著者
植村 弥希子 杉元 雅晴 前重 伯壮 吉川 義之
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.39-44, 2022 (Released:2022-08-20)
参考文献数
22

物理療法は近年,数多くの研究によりその効果とメカニズムについて明らかにされてきており,従来では「禁忌」とされていた患者に対しても安全に実施できる可能性が示唆されている.医療行為は安全であることが第一条件であり,物理療法も例外ではない.物理療法を安全に使用するためには各種物理療法が生体に与える影響を理解し,実施する際の注意事項を留意した上で行う必要がある.治療メカニズムを理解していれば,より効果的な物理療法の実施も可能となり,効能をリハビリテーション医療に生かすことができるであろう.本稿では2010年に発刊されたカナダ理学療法士協会の物理療法の禁忌事項を取りまとめたレビューを基に,2011年以降に発刊された基礎,臨床研究から物理療法が生体に与える影響について解説し,適応と禁忌について網羅的に解説する.
著者
山田 崇史
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.19-25, 2022 (Released:2022-08-20)
参考文献数
48

多くの理学療法士が筋力低下の改善に難渋するのはなぜだろうか? それは,「強度」という有効限界を超えるための壁が存在するためである.では,高齢者や患者に,どのようにしたら少しでも高い強度の運動を負荷できるだろうか? NMESは,その補助療法として有望なツールの1つである.しかしながら,筋力増強のためのNMESの至適条件については,基盤となる科学的根拠が不足しており,効果や適応が最大化されていないと言わざるを得ない.本稿では,主に基礎研究により得られた知見をもとに,筋力増強のためのNMESのポイントについて整理する.また,NMESを処方する上で,理解しておくべき筋力低下のメカニズムについて,細胞生理学的視点から概説するとともに,筋疾患に対するNMESトレーニングの作用について紹介し,筋力低下に対する安全で効果的なNMES処方の実現に向け,その可能性と課題について考えたい.
著者
富岡 美恵 来間 弘展 尾池 純太 三浦 祐介
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.59-64, 2017 (Released:2022-09-03)
参考文献数
11

スポーツ現場やリハビリテーションにおいて,運動後に起こる遅発性筋痛の回復を促進するために,マイクロカレント療法やストレッチングを行う.これらの治療が,運動後の筋にどのような影響を及ぼすかを検討した.健常成人30名に対し,30%MVCのダンベルにて肘関節の屈曲・伸展運動10回5セット行った.運動後に,MCRとセルフストレッチングを組み合わせて施行する群(MCR群),セルフストレッチングのみを施行する群(Stretch群),コントロール群(Control群)に分け治療介入を行った.運動負荷前・運動負荷直後・24時間後・48時間後・72時間後に,筋硬度・疼痛閾値・最大筋力を測定した.筋硬度は,MCR群では48時間後以降で24時間後と比較し優位な低下を認めた.疼痛閾値は,24時間後において全ての群で優位な低下を認め,MCR群とStretch群は72時間後において24時間後と比較して優位な上昇を認めた.マイクロカレント療法とセルフストレッチングの併用は筋硬度や疼痛閾値を早期に改善させ,遅発性筋痛に対し効果的であることが示された.
著者
金指 美帆
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.26-31, 2023 (Released:2023-08-20)
参考文献数
29

物理療法の標的器官の1つである骨格筋は,廃用や加齢,疾患等により萎縮を呈する一方で,電気刺激による筋萎縮予防・治療効果が広く認められている.しかし,その作用機序については健常な骨格筋を対象に検証されたものが多く,病態下にある萎縮骨格筋への刺激応答性については科学的根拠が不足している.電気刺激の治療効果を最大限に引き出すためには,標的となる組織・細胞で生じる応答を解明し,適切な刺激条件・方法で介入することが求められる.加齢や廃用,がん悪液質や糖尿病などの病態によりタンパク質合成抵抗性が惹起されることから,病態に応じて電気刺激の至適条件を見直し,治療戦略を再考する必要があるのではないだろうか.本稿では,廃用性筋萎縮に対する電気刺激の効果及び作用メカニズムについて,主に基礎研究による知見をもとに概説するとともに,今後の電気刺激療法の展望について考察する.
著者
幅 大二郎 秦 斉 滝沢 知大 冨田 早苗 峰松 健夫 真田 弘美 仲上 豪二朗
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
pp.2023-001, (Released:2023-06-15)

