著者
吉田 安規良
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.115-125, 2007-11-30
被引用文献数
2

ナトリウム-銅(II)-グリセリン錯体法を利用して,脂肪が酵素によって分解し,グリセリンが生成することを確かめる教材実験を開発した。基質としてオリーブ油を選定した。消化液は市販のビオフェルミン健胃消化薬錠から0.50%(W/V)リパーゼAP6溶液を調製して用いた。試験管にオリーブ油と調製した消化液を1.0 mLずつ入れて撹拌した後,40℃で24時間反応させた。24時間後の消化液はナトリウム-銅(II)-グリセリン錯体法によって,グリセリンの存在を示す青色を示した。失活した消化液では青色を示さず,グリセリンが生成しないことを確認した。遠心分離機の代わりにろ紙やディポーザブルメンブレンフィルターユニットを用いても実験が可能であることを確かめた。ビオフェルミン健胃消化薬錠以外の胃腸消化薬でも,同様の結果を得られるものがあることを確認した。
著者
池田 仁人 戸北 凱惟
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-9, 2004-05-17
被引用文献数
6

子どもたちの科学概念は、認知的要素と、情意的な要素により構成される。それは「知的な気付き」の獲得に必要な要素と重なる。そのため、本研究では、小学校低学年における理科教育の基礎として、自然教材に触れる中で生まれる「知的な気付き」に着目した。本研究は、言葉を手がかりに、生活科の学びの場から子どもたちの「気付き」を取り出し、どのような「気付き」をしているのか、今まで着目されてこなかった子どもだけでいる場面も含め、学校臨床場面から再点検していくこととした。「知的な気付き」の発現を促す学習環境づくりのために、教師周辺、子どもだけでいる場といった、学習場面による「気付き等」のあらわれ方の違いについても調査を行った。その結果、子どもたちの発言を、5つのカテゴリにあらわすことができた。その中の「科学の基礎的発言」は認知面、情意面において「自然事象にかかわる知的な気付き」を表すものである。また、この発言群は、学習活動場面の違いにかかわらず同じように発現することがわかってきた。これにより、教師付近の発話が全体の学習材へのコミットメントを推定する材料となることが明らかになった。また、「共感的な発言」は、他者に対する理解、能動的なかかわりを示す、「人にかかわる知的な気付き」を表すものであり、学習場面の違いに影響されている可能性がある。また、5つの発言はそれぞれ独立して活動の一場面に表れるのではなく、互いに影響し合いながら活動を構成している。ある発言が他の子どもの対象へのかかわりを強めたり弱めたりすることもある。
著者
大澤 得二
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.135-140, 2007-11-30

俵浩三の指摘により,牧野植物図鑑以外に村越三千男の一連の植物図鑑が存在していたことが明らかにされた。牧野富太郎著とされている「日本植物図鑑」は,村越の「植物図鑑」を改訂したものであるという指摘を確認するために,一連の村越図鑑と牧野図鑑を比較した。牧野富太郎著「日本植物図鑑」の図の約半分は村越の「植物図鑑」のものであり,この図鑑は牧野の著作物とは言えないものであった。この図鑑に牧野が追加した図の一部は,その後の「牧野日本植物図鑑」にも使われていた。一方,村越三千男は少なくとも三度に渡り植物図鑑を編纂している。明治の初等中等学校の理科教育は自然観察を主体としたものであり,その後,大正,昭和初期において村越の図鑑が理科教育に残した功績は正しく評価されるべきである。
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.293-293, 2013 (Released:2013-12-12)

戸倉則正・藤岡達也(2013)「津波に起因する河川災害の取扱いについての一考察―東日本大震災をふまえた津波に対する防災教育の観点から―」『理科教育学研究』第54巻,第1号,51–59.におきまして,DOIの命名規則の変更がございましたので,下記の通り訂正いたします。誌面につきましては次頁のようになりますので,ご利用下さい。なお,J-STAGE上の当訂正記事では,該当論文の全頁のPDFをご利用頂けます。著者ならびに関係者の皆様にお詫びを申し上げるとともに,訂正いたします。p.51<誤> doi:10.11639/JRSE12032<正> doi:10.11639/sjst.12032日本理科教育学会「理科教育学研究」編集委員会
著者
白數 哲久 荻野 雅
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.25-34, 2002-03-29
被引用文献数
1

