著者
魚里 博
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.61-66, 2006-08-31 (Released:2009-10-29)
参考文献数
9
被引用文献数
1

視力や屈折などの視機能の測定は、眼科検査の最初の必須項目であるが、その評価手順は簡単ではなく生理学的および心理学的な多くの要因の相互作用も要求される。瞳孔径はこのような屈折や視力などの視機能検査に関係する重要な因子であるが、その効果は複雑である。我々は瞳孔径や収差が両眼視下や単眼視下の視機能検査に及ぼす影響を検討した。視力やコントラスト感度測定中における瞳孔径を経時的に連続測定した。収差測定はOPD-Scanにより行い、得られたゼルニケ係数をSchweigerling法により両眼視下あるいは単眼視下の瞳孔径に合わせた径で再計算した。両眼視下のコントラスト感度(logCS)は単眼視下のものより有意に高い感度を得た。両眼視下の視力は単眼視下より有意に良好であった。平均瞳孔径は両眼視下で単眼視下よりも有意に小さかった。瞳孔径が減少するに従い、光学収差は有意に増加した。このことは、単眼から両眼への瞳孔径の減少(縮瞳)は、眼球光学系の光学収差を減少させ、ひいては自覚的な視機能を改善するのに貢献していると考えられた。単眼視から両眼視下あるいはその逆に伴う瞳孔径の変化は、日常臨床における各種視機能検査へ重要な影響を与えることを常に考慮すべきである。
著者
榊原 七重
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.41-49, 2013 (Released:2014-03-13)
参考文献数
37

眼は、成長発達、さらに加齢により変化する。臨床経過観察において基準となる屈折経年変化の正常データは重要である。今回、ほとんどのデータは古いものであったが、各種の検査で得られている生体計測データはなお有益である。そこで、これらの屈折要素について文献をレビューし、屈折経年変化について考察し、その特徴を明らかにしようと試みた。 屈折状態は、主な屈折要素である角膜、水晶体、眼軸長により形作られる。 角膜屈折力は、新生児で最も強く、4~9歳までに成人と同程度まで減少する。水晶体は生涯を通して変化するが、新生児は老年期の2倍の厚さと屈折力を持つ。眼軸はその成長に3つの段階があり、18か月までに急激に、その後5歳まではややゆるやかに、その後さらにゆるやかに13歳頃まで伸展し近視化し、それ以降の伸びはほとんど無い。これら角膜屈折力、水晶体屈折力、眼軸長を基に、SRK式を用い、各屈折要素から全屈折力を算出すると、2歳以降に近視化することが示されたが、同時に9歳までは遠視化する可能性が考えられた。 屈折は、生直後は遠視にピークを持つ正規分布であると報告されているが、学童期は正視、中高生においては正視と近視にその分布は集中化する。遺伝因子、環境因子などによって屈折の変化には個人差があり、屈折分布には世代間差があることが知られている。これらのことから、今後日々の臨床において、正確でその時代にあったデータの収集を行いつつその利用が必要であると考えられた。
著者
深井 小久子
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.49-61, 1998-07-10 (Released:2009-10-29)
参考文献数
32
被引用文献数
3 3

