- 著者
-
小松 丈晃
- 出版者
- 東北社会学研究会
- 雑誌
- 社会学研究 (ISSN:05597099)
- 巻号頁・発行日
- vol.98, pp.91-114, 2016-05-30 (Released:2021-12-29)
- 参考文献数
- 34
何か否定的な含みを感じさせる「無知」は、これまで長らく研究テーマの中心に据えられてこなかったが、近年社会学でも、「環境」や「科学・技術」などを主題する論考の中に、(リスクや不確実性に加えて)「無知」や「ネガティブな知識」といった概念を軸にするものが増加してきている。本稿では、ベックのリスク社会論が、もともとこの「無知(Nichtwissen, non-knowledge)」を中心的な鍵概念にしていたところに着目し、このような近年の「無知の社会学」の展開に対するベックの貢献を確認し、「戦略的無知」論を展開していくための視点を模索する。まず無知の社会学の近年の広がりを確認したあと(一)、無知概念が多様な内実を有している点を指摘する(二)。ついで、同じ再帰的近代化論とはいっても、ベックとギデンズがいかに異なるかを検討し(三)、ベックによる無知論に立ち入って、「知ることができない」と「知るつもりがない」の対立を軸にした考察から、無知の三つの次元への整理にいたる議論の展開過程を追尾する(四)。最後に、ベック以後の無知論の展開可能性の一つとして、「戦略的無知」という観点のもつ意味について述べる(五)。