著者
久保山 茂樹 菅井 邦明
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.13-22, 1993-09-17
被引用文献数
1

本研究では発達遅滞児124名の音声言語行動の諸相を把握・分析した。筆者と対象児とが歌遊び『げんこつ山』を行う場面を観察、録画した。分析には菅井(1989)の評価法を用いた。結果は5段階に分類された。A段階(35名):動作と肉声の歌の提示下で動作発信できる。B段階(67名):肉声の歌のみの提示下で動作発信できる。C段階(14名):所要時間13秒のテープに録音した歌の提示下で動作発信できる。D段階(3名):10秒のテープの歌の提示下で動作発信できる。E段階(5名):伴奏や語りの入ったレコードの歌の提示下で動作発信できる。対象児はA段階では歌わず、C段階で歌い始め、E段階で完全に歌った。E段階に至る過程には、視覚→動作系、聴覚→動作系、聴覚→構音系の順で情報処理の学習が必要であった。A、B段階では動作の提示が行動発現に必要であり、C、D、E段階では音声の提示のみで、音声言語を受信-発信できた。各段階に応じた指導について考察した。
著者
阿部 美穂子 神名 昌子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.157-167, 2016 (Released:2019-02-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

本研究は、質問紙調査と面接調査により、障害のある子ども(以下、同胞とする)の兄弟姉妹(以下、きょうだいと表記)の同胞に関する否定的感情の強弱と親からのサポート期待感の高低の関係を検討することを目的とした。小学生から成人のきょうだい335名の質問紙調査の結果、サポート期待感が高い群の否定的感情の平均値は、サポート期待感が低い群より有意に低いことが示された。また、否定的感情の強い群、弱い群に属するきょうだいとその親計12組の面接調査の結果、否定的感情が強いきょうだいの特徴として、家族に悩みを相談しない傾向、父親とのかかわりの希薄さが示唆された。また、否定的感情が弱い群の親がきょうだいの意思や感情を受容するサポートをしているのに対し、強い群の親には同胞の障害理解・対応促進を重視するサポートがみられた。このことから、きょうだい支援にあたり、両親ときょうだいとの受容的・支持的関係性を促進する必要があることが示唆された。
著者
渡部 信一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.33-39, 1996-03-30 (Released:2017-07-28)

今回筆者は、それまで全く指導を受けたことのなかった「指書」をコミュニケーション手段として突然使い始めたひとりの音声言語を持たない自閉症児を経験した。本事例は幼児期から文字に対しては著しい興味を示し、「指書」出現以前にも単語(ひらがな、カタカナ)の書字はある程度可能であったが、それをコミュニケーションに用いることは全くなかった。初めて「指書」が出現してから3ヵ月後には30単語、6ヵ月には100単語以上が観察され、その後も2単語の連続や品詞の拡大(形容詞、動詞、助詞、感情語)などの発展が認められた。従来、自閉症児に対し音声言語以外のコミュニケーション手段を意図的・系統的に指導した報告は多数あるが、本事例では事例自らが「指書」という新たなコミュニケーション手段を使い始めたという点で従来の研究とは異なった意味を持つと考える。
著者
高野 聡子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.223-231, 2017

