著者
岩﨑 淳也 畦上 恭彦
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-10, 2021-05-31 (Released:2021-11-30)
参考文献数
22

過剰模倣(overimitation)とは、「ある行為を示された際、最終的な目的を達成するために必要な動作だけでなく、不必要な動作も模倣すること」と定義される。本研究では、動作模倣課題を自閉症スペクトラム障害(ASD)児および定型発達(TD)児に行い、両群に差があるかを検討した。また過剰模倣と適応行動との関連について調べるため、S-M社会生活能力検査を実施した。対象は6~9歳のASD児20名、対照群はTD児15名であった。通常の動作の模倣成績においては両群の模倣生起数に有意差は認められなかったが、過剰模倣ではASDの模倣生起数がTD群に比し有意に少なかった。また過剰模倣生起数と適応行動との間に有意な相関を認めた。ASD児の過剰模倣の低さは、他者との共感性の低さといった社会的動機付けの弱さと関連している可能性が示された。また過剰模倣の低下は、所属集団における適切な振る舞い方の習得を困難にし、ASD児の社会適応の阻害要因となる可能性が示された。
著者
荻布 優子 川崎 聡大 奥村 智人 松﨑 泰
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
pp.22A023, (Released:2023-11-23)

本研究は小学1~6年生155名を対象に漢字書字課題を行い、正しく整っている/判読可能の2基準で採点し、学力及び視覚情報処理能力との関係を検討した。結果、双方の採点基準で学力との相関を認めたが、整った文字は判読可能文字に比して相関係数が有意に高くはならなかった。また文字の正確性や綺麗に書くこと自体が学習となる下学年では整った文字と視知覚視覚認知の相関が強く、相関は学年が上がると弱くなることから、整った文字を習得する過程では視知覚・認知機能の負荷が高く、上学年で整った文字を書くためには文字の詳細なイメージを思い浮かべる必要性から視覚性ワーキングメモリへの負荷の高さが示唆された。よって学力を従属変数とした場合に正しく整った文字が書けることの蓋然性は確認されず、文字形態を整える指導に注力することは発達障害をはじめとする認知機能に個人内差のある児童の学習到達度には好影響とはならない可能性が考えられた。
著者
夏堀 摂
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.11-22, 2001-11-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
5 1

本研究の目的は、障害種別による母親の障害受容過程の差異を検討することである。対象者は、自閉症児の母親55名とダウン症児の母親17名。調査は質問紙法を用い、選択方式および自由記述方式で回想法により回答を求めた。その結果、以下の点が明らかになった。(1)種別によって、障害の疑い、診断、療育開始の時期、心理的混乱がもたらされる時期に有意差が認められた。(2)受容までに要する時間は、ダウン症群に比べ自閉症群の方が有意に長かった。(3)障害種別間で有意な関連が認められた7つの変数は、診断の困難さに関係している変数であった。(4)自閉症児の母親の心理的反応には、障害の疑いから診断までの第一次反応と診断後に生じる第二次反応があった。診断が確定され障害認識に至っていても新たな問題の生起によって、母親の障害受容は阻害されていた。
著者
松本 敏治 崎原 秀樹
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.237-246, 2011 (Released:2013-08-20)
参考文献数
16
被引用文献数
1

青森県津軽地方の発達障害にかかわる人々の間には、「自閉症は方言(つがる弁)をしゃべらない」との噂が存在する。本研究では、青森県および秋田県県北地区で発達障害にかかわる教員に対して、自閉症・アスペルガー症候群(ASD)、知的障害(ID)、定型発達児(TD)の方言使用についてアンケート調査を行った。青森県では、噂の既知未知と噂の肯定否定についても調査した。さらに、青森県のある特別支援学校(知的障害)の教員に、担当する児童生徒ごとに44語のつがる弁と対応する共通語、訛りについて評定を求めた。結果は、次のことを示した。1)青森秋田ともに、ASDは、IDおよびTDに比べて方言使用が少ない、2)青森では回答者の36%が噂を知っており、52%がこの噂を肯定した、3)ASDと知的障害の方言使用の差は、発音、イントネーション、および終助詞によるとされた、4)特別支援学校のASDの児童生徒は、つがる弁語彙および訛りの使用が少ないと判断された。
著者
新美 明夫 植村 勝彦
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.1-12, 1984-09-30 (Released:2017-07-28)

