著者
藤井 暁彦 道山 晶子 田中 憲一 横山 佳裕
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.103-108, 2016 (Released:2016-07-10)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

夏季に干潟温度が40 ℃近くまで高温化する和白干潟では, この温度上昇がアサリの斃死要因のひとつとなっている。アサリが35 ℃以上になると斃死することは既往の研究においても指摘されているが, 温度と暴露時間, 生残する個体の割合についての知見は乏しい。そこで, 高温暴露実験によりアサリ稚貝の生残率と温度, 暴露時間との関係を求め, この生残率を温度と時間の関数として定式化することにより, 高温条件によるアサリ稚貝の減耗の程度を明らかにした。この式により求めた生残率の推定値と, 野外における高温条件と稚貝の個体数密度の経時変化から, 野外においても高温条件がアサリ稚貝の減耗要因のひとつとなっている可能性が示された。本実験に基づく, 一定割合の個体数の減耗を現す温度・暴露時間と生残率の式は, アサリ稚貝の減耗の状況を定量的に推定するものとして有効であると考えられた。
著者
加藤 裕之 橋本 翼 笹嶋 睦 咸 泳植 小堀 洋美
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.181-185, 2016 (Released:2016-09-10)
参考文献数
22
被引用文献数
1 2

下水道の普及に伴い, 河川など公共用水域に占める下水処理水の量的割合が増加し, 下水道が水循環や水環境に与える影響を把握する必要性が高まっている。そのためには市民の下水道に対する理解や協力が不可欠であるが, 市民や若い世代の下水道への関心が低いことが, 大きな社会的な課題となっている。著者らは平成26年度より「下水道を核とした市民科学育成プロジェクト」を始動し, 市民科学の手法を用いて, 市民・学生が河川における下水道の機能や価値を科学的に学ぶプロジェクトを試みた。モデル流域として境川水系を選定し, 流域内の3河川の下水処理方式により河川の水質に与える影響は異なるとの推測を検証することを目的とした。その結果, 河川のアンモニウム態窒素濃度, 硝酸態窒素濃度, N-BODは下水処理場の処理方式によって影響を受けることを, 地域の河川愛護会, 行政, 大学, NPO, 企業の協働で明らかにした。
著者
大島 詔 北野 雅昭
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.189-195, 2020 (Released:2020-11-10)
参考文献数
13

大阪市内を流れる東横堀川-道頓堀川では水質悪化の原因の一つとして降雨時の下水越流水の存在があり, これを一時的に貯留する平成の太閤下水と称される雨水貯留管が2015年4月に供用開始したものの, 両河川中の大腸菌群数は有意に減少しなかった。雨水貯留管が機能しているのであれば下流側の大腸菌群数は上流側の大腸菌群数が流下日数と水温に依存して減衰した値で説明できると考えられたので, 室内実験で大腸菌群数の減衰速度を求め, 下流側における大腸菌群数の期待値と予測値の差をモンテカルロ法で比較した。求めた減衰速度は太陽光等の影響が考慮されていない値のために予測値は過小評価となったが, 供用後は天候に関わらず期待値と予測値の差がほぼ一致したので雨水貯留管が機能していることが示された。両河川で大腸菌群数が減少しないのは雨水貯留管による削減効果を上回る量の大腸菌群が上流部より流入するようになったためと考えられた。
著者
北山 千鶴 森田 健二 福地 広識 李 星愛 古米 弘明
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.59-68, 2021

<p>合流式下水道雨天時越流水の影響により水浴判定基準を超える糞便性大腸菌群数が観測される都市の水辺において, 安全性を確保して海水浴を行うためには糞便汚染状況の予測が求められる。そこで大腸菌を指標として糞便汚染状況を予測し, お台場海浜公園において海水へ顔をつけることの可否判断を行うシステム構築と試行運用を実施した。降雨の時空間特性を考慮して東京都区部の過去10年間の降雨イベントを類型化した。類型化した降雨毎に3次元流動水質モデルでお台場海浜公園における大腸菌濃度を計算し, 濃度経時変化データベースを作成した。任意の降雨を類型化降雨にあてはめ, 対応する大腸菌濃度のデータベースを包絡する濃度変化曲線は, 降雨後のモデル計算結果の濃度上昇を再現することを確認した。このデータベースを包絡する濃度変化曲線を用いる方法で2018年の海水浴イベントにおいて予報システムの試行運用を実施し, その有効性を検証した。</p>
著者
香川 裕之 岩崎 雄一 木村 啓 犬飼 博信 佐々木 圭一 安田 類 保高 徹生 山縣 三郎 河村 裕二
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.115-124, 2021 (Released:2021-07-10)
参考文献数
50
被引用文献数
1

