著者
鈴木 亜由美
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.193-202, 2005-08-10 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
2

本研究では, 幼児の自己調整機能の自己抑制的側面と自己主張的側面に注目し, 実験課題と仮想課題の2つを用いて, 両課題における反応の関連とその発達的変化を検討したものである。4〜6歳児101名を対象として, 魅力的なおもちゃに対する誘惑抵抗状況を自己抑制状況, 「後でこのおもちゃで遊ぼうね」という約束を忘れ去られてしまう状況を自己主張状況と設定し, それらの状況での被験児の行動を観察した。また, その状況下で自己抑制するか自己主張するかという認知が実際の行動に及ぼす影響を調べるために, 仮想的な対人葛藤状況における反応を同時に測定した。その結果, 仮想課題では年齢とともに状況に一致した反応を選択する子どもが増加するのに対し, 実験課題で状況に一致した行動をとる被験児の数には年齢差が見られなかった。また, 仮想課題と実験課題で一貫して状況に一致した反応を示す子どもは自己抑制状況では年齢とともに増加する傾向が見られたものの, 自己主張状況では年齢差が見られないことがわかった。自己主張状況では仮想課題で状況に一致した反応を選択する被験児でさえも, 実験課題では実際に自己主張することが難しいという可能性が示唆された。
著者
上野 直樹
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.399-407, 2011-12-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
1

この論文では,ソフトウェアにおけるオープンソースを中心に野火的活動における社会的なつながりのあり方を「オブジェクト中心の社会性」および有形,無形の資源の「交換形態」に焦点を当てて明らかにする。また,こうした作業を行った上で,学習を見る観点の再定式化を試みる。ここで言う野火的な活動とは,分散的でローカルな活動やコミュニティが,野火のように,同時に至る所に形成され,ひろがり,相互につながって行く活動をさしている。野火的な活動は,Wikipediaの編集やLinux開発の例に見られるように,制度的な組織や地域コミュニティを超えて多くの人々が協調して何かを生み出すピアプロダクションという形で行われている。しかし,野火的な活動は,インターネットに限定されるものではなく,例えば,赤十字,スケートボーディングや地域における街づくりのための市民活動といったものの中にも見いだすことができる。また,「オブジェクト中心の社会性」とは,社会的ネットワークは,人々だけから構成されているのではなく,むしろ,共有するオブジェクトによって媒介されたものだという理論的観点である。
著者
寺川 志奈子 田丸 敏高 石田 開 小林 勝年 小枝 達也
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.274-285, 2011

5,6歳児が,4人のグループで均等分配できない15個の飴を分配するという,対人葛藤が生起しやすい場面においてどのような行動をとるか,分配場面に至るまでに遊びを通して形成されてきたグループのピア関係の質との関連において検討することを目的として,「保育的観察」という約45分間の保育的な遊びのプログラムを設定した。保育的観察は,初めて出会う同性同年齢の4人が,保育リーダーのもと,親子遊び,親子分離,子ども4人だけの自由場面1,保育リーダーによって組織された遊び(あぶくたった),再び子どもだけの自由場面2,子どもどうしによる飴の分配を経験するという一連の過程からなる。グループの遊びの質的分析から,自由場面1から2にかけて,4人の遊びが成立しにくい状態から,5歳児は「同調的遊び」へ,6歳児は「テーマを共有した,役割分担のあるルール遊び」へと,4人がいっしょに,より組織化した遊びに参加するようになるという時系列的変化が明らかになった。すなわち,遊びを通してグループのピア関係の成熟度が高まっていくプロセスが捉えられた。また,飴の分配に関しては,6歳児では,自由場面2においてピアとして高い成熟度を示したグループの方が,そうでないグループに比べて,均等分配できない数の飴の分配という対人葛藤が生起しやすい場面において,グループ全体を意識した相互交渉による問題解決を図ろうとすることが明らかになった。
著者
畠山 美穂 山崎 晃
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.284-293, 2003-12-05 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
1

