著者
横川 智子 佐々木 七恵 平岡 晃 立石 清一郎 堤 明純 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.163-173, 2012-09-20 (Released:2012-10-24)
参考文献数
77
被引用文献数
2 2

目的: 健康診断結果をもとにした職務適性評価および就業上の措置に関する海外の文献を調査分析し,就業上の措置に関する明確な判断基準や数値基準に関わる情報や職務適性評価の過程における手順や留意点を見出すことを目的とする. 方法: 職務適性に関連するキーワードをもとにPubMedで検索して英文の文献を入手し,調査対象となった論文の国,健康診断のタイミング,職務適性評価の対象疾患,対象職業,対象者の健康度による分類,職務適性評価の目的や基準における考え方,職務適性評価の決定プロセスについて文献を整理し分析した. 結果: 条件に該当した英語論文は70件であった.これらの文献では,職務適性評価に関連して以下の2点に着目していた.1) 労働者自身および周囲の労働者,公共に対する安全の確保およびリスクの回避,2) 軍人や消防士のような業種における危険に対応できる能力.さらに障害者や有病者については,事業者の責任としての合理的配慮という考え方が求められていた.各論文中で述べられている職務適性評価の決定プロセスについては,どの国においても,1)職務分析,2)障害・疾病によって生じている職務に関連した制限・リスク評価といった労働者分析,3)障害者と事業者との話し合いによる合理的配慮の提示および実現可能性や有効性,コスト等に基づく評価からの必要な就業配慮の選択,4) 1)~3)の内容と各分野の専門家の意見をもとにした職務適性判断という流れが示されていた. 考察: 本調査により,医師による健康診断結果をもとにした就業上の措置に関する意見の明確な判断基準や数値基準に関わる情報を見出すことはできなかったが,労働者の健康度と職務の要求度および危険度を照合した上で職務適性を評価するプロセスを明らかにすること,就業上必要な意見を述べる技術力が医師に求められていることが改めて確認された.さらに障害者や有病者の職務適性評価に関して,日本においても事業者の義務としての合理的配慮について注目されることが予想される.健診事後措置においては判断基準や数値基準に頼るだけでなく,意見を述べる際の手順や留意点を明確にする必要がある.さらに就業上の意見を述べなければいけない医師には,職務適性評価を行う十分な技術が求められることが示唆された.
著者
職域における喫煙対策研究会 大和 浩 姜 英 朝長 諒 藤本 俊樹 中川 恒夫 平野 公康
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.146-151, 2022-05-20 (Released:2022-05-25)
参考文献数
6

目的:改正健康増進法では,バスやタクシーなど旅客運送用車両での喫煙は禁止され,屋外や家庭,それ以外の車両等で喫煙する場合についても「望まない受動喫煙が発生しないように配慮すること」が求められている.しかし,一般企業の業務車両や自家用車で同乗者が居るにもかかわらず喫煙している状況が散見される.本研究では,車両の中で喫煙した場合の受動喫煙の実態を明らかにすることを目的とした.対象と方法:5人乗りの自動車内で運転者が紙巻きタバコを1本喫煙し,すべての窓を閉鎖した状態,一部の窓を開けた状態,すべての窓を開放した状態の計6パターンで,助手席と後部座席において喫煙により発生する微小粒子状物質(PM2.5)の濃度をデジタル粉じん計で測定した.なお,結果:すべての窓を閉鎖した状態では車内のPM2.5 は 3,400 μg/m3 に達した.一部の窓を 10 cm開けてもPM2.5 は 500~3,000 μg/m3,すべての窓を開放しても数百~1,500 μg/m3 と高い濃度になることが認められた.考察と結論:業務車両や自家用車で同乗者の望まない受動喫煙を防ぐ配慮としては,窓を開放する対策では不適切であり,車内で喫煙しないことが求められる.
著者
塩崎 万起 宮井 信行 森岡 郁晴 内海 みよ子 小池 廣昭 有田 幹雄 宮下 和久
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.115-124, 2013 (Released:2013-08-15)
参考文献数
29
被引用文献数
5 6