糖尿病足潰瘍は足切断や死亡のリスクが高く早期の創傷治癒が必要である.低周波振動(LFV)療法は糖代謝改善に伴い創傷治癒を促進するが,同じく創傷治癒促進効果を持つ超音波(US)療法で局所糖代謝が生じているかは不明である.本研究ではLFVとUSでの脂肪細胞での糖代謝促進機能を比較した.3T3-L1脂肪細胞へ3 MHz,0,0.5,1.0,3.0 W/cm2,照射時間率20%,10分/日のUSを5日間照射した.3.0 W/cm2では細胞形態が変化し脂肪滴の分解がみられた.脂肪滴分解を防ぐため強度を下げて1.0 W/cm2を選択してUS群とし,対照群,LFV群,US群に分け糖取り込み量と対照群に対する細胞内Ca2+蛍光比を測定して比較した.結果はLFV群で糖取り込み量が有意に増加し(p<0.05),細胞内Ca2+蛍光比はLFV群で有意に増大していた(p<0.01)が,US群では糖取り込み促進および細胞内Ca2+蛍光比の増大はみられなかった.以上より脂肪細胞へのLFVは糖代謝促進効果を示したがUSには糖代謝促進効果はなく,高強度US照射は脂肪滴の分解効果を示した.
著者
尾川 達也
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
pp.2023-008, (Released:2023-06-15)

日々の臨床の中で物理療法を使う際,Evidence-Based Medicine(以下,EBM)に基づいて実践することは,リハビリテーション専門職の共通認識ではないだろうか.しかし,現在のエビデンスから,EBMの要素の一つである「患者の価値観」が十分に考慮されていないことが指摘されている.この「患者の価値観」とは複数ある治療選択肢の中からどの治療を希望するかという意味を含み,患者の自律性を尊重するためにも不可欠な要素である.近年,この価値観を考慮しEBMを適切に実践するためのコミュニケーション方法としてShared Decision Making(以下,SDM)が提唱され,Informed Consentに置き換わる合意形成方法として期待されている.本稿では,意思決定方法の中でも特にSDMに焦点を絞り,患者と協働して物理療法の使用を検討していく手続きについて解説する.
著者
黒川 洸成 長澤 由香子 光武 翼 吉塚 久記
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
pp.2023-003, (Released:2023-06-12)

本研究は,超音波療法後の腓腹筋の筋硬度変化を検討し,超音波療法が腓腹筋の各部位へ及ぼす影響の違いを明らかにすることを目的とした.健常大学生20名を対象として,腓腹筋内側頭の近位部・筋腹部・遠位部へ周波数3 MHzの超音波療法を実施した.筋硬度の評価にはストレインエラストグラフィによる歪み値を採用し,皮膚から腓腹筋最深部までの距離は超音波画像を用いて計測した.本研究の結果,腓腹筋の筋腹部と遠位部の歪み値は介入後に有意に減少した一方,近位部の歪み値は介入前後で有意差が認められなかった.また,近位部の皮膚から腓腹筋最深部までの距離は,筋腹部や遠位部よりも有意に大きかった.腓腹筋に対する周波数3 MHzの超音波療法では,部位によって影響が異なることが示唆され,腓腹筋最深部までの距離の違いはその要因であると考えられる.腓腹筋の超音波療法では,組織深度を考慮した部位別の照射設定の検討が必要である.
著者
久保田 雅史
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
pp.2023-007, (Released:2023-05-19)

ヒトが行う身体活動は,環境に合わせて常に運動を適切に制御することが求められており,随意性の向上や粗大な動作能力向上に加え,微細な関節運動や筋出力のコントロールといった運動制御機能が重要である.物理療法は,運動制御機能を高め,運動学習を促進する手法の一つとして用いられており,近年その有効性が検証されてきている.物理療法の中でも末梢神経電気刺激は体性感覚電気刺激,神経筋電気刺激,機能的電気刺激が用いられる.非侵襲的脳刺激では低強度経頭蓋電気刺激や反復経頭蓋磁気刺激が含まれる.そのほかにも振動刺激やバイオフィードバック療法なども有用である.理学療法士は,これら物理療法の効果メカニズムを理解するとともに,症例の病態に合わせて適切に,そして安全に活用することが求められる.
著者
瀧口 述弘 徳田 光紀 庄本 康治
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.23-29, 2021 (Released:2022-09-03)
参考文献数
25