1.視能矯正ニーズの変遷視能矯正は小児の弱視と斜視が主要対象であったが,早期発見と予防・治療の進歩で,重篤な弱視や斜視の感覚運動異常は減少した.1993年には,視能訓練士法に検査業務が明確化され,視能検査が拡充した.21世紀を間近にして視能矯正の社会的ニーズは,乳幼児の健診,成人病検診,リハビリテーション(眼球運動障害),ハビリテーション(Low Vision),高次脳機能(学習障害,重複障害等)の領野に発展がある。本報では高齢社会でニーズが高まっている「後天性眼球運動障害の視能訓練」を報告する.2.どんな後天性眼球運動障害が増加したか23年間の後天性眼球運動障害の視能訓練数は296例であった。その発症原因は,外傷(頭部・眼)が第一位,次いで,炎症や脳血管障害があげられる。これは39歳以下と40歳以上でその頻度は異なる。前者は外傷(頭部・眼)によるものが第一位であり,後者では炎症,脳血管障害による眼球運動障害が増加している。3.教科書どおりの患者はいない後天性眼球運動障害は眼窩機械的,筋性,眼運動神経,核間などの障害で発症し,部位や程度により訓練の適応や効果が異なる。しかし,視能訓練をすすめる前提として「原因は何か」「どんな症状があるか」「何が不自由か」を分析し患者の実際的ニーズを知る。4.効果的な訓練法はなにか相反神経支配の異常と融像異常の状態から視能訓練プログラムを作成した。垂直偏位が水平より大きい場合は眼球運動訓練から輻湊,そして融像訓練にすすむと良好な結果が得られる。5.訓練により“治った”評価296例の結果は,治癒度Iは45%,治癒度IIは約44%であった。訓練の最終目標は,日常生活と社会復帰が“できる”満足度である.従って訓練により“治った”という基準には,日常生活での体験的な評価を含めたものが望ましい.融像の向上と日常生活の不自由度(満足度)の関係は必ずしも一致しなかった。6.視能訓練の社会的意義視能訓練は専門性が高い機能回復訓練であり,これにより社会復帰が可能なものは約88%ある。後天性眼球運動障害は外眼筋自己受容器系の障害であり,融像機能で視覚性と筋性の眼球位置覚を統合させ再建させることができる。この効果を具体的に示し,社会ニーズに応えていくことは,これからの視能矯正の発展につながる.
著者
山口 真美
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.1-8, 2010 (Released:2011-03-28)
参考文献数
31

その昔、生まれたばかりの新生児は眼が見えず、耳も聞こえないと信じられてきた。しかし数々の心理実験から、胎児の時から音を聞き、生まれた直後の新生児でも眼が見えることがわかっている。新生児のもつ、驚くべき能力の一つに、顔を見る能力がある。 1960年代Fantzにより、新生児が顔を選好することが発見された。言葉を喋ることのできない乳児の認識能力を調べるため、Fantzは行動を用いた実験手法である「選好注視法」を考案した。乳児は特定の図形に選好する傾向があることを示したその中で、顔図形への選好も発見されたのである。 視力の未発達な乳児は大人と全く同じように世界を見ているというわけではない。にもかかわらず、新生児でも顔を選好するということから、その特異な能力が検討されてきた。本講では、乳児を対象として行われた行動実験や、近年行われた近赤外線分光法(NIRS)を用いた実験の成果を紹介する。倒立顔の効果や顔向きの効果、運動情報による顔学習の促進効果や視線の錯視の認知といった、一連の実験成果について報告する。
著者
仲泊 聡
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.7-17, 2012 (Released:2013-03-15)
参考文献数
38

本稿では、視覚皮質の機能局在と日常生活動作の関係について述べる。まず、網膜から脳までの視覚伝達経路における神経回路について紹介する。その中で、脳における視覚の本質に対して異なる選択性をもつ、網膜神経節細胞のサブタイプ、視覚皮質の網膜部位再現と視覚経路について述べる。次に、我々の行った視覚障害者の日常生活動作の様々な局面に関してのアンケート調査から、1)対象認知、2)空間認知、3)精神への影響、4)眼球運動反射、5)順応と恒常性の5つの事柄が、QOV(視覚の質)に必要な本質であることについて述べる。そして、最後にこれらの5つの視覚の本質が、網膜神経節細胞のサブタイプに端を発する視覚皮質の局在に深い関係があるということについて論じる。
著者
野口 清子 生田 由美 久保田 伸枝
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.243-247, 2001-07-15 (Released:2009-10-29)
参考文献数
15