目的:警察官は他の公務員と比べて心疾患による休業率が高く,在職死亡においても常に心疾患は死因の上位を占めることから重要な課題となっている.本研究では,A県の男性警察官を対象に,近年増加傾向にある虚血性心疾患に焦点をあて,各種危険因子の保有状況とその背景要因としての勤務状況や生活様式の特徴を明らかにすることを目的として検討を行った.対象と方法: 症例対照研究により,虚血性心疾患の発症に関連する危険因子について検討した.対象はA県警察の男性警察官で,1996–2011年に新規に虚血性心疾患を発症した58名を症例群,脳・心血管疾患の既往がない者の中から年齢と階級をマッチさせて抽出した116名を対照群とした.虚血性心疾患の発症5年前の健診データを用いて,肥満,高血圧,脂質異常症,耐糖能障害,高尿酸血症,喫煙の有無を両群で比較するとともに,多重ロジスティック回帰分析を用いて調整オッズ比を算出した.続いて,男性警察官1,539名と一般職員153名を対象に,横断的な資料に基づいて,各種危険因子の保有率およびメタボリックシンドローム (MetS) の有所見率,勤務状況および生活様式の特徴を年齢階層別に比較検討した.結果: 虚血性心疾患を発症した症例群では,対照群に比べて発症5年前での高血圧,耐糖能障害,高LDL-C血症,高尿酸血症の保有率が有意に高かった.多重ロジスティック回帰分析では高血圧(オッズ比 [95%信頼区間]:3.96 [1.82–8.59]),耐糖能異常 (3.28 [1.34–8.03]),低HDL-C血症 (2.26 [1.03–4.97]),高LDL-C血症 (2.18 [1.03–4.61]) が有意な独立の危険因子となった(モデルχ2:p<0.001,判別的中率:77.0%).また,警察官は一般職員に比べて腹部肥満者 (腹囲85 cm以上)の割合が有意に高く(57.3% vs. 35.3%, p<0.001),年齢階層の上昇に伴う脂質異常症や耐糖能障害の有所見率の増加もより顕著であった.45–59歳の年齢階層では個人における危険因子の集積数(1.8個 vs. 1.4個, p<0.01)が有意に高く,MetS該当者の割合も高率であった(25.0% vs. 15.5%, p<0.1).さらに,MetS該当者では,交替制勤務者が多く (33.6% vs. 25.4%, p<0.01),熟睡感の不足を訴える者 (42.5% vs. 33.7%, p<0.01),多量飲酒者 (12.8% vs. 6.3%, p<0.01)の割合が高くなっていた.結論:警察官においても高血圧,耐糖能障害,脂質異常症などの既知の危険因子が虚血性心疾患の発症と関連することが示された.また,警察官は加齢による各種危険因子の保有率およびMetS該当者の割合の増加が一般職員よりも顕著であり,その背景要因として,交替制勤務や長時間労働などの勤務形態と,飲酒や睡眠の状態などの生活様式の影響が示唆された.
著者
岩切 一幸 高橋 正也 外山 みどり 平田 衛 久永 直見
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.12-20, 2007 (Released:2007-02-16)
参考文献数
23
被引用文献数
23 17

高齢者介護施設における介護機器の使用状況とその問題点:岩切一幸ほか.独立行政法人労働安全衛生総合研究所―近年,介護者の筋骨格系障害が急速に増加している.この対策としては,介護機器の使用が必要と考えられることから,現在の高齢者介護施設における介護機器の使用状況と問題点・要望を把握することを目的としたアンケート調査を実施した.調査では,特別養護老人ホーム2施設と介護老人保健施設1施設を対象に,事業所調査票と個人調査票を配布した.解析対象者は,平均年齢32.2歳の介護福祉士およびケアワーカーの81名(女性63名,男性18名)とした.施設の平均入所者数は70.0名,平均要介護度は3.6であった.3施設とも車いすと高さ可変式ベッドは必要数確保されており,常に使用されていた.しかし,床走行式リフト,天井走行式リフト,スライディングボードの導入数は少なく,それぞれの使用割合も14.8%,16.0%,23.5%と低かった.特に使用割合の低かったリフトの問題点は,乗り降りに手間がかかる,落下の危険性を感じるであった.その他にも,機器の問題点や改良への要望があげられた.介護者は,約9割の者が介護動作に関する教育や訓練を受けていたにも関わらず,移乗作業での腰部負担は大きいと訴えていた.このことから,筋骨格系障害の予防策としては,欧米のような介護機器の使用が必要と考えられた.また,そのためには,使い勝手を考慮した機器の改良も必要と考えられた. (産衛誌2007; 49: 12-20)
著者
川又 華代 金森 悟 甲斐 裕子 楠本 真理 佐藤 さとみ 陣内 裕成
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2022-017-E, (Released:2023-03-19)

