著者
瀬尾 政雄
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.1-13, 1982-07-24
被引用文献数
2

点字を常用する視覚障害者は、日本語が漢字仮名交り文を正書法とするため漢字・漢語の理解特に同音異義語の理解に困難がある。点字使用者のこの不利を明らかにするため同音異義の漢字を想起させてその結果を比較した。被験者は一般学生28名、弱視学生39名、点字使用学生28名。想起数の平均値を点字群と漢字群とで検定した結果0.1%水準で有意差が認められたが各群内の正眼と弱視、先天盲と後天盲では有意差は認められなかった。しかし、漢字群(正眼≒弱視)〉点字群(後天盲〉先天盲)の関係がすべての結果においてみられた。想起された漢字の出現順位は使用文字に関係なく、漢字使用経験の有無にも関係なく一致した傾向にあった。特に漢字経験のない先天盲グループの漢字の理解度も解答頻度から十分に理解したうえで解答していることが確認された。なお漢字・漢語の理解度は今後に予定している文脈における理解力の程度とその影響に関する調査により更に正確なものとすることが今後の課題である。
著者
松本 敏治 崎原 秀樹 菊地 一文 佐藤 和之
出版者
The Japanese Association of Special Education
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.263-274, 2014

本研究では、自閉症スペクトラム児(ASD)・知的障害児(ID)・定型発達児(TD)の方言使用について、国立特別支援総合研究所の研修受講者、および近畿・四国・九州の特別支援教育関係教員を対象にアンケート調査を実施した。さらに、高知市内の特別支援学校(知的障害)の教員に、担当する個別の児童生徒の土佐弁語彙と、対応する共通語語彙の使用程度の評定を求めた。また、調査1の回答者に対してASD・ID・TDへの自身の方言使用程度についてアンケート調査を行った。結果は、1)すべての調査地域でASDの方言使用はID・TDにくらべ少ないと評定された。2)高知においてASDの方言語彙使用は非ASDに比べ顕著に少なかった。3)教師による方言は私的な場面でのTDへの話しかけで多用され、学校場面でのASDおよびIDへの話しかけにおいては減少していた。これらの結果について、方言の社会的機能の側面から考察を加えた。
著者
高橋 智 平田 勝政 茂木 俊彦
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.33-46, 1990-03-10 (Released:2017-07-28)

近年、国内外で障害の概念構造についての理論的研究が深化しつつあるが、個々の障害に即した概念整理は不十分であり、「精神薄弱」概念についてはそれが特に著しい。そこで本研究ではその一環として、戦前の精神医学分野の「精神薄弱」概念の形成・展開過程及び到達点の歴史的解明を行った。検討素材に、主要な精神医学雑誌である『精神神経学雑誌』と『精神衛生』を用いた。得られた結果は次の様である。(1)「精神薄弱」を病理・臨床の面からは疾病・欠陥と規定し、精神衛生では断種等の社会問題対策的視点から規定しており、精神医学でも「精神薄弱」概念の定義に大きな相違がみられる。(2)クレペリンの「白痴・痴愚・魯鈍」の3分類を基本としつつも、「精神薄弱」概念論争にみられる様に、知能指数等の心理学的概念の採用が現実的要請から承認された。(3)戦前の「精神薄弱」概念の到達点と「特殊児童判別基準」等の戦後の概念には連続性が確認された。
著者
田中 正博
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.23-32, 1996-11-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
7 4

本研究は障害児をもつ家族180家族360名を対象に、健常児をもつ家族210家族420名との比較に基づいて、家族機能(充実した家族の連帯感・家族の決まり)と母親のストレスとの関係を明らかにした。質問紙法による調査の結果は次のようになった。(1)障害児をもつ母親は健常児をもつ家族に比べ、すべてのストレス項目で有意に高かった。また、「充実した家族の連帯感」は健常児をもつ母親・父親で有意に高く、「家族の決まり」も定まっていた。(2)夫婦関係や母親自身の悩みは満足した家族の連帯感によって軽減される。(3)障害児をもつ家族の場合、高ストレスを示す母親は「充実した家族の連帯感」が有意に低かったのに対して、その家族の父親では有意に高かった。父親と母親の間で家族認知の葛藤について考慮する必要性が示唆された。
著者
大久保 賢一 高橋 尚美 野呂 文行
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.383-394, 2011
被引用文献数
1 8

小学2年生の通常学級における給食準備場面、給食片付け場面、掃除場面で行動上の問題を示していた児童に対して個別的支援を行い、その後、学級全体に対する支援を実施した。支援実施後は、すべての場面において対象児童の行動は改善されたが、学級全体に対する支援を実施した期間のほうが、個別的支援を実施した期間よりも高く安定した効果が得られた。また、学級全体に対する支援を実施した期間においては、対象児童の行動だけではなく、学級の他の児童の行動にも改善がみられた。以上のような結果から、通常学級における行動支援を検討する際には、児童に対する個別的支援よりも学級全体に対する支援を優先して検討することの必要性が示唆された。社会的妥当性に関しては、手続きの効果の面では担任教師から高い評価を得られたが、手続きの実施に関して、部分的に高い負担感が示された。
著者
片桐 正敏
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.97-106, 2014 (Released:2015-11-19)
参考文献数
77
被引用文献数
5 1

