著者
森 美穂子 堤 明純 高木 勝 重本 亨 三橋 睦子 石井 敦子 名切 信 五嶋 佳子 石竹 達也
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.113-118, 2005 (Released:2006-01-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

交代勤務経験の有無と退職後の生活の質,特に睡眠の質との関連性を明らかにするために,ある製造会社の退職者777名を対象に質問紙調査を行った.質問内容は,既往歴,現在の健康状態,食習慣,アルコール,喫煙,運動,睡眠,在職中の勤務状況(職種,交代勤務経験,交代勤務経験年数,副業),現在の就業状況,社会参加,学歴,性別,年齢,退職後の年数であった.「現在の健康状態(オッズ比4.318,95%信頼区間2.475-7.534)」「交代勤務経験(2.190,1.211-3.953)」「現在の就業状況(1.913,1.155-3.167)」「食習慣(1.653,1.055-2.591)」が多変量解析によって退職後の睡眠障害と有意に関連した.退職後の睡眠障害を防ぐには正しいライフスタイル,良好な健康状態を保つことが,特に交代勤務経験者において大切である.
著者
鈴木 真美子 酒井 博子 福田 吉治
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.247-255, 2019-11-20 (Released:2019-11-25)
参考文献数
27
被引用文献数
1

目的:医療機関の受診が必要であるにも関わらず,健診結果に基づく再検査,精密検査等を受けていない現状がある.そこで,本研究は,健診結果に基づく事業場労働者の医療機関受診につながる要因を明らかにし,受診率向上に必要な産業保健活動を検討することを目的とした.方法:東京都と埼玉県の1,000人規模以上の企業で働く労働者20才以上の男女を対象に横断的質問紙調査を実施した.これまでの定期健康診断で再検査,要精密検査,要治療の判定を受けたことがあると答えた453名(男性389名,女性64名)を対象とした.医療機関の受診の有無で2群に区分し,受診に関連する要因についてロジスティック回帰分析モデルを用いて検証した.結果:勤務年数10年以上に対して,勤務年数5年未満の医療機関受診に対するオッズ比は2.9(95%CI: 1.6-5.2)であった.同じく有意な関連が認められたものは,相談者がいることで,オッズ比は2.4(95%CI: 1.4–4.3),定期的受診経験があることで,オッズ比は1.8(95%CI: 1.2–2.7)であった.年齢,性別,雇用形態,1年間の残業,健康感,職場制度の利用,具体的相談者は有意な差を認めなかった.結論:本研究集団における健診結果に基づく医療機関受診につながる要因は,健康上の相談をできる人がいることや定期的受診経験があることであった.また,勤務年数5年未満の人ほど要受診判定を受けた場合,その結果に従い受診する傾向が明らかとなった.確実な受診に結びつけるためには,専門家による相談体制づくりを進めることや勤務年数の各層に応じた働きかけが必要である.
著者
吉村 健佑 川上 憲人 堤 明純 井上 彰臣 小林 由佳 竹内 文乃 福田 敬
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.E12003, (Released:2012-12-21)
被引用文献数
3 3 1