先に構成した学齢期心身障害児をもつ父母のストレス尺度(植村・新美、1983)について、その因子構造と、障害児の加齢に伴う変化を明らかにすることを目的として、調査・分析を行った。父母各31下位尺度について、主因子解/バリマックス回転の結果、母親は、問題行動と日常生活、将来不安、人間関係、学校教育、夫婦関係、社会資源、療育方針の7因子、父親は、人間関係全般、現状と将来、社会資源と地域社会、学校教育、問題行動、健康状態の6因子を抽出した。次に、障害児の加齢に伴う因子構造の変化を探るべく、障害児の学年によってサンプルを父母各3群に分け、おのおのの因子構造を比較した。その結果、母親は7因子中5因子、父親は6因子中4因子が、3群すべてに共通する因子と判断された。他の因子については、障害児の加齢に伴って因子構造に変化がみられ、その多くが小学校低学年と高学年の間に起こることが指摘された。
著者
松本 敏治 崎原 秀樹 菊地 一文 佐藤 和之
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.263-274, 2014 (Released:2015-11-19)
参考文献数
20

本研究では、自閉症スペクトラム児(ASD)・知的障害児(ID)・定型発達児(TD)の方言使用について、国立特別支援総合研究所の研修受講者、および近畿・四国・九州の特別支援教育関係教員を対象にアンケート調査を実施した。さらに、高知市内の特別支援学校(知的障害)の教員に、担当する個別の児童生徒の土佐弁語彙と、対応する共通語語彙の使用程度の評定を求めた。また、調査1の回答者に対してASD・ID・TDへの自身の方言使用程度についてアンケート調査を行った。結果は、1)すべての調査地域でASDの方言使用はID・TDにくらべ少ないと評定された。2)高知においてASDの方言語彙使用は非ASDに比べ顕著に少なかった。3)教師による方言は私的な場面でのTDへの話しかけで多用され、学校場面でのASDおよびIDへの話しかけにおいては減少していた。これらの結果について、方言の社会的機能の側面から考察を加えた。
著者
野口 晃菜 米田 宏樹
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.413-422, 2012 (Released:2013-09-18)
参考文献数
41

米国では、連邦法により、障害のある児童生徒も通常教育カリキュラムへアクセス可能とすることが各州に義務付けられている。本稿では、障害児教育が場の議論からカリキュラムの議論へ移行した背景を整理し、通常教育カリキュラムへのアクセス方法および知的障害カリキュラムの研究動向と成果を整理した。通常教育カリキュラムへのアクセスは、スタンダード・ベース改革とインクルーシブ教育の実践レベルでの課題の両方への対策として講じられた。アクセス方法に関しては、RTI導入や「カリキュラム修正」が挙げられた。知的障害のある児童生徒については、教科の機能的内容が科学的根拠に基づき指導され始めている。スタンダードに基づいた教育内容の指導および試験への参加が、障害のある児童生徒の教育成果を測る方法として適切であるのか、通常教育カリキュラムへのアクセスが、多様なニーズに対応するインクルーシブ教育として評価され得るのか、検討されなければならない。
著者
柳澤 亜希子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.13-23, 2007-05-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
3 1

本研究は、障害児・者と暮らす兄弟姉妹(以後、「きょうだい」と記す)が直面する諸問題とそれに対する支援の動向について概観し、今後のきょうだいに対する支援のあり方について提言することを目的とした。従来、障害児・者のきょうだいへの支援は、同じ立場にあるきょうだいが交流する場を設け、彼らの不安や悩みを緩和することを目的とした心理社会的な支援がおもに実施されてきた。一方、障害児・者の障害特性や対応方法について学ぶことを目的とした教育的な支援は、実施の際の指針となる知見が不十分であるために、国内外ともに体系的な活動までには至っていないことが明らかとなった。今後、障害児・者のきょうだいに対する支援においては、どの時期に、どのような情報を提示していくべきか、教育的支援の内容を体系的に構築していく必要性が示唆された。
著者
内田 佳那 丹治 敬之
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.13-25, 2023-05-31 (Released:2023-11-30)
参考文献数
20

本研究は、漢字の読み書きに困難のある小学6年生の発達性読み書き障害児1名を対象に、 遠隔形式による漢字の読みと意味、漢字形態の想起を促す書字指導プログラムの効果を検討することを目的とした。また、学習の定着を目指した家庭学習を実施し、学習効果の長期維持を検討した。その結果、漢字書字の正答数の向上と、おおむね介入から2か月後までの学習効果の維持が認められた。社会的妥当性では、学習方法の適合度、母親の負担度、参加児の学習意欲の変化に対し、肯定的な評価が得られた。本研究の成果から、漢字の読字と書字の困難、語彙の低成績を示す子どもには、漢字の書字指導に加え、漢字の読みと意味の指導の有効性が指摘できた。さらに、学習の定着には、不十分な学習内容の反映、子どもが意欲的に学習に取り組める方法での家庭学習機会の設定が効果的であると考えられた。
著者
上久保 恵美子 比企 静雄 福田 友美子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.11-18, 1997-01-31
被引用文献数
1

