著者
伊藤 久美子
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.3-15, 2004-03-01
被引用文献数
16

色彩感情の観点から、2色配色の配色効果を追究した。ファッション関係で使われる10尺度について、各10色相から、同一色相配色を系統的に選び、合計70配色について、OsgoodのSD法を用いて、41名の女子短大生に配色効果を評価させ検討した。大山の用いた多重回帰分析法を、9尺度の配色効果の分析に適用した。全般的に、決定係数は大きく、その回帰式はよく適合した。配色の評価は、単色の評価に大きく依存した。「調和」尺度については、明度差1〜3と彩度差2〜8を共に満たす配色が、ほぼよい調和であると評価された。色相環のうち、寒色の青を中心とした色相で調和しやすく、暖色の橙を中心とした色相で調和しにくいことがわかった。
著者
高橋 晋也 羽成 隆司
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.14-23, 2005-03-01
被引用文献数
10

色嗜好を心理学的に位置付け、明らかにするためには、「何色が好まれるか」といった色視点の研究だけでなく、「どのように色を捉えるか」といった人視点の研究が必要である。本研究では、色嗜好における人(主体)要因の重要性を示すことを目的として、認知的操作の有無による個人内の色嗜好の変動性を分析した。260名の被験者に対し、4週間を挟み2度の色嗜好調査を実施した。色嗜好の測定は、色名で呈示される12色に対し、visual analog scale (VAS)上でそれぞれの好嫌度を答えさせる方法で行った。2度目の調査時に被験者は2群に分けられ、統制群は1度目と同じ色嗜好調査を繰り返したが、実験群の被験者に対しては色嗜好調査の前に、特定の色の好嫌を強く意識させるという認知課題が与えられた。2度の調査間における色嗜好の個人内変動を群間で比較したところ、12色に対するVAS評定平均値の変化量や、評定結果の順位相関には差がなかったが、好嫌のばらつきの指標となる標準偏差変化量において有意な群間差が認められ、実験群の方が統制群よりも好嫌のばらつきが増大することが示された。この結果は、認知課題を行った実験群の被験者が、"好き/嫌い"という対立的な認知図式を活性化した状態で12色の評定を行ったためと考えられ、色嗜好表出過程における認知処理の影響の大きさが明らかにされた。また、このような実験群のデータ変動(好嫌のばらつきの増大)は、12色に対する最高評定値の上昇より、むしろ最低評定値の低下として顕著にあらわれており、個々人の"色嗜好スキーマ"における「嫌いな色」の位置付けの重要性が示唆された。これらの実験結果に基づき、色嗜好における主体要因(トップダウン要因)の重要性が議論され、さらに、人視点で色嗜好にアプローチする際の具体的測定手続きとして、従来型の色選択法にはないVAS測定の有効性が主張された。
著者
田辺 弘子 杉本 賢司
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.220-231, 2005-09-01

タージ・マハルは、ムガール帝国時代に5代皇帝シャー・ジャハーンによって建設された霊廟で、1632年から毎日2万人が働き20年の歳月をかけて完成した。この建物はインド・イスラム建築の最高峰のデザインでウッタルプラデシュ州アーグラに位置する。世界遺産のなかでも美しさの点でこれほど抜きん出ている建物はなく、貴石象嵌と赤色砂岩および白大理石を使用した建物は、皇帝の王妃であるムムターズ・マハルのために建造された。国の財力を注ぎ込みすぎた王は、幽閉され亡くなったのちに王妃とともにタージ・マハル廟に祭られた経緯をもつ。皇帝は、タージ・マハル廟が完成後にヤムナ川を挟んだ対岸まで橋をかけ、自分のために同じ形の霊廟を黒大理石で造り二つの霊廟を橋でつなぐ壮大な計画をもっていた。本研究はタージ・マハル廟の白色大理石、赤色砂岩、宝石象嵌、ラコウリー・イートン煉瓦、白色目地などタージ・マハル廟の古代建築と色彩について検討したものである。さらに、この結果を踏まえて、新たに大理石を変色させない高度な吸水切断法を世界に先駆けて確立し、複雑な象嵌を高出力レーザーでつくり巨大な壁画を制作した。
著者
盛田 真千子 香川 幸子
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.206-218, 1990-03-10
被引用文献数
5