目的:本研究では職場におけるメンタルヘルスの第一次予防対策の実施が事業者にとって経済的利点をもたらすかどうかを検討することを目的とし,すでに公表されている国内の研究を文献検索し,職場環境改善,個人向けストレスマネジメント教育,および上司の教育研修の3つの手法に関する介入研究の結果を二次的に分析し,これらの研究事例における費用便益を推定した.対象と方法:Pubmedを用いて検索し,2011年11月16日の時点で公表されている職場のメンタルヘルスに関する論文のうち,わが国の事業所で行われている事,第一次予防対策の手法を用いている事,準実験研究または比較対照を設定した介入研究である事,評価として疾病休業(absenteeism)または労働生産性(presenteeism)を取り上げている事を条件に抽出した結果,4論文が該当した.これらの研究を対象に,論文中に示された情報および必要に応じて著者などから別途収集できた情報に基づき,事業者の視点で費用および便益を算出した.解析した研究論文はいずれも労働生産性の指標としてHPQ(WHO Health and Work Performance Questionnaire)Short Form 日本語版,あるいはその一部修正版を使用していた.介入前後でのHPQ得点の変化割合をΔHPQと定義し,これを元に事業者が得られると想定される年間の便益総額を算出した.介入の効果発現時期および効果継続のパターン,ΔHPQの95%信頼区間の2つの観点から感度分析を実施した.結果:職場環境改善では,1人当たりの費用が7,660円に対し,1人当たりの便益は点推定値において15,200–22,800円であり,便益が費用を上回った.個人向けストレスマネジメント教育では,1人当たりの費用が9,708円に対し,1人当たりの便益は点推定値において15,200–22,920円であり,便益が費用を上回った.上司の教育研修では2論文を解析し,Tsutsumi et al.(2005)16)では1人当たりの費用が5,290円に対し,1人当たりの便益は点推定値において4,400–6,600円であり,費用と便益はおおむね同一であった.Takao et al(2006)17)では1人当たりの費用が2,948円に対し,1人当たりの便益は0円であり,費用が便益を上回った.ΔHPQの95%信頼区間は,いずれの研究でも大きかった.結論:これらの研究事例における点推定値としては,職場環境改善および個人向けストレスマネジメント教育では便益は費用を上回り,これらの対策が事業者にとって経済的な利点がある可能性が示唆された.上司の教育研修では点推定値において便益と費用はおおむね同一であった.いずれの研究でも推定された便益の95%信頼区間は広く,これらの対策が統計学的に有意な費用便益を生むかどうかについては,今後の研究が必要である.
著者
甲田 茂樹 安田 誠史 杉原 由紀 大原 啓志 宇土 博 大谷 透 久繁 哲徳 小河 孝則 青山 英康
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.6-16, 2000-01-20 (Released:2017-08-04)
参考文献数
34
被引用文献数
6 23

運輸労働者の健康問題に影響を与える職業要因を評価するために, 1997年に541名の運輸労働者を対象に労働・勤務条件, 運転労働に係わる職業性要因, 身体の自覚症状や疾病罹患の状況について質問紙法で調査を実施した.有効回答率は85.7%, 134名の集配業務に従事する運転労働者(集配群)と199名の長距離輸送に従事する運転労働者(長距離群), 71名の事務職員を分析対象とした.まず, 三つの群での職業性要因と健康問題を検討するために, 労働・勤務条件や身体の自覚症状や疾病罹患の状況を比較検討した.ついで, 集配群と長距離群における職業要因が健康問題に与える労働関連性を検討するために, ロジステック回帰分析を実施し, オッズ比と95%CIを計算した.健康問題に影響を与える職業要因, すなわち, 不規則交代制勤務, 労働環境, 作業姿勢, 重量物取り扱い, 多い仕事量や長時間労働への不満, 休憩時間の取得困難の要因で, トラック運転労働者の訴え率が事務職に比べて有意に高かった.耳鳴り, 頚の痛み, 腰痛の自覚症状と高血圧, 胃十二指腸潰瘍, 腰背部打撲, むち打ち症, 痔疾の疾患でトラック運転労働者の訴え率が事務職に比べて有意に高かった.ロジスティック回帰分析の結果では, 年齢やBMI, 喫煙習慣を以外の多くの労働関連要因で, 身体の自覚症状や疾病罹患に関する有意に高いオッズ比を認めた.集配群の循環器疾患及び関連した自覚症状に関するオッズ比は, 経験年数, 腰の捻転動作, 振動, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.消化器系疾患及び関連した自覚症状に関するオッズ比は, 狭い作業空間, 車中泊, 長い走向距離, しゃがみ姿勢, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.集配群の自覚症状の耳鳴りに関するオッズ比は, 経験年数, 長時間労働, 狭い作業空間, 車中泊, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.腰痛や頚部痛等の筋骨格系疾患及び関連したに自覚症状に関するオッズ比は, 残業, 振動, 狭い作業空間, 座り姿勢, 少ない休憩時間で有意に上昇していた.疲労症状に関するオッズ比は, 少ない休憩時間, 振動, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.運輸労働者の健康問題を解決するためには, 上記の労働・勤務条件や運転労働に関連した課題を改善する必要がある.
著者
奥野 勉 上野 哲 小林 祐一 神津 進
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.85-89, 2013-05-25 (Released:2013-06-27)
参考文献数
8