経皮的電気神経刺激(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation: TENS)は,電気刺激を用いた非薬物的鎮痛手段である.近年,刺激強度を疼痛の最大耐性強度まで増強させる高強度TENSが試みられているが,その鎮痛機序は明らかではない.高強度TENSの鎮痛機序は,オフセット鎮痛と広汎性侵害抑制調節(Diffuse Noxious Inhibitory Controls: DNIC)が考えられるが,これらの効果が生じるかを検証した報告はない.本研究の目的は,高強度TENSが,オフセット鎮痛やDNICと同様の効果が生じるかを健常人で検証することとした.オフセット鎮痛様条件の実験手順は,1)0-5秒:実験的疼痛のみ,2)5-10秒:高強度TENS + 実験的疼痛,3)10-30秒:実験的疼痛のみとした.これらの疼痛に対する疼痛強度を経時的に測定した.DNIC条件は,5秒間の高強度TENSの実施前後に,TENS実施部位から離れた部位に実験的疼痛を与え,疼痛強度を測定した.オフセット鎮痛様条件とDNIC条件ともにコントロール条件と比較して,有意に疼痛強度が低下した.高強度TENSはオフセット鎮痛とDNICと同様の効果が生じる可能性がある.
著者
佐藤 雅浩 瀧口 述弘 徳田 光紀 庄本 康治
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.65-71, 2022 (Released:2022-08-20)
参考文献数
29

経皮的電気神経刺激(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation:TENS)は電気刺激を用いた非薬物的鎮痛手段である.最大耐性強度で実施する高強度高周波(High intensity, high frequency:HI-HF)TENSは,数分間の実施で広汎性の鎮痛効果が得られるとされており,疼痛部位と離れた部位への刺激によっても鎮痛効果が得られる可能性がある.そのため,手術の影響を受けにくい非手術側へのHI-HF TENSの実施によっても術側の鎮痛効果が得られると考えた.本研究では大腿骨頸部骨折術後患者の運動時痛に対して,手術の影響を受けにくい非術側にHI-HF TENSを実施し,即時的な鎮痛効果を検討することを目的に実施した.大腿骨頸部骨折術後患者6名に対し術後翌日より1週間,HI-HF TENSを非術側へ実施した.実施前後で運動時痛が即時的に軽減した.非術側へのHI-HF TENSは術後の運動時痛を軽減する可能性が示唆された.
著者
徳田 光紀
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.27-32, 2019 (Released:2022-09-03)
参考文献数
38

骨折に対するリハビリテーションは,運動療法を単独で実施するよりも物理療法を併用することで効果的に展開することが可能となる.ただし,どのような物理療法を使用する場合でも,まずは骨折の治癒過程や病態,術式を理解したうえで,適切な物理療法を選択し,対象者の個別性に合わせて実践することが重要となる.例えば,骨折後に出現する様々な疼痛に対して,寒冷療法や圧迫療法,電気刺激療法などを用いることで効果的に鎮痛を図ることが可能であるが,疼痛の原因を理解・推察し,適切に評価したうえで適応する必要がある.また,筋力増強を目的とした電気刺激療法は伝統的に使用されてきたが,骨折後のリハビリテーションで応用するためにはリスク管理の観点も含めて,介入時期や実施方法を考慮する必要がある.本稿では,骨折症例に対する物理療法の臨床応用において,運動療法を効果的に進めるためのリハビリテーション戦略についての取り組みを提示する.
著者
瀧口 述弘
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.42-46, 2019 (Released:2022-09-03)
参考文献数
28

疼痛管理で使用する物理療法として,温熱療法,寒冷療法,光線療法,電気刺激療法等が挙げられる.本稿では,先行研究も多く,臨床場面でよく使用されている経皮的電気刺激治療(Transcutaneous electrical nerve stimulation: TENS)について概説する.TENSとは,電気刺激を用いた非侵襲的で副作用もほとんどない鎮痛手段である.TENSは薬物療法と併用して使用可能で,臨床場面でも実施しやすい.TENSの鎮痛機序は脊髄内疼痛抑制機構,内因性オピオイド,下降性疼痛抑制系等が関与すると報告されている.臨床場面では,術後痛,筋骨格系疼痛,神経因性疼痛,癌性疼痛などに対して実施されている.TENSの鎮痛作用を最大限に高めるためには,対象者の疼痛の特性を捉えた上で,先行研究で確立されたエビデンスに基づいたTENSのパラメータ設定をすることが重要となる.
著者
瀧口 述弘 庄本 康治
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.16-22, 2021 (Released:2022-09-03)
参考文献数
28