目的:身体活動の効果のエビデンスは集積されているが,事業場では身体活動促進事業は十分に行われておらず,「エビデンス・プラクティス ギャップ」が存在する.このギャップを埋めるために,本研究では,わが国の事業場における身体活動促進事業に関連する組織要因を明らかにすることを目的とした.対象と方法:全国の上場企業(従業員数50人以上)3,266社を対象に,郵送法による自記式質問紙調査を行った.調査項目は,身体活動促進事業の有無,組織要因29項目とした.組織要因は,事業場の健康管理担当者へのインタビューから抽出し,実装研究のためのフレームワークCFIR(the Consolidated Framework For Implementation Research)に沿って概念整理を行った.目的変数を身体活動促進事業の有無,説明変数を組織要因該当総数の各四分位群(Q1~Q4),共変量を事業場の基本属性とした多重ロジスティック回帰分析を行った.最後に,各組織要因の該当率と身体活動促進事業の有無との関連について多重ロジスティック回帰分析を行った.結果:解析対象となった事業所は301社であり,98社(32.6%)が身体活動促進事業を行っていた.Q1を基準とした各群の身体活動促進事業の調整オッズ比は,Q2で1.88(0.62–5.70),Q3で3.38(1.21–9.43),Q4で29.69(9.95–88.59)であった(傾向p値 < .001).各組織要因と身体活動促進事業との関連については,CFIRの構成概念のうち「内的セッティング」に高オッズ比の項目が多く,上位から「身体活動促進事業の前例がある」12.50(6.42–24.34),「健康管理部門の予算がある」10.36(5.24–20.47),「健康管理部門責任者の理解」8.41(4.43–15.99)「職場管理者の理解」7.63(4.16–14.02),「従業員からの要望」7.31(3.42–15.64)であった.考察と結論:組織要因該当数と身体活動促進事業の有無に量反応関連が認められ,組織要因の拡充が身体活動促進事業につながる可能性が示唆された.特に,社内の風土づくりや関係者の理解の促進が有用であると推察された.
著者
池上 和範 田川 宜昌 真船 浩介 廣 尚典 永田 頌史
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.120-127, 2008 (Released:2008-08-08)
参考文献数
18
被引用文献数
5 6

積極的傾聴法を取り入れた管理監督者研修による効果:池上和範ほか.産業医科大学産業生態科学研究所精神保健学研究室―今回,我々は従業員数1,900名の電子機器製造業A事業場の管理監督者に対し,積極的傾聴法を取り入れたメンタルヘルス研修(以下,管理職メンタルヘルス研修と略す)を実施した.本研究の目的は,この管理職メンタルヘルス研修の管理職への効果,及び職場への効果について検討することである.対象は,A事業場において一般労働者を直接管理する全ての者とした.管理職メンタルヘルス研修は2006年9月から11月に実施し,調査は2006年5月から2007年2月に行った.研修内容は,「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(2006年厚生労働省)の“管理職への教育研修・情報提供”に掲げられている項目を,2回に分けて実施した.“労働者からの相談対応”の項目として積極的傾聴法を掲げ,1回目にその解説,2回目に発見的体験学習による実習を行った.更に,産業保健スタッフが作成した積極的傾聴法や研修に関する資料を研修実施1ヶ月後配布した.研修の効果指標として,全受講者に対し,積極的傾聴態度評価尺度(ALAS)を研修実施前後に実施し,他に研修内容に関する質問票調査,研修後の積極的傾聴に関する意識・行動変容に関する質問票調査を行った.更に,A事業場の従業員を対象に職業性ストレス簡易調査表(BJSQ)12項目版を管理職メンタルヘルス研修実施前後に調査を実施した.ALASは,有効な回答が得られた124名の結果を用い,BJSQ12項目版は協力が得られた約1,300名のうち,有効な回答が得られた908名を分析対象とした.ALASは,調査時点の主効果で有意差は認められなかったが,「傾聴の態度」,「聴き方」ともに平均値の上昇を認め,特に,「聴き方」は有意傾向であった.BJSQ12項目版では,「仕事の量的負担」,「上司の支援」,「同僚の支援」は調査時点の主効果で研修実施後に有意に上昇していた.特に「上司の支援」について,所属課毎の比較で研修開催後に有意に上昇していたものは全47課中8課認められた.今回の結果より,研修受講者が職場において積極的傾聴を実践し,相談対応の充実を図ることで,「上司の支援」が強化された可能性が示唆された. (産衛誌2008; 50: 120-127)
著者
森本 泰夫 田中 勇武
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.37-48, 2008 (Released:2008-04-04)
参考文献数
31
被引用文献数
9 9