「精神薄弱児施設」とは、精神薄弱児を収容し教育と24時間の処遇を提供した入所型の施設である。国内では第二次世界大戦までに約10か所の精神薄弱児施設が創設され、精神薄弱児を保護するとともに、精神薄弱児のための教育を施設内で提供した。本稿では、戦前期に創設された精神薄弱児施設に関するこれまでの研究を、2000年代とそれ以前とに分けて整理し、(1)発掘された資料の保存を進め、史資料に基づいた研究がなされること、(2)施設ごとに異なる精神薄弱やその程度に関する用語を再検討すること、(3)精神薄弱児施設で行われた教育内容・方法を障害児教育史に位置づけること、(4)精神薄弱児施設が受けた欧米諸国の教育や処遇方法の影響を検討すること、を精神薄弱児施設史研究の今日的意義と課題であるとした。
著者
伊藤 恵子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-11, 2012 (Released:2013-09-18)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本稿は、自閉症スペクトラム障害(ASD)児の指示詞理解における非言語情報の影響を調べることを目的とした。対象は10名のASD児、対照群は10名の定型発達(TD)者であった。方法は、まず言語教示のみで、つづいて言語教示と異なる対象に視線を向けて、最後に言語教示と異なる対象に指さしをして指示対象を特定する指示詞理解実験を行った。その結果、ASD児はTD者に比べ、話し手の非言語情報を指示対象特定の手がかりとして活用しない者が多く見いだされた。これには、話し手の視線方向の特定や、視線からの話し手のコミュニケーション意図の理解などが関連していると推察され、語用論的能力とも深くかかわる可能性があった。このように対人的情報の処理に多くの困難を抱えるASD児の語用論的能力への支援に際し、その場に即した適切な言語や話しことばの獲得といった表層的行動を扱うだけでは十分でなく、言語獲得の基礎になる社会性の育成への働きかけの重要性が示唆された。
著者
荻野 昌秀
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.257-267, 2021-02-28 (Released:2021-08-31)
参考文献数
23

発達支援のニーズのある児の早期発見、早期支援のために各自治体で5歳児健診が行われているが、5歳児で発達障害やその疑いが確認された場合には就学までに支援を受けられる期間が短い。そこで本研究では、保育所における4歳児時点での早期発見の仕組みに活用できる保育士記入式の発達チェックリストの開発を行った。因子分析の結果、4因子15項目が抽出され、再検査信頼性の検討や、関連が想定される尺度との相関分析などから、妥当性および信頼性が確認された。また、本尺度は他の同様の尺度と比較して短時間で回答できることが確認された。さらに、因子ごとのカットオフポイントについては感度と特異度の優れたものを設定した。今後はこのチェックリストの活用や、専門家巡回と組み合わせた際の効果の検証が望まれる。
著者
松下 浩之
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.47-57, 2018-05-31 (Released:2019-12-04)
参考文献数
38
被引用文献数
1

近年、障害のある人の好みを客観的に評価し、支援計画に活用することの重要性が指摘されている。そのための方法論として、応用行動分析学にもとづいた研究が海外では多くされている一方で、わが国においては、支援実践としての報告も多くない。本研究では、好みのアセスメントに関する海外の先行研究を概観して方法論の整理を行うとともに、直近5年間にわが国で発表された実践研究61編について、本人の好みの活用を観点として分析し、わが国における好みを活用した支援のあり方について検討を行った。その結果、好みを支援に活用している論文は半数以下であり、好みについて明確に記述した論文が少ないことが明らかとなった。その要因については、方法論自体の問題とともに、実践現場での知識不足や認知度の低さなどが考えられた。今後は支援手続きを工夫することで好みを活用していくことと、支援の場で活用できる簡易的なアセスメントの開発が、課題として検討された。
著者
平林 ルミ 河野 俊寛 中邑 賢龍
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.275-284, 2010
被引用文献数
1

書字障害の評価は、これまで書字速度と正確さを測度とする方法が中心であり、書字困難の要因を特定するには不十分であった。そこで本研究では、デジタルペンを用いて小学1年生から6年生までの618名に対し、文章の書き写し課題を実施し、書字行動を運動フェーズと停留フェーズに分けて分析した。その結果、運動に関しては、仮名は小学2・3年生間で、漢字は4・5年生間で急激に書字運動速度が増加すること、停留に関しては、仮名は1年から3年にかけて、漢字は4年から5年にかけて停留時間が短くなることが明らかとなった。停留は運動よりも発達変化がゆるやかであり、また仮名と漢字では発達の過程が異なっていた。運動フェーズは視覚運動協応と、停留フェーズは文字の形態分析や音・意味との結びつきと関連していると考えられ、デジタルペンを用いた新たな書字評価の方向性が示された。
著者
戸崎 敬子 清水 寛
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.39-49, 1987-09-14 (Released:2017-07-28)