飛騨川上流の支流に設定した, 鉱山廃水の流入前後の計11地点で金属等の水質と底生動物, 付着藻類の流程に沿った変化を調べ, 金属濃度が低い別の支流に設定した対照地点との比較により鉱山廃水流入による生態影響を評価した。鉱山廃水流入直後の調査地点では, 亜鉛等の金属濃度が高くなり (亜鉛は最大0.94 mg L-1) , 底生動物及び付着藻類の種数等は大きく減少し, 金属濃度が高い河川でも出現する分類群 (底生動物はコカゲロウ科等, 付着藻類は珪藻類のAchnanthidium属) が優占した。金属濃度は流程に沿って減少し, 当該調査の最下流地点で底生動物群集は対照地点と類似していた。底生動物と付着藻類の種数や群集組成の流程変化は類似していたが, 付着藻類では鉱山廃水流入直後に総細胞数が顕著に増加していた。金属類に対する水生生物の変化を包括的に理解するためには, 複数の生物グループを調査する必要がある。
著者
篠原 陽子
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.1-7, 2014

これまでの研究で,非イオン界面活性剤水溶液を土壌を充填した層に吸引ろ過すると,非イオン界面活性剤(NPnEO)を捕捉・回収することができ,回収したNPnEOは再利用可能であることが明らかになった。このことは非イオン界面活性剤単独系で成り立つが,他の成分が共存する混合系の場合は成立するのかという課題が見出された。そこで,本報では,多成分系における捕捉率,回収率を調べ,それらの影響の有無を把握することを目的とし,非イオン界面活性剤(NP10,NP15,NP20)に,陰イオン界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウムSDS),無機ビルダー(硫酸ナトリウム),有機ビルダー(カルボキシメチルセルロースナトリウム)を混合した系で実験を行った。その結果,NP10(30 ppm)単独系の捕捉率95.6%に対して,硫酸ナトリウム(1.0%)を混合した系の捕捉率は93.1%,SDSを0.1%混合した系の捕捉率は90.5%,SDS 0.5%を混合した系の捕捉率は6.7%となり,単独系とSDS 0.5%混合系に有意差が認められた(Bonferroni,p<0.05)。捕捉率・回収率は,ビルダー混合よりも,陰イオン界面活性剤混合による影響が大きく,混合する濃度によって差がみられた。特に,NPnEOとSDSの濃度が臨界ミセル濃度(cmc)以上になると捕捉率・回収率が著しく低下し10%程度となり,SDSがNPnEOの捕捉を阻害していることが考えられた。以上のことから,混合系においてNPnEOの捕捉率を高めるためには,捕捉処理の過程で成分ごとに分離除去する必要があることが示唆された。
著者
鬼倉 徳雄 中島 淳 江口 勝久 乾 隆帝 比嘉 枝利子 三宅 琢也 河村 功一 松井 誠一 及川 信
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.29, no.12, pp.837-842, 2006 (Released:2010-01-09)
参考文献数
22
被引用文献数
14 16

The populations of Japanese bitterlings and unionid mussels and the land use of the watershed were investigated in 36 sampling sites in the Tatara river system in northern Kyushu, Japan. Five bitterling species were found in 11 sites in the system. Although Rhodeus ocellatus kurumeus was found to be distributed in 23 sites in 1983, this species was found in three sites in this study. The population of the bitterlings decreased in the sites with a high urbanization rate, although the populations of several other fish species showed no dependence on the urbanization rate. The population of the mussels showed a negative correlation with urbanization rate. In addition, the mussels populations showed positive relationship with the bitterling populations. These three relationships indicate that the decrease in the bitterling population due to the urbanization of the watershed was responsible for the decrease in the mussel population.
著者
ホワン ティー マイ 渡部 徹 福士 謙介 小野 あをい 中島 典之 山本 和夫
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.34, no.10, pp.153-159, 2011 (Released:2011-10-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1 4

