著者
三橋 祐子 錦戸 典子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.95-106, 2017-07-20 (Released:2017-08-18)
参考文献数
26
被引用文献数
1 2

目的:地域保健との連携に関する産業看護職のコンピテンシーを明らかにする.対象と方法:事前に質問紙調査および,電話インタビューによって地域保健担当者との連携実施の有無やその内容について確認した上で,より充実した連携活動を実施している産業看護職10名を選択して対象とした.インタビューガイドを用い,半構造化面接法によるインタビューを実施した.分析方法はMayringの提唱する要約的内容分析を用いた.データをコード化した後,「日頃の取り組み」,「連携の実践」,「組織の理解を得るための取り組み」,「連携の基盤となる意識・姿勢・考え方」という4つの側面毎に分け,類似するものをまとめてサブカテゴリー,カテゴリーを生成した.結果:19のサブカテゴリー,9つのカテゴリーが生成された.≪地域保健情報の収集≫,≪地域保健担当者との関係性の構築≫,≪従業員の家族の問題抽出≫,≪従業員・家族と地域保健担当者との結び付け≫,≪地域保健が持つ社会資源の活用≫,≪地域保健との連携の重要性の提示≫といった地域保健との連携における産業看護職の具体的なコンピテンシーが明らかになった.また,≪従業員の人生全体や従業員の家族の要因を捉える姿勢と視点の保持≫,≪産業看護職自ら地域保健との連携を推進する姿勢の保持≫,≪産業看護職の存在意義の認識≫のように連携の基盤となる産業看護職の姿勢や考え方等も明らかになった.考察:これからは従業員やその家族も含めた生活全体,人生全体をみる姿勢や考え方を基盤として地域保健との連携に取り組むことが求められ,産業看護職がこれらのコンピテンシーを習得するための機会が必要であると考えられた.また,研究参加者らは,産業看護職1名体制のような専門職の人的資源が乏しい環境であっても≪地域保健担当者との関係性の構築≫や≪地域保健が持つ社会資源の活用≫等のコンピテンシーを用いながら地域保健と連携し支援の充実を図っていることが伺えた.
著者
中野 治美 井上 栄
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.133, 2010 (Released:2010-06-02)
参考文献数
24
被引用文献数
6 4

東京圏在住サラリーマンの通勤時身体運動量:中野治美ほか.大妻女子大学家政学部公衆衛生研究室―目的:東京圏在住サラリーマンの中強度以上身体活動の量を測定し,電車通勤者とクルマ通勤者とで比較する. 対象と方法:歩数および身体活動の測定には,身体活動強度METs(=安静時の何倍かを表す単位)を1分ごとに記録する身体活動量計(オムロンHJA-350 IT)を使った.データをパソコンに移して,通勤時間帯および全日の運動量「エクササイズEx」(=METs(≥3)×時間)を計算した. 結果:電車通勤男性群(74人)は,朝夕の通勤にそれぞれ70±30,103±43分を使い,朝+夕通勤時のExは3.4±1.7で,これは全日のEx 5.3±2.4の64%を占めた.この全日Exは,クルマ通勤男性群(78人)の全日Ex 1.8±0.8の2.9倍であった.1日の歩数は,電車通勤男性群9,305±2,651歩で,クルマ通勤男性群3,490±1,406歩の2.7倍であった. 考察:厚生労働省「健康づくりのための運動指針2006」は,週23 Ex以上の身体運動を推奨している.東京圏在住の電車通勤サラリーマンの運動量は大きく,週日5日間では男性で平均26.5 Exとなり,電車通勤は生活習慣病予防に貢献しているように見える. (産衛誌2010; 52: 133-139)
著者
能川 和浩 小島原 典子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.61-68, 2018-05-20 (Released:2018-05-31)
参考文献数
14

