著者
畑野 快 原田 新
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.98-106, 2015

本研究の目的は,大学新入生の前期課程に着目し,アイデンティティを中核的同一性,心理社会的自己同一性に分離して捉えた上で,大学生の心理社会的自己同一性と主体的な学習態度の変化の関係を明らかにすることであった。そのために,大学1年生437名(男性221名,女性212名,性別不明4名)を対象に4月と7月の2時点で縦断調査を実施した。まず,中核的同一性,心理社会的自己同一性および主体的な学習態度の可変性について確認するため,2時点における平均値の変化を<i>t</i>検定によって確認したところ,全ての変数の平均値は有意に低下していた。次に,3つの変数の2時点における相関係数を算出したところ,中核的同一性では高い相関係数が得られたことに対して,心理社会的自己同一性,主体的な学習態度の相関係数は中程度であった。さらに,潜在変化モデルによって中核的同一性,心理社会的自己同一性と主体的な学習態度の変化の関係を検討したところ,中核的同一性の変化と主体的な学習態度の変化との間には有意な関連が見られなかったものの,心理社会的自己同一性の変化と主体的な学習態度の変化との間に有意な正の関連が見られた。最後に,心理社会的自己同一性を向上させるための支援の方策について議論を行った。
著者
伊藤 恵子 田中 真理
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.73-83, 2006-04-20
被引用文献数
2 3

指示詞コ・ソ・アの理解という点から,自閉症児の語用論的機能の特徴を検討した。具体的には,指示詞「こっち・そっち・あっち」に対して言語教示のみによる理解実験を行い,(1)一般的な指示詞使い分けとの一致率,(2)反応パターンの分析,(3)行動観察の三つの視点から分析を行った。その結果,以下の点が見出された。(1)定型発達児では,実験者(話者)と対象児(聞き手)が同じ側に並ぶ同側条件と,両者が向かい合う逆側条件で,指示詞コ・ソ・アの理解の標準反応一致数に差がなかった。しかし,自閉症児では逆側条件で,この標準反応一致数が同側条件に比べても,定型発達児の逆側条件に比べても有意に少なかった。(2)逆側条件の「そっち」に関しては,従来から他者視点の取得を特に要すると言われているが,逆側条件の「そっち」に関する自閉症児の成績は「こっち」と「あっち」の指示詞理解の成績と差がなかった。(3)逆側条件における自閉症児の反応は,視点固定型が定型発達児に比べ有意に多かった。この視点固定型とは,話者の視点変換を行わず,先に実施した条件での話者視点からの反応を繰り返す反応型である。(4)言語のみで指示対象を特定するといった状況で,曖昧情報を補うために実験者(話者)の顔の向きや視線を手がかりにすることも,指示対象特定に迷うことも,自閉症児は定型発達児に比べ少なかった。
著者
寺坂 明子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.298-307, 2011

怒りには複数の側面があり,攻撃的な行動の背景には慢性的な怒りが存在することが知られている。本研究では,児童期・思春期における怒りについて,慢性的な怒りを含めた多次元的な構造とその特徴を検討した。慢性的な怒りについては認知的側面である敵意と情緒的側面であるいらだちから捉え,怒りの多次元的測定にはMultidimensional School Anger Inventoryのうち怒り体験と怒り表出も併せて用いた。研究1では小学5・6年生を対象に調査を行い,怒りの多次元的特徴と妥当性を検討した。研究2では研究1と同集団に対する追跡調査(中学2・3年時)を行い,怒りの多次元構造と発達的変化を検討した。調査の結果から,いずれの時期においても慢性的な怒りを含めた怒りの多次元構造が示され,慢性的な怒りが破壊的表出と関連しやすいことが示唆された。また,積極的対処以外の怒りの各側面で小学生時よりも中学生時で高いことが示された。変数間の関連,教師による行動評定との関連からは,男女で表出の在り方が異なると考えられた。
著者
千島 雄太
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1-12, 2015

本研究は,多くの青年が主体的に自己の変容を望んでいるにもかかわらず,変容が実現されにくい原因の一つとして,自己変容のメリット・デメリット予期に伴う葛藤を仮定し,葛藤の特徴について学校段階による比較から明らかにすることを目的とした。予備調査では,自己変容と現状維持に関するメリットとデメリットを自由記述形式で尋ね,記述を分類した。その分類結果から自己変容のメリット・デメリット予期項目を作成し,中学生,高校生,大学生・専門学校生1162名に本調査を行った。3つの学校段階と自己変容の予期得点を組み合わせた5群の連関を検討した結果,中学生では"予期低群"と"現状維持メリット予期群",高校生では"回避–回避葛藤群",大学生・専門学校生では"自己変容メリット予期群"と"接近–接近葛藤群"の割合が有意に多いことが明らかになった。さらに,学校段階と自己変容の予期5群を要因とした二要因分散分析を行った結果,葛藤は自尊感情や内省の発達に伴って変化することが示された。また,"自己変容メリット予期群"と"回避–回避葛藤群"で自己変容の実現得点が低く,内省を深め,現在の自分を肯定的に受け止めることが自己変容の契機になることが示唆された。
著者
難波 久美子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.276-285, 2005-12-20
被引用文献数
1