ナノ粒子の有害性評価:森本泰夫ほか.産業医科大学産業生態科学研究所―ナノ粒子の有害性に関する研究において,既に有害性評価がなされている繊維状物質やPM2.5などの大気汚染物質の試験法やそのエンドポイントを参考として展開されていることが多い.作業環境における曝露としては,経気道的曝露が想定されるため,吸入曝露試験や気管内注入試験等の動物試験の結果が,有害性評価への貢献度は高い.動物試験のエンドポイントとして,慢性期における持続炎症や線維化及びその関連因子は,ナノ粒子の肺傷害の指標として有用と考えられる.一方,有害性評価試験の結果に差異が認められることがある.この主な原因は,試験に用いたナノ粒子のキャラクタリゼーション(ナノ粒子の物理化学的特性を明らかにすること)が充分に行われていないことにある.そのうち,特に,ナノ粒子の分散性の確認,それも曝露する直前の状態(吸入試験では動物曝露室,気管内注入試験においては,注入する懸濁液)で確認することが重要である.現状では数は少ないが,ナノ粒子のキャラクタリゼーションを行った有害性評価試験の報告が徐々に増加しており,このことが信頼性の高い有害性さらにはリスク評価につながると考えられる.(産衛誌2008; 50: 37-48)
著者
大原 賢了 鈴木 マリ子 新潟 尚子 白井 千香 井戸口 泰子 川平 茉智子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2020-039-B, (Released:2020-12-19)

目的:病気を理由とした退職(転職)は,病気の種類や障害の程度,職場の支援など,様々な要因の影響を受ける.指定難病を理由とした退職(転職)防止のため,介入すべき要因を明らかにする.対象と方法:2019年度(7~12月)に枚方市保健所に医療費助成の更新申請を行った全指定難病患者3,210人にアンケート調査を行い,この内,発病時に正社員,契約社員・派遣社員,パート・アルバイトであった20~59歳の539人を分析対象とした.指定難病を理由とした退職(転職)をイベントの発生,調査時に指定難病の理由で退職(転職)していない者を打ち切り例として,発病後就労期間別の退職(転職)者の割合の推移をKaplan-Meier法により求めた.また,対象者の性,発病時年齢,疾患群,日常生活動作(ADL),発病時雇用形態,発病時の会社で経験した支援内容(勤務時間の短縮,時間単位の休暇の取得など),発病時の会社で病気治療に関する解決できない困りごとといった要因と指定難病を理由とした退職との関係について,Coxの比例ハザードモデルを用いて検討を行った.結果:指定難病を理由とした退職(転職)者の割合は19.4%であった.指定難病を理由とした退職(転職)に有意につながりやすい独立した要因は,発病時年齢50歳代(30歳代基準,HR=2.55,95%CI(1.21–5.37)),外出介助必要以上(一人で外出可能基準,2.31(1.13–4.71)),契約社員・派遣社員(正社員基準,2.66(1.20–5.89)),解決できない困りごとあり(困りごとなし基準,4.15(2.43–7.09))であった.経験した会社の支援には,有意に退職(転職)防止につながる支援はなかった.結論:指定難病を理由とした退職(転職)は,発病時年齢,障害の程度,雇用形態,会社での治療上の困難の存在と有意に関連していた.会社による患者支援と退職(転職)との関連は明確では無かったが,会社での治療上の困難を減らすため,支援を拡大する必要がある.仕事と治療の両立支援は,事業者の義務ではない取組であり,支援拡大のためは事業者が取り組みやすい制度の構築が望まれる.
著者
金森 悟 甲斐 裕子 川又 華代 楠本 真理 高宮 朋子 大谷 由美子 小田切 優子 福島 教照 井上 茂
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.B15006, (Released:2015-08-12)
被引用文献数
5 4