聴覚障害者の社会活動のための言語媒体の有効性について分析する研究の一環として、各種の言語使用の場面に応じた言語媒体の使い分けと手話通訳者の有効性を検討した。この研究で使った調査資料は、東京と近県の重度聴覚障害者に1991年に質問紙を郵送して、20歳〜70歳の男女約1,700人から回答を得たものである。そのうちの、口話・手話・筆談などの使用についての諸項目の応答を、種々な場面での有効性に注目して分析した。その結果、旅行、市役所・警察・病院、子供の入学式・卒業式、子供のPTAの集まり、駅やバス・電車の放送などの日常生活での対照的な言語使用の場面に応じて、言語媒体の使用の割合や有効な程度が著しく異なること、手話通訳者や介助者の助けが場面によっては有効に役立っていることが明らかになった。
著者
安藤 里美
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.1-5, 1992-03-30

特殊学級に在籍している自閉症児T君のコミュニケーション能力および普通学級の先生や児童との交流を促進する目的で、毎朝、コミュニケーションカードを用いて普通学級で「欠席調べ」を行うという係活動の実践を行った。この活動の効果は、各学級での「欠席調べ」の遂行の変化と、個別に各普通学級担任がT君に本を読ませるという「音読テスト」の場面で検討された。効果測定では、直接の行動観察の他に、第三者による印象評定が用いられ、それぞれ「欠席調べ」による効果が確認された。また、他の日常場面でも、T君と普通学級担任ならびに児童との交流の変化がみられ、当実践はT君のコミュニケーション能力と交流の促進のために有効なプログラムのひとつであったと言えよう。
著者
熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.97-106, 1999-11-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1

本研究では、算数障害という用語の内容や範囲について明らかにするために、主として米国における学習障害の法制度上の位置づけと教育的アプローチにおける算数障害のとらえ方、内外の学習障害研究の枠組みの中で論じられる算数障害のとらえ方、日本で実質上学習障害の診断に重要な国際的な医学的診断基準における算数障害のとらえ方について概観した。その結果、それぞれの視点によってこの用語が指し示す内容や範囲が不明確で多義的であることが明らかとなった。わが国においても、学習障害に関する制度上の位置づけが検討されているが、改めて算数障害という用語を明確に規定する必要があると考える。算数障害という用語の定義は、発達的視点を導入すること、計算障害のみではなくより広い概念としてとらえること、下位分類においては、認知障害の特徴に対応した指導へつながるような情報処理的観点を含めることという3点が重要であることが指摘された。
著者
松本 敏治 崎原 秀樹
出版者
The Japanese Association of Special Education
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.237-246, 2011

青森県津軽地方の発達障害にかかわる人々の間には、「自閉症は方言(つがる弁)をしゃべらない」との噂が存在する。本研究では、青森県および秋田県県北地区で発達障害にかかわる教員に対して、自閉症・アスペルガー症候群(ASD)、知的障害(ID)、定型発達児(TD)の方言使用についてアンケート調査を行った。青森県では、噂の既知未知と噂の肯定否定についても調査した。さらに、青森県のある特別支援学校(知的障害)の教員に、担当する児童生徒ごとに44語のつがる弁と対応する共通語、訛りについて評定を求めた。結果は、次のことを示した。1)青森秋田ともに、ASDは、IDおよびTDに比べて方言使用が少ない、2)青森では回答者の36%が噂を知っており、52%がこの噂を肯定した、3)ASDと知的障害の方言使用の差は、発音、イントネーション、および終助詞によるとされた、4)特別支援学校のASDの児童生徒は、つがる弁語彙および訛りの使用が少ないと判断された。
著者
宇野 宏幸
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.479-491, 2003-01-30
被引用文献数
1

近年、行動抑制の欠如という観点から、注意欠陥多動性障害(ADHD)が理解されつつあり、今後、そのプロセスの解明が期待されている。本論文では、そのプロセスに注意の欠陥から直接的にあるいは注意欠陥によって認知処理がうまくできないために行動抑制ができない場合と、情動制御の失敗によって生じる衝動性の2つがあることを述べる。さらに、この2つのプロセスに対応するメカニズムが大脳皮質の前頭前野に存在し、これらが実行的注意の中枢で統合されていることを説明する。以上の知見をふまえて、ADHDの行動抑制障害に関して階層的な認知神経心理学的モデルを提案する。
著者
福島 智
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.9-17, 1994-06-30 (Released:2017-07-28)