青年期後期の仲間概念を24名の青年への直接面接を通して探索的に検討した。研究1では, 調査協力者に現在の対人関係を表す単語を親密さの順に図示するよう求めた。そして, その単語の書かれた位置と, その単語がどのような関係性の規模であるのかによって対人関係を整理した。また, 各調査協力者に対し, 対人関係を表す単語が並べられた図中に, 仲間と捉える範囲を示すよう求めた。親密さと関係性の規模によって対人関係を整理し, 仲間と捉える範囲を併せて検討したことで, 仲間は親友に次ぐ親しさであること, 互いを認識できる複数の規模での関係であることが明らかとなった。研究2では, 児童期の仲間関係と現在の仲間関係の比較, 友だち・親友と仲間関係の比較によって, 仲間関係の説明を求めた。その結果, 青年期後期の仲間関係は, 児童期や青年期前期・中期の仲間関係とは区別されていた。また, 仲間の説明からは, 研究1と対応する親密さや関係性の規模に関する報告がみられた。さらに対人関係を整理する枠組みとして, 目的・行動の共有が導出された。そこで, 親密さと, 目的・行動の共有という2軸によって, 仲間, 友だち, 親友を布置し, 仲間を他の関係から分離する指標として目的・行動の共有が有効であることを確認した。
著者
糸井 尚子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.243-251, 2008-10-10
被引用文献数
1

本研究の目的は,ピザとチョコレートのアナロジー課題を使用して,幼児の図形比率において円形と四角形の形状の影響を明らかにすることである。4〜6歳児100人を対象児として,円形のピザと四角形のチョコレートの図版を用いてアナロジー課題を実施した。どちらの図版も分割線がはっきりしている状態で提示された。提示図版のピザ1枚全体からある比率の部分を取り除くことを示して,対象児に選択図版のピザ1枚あるいはチョコレート1枚または粒チョコ4個から同じ比率だけ取り去ることを求めた。実験者の提示図版であるピザまたは、チョコは8分割であり,2/8,4/8,6/8の比率を取り去り,対象児の選択図版のピザまたはチョコは4分割であり1/4,2/4,4/4取り去ることが求められた。選択図版は,これらに加えて分離した単位量として粒チョコ4個の課題も実施した。実験者,対象児の間でピザ-ピザ,チョコ-チョコ,ピザ-チョコ,チョコ-ピザ,および,ピザとチョコレートからそれぞれ粒チョコへのアナロジー課題の6課題が実施された。その結果,このアナロジー課題において4〜6歳児が比率を理解していることが示された。また,円形で8分割のピザが提示された場合は他の課題に比べて正答率が低いことが明らかになった。この結果から,図形の形状がアナロジーによる比率理解に影響を及ぼし,同じ8分割でも四角形か円形かによって比率の理解が異なることが示された。
著者
村山 恭朗 伊藤 大幸 高柳 伸哉 松本 かおり 田中 善大 野田 航 望月 直人 中島 俊思 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.477-488, 2014

反応スタイルは抑うつの維持もしくは悪化を引き起こす要因である。本研究は小学4年生から中学3年生の5,217名を対象とし小学高学年・中学生用反応スタイル尺度を開発することを目的とした。既存の反応スタイル尺度を参考に,「反すう」,「問題解決」,「思考逃避」,「気晴らし」の4因子を想定した原案16項目を作成した。探索的因子分析の結果,想定された通り小学高学年・中学生用反応スタイル尺度は4因子(「反すう」,「問題解決」,「思考逃避」,「気晴らし」)で構成されることが示された。さらに各因子間に認められた相関は先行研究の知見に沿うものであった。また信頼性に関して,各下位尺度のα係数は概ね基準以上の値であることが確認された。外在基準とした抑うつおよび攻撃性との相関を検討したところ,「反すう」は正の相関,「問題解決」および「気晴らし」は負の相関を示した。これらの結果は先行研究に沿うものであり,小学高学年・中学生用反応スタイル尺度の構成概念妥当性が確認された。
出版者
日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.493-494, 2014-12
著者
西中 華子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.466-476, 2014