衛生環境が貧しい途上国都市では,洪水時に,住民が病原微生物に汚染された水に接する機会が増えるため,感染症のリスク上昇が懸念される。本研究では,ベトナム国フエ市を対象に,洪水時と平常時における主要な感染経路からの大腸菌感染症の発症リスクを定量的に評価した。平常時における年間リスクは,最大で0.026(38人に1人が発症)と見積もられた。特に,家や店で生野菜を摂取することによるリスク(0.024)が高かった。一方,洪水時には,洪水中での家具の移動や掃除,料理,水遊び等の不衛生な行為によりリスクが0.45にまで大幅に上昇した。年間でわずか6.5日に過ぎない洪水時のリスクが平常時の年間リスクの17倍に相当することから,インフラ整備による洪水制御には大きなリスク削減効果が期待できる。しかし即時のインフラ整備は難しいことから,上記のような洪水中での不衛生な行為を控えることがより現実的な対策と言える。
著者
大久保 慧 小野 健 中野 和之 宇城 真 藤原 建紀
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.233-240, 2016 (Released:2016-11-10)
参考文献数
14
被引用文献数
2 4

大阪湾をはじめとする閉鎖性海域では, 夏季の底層水の貧酸素化が問題となっている。貧酸素が環境や底生生物に与える影響には, 貧酸素の持続時間が重要な指標となる。国土交通省近畿地方整備局が公開している大阪湾水質定点自動観測データ配信システムの毎時データを用いて, 大阪湾の底層貧酸素の変動状況及び貧酸素状態の持続時間を2011年から2013年まで整理した。その結果, 多くの地点で夏季の底層DO (溶存酸素) の日変動幅は平均1 mg L-1以上, 月内での標準偏差は1 mg L-1以上を示した。大阪湾南東側の地点では, 強風時に貧酸素から回復する事例が多くみられ, 貧酸素が最も強くなる8月を除き, 貧酸素状態から頻繁に回復し, 貧酸素の持続時間は24時間未満となることが多かった。一方, 大阪湾北側の地点では, 強風に対する応答が南東側の地点より弱く, 貧酸素の持続時間も長い傾向にあった。
著者
中村 泰男 金谷 弦 小泉 知義 牧 秀明
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.35, no.8, pp.127-134, 2012 (Released:2012-08-10)
参考文献数
20
被引用文献数
4 3

東京湾にある京浜運河は夏期に貧酸素水塊が卓越し,底泥中には硫化水素が発生する環境劣悪な水域である。この京浜運河に位置する大井干潟において,2010・11年の春~秋に二枚貝(アサリ,シオフキ,ホンビノスガイ,ハマグリ)のケージ飼育実験をおこない,貝の生残を調べた。これと併行し,貝の生残を左右する可能性のある環境因子(水温・塩分・底質・溶存酸素・硫化物など)についてのモニターも行なった。両年とも夏場に貝の斃死が生じたが,いずれの貝の場合もその生残とそれぞれの環境因子の変動の間に明瞭な関係を認めることは出来なかった。
著者
岩崎 雄一 本田 大士 西岡 亨 石川 百合子 山根 雅之
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.201-206, 2019 (Released:2019-09-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1

水生生物保全を目的とした水質環境基準が設定された直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩 (LAS) の濃度が高い河川地点の特徴を評価するために, 2015年度の水質測定結果を用いて, LAS濃度が0.02 mg L-1 (淡水域の水質環境基準の最小値) を超過する河川地点 (LAS高濃度地点群) とLAS濃度が0.02 mg L-1以下の地点において, ①水面幅 (河川規模の指標) , ②周辺の土地利用, ③有機汚濁 (生物化学的酸素要求量:BOD) の程度を比較した。その結果, LAS高濃度地点群は, ①水面幅の変化が少なく小規模の河川, ②周辺に森林や農地が少なく, 住宅地や市街地が密集している都市域, ③BODが高く有機汚濁が進行した河川, に割合として多くみられることが示唆された。着目する化学物質について高濃度地点の特徴を把握することは, 水生生物の保全効果という観点から管理方策を検討する上で有用な判断材料となるだろう。
著者
浅見 真理 小坂 浩司 島崎 大 武井 佳奈子
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.189-195, 2014 (Released:2014-09-10)
参考文献数
36
被引用文献数
1 2