目的:休職中の労働者が復職するときに,就業上の配慮として軽減業務が産業医から指示されることは多い.例えば,時短勤務で復職すると休職期間が短縮する,業務負荷を軽減すると復職後の再休職が低下するなど,就業上の配慮は復職後の就業アウトカムを向上させる効果はあるのだろうか.我々は,産業保健現場からの疑問に対してGrading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation(GRADE)アプローチを採用して定性的システマティックレビューを行い,日本の産業保健現場において活用できる推奨を作成した.方法:「科学的根拠に基づく産業保健における復職ガイダンス(復職ガイダンス2017)」のレビュークエスチョンのひとつとして「P:私傷病で休職中の労働者に対して,I:復職時の就業上の配慮は,C:ない場合と比べて,O:休職期間の短縮など就業上のアウトカムを向上させるか」が公募より選定された.復職時の就業上の配慮として,時短勤務などの軽減業務に関する介入研究について,Cochrane Library,PubMed,医中誌Webを用いて文献検索を行った.632件の無作為化比較試験(Randomized controlled trial;RCT),またはコホート研究が抽出されたが,既存のシステマティックレビューは検索されなかった.復職ガイダンス策定委員会がスコープで決定した選択基準,除外基準に従い,2名が独立して文献スクリーニングを行った.介入研究は,RevMan5.3を用いてバイアスリスクの評価を行い,観察研究のバイアスリスクは,Newcastle-Ottawa scaleで評価した.GRADEPro GDTを用いて,バイアスリスク,非一貫性,非直接性,不精確,出版バイアスなどからエビデンス総体の確実性の評価を行った.GRADEのEvidence to Decisionを採用して,推奨作成グループの無記名投票により推奨作成を行った.結果:筋骨格系障害による休職者に対する時短勤務または,軽減作業に関する3研究(RCT1件,コホート研究2件)が抽出されたが,統合できるアウトカムはなかった.メタアナリシスは行わなかったが,定性的システマティックレビューの結果より,時短勤務が休職期間を短くし,軽減作業が再休職率を下げる可能性があることが示唆された.推奨作成グループで検討し,休職中の労働者に対して,復職時に就業上の配慮を行うことが筋骨格系障害において推奨された.(低いエビデンスに基づく弱い推奨)考察と結論:今回の結果は,産業保健体制の異なる海外の筋骨格系障害からの休職者に対する研究の定性的システマティックレビューによるものである.今後,我が国における,メンタルヘルス不調などほかの疾患に関する比較研究,費用対効果などのエビデンスを蓄積させていくことが求められる.
著者
岩切 一幸 高橋 正也 外山 みどり 劉 欣欣 甲田 茂樹
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.130-142, 2016-07-20 (Released:2016-07-29)
参考文献数
24
被引用文献数
3 8

目的:本研究は,腰痛予防に有用な福祉用具を導入しても残る介護者の腰痛発生要因をアンケート調査により明らかにすることを目的とした.対象と方法:対象施設は,福祉用具を積極的に導入し,様々な安全衛生活動に取り組んでいる8つの高齢者介護施設とした.対象介護者は,それらの施設に勤務する介護者全員とした.調査票は,本調査用に作成した施設管理者記載の施設用アンケートと介護者記載の介護者用アンケートを用いた.施設用アンケートでは,施設の基本情報と安全衛生活動について調査した.介護者用アンケートでは,介護者の基本情報,取り組んでいる安全衛生活動,移乗介助方法,入浴介助方法,腰痛の症状,職業性ストレスの程度を調査した.結果:施設用アンケートの配布数は8部,回答数は8部,回収率は100%であった.介護者用アンケートの配布数は404部,回答数は373部,回収率は92.3%,そのうち性別・年齢の記載のない者を除いた367名を解析対象者とした.介護施設では,種々の安全衛生活動に取り組んでおり,多くの介護者がそれらの活動に参加していた.また,施設ではリフトをはじめとした種々の福祉用具を導入し,多くの介護者が移乗介助や入浴介助において福祉用具を使用していた.過去の調査に比べると重度の腰痛者割合は少ないことが伺われたが,それでもなお,10.1%の介護者が仕事に支障をきたすほどの腰痛(重度の腰痛)をかかえていた.その原因を探るために,得られたデータをロジスティック回帰分析にて解析したところ,入居者ごとの介助方法を実施していない,同僚間にて介助方法に関する話し合いをしていない,福祉用具の使用を指導されていない,作業ローテーションを工夫していないことが,重度の腰痛との間で関連性が認められた.また,移乗介助および入浴介助において無理な作業姿勢をとっている,人力での入居者の持ち上げを行っている,移乗介助において作業時間に余裕がない,入浴介助において作業人数が不足していることも,重度の腰痛との間で関連性が認められた.考察:今回,腰痛要因として抽出された安全衛生活動は,ほとんどの施設において介護者に指導されている内容であった.しかしながら,介護者によっては入居者ごとの介助方法を実施しなくなり,それにともなって同僚間での話し合いや福祉用具の使用,作業ローテーションの工夫がおろそかになり,適切な作業姿勢や動作が行われなくなることで,仕事に支障をきたすほどの重度な腰痛になっていたと示唆された.これらのことから,福祉用具を導入しても残る介護者の腰痛発生要因は,適切な介助方法が十分に徹底されなくなることと考えられた.それを防ぐためには,介護者の意識改善,介助方法を定期的に再確認する体制の構築,入居者一人一人の作業標準を介護者間で議論・検討した上で徹底させていくといったリスクアセスメントと労働安全衛生マネジメントシステムの実施が必要と思われた.
著者
木村 宣哉 小原 健太朗 秋林 奈緒子 宮本 貴子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2018-039-B, (Released:2019-05-31)
被引用文献数
10

