著者
大野 祥子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.287-297, 2012-09-20

本研究は男性のワークライフバランスから抽出した「生活スタイルのタイプ」ごとに,夫婦間での職業役割と家庭役割の分担のしかたが彼らの生き方満足度にどのように影響するかを検討し,男性にとっての家庭関与の意味を再考することを目的とする。調査対象は3〜4歳の子どもを持つ育児期男性332名であった。仕事を生活の最優先事項とする2タイプ(「仕事+余暇型」・「仕事中心型」)と,仕事と家庭に同等のエネルギーを傾注する「仕事=家庭型」の下位分類2タイプ(「二重基準型」・「平等志向型」), 計4タイプについて,男性の生き方満足度を基準変数とする階層的重回帰分析を行った。「仕事+余暇型」の満足度は家庭関与の変数によっては説明されなかった。「仕事中心型」では休日家族と過ごす時間がとれ育児に関わる余裕のあることが満足度と関連していた。家庭志向の高い2タイプのうち「平等志向型」は自身の家事分担率の高さが生き方満足度を高める共同参画的な結果が見られたが,「二重基準型」では妻が性別役割分業に賛成であることのみが有意な効果を持っていた。これまで男性の家庭関与は妻子や男性本人の適応・発達にプラスの効果を持つとされてきたが,タイプごとに異なる意味を持つことが明らかになった。男性の家庭関与の議論は夫婦関係や労働環境など,より広い文脈の中で捉え,稼得や扶養は男性の役割とする男性性役割規範の見直しを伴うことが必要であろう。
著者
浅川 淳司 杉村 伸一郎
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.243-250, 2009-09-10 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
1

幼児は数を表したり数えたりする際に指を使っている。幼児の計算時における指の利用に関しては計算の方略という観点から研究が多く行われており,発達段階や課題によって指の利用頻度や用い方が変化することが明らかにされてきた。これらの結果は,計算において指の利用が重要な役割を果たしていることを示唆しているが,近年,指の認識の発達も計算能力に関係することが指摘されはじめた。そこで本研究では,指の認識過程において重要な役割を果たすと考えられる手指の運動に着目し,幼稚園の年長児48名を対象に計算能力と手指の巧緻性の関係を検討した。その結果,手指の巧緻性と計算能力との間には有意な強い相関がみられ,この関係は,月齢と動作性の知的発達得点や月齢と短期記憶容量の得点を統制しても,変わることがなかった。また,計算能力との相関は短期記憶容量よりも指の巧緻性の方が強かった。以上の結果から,就学前の子ども計算能力には,従来の知見から予想される以上に,手指の巧緻性が関係していることが示唆された。
著者
鹿子木 康弘 奥村 優子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.164-171, 2018 (Released:2020-12-20)
参考文献数
18

研究を国際的に発信する意義を考えたとき,それは個人によって異なり,さまざまな動機や理由が存在するかもしれない。ある研究者にとっては,日本の子どもの独自性を主張する機会であったり,他の研究者にとっては,文化比較研究の発表の機会であったりするのかもしれない。しかし,筆者らは,日本という独自性を意識するというより,欧米の研究者と同様に,そして彼らと肩を並べるつもりで,普遍的な発達の現象を見つけ出したいという単純な動機によって,自身の研究を国際誌に発表してきた。本論文では,まず筆者らが国際誌に投稿してきた乳児研究を概観する。具体的には,発達早期の社会的認知発達,特に他者の行為理解のメカニズム,道徳・向社会性の発達,社会的学習といったテーマに関する実証実験を紹介する。そして,それらの研究を国際誌に発表する中で感じた,筆者なりの国際競争の中で研究を行う意義やその課題について考察し,日本の発達心理学の行く末を考えてみたい。
著者
中嶋 みどり
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.72-80, 2005-04-20 (Released:2017-07-24)