本研究の目的は,以下に示す4つの点を検討することにある。1つめは,幼児期に見られる攻撃・拒否的行動が,いじめとしての3つの要素(①加害者の人数,②攻撃・拒否的行動の継続性,③被害者の精神的苦痛)をもつかどうかについて検討すること。 2つめは,いじめ場面に見られる幼児の仲間関係について検討すること。3つめは,いじめとしての性質をもつと判断された攻撃・拒否的行動のエピソードの記述からいじめの様態について検討すること。4つめは,いじめに対する保育者の対応について検討することである。観察対象児は,幼稚園年長児34名(男児16名・女児18名)であり,観察期間は1年間であった。観察方法は参与観察法が用いられ,分析方法はエピソード分析とネットワーク分析を採用した。その結果,特定の女児に対して行われた攻撃・拒否的行動が,いじめとしての3つの要素を満たしたことから,幼死期にもいじめとしての性質をもつ行動が見られることが明らかにされた。そして,いじめを発見するためには,保盲者が子どもの発する微妙なサインに対して敏感になる必要があることが示唆された。
著者
芦澤 清音 浜谷 直人 田中 浩司
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.252-263, 2008
被引用文献数
2

本研究は,ある自治体における発達臨床コンサルテーション理論(浜谷,2005)に基づいて行った巡回相談を対象として,幼稚園への巡回相談の支援機能と構造を明らかにし,支援モデルを提示することを目的とした。その際,保育園への巡回相談を参照しながら,幼稚園と保育園の支援ニーズの違いによって,支援機能にどのような違いがあるかを明らかにし,その違いによる支援のあり方を考察した。研究1で,教諭らへのインタビューによる巡回相談の評価をもとに33項目からなる質問紙を作成した。教諭等の巡回相談に対する評価を因子分析した結果(N=110),「保育方針」「関心意欲」「対象児理解」「保護者理解」「協力」の5つの支援機能が見出され,幼稚園独自の機能と保育園と共通の機能が明らかになった。研究2で,典型的な一事例に関して,担任らと園長に対して行ったグループインタビューを分析し,対象児理解に基づく関心意欲の高まり,及び,園内協力体制の形成が幼稚園巡回相談の支援構造の中核をなし,それを支援する相談員の専門性が考察された。
著者
島 義弘
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.260-267, 2014

親の養育態度は子どもの社会的適応に影響を与えている。これまでに,親の養育態度の認知が子どものアタッチメントに影響を与えること,及び子どものアタッチメントが自身の社会的適応に影響を与えることが示されていることから,本研究では親の養育態度と子どもの社会的適応の関連が内的作業モデルによって媒介されているというモデルを設定し,大学生191名を対象とした質問紙調査を行った。その結果,親のケアを低く評価しているほど内的作業モデルの"回避"が高く,親を過保護であると認知しているほど内的作業モデルの"不安"が高かった。さらに,内的作業モデルの"不安"が高いほど個人的適応の指標である自尊感情が低く,対人的適応の指標である友人関係における"傷つけられることの回避"が高かった。また,"回避"が高いほど自尊感情が低く,友人関係における"自己閉鎖"と"傷つけられることの回避"が高かった。以上のことから,親の養育態度をネガティブに評価していることが不安定な内的作業モデルにつながり,内的作業モデルが不安定であることが社会的適応を困難にするというモデルが成立することが示された。
著者
田口 雅徳
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.206-215, 2001-11-15 (Released:2017-07-20)

本研究では,幼児の描画特性である知的リアリズム反応の原囚として,知っている情報を伝えようとする子どもの積極的意図があると仮定し,その検討をおこなった。被験児は4歳から6歳までの幼児169名であった。被験児の描画対象に関する知識量を操作するため,描画的に描画対象である人形について描く部分(背面)しか見せない条件(部分条件)と,人形の全体を見せる条件(全体条件)の2条件を設定した。描画時にはどの被験児にも人形の背面側を呈示し,それを見えているとおりに描くよう教示した。結果から,5歳児においては全体条件より部分条件の方が見えどおりの描画が多いことが示された。また,見えどおりの描画は,部分条件では加齢にともない増加する傾向が見られ,一方,全体条件では4歳から5歳にかけて減少し5歳から6歳にかけて増加した。さらに,見えどおりではない描画反応を,対象固有の情報が反映されているかどうかという観点から2カテゴリに分類し,その発達的変化を検討した。その結果,4歳児では対象の標準型を描く反応が多く,加齢に伴い対象固有の情報を伝達するようなコミュニケーション型の描画反応が多くなった。これらの結果から,5歳児以降では,描画対象固有の情報を考慮し,それを描こうとするために,知的リアリズムによる描画が生じているのではないかと考察された。
著者
平井 誠也 竹中 郁子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.144-154, 1995-12-10 (Released:2017-07-20)