目的:全国の企業を対象に,事業場の産業看護職の有無と健康づくり活動の実施との関連について,企業の規模や健康づくりの方針も考慮した上で明らかにすることを目的とした.方法:東京証券取引所の上場企業のうち,従業員数50名以上の3,266社を対象とした.郵送法による質問紙調査を行い,回答者には担当する事業場についての回答を求めた.目的変数を種類別健康づくり活動(栄養,運動,睡眠,メンタルヘルス,禁煙,飲酒,歯科)の実施,説明変数を産業看護職の有無,調整変数を業種,企業の従業員数,健康づくりの推進に関する会社方針の存在,産業医の有無としたロジスティック回帰分析を行った.結果:対象のうち415社から回収した(回収率12.7%).産業看護職がいる事業場は172社(41.4%)であった.健康づくり活動の実施は,メンタルヘルス295社(71.1%),禁煙133社(32.0%),運動99社(23.9%),栄養75社(18.1%),歯科49社(11.8%),睡眠39社(9.4%),飲酒26社(6.3%)の順で多かった.産業看護職がいない事業場を基準とした場合,産業看護職がいる事業場における健康づくり活動実施のオッズ比は,メンタルヘルス2.43(95%信頼区間:1.32–4.48),禁煙3.70(2.14–6.38),運動4.98(2.65–9.35),栄養8.34(3.86–18.03),歯科4.25(1.87–9.62),飲酒8.96(2.24–35.92)で,睡眠を除きいずれも有意であった.従業員数が499名以下と500名以上の事業場で層化し,同様の解析を行った結果,いずれの事業場においても,禁煙,運動,栄養に関する健康づくり活動実施のオッズ比は有意に高かった.しかし,メンタルヘルスと歯科については,499名以下の事業場のみ実施のオッズ比が有意に高かった.結論:全国の上場企業の事業場において,企業の規模や健康づくりの方針を考慮した上でも,産業看護職がいる事業場はいない事業場と比較して栄養,運動,メンタルヘルス,禁煙,飲酒,歯科の健康づくり活動を実施していた.健康づくり活動の実施には,事業場の産業看護職の存在が関連していることが示唆された.
著者
合志 清隆 加藤 貴彦 安部 治彦 Robert M WONG
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.97-104, 2003 (Released:2004-09-10)
参考文献数
54
被引用文献数
4 3

潜水法には圧縮ガス潜水と息こらえ潜水(素潜り)がある. 前者では脳と脊髄ともに影響を受けるが, 脊髄障害がより高頻度にみられる. これに対して後者の素潜りでは, 減圧障害を起さないとされてきたが, 潜水漁民の聞き取り調査を行なうと脳卒中症状として頻発していることが明らかとなった. 潜水に伴う脳病変では, 潜水方法による差異はなく, 不活性ガスの気泡による動脈原性の脳塞栓症が考えられる. また, 脳障害は症候学的には動脈ガス塞栓症と診断されてきたが, 発生機序による分類では減圧症に該当することが多く, 分類法によりその診断に乖離が生ずる. これに対して, 脊髄障害は圧縮ガス潜水にみられるが, 脊髄硬膜外静脈の灌流障害によるとの説が有力であり, 治療法もほぼ確立されている. しかし, 潜水に従事する労働者の一部には減圧障害に対する認識が低く, 過度の潜水を避けるように啓発することが重要である.
著者
池上 和範 江口 将史 大﨑 陽平 中尾 智 中元 健吾 日野 亜弥子 廣 尚典
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.E13003, (Released:2014-04-02)
被引用文献数
2 1

