著者
髙橋 由紀子
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.3-18, 2020-05-01 (Released:2020-06-10)
参考文献数
78

陸地面積の3割を占める森林は,生物多様性保全機能や土壌保全・水源涵養機能等の多面的機能を有する.これらの生態系サービスを享受するには多様で持続可能な森林管理が必要であり,病害虫による森林劣化は解決すべき重要な課題の一つである.特に植物病害の病原微生物は菌類がその3/4以上を占めることから,病原菌の防除が健全で持続的な森林管理上必要とされる.病害虫による被害を抑えるための手段として,従来は薬剤散布による化学的防除が用いられてきたが,環境汚染や生態系攪乱への配慮から,近年はあらゆる防除手法を組み合わせ,被害を低減させる総合的病害管理の手法へと移りつつある.森林の主たる構成要素である樹木においては,農作物とは異なり永年生で個体サイズも大きく,また自然条件下にあるため管理が複雑で難しい.環境負荷の少ない生態的病害管理による防除方法を確立するためには,病原菌の生態的特性の理解が不可欠である.本稿では,樹木病原菌の生態的特性の総合的な理解のために行われた,分類・系統学,解剖病理学,分子生態学に関する研究を紹介した.
著者
富樫 巌 大谷 和也 安東 敬史 細川 芽衣 曽我 瞳 幸田 有以
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.93-98, 2016-11-01 (Released:2016-12-23)
参考文献数
13

グルコースやマルトースの40% (w/w) 水溶液などを凍結保護液とし,シイタケ 6 菌株の−20°C での凍結保存の検討,保存種菌の差異 (寒天培地を含む菌体ディスク,菌糸のみの菌体ペレット) の影響評価を行った.その結果,供試菌株 ANCT-05072 で菌体ディスクとマルトースの組合せが優れ,生存率100%が維持された凍結保存期間が8 週間に達した.菌体ペレットでは生存率100%に至らず,菌株・保存用種菌における寒天培地の有無・糖液 (種類と濃度) の組合せが保存菌株の生存率と生存期間を支配すること分かった.
著者
牧野 純 中束 賢譲 根津 郁実 石栗 太 中澤 武
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.41-55, 2023-11-01 (Released:2023-12-02)
参考文献数
32

わが国の『環境省レッドリスト2020』において,絶滅危惧種Ⅱ類(VU)にランクされているキリノミタケChorioactis geasterの保全を目的に,本種の菌糸成長と木材腐朽の特性を明らかにするとともに,原木栽培における子実体発生を試みた.その結果,菌糸はPDA培地において4℃から38℃までの範囲で生育し,その適温は30℃付近にみられた.木材腐朽に関与する環境要因等の影響は,線形混合効果モデルを用いて解析した.モデル選択の結果により,材の質量減少率は,樹種,培養温度,培養期間によって,また,ほだ木の材密度は栽培期間によって影響されることが示された.原木栽培においては,接種7年目の秋,イチイガシQuercus gilva のほだ木から最初の子実体が発生し,その時点における辺材の材密度は約0.62 g/cm3,質量減少率は約15%であった.子実体はその後も発生し,一部は裂開して子実層を裸出した.キリノミタケの原木栽培は,生息域外における有効な保全手法となる可能性が示唆された.
著者
ワトリング ロイ
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.jjom.H09-169, 1998 (Released:2023-03-31)
参考文献数
34

菌学の歴史におけるアマチュアの役割は,まず食物としてのきのこ採集に始まり,それが現在の活動に繋がっていることをたどってみました.そしてここでは特に,18世紀から19世紀及び今世紀前半にかけて,もっぱら菌類だけを研究したアマチュア,あるいは広く博物学の一環として菌類を研究したアマチュアの中で,最も重要な役割を果たした人々に注目しました.そして,それらの人々が菌学の発展にどのような影響を与えたかをお話ししました.私たちが日常的に使っている菌類の学名には命名者の名前が付記されていますが,それらの多くがアマチュアであることは忘れられがちです.これらアマチュアの本職が何であったのか,彼らがどのような情報交換の網をひろげていたのかなどを紹介し,それらが生き物としての菌類の全体像を把握するのにどのように役立ったかをお話ししました.さらに,菌学会の設立と,それがどのようにしてアマチュア活動の中心となったか,また,どのようにしてプロの菌学者に必要な正確でよく整理された情報の源になったのかを考えてみました.私がここでお話ししたアマチュアたちが手がけた仕事は,1996年に100周年を祝った英国菌学会の活動を例としております. 西暦2000年の歴史の区切りを目前にした世界のいたるところで,これらアマチュアとそれに類する人たちが引き続きおこなっている仕事について述べました.多くの政府機関やそれらの顧問,とくに有力者は,分類学は先端的な研究ではないと勘違いしていますが,私はアマチュアたちは国家的に重要かつ必要な資源であることを強調したいと思います.さらに,アマチュアはこれから知識の保持者としてますます重要な役割を果たすであろうこと―少なくとも科学に対する現在の誤った風潮が改善されるまで―を強調したいと思います.
著者
吉見 昭一
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.jjom.H13-03, 2002 (Released:2020-10-13)
参考文献数
35