自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder, ASD)の知覚・認知特性の中には、定型発達者よりも優れるものも存在する。特にASDのある人がもつ細部への注意処理、部分処理特性は、対人相互交渉では不利に働く可能性がある一方で、膨大な視覚情報の入力を管理し、調整する適応メカニズムともいえる。本論では、ASDの部分処理特性について、最新の研究動向も踏まえてどのような議論が行われているかを概観し、部分処理特性の代償的側面と療育や支援の方向性について論じた。ASDにみられる部分処理特性は全体処理とは独立したメカニズムであるという近年の知見から、部分処理特性を伸ばすことは社会性を損なうことにはつながらず、むしろ部分処理の適応的側面にも注目すべきであることが示唆された。加えて、部分から全体への切り替えの問題に対処することが支援において重要であり、ひとつの方法として模倣を用いた療育の可能性を示した。
著者
吉本 悠汰 菅野 晃子 辻田 那月
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.213-223, 2023-02-28 (Released:2023-07-20)
参考文献数
11

本研究では、公立小学校の通常学級に在籍する場面緘黙の2年生男児に対し、学級担任による支援で発話状況がどの程度改善するのかを明らかにすることを目的とした。そこでまず、対象児が話すことに対し前向きになることを目的として、4月から学校において安心できる環境づくりを行った。次に、6月から翌年2月まで、対象児が学校で発話できるようになることを目的として、学校や対象児の自宅、医療機関において計22回の発話支援を行った。学校での発話支援の際には、担任が作成したお話チャレンジカードや九九がんばりカード、質問カードによる発話練習を行った。これらの支援の結果、4月には学校で発話できなかった対象児が、翌年2月には担任が近くにいれば意見交流やスピーチでの発表など、授業中の発話が求められる場面で声を出せるようになった。以上より、通常学級の担任が緘黙児の支援を行うことで緘黙児の発話状況を改善させることは可能であることが示唆された。
著者
菅 智津子 樋口 和彦
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.145-155, 2017 (Released:2019-03-19)
参考文献数
16

二項関係から三項関係移行期にある重度・重複障害児の共同注意行動の発現過程について、事例を通して検討した。人との二項関係では、やりとりが安定した後、対象者が大人の顔を見る行動の出現回数、場面、持続時間が増加した。物との二項関係では、対象者が物に注意を向け、単純な操作から複雑な操作ができるようになった。物を介した人とのかかわりでは、(1) 物とのかかわりが優位な段階、(2) 物にかかわりながらも人の存在を明確に意識している段階、(3) 物と人を関連付け、物への注意を他者と共有してかかわる段階、という順序で変容がみられ、「視野内の指差し理解」「交互凝視:確認」といった初期の共同注意行動が発現した。対象者の変容過程から、重度・重複障害児の共同注意行動の発現を促す具体的な支援が明らかになった。
著者
平澤 紀子 藤原 義博
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.313-321, 2002-09-30 (Released:2017-07-28)

本研究は、激しい頭打ちを示す重度知的障害児に対して、機能的アセスメントに基づいた課題指導に、できるだけ選択機会を設定することによって、すみやかに頭打ちの低減を図ることを目的とした。機能的アセスメントから、頭打ちには、課題からの逃避と感覚刺激の獲得機能が推定された。そこで、課題の遂行手続きを形成した上で、課題や選択機会を段階的に設定した。また、課題から逃避させない、感覚刺激を遮断するという結果条件の操作を行った。その結果、頭打ちは指導開始後の早い段階で低減し、課題の設定後も維持され、選択機会の設定後ほぼ生起しなくなった。一方、課題量や種類の拡大に伴って生じた新たな逸脱行動は、その時点の機能的アセスメントに基づいた指導手続きによって低減した。この結果は、本指導手続きによって、課題の嫌悪性を高めている確立刺激と頭打ちの強化・維持要因が改善されたことによるものと考えられた。以上を基に、自傷行動のある重度知的障害児への課題指導について言及した。
著者
小島 道生 池田 由紀江
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.215-224, 2004-09-30
被引用文献数
1

