著者
赤堀 雅幸
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:24240508)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.307-333, 1994-03-30 (Released:2018-03-27)

エジプトの西部砂漠地中海沿岸に居住するベドウィンは,祖先との関係が現在生きている人々の関係に反映され,それを整序すると見なす。父と子の間にたどられるアスル(起源)という概念に結集する祖先との関係性は,これまではしばしば「部族」組織と関連づけてとらえられてきた。しかしながら,父系出自集団への帰属は,祖先と自己を結び付ける仕方の一つにすぎず,ベドウィンたちがアスルを社会関係に繁栄する多様な方法の一部としてある。本稿はそうしたアスルの表現の形式を四つに分け,個人の名前への埋め込みと系図化,介在する祖先の網羅と特定の祖先の選出という観点から,たがいを対比して紹介する。それらが全体としてベドウィンの社会的な位置の認識にどのように関わっていくかを論じ,最終的にはベドウィンが自分たちを「ベドウィンである」あるいは「アラブである」と見なす認識も,そうした祖先との関連付けの延長上にあることを指摘する。
著者
山本 祐弘
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:24240508)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.36-50, 1949 (Released:2018-03-27)

The author, formerly Director of the Saghalien Museum in Toyohara, after collecting folk-tales among the Saghalien aborigines, comes to the conclusion that the belief in shamanism is the only aspect of their culture which has not been changed by Japanese influence. In the present paper he gives a detailed description of the ceremonies performed by Orokko and Gilyak shamans in January, 1945, in the Otasu reservation near Sisuka, South Saghalien.
著者
西本 陽一
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:24240508)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.425-446, 2000-03-30 (Released:2018-03-27)

語りは語り手の歴史・社会的な背景によって独特のパターンやスタイルをもつ。語り手が自身について語る時, 意識は過去を振り返り, 過去は現在や未来との関連の中で秩序を与えられるため, 語りはつねに語り手の歴史意識に彩られる。一方, 語りは事物ではなく言説であり, 時にはそれが言及する現実からかなりの距離をもった定式化された語りとして繰り返されることもある。以上のような観点から, 本稿では山地少数民族ラフの「自嘲の語り」という独特のスタイルの語りが分析される。少数民族の間にはしばしば自嘲的なスタイルの語りが見られるが, これは彼らが多数民族の支配・圧力の下で暮らしてきた長い歴史の結果であり, 民族間の権力関係が内在化されたものである。現在北タイに暮らす山地民族ラフにおいて, 自嘲の語りはクリスチャン, アニミストの両方に見られるが, 前者においてずっと頻繁に聞かれる。しかしその一見否定的な自己規定の背後にはより肯定的な自己規定が存在し, これらがラフの両義的な民族意識を構成している。キリスト教会による長年にわたる「文明化」政策は, 自嘲の語りをクリスチャン・ラフの支配的言説となし, 人々に「知恵」の欠如こそが民族の今日の苦境の原因だと繰り返す。これに対して, 下層の村人による「舞台裏の」語りは, 間接的に, 含意によってラフ的なるものを評価する。日常の語りという実践行為の場において, 不均衡ながら2つの言説は対抗し, ラフの両義的な民族意識を再生産しているのである。
著者
小池 淳一
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:24240508)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.362-375, 2001-03-31 (Released:2018-03-27)
被引用文献数
1

本論文は沖縄宮古島の南部諸集落に伝存するソウシ(双紙)を素材にその運用の具体的な様相を記述し、関連する守護神祭祀,暦の製作にも考察を加えながら,その存在と継承とが提起する問題を指摘し,現代日本を対象とする人類学の果たしうる役割について論述したものであるここでは最初にソウシがどのような研究のなかで対象化されてきたかを振り返り,そこから人類学的な問題を抽出する。さらにそれを受けてソウシの利用の様相を筆者自身の調査データと従来の調査記録とに基づいて記述している。ソウシは例外なくマウガンの祭祀に関わり,組み込まれていることからソウシの存在がムトゥの神々と集落の構成員との間に重層複合的な関係が結ばれていることを表現していることが指摘できる。またソウシを暦注書として用いて砂川暦を作成することから近世以降の大雑書と暦との関係がソウシと砂川暦との関係と相似することも看取される。こうしたソウシの運用形態は近世日本の大雑書が南島文化のなかに受容されていった姿を示している。さらにその形成は1714年以前に既に行われており,さらなる考究は南西諸島各地に伝存する多様な暦書の研究によって達成されるであろうことが見通される。そうしてこうした書物,すなわち文字列が内容そのものとは異なった受け止められ方をし,祭祀の再編成に重要な役割を果たしていることから、高度に発展した文字社会においても人類学的なアプローチの方法は独自の位置を占めることができ,さらに歴史学や社会学との協業の一つの可能性を見出すことができるのである。
著者
川本 崇雄
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:24240508)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.113-129, 1974-09-30 (Released:2018-03-27)

We find between Japanese and Austronesian languages the following agreements in morphology: 1. The basic forms of Japanese verbs are the mizenkei (the imperfect form) which ends in -a and the renyokei (the conjunctive form) which ends in -i, and from these forms all the other conjugated forms are supposed to have developed. Many languages in Melanesia and Polynesia have the suffixes -(i)a and -i, the former making intransitive verbs and the latter transitive verbs. Both languages have thus the complementary pair of verbal endings - (i)a and -i. 2. In the Banks' Islands and the New Hebrides as well as in Japan, some nouns have independent and dependent forms, the former being derived from the latter by adding the termination -i. Examples : Japanese te 'hand' <ta-i, fi 'fire' <fo-i ; Mota matai 'eye' <mata-i, ului 'hair' <ulu-i. 3. Adjectival terminations : Japanese -ka, -ki, -ra, -ri, -sa, and -ta ; Melanesian -ga, -gi, -ra, -li, -sa. and -ta ; and verbal terminations : Japanese -si ; -k, -g, -;e, -r, -s, -t ; -f ; -rag, -yag, ; Melanesian -si ; -g, -η, -n, -r, -s, -t ; -v ; -lag, -rag, and -yag. 4. The verbal and adjectival prefixes ma-, ta-, and ka- : Japanese wosa 'interpreter' 〜ma-wos- 'to tell' tur- 'to be followed' 〜ma-tur-(of-) 'to follow saki〜masaki 'happiness' futo 'thick' 〜tafuto 'respectable', awo〜ka-awo 'blue' ; Malay deras 'fast' 〜meuderas 'to hurry', Mota sare 'to tear' 〜masare 'torn', Fiji dola 'to open'〜tadola 'open', voro 'to break'. 〜kavoro 'broken'.
著者
伊藤 清司
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.106-108, 1974-06-30