筆者は小学校理科の問題解決的な学習において,どの程度の主体性を児童に期待できるかを検討するために,2つの新しい尺度を考案した。1つは問題解決的な学習において,児童にどの程度の主体性があったかを示すS密度である。このS密度は次の式で求める。S密度=ある単元での主体的な学習の度合いを数値化した全ポイント合計÷その単元の授業時数もう1つは児童の学習内容に対する印象の良し悪しを示すI指数である。このI指数は次の式で求める。I指数=ある単元での児童の学習内容に対する印象を数値化した印象度得点合計÷児童数 本研究では,相関表(SI相関表)を用いて両者の相関関係を調べ,次のような結論を得た。(1)S密度が低いと,I指数も低い。特にC領域「地球と宇宙」でこの傾向が強い。(2)S密度が普通または高いと,I指数も普通または高くなる傾向が見られる。(3)S密度が非常に高くてもI指数は普通程度にとどまる。この現象が見られたのはB領域「物質とエネルギー」でのみである。今回考案したS密度あるいはそれを求めるプロセスは,教師が授業計画の反省あるいは修正に用いるのに有効である。
著者
高橋 多美子 高橋 敏之
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.51-61, 2007-07-31 (Released:2022-06-30)
参考文献数
76
被引用文献数
6 1

本論は, 自然体験の幼少期における重要性を再検討し,子どもの成長における意義を明らかにする。16 世紀より欧米の教育思想家が,幼少期の自然体験の重要性を唱え,実践してきた。日本では教育研究者が,その影響を受け,独自の教育論を展開し,教育界に貢献した。今日では様々な研究者が,幼少期における自然体験の重要性や意義を指摘している。その意義とは,知・徳・体のバランスのとれた人格形成に繋がり,多面的な教育的効果が期待できることである。近年自然体験は,子どもを取り巻く環境の変化から減少傾向にある。このような現状を危惧し,教育行政は,子どもの自然体験を促す取り組みを実施しているが,効果が十分に表れているとは言えない。今後の課題として,大人が子どもの成長に自然体験が有用なことを認識し,意図的に体験を促す必要があり,豊かな自然環境の整備や地域や家庭に定着した活動の推進が考えられる。
著者
松森 靖夫
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.27-39, 1999-11-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
20
被引用文献数
4

本研究の主目的は,以下の3点である。(1)命題の科学的真偽を判断する際に,子どもが用いる命題論理について把握する。(2)子どもなりの命題論理に適合した真偽法による評価シートについて提案する。(3)提案した真偽法(評価シート)の活用可能性などについて検討を加える。そして,以下のような知見を得たので報告する。(1)自然の事物現象に言及する命題の真偽を判断する際,子どもなりの多様な命題論理(真・偽以外の新たな真理値を設定する“子どもの多値論理学”)の適用が想定されること。(2)コメット法(“子どもの命題論理学”に適合した“多値真偽法” )による評価シートを開発したこと。具体的には,(「そう思う」・「そう思わない」・「分からない」・「ほかの考え( )」という四つの真理値で構成される評価シートである。(3)提案した評価シートは,理科教育実践において活用可能であると考えられるが,解決すべき課題(命題文の表記の問題など)も想定されること。
著者
大髙 泉
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.13-24, 2000-07-31 (Released:2022-06-30)
参考文献数
61
被引用文献数
1 1

科学教育における近代科学の基本的自然観の再生産の問題はこれまで全くといってよいほど扱われてこなかった。しかし近代科学を生み出しえなかった非西欧に属するわが国の理科教育の特質を理解するうえでも,また理科の学習を進めるうえでも,近代科学の基本的自然観の再生産という問題は,看過できない重要な問題であることを指摘した。そしてこの問題を研究する基本的視点として,理科教育史的視点,理科教育の目的論的視点,及び比較理科教育学的視点をも含めた包括的な理科教育論的視点の3つを提案した。さらに, ドイツの著名な実践家であるヴァーゲンシャインによる「落下の法則」の範例的教授過程を事例として取り上げ,「自然の数学化可能性」観の伝達の意味と方法を分析し,近代科学の誕生を見た西欧の科学教育論における近代科学の基本的自然観の再生産の様相の一端を解明した。
著者
比樂 憲一 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.155-162, 2023-11-30 (Released:2023-11-30)
参考文献数
20