目的:近年、健康に関する情報を扱う能力であるヘルスリテラシー(以下、HL)が国内外ともに注目されてきているが、日本の企業において包括的なHLを調査した研究は見当たらない。本研究の目的は、鉄道会社A社の包括的HLを調査し、産業分野における包括的HLの実態及び健康診断や健康相談などとの関連を明らかにすることである。対象と方法:対象として、A社の社員をA社全体の分布と同程度の割合になるよう年代、性別、夜勤の有無、役職の有無で20群に層化し、541名を系統的無作為抽出した。調査は2017年に郵送による自記式質問紙調査を実施した。HLの測定は、HLS-EU-Q47日本語版を使用した。この質問紙はヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションの3領域で構成され、各領域を合わせたものを総合HLとする。質問は47項目で、回答は「とても簡単」「やや簡単」「やや難しい」「とても難しい」「わからない/あてはまらない」の5択とした。HLのスコアは、0から50点満点に標準化した。HLの困難度は、「やや難しい」と「とても難しい」を合わせた割合とした。HLの比較として、中山らのWEBによる調査とGotoらによる調査を用いた。また、HLと個人属性、健康診断や健康相談等に関する行動との関連をみるため統計解析を行った。本研究はA社内部の倫理委員会の承認を受け実施した。結果:調査票は417名から返却された。A社の総合HLは25.1と低い結果であった。この結果は、中山らの調査と比べると同程度の総合HLで、Gotoらの調査と比べると5点程度低かった。A社の領域別HLは、ヘルスケア24.6、疾病予防27.9、ヘルスプロモーション22.8と全体的に低く、傾向としては疾病予防領域が高く、ヘルスプロモーション領域が低かった。この傾向はGotoらの調査と同様であったが、中山らの調査では逆に疾病予防の領域でHLが低くなっていた。また、A社では個人属性と総合HLに有意差はみられなかった。HLの困難度では「食品パッケージ情報の理解」の項目で最も先行研究と差があり、A社は約20%困難度が高かった。健康診断・健康相談等に関する行動とHLでは、疾病予防とヘルスプロモーションの領域で、健診結果の活用と健診で要精査だった場合の受診行動に有意差がみられた。また、総合HL及び疾病予防のHLと職場巡視で健康相談等を受けた回数とで有意差がみられたが、自分で希望して受けた人を除いた解析では有意差はみられなかった。考察と結論:A社の包括的HLは低かったが、本調査を含め、日本におけるHLS-EU-Q47を用いた3つの調査は一貫した結果を示さなかった。これらの要因として、調査方法の違いやA社の特徴などが考えられる。また、総合HL及び疾病予防のHLが高い人は、自主的に健康相談等を受ける傾向などが明らかとなった。
著者
坂手 誠治 惠 千恵子 小林 正嗣 村田 和弘 阪上 皖庸 木村 隆
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.201-205, 2003 (Released:2004-09-10)
参考文献数
8