本研究は, 子どもにおける描面行動の発達的変化を明らかにしようとする試みである。4歳児, 5歳児, 6歳児, 7歳児, 8歳児, 9歳児とも, それぞれ同一の3種類の課題を与えられた。最初は一組のカードの中から, 彼らが最も円筒形を表していると思う線画を選択することであり, 第二は, 彼らが最も描きたいと思う円筒形を表した線画を選択することであり, 最後は, 円筒形をクレヨン (幼児) または鉛筆 (児童) で描くことであった。3種類の課題のうち, 認知課題は最も簡単な課題であり, 5歳から6歳にかけて急激な発達を示した。次に困難だったのは構想課題であり, 6歳から7歳で急激な発達があった。描画課題は最も困難で, 9歳児の30%しか遠近画法によって円筒型を描画することができないことが示された。幼児および児童の円筒形の描画が認知一構想 (プランニング) 一描画の3つの過程を中心として, その関係が分析され, 発達的に考察された。
著者
平井 美佳 神前 裕子 長谷川 麻衣 高橋 惠子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.56-69, 2015 (Released:2017-03-20)
参考文献数
34

本研究は,わが国の未就学児に必須な養育環境とは何かについて,人々の持つ素朴信念を検討し,相対的貧困の指標とされる社会的必需品を考える一助とすることを目的とした。研究1では,先行研究を検討し,専門家および未就学児の親の意見を加味して40項目から成る「乳幼児に必須な養育環境リスト(What Children Need List:WCNリスト)」を作成した。未就学児の母親484名を協力者として,自分の子どもの養育環境の充足の程度を確認したところ,37項目で合意基準(50%以上)を超え,また,主観的経済状態を統制した上でも養育環境が充たされているほど子どもの発達が良好であるという関連が見出され,WCNリストの妥当性が確認された。研究2では,WCNリストを用いて未就学児の親503名(2a),性別と居住地域を人口動態に合わせた全国の市民1,000名(2b),および,未就学児のひとり親74名(2c)を協力者として,「現在の日本の子どもが健康に育つために必要である」と考える程度について尋ねた。その結果,合意基準を超えた項目は,2a~2cのそれぞれで19項目,9項目,30項目とサンプルにより異なり,特に未就学児を養育している当事者である,女性である,年代が若いことが合意を促進する要因であることが明らかになった。この結果について,本研究の限界と将来の課題を論じた。
著者
大芦 治 岡崎 奈美子 山崎 久美子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.41-51, 1996

本研究は, 虚血性心疾患の危険因子として知られるタイプA行動パターンの発達モデルを検討しようというものである。検証したモデルは, 両親の有名大学を志向する社会・文化的な価値観が子どもに対して学習, 進学に関する過干渉, 過保護を主とした養育態度を生起させ, それが, 子どものタイプA行動パターンの発達を促進するというものである。被験者は, 大学生(子ども)とその両親である。子ども側には, タイプA行動パターンに関する質問紙を, 両親側には有名大学を志向する価値観の質問紙, 養育態度に関する質問紙をそれぞれ実施した。結果はパス解析を用いて分析された。仮定されたモデルはほぼ支持されたが, 子どもが男子の場合と女子の場合で若干差がみられた。すなわち, 男子では母親からの影響が, 女子では父親からの影響がそれぞれ大きかった。この性による違いを考察する中で, 本研究で扱った進学や教育に関する要因以外に様々な社会・文化的な要因が介在することが予想され, 今後に検討課題を残すこととなった。
著者
日潟 淳子 齋藤 誠一
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.109-119, 2007-08-10 (Released:2017-07-27)