大正期における特別学級の実態とその性格を解明するために文部省普通学務局『全国特殊教育状況』(1924年、1927年発行)に記載された「特殊教育」実施校名を手がかりに、現在の学校名と住所を調査した上で該当校に対してアンケート調査を実施した(回収率70.7%)。その結果、60例の特別な取組事例(うち25例が特別学級の事例)を得た。調査結果から次の諸点が判明し、大正期特別学級の全国的実態とそれらの性格の一端を明らかにすることができた。すなわち、1.該当校は学校規模の大きい、伝統のある学校が多い。2.回答事例の特別学級のうち、開設時期の判明した学級のすべてが大正期に開設され、その多くが短期間で消滅している。また学級は多様な呼称を持っている。3.特別学級の対象児童のほとんどが学業成績不良児である。しかし、大正末期には知能検査の普及に伴う変化も生じている。さらに学校沿革誌の史料的価値についても明らかにできた。
著者
干川 隆
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.261-273, 2015 (Released:2019-02-01)
参考文献数
67
被引用文献数
3

本研究の目的は、日本で標準化することを目指して、カリキュラムに基づく尺度(CBM)に関する研究動向を把握することであった。CBMは、米国では介入への反応(RTI)の流れの中で児童生徒の学習の進捗状況を把握するための有力な方法である。研究動向は、CBMの技術的な十分さの確立と活用とCBMの展開と限界の項目にまとめられた。CBMの活用としての研究動向は1)CBMの有効性とそのフィードバックのあり方、2)データ評価決定ルール、3)場による指導の効果の比較検討、4)通常の学級での取り組み、の観点から分類された。CBMの展開として、先行研究は新しい学習障害の認定の手立てと学級全体の進捗状況の把握の観点から紹介された。これまでの研究動向とわが国の現状を踏まえ、CBMの意義とわが国におけるCBMの標準化に向けた取り組みが提案された。
著者
井上 知洋 東原 文子 岡崎 慎治 前川 久男
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.435-444, 2012 (Released:2013-09-14)
参考文献数
24
被引用文献数
6 3

本研究では、学齢期の定型発達児(N=120)における読字能力と音韻処理能力の関連の発達的変化、ならびに読み困難児(N=10)における読みの困難と音韻処理の特性および両者の関連性について検討した。課題はひらがな単文字、単語、非単語の読字課題と、モーラ削除課題、非単語復唱課題を用いた。その結果、定型発達児における読字能力と音韻処理能力の関連の様相は学年段階ごとに異なり、通常の読字発達過程における両者の関連の発達的変化が示唆された。また読字課題の反応時間を音読潜時と発話時間に分けて分析したところ、読み困難児に共通する特徴として単語に対する音読潜時と非単語に対する発話時間、さらにモーラ削除課題の遂行時間の延長が認められた。これらの結果から、ひらがなの読み困難のメカニズムにおいては、単語全体として認識する能力の発達の障害と、音韻意識の障害の二点が強く影響していることが示唆された。
著者
齋藤 友介 草薙 進郎
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.31-38, 1997-01-31
被引用文献数
1

聴覚障害児(者)の読話に影響を与える要因のうち、音節の見やすさが単語の読話成績におよぼす影響を検討した。見やすさの指標としては単音節同定課題から得られた日本語の直音62音節の正答率である音節可視度(齋藤,1992)が使用された。読話材料は語彙難易度を統制するために、「新教育基本語彙」(阪本,1984)における小学校学習相当の単語から選定された。材料にはVTRに収録された音節可視度と語彙難易度が異なる4条件、計20のランダマイズされた3モーラ単語が使用された。対象は聾学校小学部(4〜6年)に在籍する平均聴力レベルが90dB(HL)以上の重度聴覚障害児40名であった。分散分析による検討の結果、音節可視度は単語読話成績に影響を与えることが確認され、さらに、単語読話条件における音節の同定成績は、易しい語彙難易度の単語において、単音節同定課題における成績を上回ることが示された。
著者
小野寺 謙
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.387-394, 2011 (Released:2013-09-14)
参考文献数
12
被引用文献数
1