目的:ガラス製品を製造する工場では,作業者は,炉,溶融ガラスなどの高温の物体が発生する強い可視光へ曝露される.ブルーライトと呼ばれる短波長の可視光への曝露は,網膜障害(photoretinopahy)を引き起こす可能性がある.本研究の目的は,ガラス製品の製造に伴って発生するブルーライトを定量的に評価することである.対象と方法:クリスタルガラス工芸品を製造する工場において,炉の内部の壁と発熱体,および,炉内に置かれたガラス材料の分光放射輝度を測定した.炉は,2基の再加熱炉,3基の溶解炉,1基の竿焼き炉を調べた.測定された分光放射輝度から,ACGIHの許容基準に従って,実効輝度を計算し,これを許容値と比較した.また,それぞれの光源について,分光放射輝度を黒体の分光放射輝度と比較し,その温度を求めた.結果:測定された実効輝度は,0.00498–0.708 mW/cm2srの範囲にあった.実効輝度は,1,075–1,516 ℃の温度の範囲において,温度と共に急速に上昇した.それぞれの光源の実効輝度は,同じ温度の黒体の実効輝度とほぼ等しかった.考察:炉の内部の壁と発熱体,および,炉内に置かれたガラス材料の実効輝度は,1日の曝露時間が104 sを超える場合の許容値である10 mW/cm2srの十分の一以下であった.したがって,これらの光源を見たとしても,網膜障害の危険性はないと考えられる.ただし,光源の温度が約1,800 ℃以上である場合には,実効輝度は,許容値を超えると推定される.このような高温の光源がガラス製品の製造の現場にある場合には,ブルーライトによる網膜障害の危険性があると考えられる.
著者
影山 隆之 小林 敏生 河島 美枝子 金丸 由希子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.103-114, 2004 (Released:2006-09-21)
参考文献数
62
被引用文献数
30 23

勤労者のコーピング特性(CP)は,職業性ストレス要因から健康問題が発展する過程に大きく影響する.しかしCPに関する既存の質問紙の多くは長すぎて,職域精神保健活動に活用しにくい.本研究で著者らは,わずか18項目から成る,勤労者のCP評価のための新しい自記式質問紙の開発過程と,その信頼性・妥当性・実用性について報告する.予備研究に基づき,コーピング戦略に関する18問6尺度から成るコーピング特性簡易尺度(BSCP)が提案された.これと職業性ストレス簡易評価尺度(BSJS)および抑うつ尺度(CES-D)から成る質問紙を某企業の従業員394名に適用し,328名(83%)から回答を得た.年齢の平均(SD)は40.1(10.0)歳,78%が男性,75%が既婚で,ほとんどがホワイトカラーであった.BSCPの因子分析から抽出された6因子は当初想定した6尺度や先行研究の結果とよく一致した.これらは“積極的問題解決”“解決のための相談”“発想の転換”“気分転換”“他者を巻き込んだ情動発散”“逃避と抑制”と命名された.Cronbachの信頼性係数は0.66~0.75で,十分高い内的一貫性が認められた.どの尺度も性・年齢との関連はなかった.多変量解析の結果,抑うつ度得点の分散の38%がBSJSの“量的負荷”“対人関係の困難”“達成感”およびBSCPの“問題解決”“逃避と抑制”によって説明された.交互作用分析の結果,CPが職業性ストレス要因と抑うつ症状の関係を修飾していることが示唆された;“対人関係の困難”得点が高くかつ“達成感”得点が低い群においてのみ“積極的問題解決”得点は抑うつ度得点と負相関しており,“対人関係の困難”得点が高い群においてのみ“逃避と抑制”得点は抑うつ度得点と正相関していた.以上の結果はBSCPの信頼性・妥当性を支持するとともに,職域精神保健領域における職業性ストレスの自己管理や健康教育の道具としてのBSCPの実用性を支持するものである.今後の研究では,BSCPの再現性や併存的妥当性を確認するとともに,他の集団においてCPが性・年齢・職種あるいは他の職業性ストレスアウトカムと関連しているかどうか確認することが,課題である.
著者
井田 浩正 中川 和美 三浦 昌子 石川 清子 矢倉 尚典
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.101-107, 2012 (Released:2012-06-30)
参考文献数
24
被引用文献数
2 10