本研究は,小学校第6学年「燃焼の仕組み」に,『ロウソクの科学』(ファラデー,2012)のテクストの一部を用い,三読法(石山,1973)による解釈的読みによって,「炭素と酸素の結合による二酸化炭素の生成」を理解させることを試みた実践的研究である。児童はテクストに科学的な問題を発見し,理論,実験方法,得られる結果を読み取りながら有意味に実験を行うことができた。また,実験の成功から理論を確証することでテクストの読みを確かにすることができた。ここでは,粒子モデルを導入して「炭素と酸素の結合」をイメージさせる指導がテクストの読解を支援した。また,テクストの中心的な内容を児童実験で,補足的な内容を演示実験で行うことで,燃焼単元の標準時間内に本実践を組み込むことができた。児童は科学のテクスト読解により「炭素と酸素の結合」を理解することができた。
著者
和田 一郎 森本 信也
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.117-127, 2010-07-07 (Released:2021-06-30)
参考文献数
12
被引用文献数
11

子どもは理科学習において,認識の源泉といえる様々な様態の表象(活動的表象→映像的表象→記号的表象)を有機的に関連付けることによって科学概念を構築している。この際,子どもはこれらの表象を複合的に操作し,相互変換を繰り返しながら事象を把握する表象の変換過程の確立を要求される。このため,そうした学習過程を確立するための教授論的展開に関する検討が強く要請されることになる。そこで本研究では,子どもの表象の高度化を志向した具体的な教授論の構想と授業実践による検証を施すことを主な目的とした。教授論の構想にあたり,筆者らは表象の変換過程において,子どもに内在する表象内容の視詑化の直要性に着目した。これに関わり,まずCheng.M (2008) らが提起する化学の学習における表象の視覚化原理に基づき.表象に関わる視覚化の諸要素.すなわち動作過程,変換過程,分類過程.分析過程.精緻化過程の5つを同定した。その上で,これら5つの視覚化要素を踏まえた教授論的視点を構築し,高校化学(単元:化学反応と熱)を事例に授業実践を施し,子どもの科学概念構築に関わる表象の変換過程の分析を通じて,その視点の有用性を検証した。結果として,子どもの表象内容を教師が適切に視覚化し,デイジタル化を施すことによって,子どもの様々な形式やレベルの表象の結合および表象の相互変換が円滑なものになることが明らかとなった。
著者
小長谷 幸史 小田島 大 山家 真奈美 高橋 悠斗 古俣 真夕 重松 亨
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.425-435, 2022-11-30 (Released:2022-11-30)
参考文献数
21

分子生物学など幅広い分野で用いられているポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は,現在では高等学校の生物の教科書にも記載され,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査で用いられていることにより社会にもPCRが広く認知されるようになった。高等学校の生徒に対してPCRの原理と応用に関する質問紙調査を行った結果,ほぼ全員PCRという言葉を知っていたが,SRAS-CoV2の検査に関すること以外の記述はほとんどなかった。この生徒に対し大学と連携によるPCRの実験を伴った授業を行った。授業は通常の授業時間のなかで説明,PCRの操作,電気泳動を含めて2校時内に行うものとし,PCRは3台の温度の異なるウォーターバスを用いて生徒が反応液の入ったPCRチューブを移動させる“手動PCR”の方法で行った。PCRは原核細胞の16SリボソームRNA遺伝子のほぼ全域の約1500 bpの部分を標的とし,試料は納豆から分離したBacillus subtilisの菌体およびそのDNA,納豆の粘りを用いた。1校時目に全体の説明とPCRの反応操作を行った。PCRの条件は初期変性2分間の後,94°C 20秒間56°C 20秒間72°C 20秒間の25サイクルで行った。2校時目にPCR後の反応溶液を電気泳動に供した結果,9班中2班で目的のPCR産物が得られていた。本実践では感染症対策を十分にとって行うことができた。授業後の課題の設問への解答にはPCRの原理や検査以外の応用の記述がみられるようになった。本実践により通常の授業時間の2校時と課題による時間外学習によりPCRについて学ぶことができる生徒実験が構築できる可能性が見出された。
著者
松橋 博美 菊地 友佳子 伊藤 崇由 林 昭宏
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.293-300, 2017-03-18 (Released:2017-04-12)
参考文献数
12

