著者
田中 達也 神山 真一 山本 智一 山口 悦司
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.119-131, 2021-07-30 (Released:2021-07-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1

本研究の目的は,児童におけるアーギュメント自己評価能力とアーギュメント構成能力には関係があるのか,また,関係があるとすればどのような関係があるのかを予備的に検討することであった。本研究では,まず,両者の関係の有無を検討するため,主張-証拠-理由付けを含むアーギュメントを導入した小学校第3学年の単元「物と重さ」を実施する中で,児童計65名を対象に,アーギュメントを記述させる課題による調査と,児童に自身のアーギュメントを自己評価させる課題による調査を実施した。2つの調査結果から,次の2点が示唆された。(1)アーギュメント自己評価能力が高い児童は,アーギュメント構成能力が高い傾向にある,(2)アーギュメント自己評価能力が低い児童は,アーギュメント構成能力が低い傾向にある。次に,アーギュメント自己評価能力のアーギュメント構成能力への影響を検討するため,アーギュメント構成能力の向上の仕方が異なる児童計16名を対象に,アーギュメントの自己評価の詳細をたずねる面接調査を実施した。この調査の結果から,次の2点が示唆された。(1)自分が記述したアーギュメントの成否を適切に判定したり,自分が記述したアーギュメントの問題点を説明したりすることができる児童は,アーギュメント構成能力が向上していた傾向にある,(2)自分が記述したアーギュメントの成否を適切に判定したり,自分が記述したアーギュメントの問題点を説明したりすることができない児童は,アーギュメント構成能力が向上していない傾向にある。
著者
俣野 源晃 山本 智一 山口 悦司 坂本 美紀 神山 真一
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.187-195, 2021-07-30 (Released:2021-07-30)
参考文献数
14

本研究の目的は,複数の証拠として,適切かつ十分な証拠を利用するアーギュメント構成能力を育成する上で,McNeill and Krajcik(2011)の教授方略を援用してデザインした授業の有効性について,小学校第5学年の単元「電流がつくる磁力」を事例として明らかにすることである。山本・稲垣ら(2013)は,同学年の単元「物の溶け方」を事例として,教授方略を援用した授業をデザインし,その有効性を明らかにしている。本研究は,異なる単元においても教授方略を援用した授業が適切かつ十分な証拠を利用するアーギュメント構成能力を育成する上で有効なのかを新たに検証するものである。アーギュメント構成能力を評価するために,第5学年の2クラスの児童計65名を対象に,既習内容に関するアーギュメント課題を単元前後に実施した。課題の回答を分析した結果,児童は,主張に関連する科学的な証拠のみを利用する適切性の点において,アーギュメント構成能力が向上したことが明らかになった。また,量的,質的なものを含めた多様な証拠を利用する十分性の点においては,部分的ではあるが,アーギュメント構成能力が向上したことが明らかになった。しかしながら,同時に,証拠の十分性の一部についてはさほど向上しなかったことも見出された。その理由を探るために,証拠の選択率を補足的に分析したところ,実験結果の意味を類推しなければならない「間接的な証拠」を選択することが必ずしもできていないことがわかった。以上の結果を総合的に考察することで,McNeill and Krajcik(2011)の教授方略を援用してデザインした授業は,単元「電流がつくる磁力」においても,適切かつ十分な証拠を利用するアーギュメント構成能力を育成する上で有効であると結論づけることができた。併せて,教授方略を援用してデザインした授業は,「単元内におけるアーギュメントの複数回指導」と「間接的な証拠利用の促進」という点で改善の余地があると考えられる。
著者
高橋 一将 大鹿 居依 大鹿 聖公
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.53-63, 2010-11-05 (Released:2021-06-30)
参考文献数
43

