著者
川村 小千代 山田 和子 森岡 郁晴
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.B14015, (Released:2015-04-07)
被引用文献数
2 1

目的:「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」が新たに創設された.この制度によって家族の負担は減少するが,このサービスを提供する介護職者の負担は増加する.そこで本研究の目的は,このサービスを提供する施設の介護職者の疲労徴候を明らかにするとともに,職場における関連要因を検討することである.方法:無記名の自記式調査用紙を用いて,施設の介護職者96名を対象に調査を行った.質問内容は,蓄積的疲労徴候インデックス,勤務状況,職場における支援,属性であった.解析では対象者を午後6時から午前8時に勤務がある有夜勤者と日勤しかない常日勤者の2群に分け,疲労徴候と勤務状況等との関連を2群間で比較検討した.結果:有夜勤者は47名で,平均年齢42.3歳,平均経験年数は6.0年,前月の訪問介護人数9人(中央値)であった.常日勤者は49名で,平均年齢44.6歳,平均経験年数は5.9年,前月の訪問介護人数9.5人であった.年齢と性別は両者間に有意差を認めなかった.勤務時間とケア内容を除いて,仕事の状況,職場の支援に有意差を認めなかった.両者とも疲労徴候は高く,有夜勤者の身体不調は常日勤者より強かった.仕事の満足,心の健康への教育研修,訪問時の交通安全配慮は両者とも疲労を軽減する要因であった.ここ1年以内に介護の知識・技術を学習した経験,有給休暇のとりやすさは,有夜勤者で疲労徴候と関係していなかった.この点は常日勤者と異なっていた.結論:両者とも疲労徴候に対して対策が必要であるが,有夜勤者に対する対策は常日勤者への対策に加え,さらに有効な対策を探り,実施していく必要がある.
著者
森本 英樹 柴田 喜幸 森田 康太郎 茅嶋 康太郎 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.13-24, 2020

<p><b>目的:</b>社会保険労務士(以下,社労士)は事業場のメンタルヘルス課題に関わるものの,社労士が事業場のメンタルヘルス課題に関わる際に期待されるコンピテンシーが明確ではない.よって本研究では,メンタルヘルスにおける社労士に期待されるコンピテンシーを同定することを目的とした.<b>対象と方法:</b>デルファイ法を用いた調査を行った.第1ステップとして対象となる社労士に半構造化面接を行い,面接結果と過去の予備調査をもとにコンピテンシー(案)を作成した.第2ステップとして,メンタルヘルスが関連すると考えられる事例の相談件数が10件以上の社労士にアンケート調査への協力呼びかけを行い,重要度(メンタルヘルス関連業務を行う際にどの程度重要と思うか)と達成度(自らがどの程度達成しているか)を問うた.また提示したコンピテンシー以外に必要と考えられるものを問い,コンピテンシー(案)の追加項目として加えた.第3ステップとして,第2ステップで有効回答をした者に対しステップ2の結果を提示した上で同意率(コンピテンシーに含めることを同意するか)を3件法で問い,同意率80%以上の項目をコンピテンシーとして設定した.また第2ステップで作成した追加項目について重要度と達成度を問い,この中で重要度が中央値以上にもかかわらず達成度が中央値を下回る項目を抽出した.<b>結果:</b>ステップ1では8名の社労士から協力を得,20領域68項目のコンピテンシー(案)を作成した.ステップ2では,57名の社労士が参加し45名の協力を得た(回答率78.9%).新たに追加すべきコンピテンシー(案)として7項目を追加した.ステップ3では,34名から協力を得た(応答率75.6%).同意率80%未満の2項目を除外し,その結果20領域73項目がコンピテンシーとして同定された.同意率が100%の項目として「立案は労使双方のメリットとデメリット(リスク)を踏まえた内容になっている」などがあげられた.<b>結論:</b>本研究により事業場のメンタルヘルスに社労士が関わる際に期待されるコンピテンシーを提示できた.本結果は,今後社労士を対象とした体系的な研修カリキュラムの開発の参考になることが示唆された.</p>
著者
高桑 榮松
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.20-23, 2002 (Released:2017-08-04)
参考文献数
8

