診断にて治療中.胃癌は末期の状態であったが,化学療法を受けながら外来で治療されていた.糖尿病は,インスリンにて治療していたが,食事量が低下しており,次第に全身状態が悪化し意識レベルも低下してきたため(JCS I-3),平成18年11月入院となった.入院時血液検査にて,白血球11,070 /μlでありHb 10.2 g/dlと貧血を認めた.BUN 64.1 mg/dl,Cr 2.23 mg/dlと腎不全も認めていた.Na 142 mEq/l,K 4.5 mEq/l,Cl 94 mEq/l,血糖830 mg/dl,血清浸透圧は計算値353 mOsm/l,実測値で360 mOsm/lであった.血液ガスでは,4 L/分の酸素投与下にてpH 7.368,pCO2 58.6 mmHg,pO2 70.5 mmHg,HCO3 33.0 mmol/lであり,炭酸ガスが蓄積していた.anion gapは15 mEq/l,CRP 16.78 mg/dlであった.入院時の血清ケトン体は総ケトン体5,490 μmol/l(正常参考値<131 μmol/l),3ヒドロキシ酪酸3,420 μmol/l(正常参考値<85 μmol/l)と高ケトン血症であった.以上より,高ケトン血症を伴う高浸透圧高血糖症候群と判断した.生理食塩水とインスリン投与,電解質の補正などによる治療により,血糖と浸透圧は低下し意識状態も改善した. 高浸透圧高血糖症候群は総ケトン体0.5∼2 mM程度のケトーシスを伴うことがあるとされている1)が,老年期の5 mMを超える高ケトン血症を伴う本症例のような報告は殆どない.報告は少ないが,実際にはケトアシドーシスと高浸透圧高血糖症候群を合併する症例が認められることも多い.また,高齢者糖尿病では自覚症状が乏しいため,高度の代謝状態での悪化でも見過ごされ易い.そして,水·電解質の失調を来し比較的容易に高浸透圧高血糖症候群やケトーシスなどに至る例がある2). そのため,高齢化が進む現在,老年者の病態の多様性が非常に重要であり,このような症例を注意深く検討することが必要と考える.
著者
蟹江 治郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.489-491, 2008 (Released:2008-12-05)
参考文献数
23
被引用文献数
3 1
著者
髙木 美紀 中埜 粛 大塚 寿子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.190-199, 2022-04-25 (Released:2022-06-02)
参考文献数
22

目的:インスリン療法中の患者を特定施設入居者生活介護対象軽費老人ホームで受け入れる際の問題点を明らかにする.方法:特定施設入居者生活介護対象軽費老人ホームで初めてインスリン療法中の糖尿病患者を受け入れる際に職員の糖尿病に対する意識アンケートを行った.患者受け入れ後,回答を参考に職員対象糖尿病教室を開催するなど現場の要望に応じた受け入れ体制の整備を行った.6カ月後にアンケートを実施し受け入れに対する職員の意識を再度確認した.結果:受け入れ前の初回アンケートで看護師は受け入れに消極的,介護士は積極的であった.患者は入居後低血糖や虚血性心疾患を疑わせる多様な訴えを頻発し対応に難渋した.患者の快適な生活を実現するために職員の糖尿病知識教育が必要と考えられたため介護士対象に糖尿病専門医による糖尿病教室を行ったところ,徐々に適切な生活介護が可能となり施設内の医療介護連携体制が整えられた.入居6カ月後に行ったアンケートでは,介護士の根拠なき過度な楽観的意見は減少したが,看護師は受け入れに消極的で介護士が積極的であるという傾向は初回同様に認められた.結論:介護施設のインスリン療法中患者受け入れに対する看護師と介護士の認識の差異が明らかになった.患者が安心して施設生活を送れる支援を実現するためにはこの差異を埋め,患者の安全を確保する必要がある.本症例では糖尿病専門医による介護士対象の医学知識教育がある程度有効であったが,依然として両者の認識の差異は大きかった.対策として,介護施設での糖尿病教育制度を設けること,教育を受けた介護士の血糖測定を可能にすること,各施設で対応可能な治療方針の患者を適正に選定すること,入居後の医師による医療指示を単純化すること,施設内コミュニケーションを促進してよりよい医療介護連携体制を構築することを提案する.
著者
会田 薫子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.71-74, 2012 (Released:2012-03-29)
参考文献数
10
被引用文献数
3 4