調節痙攣は、著明な近視化とそれに伴う輻湊が起こり、学童期の小児にみられることがある。原因は諸説挙げられるが、下垂体腫瘍などの器質的疾患が合併していることもあるため、その除外診断が優先される。今回我々は、視力低下と複視を主訴に来院し、初診時に行った屈折検査のためのサイプレジン®点眼により、複視が劇的に消失した1症例を経験した。当初これらの原因は、調節痙攣と考え、器質的疾患を否定した上で、各種調節検査を経時的に行った。その結果、両眼視下の調節検査と片眼での静的調節検査では、両者の結果に矛盾がみられた。また、静的調節検査で測定毎の検査結果にばらつきがみられたこと、視力検査でもトリック法に反応するなどの心因性の視覚障害と思わせるような結果が得られたこと、欲求不満や環境の変化がみられたことから、心因による一過性の調節痙攣ではないかと思われた。サイプレジン®点眼により複視が劇的に消失したことも心因が関係しているのではないかと考えた。本症例のような原因不明の調節痙攣や内斜視をみた場合、今までの経過や経験を基に、安易に心因性と考え検査や治療に取り組むべきではなく、まず原因の精査と鑑別すべき疾患との鑑別診断をしっかりと行った上で、器質的に何も異常が認められない場合は現症について対処していくべきであると思われた。
著者
瀬戸 寛子 大島 裕司 松田 由里 手島 由貴 村上 美智子 堀江 宏一郎 関 正佳 石橋 達朗
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.163-169, 2012 (Released:2013-03-15)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

【目的】米国American Medical Association(AMA)が推奨し、QOLと相関すると言われているFunctional Vision Score(FVS)を用いて本邦で視覚障害に認定されている患者の障害の程度をスコア化し、日本の障害等級とFVSを比較した。【対象および方法】対象は視覚障害に認定されている42例(1級8例、2級19例、3級6例、4級3例、5級6例)男性20例、女性22例である。 視力値からFunctional Acuity Score(FAS)、Goldmann視野からFunctional Field Score(FFS)を求めFVSを算出し、本邦の各障害等級とFVSを比較した。【結果】本邦の各障害等級に相当するFVSの値は1級0~19.9%、2級2.9~60.2%、3級6.9~62.1%、4級7.6~27.5%、5級11.9~74.4%であり、障害等級とFVS間には有意な相関が認められた。(Spearman順位相関係数 r=0.47、p=0.0014)また、AMA分類にあてはめるとclass 4(国際分類:ほぼ全視覚喪失)は1級6例、2級5例、3級1例、4級1例、5級1例、class 3b(極度視覚喪失)は1級2例、2級8例、3級4例、4級2例、5級1例、class 3a(重度視覚喪失)は2級3例、5級3例、class 2(中等度視覚喪失)は2級3例、3級1例、class 1(軽度視覚喪失)は5級1例、class 0(正常視覚)はすべての級で0例であった。【結論】日本の障害等級とFVSには相関がみられたが、日本の障害等級が同等であってもFVSの基準に従い分類した結果、異なるクラスに分類される症例があった。
著者
原 園江 須藤 聡子 長瀬 良子 橋本 哲也 柱 宗孝
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.157-162, 1990-12-31 (Released:2009-10-29)
参考文献数
8

心因性視力障害と思われる児童29人に,眼科的精査とY-Gテストを行い検討した.小学生では発症人数に性差は見られず,中学生は女児のみであった.視力障害は軽度で,自覚のない者が多く,視野はラセン状視野が59%を占めるが,正常視野も34%見られた.Y-Gテストでは,異常は無かった.視力低下に心因の関与が明確な者は41%と少なく,残りは原因となる環境因子が断定しにくく,視力低下が心因から起因していると思いにくい症例もあった.心因の関与が明確な者も,そうでない者も半数以上改善が見られるが,心因が明確な者の方が僅かに改善率が良い.我々は,精神科の専門教育を受けていないため,なかなか患児や家族から充分な情報を得ることが難しい.心因性の疾患が増加している今日,スタッフの教育を含む病院側の受け入れ態勢の検討が必要だと思われた.
著者
今井 小百合 高崎 裕子 三浦 由紀子 渡辺 好政
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.145-151, 2004-07-31 (Released:2009-10-29)
参考文献数
7