通常学級に在籍する小学5年女児の注目機能を有するかんしゃく行動(過度に泣いたり、叫んだりする行動)を改善するために、対象児の級友が対象児を日常的に強化していく非随伴強化手続きを導入した。具体的には、級友が対象児への対応の仕方を学習し、帰りの会で対象児の1日の行動を評価した。その結果、かんしゃく行動はほとんどみられなくなり、それはフォローアップ期においても維持された。さらに、学級全体による取り組みにより、級友の問題行動に対する接し方が変容した。意図的、視認的な支援手続きを実行することにより、対象児と対象児を取り巻く級友の行動が変容されうることが示された。
著者
志賀 利一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.33-40, 1990
被引用文献数
4

我が国でも、発達障害児の治療・教育分野に応用行動分析の手法が用いられてから、既に20年が経過している。この間、多くの行動分析家は、学習理論をベースに様々な指導・評価手続きを開発したり、発達障害児の特異的な行動の解明に貢献してきた。一方米国では、社会的な変化に敏感な反応を示し、"応用行動分析は障害をもつ人の生活の質を向上させる一手段である"と割り切る、より実践的でノーマライゼーションの思潮を意図的に支持する研究者が増えてきている。例えば、彼らは般化と維持の問題は、指導により獲得したスキルを生徒のライフスタイルに組み込むことだと考えている。そして、これを実現するためには、"標的行動の教育的妥当性"、"自然な環境の詳細な分析"、"指導場面の論理性"、"アセスメント方法"などで、より一般化した方法論が必要だと主張している。私達も、障害をもつ人のライフスタイルの変容を期待される以上、この文化に合ったノーマライゼーション化の手段を検討する時期に来ている。
著者
近藤 文里
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.65-78, 2000-06-30 (Released:2017-07-28)

本論文は、子どもの時期に受けた前頭葉損傷の後遺症に関する2つの仮説の妥当性を検討した。第1の仮説は、発達の早い時期に前頭葉に損傷を受けた子どもの場合は、障害がすぐには現れず、遅れて現れるとする「障害の遅延生起」仮説である。また、第2の仮説は、子どもの時期に前頭葉に損傷を受けた症例は成人のそれよりも行動の障害がより重いとする仮説である。この仮説を検討するため、従来報告された14症例について損傷時期ごとに分類したうえで、損傷直後とその後の行動特徴の推移を調べた。その結果、第1の仮説は支持されたが、より重要なこととしては発達の時期ごとに特徴的な問題が現れることが明らかになった。また、第2の仮説も支持されたが、子どもの時期に受けた前頭葉損傷のなかでも両側性前頭葉損傷は片側前頭葉損傷よりも重大な行動の障害を示すことが明らかになった。
著者
高畑 庄蔵 武蔵 博文 安達 勇作
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.9-16, 1999-03-30
被引用文献数
1

本研究の目的は、知的障害の養護学校高等部生徒9名を対象として環境・リサイクルに関する授業を実施し、対象生徒がそれぞれの家庭においてゴミ出し行動を自発し長期的に維持することであった。家庭場面での標的行動の自発を促進するために「生活技能支援ツール」(武蔵・高畑,1997)として「ゴミ出しミニブック」を作製し、対象生徒に提供した。それは、標的スキルの習得や実施を容易にする手がかりとなるもの、自己の行動を記録して、対象生徒と保護者と教師とが評価し合う機会を提供するものとで構成された。結果、5名について標的行動の実行が確認され、授業終了から1年5カ月間の維持が確認された。また、生徒本人に標的行動に関する事前・事後アンケート、保護者に生徒の家庭場面における標的行動の自発に関するアンケートを実施した結果、概ね肯定的な評価を得た。家庭場面での標的行動の自発・長期的な維持の方略、養護学校における教育的支援のあり方の観点から考察を行った。
著者
黒田 吉孝
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.15-24, 2003-05-30 (Released:2017-07-28)