本研究の主な目的は, 保育園に通わせている保護者169名, 児童相談所職員68名, 保育士71名を対象に, 児童虐待の認知について, (1)専門家群と比較することによって, 保護者群の特徴を明らかにし, (2)保護者群においては, 個人要因(被虐待経験, 育児環境, 年齢)の高低と虐待認知の差を検討した。その結果, 保護者は, 児童相談所職員に比べて, 即座に子どもに大きなケガや有害な影響をもたらさない行為は, 虐待とみなす程度が低いこと, 日常的な世話に関わる行為は虐待と認知しやすいことが示された。児童相談所職員は, 児童虐待防止等に関する法律の定義に準拠した認知をしており, 即座に子どもに大きなケガや有害な影響をもたらさない行為を有意に高く「虐待」とみなした。保育士は, 保護者と似た捉え方であった。保護者の個人要因と虐待認知の関係において, 臨床群の先行研究で扱われた個人要因(被虐待経験, 育児環境, 年齢)は, 虐待認知に影響を及ぼさなかった。今後は保護者群の虐待認知に影響を及ぼす要因を新たに検討する必要がある。
著者
荒牧 美佐子 無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.87-97, 2008-08-10 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
3

本研究の目的は,末就学児を持つ母親の抱く育児への否定的・肯定的感情とその関連要因について明らかにすることである。子どもを首都圏の幼稚園・保育所に通わせる母親に質間紙調査を行い,有効であった733名の回答に基づいて分析を行った。育児への否定的・肯定的感情に関する項目として,住田・中田(1999)の尺度を用い,確認的因子分析を行った結果,育児への「負担感」「育て方/育ちへの不安感」「肯定感」とに分かれることが確認された。そして,各々の関連要因について分析を行った結果,主に以下のことが明らかになった:(1)「負担感」は,末子の年齢が高いほど高く,夫や園の先生・友人らのサポートが多いほど低い。また,幼稚園群の方が保育所群よりも,専業主婦の方が有識者よりも高い傾向が見られる。(2)「育ちへの不安感」は男児を持つ母親で高い傾向にあり,「育て方への不安感」は夫からのサポートが多いほど低い。「育て方/育ちへの不安感]ともに情報サポートが多いほど高い。(3)「肯定感」は,夫や園の先生・友人らのサポートが多いほど高い。以上,「負担感」「育て方/育ちへの不安感」「肯定感」の関連要因は一部重複しつつも,それぞれに違いがあることが確認された。
著者
中谷 奈美子 中谷 素之
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.148-158, 2006
被引用文献数
6

本研究の目的は,子どもの反抗行動に対する母親の認知と虐待的行為の関係を,特に子どもの悪意や敵意と捉える「被害的認知」に着目して検討することであった。3〜4歳の子どもを持つ一般の母親270名に調査用紙を配布し,207名から協力を得た(回収率76.7%)。調査は,子どもの反抗に対する母親の認知,虐待的行為,さらに,認知を媒介として虐待的行為に影響を及ぼす要因として母親の育児ストレス,自尊感情,親に対する愛着,母親の就労,子どもの性別について測定された。重回帰分析の結果,予測した先行要因→認知的要因(媒介要因)→虐待的行為のプロセスが確認された。すなわち,虐待的行為に影響を及ぼす母親の認知特性は,子どもに対する否定的認知ではなく,母親の自尊感情の低さや育児ストレスの高さからもたらされる被害的認知であることが明らかにされた。また,先行要因として検討した育児ストレスは,認知の歪みをもたらすだけでなく,虐待的行為に直接正の影響を及ぼすこと,親に対する愛着は虐待的行為に負の影響を及ぼすことが明らかになった。以上の結果から,子どもの養育における母親の認知的要因の役割について議論され,児童虐待ハイリスクの母親に対して,認知の歪みや育児ストレスなどを考慮して介入することの重要性が示唆された。
著者
加藤 邦子 石井クンツ 昌子 牧野 カツコ 土谷 みち子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.30-41, 2002-04-20
被引用文献数
5

本研究の目的は,3歳児の集団場面における社会性の発達に及ぼす父親・母親の影響について,父親の育児かかわり要因,母親の育児不安要因をとりあげてモデルを仮定し,バス解析によって関連を明らかにすることである。その際,父親の生活において,最近家族とともにすごす時間が多くなったとされていることから,背景の異なる2つの時期の親子,つまり1997〜1998年のデータ(コホート2)と1992〜1993年のデータ(コホート1)とを比較する。その結果,3歳児の社会性に関しては,父親の育児かかわり要因がどちらのコホートにおいても有意な関連を持つことが明らかとなり,子どもの社会性の発達に父親の育児かかわりが直接的な影響を与えていた。間接的要因として夫婦の会話の頻度が父親の育児かかわりに関連を示しており,夫婦関係による影響が示唆された。
著者
坂田 陽子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.183-189, 2020 (Released:2022-12-20)
参考文献数
22