塩水電解における次亜塩素酸の生成における塩素酸,過塩素酸の特性を把握するための検討を行った。6種類の異なる電極(主たる成分A:RuO2-TiO2,B:RuO2-IrO2-TiO2,C:IrO2-SnO2,D:IrO2-Pt,E:Pt,F:PbO2)を用いて塩水電解を行ったところ,生成装置の電極の材質により反応時の電位が異なり,次亜塩素酸の生成にともなって生成する塩素酸,過塩素酸の生成量が異なることが分かった。電流値が一定の条件では,端子間電圧が高い電極で電圧が高く,塩素(次亜塩素酸)の生成量が少なく,塩素酸,過塩素酸の生成量が多くなった。特に,白金電極(E)や二酸化鉛電極(F)において,次亜塩素酸あたりの過塩素酸の生成が顕著であった。電解における電位の違いにより,塩素酸,過塩素酸の濃度が高くなるため,次亜塩素酸を生成する工程,工場における電解等でも注意が必要である。
著者
小熊 久美子 小塩 美香 Lohwacharin Jenyuk 滝沢 智
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.59-65, 2017 (Released:2017-03-10)
参考文献数
23
被引用文献数
3

水中の懸濁粒子が紫外線消毒効率に及ぼす影響を調べるため, 粒径や色の異なるカーボンブラック (CB) またはポリスチレン (PS) 粒子の共存下で大腸菌と大腸菌ファージMS2の紫外線不活化特性を測定した。試料の紫外線透過率の低下傾向は, 粒子の素材や色によらず粒径が同じ粒子で類似していた。一方, 微生物の不活化効率は粒子の素材や色による影響をうけ, CBが高濃度で存在すると大腸菌, MS2とも不活化効率が低下した一方, 白色PSでは不活化効率が上昇し, 白色粒子による紫外線の散乱が不活化に寄与したと推察された。MS2の不活化効率は, 濁度0.6-1.5度, 色度13度以上, 紫外線透過率56-70%の条件でも粒子添加なしと有意差はなかった (p>0.05) 。標準粒子を用いた本研究の実験条件では, 水中に懸濁粒子が存在しても紫外線消毒を阻害しない場合や, 粒子による紫外線の散乱で消毒効率が高まる場合のあることが示された。
著者
小林 憲弘 鈴木 俊也 小杉 有希 菱木 麻佑 加登 優樹 金田 智 植田 紘行 河相 暢幸 北本 靖子 土屋 かおり 木村 慎一 古川 浩司 岩間 紀知 中村 弘揮 粕谷 智浩 堀池 秀樹 京野 完 髙原 玲華 馬場 紀幸 佐藤 信武 久保田 領志 五十嵐 良明
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.211-224, 2016 (Released:2016-11-10)
参考文献数
23
被引用文献数
7

水道水中のホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドを迅速・簡便に分析するために, DNPHで誘導体化した試料をLC/UVあるいはLC/MS/MSにより測定する方法を検討した。検討の結果, 水道水に塩化アンモニウムを加えて残留塩素を除去した後, リン酸とDNPHを加えて誘導体化した試料を測定した。いずれの測定機器を用いた場合も両誘導体のピークは短時間で良好に分離し, ホルムアルデヒドの基準値の1/10の濃度 (0.008 mg L-1) まで高精度に分析できた。さらに, 本研究で確立した分析法が全国の水道水質検査に適用できるかどうかを検証するために, 15機関において水道水を用いた添加回収試験を行った結果, いずれの測定機器を用いた場合も両物質について「水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン」の真度, 併行精度および室内精度の目標を満たした。以上のことから, 本分析法は水道水の標準検査法として利用可能と考えられる。
著者
市原 真紀子 西尾 孝之
出版者
Japan Society on Water Environment
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.34, no.12, pp.183-189, 2011
被引用文献数
1

Alの高濃度化や不純物の精製など,改良を加えた浄水汚泥からの凝集剤回収法について検討し,そのリン除去能を検証した。回収凝集剤(再生バンド)のAl<SUB>2</SUB>O<SUB>3</SUB>濃度は0.75~9.4%であり,一部はJISに定めるAl濃度を満足していた。含水率の低い浄水汚泥を用いると,よりAl濃度の高い再生バンドを作成可能であったが,同時に不純物の高濃度化が見られた。再生バンドはT-NやT-P,Fe,Mnを高濃度含んでいたが,精製処理によりT-P以外は43.6~76.5%除去され,Alの低濃度化や鉄・マンガンの濃縮といった既報における欠点を一定克服した。モデル排水(T-P 0.85 mg・L<SUP>-1</SUP>)や地下水(T-P 1.14~1.52 mg・L<SUP>-1</SUP>)を用いたジャーテストにおいて,再生バンドは市販の硫酸バンドと同等のリン除去能を示し,1:5(PO<SUB>4</SUB><SUP>3-</SUP>:Al)のモル比で9割以上のリンが除去された。
著者
小坂 浩司 浅見 真理 佐々木 万紀子 松井 佳彦 秋葉 道宏
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.125-133, 2017
被引用文献数
3