目的:本研究の目的は,若年労働者のメンタルヘルス不調の特徴を明らかにし,実効的なメンタルヘルス対策を検討することである.方法:国内の産業医386名に無記名の自由回答式質問票を送付し,109名から回答を得た.質問票は,産業医として対応したメンタルヘルス不調者の年齢階層別の特徴に関する設問と,若年労働者に対して実施しているメンタルヘルス対策とその効果の認知に関する2つのパートで構成された.全ての回答をデータ化し,質問毎に頻出語句とその出現数を数えた.前者に関しては,各年齢階層と頻出語句の関連性を検討するために統計学的処理を加えた.後者では,共同研究者及び研究協力者10名にて,若年労働者に対して実施しているメンタルヘルス対策とその効果の認知に関する記述を整理した.結果:コレスポンダンス分析において,20歳代の周辺には,性格,未熟,他罰的,発達障害,統合失調症,新型うつ病,不適応,入社,社会,上司,同僚などの語句が布置された.30歳代では業務の質的負担,量的負担といった仕事に関する語句,40歳代は家庭,子供,介護といった職場外要因に関する語句が布置された.若年労働者に対して実施した対策は,教育と面談に関する記述が頻出したが,その効果は不明であるという回答が最も多かった.複数名の回答者から,上司や人事担当者,産業医といった職場関係者と若年労働者の家族との連携により家族の支援の向上が認められたという回答が得られた.考察:若年労働者のメンタルヘルス不調は,職場への不適応や未熟で他罰的な性格といった個人的要因や精神障害,労働者の背景や職場組織に関する職業性ストレスといった様々な要因の影響を受けていることが示唆される.職場と家族との連携は若年労働者にとって重要なメンタルヘルス対策となる可能性がある.
著者
今井 鉄平 森口 次郎 安部 仁美 前田 妃 助川 真由美 柴田 英治 錦戸 典子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2021-004-E, (Released:2021-06-24)
被引用文献数
3

目的:新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により,多くの企業において従業員の安全・健康のみならず,事業への大きな影響を受けていることが考えられる.特に大企業と比べて経営資源が不足しがちな中小企業においては,新型コロナウイルス対策の遅れが懸念されるだけでなく,事業継続へのより大きな影響を受けている可能性が否めない.そこで,中小企業における新型コロナウイルス対策への取り組みの工夫,対策の困難点,および今後求められる支援の内容を明らかにすることを目的に研究を行った.対象と方法:企業として従業員数300名未満,または企業全体では300名を超えるものの50名を超える事業場のない27社の経営者または人事労務担当者を対象に,2020年8~10月に,新型コロナウイルス対策の実態や困難点,今後望まれる支援等に関するインタビュー調査を行った.聞き取り記録を作成し,産業医経験のある2名と産業保健師経験のある2名で,内容分析の方法に準じコードの共通性に着目して小カテゴリーを抽出し,徐々に抽象度を上げ,大カテゴリーを抽出した.結果:新型コロナウイルス感染症対策への取り組みについては,「企業として迅速に意思決定ができる体制を整える」,「正確な情報を入手し全従業員と共有する」,「社内の具体的対策を強化する」,「事業継続のために懸命に対策を練る」の4つの大カテゴリーに集約された.また,対策における困難点については,「情報収集・共有に関する困難」,「未知の感染症対策への困難」,「備品調達・検査受診の困難」,「合意形成・社内体制整備の困難」,「事業継続と感染症対策のバランスの難しさ」の5つ,今後望まれる支援については,「正確な情報を一元化・簡潔にしてほしい」,「Polymerase Chain Reaction(PCR)検査環境を整備・拡充してほしい」,「事業継続支援がほしい」の3つの大カテゴリーに集約された.考察と結論:中小企業の特性を活かしながら,細やかに大カテゴリーとして抽出された4つの取り組みを行っているケースも多くみられたが,これらが成立する前提として経営者が正しくリスクを認識できていることが必要と考えられる.しかしながら,専門資源に乏しい中小企業においては,意思決定に必要な正しい情報が得られない懸念もある.このため,産業保健専門職には,意思決定者が溢れる情報の中から正しい情報を取捨選択できるような支援が望まれる.
著者
山本 美奈子 宗像 恒次
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.10, 2012 (Released:2012-03-05)
参考文献数
42
被引用文献数
5