デジタル化が進む中で,実際に体験しなくてもデジタル機器やコンテンツから様々な情報を得て,その知識を実体験に生かすことができるようになった。では様々な知識が未熟な時期の子どもはデジタルデバイスから知識を得て,それらの知的な概念を形成できるのであろうか。本稿ではペット型ロボットとかかわることで幼児は生物概念を獲得できるか検討した。研究紹介1では,ロボットに静動の2条件を設けた結果,幼児は静止の場合は無生物,自動の場合は生物ととらえる行動が見られた。研究紹介2では,幼児が1ヶ月間ロボットを生き物の代わりとして疑似的に飼育したところ,初期は生物として接する発話や行動が多く見られたが,2週間で飽きてロボットにかかわらなくなり,生物に関する教育的教示の効果も見られなかった。2つの研究から,ロボットと子どもの接する時間が短時間で,また「動き」の有無が一瞬で入れ替わるような場合はロボットの「動き」は生物を感じさせる。一方,長時間になるとその「動き」はかえって単調で生物を感じさせなくなると考えられた。「動き」が必ずしも生物概念の獲得の一助となるわけではなく,ロボットの動きの質を検討することが重要であると結論付けられた。
著者
神谷 哲司
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.238-249, 2013 (Released:2015-09-21)
参考文献数
44
被引用文献数
4

本研究は育児期夫婦における家庭内の役割に着目し,その類型化を元に,家庭内役割観が相互に調整されていない(異なる)夫婦の関係性を明らかにすることを目的とした。具体的には,「相手にとっての自分の役割」と「自分にとっての相手の役割」という夫婦双方の家族成員としての役割観に基づき夫婦をペアとした家庭内役割観タイプを抽出し,夫婦関係満足度や情緒的なかかわりとの関連を検討した。質問紙による183組の夫婦のペアデータが分析された結果,家庭内役割観タイプとして,夫婦双方ともにすべての役割を重要であると認識する相互役割高群,反対に重要ではないとする相互役割低群と,役割観が異なるタイプとして,妻が夫を重要だと認識する一方で夫は自分もパートナーも重要でないと認識する視点格差群が抽出された。この視点格差群は相互役割高群と同様,妻の夫婦関係満足が高く,また情緒的なかかわりが夫婦ともに相互役割低群よりも高かった。これらの結果から,視点格差群について先行研究との関連で討議され,家庭内役割観のギャップを夫からの情緒的なかかわりによって補償している可能性が示唆された。
著者
杉村 和美
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.45-55, 1998-04-10 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
14

本論文は, 青年の身近な対人的文脈に焦点を当てて, そこでの他者との関係性の観点から, 青年期におけるアイデンティティの形成をとらえ直すことを目的とした。青年期のアイデンティティ形成や他のいくつかの研究領域について文献のレピューを行い, まず, 本論文が関係性を重視する背景を整理した。次に, アイデンテイティそのものについての考え方を, 関係性の観点からとらえ直した。このとらえ直しは, 以下の3つの側面に分けることができる。(a)自己と他者との関係のあり方がアイデンティティであるというパラダイムを持つ必要がある。(b)アイデンティティ形成は, 自己の視点に気づき, 他者の視点を内在化すると同時に, そこで生じる両者の視点の食い違いを和互調整によって解決するプロセスであるということができる。このことから, アイデンティティ形成の実際の作業である「探求」は, 人生の重要な選択を決定するために, 他者を考慮したり, 利用したり, 他者と交渉することにより問題解決していくことであると定義できる。(c)このブロセスの根底には, 青年期の社会的認知能力の発達が想定できる。さらに, 以上のとらえ直しに基づいて, このような関係性を重視するアプローチにおける今後の研究課題を提起した。
著者
池田 彩夏 魚里 文彦 板倉 昭二
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.288-298, 2019 (Released:2021-12-20)
参考文献数
18