目的:出勤している労働者の健康問題による労働遂行能力の低下を表すpresenteeismが企業にもたらす損失は,健康問題全般による休業を表すabsenteeismがもたらす損失や医療費よりも大きいとの報告がある.Presenteeismを測定し評価するツールは米国を中心に開発されているが,本邦で活用できるツールは少ない.Lerner Dらが開発したWork Limitations Questionnaire(WLQ)はpresenteeismによる労働遂行能力の低下率が測定できる質問票で,「時間管理」,「身体活動」,「集中力・対人関係」,「仕事の結果」の4つの下位尺度,25問の質問項目で構成されている.本研究で筆者らは,WLQの日本語版(WLQ-J)の開発を行い,信頼性・妥当性を検討したので報告する.対象と方法:IT企業および医療機関に勤務する21–61歳の男女1,545人を対象として,インターネット調査によるWLQ-J,職業性ストレス簡易調査を実施し,有効回答が得られた710名(回答率46.0%)を解析対象とした.結果:解析対象者の平均年齢は33.2±9.5歳,女性が60.3%であった.WLQ-Jの因子分析の結果,原版と因子数および下位尺度の内容が一致し,構成概念妥当性が支持された.また,Cronbachのα係数は尺度全体で0.97,下位尺度で0.88–0.95を示し,内的一貫性が認められた.職業性ストレス簡易調査票のストレス反応を外的基準として,WLQ-Jの下位尺度とストレス反応との相関を検討した結果,Pearsonの相関係数は0.39–0.60で有意であった(p<0.01).また,ストレス反応が大きくなるにつれ有意にWLQ-Jの下位尺度得点が高くなる量反応関係が確認され(p<0.01),WLQ-Jの基準関連妥当性が支持された.考察:以上の結果から,WLQ-Jの信頼性・妥当性が支持された.WLQ-Jは,本邦の多様な産業において生産性の向上を目的とした健康増進の取り組みや,経営,人事,ライン,産業保健などの管理活動を推進・評価するうえで有用であると考えられる.今後,WLQ-Jについて他の集団との性・年齢・職種での比較,他の評価指標との関連について検討することが課題である.
著者
冨岡 公子 熊谷 信二
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.195-203, 2005 (Released:2006-01-05)
参考文献数
75
被引用文献数
11 11

欧米では,抗がん剤を取り扱う医療従事者の職業性曝露に関する危険性について,1970年後半から警告的内容の報告がなされ,1980年代から1990年にかけて安全な抗がん剤の取扱いに関するガイドラインが制定されている.ガイドラインによって,個人保護具や作業環境が改善されてきている.また,職業性抗がん剤曝露の健康影響に関する調査・研究も盛んに行われている.日本においては,1991年に,日本病院薬剤師会がガイドラインを制定し,それ以降,抗がん剤の安全な取扱いに対する認識が看護師を中心に関心が持たれるようになったが,医療現場はあまり変化してきていない.産業衛生の分野に限ってみると,抗がん剤の安全な取扱いに対する記事や研究は,ほとんど見あたらない.抗がん剤を取り扱う医療従事者の職業性曝露に関する危険性についてはいまだに不明な点が多い.しかし,医療従事者における抗がん剤曝露の低減は,産業衛生上の重要な課題である.日本においては,抗がん剤の取扱いに適切な保護具や作業環境を普及させ,抗がん剤の安全な取扱いに関して検討する必要がある.また,欧米同様に,国家レベルの実効性や強制力が付与された抗がん剤の安全な取扱い指針が策定されることが望まれる.
著者
三島 徳雄 久保田 進也
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.27-31, 2001-03-20 (Released:2017-08-04)
参考文献数
17

