著者
武田 尚子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.486-503, 2015

本稿は, テレビ草創期のNHKドキュメンタリー・シリーズの2本の番組を取り上げ, 地域研究資料としての意義を考察した. これらの番組は, 1960年代に広島県因島の家船集落を取材したもので, 漁村の貧困と不就学児童の問題に焦点をあてている. このシリーズは, 民俗学の視点を参照して, 底辺層の生活に迫り, その人々が直面している社会的ジレンマを視聴者に問うという方針で制作された. これとほぼ同時期に, 同じ集落で, 宮本常一が参加した民俗学調査が実施された. これら2つの調査・取材は, いずれも民俗学的関心に基づいて実施されたものであるが, 見出した知見には相違がみられる.テレビ・ドキュメンタリーは, 階層的視点が明確で, 貧困地域という集落特性を映像で実証的に示している点に意義がある. これによって, ミクロな地域社会の事象をマクロな社会構造に位置づけてとらえることが可能になった. しかし, その一方で, 民俗学調査報告書と比較すると, テレビ・ドキュメンタリーは, 該当地域に居住していた非識字者を貧困の視点でとらえる傾向がつよく, 非識字者の集団が保持していた口承文化の豊かさについて, 理解が浅い面があったことがわかる.以上のように本稿は, 民俗学調査と比較することによって, テレビ・ドキュメンタリー番組を地域資料として利用する場合の長所および留意点を明らかにしたものである.
著者
平本 毅
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.153-171, 2011
被引用文献数
1

本稿では, 他者の「私事 (独自の経験やそれにかんする見解や態度) 語り」に対して「わかる」と明示的に理解を表明するやり方の, 会話の中での組織化のされ方を会話分析により記述する.<br>Harvey Sacksによる理解の<主張>と<立証>の区別を参照して論じながら, 以下2点の問題が提起される. (1) 語りに対する理解の表明の形式としては「弱い」<主張>であるはずの「わかる」が, 「私事語り」に対する理解の提示においてしばしば用いられるのはなぜか, (2) 「わかる」を含む発話連鎖により, 理解の提示を組織化することはいかにして可能になっているのか.<br>分析の結果, まず「わかる」は, 多くの場合単独では発されず, それに理解の<立証>の試みが付加されることにより<主張>の「弱さ」が補われることがわかった. このとき, 理解の<主張>は相手の語りの中途/語りの終了後の2つの位置に置かれるが, <立証>の試みは, 語りの終了後にしか置かれない. 理解の<主張>に加えて, 語りの終了後の位置で理解の<立証>を試みることによって, 聞き手は, 「私の心はあなたと同じ」であることを語り手に示しており, それを語り手が<受け入れ>るという発話連鎖を組織化することによって, 会話の中で理解が達成されることが論じられる. また, この「わかる」連鎖を利用した理解の提示は, 経験とそれへの見解や態度を語り手と聞き手が「分かち合う」かたちでのものであることが明らかになる.
著者
INOUE Ema
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.222-237, 2016

<p>日本では2000年代から「移行の危機」にある若者が増加し, 危機の一面として, 社会関係資本の観点からの困難が指摘されてきた. しかし, 2000年代から始まった公的な若者支援は, その意義が強調される一方, これら社会的ネットワークをめぐる問題をいかに乗り越えるのか, その戦略は考察されていない. 本稿では, 地域若者サポートステーション事業を対象に, この論点を考察する.</p><p>本稿ではナン・リンの議論 (Lin 2001=2008) から, 社会関係資本の伝達基盤となる相互行為における①異質的相互行為へのアクセスの困難, ②同類的相互行為の道具的限界という潜在的困難を指摘し, 対処する戦略をみる. ①に関しては, 特にイギリスのコネクションズ・サービスではアウトリーチなどの手段を通じて低減が図られ, 日本でも部分的に実施された. しかし職員との相談 (第1 段階の異質的相互行為) を経ても, 進路決定に必要な次の異質的相互行為をためらう若者の存在が職員に認識され, 自らのもつ資源 (「強み」) の承認を相互に可能にする若者同士の人間関係を構築しうるプログラムが多く実施されるようになった. ②に関しては, 若者同士の人間関係を通じて承認を得た資源を基盤に, 従来の若者の考え方とは異なる視点から, 進路探索に必要な新たな異質的相互行為に役立つ資源を職員が提供する. 本稿では, この同類的相互行為と異質的相互行為が相互補完的な役割を果たす過程を示す.</p>
著者
嘉目 克彦
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.204-216,280*-279, 1985-09-30

マックス・ヴェーバーの「マクロ社会学的研究計画」に対する問題関心の高まりとともに、近代西欧の「合理化」がヴェーバーの社会学と歴史研究の統一テーマであり、ヴェーバーの全作品を貫く「赤い糸」であること、したがってその作品理解の主要課題はいわゆる「合理化問題」の解明にあることが、最近改めて注目されはじめている。しかしその場合、「合理化」は「合理性」概念にかんする一定の解釈を前提にして論じられているのであって、この点では、早くから指摘されている「合理性」の「多義性」にかんする問題が従来と同様ほとんど考慮されていないといわざるを得ない。<BR>本稿は、「合理性」の論理的意味にかんして、「ものの属性としての合理性」という観点から従来の諸説を検討し、これまで多様に解釈されてきた「合理性」概念を一義的に理解するための道を模索した試論である。従来の解釈では結局のところ「合理性」が「体系性」、「経験的合法則性」および「首尾一貫性」として個別的に理解されているということ、これらの特殊的かつ要素的な「合理性」はしかし例えば「理解可能性」ないしは「伝達可能性」として一般化しうるということ、また「合理性」は結局「意味」の「理解」にかかわる概念であるということ、こうした点が本稿で指摘される。
著者
富永 健一
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.31-55,146, 1957-02-25 (Released:2009-11-11)
参考文献数
66
被引用文献数
1