高齢化が進んだ我が国では,終末期医療に関する諸問題が深刻さを増しており,特に,認知症が高度に進行した段階での経口摂取困難に対する人工的水分・栄養補給法(AHN:artificial hydration and nutrition)の是非については,我が国の文化的な背景や死生観が色濃く反映していると考えられ,先進諸外国の先行知見に学ぶだけでは適切な対応をとることは困難である.そこで,我が国における対策を検討するため,同課題に関する医師の臨床実践と意識を探る量的調査を行った.2010年10月~11月に,日本老年医学会の医師会員全員(n=4,506)に対して郵送無記名自記式質問紙調査を実施した.有効回答率は34.7%.分析の結果,当該課題に関して深く迷い悩む医師の姿が明らかになった.AHN導入の方針決定の際に,困難を感じなかったという回答者は6%だけであり,AHNを差し控えることにも施行することにも倫理的な問題があると感じている医師や,AHN導入の判断基準が不明確と考える医師が半数近くいることが示された.また,法的な問題への懸念が対応を一層困難にしていることが示された.アルツハイマー型認知症末期の仮想症例について,胃ろうあるいは経鼻チューブによる経管栄養法の導入を選択した医師は3分の1であったが,医療者と患者家族が十分話し合った結果であれば,末梢点滴を行いながら看取ることは可能な選択肢であると考えている医師は全体の約9割に上ることが示された.
著者
鳥羽 研二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.177-180, 2005-03-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
6
被引用文献数
13 16
著者
小林 祥泰 山口 修平 山下 一也 小出 博巳 卜蔵 浩和 土谷 治久 飯島 献一 今岡 かおる
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.22-26, 1996-01-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

社会的活動性と脳の老化の関係を明らかにする目的で, 社会的環境の異なる地域在住健常高齢者61名 (老人ホーム在住高齢者21名 (平均77.6歳), 地域在住老人会員40名 (平均76.7歳) を対象に, 老研式活動能力指標, 岡部式簡易知的尺度, Kohs' Block Design Test, Zung's self-rating Depression Scale (SDS), up & go 時間, 局所脳血流, 頭部MRI検査を施行し両群間の比較を行った. 結果: 高血圧などの脳卒中の危険因子については両群間に有意差を認めず, 脳MRI所見でも潜在性脳梗塞, 白質障害, 脳萎縮共に両群間で差を認めなかった. 全脳平均脳血流量も両群間で有意差を認めなかったが, 老研式活動能力指標では老人会群で有意に活動性が高かった. 岡部スコアおよび Kohs' IQは老人会群で有意に高値であった. また, SDSスコアが老人ホーム群で有意に高値であり, うつ状態の傾向にあることが示された. 運動能力に関する指標である up & go 時間は, 老人会群で有意に短かった. 結論: 脳卒中などの脳疾患既往のない健常高齢者において, 脳卒中の危険因子やMRI上の潜在性動脈硬化性脳病変に差がない場合, 社会的環境, ライフスタイルの差が脳の老化に対して大きな影響を与えていることが示唆された.
著者
武井 卓
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.338-344, 2018-07-25 (Released:2018-08-18)
参考文献数
11
被引用文献数
1

加齢により腎の形態は縮小し,機能は低下する.形態変化の原因は動脈硬化性変化,アポトーシスなどによる老性萎縮で,それに伴い機能の低下が生じるが,体液組成や循環動態の変化も影響する.腎機能を正確に把握するためには糸球体濾過量を実測することが必要であるが日常臨床では煩雑なためクレアチニンによる推定糸球体濾過量(eGFR)(mL/min/1.73 m2)を指標としている.しかし高齢者では筋肉量が低下し体格が小さくなり過大評価となるため体表面積補正を行わない値やシスタチンCを用いたeGFRが推奨されている.腎予備力が低下しており,水分や薬剤の影響を受けやすく注意が必要である.水分過多の場合,尿濃縮力の低下から夜尿症を引き起こしやすく,水分摂取不足の場合,容易に脱水を生じ熱中症となる危険性がある.
著者
栗田 明 品川 直介 小谷 英太郎 岩原 真一郎 高瀬 凡平 草間 芳樹 新 博次
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.336-343, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