産業医学では,リスナー教育は一次予防として行われるのが普通である.ここでは積極的傾聴法を中心とする研修という点から,リスナー教育の現状について報告した.傾聴は,Rogersの3条件(共感,無条件の肯定的関心,自己一致)に基づく人間尊重の態度をもって相手の話を聴くことを意味する.このような研修の必要性は幅広く解説されているが,学術的な研究論文は乏しい.このレビューでは,これまでに報告されてきたリスナー教育に関する報告について,一貫して3条件に基づいて行われる狭義のリスナー教育と,Rogersの理論とは異なる技法を組み合わせた広義のリスナー教育に分けて検討した.前者の例としては,池見らによる人間尊重の態度の重要性に関する研究があり,久保田ら,三島ら,および宮城は実際の研修について報告している.後者の例としては,森崎および浜口らは,交流分析等を含む彼等の研修を報告している.最後に,今後はリスナー教育の評価に関する研究が必要であるだけでなく,人材育成の視点から傾聴を考える必要があることも指摘した.
著者
廣 尚典
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.1-6, 2001-01-20 (Released:2017-08-04)
参考文献数
20
被引用文献数
3 5

本稿は, 職場のストレス対策において管理監督者が担うべき役割を論じた過去の文献を概観し, それを推進するための教育研修のあり方をまとめた.従来から職場で行われるストレス対策およびメンタルヘルス対策の多くで, 管理監督者教育は, 重要な活動のひとつとして位置付けられている.その効果についても, 職場のストレスの軽減や労働者の仕事に対する満足度の向上の面で, 高く評価する報告がみられる.しかしながら, その数はまだ多くなく, 前向きの介入研究により評価を行った研究報告は極めて少ない.さまざまな管理監督者教育プログラムの有用性に関する検討は今後の課題といえる.また, 最近多くの企業で組織や勤務形態などに変化がみられており, 従来型の上司-部下関係も徐々に変貌しつつある.それに伴って, ストレス対策において管理監督者に求められる役割も見直される余地があるであろう.
著者
小泉 直子 藤田 大輔 二宮 ルリ子 中元 信之
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.107-112, 1998
参考文献数
12
被引用文献数
3 9

State-Trait Anxiety Inventory(STAI)の統計学的検査項目減数化によるスクリーニングテスト:小泉直子ほか.兵庫医科大学公衆衛生学-本研究の目的は, 定期健診で身体的健診と平行して簡便に行い得る精神面の健診方法を見つけ出すことである.阪神淡路大震災の復興事業に携わる建設業の男性労働者264名を対象に, 定期健診時に行われたSTAIの状態不安(A-State)20項目, 特性不安(A-Trait)20項目, 計40項目の検査データとSDS検査データを基に重回帰分析を行い, 簡易スクリーニングテストとして活用しうる5項目を抽出した.この5項目の総得点に対する説明率は, 状態不安90.0%, 特性不安88.5%であり, 推計値と実測値の相関は, 状態不安r=0.949(p<0.01), 特性不安r=0.940(p<0.01)であった.また, この5項目の構成概念妥当性および信頼性についてもそれぞれ一定の評価が得られたことより, 対象者の精神健康の概要を把握するための簡易検査法として有用であり, 事業所におけるメンタルヘルス対策に活用しうると考えられる.
著者
豊島 裕子 中村 晃士 西岡 真樹子 清水 英佑
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.70-78, 2005-03