目的:開散麻痺は中枢神経系の器質的病変によるものとされているが、単独でおこることも多く、臨床上同様な症状を示す他の疾患と鑑別することは難しい。治療は複視の解消を目的に行われる。我々視能訓練士は臨床上プリズムを使用する頻度は高い。そこで開散麻痺が疑われた内斜視症例に対し行ったプリズム治療について報告する。対象及び方法:対象は過去5年間に開散麻痺様の内斜視を示した初診時年齢39歳から83歳の6例。内科および神経学的検査を行った後、眼位、眼球運動、両眼視機能、融像幅の検査をプリズムあるいは大型弱視鏡、Hess Chartプロジェクタを用いて行った。プリズム度数は遠見時の両眼性複視が解消する最小のものを求めた。最終来院時にはプリズム眼鏡装用による日常生活での自覚的な改善について調査した。結果:開散麻痺が疑われた遠見内斜視により自覚する両眼性複視を解消するためにプリズム治療を行った結果、4例ではプリズムは不要あるいは減少となった。プリズム眼鏡装用により、複視は全例で解消され日常生活の自覚症状は改善された。結論:前駆症状に頭痛があった2例は、早期にプリズム治療を開始できたこともあり遠見内斜視による両眼性複視は解決した。プリズム使用前には、事前の十分な説明と患者の要望に沿った装用練習が必要である。これらを行うことで高齢者でもプリズム眼鏡装用が可能となった。プリズムは日常生活の自覚症状を改善し、複視を解消する選択肢の1つであると確認できた。
著者
須田 和代 森 由美子 調 広子 大池 正勝 山本 節
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.151-158, 1992-11-20 (Released:2009-10-29)
参考文献数
24

従来,心因性視力障害患者の視野には管状視野・螺旋状視野・求心性狭窄等の特有なものが検出されることがあるとの報告がされているが,視野とは視覚感度の分布であるという定義に基づくと,その視野には矛盾する点がみられる。我々は心因性視力障害疑いの患者に対しても,本来の概念に基づいて視野検査を行ってきた。その結果,他院から異常視野として紹介された症例も含め,全例正常視野を得,他の器質的疾患を否定する一助に充分なり得た。特有な視野が心因性に限るものではないことから,心因性視力障害疑いの患者に対しては,その心因的要素を取り除くよう配慮し,可能な限り正確に診断できる検査結果を得るべく努力すべきであると考える。
著者
半田 知也
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.45-52, 2012 (Released:2013-03-15)
参考文献数
18
被引用文献数
2

アナログ映像からデジタル映像への技術進展、3次元(3D)映画の公開などを背景に、家庭用3Dテレビ、ゲームの発売、複数の放送局が3D番組放送を開始するなど、3D映像は映像文化として定着の兆しを見せ始めている。現在主流である二眼式3D映像は、2台のカメラで簡単に立体空間を再現できる反面、不適切な空間映像を作りやすく、生体安全性について懸念されている。近年の3D映像は、3D映像制作ガイドラインの準拠、映像編集における技術革新、小児に対する視聴制限などにより生体安全性を最大限考慮されて製作されている。しかしながら、3D映像の生体安全性の担保には視聴者の3D映像への理解及び3D映像の適切な視聴法が重要となる。両眼視機能の専門家である視能訓練士は、3D映像を含む映像技術に対する理解を深め、その効果と注意点を客観的に評価し、社会に啓発する必要がある。現在、3D映像は映像メディアとしてだけではなく、教育・医療応用が注目されている。特に3D映像技術そのものを応用できる眼科検査応用への展望が開けてきた。 本稿では3D映像の現状について概説し、視能訓練士の立場から3D映像の視機能への影響及び、3D映像技術の視機能検査・訓練応用について述べる。
著者
宮 友美 浅野 治子 児玉 州平
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.127-131, 2001-07-15 (Released:2009-10-29)
参考文献数
12

我々は、成長期の近視における眼軸長と屈折度の比較検討を行った。眼軸長は年齢と弱い相関を示した。屈折度は年齢と弱い相関を示した。眼軸長には性差があり、男性の眼軸長が女性の眼軸長よりも長い傾向が得られた。眼軸長は屈折度と強い相関を示した。弱度近視、中等度近視、高度近視の3段階に分類して検討を行ったところ、特に中等度近視において強い相関を示した。眼軸長は弱度近視、中等度近視、高度近視の順に近視の度数が増すほど有意差をもって延長が認められた。
著者
田中 絵理 小林 義治 小島 美里 大野 恵梨 松岡 久美子
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.157-163, 2015 (Released:2016-03-19)
参考文献数
18