本研究では, 協働学習をプログラムに用いているミドルスクール用理科プログラムBSCS Science & Technology (以降S&Tとする)に着目し,プログラムにおける協働学習の位置付けと構造について明らかにした。そして, この協働学習を部分的に導人した授業実践を行い.その効果を明らかにした。S&Tの教科書分析から明らかになった協働学習の特徴は以下の5点である。(1) BSCSは,学習者の理科学習への効果と社会的スキル向上への効果を期待し,協働学習をプログラムを構成する原理に明確に位置付けていた。(2) 社会的スキルの活用に重点を置いていた。(3) 協働学習を授業へ導人しやすいように教師用教材を提供していた。(4) 教科書の構造と授業の進め方が協働学習の実施を促進するよう構成されていた。(5) 生徒に学習と協働の両方に責任を持たせていた。S&Tにおける協働学習を部分的に導入した授業実践を中学校1年生を対象に,2学期から3学期にかけてすべての理科授業で実施した。授業実践の前後でアンケート調査を行い, S&Tにおける協働学習の部分的導入授業の効果に対し以下の結果を得た。(1) 生徒の役割に対する必要性が向上した。(2) 生徒の班への貢献度,参加度,発言度が向上した。これらの結果から,S&Tの協働学習の理科授業における部分的導入の有効性が示された。特に,生徒の班学習における自己の有用性への認識を向上させたことは. S&Tの協働学習を理科授業に導人することに関して,今後さらなる効果が期待できることを示唆している。
著者
廣木 義久 山崎 聡 平田 豊誠
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.47-56, 2011-07-05 (Released:2021-06-30)
参考文献数
26

砂の形成に関する小・中・大学生の理解を調査し,小・中学校における岩石の風化作用に関する学習の問題点を議論した。小学5学年の単元「流れる水のはたらき」の学習前の児童においては,砂の形成メカニズムに関する考えは極めて多様であるが,「流れる水のはたらき」の学習後は,侵食モデル(砂は川で石や岩が水流によって削れてできる)で説明する児童と,衝突モデル(砂は川で礫同士がぶつかり合って砕けてできる)で説明する児童が増加する(それぞれ29.9%, 25.6%)。そして,中学校における単元「活きている地球」の学習後は,侵食モデルが52.5%と増加する一方,風化モデルで説明する生徒の割合は8.8%にとどまった。これらの結果から,侵食モデルと衝突モデルは小学5学年の「流れる水のはたらき」の学習で獲得され,侵食モデルは中学1年の風化・侵食作用の学習後に強化されていることがわかる。岩石の風化作用による砂の形成を理解させるための方策としては,中学校における岩石の風化作用の授業に土の学習を取り入れることが有効であると考えられる。
著者
吉田 はるか 吉田 安規良
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.197-209, 2021
被引用文献数
1

<p>生徒の空間把握能力の中でも視点移動能力の育成がカギとなる天文分野の学習に際し,小型広角カメラ(ウェアラブルカメラ)を内蔵することで内側から見た状況を確認できるように改造した透視天球儀を用意した。中学校理科「地球と宇宙」単元での授業実践を通して,生徒自身が五官や運動器官や思考力を用いて分析したり,操作したり,総合したりすることを確実に容易になしうる性質である「具体性」について,この改造した透視天球儀を評価した。4回の授業で改造した透視天球儀を用い,そのうち3回は実際に生徒に操作させた。授業後に,70人中57人から改造した透視天球儀を利用したことが天体の運動の理解に役だった旨の回答を得た。12人が「天球儀に慣れるまでが難しい」旨の指摘をしたが,実質3回の操作経験で,ほとんどの生徒が天球儀を操作できるようになり,地球の自転や公転と天体の動きの関係を考えることができた。このことから,改造した透視天球儀は,生徒の具体的視点移動から心的視点移動への移行を支援し,心的視点移動能力の習得の一助となる「具体性」のある教具だと判断できる。</p>
著者
相場 博明
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.129-139, 2015
被引用文献数
3

「月の満ち欠け」は, 平成10年小学校理科学習指導要領において削除されたが, 現行小学校理科学習指導要領では第6学年の内容として取り上げられている。ここでは,地球視点から月の満ち欠けの原理を学習することになっている。そして, 中学校3年では宇宙視点から再度月の満ち欠けを学習することになっている。<BR>しかし, 「月の満ち欠け」の指導に関しては, 多くの先行研究により, 教える側は指導困難であり, また学習する側にとっては理解困難であることが指摘されている。また, 指導する立場の教師自身も十分な理解が得られていないという現状が指摘されている。<BR>本研究は, 現行小学校理科教科書の内容を分析し, それらの理由を考察した。その結果, 地球視点で行った月の観察とモデル実験との整合性をとることが困難であり, 地球から見た月と太陽との位置関係と月の満ち欠けの現象の論理的説明が不十分であることがその原因ではないかと考えた。そこで, 地球視点から月の満ち欠けを論理的に説明する指導法と, またそれを補足する「月の満ち欠け説明器」の教材を開発しその実践を行った。その結果, 十分な教育効果が得られ, 小学生でも無理なく「月の満ち欠け」の原理を理解できることがわかった。
著者
荻原 庸平 小林 辰至
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.1-9, 2010-11-05
参考文献数
10