目的:2年前の本誌に我々の超高齢者の看取りケアについて報告した.時間の経過とともに症例も増加しているので,その後の経緯と常勤医の立場から特養における医師の役割について私見を述べる.対象および方法:平成20年2月1日から平成23年6月下旬までの間に看取りケアを実施した7例(101.5±4歳,女)と当施設に入所中に病院に入院加療を要請した98歳未満の130例(87±6.5歳,男/女:42/88)及び同時期に入院加療を要請した98歳以上の12例(101.8±7歳,男/女:2/10)である.結果:看取りケアを実施した7例中4例は480±297日で死亡した.現在3例に看取りケアを実施中である(805±662日).入院加療を依頼し当施設へ帰所出来た症例は93例(71.5%,86.7±10歳,男/女:27/66)で,死亡退所例は37例(28.5%,86.4±11歳,男/女:15/22)であった.生存退所例は誤嚥性肺炎についで消化器疾患が多かったが,死亡退所例は誤嚥性肺炎についで心不全が多かった(p<0.05).98歳以上で看取りケアにエントリーしない症例は15例で,12例は入院加療が必要になった.死亡退所例は9例(75%)で,98歳未満の入院症例に比べて多かった.103歳の左乳がん例に摘出術を行い成功し3日後に退院出来た.しかし看取りケア開始90日後に死亡した.当施設の入院加療しない入所者の死亡率は15.3%で全国平均の37.2%に比べて低かった(p<0.01).総括:特養で看取りケアをスムースに行うには病診連携と職員の日頃からの医学的な知識の蓄積が重要である.特養に勤務する医師はこれらの諸点に留意しながら職員の研修や指導を行いながら終末期ケアに取り組むことが肝要である.
著者
成瀬 信子 小川 安朗 藤田 拓男 折茂 肇 大畑 雅洋 岡野 一年 吉川 政己
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.5, no.6, pp.487-490, 1968-11-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
10

2才から91才にいたる81人の健康男子の毛髪を5才ごとに区切り, 各群5人を選び, 1人5本の試料について, 洗浄後, 蒸留水で十分湿潤し, テンシロンIII型万能引張り試験器で切断荷重, 切断伸長率, 切断仕事量および立ち上りのヤング率を測定した. 毛髪の直径は60~140μの間に分布し, 15才前後をピークとして, 以後加齢とともに漸減の傾向を示し, 二次曲線, または, 15才ごろまでは上昇以後下降する2本の直線の合成として表現される. 年齢と切断荷重, 年齢と切断仕事量の推移もほぼ同様である. これに反し, ヤング率は, 20才ごろまでは減少し, 以後加齢とともに徐々に上昇する二次曲線への回帰が統計的に有意である. 加齢の指標の一つとして, 毛髪の物理的性状の研究は有用である.
著者
長永 真明 大西 丈二 梅垣 宏行 葛谷 雅文
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.321-326, 2020-07-25 (Released:2020-09-04)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

IgG4関連疾患は高齢男性に多く,自己免疫異常や血中IgG4高値に加え,全身諸臓器の腫大や結節・肥厚性病変などを認める原因不明の疾患である.IgG4関連疾患ではしばしばリンパ節腫大を伴うが,臨床的に悪性リンパ腫との鑑別が求められる.今回我々はIgG4関連疾患に悪性リンパ腫を合併した超高齢者の症例を経験したので報告する.症例は85歳男性.X-6年に自己免疫性膵炎を指摘されていた.X-1年10月にIgG4関連下垂体炎と診断され,続発性副腎不全に対する補充療法としてヒドロコルチゾンが開始となった.X年2月に中枢性尿崩症を併発したためデスモプレシンが追加となった.X年11月発熱に加え,弾性硬で可動性のある圧痛のない全身性リンパ節腫脹を認めたため入院となった.入院後右腋窩リンパ節生検を施行し,病理所見よりびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断した.年齢やPerformance Statusなどを考慮した結果,積極的治療は行わず,症状緩和目的でのステロイド投与の方針となり,入院55日目転院となった.悪性リンパ腫とIgG4関連リンパ節症との鑑別は臨床経過,病理所見,血中IgG4値などの検査データ,他臓器病変の有無などを元に総合的に判断する必要がある.今までのIgG4関連疾患に悪性リンパ腫を合併した症例は概ね60~70歳台であり,本症例の85歳での報告は最高齢である.しかしIgG4関連疾患,悪性リンパ腫共に高齢者に多い疾患であり,一般内科医や老年内科医として知識を深めておく必要があると考えられる.