全国の水道事業を対象に2009~2011年度の原水での農薬の測定計画と検出状況の関連性を水道統計のデータを基に解析した。農薬を測定した水道事業は約650, その約20%で農薬が検出された。農薬を測定した水道事業を水道水源, 農薬の測定回数と測定種類数で分類したとき, 地表水を水源とし農薬の測定回数と測定種類数が多い水道事業のグループは農薬を検出した水道事業の割合 (検出率) や検出された農薬の種類数が多かった。農薬の測定回数が1回のグループは農薬が検出された水道事業の割合は少なく, その多くは1種の農薬を単年度のみで検出していた。地下水を水道水源に使用している水道事業は総じて検出率は低かった。検出された個別農薬は77種, 比較的多くの水道事業 (10以上) で検出されたのは10種程度であった。検出される可能性がある農薬には地域多様性があるが, いくつかは全国の多くの水道事業から検出される可能性が示された。
著者
山口 隆司 原田 秀樹 桃井 清至 曽 怡禎
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.499-510, 1995-06-10 (Released:2008-01-22)
参考文献数
39
被引用文献数
2 3

The ecological role of sulface-reducing bacteria (SRB) in anaerobic degradation of a long-chain fatty acid (LFA) was investigated using three anaerobic sludge consorita cultivated at different sulfate loading rates. The three kinds of sludge (referred to as Sludge A, B and C) were cultivated in a fill-and-draw mode for 100 days by feeding with plamitate as a major carbon source (feeding concentration : 1.0g COD·l-1), but with different levels of sulfate, i.e., 600mg-SO42-·l-1 for Sludge A, 300 for Sludge B, 0 for Sludge C.Degradation of palmitate into acetate in the presence of sulfate can be performed by either of the following three trophic groups : 1) symbiosis between palmitate-degrading proton-reducing acetogens (P-PRA) and hydrogen-utilizing SRB (H-SRB), 2) symbiosis between P-PRA and hydrogen-utilizing methanogens (H-MPB), 3) palmitate-oxidizing SRB (P-SRB). Three sludge consortia exhibited different behavior of palmitate degradation, depending on their sulfate loadings. As for Sludge A, the first group, P-PRA+H-SRB had the greatest contribution in palmitate degradation, and the extent of the second, P-PRA+H-MPB and the third, P-SRB were about half of the first, respectively. For Sludge B, P-PRA+H-MPB had the superior contribution over P-PRA+H-SRB and P-SRB. The lowest contributor, P-SRB was only one-tenth of the largest contributor, P-PRA+H-MPB. For Sludge C, palmitate degradation was accounted for only by P-PRA+H-MPB, and the contributions by P-PRA+H-MPB and P-SRB were negligible small.
著者
生地 正人 井上 雄二 末次 綾 奥村 朋子 出濱 和弥 多川 正 中矢 雄二
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.145-153, 2014
被引用文献数
2

傾斜土槽法は,低エネルギ-消費型の好気性浄化法である。この浄化機構を解明するためにスポンジ担体の傾斜土槽で実験を行った。本実験は,20~50分の水理学的滞留時間で有機性汚濁物質と総窒素(T-N)・総リン(T-P)が同時に浄化されることを示した。排水が傾斜土槽を浸透流下すると,水と有機性汚濁物質は分離される。溶解性の有機性汚濁物質は,生物学的吸着作用で分離され,これに要する時間が20~50分である。冬季を除けば槽内の生物学的浄化活性は高く,槽内部に捕捉された有機物は,土壌にみられる生物群によって分解される。槽重量は冬季に増加し,春季に減少した。T-N・T-P浄化は,生物学的な資化による。さらに,T-Nは硝化・脱窒反応で浄化され,T-Pはリンを含む生成土壌が槽内に残留することで浄化される。本法では,水と汚濁物質の分離,有機物の分解,汚泥の減量化,T-NとT-Pの浄化が同じ槽内で同時進行する。