本研究では小学生の居場所感の構造を心理学的観点および学校教育的観点から検討し,居場所づくりの実践研究への示唆を得ること,および性差・学年差の検討を目的とした。まず心理学における先行研究を概観し,居場所感の要素として「被受容感」,「安心感」および「本来感」を仮定した。加えて教育分野における居場所の提言や論考を参考に,「充実感」および「自己存在感」を仮定した。これらに関する計35項目を準備し,小学4~6年生の児童,男女合計931名を対象として調査を実施した。因子分析の結果,「被受容感」「充実感」「自己存在感」「安心感」の4因子が確認され,教育分野の実践においていわれている「充実感」や「自己存在感」が小学生の居場所感の一要素を表すことが明らかにされた。一方で青年期の居場所感において重要視されている「本来感」が小学生の段階では重視されない可能性が示唆された。これらのことより,小学生を対象とした居場所づくりでは,「被受容感」「充実感」「自己存在感」「安心感」を促進するような介入方法の必要性が示唆され,青年期とは異なる介入の検討が必要であると考えられた。また小学生の居場所感において,「被受容感」および「充実感」は5年生および6年生よりも4年生のほうが,「自己存在感」は5年生よりも4年生のほうが高いことが明らかにされた。さらに男子よりも女子のほうが「被受容感」および「安心感」が高いことが明らかになった。
著者
河本 愛子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.453-465, 2014

学校行事は授業と同様,すべての者が経験する教育活動であるにもかかわらず,どのような発達的意義を有するのかについては検討されてこなかった。そこで本研究では,中学・高校における学校行事体験に対する大学生の回顧的意味づけに着目して検討を行った。大学生670名を対象に質問紙調査を行い,中学・高校の学校行事体験を想起してもらった結果,6つの意味づけが見出された。それらは「集団への肯定的感情」,「他者意識の高まり」,「集団活動に対する消耗感」,「問題解決への積極性」,「他者統率の熟達」,「学校活動への更なる傾倒」であった。これらの意味づけにつながる参加の仕方を検討した結果,傾倒のみがすべての意味づけに関連していた。次に,傾倒に関連する活動の質を検討した結果,目標志向的に行動することが最も大きな関連を示していた。最後に,個人のパーソナリティ特性の調整効果を検討した結果,調和性の程度によって,活動の質と傾倒との関連の大きさが異なることが示された。以上より,中学・高校における学校行事体験がライフイベントとして個人の発達上,重要な意味を有することが示唆された。今後は,縦断研究を用いて,個人特性の違いを考慮した上で活動の発達的機能と影響過程を検討する必要があるだろう。
著者
鹿子木 康弘
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.443-452, 2014

我々は生まれながらにして向社会的なのだろうか? より大胆に言えば,我々は生まれながらにして善なのだろうか? 近年の乳幼児研究によって,発達初期におけるヒトの向社会性が明らかにされつつある。しかしながら,発達科学からのヒトの向社会性の本質についての議論は少ない。そこで,本稿では,実証的な発達研究をもとに,向社会性の性質やその変容を明らかにすることを目的とした。まず,進化生物学の理論を考察することにより,ヒトにおいて向社会性がいかにして形成・維持されるのかを議論する。次に,乳幼児期から就学前児を対象にした向社会性に関連する一連の研究を概観し,ヒトの向社会性は,発達早期において生来的な性質を持つが,発達とともにその性質が変容することを示した。更にその変容を促す要因(社会化,認知能力の発達,暴力的な場面やメディアなどへの接触経験)を考察することにより,発達早期における向社会性がいかに変容するかを描写した。最後に,向社会性の本質の更なる理解のために,今後の方向性として,その生起メカニズムや変容の解明についての試論を行った。
著者
青木 多寿子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.432-442, 2014

本研究の目的は,米国で実施されている品格教育について,その考え方や具体例を示し,品格教育の理論と実際を心理学の用語を含めて紹介することである。そこでまず,品格教育の概要を理解するため,品格教育が目指す姿を紹介し,その中でCharacterという言葉,品格教育が重視する徳について解説した。また全米で品格教育を推進するCEPの11の原理を紹介し,品格教育が目指す教育について解説した。次に,筆者が視察した3つのセンターとその特徴を記述する中で,品格教育が実際にどのように理解され,実践されているのかを具体的に示した。最後に,ポジティブ心理学や教育心理学との関係について紹介し,日本の道徳教育との相違点を述べて,実践としての品格教育の特徴を心理学の用語を用いてまとめた。
著者
渡辺 弥生
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.422-431, 2014

発達心理学研究において,道徳性および向社会的行動研究がどのように展開してきたかを概観し,今日学校予防教育が学校に導入しうるに至った経緯を考察した。子どもたちが社会的関係を築く能力や感情的なコンピテンスをどのように獲得するか,またいかに道徳的な価値を学びとるようになるのかは多くの研究の関心事であった。その後,研究と実践の橋がけに関心が抱かれ,道徳教育,ソーシャル・スキル・トレーニング,さらには社会性と感情の学習等のアプローチが,いじめを含むあらゆる学校危機を予防するために学校に導入されつつある。近年,こうした異なるアプローチがしだいに統合されつつあるが,これは,社会的文脈の一つとして学校全体が視野に入れられ,子どもたちが望ましい役割を適切に果たしていくために,認知,感情,行動のスキルが必要だというコンセンサスが得られてきたからであろう。今後,道徳性や向社会的行動の育成を意図した学校予防教育のさらなる発展に発達心理学研究の一層の活用が期待される。