【目的】光干渉断層計(optical coherence tomography以下OCT)を用いた上方視神経低形成(Superior segmental optic hypoplasia 以下 SSOH)の視野欠損部位に対応する網膜層構造の検討をすること。【対象と方法】SSOH4例6眼、正常10例20眼[それぞれ平均年齢20.3±1.2歳(平均値±標準偏差)、21.5±3.0歳、平均屈折(等価球面)-3.58±2.3D、-3.46±2.3D]を対象とした。spectral-domain OCTを用いて下方視野欠損部位に対応する上方網膜および上下対称である下方網膜を、中心窩を基点とし30度刻みで7.5mmのラインスキャンを施行した。検討項目は①SSOH群と正常群の神経線維層厚の比較、②SSOH群と正常群のその他網膜層厚(神経節細胞層+内網状層厚および内顆粒層~網膜色素上皮層厚)の比較とした。【結果】①SSOH群と正常群の神経線維層厚の比較では、上方においてSSOH群が正常群に対して有意に菲薄化していた。下方では有意差はみられなかったがSSOH群で薄い傾向にあった。②SSOH群の神経節細胞層+内網状層厚は正常群と比較し薄い傾向にあった。内顆粒層~網膜色素上皮層厚の比較では有意差はみられなかった。【結論】SSOH群の神経線維層の菲薄化は上方および下方に生じていた。神経線維層欠損部の外層の網膜厚に変化はみられなかった。また本測定法で強度近視に影響されず神経線維層欠損を確認することが可能であった。
著者
長谷部 佳世子 長谷川 明子 井口 敏子 大月 洋 渡邊 好政
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.115-118, 1994-12-31 (Released:2009-10-29)
参考文献数
3

眼精疲労の治療予後を左右すると思われる要因について検討するために,1990年1月から1992年12月の3年間に眼精疲労症状を主訴として当科を受診した215例を対象に,眼位ずれの有無で2群に分類し,初診時の年齢と他科領域の疾患を合併する割合を比較した.さらに,アンケートによる治療予後の追跡調査をおこなった.その結果,1.眼位ずれのない群では,眼位ずれのある群に比べて,40歳以上の者が有意に多く,他科領域の疾患を有する者も有意に多かった.2.眼位ずれのある群の方が,治療予後が良好であった.3.予後不良例では,肉体的・精神的ストレスを感じている例や,体調と眼の調子が関係あると感じている例が多かった.以上のことより,眼精疲労患者の治療においては,個々の症例の環境や他科領域の疾患に注意を払う必要があると思われる.
著者
岡 真由美 星原 徳子 河原 正明
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.13-20, 2020 (Released:2021-02-06)
参考文献数
15

超高齢社会において、加齢性斜視であるsagging eye syndrome(以下SES)が注目されている。本研究では、SESの鑑別疾患としてあげられる眼球運動神経麻痺との相違を検討し、画像診断の前に視能訓練士が行うべき病態分析と視能評価について述べた。1.年齢区分別の斜視の種類 年齢区分が高くなるほど共同性斜視が減少し、非共同性斜視(眼球運動障害を伴う斜視とする)が増加した。非共同性斜視のうち、年齢区分が高くなるにつれて増加傾向にあったのは滑車神経麻痺、SES、Parkinson 病関連疾患であった。2.SESと眼球運動神経麻痺における複視の発症様式 SESは滑車神経麻痺および外転神経麻痺よりも発症から初診までの期間が長く、複視の発症日が不明確であった。3.SESと眼球運動神経麻痺の眼位・眼球運動 内斜視を伴うSES は外転神経麻痺よりも斜視角が小さく、わずかな上斜視および回旋偏位を伴っていた。上斜視を伴うSESは下転眼に外回旋がみられた。滑車神経麻痺では健眼固視のとき外回旋が上転眼にみられたが、麻痺眼固視のとき一定の傾向がなく、両者を回旋眼で評価することは困難であることがわった。 高齢者の斜視ではSESおよびその合併例が多い。SESと眼球運動神経麻痺との区別は困難であることから、病歴聴取と患者の観察、回旋偏位の検出が有用であり、むき運動検査と合わせて総合的に評価することが重要である。
著者
高橋 弥生 筒井 健太 藤山 由紀子 清水 公也
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.159-163, 2006-08-31 (Released:2009-10-29)
参考文献数
8