エチレンの生成について高校化学の教科書では, 加熱した濃硫酸にエタノールを滴下するという実験方法が紹介されている。しかし, 濃硫酸の扱いや実験に危険が伴うため, あまり普及していない。エチレンの生成と脂肪族炭化水素の性質に関する実験について, 酸化アルミニウムやYゼオライトならびにベータゼオライトを触媒として用いる方法が報告されている。ゼオライトは一般には入手が難しいことを考慮し, これらに代わりホームセンターなどで購入可能なゼオライトの適用について検討した。その結果, 園芸用や調理用として市販されているゼオライトが使用可能であることが明らかとなった。また, 高校での実践により, 実験教材としての有効性が確認された。
著者
磯﨑 哲夫
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.267-278, 2019-11-29 (Released:2019-12-20)
参考文献数
65
被引用文献数
1 1

本小論は,理科カリキュラムの内容構成論について,比較教育史的アプローチに基づき知識論を援用しながら,19世紀から現在までの3つの時代区分により,日本とイギリスを比較しながら論じた。そして,誰が学習内容を決定し,何を基準として学習内容が選定されるかについて考察した。その結果,両国の科学(理科)教育の史的展開を比較すると,まず,科学(理科)教育を完成した所与のものと見なすのではなく,社会的・歴史的産物と見なすべきことを指摘した。重要なのは,目的・目標論,別の表現をすれば,理科教育を通してどのような資質・能力を備えた人間を形成するかという前提条件のもとで,学習内容(科学(そのもの)の)知識と科学についての知識)を選択し決定するべきであり,そのためには社会や学界を十分に巻き込んだ議論を踏まえて,目標や内容等を決定する“noosphere”における議論が必要である,ということである。理科は自然科学を基盤としている教科である,という分離教科カリキュラムや学問中心カリキュラムの定義を,グローバル化の視点と現代的文脈で再解釈する必要に迫られていることを指摘した。
著者
吉田 美穂 川崎 弘作
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.675-685, 2020-03-30 (Released:2020-04-15)
参考文献数
15
被引用文献数
4

本研究は小学校理科の問題設定場面における,「なぜ」という探究の見通しを持たない疑問を「何が」や「どのように」といった探究の見通しを含む問いに変換する際の思考力に着目し,その育成を目指している。このような疑問から問いへの変換における思考力を育成するにあたり,その変換過程は「疑問を認識した後に仮説を形成し,形成された仮説を踏まえて問いを設定する」(「疑問の認識→仮説の形成→問いの生成」)というように先行研究により整理されているが,これを基にした小学生を対象とする実態調査は行われていない。このため,本研究は疑問から問いへの変換過程の中でもとりわけ「仮説から問いへの変換」(「仮説の形成→問いの生成」)に着目して評価問題及び質問紙を作成し,小学生の実態調査を行った。その結果,小学生は仮説から問いへ変換することができないということ,また,その原因として,問いの形式に関する知識や問いへの変換に関する知識が不足しているということが実態として明らかになった。
著者
板橋 克美
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.539-544, 2020-03-30 (Released:2020-04-15)
参考文献数
4

多くの中学生が持つ「運動する方向に力が働く」という力学誤概念の解消を目的としたアクティブラーニング(AL)型の授業を提案し,熊本県内の公立中学校において実施した。伝統的な教え込み型の授業を行ったクラスとAL型授業を行ったクラスの知識の定着度を比較するため,それぞれ,事前と授業の一週間後にテストを行い,結果を評価した。その結果,AL型の授業を行ったクラスでは,伝統的な教え込み型の授業に比べて,事前・事後での点数の伸びに顕著な上昇が見られ,AL型授業の有効性を確認することができた。
著者
松本 榮次 建部 昇 安部 洋一郎 松本 伸示
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.183-191, 2020-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
17
被引用文献数
2