幼児の危険認知の発達をどのように促すべきかは,発達心理学における課題の1つである。幼児への効果的な教育方法として,多くの研究が絵本の読み聞かせを取り上げているものの,防犯教育への絵本の読み聞かせの効果に関しては,直接的な検討はされていない。そこで,本研究では,絵本の読み聞かせが幼児の危険認知の発達を促すかを検討した。さらに,絵本による教育効果と共感性の関連を併せて検討した。4~6歳児を対象に,仮想場面において,未知人物から誘われた際に回避行動を取るか否かの選択,および,その行動理由を尋ねる課題を実施し,絵本の読み聞かせ前後での課題得点を比較した。分析の結果,適切な回避行動および行動理由の回答は読み聞かせ後に増加しており,特に年長児に対し行動理由を尋ねる課題において,読み聞かせの効果が顕著であった。また,共感性と読み聞かせの効果との関係を検討したところ,共感性が高い子ほど,読み聞かせによる危険認知課題の得点の上昇が大きい傾向があった。考察では,絵本の読み聞かせ効果の発達的変化および本研究成果の応用的側面について議論した。
著者
谷口 あや 山根 隆宏
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.130-140, 2020 (Released:2022-09-20)
参考文献数
38

本研究の目的は,自閉症スペクトラム障害(以下,ASD),アスペルガー障害(以下,AS)の診断名の提示が大学生のASDに対するスティグマにどのような影響を及ぼすのか,またASDへの知識との関連がみられるのかを検討することであった。大学生286名を対象に質問紙調査を実施した。ASDの特性(関心の制限,社会的相互作用の困難)を示す登場人物を描写した2つの場面のビネット(グループ課題場面,クラブ活動場面)を提示し,1)ASD条件,2)AS条件,3)診断なし条件の3条件をランダムに配布し,ビネット内の登場人物に対する社会的距離を評定させ,スティグマを測定した。その結果,どちらの場面においても,ASD条件,AS条件,診断なし条件のすべての条件間において,社会的距離に差は見られなかった。次に,どちらかの診断名を提示している,診断あり条件と,診断名を提示しない,診断なし条件間で知識の影響を確認するために,社会的距離を従属変数とした階層的重回帰分析を行った。その結果,診断名の有無と知識の交互作用が確認された。どちらの場面においても診断あり条件において知識の単純傾斜が有意であり,知識が高い場合には社会的距離が近かった。以上のことから,大学生のASDに対するスティグマには提示する診断名そのものの効果はみられず,診断名提示の有無と知識の高低の関連を踏まえた上で検討していく必要性があることが示唆された。
著者
森下 葉子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.182-192, 2006-08-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
14

父親は,子どもとの関わりを通して精神面・行動面においてどのような変化を遂げるのだろうか。本研究は,その内容を明らかにし,その規定因を育児関与の頻度および個人的要因・家族要因・職場要因の3要因から検討したものである。まず,父親の発達の内容を明らかにするために,3〜5歳の子どもの父親92名を対象に自由記述による質問紙調査を,さらにそのうちの23名に対し個別面接調査を行った。そこで得られたエピソードから尺度を作成し,それを用いて第1子が未就学児である父親224名に質問紙調査を行った。その結果,父親になることによる変化として⌈家族への愛情⌋,⌈責任感や冷静さ⌋,⌈子どもを通しての視野の広がり⌋,⌈過去と未来への展望⌋,⌈自由の喪失⌋の5因子が抽出された。これら5因子と育児関与,性役割観,親役割受容感,親子関係,夫婦関係,職場環境,労働時間との関連を検討した結果,⌈自由の喪失⌋以外の4因子は,育児に関心をもつことにより促され,そして,育児への関心は親役割を受容していること,平等主義的な性役割観をもっていること,夫婦関係に満足していること,子どもとの関係を肯定的に認識していることにより,促されることが示された。
著者
髙坂 康雅
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.284-294, 2013 (Released:2015-09-21)
参考文献数
24
被引用文献数
8