青年期は時間的展望の獲得期とされ,自己の人生に対して時間的な視野が広がるが,それと同時に現実と非現実が分化し,未来に対しては期待とともに不安も抱くことが示唆されている。本研究では高校生と大学生を対象に,過去,現在,未来に対する時間的展望の様相と精神的健康との関係をとらえ,青年が心理的に安定した状態で時間的展望の獲得を促す要因を検討することを目的とした。その結果,高校生,大学生ともに過去,現在,未来に対してポジティブな時間的展望を持つ者は精神的健康度が高かった。しかし,未来に対する時間的態度においては違いが見られ高校生では未来のみにポジティブな態度を示している者は精神的健康度が低かったのに対して,大学生では低くはなかった。高校生と大学生では未来を志向することに対する心理的影響が異なることが示唆された。また,過去,現在,未来に対してポジティブな時間的展望をもっている者は,過去,現在,未来の出来事をバランスよく想起しており,過去の出来事へのとらえ直しや,未来の出来事に対して現実的な認知を行っている様子が見られ青年期が心理的に安定した状態で時間的展望を抱く要因として自己の過去,現在,未来におけるライフイベントに対する関与の強さと的確な認知をしていることが示唆された。
著者
島 義弘 上嶋 菜摘 小林 邦江 小原 倫子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.36-43, 2012-03-20 (Released:2017-07-27)

母親は母子相互作用において,子どもへの関わりを決定する際に多様な情報を使用していることが示されている。本研究では,母親が使用する情報が母親自身の内的作業モデルによってどのように異なるのかを検討した。第1子が9ヶ月の母親29名を対象として,質問紙調査と自子以外の乳児が映った映像を刺激として用いた面接調査を実施した。質問紙では,"不安"と"回避"の2次元の内的作業モデルを測定した。映像刺激は3ヶ月児と9ヶ月児が映った15秒のビデオクリップ各5つであり,これらを視聴した後に何に着目して子どもへの関わりを決定するのかを尋ねた。母親の回答を「乳児の情動」「乳児の行動」「母親の主観性」「育児経験」「周囲の環境」の5カテゴリーに分類した上で,内的作業モデル("不安"と"回避"の2因子)を説明変数とした回帰分析を行ったところ,3ヶ月児のビデオクリップに対しては,"不安"が高いほど,また"回避"が低いほど「乳児の行動」への言及が多かった。一方,9月見のビデオクリップに対しては"不安"が高いほど「乳児の情動」への言及が多く,"回避"が高いほど「母親の主観性」に基づいた言及が多くなる傾向が認められた。以上の結果から,母親自身の内的作業モデルの違いによって母親が使用する情報は異なり,"不安"が高いほど乳児に起因した情報を多く使用し,"回避"が高いほど乳児に起因した情報から注意を背ける傾向があることが示された。
著者
池田 幸代 大川 一郎
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.23-35, 2012-03

本研究の目的は,保育者のストレス評価の特徴に注目し,保育者のストレッサーは職場や職務に対する認識が媒介することによって変化が生じ,その結果職務に対する精神状態に影響をおよぼすという構造仮説モデルを,保育士と幼稚園教諭という職種別に検討することである。具体的には保育士119名と幼稚園教諭114名を対象に質問紙調査を実施し,パス解析を行った。その結果,保育者の認識の媒介効果は部分的に証明された。保育者の認識のうち保育者効力感を規定するポジティブな効果がみられた媒介変数は,保育士・幼稚園教諭ともに「専門職としての誇り」「保護者・子どもとの信頼関係」であった。「職場の共通意識」は,保育士の場合はバーンアウトを低減させる効果が示されたが,幼稚園教諭の場合は媒介変数としての効果は何もみられなかった。よって,保育職一般にとっては職務における個人的なやりがいや満足感といった認識はストレス軽減に関与し,職場内のまとまりや共通意識は,保育士にとってはストレス軽減要因となるが,幼稚園教諭にとってはストレス評価に関与しないという現状が明らかになり,保育職のうち職種の違いによって独自のストレッサーおよびストレス関連要因の存在が示唆された。今後,これらの要因を調整することにより,保育者の精神的健康が守られることが期待され,ひいては子どもの健全な発達援助の一助になると考えられる。
著者
湯澤 正通 渡辺 大介 水口 啓吾 森田 愛子 湯澤 美紀
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.380-390, 2013 (Released:2015-09-21)
参考文献数
13