Twelve species and one unpublished species of Scleroderma have been recognized from Japan. A taxomic key is presented here based mainly on spore characters.
著者
犀川 政稔
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.jjom.H22-03, 2011-05-01 (Released:2018-03-30)
参考文献数
57

ゾウパーゲ科とコクロネマ科菌類の分生子および接合胞子の形成と発芽について述べ,この2科の11属99種と5変種を識別するための検索表を示した.これらの観察法についても簡単に述べた.
著者
丸山 厚吉 堀 清鷹 村上 哲明
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
pp.jjom.H29-03, (Released:2017-11-18)

ハラタケ科のいわゆる Lepiota 類に属する日本では未報告の Macrolepiota mastoidea を東京都・山梨県・神奈川県で,Echinoderma echinaceum を山梨県富士山麓で採集し,核rDNA のITS 領域を用いた分子系統解析,形態的特徴の記載と図を添えて報告した.和名としてそれぞれトガリカラカサタケ,コオニタケを提案した.
著者
糟谷 大河 中島 結里乃 河原 栄 保坂 健太郎
出版者
The Mycological Society of Japan
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.15-21, 2023-05-01 (Released:2023-07-22)
参考文献数
23

日本新産種Bryoperdon acuminatum(モリノコダマタケ,新称)を,形態的特徴の記載と図を添えて報告した.子実体が小型,卵形~円錐形で無性基部を欠く点,担子胞子がほぼ平滑~わずかに疣状突起に覆われる点,外皮の刺が球形,類球形,卵形あるいは棍棒形の偽柔組織からなる点が本菌の特徴である.核rDNA塩基配列の分子系統解析により,日本およびヨーロッパ産B. acuminatumの同一性が支持された.
著者
大前 宗之 山本 航平 折原 貴道
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.27-32, 2020-05-01 (Released:2020-06-10)
参考文献数
25
被引用文献数
1

茨城県の照葉樹林より,日本新産種Microstoma apiculosporum(新称:テンガイキツネノサカズキ)を報告した.本種は胞子の両端に半球状の突起を有するという,本属菌の中で特異な形態により特徴づけられ,これまで基準産地である台湾中部にのみ分布が確認されていた.本報では,生体分類法や化学反応に基づき,従来報告されていない特徴を含んだ本種の形態について記載した.
著者
糟谷 大河 丸山 隆史 保坂 健太郎
出版者
The Mycological Society of Japan
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.5-15, 2022-05-01 (Released:2022-07-07)
参考文献数
31

日本新産の2種のザラミノシメジ属菌,Melanoleuca alboflavida(アシボソザラミノシメジ,新称)およびM. griseobrunnea(ネズミザラミノシメジ,新称)を,形態的特徴の記載と図を添えて報告した.細長く直立し,軟骨質で白色を帯びる柄と,フラスコ形から紡錘形の側シスチジアおよび縁シスチジアがM. alboflavidaを特徴づける形質である.一方,M. griseobrunneaはかさが淡灰褐色を帯びる点,柄の基部の肉が淡灰色から褐色を帯びる点,そして縁シスチジアが長首フラスコ形で結晶を有する点により特徴づけられる.核rDNAのITS領域を用いた分子系統解析により,これら2種の同定結果が支持されたとともに,M. alboflavida はMelanoleuca亜属に,M. griseobrunneaはUrticocystis亜属に位置することが示された.
著者
糟谷 大河 塙 祥太 保坂 健太郎
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.jjom.H26-10, 2015-11-01 (Released:2018-01-27)
参考文献数
23

日本新産のホウライタケ型きのこ,Crinipellis dipterocarpi f. cinnamomea (新称:シナモンニセホウライタケ) について,千葉県の照葉樹林内地上のタブノキおよびスダジイの落葉落枝上より採集された標本に基づき,形態的特徴の記載と図を添えて報告した.核rDNA のITS 領域を用いた分子系統解析の結果,日本,タイ,インドネシアおよびマレーシア産のC. dipterocarpi f. cinnamomea は最節約法のブートストラップ値で強く支持される同一のクレードに位置した.この解析により,日本および東南アジア産のC. dipterocarpi f. cinnamomea は同一の分類群であることが支持された.
著者
常盤 俊之 広瀬 大 野中 健一 石崎 孝之 廣岡 裕吏
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.jjom.H30-01, 2018-05-01 (Released:2018-06-09)
参考文献数
14

ボタンタケ科子嚢菌類,Hypomyces tremellicola ならびにSphaerostilbella micropori を本邦より採集分離し,形態的特徴を記載した.この2 種は日本新産種であり,S.micropori は原産地以外からの初報告である.
著者
糟谷 大河 保坂 健太郎
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
pp.jjom.H29-01, (Released:2017-05-31)