労働者のメンタルヘルスと行動特性の影響―共分散構造分析による因果モデルの検証―:山本美奈子ほか.筑波大学大学院人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学専攻―目的:労働者のメンタルヘルスの諸要因を明らかにし,また行動特性とメンタルヘルスとの因果関係を検証した.対象と方法:民間企業と地方自治体の労働組合に加入する労働者1,425名を対象に無記名自記式質問紙調査にて分析した.結果:労働者の行動特性とメンタルヘルス不調の関連を共分散構造分析により調べた.その結果,自己抑制型,対人依存型などの行動特性で示される他者報酬型自己イメージ変数は,直接メンタルヘルス不調に影響していることが示された.情緒的支援認知は,行動特性である他者報酬型自己イメージ変数とストレス源認知に直接影響し,メンタルヘルス不調に間接的に影響していることが示された.さらに,多母集団同時分析の結果,集団による違いは認められず,因果モデルは同じ構造を持っていることを確認した.考察:他者報酬型自己イメージは,メンタルヘルス不調に直接影響し,その影響力は最も大きかった.そのため,メンタルヘルス不調を予防するには,自己報酬型自己イメージにシフトしていくことが重要であると示唆された.さらに,職場の情緒的支援認知を高め,自己表現力や自己価値感を高める取り組みは,自己報酬型自己イメージ変容を促し,メンタルヘルス不調を予防する可能性が期待できると示唆された.
著者
小島 原典子 福本 正勝 吉川 悦子 品田 佳世子 對木 博一
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.103-111, 2018-09-20 (Released:2018-10-02)
参考文献数
43
被引用文献数
1

目的:「復職ガイダンス2017」は,Evidence-based Medicineの手順でエビデンスの質を評価し,無作為化比較試験(RCT)のシステマティックレビューの結果から推奨を提示した,わが国最初の産業保健ガイダンスである.各介入のシステマティックレビュー,推奨の各論については各論で詳述する予定であり,本稿では作成方法を中心とした概論を報告する.対象と方法:透明性の高いガイダンス作成グループの編成,レビュークエスチョン(RQ)の公募と選定など,先に公開された,「科学的根拠に基づく産業保健ガイダンスの作成方法」に沿って作成された.6つのRQに対し,Cochrane Library・PubMed・医中誌Webの3つの文献データベースを用いて,既存のシステマティックレビューの検索式を一部改訂して2016年1月時点の文献検索を行った.選定基準に沿って採用論文を選定し,GRADEアプローチを用いてエビデンスの質を評価し,RQ2と4はメタアナリシス,RQ5,6は定性的システマティックレビューを行った.費用対効果についても定性的レビューを行い,コスト・資源など我が国における実行可能性を慎重に検討して推奨を作成した.結果:網羅的文献検索の結果,RQ2 11件,RQ4 4件,RQ5 コホート研究1件,RQ6 3件(うち,コホート研究2)を選定した.休職者に対するリワークなど復職支援プログラムは,中等度のエビデンスに基づく強い推奨(筋骨格系障害),弱い推奨(メンタルヘルス不調)であった(RQ2).RQ4では,産業保健活動として主治医など臨床のスタッフと連携することは,低いエビデンスに基づいて弱く推奨された.RQ5はソーシャルサポートの有用性について検討したコホート研が1件だったことから,推奨としては提示せずBest practice statementとして上司・同僚の介入を提案した.復職時に就業上の配慮に関するRQ6は,低いエビデンスに基づいて弱く推奨された.考察と結論:病気欠勤か病気休職かを問わず4週間以上の私傷病による休職者に対して,休職中の介入が早期復職など就業上のアウトカムの向上させることがシステマティックレビューの結果から明らかとなった.我が国の産業保健に関するエビデンスは限られているが,多くの産業保健職が科学的根拠に基づく透明性の高いガイダンス作成方法を習得し,その作成過程で文献検索,エビデンスの評価を行い,我が国で優先的に行われるべき研究課題を明確にすることに現状では大きな意義があると考えている.