抄録 : 蒸気機関車運転室(キャブ)内労働衛生調査と事故防止対策-狩勝トンネル争議- : 高桑榮松, -昭和6〜16年の10年間における隧道内の蒸気機関車乗務員事故は36名で, うち死亡は2名であり, 50℃以上, 湿度100%という高温高湿に, 投炭時の数百度に及ぶ熱線被爆による急性熱中症であると判断された.発生源対策として, キャブの床上に25カ所位の孔をあけたパイプを10数本並列に並べて, 圧縮空気ボンベに接続し, 機関車が隧道内に進入すると同時に圧縮空気を上方に向け放出した.その結果, (1)機関室内の煤塵量は約1/10に減少, (2)CO濃度は数分の一に減少し, COヘモグロビン量が20%(CO中毒最低限)を越える者はなかった, (3)温・湿度は断熱膨張効果も作用し, キャブ内は43℃, 湿度86%と好転した.
著者
古屋 佑子 高橋 都 立石 清一郎 富田 眞紀子 平岡 晃 柴田 喜幸 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.54-62, 2016-03-20 (Released:2016-06-07)
参考文献数
20
被引用文献数
8 9

目的:疾患を持つ労働者への就業支援において,労働者本人,治療医,企業(産業保健スタッフ)間の連携は欠かせないが,どのような要因が関係者の連携を促進または阻害するのか,その詳細は明らかではない.本研究の目的は,産業医と治療医の連携場面に着目し,治療医のどのような行動が産業医による就業配慮を促進・阻害するのか明らかにすることである.方法:産業医科大学の卒業生である産業医のうち,4年間の卒後修練コース修了者および産業医実務研修センターの教員・元教員計43名に対して自記式質問紙調査を実施した.質問紙では,個人属性(年齢・産業医経験年数・臨床経験年数など)と,職場での就業配慮に役立った治療医の行動(良好事例),結果的に妨げとなった行動(困難事例)を質問し,事例は自由記述で回答を得た.事例の内容は,KJ法を参考にして質的に分析した.結果:2013年12月17日~2014年1月18日までの調査期間中に,33名から回答(有効回答率76.7%)があった.回答者の平均年齢は37.4±6.1歳,60.6%は専属産業医であった.良好事例は32例,困難事例は16例提供された.連携のタイミングは全48例中35例(72.9%)が復職時であった.就業配慮に影響した治療医の行動の内容は,「治療経過および今後の治療計画の提供」,「健康情報の提供」,「復職・就業配慮の妥当性」,「提供情報の一貫性」,「文書の発行」,「産業医の存在を意識したコミュニケーション」「本人が知らない情報の提供」の7種に大別された.考察:本研究により,治療医のどのような行動が産業医の実施する就業支援に関連しているか,明らかとなった.また,産業医と治療医との情報共有の必要性も,明確にすることができた.調査対象者から寄せられた良好事例と困難事例は互いに表裏の関係にあり,良好事例に準じた行動を治療医がとることで,円滑な情報共有および就業配慮に結びつく可能性が高いと考えられた.
著者
永田 昌子 堤 明純 中野 和歌子 中村 純 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.1111230078, (Released:2011-11-28)
被引用文献数
2