本研究の目的は、知的障害者(24名)を対象として、従来多く用いられていた選択式による回答方法ではなく、知的障害者自身の自己叙述から自己理解を測定し、その特徴を明らかにすることである。対照群として、生活年齢を統制した健常者(64名)と比較し、分析した。その結果、知的障害者は自己理解に関するすべての質問項目に対して回答することが健常者に比べて困難で、中でも自己評価の「好きなところ」「嫌いなところ」と自己定義の「どんな人」という質問項目に対して答えることが困難であった。一方、同じ自己評価でも「いいところ」「悪いところ」に対する質問は「好きなところ」「嫌いなところ」に比べて回答しやすく、知的障害者自身の自己理解が進んでいる項目と考えられ。知的障害者の自己理解について、対象者を性別(男と女)、生活年齢(高群と低群)に基づき2群に分けて得点を比較した結果、有意差はなかった。ただし、精神年齢の高群(8〜13歳代)は低群(6〜7歳代)よりも、「嫌いなところ」について、有意に自己理解が進んでいることが示唆された。
著者
奥田 健次
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.23-31, 2001
被引用文献数
1

本研究においては強度行動障害と重度の知的障害をもつ自閉症者に対して、適切な排泄行動の形成を目的とした嫌悪的な手続きによらないトイレット・トレーニングの効果を検討した。本事例においては、トイレ場面以外での排泄行動(排便・排尿)が長期にわたって問題化している対象者に対して、生態学的調査と排泄に至るまでの行動の課題分析を行い、それらにもとづいて積極的練習による介入を行った。その結果、対象者の排泄に至るまでの行動ステップに改善がみられ、それに伴って日常場面でのトイレ以外での排泄行動が減少し、トレーニング終了後においても、低いレベルのまま推移した。これらの結果から、長期にわたって排泄の問題をもつ事例においても、排泄行動の形成のために、生態学的調査にもとづく課題分析と積極的練習による介入の有効性が示された。施設において実施可能な指導プログラムについて検討を行った。
著者
石﨑 美佐子 半田 健
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
pp.22A014, (Released:2023-08-18)

知的障害特別支援学級に在籍する児童4名を対象に、部首をもとに漢字を2分割する系列刺激ペアリング手続き(以下、SSP手続き通常条件)と児童の既知情報をもとに漢字を分割する系列刺激ペアリング手続き(以下、SSP手続き既知条件)を実施した。本研究では、2つの手続きの結果を比較し、系列刺激ペアリング手続きに関して既知情報を活用することが知的障害のある児童の漢字書字の獲得に促進的な効果を及ばすか否かについて検証した。研究デザインは、課題間多層プローブデザインを用いた。指導の結果、児童が漢字書字を獲得するまでに要したブロック数は、SSP手続き既知条件の方がSSP手続き通常条件と比べて少なかった。これは全ての対象児に共通していた。このことから、系列刺激ペアリング手続きに関して既知情報を活用することが知的障害のある児童の漢字書字の獲得に促進的な効果を及ぼすことが示唆された。
著者
藤田 由起 遠矢 浩一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.223-234, 2022-02-28 (Released:2022-08-31)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本研究の目的は、わが国においてヤングケアラー(YC)的役割を担いつつ幼少期を過ごした人々のケア役割や家族関係についての認識の違いが、精神的健康に及ぼす影響について検討することであった。18歳以上の男女にWEB質問紙調査を実施し、障害・疾患を有する家族と暮らした経験のある79名、経験のない100名から有効回答を得た。その結果、YC的役割を担う子どもが経験しうる心理的負担は、単にケア役割の量的程度に左右されるのではなく、ケア役割への主観的評価や母親・きょうだいとの関係性といった複層的な家族構造によって影響を受けることが示唆された。特に、母親のYC的役割を担う子どもに対する配慮性や、きょうだいとの親密な関わりが、そのような子どもの精神的健康に関連することが推察された。このことから、子どものケア役割への心理的負担の度合いや、個々の子どもの家庭環境について、十分に考慮し支援することが必要と考えられた。
著者
金丸 彰寿 片岡 美華
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.323-332, 2016 (Released:2019-02-05)
参考文献数
48
被引用文献数
1

本稿では、「交流教育」「共同教育」および「障害理解教育」の歴史的変遷を整理した上で、三者の関係性について教育目標の視点で論じた。三者の歴史的変遷においては、まず「交流教育」が先に文部省によって提唱され、その後、交流教育を批判しつつ、障害のある子どもと障害のない子どもとの平等な関係を築く「共同教育」が発展する。そして、これらの実践の蓄積から障害や障害者問題を取り立てて学習する必要性が生じ、その結果として「障害理解教育」は誕生した。さらに三者の関係は以下のように位置付けられた。つまり、1)「共同教育」は障害のある子どもと障害のない子どもとの対等かつ平等な関係形成を図る教育目標をもつこと、2)「共同教育」は子どもたちの発達に応じて、集団対集団での共同学習を保障する教育目標があること、3)「共同教育」ならびに「障害理解教育」は子どもたちの「障害や障害者問題に関する科学的な認識」を深めることを指摘した。
著者
高木 潤野
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.207-217, 2021-02-28 (Released:2021-08-31)
参考文献数
19