本研究は,小学校教員養成課程の学生を対象として,天文に関する体験や興味・関心が,天体の運行の理解に及ぼす影響を質問紙調査により検討することを目的とした。まず,天文に関する体験や興味・関心等を問う質問項目について因子分析を行うとともに,抽出された各因子の項目について体験の程度を得点化した。次に,天体の運行に関する理解の得点の上位群,下位群について平均値の差を検討した。その結果,以下のことが明らかとなった。(1)因子分析の結果,「天文に関する直接的体験」,「天文の授業に対する興味・関心」,「天文に関する間接的体験」,「立体的な絵を描く体験」の4因子を抽出した。(2)日没後に上弦の月が見える時の太陽と月の位置関係を問う問題の正答率は16.5%と低率である等,学生の天文に関する理解は極めて低かった。(3)天体の三次元的な位置関係の把握が必要な,月の満ち欠けに関する理解の平均得点は,因子「天文に関する直接的体験」と因子「天文の授業に対する興味・関心」において上位群が下位群よりも有意に高かった。(4)二次元的な動きに見える天体の日周運動に関する理解の平均得点は,因子「天文に関する直接的体験」及び因子「天文の授業に対する興味・関心」のいずれにおいても,上位群と下位群との間に有意差は認められなかった。
著者
比樂 憲一 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.323-330, 2021-07-30 (Released:2021-07-30)
参考文献数
16

本研究は,小学校第5学年「振り子の運動」における「周期と振れ幅」の学習に概念転換方略(ストライク・ポズナー,1994)を導入し,児童が競合する複数の概念に対するコミットメントを変化させて理論を切り替え,科学理論へコミットしていく過程を運勢ライン法(遠西,2012)によって調査した実践的研究である。授業では,「周期と振れ幅」に関する対立理論の積極的な競合を可能にするため,振り子の運動をおもりの「速さ」と「移動距離」で説明する指導(川崎・中山・松浦,2012)を,先行的了解(野家,2007)に位置付けて単元冒頭に指導した。本実践では,概念転換が児童相互,児童と教師による社会的相互過程によって生じる(福田・遠西,2016)ことが確認された。この過程では理論が実験結果を予測する正確さや理論の合理性の理解に基づく理論間の葛藤といった認知的側面だけでなく,理論支持者の人数やそこに属する児童の特徴,教師が授業終末に行う科学理論への公知としての支持といった社会的側面が,概念の生態学的ニッチの変動に機能していることが明らかになった。
著者
高 駿業 磯﨑 哲夫
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.61-71, 2021-07-30 (Released:2021-07-30)
参考文献数
37

本研究では,中国の後期中等教育における2017年版の科学系教科の課程標準,特に化学課程標準の変容を分析し,日本の学習指導要領と比較することを通して,中国の課程標準の特色を明らかにすることを目的とした。まず,中国における「核心素養」を中心とした後期中等教育の教育課程に関する改訂の経緯を素描した。次に,後期中等教育における科学教育課程に関する改訂を概観し,導入された科学系の「教科の核心素養」を分析し,履修形態の変容を明らかにした。そして,2003年版の化学課程標準と比較し,2017年版の課程標準を分析した。最後に,中国と日本の比較を通じて,中国後期中等科学教育の特色を考察した。その結果,次のことが明らかになった。まず,2017年版の化学課程標準では,化学の学習を通じた理想的な生徒像や達成すべき目標が明確にされ,化学の目標がより具体化・深化し,内容もより構造化された。そして,現実の世界における問題状況や文脈,実験や探究活動がより重視されていることが明らかになった。また,日本と比較すると,中国の後期中等科学教育では物理,化学,生物が教科として独立しており,化学教育において,化学と社会や技術との関わりの学習では,積極的に参加する態度といった主に情意的側面が重視され,課程標準には教師の指導上のヒントが多く示されているのが特徴的である,と結論づけた。
著者
山口 悦司
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.369-385, 2017-03-18 (Released:2017-07-08)
参考文献数
77
被引用文献数
1