職域における広汎性発達障害者の頻度と対応:産業医経験を有する精神科医を対象とした調査:永田昌子ほか.産業医科大学産業医実務研修センター-目的:近年,産業保健スタッフが対応するメンタルヘルス不調者の中に広汎性発達障害を抱える,もしくは疑い例に遭遇する事例が報告されている.本研究は,産業医経験を有する精神科医を対象に,職域で広汎性発達障害の事例対応に遭遇する頻度や広汎性発達障害を抱えるメンタルヘルス不調者に対して行われている就業上の配慮について,職域での実態調査を行った.対象と方法:産業医科大学精神医学教室員および同門医師122名に対して,記名式の郵送法調査を実施した.回答者の産業医経験,臨床経験,臨床場面での広汎性発達障害の経験,産業医活動のなかで広汎性発達障害の診断を受けているメンタルヘルス不調者の事例対応をした経験の有無,また,事例対応開始時に主治医より受けている診断名は広汎性発達障害ではないが,回答者自身が広汎性発達障害を疑った事例の経験の有無,事例対応の経験があるものには,職場で行った具体的な配慮,困難だった事例,成功した事例等について自由記述形式で回答を求めた.結果:56名から回答が得られた.そのうちメンタルヘルス不調者の職域での事例対応経験のある医師35名の回答を分析した.広汎性発達障害の「診断」を受けているメンタルヘルス不調者の経験を有するものは7人(20.0%),広汎性発達障害の「診断」を受けてないものの回答者自身が広汎性発達障害を疑ったメンタルヘルス不調者の経験を有するものは15人(42.9%),両方の経験を有するものが3人(8.6%)であり,どちらかの経験も有するものが19人(54.6%)であった.今回報告された40例のうち,事例対応開始時に診断名がついていたものが12例,回答者が疑った事例が28例,そのうち調査票回答時までに診断に至っていたものが7例であった.広汎性発達障害の「診断」を受けてないものの回答者自身が広汎性発達障害を疑った理由として多かったのは,職場での対人関係のトラブルを起こすというエピソードであった.「診断」を受けている事例は,産業医が疑った事例より具体的な配慮が行われていた.また,就業上の配慮として上司に対しての障害特性についての説明や業務内容の変更などが実施されていた.地域の社会資源の活用状況として,広汎性発達障害の診断を受けている,または疑った事例対応経験のある回答者19人のうち,発達障害支援センターや地域障害者職業センターの利用した経験を有する回答者は2人(10.5%)であった.考察:調査対象となった産業医経験のある精神科医の半数に広汎性発達障害の診断がついたもしくは疑った事例の対応の経験があり,職域で広汎性発達障害を持つ労働者の事例対応をすることは稀ではないことが示唆された.産業保健スタッフは,広汎性発達障害の知識,職場での適切な配慮の仕方,利用出来る社会資源についての理解を深める必要があると考えられた.
著者
豊岡 達士 甲田 茂樹
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2020-030-A, (Released:2020-08-12)
被引用文献数
2

目的:金属ベリリウム及びベリリウム合金は,軽量でかつ強度が高いこと,耐熱性,耐腐食性等,優れた物理化学特性を有するため,世界的に幅広い産業で利用されている.一方で,ベリリウムには感作性,発がん性が認められており,ベリリウムの職業性ばく露を受ける可能性がある労働者に対する労働衛生管理は従前より各国で重要な課題となっている.このような中,米国労働安全衛生管理局(OSHA)は,2017年1月に,ベリリウムばく露による慢性ベリリウム症,及び肺がんの発症を防ぐことを目的に,ばく露規制を含め,ベリリウム労働衛生管理に関する規定を強化する最終規則(Final Rule)を公表した.本稿では,OSHA最終規則が発表されたことを機に,ベリリウムの健康障害や産業衛生に関する知見を把握し,我が国におけるベリリウム労働衛生管理に関する課題を共有することを目的とする.方法:ベリリウムの健康障害に関する国内外の論文,関連規制法等,最近の動向を収集し,ベリリム産業,ベリリウムばく露,ベリリウムによる健康障害,OSHA最終規則,我が国におけるベリリウム労働衛生管理についてその概要を纏めた上で,我が国におけるベリリウム労働衛生管理の課題について考察した.結果:ベリリウムばく露による健康障害において,近年最も問題となるのは,ベリリウム感作に端を発する慢性ベリリウム症であり,いかにベリリウム感作を低減するか,またベリリウム感作者を早期発見するかに重きをおいた労働衛生管理が重要であることが改めて確認された.結論:我が国におけるベリリウム労働衛生管理の課題として,ベリリウム等による健康障害の実態把握(疫学知見の収集)が喫緊に必要であること,特殊健康診断の診断項目,及び特定化学物質障害予防規則におけるベリリウム及びその化合物の定義の見直し検討が必要であることが示唆された.
著者
高橋 謙 大久保 利晃
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.237-243, 1995

本稿は,特に安全衛生に関連した最近の国際労働条約を取り上げ,その特徴を明らかにした上で,総括を試みた.同分野に関連し, 1960-93年の期間中に採択された条約数は13である.これらの条約は,異なる目的をもって安全衛生分野の各領域を網羅しているため,対比的に記述した.条約は批准される必要があるため,日本の批准状況をILOおよびOECD加盟諸国と統計的に比較した.日本は, 1993年6月現在,このうちの3条約を批准したが,この水準はILO加盟国平均をわずかに上回るが, 24のOECD加盟国中11位の批准割合であった. ILO条約のうち,日本の批准割合の相対的水準は,安全衛生分野の方がそれ以外の分野よりも高かった. ILO条約は,引用や参照によって相互に関連しているため, 155号(労働安全衛生)や148号(作業環境)条約などの基本的条約の批准努力が安全衛生分野における他条約の批准を容易にすることが考えられる.