本研究は初期言語発達にある自閉症児の大小概念の獲得の特徴を検討した。本研究では具体的「対」概念と抽象的「対」概念という考えを導入してこの問題を検討した。前者では、「お父さんと赤ちゃん」の人形(実験3)と、「お父さんと赤ちゃん」の言葉(実験2)が呈示された。後者では、「大きいと小さい」の言葉(実験1)が呈示された。それぞれの実験で、子どもは大きい対象を選択する必要があった。自閉症児は幼児群(平均生活年齢4:5、平均発達年齢3:1、平均発達指数69)と学齢児群(平均生活年齢14:5、平均発達年齢3:9、平均発達指数27)からなっていた。対照群は、発達年齢が2歳代と3歳代の健常児と知的障害児であった。自閉症幼児群は健常幼児群よりも成績が劣っていたが、反応傾向は健常幼児群や知的障害児群と似ていた。一方、自閉症学齢児群は、3課題とも他の群よりも成績が悪かっただけでなく、特異的な傾向をしめした。また、各実験において、彼らの中に大きい対象を選択せずに対象の名前を言うケースが比較的多くみられた。自閉症学齢児群における大小概念獲得の困難さの原因にこのような反応が関係していることを指摘した。本研究ではさらに初期言語発達にある自閉症児の具体的な「対」概念と抽象的な「対」概念の関係についても考察を加えた。
著者
林 宝貴
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.49-62, 1975-12-15 (Released:2017-07-28)

特殊教育先進国における聾児言語指導は医学・心理・教育・工学など諸科学の発達の影響下で、口話法・聴能訓練を改善促進して著しい効果をあげているにも拘わらず在学中の聾唖生及び社会人としての聾唖者は、依然手話を交信の主な手段・又は補助手段として偏重している。最近特殊教育先進国の教育・心理学界の学者達も手話の存在価値を見直し再評価しようという傾向があり、僅かながらも、それに関する実験調査の報告が出ている現状にかんがみ、手話を言語指導上の補助手段として位置づけ、より合理的な手話の整理・研究を行なうための先行調査研究として、アメリカ・日本・中華民国(以下台湾と省略する)の手話法について比較研究を試みたい。
著者
北野 与一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.1-8, 1979

この報告は、私立金沢盲唖院に関して、松村精一郎の生涯、彼が育まれた石川県の社会的教育的背景、彼の設立の動機、設立経過、閉院の理由、設立者の特質、課題などに若干の考察を行ない、これまでに発表されたいくつかの報告に補充を加えるものである。松村の書簡及び当院に関係する教育史的史料などの文献により考察した結果、(1)松村は天然痘とその余病により、聴覚・言語・運動障害をもっていた、このことが当院の特質であった、(2)彼は障害者に理解のある師に教えられ、協力を惜しまない親友をもっていた、(3)加賀藩に紹介された欧米の盲・聾教育が、松村の成長に間接的に影響していた、(4)中村正直に師事したことや、帰郷途中、京都で楽善会友に出会い、京都盲唖院を参観したことが、松村の設立の動機であった、(5)研究・調査に大阪、京都校を訪れた、(6)経済的変動やコレラの流行、県令の更迭、就学勧誘の努力の不足も閉院の要因であったなどの結論を得た。
著者
古川 宇一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.34-46, 1978-03-15 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1 1

中部太平洋岸の小漁村における成人知的遅滞者の生活状況の特徴とその社会的背景について検討した。資料は知的遅滞者の家族・職場関係者、村人との面接資料、および関係事務所の文献資料である。世帯数371、カツオ・マグロ遠洋漁業を主産業とするこの村では、男子知的遅滞者は1人前に働きうる存在であり、就業し家庭を持っているものが多い。女子の場合、結婚するか、さもなくば次世代の家族に扶養されている。村人の態度は受容的であり、知的遅滞が問題になることは比較的少い。このような知的遅滞者の生活状況を支える社会的背景として、地域社会の主産業である漁業の技術的単純性、職場適応への良い教育環境、職場・地域社会における強い血縁的紐帯、漁業利益配分における古い平等原則の残存、世帯間の生活様式の類似性、家計収入面での利害の共有性、古くからのつきあいの緊密性、しつかりした家制度の残存などの要因が考えられた。