本研究の目的は, 教科書準拠の教師用指導書に焦点を当てて, 理科を教える教師の学習を支援しうる特徴を我が国の教師用指導書がいかに備えているかを解明する試みの第1歩として, 小学校第6学年「月と太陽」の単元を事例とした分析結果を報告することであった. 具体的には, 教育的カリキュラム資料という理論的概念に基づいた分析フレームワークを採用し, 小学校理科の教科書を出版している全6社が発行する教師用指導書を分析対象として, (1)どのような内容の専門的知識の学習が重点的に支援されているのか(支援の内容), (2)専門的知識の学習支援のために, どのような形態が活用されているのか(支援の形態), という2点を明らかにすることを試みた. その結果, 本研究で対象とした教師用指導書について, 以下の2点を明らかにすることができた. (1)支援の内容については, 科学の内容に関するPCK(Pedagogical Content Knowledge)の学習, および科学の方法に関するPCKの学習が重点的に支援されている. とりわけ, 科学の内容に関するPCKについては, 単元に固有な科学の事象に児童が取り組むことに関する知識の学習が, 科学の方法に関するPCKについては, 問題設定, データ収集・分析, 証拠に基づく説明のそれぞれに児童が取り組むことに関する知識の学習が手厚く支援されている. その一方で, 研究計画の立案やコミュニケーションに関する知識の学習は, あまり支援されていない. (2)支援の形態については, 実施の手引き, すなわち, 個々の教授方法・教材・学習活動を効果的に利用する仕方に関する学習を支援する形態が活用されている. これに対して, 理論的根拠, すなわち, 教授方法・教材・学習活動について, それらが教育的・科学的に適切である理由に関する教師の学習を支援する形態はあまり活用されていない. 以上の結果に基づいて, 秀逸点と問題点という2つの側面から, 我が国の教師用指導書の特徴を考察した.
著者
相馬 惠子
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.357-367, 2014
被引用文献数
1

情報通信技術の特長のひとつである双方向性は, 教師と児童・生徒が相互に情報伝達をするばかりでなく, 児童・生徒同士がお互いに意見を交換し, 教え合い学び合える協働学習の授業を可能にする。本研究は, 中学校理科の授業において班に1 台のiPad を配置し, FaceTime を利用して他校生徒と班ごとの意見交換を行わせることにより, 生徒の科学的思考力・判断力および表現力に与える影響を明らかにするとともに, その有効性を検討することを目的とした。意見交換前後のワークシートの記述と質問紙調査の分析および授業後の生徒の感想から, iPad のFaceTime によるビデオ通話を利用した他校生徒との協働学習は, 生徒の科学的思考力・判断力および表現力を育成する可能性があることを確認できた。
著者
仲野 純章
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.139-146, 2018

<p>本研究では, 高等学校における万有引力分野の指導の中で, 生徒が感じている当該分野に対する否定的な印象(ネガティブ感情)を収集・分析し, その結果を踏まえた授業を設計・実践して効果を調べた。授業実践前の意識調査では, 対象集団の約1/4が当該分野に興味を持てていない実態が明らかとなった。また, 当該分野への興味有無に関わらず, 「状態や運動をイメージしにくい」というネガティブ感情が多く持たれていることも分かった。更に, 当該分野に興味を持てていない集団内では, 「身近さを感じにくい」というネガティブ感情も目立った。そこで, 様々なネガティブ感情, 特に, 当該分野に興味を持てていない集団で目立つネガティブ感情を意識し, なおかつ生徒に大きな裁量を与える形で, 皆既月食をテーマとした授業を設計・実践した。授業では, 身近な道具を用いた簡単な実験で重力加速度を求めさせ, その値と皆既月食動画から得られる情報のみを頼りに理論計算を進め, 壮大なスケールの地球-月間の概算距離を導出するというグループワークを実施した。その結果, 深い学びに繋がる主体的・対話的なグループワークが展開され, 9割以上の生徒が今回のような活動があればネガティブ感情が改善されていくと感じると答えた。以上のように, ネガティブ感情が改善に向かう見通しが示され, 学習者の意識分析を反映した授業設計プロセスの有効性が示唆された。 </p>
著者
小坂 那緒子 熊野 善介
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.83-96, 2020-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
22