中性脂肪 (TG)値は飲食により大幅に変動するので, 空腹時の基準値に基づいて食後のTG値から高TG血症の有無を判断するのは難しい. 多くの健康診断受診者 (TG以外の生化学検査所見異常者と要治療有症者を除く)のTG値を検討すると, 男性における空腹時TGの平均値 (M)+2標準偏差 (SD)は, 一般にスクリーニング値とされる150mg/dlにほぼ一致した. このことから, 食後TGの経時的スクリーニング値を食後の各時間帯でのM+2SDとしたところ, ふるい分け率は19.9~21.8%で, 空腹時の23.5%に近似した率を示した. 従って, 食後におけるTGの実用的なスクリーニング値は, 食後の各時間帯でのM+2SDに最も近く1桁目が0の整数値とするのが適当であると考えられた. 女性の平均TG値は加齢により上昇する傾向を認めるものの男性のそれよりも低値であり, 20~49歳でのふるい分け率は空腹時5.3%, 食後3.2~5.8%に対し, 50歳代ではそれぞれ11.3%, 8.2~12.9%であった.
著者
森 俊夫 影山 隆之
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.135-142, 1995 (Released:2009-03-27)
参考文献数
31
被引用文献数
14 13

病院看護者の精神衛生と職場環境との関係を検討するために, 3病院471名の看護者を対象に自記式質問紙調査を行った. GHQ-60による評価では,対象者は明らかに一般集団よりも精神的不健康度が高かった.精神的不健康度は,最近1カ月の休日数と負の関連,「判断の難しい仕事」「患者の死との直面」というストレッサーと正の関連があった.同僚との対人関係には,「判断の難しい仕事」というストレッサーに対する緩衝効果がみられた.以上より病院看護者の精神衛生のために,勤務時間に関する労働環境面の対策,現職教育を含む職場のソーシャルサポートに関する対策,および職場での心理的サポートシステムなど個人の耐性を高める対策の3つの次元にわたる対策が必要と考えられた.
著者
加部 勇 古賀 安夫 幸地 勇 宮内 博幸 蓑添 葵 桑田 大介 堤 いづみ 中川 雅文 田中 茂
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.306-313, 2015 (Released:2015-12-18)
参考文献数
24

目的:国内では一般の産業現場において耳音響放射検査 (OAEs) は普及しておらず,実際の騒音職場での使用報告がほとんどない.本調査は,国内製造業の事業場で,騒音に曝露する作業者を対象にOAEsと最小可聴閾値(HTs)との関連を検討した.対象と方法:金属製品製造業の2事業場において騒音職場の作業者(曝露群)34名(平均年齢40.6±9.4歳)と,非騒音曝露作業者(コントロール群)9名(49.0±14.3歳)を調査対象とした.対象者毎に作業環境測定(ENM)と,騒音個人曝露測定(PNM)を同時期に実施した.騒音曝露による聴覚影響の評価指標として,作業開始前後の0.5 kHz,1 kHz,2 kHz,4 kHzと8 kHzのHTsおよび2 kHz,3 kHzと4 kHzの歪成分耳音響放射検査 (DPOAEs) を行った.HTs,OAEs,ENMとPNMの結果の曝露群と非曝露群の比較,作業前後の比較,NIHL有無の比較は,Student’s t検定を用いた.HTs,OAEs,ENMとPNMの結果の関連についてPearson相関係数を求めた.結果:ENMおよびPNMは,騒音曝露群がA測定(LAeq)84.5±4.1 dB (A),B測定(LAMAX)89.5±6.3 dB (A),時間加重平均(LTWA)83.4±4.7 dB (A),一秒率(LAE)153.1±15.7 dB (A),コントロール群がLAeq53.2±2.6 dB(A),LAMAX56.4±2.4 dB (A),LTWA67.8±5.6 dB (A),LAE119.5±5.6 dB (A)となり,騒音曝露レベルは曝露群が有意に高かった.作業前後のHTs,OAEsは,両群とも差は無かった.両群とも騒音曝露レベルのLAeq,LAMAX,LTWA,LAEとその影響指標であるHTs,OAEsに相関がみられなかったが,HTsとOAEsとの間には相関をみとめた.NIHLをみとめた群は,NIHLのない群に比べて,HTsおよびOAEsが有意に低下していた.結論:作業前後のHTsと OAEsの相関をみとめた.今後,日本の産業現場でも騒音性難聴のスクリーニング検査や騒音曝露作業者の聴力管理としてOAEが用いられることが期待される.
著者
山田 恵子 若泉 謙太 深井 恭佑 磯 博康 祖父江 友孝 柴田 政彦 松平 浩
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.125-134, 2017-09-20 (Released:2017-10-05)
参考文献数
29
被引用文献数
4