非屈折性調節性内斜視の二重焦点眼鏡による治療はエグゼクティブ型眼鏡が一般的と言われる。我々は、二重焦点眼鏡のアイデアル型レンズを処方し、経過良好な1例を経験したので報告する。症例は現在6歳女児。初診時年齢3歳10か月。高AC/A比を認めたため、4歳8か月時に二重焦点眼鏡のエグゼクティブ型レンズを処方した。処方後、眼位の安定は得られたが、レンズが重いこともあり、下方にずれやすく眼鏡近用部を使いこなせなかった。そこで近用部をより使い易くする目的で、小玉径35mmのアイデアル型レンズを用い眼鏡を処方した。その後の眼鏡の装用状態は良好で視機能の改善がみられた。二重焦点眼鏡のアイデアル型レンズの使用は、非屈折性調節性内斜視の治療の1つになり得ると考えられた。
著者
今井 マユミ 三浦 永理 矢部 智紗 陳 志堂 鴨下 泉
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.74-78, 1993-12-31 (Released:2009-10-29)
参考文献数
6

近年糖尿病眼合併症が増加しており,糖尿病患者の視力測定時に,視力低下や,眼鏡が合わないと不安を抱く患者に接することが多い.屈折度変化を論じた報告では,高血糖により近視化となり血糖の改善とともに遠視化の方向をとるものが多いが,近視化したという報告も認められる.そこで今回著者らは,糖尿病教育入院をしたうちから98名を対象に,主に空腹時血糖値と屈折度を測定しその関連を検討した.結果は196眼中84眼(42.9%)に±0.5D以上の屈折度の変動を認め,変動を認めた84眼中56眼(66.7%)は退院時に遠視化を最高+2.125D呈していた.この遠視化の傾向は入院時に高血糖であり,しかも血糖低下幅の大きいものに高率に認められた.血糖調整時の視力矯正には屈折度の変動を念頭におき,眼鏡処方は慎重を期すとともに,患者にも屈折度の変動がおこることを説明し,安心させることが必要であると思われた.
著者
西脇 友紀 阿曽沼 早苗 小野 峰子 仲村 永江 田中 恵津子
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.277-285, 2014 (Released:2015-03-19)
参考文献数
9

【目的】視能訓練士の拡大鏡選定状況に関するアンケート調査の結果を報告する。【対象及び方法】2013年5月、ロービジョン(LV)対応医療機関に勤務している視能訓練士(日本LV学会員)を対象に拡大鏡選定に関するアンケートを郵送で行った。【結果】86名の視能訓練士から回答を得た。回答者の82.6%は、月あたり平均拡大鏡選定数が3つ以下であった。拡大鏡選定時に必要拡大率の計算・算定をしている者は72.1%で、視力値から計算する方法が最も多く用いられていた。方法を学んだ場所・機会について視能訓練士養成校と回答した割合は低く、養成校修了後に習得したと思われる回答が多かった。その方法を用いている理由の多くは効率性や正確性などで、計算・算定方法により違いがみられた。計算・算定をしていない場合の理由は「患者に任せている」との回答が多かった。計算・算定していると回答した者はほぼ全員が拡大鏡使用法の指導もしていると回答していた。【結論】LV対応医療機関に勤務している視能訓練士の拡大鏡選定状況の概要がわかった。現状では全体的に拡大鏡の選定数は少なかったが、今後、LVケアの需要は高まり視能訓練士が拡大鏡選定に携わる機会が増えることが予想される。視能訓練士はLVケアの主たる担い手として、その中核となる拡大鏡選定を適切に行えるように技術を高める必要がある。