高等学校学習指導要領の理科の目標では,「探究」という言葉が使われ,理科教育の中で探究的な授業形態が求められているものの,高等学校理科における探究活動の研究報告は少ない。高等学校生物の教科書には,確認実験が多く,酵素分野で見られるヒトの体温付近を最適温度とする酵素であるカタラーゼとアミラーゼの実験も,得られる結果は生徒の予想を大きく覆すものではない。本研究では,ヒトや哺乳類以外の生物で手に入りやすいウミホタルを酵素分野で実験教材として活用した場合,どのような実験結果が得られるかを調べるとともに,高校生を対象とした授業実践を行い,生徒の考察を調べることにした。乾燥ウミホタルをすりつぶし,異なる温度の水を加えたところ,氷水を加えたときに最も強く,長時間の発光が観察された。本教材を用いた授業実践では,生徒は,ウミホタルは体温付近で強く光ると予想し,予想に反した結果は生徒を驚かせ,多様な考察を生んだ。また,一人で考察するよりも,他の生徒の発表を聞いて考察する方が,より実験結果を正確に説明できるようになるということが明らかとなった。ウミホタルは単なる生物発光を伝える実験教材ではなく,生徒を対話的に深く思考させる探究的な実験教材として提案できる。
著者
福田 恒康 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.45-52, 2016
被引用文献数
3

<p>概念転換は, 新しい理論を受容し古い理論を放棄することであるが, 古い理論の放棄は忘却ではなく, 保持する理論に対するコミットメントの順位の入れ替わりである(ストライク・ポスナー, 1994)。理解は, 理論に対するコミットメントの形成であり(ヘッド・サットン, 1994), 概念や理論に対して自信や信念を持つことである。概念転換は, 理論の切り換えと新しい理論に対するコミットメントの強化からなる(遠西・久保田, 2004)。本研究では授業をとおして概念転換の詳細な過程を, 運勢ライン法(White and Gunstone, 1992; ホワイト・ガンストン, 1995)を用いて調査した。授業では, 高等学校物理における「力のモーメント」の課題が実施された。その結果, 学習者によって概念転換が極めて多様な認知的過程を経て生じるにもかかわらず, 既有の理論に対するコミットメントの弱化, 理論切り換えによる新しい理論の受容, 新しい理論へのコミットメントの強化という共通のパターンが存在することが明らかになった。さらにこの過程は「既有の理論に対するコミットメントの弱化とそれに続く理論切り換えによる新しい理論の受容」と「新しい理論へのコミットメントの強化」という独立した2段階の構造を持つことが明らかになった。理論切り換えは, 理論の競合とコミットメントの弱化を前提とするので, 生徒どうし・生徒と教師による社会的相互過程において生じる。これに対して実験は, 理論からの予測と結果との一致・不一致によってコミットメントを変化させる。実験は, 理論を創造したり理論を変えることはないが, コミットメントを変える。これらは, 遠西・久保田(2004)が中学校において行った概念(理論)転換の実践的研究の正当性を強く支持するものであった。 </p>
著者
野原 博人 和田 一郎 森本 信也
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.293-309, 2018-03-19 (Released:2018-04-06)
参考文献数
17

本研究では, Engeström, Y.による「拡張的学習(Expansive Learning)」を理科授業デザインの視点として援用し, 主体的・対話的で深い学びを通した子どもの科学概念構築に関わる変化の様態について, 形成的アセスメントの要素とその関連性を視点として分析した。その内実と関連づけた上で, 主体的・対話的で深い学びの評価について, Sawyer, R.K.による「深い理解」を規準とした。科学概念の構築を図るための「道具」の変換過程をⅠ〜Ⅴと措定し, 小学校第4学年の水の温まり方についての授業デザインの分析を行った。分析した結果, 以下の諸点が明らかとなった。(1)「拡張的学習による理科授業デザイン」が具現されていくことで, 知識としての「道具」が主体的・対話的で深い学びによって構築されていった。(2)主体的・対話的で深い学びによって構築された知識としての「道具」は, Ⅰ〜Ⅴの段階を通して, 「深い理解」の具現化として, 質的変換が図られた。(3)「深い学び」と「学習における主体性・協働性」は表裏一体化して機能する。
著者
水石 正幸 庭瀬 敬右
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.477-488, 2019-03-25 (Released:2019-04-12)
参考文献数
10
被引用文献数
1