本研究では,小学校1年のクラスでワーキングメモリの相対的に小さい児童の授業観察を行い,そのような観察対象児の授業中における態度の特徴を調べ,その教育的,発達的意味,および授業参加の支援方法についての考察を行った。小学校1年生2クラスを対象にコンピュータベースのワーキングメモリテストを行い,テスト成績の最下位の児童をそれぞれのクラスで3名ずつ選び,国語と算数の授業37時間で観察を行った。ワーキングメモリの小さい児童の授業態度は,個人によって違いが見られたが,挙手をほとんどしない児童が含まれ,全般に,課題や教材についての教師の説明や,他児の発言を聞くことが容易でないことが示唆された。挙手をほとんどしない観察対象児が挙手する場面を検討したところ,a) 発問の前に児童に考える時間を与えてから発問する,b) 発問をもう一度繰り返す,c)いくつかの具体的な選択肢を教師が提示した上で発問するといった場面で,他の場面よりも挙手率が有意に高かった。ワーキングメモリに発達的な個人差がある中で,ワーキングメモリの相対的に小さい児童にとって授業への参加は不利になること,そのため,教師は,ワーキングメモリの小さい児童を意識した支援方法を意図的に用いる必要があることが考察された。
著者
飯塚 有紀
出版者
Japan Society of Developmental Psychology
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.263-272, 2013

本研究は,低出生体重等の理由で子どもが保育器に入ることによって母子分離を経験した8名の母親の心理・情緒的経験,葛藤を丁寧に描くことを目的とした。語られたインタビューの内容については,現象学的分析を用いて検討した。その結果,NICUへの入院を経験した低出生体重児の母親は,妊娠・分娩・出産のトラウマティックな傷つき体験と早産に関する自責の念を背景としながら,最初期の母子関係の構築を始めることが明らかとなった。保育器に子どもが入ることになり母子分離が起こると,子どもとの間に心理的な距離が発生し,母子関係構築のための貴重な時期に危機的状態が発生することが確認された。しかし,自由に抱っこができる状況,すなわち母子再統合がなされるとこの母子間の心理的な距離は一気に解消される。母子再統合によって,母親は,母親としての実感を抱くようになった。一時的な母子分離は,抱っこやそれに付随する授乳などによって容易に克服できる可能性が示された。しかし,妊娠・分娩・出産に伴うトラウマティックな傷つき体験と自責の念は,ことあるごとに繰り返しよみがえってくるようであった。カンガルーケア等の母子関係構築の初期における母子の接触を積極的に行うことが必要であろうし,また,このような母親の心性を医療スタッフが理解しておくことも重要である。
著者
藤崎 亜由子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.109-121, 2002-08-10
被引用文献数
4

飼い主がペット動物の「心」をどのように理解しているのかを調べるために,実際のやりとり場面の観察を行った。イヌの飼い主22人,ネコの飼い主19人に自分のペット動物をビデオカメラで撮影してもらい,その中に含まれる飼い主の発話及び行動について分析を行った。併せて質問紙調査も行った。その結果,飼い主は動物の注意を引く為に発話を行うことが最も多く,次いで動物に対して内的状態を尋ねたり,状況を問う等の質問形式の発話が多く見られた。また,動物の内的状態への言及は,イヌ・ネコの飼い主とも「感情状態」が最も多かった。特に,飼い主が動物に内的状態を付与することが多かった場面は,飼い主の働きかけに動物が無反応であったり,回避行動をとる場面であった。イヌ・ネコの飼い主で比較した結果,人はイヌよりもネコに対してより微妙な顔の表情を読みとるなど,動物に対する飼い主の発話及び行動にはいくつかの違いが認められた。しかし,質問紙の回答からは,イヌ・ネコという全く異なる二種の動物に対する飼い主の「心」の理解には違いが無いことが示された。以上の結果は,人のペット動物に対する「心」の読みとり,関わり方には,幼い子どもに対する育児的な関わり方といくつかの共通点があるという視点から議論された。
著者
中井 大介 庄司 一子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.57-68, 2008
被引用文献数
1

本研究の目的は,学校教育における教師と生徒の信頼関係の重要性と,思春期における特定の他者との信頼関係の重要性を踏まえ,中学生の教師に対する信頼感と学校適応感との関連を実証的に検討することであった。中学生457名を対象に調査を実施し,「生徒の教師に対する信頼感尺度」と「学校生活適応感尺度」との関連を検討した。その結果,(1)生徒の教師に対する信頼感は,生徒の「教師関係」における適応だけではなく,「学習意欲」「進路意識」「規則への態度」「特別活動への態度」といった,その他の学校適応感の側面にも影響を及ぼすこと,(2)各学年によって,生徒の教師に対する信頼感が各学校適応感に与える影響が異なり,1年生では教師に対する「安心感」が一貫して生徒の学校適応感に影響を与えていること,(3)一方,2年生,3年生では「安心感」に加えて,「不信」や「役割遂行評価」が生徒の学校適応感に影響を与えるようになること,(4)各学年とも,生徒の教師に対する信頼感の中でも,教師に対する「安心感」が最も多くの学校適応感に影響を及ぼしていること,(5)「信頼型」「役割優位型」「不信優位型」「アンビバレント型」といった生徒の教師に対する信頼感の類型によって生徒の学校適応懸か異なること,といった点が示唆された。
著者
川本 哲也 遠藤 利彦
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.379-394, 2016