本研究の目的は,“恋人を欲しいと思わない”青年(恋愛不要群)がもつ“恋人を欲しいと思わない”理由(恋愛不要理由)を分析し,その理由によって恋愛不要群を分類し,さらに,恋愛不要理由による分類によって自我発達の違いを検討することであった。大学生1532名を対象に,現在の恋愛状況を尋ねたところ,307名が恋人を欲しいと思っていなかった。次に,恋愛不要理由項目45項目について因子分析を行ったところ,「恋愛による負担の回避」,「恋愛に対する自信のなさ」,「充実した現実生活」,「恋愛の意義のわからなさ」,「過去の恋愛のひきずり」,「楽観的恋愛予期」の6因子が抽出された。さらに,恋愛不要理由6得点によるクラスター分析を行ったところ,恋愛不要群は恋愛拒否群,理由なし群,ひきずり群,自信なし群,楽観予期群に分類された。5つの群について自我発達を比較したところ,恋愛拒否群や自信なし群は自我発達の程度が低く,楽観予期群は自我発達の程度が高いことが明らかとなった。
著者
山本 尚樹
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.261-273, 2011-09-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
6

本研究は,神経学的な要因から論じられてきた乳児の寝返り動作の獲得を,個人の運動特性や知覚との関係などを考慮に入れた近年の行動発達研究の観点から捉えなおすことを目的とした。寝返り動作を乳児が初めて獲得する環境への方向定位の自発的な転換と位置づけ,その獲得過程の縦断的な観察を2名の乳児の日常の活動を撮影した映像資料から行った。対象児は脚部を活発に動かし,視線の方向と一致しない乱雑な体幹の回旋運動が増加する時期をともに経ていたが,一方の乳児はその脚部の動作に頸の伸展動作が伴うようになっていった。他方の乳児には脚部の動作の発達的変化は認められなかったが,上体に始まり視線の方向と一致した体幹の回旋運動を多く行っており,この回旋運動を徐々に大きなものへと変化させていた。こうした動作の発達的変化を経つつも,寝返り動作の獲得時期に対象児は視線と方向を一致させつつ体幹を大きく回旋させるようになっていたことが確認された。また寝返りを行う際の動作の構成は各対象児で異なり,獲得時期の体幹の回旋運動に頻繁に観察された動作パターンから対象児は寝返りを行っていることが確認された。以上の結果から,乳児の寝返り動作の獲得過程は環境への方向定位と自己の身体動作の関わり方のダイナミックな探索過程であることが示唆された。
著者
岡本 依子 菅野 幸恵 東海林 麗香 高橋 千枝 八木下(川田) 暁子 青木 弥生 石川 あゆち 亀井 美弥子 川田 学 須田 治
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.23-37, 2014 (Released:2016-03-20)
参考文献数
37
被引用文献数
1

親はまだしゃべらない乳児と,どのようにやりとりができるのだろうか。本研究は,前言語期の親子コミュニケーションにおける代弁の月齢変化とその機能について検討するため,生後0~15ヶ月の乳児と母親とのやりとりについて,代弁の量的および質的分析,および,非代弁についての質的分析を行った。その結果,代弁は,「促進」や「消極的な方向付け」,「時間埋め」,「親自身の場の認識化」といった12カテゴリーに該当する機能が見いだされた。それらは,「子どもに合わせた代弁」や「子どもを方向付ける代弁」,および,「状況へのはたらきかけとしての代弁」や「親の解釈補助としての代弁」としてまとめられ,そこから,代弁は子どものために用いられるだけでなく,親のためにも用いられていることがわかった。また,代弁の月齢変化についての考察から,(1)0~3ヶ月;代弁を試行錯誤しながら用いられ,徐々に増える期間,(2)6~9ヶ月;代弁が子どもの意図の発達に応じて機能が限られてくる期間,(3)12~15ヶ月;代弁が用いられることは減るが,特化された場面では用いられる期間の,3つで捉えられることが示唆された。そのうえで,代弁を介した文化的声の外化と内化のプロセスについて議論を試みた。
著者
畑野 快 原田 新
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.67-75, 2014 (Released:2016-03-20)
参考文献数
50
被引用文献数
8