小学校理科第5学年では「流水の働き」を含む5つの学習項目で条件制御の能力を育成することが目標とされている。しかしながらこれまでの研究で,「流水の働き」の学習で行われている土で作った坂に水を流す流水実験は,客観性や再現性の低さから条件制御に適しにくいことが指摘されている。本研究は,流水実験の条件制御教材としての問題点を解決するために「直線水路型流水実験装置」を開発し,教材としての有効性を授業実践の分析から確認することを目的とした。開発した教材に対して児童の学習活動を4QS(The Four Question Strategy)の観点から分析を行った結果,条件制御の学習の条件を満たしていることが明らかとなった。また,授業実践後に実施した児童への質問紙調査では,今回開発した「直線水路型流水実験装置」が条件制御の学習に効果があったことが示された。自由記述の回答分析からも,条件制御に関する気づきや考察が行われていたことが明らかとなった。これらの結果から「直線水路型流水実験装置」とその指導法が条件制御を学習する教材として有効であることが示された。
著者
比樂 憲一 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.425-432, 2019-11-29 (Released:2019-12-20)
参考文献数
18
被引用文献数
1

自然界における水の循環の中で水蒸気概念を理解し,水蒸気概念の習得によって自然界における水の循環を理解するという,解釈学的循環を考慮した単元構成によって,水蒸気を思考の道具としてプラグマティックに理解させることを試みた,小学校4年生の実践的研究である。導入時に自然界における水の循環を図示し,説明させることで,合理性を維持するには降った雨が再び雲に戻らねばならないという「問題」を発見させることができた。そこから「空気中には見えない水があるはずだ」という仮説を得ることができた。水蒸気概念は,凝結と蒸発の実験を積極的に関係づけ,さらに日常生活上の諸経験をうまく説明できることから思考の「便利な道具」としてプラグマティックに理解され,はじめの理論枠組みに還元されて自然界における水の循環の理解をより確かにし,主体的で深い学びを実現できたと考えている。
著者
仲野 純章
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.299-307, 2020-11-30 (Released:2020-11-26)
参考文献数
31

磁界が存在する状態の下,電解質溶液中の電極で電気化学反応を起こすと溶液流が生起する。当該現象は電気化学反応に関与するイオンにローレンツ力が作用して起こるものであり,その特性から,ローレンツ力可視化教材への転用を狙った種々の教材化研究がなされてきた。しかしながら,汎用性や簡便性の面で課題も多く,教材として確立・普及するに至っていない。今回,汎用性と簡便性を重視した新教材を検討し,予備実験と検証授業を通じて教材としての可能性を検証した。その結果,電極にアルミニウム,電解質溶液に塩化ナトリウム水溶液を採用することで汎用性と簡便性に優れた新教材が成立し,これを用いることで,ローレンツ力に関する理解を深めさせる授業を効果的に展開できることが確認された。
著者
吉田 安規良 吉田 はるか
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.3-30, 2020

<p>平成時代の理科を教える教師教育を振り返り,その中で得た気づきを新しい―令和―時代の理科教育の創造へとつなげる一助とするために,本報では,日本理科教育学会の学術雑誌『日本理科教育学会研究紀要』・『理科教育学研究』で"平成"時代に報告された理科を教える教師教育に関する研究を整理した。その結果,理科を教える教師教育に関する研究報告は,発行年別に見ると,1997(平成9)年,1998(平成10)年,1999(平成11)年以外で,巻別に見ると,第38巻,第39巻,第41巻以外に,総計111編掲載されていた。この111編は,①日本理科教育学会教育課程委員会報告(5編),②教員志望学生の現状に関する調査研究(28編),③現職教員の現状や要望,授業の実態を把握する調査研究(39編),④教員志望学生を対象とした理論的,実践的研究(20編),⑤現職教員を対象とした理論的,実践的研究(8編),⑥諸外国の教師教育に関する研究(8編),⑦その他(3編)に大別された。そのほとんどが,教職志向の学生と現職教員に関する事例的な報告であり,理科を教える教師教育者の専門性開発を扱ったものやコア・サイエンス・ティーチャーに関するものは無かった。対象校種は小学校に関するものが多く,科目内容的には天文学に関するものが地学で目立った。平成時代の日本理科教育学会における理科を教える教師教育に関する研究成果には,様々な背景をもった理科を教える教員志望学生や現職教員に対する教育や自らの経験だけに依拠しない形で対応できる理科を教える教師教育者の専門性開発に繋がる,令和時代の理科を教える教師教育の礎となるものが数多くあり,その深化と発展,さらには社会への提案と還元が期待される。</p>