目的:就労環境における慢性痛の実態,及び慢性痛が仕事に影響する重症例でのリスク因子を明らかにする.対象と方法:大手製造業A社の首都圏にある1事業所,上記とは別の大手製造業B社の関西圏にある1事業所,及び大手小売業C社の関西圏にある16店舗,計3社18施設の被雇用者を対象に,「からだの痛みに関する調査研究アンケート」を施行した.A社B社では参加者の同意を得たうえでアンケートデータと企業健診の問診データを突合し,基本集計を行うと共に,対象者の生活習慣や心理社会的因子と慢性痛有症との関連について,性年齢調整ロジスティック回帰分析を用いて分析した.結果:調査対象2,544名のうち1,914名(男性1,224,女性690名)から有効回答が得られた(有効回答率75.2%).3か月以上持続する慢性痛を有するものは全解析対象者の42.7%であり,仕事に影響する慢性痛を有するものは全解析対象者の11.3%であった.痛みのない群と比較して,仕事に影響する慢性痛群は,肥満,喫煙習慣,不眠症,ワーカホリック度の高さ,上司・同僚からの支援の乏しさ,仕事の満足度の低さ,仕事の要求度の高さ,仕事のコントロール度の低さ,心理的ストレスの高さ,抑うつ状態と有意に関連があった.考察と結論:就労環境における慢性痛とそのリスク因子の実態が一部明らかとなった.産業衛生分野において健康関連リスク因子として重要視されてきた,肥満,喫煙,不眠症,職場環境,心理的ストレス,抑うつは職場の慢性痛対策をおこなう上でも重要であることが示唆された.
著者
箕輪 尚子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.17-23, 2000
参考文献数
36
被引用文献数
1 5

日本の労働が身体的負担中心の労働から知的・心理的能力を要求される精神活動によって生産がなされる形態に変化してきた.筆者は, 情報システム作業者の健康を取り上げ, どのような作業負担を受けているかを調査解析した.某企業の情報システム設計作業者2, 396名(男性2, 169名のみ解析)についての健康調査票の結果について解析した.「作業の質の負担」がある者が63.5%, 「量の負担」がある者が36.0%で, 作業の「量の負担」より「質の負担」を訴える者が非常に多かった.精神健康指標と作業負担との関係では, 作業の「質の負担」のある者では, 不眠が25.5%で, 負担のない者ではそれが11.1%であった.同じく抑うつ感で, 作業の「質の負担」のある者は40.3%, 「質の負担」のない者では, 18.7%であった.作業の「量の負担」のある者では, 不眠のある者は27.7%, ない者は15.9%で, 抑うつ感では, 「量の負担」のある者では42.8%, ない者では26.3%であった.他の精神健康指標においても, 「作業の質の負担」や「量の負担」との関係が強くみられた.特に「作業の質の負担」の方が強く関係していた.「作業の質の負担」は対象業務の多様性, 製造工程管理の未熟性, 技術の進歩の早さ等々の多種の要因を含んでおり, それぞれの作業別に異なるものである.また作業者個人の能力や人格とも大きく関係している.これらからの産業保健活動は作業関連性健康障害の視点から「作業の質」つまり作業内容や業務システムおよび労働者の個別性に踏み込んだ健康管理の必要性が示唆された.
著者
塩川 和彦 高倉 公朋 加川 瑞夫 佐藤 和栄
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.169-175, 1995 (Released:2009-03-27)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

くも膜下出血411例について,その発症に影響する因子をretrospectiveに解析し,労働との関連について検討した.発症時間では7時と16-17時の2つのピークがみられた.就労中発症は全くも膜下出血例の15.1%に見られ,運動,性交なども含めて,何らかの外的ストレスの関与が示唆されるものは66.7%に見られた.職務内容では,就労中発症例はその他の発症例に比較して,管理職を除く男性会社事務と肉体労働に多かった.就労中発症例はその他の発症例に比較して,高血圧症,喫煙歴,不眠の既往に有意差はみられなかったが, 40-59歳男性の就労中発症例(特に事務労働中発症例)はその他の発症例に比較して,有意に喫煙歴が高かった.労働そのものがくも膜下出血発症の原因になるか否かは未だ不明の点も多いが,就労中発症の機転として外的ストレスによる-過性の血圧上昇が示唆され,肉体的および精神的ストレス(外的ストレス)に対する個人の反応性が問題と考えられた.したがってその予防には新しい健康診断方法や健康管理が必要と思われる.