アパレル産業は, 仕事で独特な芸術性を要求され, 残業時間が長く, 雇用状態が不安定で労働者の負荷となる要因が多く, 他の業種と比較して職業性ストレスが多い産業ではないかと考えている. そこで, 男性561人, 女性387人からなる某アパレル企業において, メンタルヘルスに関して産業医面談を受けた66人の社員を分析して, 報告する. 産業医面談を受けた社員は, 他の社員に比して, 労働時間が長く, 雇用条件が不良で, より芸術性を要求される職種の人たちであった. アパレル企業では, "Specialty store retailer of Private-label Apparel(SPA)"という業務システムを取り入れている. SPAでは, 社内ブランド同士の競争が激しく, ブランド内では1週間周期で新商品の開発, 縫製, 出荷をこなさなければならず, 労働者のストレス, 疲労は高まる. 以上より, アパレル企業は極めてストレスの多い職場と結論した. ストレスの多いアパレル企業のメンタルヘルス健康管理では, 産業医が面談で疑わしいと判断した社員は速やかに精神科に紹介すること, また産業医自身も問題を抱えた社員に対しては頻回に面談を行うこと, 職長は部下の休暇, 作業能率, E-メール送信時のマナーなどに気を配ることが重要と考える. 病欠していた社員が復職する際は, 短時間勤務から徐々に勤務時間を延ばしていく「慣らし出社」が, 円滑な復職に有効であった.
著者
末満 達憲 奥藤 達哉 宮崎 彰吾 堀江 正知
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.27-34, 2007-01-20
参考文献数
22
被引用文献数
1

近年,本邦においては,精神障害または脳血管疾患や虚血性心疾患(以下,「脳・心疾患」)との因果関係があると解釈する範囲が拡大してきた.しかし,本邦以外においても,同様の解釈であるとはいえず,海外で事業を行う企業は,その活動する国・地域における法令,判例を把握することが望まれる.そこで,その端緒として,米国の政府機関,大学等のホームページに掲載された公式文書を対象として,過重労働による健康障害に関係する法令等を調査した.得られた知見の概要は以下のようである.1,米国においては州の権限が強く,雇用分野の連邦法が直接適用されていたのは,連邦政府や州際交易の事業等における雇用の領域関係に限られていた.しかし,業務に関連した傷病の記録及び報告は,全州においてほとんどの雇用主に義務づけられており,それに基づく全国的統計が整備されていた.2,業務に関連した死傷病報告の対象となる疾患の基準は,CFR (Code of Federal Regulations,2001年改正)で明規されていた.その改正過程において,精神障害の取扱いについては各界からの意見が錯綜し,最終的に現行の「医師等による当該疾患が業務関連性を有するとの意見書を,被雇用者が任意に雇用者に提出した場合」にのみ対象とすることとなった.3,脳・心臓疾患についての特段の基準はなく,CFRの当該個所に「既存の疾病を有意に悪化させた場合」も業務関連があると認定する旨が規定されているのみであった.4,民間事業所に係る業務関連休業傷病統計(2004)によると,精神障害は約3,000例(常勤労働者10,000人当たり0.3例)にのぼるが,脳・心臓疾患は合計で500例以下であった.米国においては,かなりの数の業務関連性を有する精神疾患が報告され,州政府等により職場におけるメンタルヘルスプログラムの必要性の啓発がなされていた.米国で事業を行う日本企業がメンタルヘルス対策をとる際は,これらの問題に係る人々の考え方や,法制を十分に理解した上で,プライバシーの侵害や,障害者の差別と指弾されることがないよう,特に留意をはかる必要があると考えた.業務関連性を有する脳・心疾患の報告は数少なかった.しかし,最近,この問題に係る文献レビューの刊行,会議の開催等がみられ,近い将来には課題となる可能性も考えられた.