慣用色名は時代差, 世代間差, 生活環境などの影響を受け, 同一色名でも色差が生じたり認識できなくなるという問題点がある。本研究は今日の社会で慣用色名がどのような色域で認識されているのか, また, その認識に影響を及ぼす諸要因について, 女子学生を対象にした調査から検討した。調査は JIS Z 8102から選出した105語の慣用色名に対し, 提示した色票 (153色) から該当する色票を抽出する方法で行った。その結果, 認識されている色名 (66.7%), あいまいな色名 (16.2%), 認識されない色名 (17.1%) に大別できた。また, 認識されている色名の反応色域を JIS 値と比較した結果, やや異なった色域に反応を示したものが11.4%あり, これらは主に JIS 値より高彩度に反応する傾向がみられた。同時に行った生活意識調査 (18項目) の因子分析結果では8因子が抽出された。各因子に対する被調査者の因子得点差から, 色名の認識に与える影響を調べたが, 顕著な差は認められなかった。顔料に用いられる色名やパッケージの色は, 慣用色名の認識に影響を与える要因と考えられる。調査結果でも反応色は顔料の色名の色と一致し, また, 本来の色より彩度が誇張されるパッケージの色に反応する傾向がみられた。一方, 記憶色として暖色系は寒色系より覚えがよいとされるが, 今回の結果においても暖色系の色名は認識されやすい傾向があった。
著者
小松 史枝 近江 源太郎
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.85-93, 2007-06-01

俳句の季語約17000語について、色彩語の用いられ方を分析した。俳句は日本の伝統的な詩歌の形式であるが、今日も広く普及している。したがって、季語に含まれる色彩譜の用法をとおして、現代にも継承されている伝統的な日本語における色彩語の特徴を知り得る、と考えたからである。季語のうち、広義の色彩語を含むものは約12.7%にのぼる。しかし、色を直接指示するとみられるものは約0.3%であった。また、季節別では夏に多く、冬や新年には少ない。部類別では、植物が多く、時候に少ない。色彩語の種類は90語であったが、そのうち色相別ではred、yellow greenが多く、blue green、red purpleが少ない。トーン別では、あざやかなトーン、うすいトーン、およびくすんだトーンの3系統に集約される。また、Kay & McDanielの基本色彩語理論にあてはめると、次のような特徴が指摘できる。根源色カテゴリが多く、派生色カテゴリは少ない。ただし、前者のうち「青」の約70%がgreenを指しており、grueの存在は季語においても確認された。また、派生色カテゴリのうち、 brownに相当する「茶」はかなり出現するけれども飲料としての茶にかかわって用いられており、orangeに相当する「橙」も同様に果実を指示したもののみである。したがって、この2語はBerlin & Kayの基本色彩語基準のひとつである「使用頻度が高く一般的」には該当しないといえる。
著者
井上 征矢 山本 早里 三井 秀樹
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.100-112, 2003-06-01
被引用文献数
1

幾何学的抽象絵画において縁辺対比の効果が強く見える主なパターンとしては、「Hermann grid」、「グラデーション」、「色の面積比の変化」、「ストライプにおける色ずれ」などが挙げられる。これらは明度差によって作成した場合に最も強い縁辺対比を生むことが知られており、絵画やデザインなどの視覚表現にも頻繁に応用されているが、色相差、彩度差による効果に関する知見は少ない。そこで本研究では彩度差による縁辺対比に注目し、実験を通じてその特性を探ったところ、以下のような傾向が得られた。1)彩度差による縁辺対比は、「グラデーション」や「色の面積比の変化」では色相に関わらず効果が見えやすいが、「Hermann grid」では比較的効果か弱く、見えにくい。2)各パターンともに色相によって効果の強度に差があり、赤で強く、縁で弱い。3)「Hermann grid」や「ストライプにおける色ずれ」を彩度差で作成する場合、明度差で作成する場合よりも、線幅やストライプ幅をやや広くした方が効果が見えやすい。
著者
山田 雅子 齋藤 美穂
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.233-244, 2004-12-01
参考文献数
20
被引用文献数
3

ジエンダーステレオタイプとして、「女性は色白」「男性は色黒」という意識が依然根付いている。本研究では形態情報と色彩情報に着目し、各情報と性別判断との関係性、性別判断方略の発達的な変化を検討した。顔パタン2種(男性平均顔/男女平均顔)、肌色2種(色白肌/色黒肌)、唇色2種(唇色なし/薄紅)によって構成された計8刺激を設け、それぞれに対し男女の判断を行なわせた。対象者は、幼児、小学生及び大学生の男女とした。一般的に結び付けられるように、色白肌は女性、色黒肌は男性としての判断を促進する傾向が見られた。しかし、形態情報と色彩情報とは互いに作用の前提条件として影響していることが窺われ、例えぼ形態が男性的で唇に色みがない場合には前述の肌色の作用が見られないなど、条件毎の傾向も捉えられた。また、発達的には就学前後より色彩情報の参照が先んじてみられ、形態による性別判断の変化は8歳以降の段階でより安定する傾向が見られた。更に判断傾向の発達的変化は女性の方がより明確であり、発達と共に色白の肌、女性的な形態と女性判断との繋がりが強まることが示唆された。これらの傾向より、顔に対する視覚経験の質が男女で不均等であることが推測される。