日本新産のチャツムタケ属菌,Gymnopilus decipiens (ヤケノヒメチャツムタケ),について,北海道で採集された標本に基づき,形態的特徴の記載と図を添えて報告した.北海道産 G. decipiens は火山性ガスを含む高温の水蒸気が噴出する噴気孔周辺に発生し,子実体は小型で温和な味であることが特徴である.分子系統解析の結果, 日本産標本の核 rDNA の ITS 領域は,ロシア( ヤクーツク) 産 G. decipiens のものと完全に一致する塩基配列を有し,本菌がシベリアから北海道の亜寒帯にかけて連続的に分布することが示された.
著者
山岡 裕一 岡根 泉
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.15-21, 2019-05-24 (Released:2019-07-11)
参考文献数
20
被引用文献数
1

Melampsora idesiae は,イイギリ(Idesia polycarpa)に寄生し夏胞子・冬胞子世代を経過するが,精子・さび胞子世代は不明であった.本菌の冬胞子堆が多数形成されたイイギリ落葉に隣接するムラサキケマン(Corydalis incisa)上でcaeoma型のさび胞子堆を確認した.ムラサキケマン上のさび胞子とイイギリ上の冬胞子を発芽させて得た担子胞子を用いた接種試験の結果,M. idesiae がムラサキケマンを精子・さび胞子世代宿主として異種寄生していることを明らかにした.
著者
常盤 俊之 広瀬 大 野中 健一 三川 隆
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.5-14, 2023-05-01 (Released:2023-07-22)
参考文献数
45

日本産多孔菌類子実体に寄生するCladobotryum属菌を調査した結果,日本新産種であるC. arthrobotryoidesならびにC. caribense, C. protrusumを報告した.Cladobotryum arthrobotryoidesは,小歯状に発達した分生子形成細胞からシンポジオ状に単生する2隔壁の分生子が特徴的である.Cladobotryum caribenseは長連鎖性で釣鐘型の分生子を形成する.Cladobotryum protrusumは,分生子形成細胞は出芽型,分生子が淡緑性の色調を特徴とする赤色色素産生菌である.
著者
奥沢 康正
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3-4, pp.jjom.H13-105, 2002 (Released:2020-10-13)
参考文献数
21

Japan has a long history, dating back to the Nara Period, in which nobility and common people have used mushrooms as medicine and food. Here I report a survey of articles about mushrooms appearing in herbal and history books, novels, diaries of the court nobles, and temples records. I record the names and uses of edible mushrooms and poisonous mushrooms. Some antidotal methods found in herbal and medical books of the Edo Period are described and discussed.
著者
小林 久泰
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.jjom.H15-43, 2004 (Released:2020-10-01)
参考文献数
12

Taxonomy and mycorrhizal status of Japanese entlomatoid fungi associated with rosaceous and ulmaceous plants were studied. Entoloma saepium and E. clypeatum f. hybridum were newly recorded from Japan. Entolomatoid fungi were not ectomycorrhizal. Transmission electron microscopy of the mycorrhizas suggested destructive infection of the fungal hyphae to the root cells and their collapse near the tip of the stele.
著者
常盤 俊之 内田 有紀 奥田 徹
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.jjom.H26-02, 2015-05-01 (Released:2018-01-27)
参考文献数
19

盤菌類寄生性のStephanoma strigosum とMycogone cervina のテレオモルフ,Hypomyces stephanomatis とH. cervinigenus を日本新産として報告した.同定は分子系統学的手法により確認した.H. cervinigenus の子嚢胞子を培地上で発芽させ,Mycogone アナモルフを初めて確認した.
著者
北林 慶子 都野 展子 保坂 健太郎 矢口 行雄
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.69-76, 2016-05-01 (Released:2016-08-17)
参考文献数
28

双翅目幼虫は子実体内に多数かつ頻繁に観察されるがその生態は,ほとんど研究されておらず,双翅目幼虫は胞子散布者として機能し得るか否か不明である.本研究では,ハラタケ型子実体内部に生息する双翅目幼虫の生態について,幼虫の子実体内部での摂食対象組織と幼虫による消化が胞子に与える影響を消化管内胞子の外部形態を詳細に観察することによって調べた.ハラタケ亜門4目16科23属114個の子実体から幼虫を3798個体採集した.解剖した幼虫172個体のうち,103個体の消化管内に胞子が存在した.顕微鏡下で消化管内胞子の外部形態に変化は確認されず,トリパンブルー染色においても,対照群胞子より消化管内胞子は6~11%損傷率が高かったが80%程度の胞子は無傷であった.以上より,双翅目昆虫の幼虫による子実体中での胞子摂食が高頻度で起きていること,幼虫の消化管内の胞子の多くはほとんど物理的損傷を受けていないことが示された.