<p>本研究の目的は,東京大学教育学部附属中等教育学校で収集されたアーカイブデータを縦断的研究の観点から二次分析し,青年期の健康関連体力の発達とその年次推移を検討することであった。健康関連体力の指標として,スポーツテストの持久走と握力の結果を用いた。分析対象者は,持久走については附属学校に1968年から2001年までに入学し,持久走のタイム計測を1回以上受けているもの3,763名(男子1,893名,女子1,870名),握力については附属学校に1968年から1987年までに入学し,握力の計測を1回以上受けているもの2,137名(男子1,065名,女子1,072名)であった。潜在成長曲線モデルを用いた共分散構造分析の結果,男子では持久走,握力ともに青年期を通じてパフォーマンスが向上していくことが示された。一方,女子では持久走のタイムは青年期を通じて大きく変化せず,握力は青年期の前半に少し大きくなった後に横ばいになることが示された。また,持久走のタイムや握力の発達軌跡が出生年度によってどのように変化してきているのかを併せて検討したところ,持久走のタイムは男女ともに出生年度が遅いほどタイムも遅くなってきていることが示された。また握力については,男子は出生年度が遅いほどパフォーマンスが向上してきているが,女子では若干の低下が見られることが示唆された。</p>
著者
柴山 真琴 ビアルケ(當山) 千咲 高橋 登 池上 摩希子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.357-367, 2016

<p>本稿では,国際結婚家族の子どもが二言語で同時に読み書き力を習得するという事態を,個人の国境を越えた移動に伴う国際結婚の増加というグローバル化時代の一側面として捉え,こうした時代性と子どもの言語習得とのインターフェースでどのような家族内実践が行われているのかを,ドイツ居住の独日国際家族の事例に基づいて紹介した。特に子どもの日本語の読み書き力形成にかかわる家族内実践にみられる特徴として,(1)現地の学校制度的・言語環境的要因に規定されつつも,利用可能な資源を活用しながら,親による環境構成と学習支援が継続的に行われていること,(2)家族が直面する危機的状態は,子どもの加齢とともに家庭の内側から生じているだけでなく,家庭と現地校・補習校との関係の軋みからも生じているが,家族間協働により危機が乗り越えられていること,が挙げられた。ここから,今後の言語発達研究に対する示唆として,(1)日本語学習児の広がりと多様性を視野に入れること,(2)子どもの日本語習得過程を読み書きスキルの獲得に限局せずに長期的・包括的に捉えること,(3)子どもが日本語の読み書きに習熟していく過程を日常実践に埋め込まれた協働的過程として捉え直すこと,の3点が引き出された。</p>
著者
坂上 裕子 金丸 智美 武田(六角) 洋子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.368-378, 2016

<p>本研究では,幼児期前半における自己の発達の遅延を示唆する証左が近年提出されていることに鑑み,2歳代の自己の発達の一指標として従順行動,不従順行動を取り上げ,その経年変化を検討した。2004・2005年度(I期)の2歳児111名,2010・2011年度(II期)の2歳児95名を対象に,母子での自由遊び後の玩具の片付け場面における行動を観察し,分析を行った。その結果,片付けを要請したストレンジャーに対して拒否を示した子どもの割合は,I期よりもII期において低かった。また,母子での片付け場面では,II期の子どもの方が母親に対して従順な行動をより多く示し,反抗や拒否を示した子どもの割合は,I期よりもII期で低かった。これより,自己と他者の意図の違いを意識化し,自身の意志を明示するという点において,最近の幼児の自己の発達には遅延が生じている可能性があることが示唆された。子どもの従順行動,不従順行動の経年変化の背景には,自己の発達を支える子どもの他の行動面での変化や親の対応の変化,親子を取り巻く環境の急速な変化がある可能性を指摘し,考察を行った。</p>