本研究は、十分な研究が行われていない青年期・成人期の場面緘黙当事者を対象に治療的介入を行い、緘黙症状を改善させることができるか否かを明らかにすることを目的とした。 対象は10代~30代の場面緘黙当事者10名(女性7名、男性3名)であった。プログラムは不安階層表を用いた段階的なエクスポージャーと心理教育により構成した。エクスポージャーは個々に設定した目標に基づき、対象者の日常生活場面で実施した。エクスポージャーを行う行動は人、場所、活動を組み合わせて検討し、不安階層表を用いて実施可能な行動を決定した。6回のセッションを約1か月間隔で実施した。その結果、緘黙症状を示す質問紙の合計得点は10名中9名で上昇が認められた。また10名全員に何らかの症状の改善がみられ、 2名については緘黙症状が解消した。以上のことから、青年期・成人期であっても治療的介入により緘黙症状を改善させることができる可能性が示された。
著者
大久保 賢一 福永 顕 井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.35-48, 2007-05-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
9

通常学級に在籍する他害的な問題行動を示す発達障害児に対して、大学相談機関と小学校が連携し、学校場面における行動支援を実施した。対象児に対する個別的支援として、(1)適切な授業参加を促すための先行子操作と結果操作、(2)課題従事行動を増加させるための結果操作、(3)問題行動に対する結果操作を段階的に実施した。また、校内支援体制を整備するために、(1)発達障害の特性や問題行動の対応に関する校内研修の実施、(2)支援メンバー間における情報の共有化と行動の継続的評価、(3)全校職員に対する情報の伝達といったアプローチを行った。その結果、対象児の適切な授業参加や課題従事行動が増加し、問題行動は減少した。また、大学スタッフと保護者の個別的支援を実施する役割を学校職員へ移行することが可能となった。対象児に対する個別的支援と校内支援体制の構築に関して、その成果と課題について考察を行った。
著者
稲浪 正充 西 信高 小椋 たみ子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.33-41, 1980-12-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
4 3

障害児の発達には、両親の心的態度を理解し、両親に対し受容的、支持的に働きかけることがきわめて大切である。ここでは、Holroydの開発した15尺度に分けられた206項目の質問紙を用いて、自閉症児、精神薄弱児、肢体不自由児、視覚障害児の母親の心的態度の検討を行なった。自閉症児の母親では、15尺度のうちの6尺度:すなわち、自己の心身不健康、障害児に時間のかかりすぎること、拒否的であること、過保護であること、障害児の活動性の欠如、障害児の人格上の問題で、肢体不自由児の母親では、家庭の経済的困難、障害児の身体能力欠陥の2尺度で、他の3グループの母親に比べ、統計学的に有意に高い心的ストレスを認めた。また、日本とアメリカの自閉症児の母親、精神薄弱児の母親の心的ストレスの比較を行なったが、異文化圏にありながら同一の障害をもつ母親の心的態度は類同的であった。
著者
山岡 祥子 中村 真理
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.93-101, 2008-07-31 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1 2

本研究では、HFPDD児・者をもつ父母の障害の気づきと障害認識の相違を明らかにすることを目的とし、父母80組を対象に質問紙調査を行った。その結果、診断前後とも父母の障害の気づきと障害認識に有意な違いがあった。診断前、母親は父親よりも子どもの問題に幼児期早期から気づき深刻に悩んでおり、受診に対しても能動的であった。しかし、成長に伴い問題は解消すると考える傾向は父母で相違がなかった。診断時において、告知は父母どちらにも精神的ショックを与えていたが、障害認識は父母で違いが認められた。母親の多くは肯定・否定の両面的感情をもち、障害であると認めたのに対し、父親の多くは否定的な感情のみをもち、障害を認めにくかった。診断後は父母とも1年以内に障害を認めたが、母親は父親よりも積極的に障害を理解しようとしていた。
著者
近藤 武夫
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.247-256, 2012 (Released:2013-09-18)
参考文献数
33

米国の公立初等中等教育では、視覚障害、肢体不自由、学習障害などの多様な障害を原因として印刷物にアクセスすることが難しい児童生徒に対し、電子データ形式で作られた教科書を無償で入手できる環境が、連邦政府により整備されている。また、こうした電子教科書の利用においては、電子教科書データの提供だけではなく、支援技術製品の児童生徒への提供、および支援技術の専門家による利用支援の提供が、個別障害者教育法(IDEA)を背景として制度化されている。本論文では、障害のある児童生徒にとってアクセス可能な電子教科書の入手および学校場面での利用とその支援に関して、米国の現状を概観し、また、日米の現状比較を通じて日本国内で解決すべき電子教科書および支援技術利用上の課題について検討する。