経皮的電気神経刺激(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation: TENS)は鎮痛目的で実施する物理療法である.疼痛を感じる程度まで刺激強度を増強させる高強度TENSが近年試みられている.高強度TENSは,電気刺激により生じる疼痛によって,鎮痛作用が引き起こされると考えられている.TENSのパルス幅を広く設定した方が痛覚線維を刺激しやすいため,その効果が高いと考えられた.そこで本研究の目的は,パルス幅の違いが実験的疼痛に与える影響を明らかにすることとした.健常人11名に対し,パルス幅100 μs条件と500 μs条件の2条件の高強度TENSをクロスオーバーさせ実施した.実験的疼痛は圧痛閾値を用い,各条件のTENS実施前後に測定した.500 μs条件は,100 μs条件よりも有意に圧痛閾値が上昇した.高強度TENSはパルス幅を広く設定した方が,圧痛閾値を上昇させる可能性が示唆された.
著者
生野 公貴
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.06-10, 2018 (Released:2022-09-03)
参考文献数
18

近年,多くの基礎および臨床研究により脳卒中後の運動麻痺や痙縮等の病態メカニズム解明に向けた知見がアップデートされている中,電気刺激を含むリハビリテーション介入もより適応を明確化するために洗練される必要があると考えられる.しかしながら,電気刺激の特性を最大限生かしつつ,種々の障害の病態メカニズムにあわせて介入している研究はいまだ少ないのが現状である.我々はガイドラインやランダム化比較対照試験の結果のみを安易に解釈/流用することに注意が必要であり,電気刺激がより効果的かつ適切に使用されていくためには,まず適応となる対象者の詳細な病態分析から仮説検証的に適切なアウトカムをもって効果判定していくプロセスの累積が重要である. 本稿では,脳卒中後生じる運動麻痺,痙縮といった主要な障害に焦点をあてて,その病態メカニズムを分析したうえで,仮説検証的に電気刺激の介入により効果検証を行っている取り組みを提示する.
著者
吉田 陽亮
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.06-11, 2019 (Released:2022-09-03)
参考文献数
27

サルコペニアは,身体的な障害や生活の質の低下,および死などの有害な転帰のリスクを伴うものであり,進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群である.また直接的な原因が神経学的問題に起因するものではなく,老嚥,低栄養,侵襲といった要素が加わる事で摂食嚥下関連筋の減弱が生じることをサルコペニアの摂食嚥下障害としている.神経筋電気刺激(NMES)は生体に電流を流すことで伴う生理学的な反応を応用した物理療法の一つであり,筋萎縮予防や筋力増強に有効なツールである.サルコペニアの原因を評価した上で,各症例に合わせた方法かつNMESによる生理学的作用を適切に応用し介入する必要がある.
著者
脇本 謙吾 唄 大輔 前谷 朱美 徳田 光紀
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.37-40, 2017 (Released:2022-09-03)
参考文献数
9

今回は,義足装着時のみに幻肢痛を認める症例に対して経皮的電気刺激(TENS)の鎮痛効果の検証と痛みの解釈の検討を行ったので報告する.本症例の幻肢痛は,健側の糖尿病性神経障害による痛みと質,部位共に類似していた.方法は,ABAデザインを用い,A期にはプラセボTENS介入,B期にはTENS介入をそれぞれ3日間ずつ実施した.TENSには電気治療器(ESPURGE)を用い,パラメーターはパルス幅150μs,周波数100~250Hzの変調モードに設定し,治療は1日1回30分を同時間帯に実施した.電極の貼付部位は,幻肢痛出現部位及び,断端部と同部位にあたる対側下肢の計4ヶ所とした.幻肢痛の評価としてNRSを用い,痛みの認知的側面に対し破局的思考尺度(PCS)を用いて評価した.TENS介入にて鎮痛効果を認め,鎮痛に伴いPCS得点にも低下を認めた.結果から,本症例の幻肢痛に対する健側へのTENSの有効性と,鎮痛に伴う痛みの認知的側面への効果が推察された.
著者
伊藤 芳恵 庄本 康治
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.52-58, 2017 (Released:2022-09-03)
参考文献数
25

機能性月経困難症は月経のある女性の約半数が経験する婦人科疾患で,激しい下腹部痛によりQOLの低下及び経済的損失が報告されている.本疾患の疼痛管理として経皮的電気刺激(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation: TENS)の研究が報告されているが電極貼付部位は様々である.本研究の目的は機能性月経困難症に対するTENSの鎮痛効果を電極貼付部位に着目して調査することである.医師に機能性月経困難症と診断され,特に疼痛の強い女子学生2名を対象にTENSの介入研究を行った.調査期間は月経3周期とし,各周期でそれぞれ設定した電極部位の鎮痛効果を調査した.電極部位は,Th12/L1/L2とS2/S4デルマトームに電極を貼付する群(全髄節刺激),Th12/L1/L2デルマトームのみに電極を貼付する群(一部髄節刺激),無関係なL3/L4デルマトームに電極を貼付する群(非髄節刺激)とし,TENSの刺激は月経痛が強くなった時から60分間実施した. TENS前後にVisual Analog Scale(VAS)とMcGill Pain Questionnaire-Short Form(MPQ-SF)を測定した.VAS値は全髄節刺激で37.5±16.5 mm,一部髄節刺激で64.0±14.0 mm,非髄節刺激で18.0±7.0 mm低下した.MPQ-SF(情緒的項目)の改善が認められた.VAS値は一部髄節刺激,全髄節刺激で30.0 mm以上低下し,臨床的に重要な鎮痛が可能だった.MPQ-SFの結果より,鎮痛による精神的苦痛の改善が期待できる可能性がある.
著者
徳田 光紀 唄 大輔 藤森 由貴 亀口 祐貴 庄本 康治
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.63-66, 2016 (Released:2022-09-03)
参考文献数
10