本研究の目的は,心理社会的自己同一性が内発的動機づけを媒介して主体的な授業態度に影響を及ぼすモデルを仮説モデルとし,その実証的検討を行うことで,大学生が主体的な学習を効果的に獲得する方策として心理社会的自己同一性,内発的動機づけの果たす役割について示唆を得ることであった。仮説モデルを実証的に検討するために,大学1年生131名,大学2年生264名,3年生279名の合計674名を対象とした質問紙調査を実施した。まず,媒介分析の前提を確認するため,学年ごとに心理社会的自己同一性,内発的動機づけ,主体的な授業態度の相関係数を算出したところ,全ての学年において3変数間に正の関連が見られた。次に,多母集団同時分析によってモデル適合の比較を行ったところ,仮説モデルについて学年を通しての等質性が確認された。最後に,仮説モデルをより正確に検証するため,ブートストラップ法によって内発的動機づけの間接効果を検証したところ,1~3年生全ての学年において内発的動機づけの間接効果の有意性が確認された。これらの結果から,1~3年生全ての学年において仮説モデルが検証され,大学生が主体的な学習を効果的に行う上で心理社会的自己同一性,内発的動機づけが重要な役割を果たす可能性が示された。
著者
滝吉 美知香 鈴木 大輔 田中 真理
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.63-73, 2017 (Released:2019-06-20)
参考文献数
24

本研究は,社会性の発達において重要な指標となる「気まずさ」の認識について,典型発達(TD)者の発達段階,ならびに自閉スペクトラム症(ASD)者の特徴を明らかにすることを目的とした。TD者214名とASD者111名に「あなたが“気まずい”と感じるのはどういうときですか」と質問し回答を12のカテゴリーに分類し分析した。TD者において,小学生は自己の信念や感情が他者のそれとは異なることへの気づきにより生じる気まずさ(不都合,想定外の言動,ネガティブ感情,感情のズレ),高校生は生活空間や人間関係の広がりにより認識されやすい気まずさ(性・恋愛,他者の存在)に,それぞれ言及しやすいことが示された。ASD者においては,会話で共有される話題や雰囲気を瞬時に把握したり,自分と対照させて関係性をとらえることで引き起こされる気まずさ(雰囲気を乱す,他者の存在)について,年齢発達に伴う認識の増加が示されず,高校以上における言及率がTD者よりも少ないことが示された。また,自分が何をすべきかわからないときや対処できないときに言い出せない気まずさ(不都合)や,失敗に対する気まずさ(想定外の言動)の認識が多いことが示された。ASD者の気まずさ認識の特徴と発達について,TD者と比較検討し,ASD者の気まずさの認識に添った対人関係支援について考察した。
著者
刑部 育子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-11, 1998-04-10 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
5

本研究の目的は, 保育園における4歳児の「ちょっと気になる子ども」の長期にわたる集団への参加過程を関係論的に分析したものである。関係論的視点, その中でもとくにLave, &Wenger(1991/1993)による「正統的周辺参加」論では, アイデンティティの形成過程を共同体への十全的参加者となることとする。Lave, & Wengerは, アイデンティティの変化を長期にわたる他者との生きた関係の中で提え, また実践の共同体の徐々なる参加を通した位置として提える。本研究では, 1993年4月から1993年12月までピデオ観察を週一回の割合で行い, 保育者との関わり, 他の子どもとの関わりを通した対象児のアイデンティティの変化を分析し, 記述した。その結果, 「ちょっと気になる子ども」が気にならなくなっていく過程で起きていたことは, その子ども個人の知的能力やスキルの獲得といった変化というよりも, 共同体全体の変容によることが明らかになった。
著者
登張 真稲
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.412-421, 2014 (Released:2016-12-20)
参考文献数
70
被引用文献数
2

最近,共感の神経基盤を明らかにするための神経イメージング研究が盛んに行われている。本研究ではそのうちのいくつかを紹介し,それらの研究から共感に関連してどのようなことが分かったのかを,従来の共感の概念や理論と対照させながら検討した。最近の研究によると,身体的痛みや社会的痛み等への共感は,自分自身の痛み等の処理に関与する領域(島前部と帯状皮質前部等)と,アクション理解に関与する領域(下前頭回弁蓋部等),メンタライジング(心的状態の推測)に関与する領域(前頭前野背内側部,側頭–頭頂接合部,楔前部等)を活性化させた。また,それらの脳部位は共感の重要要素である他者との感情共有と他者の感情理解において重要な役割を果たすことが示唆された。さらに,共感は自動的に起こるとは限らず,状況要因や観察者の特徴によっては調整される場合もあることが明らかになった。向社会的行動の神経基盤を検討する神経科学的研究も見られるようになっており,この分野における新興のテーマの一つとなっている。