盲ろう児の言語発達における基本的諸問題について、先行研究の整理を通して検討した。盲ろう児の発達遅滞は、第1にあらゆる外部情報の不足、第2に言語的経験の不足、第3に知的・情緒的発達の遅滞という三つの層からなる構造を持っていると思われる。そして、これら三つの層の遅滞を克服するためには、とりわけ、第2の層に関わる困難に取り組むことが重要だと考える。また、触覚を用いた探索行動と、「身振り語」の使用は、初期の言語発達を促進する上で、本質的な要因だと考える。次に、盲ろう児の言語発達における「読み」の教育の意義と困難さについて述べたが、これまでのこの分野の研究はほとんど行われていない。盲ろう児に対する「読み」の教育は想像力の発達と密接な関連を持っている。そして、「読み」の教育は、次の諸点を考慮しつつ構想されるべきだと考える。それらは、1.「読み」の理解を助けるための手段、2.「読み」の素材、3.素材と盲ろう児の経験との関係、4.盲ろう児の経験の質、についてである。
著者
武藤 崇 唐岩 正典 岡田 崇宏 小林 重雄
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.31-42, 2000-09-30 (Released:2017-07-28)

本研究は、広汎性発達障害幼児に対する適切な排尿行動の形成を目的とした。そのトイレット・マネイジメント手続きは、短期集中ホーム・デリバリー型の支援形態で実施された。まず、両親に対するインフォームド・コンセント(説明と同意)と、機能アセスメントに基づく援助計画が立案された。次に、その計画に基づいた援助がスタッフと親によって実施された。その結果、マネイジメント援助期において、定時排泄機会の設定間隔を12日間で20分間から50分間まで延ばすことが可能となった。さらにマネイジメント維持期の最終段階で排尿間隔が平均140分まで延び、自発的なトイレへの移動も観察された。また、本援助に対する両親の満足度は非常に高かった。今後は、このような支援形態での援助手続きの伝達方法をさらに検討する必要性が示唆された。
著者
松本 敏治 崎原 秀樹 菊地 一文 佐藤 和之
出版者
The Japanese Association of Special Education
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.263-274, 2014

本研究では、自閉症スペクトラム児(ASD)・知的障害児(ID)・定型発達児(TD)の方言使用について、国立特別支援総合研究所の研修受講者、および近畿・四国・九州の特別支援教育関係教員を対象にアンケート調査を実施した。さらに、高知市内の特別支援学校(知的障害)の教員に、担当する個別の児童生徒の土佐弁語彙と、対応する共通語語彙の使用程度の評定を求めた。また、調査1の回答者に対してASD・ID・TDへの自身の方言使用程度についてアンケート調査を行った。結果は、1)すべての調査地域でASDの方言使用はID・TDにくらべ少ないと評定された。2)高知においてASDの方言語彙使用は非ASDに比べ顕著に少なかった。3)教師による方言は私的な場面でのTDへの話しかけで多用され、学校場面でのASDおよびIDへの話しかけにおいては減少していた。これらの結果について、方言の社会的機能の側面から考察を加えた。
著者
尾﨑 充希 塩津 裕康 田中 悟郎 岩永 竜一郎
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.87-97, 2022-08-31 (Released:2023-02-28)
参考文献数
18

特別支援学校高等部に通う脳性まひ者2名に対して主体的に問題を解決する力を育むために、日常作業遂行に対する認知オリエンテーション(CO-OP)を基盤とした個別介入を行い、その有用性を検証することを目的とした。その結果、生徒自身で目標を設定し、認知戦略を発見し、目標を達成することができた。カナダ作業遂行測定(COPM)、ゴール達成スケーリング(GAS)、遂行の質評定スケール(PQRS)の数値が、事前評価から事後評価で生徒2 名ともに向上し、その後のフォローアップにおいても効果を維持することができた。そのうち1名の生徒は、Vineland-Ⅱの粗大運動のスコアが、事前評価の22点から事後評価では34点に向上した。本研究により、脳性まひ者の主体的な学びの実現を目指すために、CO-OPを基盤とした個別介入が特別支援教育の場において有効であることが示唆された。
著者
奥田 健次
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.23-31, 2001-11-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
6 1

本研究においては強度行動障害と重度の知的障害をもつ自閉症者に対して、適切な排泄行動の形成を目的とした嫌悪的な手続きによらないトイレット・トレーニングの効果を検討した。本事例においては、トイレ場面以外での排泄行動(排便・排尿)が長期にわたって問題化している対象者に対して、生態学的調査と排泄に至るまでの行動の課題分析を行い、それらにもとづいて積極的練習による介入を行った。その結果、対象者の排泄に至るまでの行動ステップに改善がみられ、それに伴って日常場面でのトイレ以外での排泄行動が減少し、トレーニング終了後においても、低いレベルのまま推移した。これらの結果から、長期にわたって排泄の問題をもつ事例においても、排泄行動の形成のために、生態学的調査にもとづく課題分析と積極的練習による介入の有効性が示された。施設において実施可能な指導プログラムについて検討を行った。