「月の満ち欠け」を科学的に理解するには地球視点と宇宙視点を交互に視点移動させる能力が必要であり,その指導は容易でない。本研究では,地球視点と宇宙視点の両方から活用できる三球儀風「月の動きと形しらべ盤」を開発した。小学校では,地球視点を中心にして「月の満ち欠け」の理解を指導するが,開発した三球儀風「月の動きと形しらべ盤」を活用することで,地球視点と宇宙視点の両方の視点から月の満ち欠けを考えることができる。平面的な教材として開発したことで,児童自身が作成することが可能となった。このクラフトを利用することで,月の動きや形についての子供たちの学習を支援することができることが示唆された。
著者
山根 悠平 雲財 寛 稲田 結美 角屋 重樹
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.139-152, 2020-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本研究の目的は,理科における実験結果の捏造や書き替え,書き写しなどの研究倫理・研究不正に関する問題に着目し,これまでどのような不正行為が,どのくらい行なわれたのかという大学生の経験と,不正行為に対してどのように考えているのかという大学生の認識の実態を明らかにすることである。この目的を達成するため,理科における不正行為に関する質問紙を作成し,136名の大学生を対象に調査を実施した。その結果,教科書や黒板,他の人の実験結果を写す行為や実験結果を消したり書き替えたりする行為が,他の不正行為よりも頻繁に行われてきたことが明らかとなった。その一方で,大学生はこれまでの理科授業において,不正行為が悪い行為であると認識していたことが明らかとなった。
著者
石井 健作 本間 均
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.23-32, 2009-03-13 (Released:2022-06-30)
参考文献数
22
被引用文献数
2

本研究では,小学校の理科学習における教授過程で,学習者が電流概念の獲得を行う際の,「粒子傾斜モデル」の有効性についての研究を行った。今までに用いられてきた「アナロジー型モデル」の特徴を踏まえ,新しい「粒子傾斜モデル」の開発を行った。開発した「粒子傾斜モデル」は,学習者に視覚的にわかりやすく,操作しながら直感的に理解しやすいことを考慮した。また,この「粒子傾斜モデル」を用いて小学校4年生を対象とした実践授業を行い,電流の「流れ」や「向きや強さ」についての概念獲得の様子を分析した。その結果以下の3点から,「粒子傾斜モデル」の有効性が明らかになった。①新しい内容を学習する時に学習者自らが「粒子傾斜モデル」を活用しながら考えるようになる。②電流の「流れ」を意識した概念をより強固にもつことができるようになる。③電流の「向きや強さ」についての科学的に妥当な概念を獲得することができる。
著者
矢崎 貴紀 小林 慎一 後藤 芳文 森 研堂 今井 航 渡辺 康孝 中村 大輝
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.669-675, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
16

平成14年度より文部科学省が推進しているスーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業では,学習者が主体的に探究活動に取り組むことが期待されている。本研究では,SSHにおける主体的な探究活動に影響する要因を明らかにすることを目的とした調査を実施した。中学3年生と高校生の計714名を対象とした質問紙調査を分析した結果,SSHにおける主体的な探究活動に影響する要因として「他者からの受容」「達成経験」「自己効力感」の3点が明らかになった。本研究の結果を踏まえれば,受容的な他者に支えられて達成経験を重ねる中で自己効力感を高めていくことが,SSHにおける生徒の主体的な探究活動の生起につながると考えられる。
著者
山野井 貴浩 横内 健太
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.485-495, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
32

カブトムシは人気のある昆虫であるが,児童,教員志望学生,小学校教員の多くはその体のつくりを正しく理解できていないことが報告されている。そこで,本研究は昆虫の体節構造の進化を扱うことで,カブトムシの体のつくりを理解させる授業を開発した。また,本授業の副次的な効果として,節足動物の体のつくりや進化についての理解も深められることを期待した。中学生対象の授業実践の結果,授業後にはカブトムシの体のつくりに関して適切なイラストを選択する生徒の割合が有意に増加した。また,節足動物の体のつくりの特徴に関して,授業を通して「1つの節から1対のあしが生えていること」や「(進化の過程で)体節が融合したものがいること」の理解が深まったことが示唆された。一方で,授業後には「頭・胸・腹に分かれた体」や「胸からあし」などの昆虫の特徴を,節足動物の特徴として記述する生徒が増加した。地球上の既知種の約半分を占める節足動物を題材とした進化や分類に関する教材の開発が今後も期待される。