本研究の目的は大腿骨頚部骨折術後症例を対象に,術後翌日から電気刺激治療を併用しながら筋力強化運動を実施する電気刺激併用筋力強化法の効果を検討することである.大腿骨頚部骨折術後に人工骨頭置換術を施行した8名を対象に電気刺激併用筋力強化法群(ES群)4名とコントロール群4名に割り付けた.電気刺激併用筋力強化法は電気刺激治療器(ESPERGE)で患側の大腿四頭筋に対して二相性非対称性パルス波,パルス幅300 µs,周波数80 pps,強度は運動レベルの耐えうる最大強度,ON:OFF=5:7秒に設定して毎日20分間実施した.膝伸展筋力(患健側比),股関節JOAスコア,日常生活動作および歩行の自立するまでに要した日数を評価し,各群で比較した.ES群はコントロール群よりも筋力や股関節JOAスコアは早期に改善し,日常生活動作および歩行の自立も早かった.大腿骨頚部骨折後の人工骨頭置換術後症例に対する術後翌日からの電気刺激併用筋力強化法は,膝伸展筋力の改善や日常生活動作および歩行の早期獲得に効果的に寄与することが示唆された.
著者
小嶌 康介 生野 公貴 庄本 康治
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.64-68, 2014 (Released:2022-09-03)
参考文献数
13

本研究の目的は脳卒中1症例にて部分免荷トレッドミル歩行訓練(BWSTT)と足関節背屈筋に対する随意運動介助型電気刺激(IVES)の併用治療の臨床有用性を検証することとした.対象は脳梗塞後左片麻痺を呈した59歳男性とした.研究デザインは各期4週間のABデザインを用い,8週間のフォローアップを行った.B期にBWSTTとIVESの併用治療を実施した.評価はFugl-Meyer Assessment(FMA),足関節背屈の自動関節可動域(A-ROM),膝伸展筋力,10 m歩行速度,2分間歩行距離(2MD)とした.FMA,10 m歩行速度はA期に最も改善した.膝伸展筋力はフォローアップに最も改善した.A-ROMと2MDはB期に最も改善した.機器設定は5分程度で可能で治療の受け入れは良好であった.A-ROMや2MDのB期の改善について本治療が足関節の随意性や歩行の協調性の改善に寄与したものと考えられた.本治療の臨床有用性は良好であった.
著者
小関 忠樹 関口 航 押野 真央 竹村 直 齋藤 佑規 吉田 海斗 工藤 大輔 髙野 圭太 神 将文 仁藤 充洋 田辺 茂雄 山口 智史
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.55-64, 2022 (Released:2022-08-20)
参考文献数
39

体表から脊髄を刺激する経皮的脊髄直流電気刺激(tsDCS)と神経筋電気刺激(NMES)の同時刺激は,中枢神経系を賦活することで,脳卒中後の歩行能力を改善する可能性があるが,その効果は不明である.本研究では,同時刺激が健常成人の皮質脊髄路興奮性に及ぼす影響(実験1)と脳卒中患者の歩行能力に与える影響(実験2)を検討した.実験1では,健常者12名に対して,同時刺激条件,tsDCS条件,NMES条件を,3日以上間隔を空けて20分間実施した.介入前後で前脛骨筋の皮質脊髄路興奮性変化を評価した.実験2では,脳卒中患者2名にNMES単独条件と同時刺激条件の2条件を3日ずつ交互に繰り返し,計18日間実施した.結果,実験1では,同時刺激条件で介入後15分,60分の時点で有意に皮質脊髄路興奮性が増大した(p<0.05).実験2では,同時刺激は歩行速度と歩数を改善しなかった.tsDCSとNMESの同時刺激は,健常者の皮質脊髄路興奮性を増大するが,脳卒中患者の歩行能力に対する効果はさらに検討が必要である.