1. It would be a theoretical presumption to many sociologists and social psychologists that our societies are not formless but have certain organized pattern. But, on the other hand, there would be various possibilities from what theoretical framework those organized pattern should be abstracted. In this paper, let us think on this point that the societies are not formless because of some pattern uniformities, not randomness, in our interpersonal overt behaviors ; the interpersonal behaviors are observable manifest variables, so all constructive concepts of sociology and social psychology can be inferred from them. 2. On the external objective point of view, a concept that is inferred from the more or less consistent order is what we call the “social system.” Against this, on the internal subjective point of view of motivated individuals, a concept that is inferred from pattern uniformities is what we call the “attitude”. Both social system and attitude are the scientific construct inferred from observable manifest valiables of interpersonal behaviors, and they must be distinguished from each other in terms of object-subject criteria. 3. What is called a “system” is as follows : its two or more units or factors are mutually interdependent such that any change in state of one unit or factor xj is followed by change in state of others x1, …, xi-1, Xi+1, …, xn and the latter is followed again by change in the former and so on. Thus, when we apply this to behabioral units or factors we can speak of the social system that shows the relationship within social objects. 4. We find a series of sociological theories which adopt this concept. In the case of classical Pareto's theory, the social system was considered to be a state of dynamic equilibrium in cycles of interdependence of four factors : a. residues ; b. interests ; c. derivations ; d. social heterogeneity and circulation. Closely related to this theory we can find George C. Horman's theory. He defines the social system as composed of two analytical aspects (i.e., external system and internal system) and three composite factors (i.e., activities, interactions, and sentiments). Therefore, these two I shall name “Pareto-Homans model” of the social system. Pareto's is a priori model, but Homans' is, so to call it, ex post facto model for codification. 5. Tolcott Parsons' famous theory of the social system rests on the same basis, yet the main feature that characterizes his theory lies in the categorization in terms of combinations of five (or recently, chiefly four) “pattern variables”. This way of thinking is akin to that of Allen H. Bartons' “property space.” Combinations of pattern variables are not merely setting of typology but indicate the “phase movement” and the role-differentiation in action space. This Theory, putting its empirical. reference to Robert F. Bales' interaction process analysis, I call “Parsons-Bales model, ” which, as attempt to theorize more than is empirically known, can be termed speculative model. 6. Above two models will be both able to be characterized as a kind of model of dynamic equilbrium. This model always needs some a priori theoretical postulates : that is, automatic control mechanism or feedback system. Because of this postulate, if we are to make use of this model to our empirical reality, the problem of conceptual validity will arise. Strongly contrasted to this model would be the concept of “mass” society.
著者
片桐 雅隆 樫村 愛子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.366-385, 2011-03-31 (Released:2013-03-01)
参考文献数
71

本稿の前半では,心理学化する社会論の前史として,社会学の歴史の中で,社会学と心理学/精神分析との関連を跡づけた.1.1の「創設期の社会学と心理学」では,創設期の社会学の方法の中で,心理学がどのような位置にあったかを明らかにする.1.2の「大衆社会論と心理学/精神分析との接点」では,媒介的な関係の解体による心理的な不安の成立が,社会学における心理学や精神分析の視点の導入の契機となったことを指摘する.1.3の「『心理学化』社会論の登場――戦後のアメリカ社会学」では,自己の構築の自己言及化という観点から,アメリカにおける心理学化社会のさまざまな動向を明らかにする.1.4の「ギデンズとベックの個人化論と自己論」では,高次近代や第2の近代における自己のあり方や,その論点と心理学社会論との差異などを指摘する.後半では,第2の近代が始まり出す1970年代以降について,個人化の契機における社会(「社会的なもの」)の再編成の技術として心理学化を分析した.その起点は「68年」にあり,古い秩序を解体して新しい社会を構成しようとした「68年」イデオロギーが「資本主義の新しい精神」(ボルタンスキ,シアペロ)となって共同性を意図せず解体しネオリベラリズムを生み出すもととなったこと,この社会の解体にあたって社会の再編技術として心理学/精神分析が利用されたことを見る.それはアメリカ社会で顕著であるとともに,アメリカ社会では建国の早い段階から心理学/精神分析が統治技術として導入され精神分析が変形された.日本においては,福祉国家化の遅れに連動する個人の自立の遅れのため,心理学化は周辺現象としてしか起こらず,90年代の個人化の契機は「欠如の個人主義」(カステル)のような過酷なかたちで現れ,心理学化は十分構成されないままポスト心理学化へと移行している.
著者
江原 由美子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.54-69, 1981-12-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
55

シユッツのレリヴァンス概念は、彼の理論において重要な位置を与えられている。だがその理解は非常に困難である。おそらくその一因は、彼が文脈によって意味を変えて使用していることにあると思われる。この観点から本稿では第一にレリヴアンス概念の多様な文脈を整理する。次に、従来のシユッツのレリヴァンス概念についての解釈を手がかりに、レリヴァンスの意味が、 (1) 個人が選択された側面に帰属する属性、 (2) 個人の選択機能、又は選択する作用、 (3) 類型や知識の関連性という相異なる三様に解釈できることを示す。さらにレリヴァンス (体糸) の共有という論点においても、シユッツの記述に矛盾が見出せることを示す。次にレリヴァンスの問題とは何かを考察し、それが、自然的態度においてはけっして問われない、常識的思考そのものを成りたたしめている諸前提を明らかにするという問題であったことを把握する。しかしシユッツがそれを論じる視点は一様ではなく、 (1) 現象学的反省の視点、 (2) 観察者の視点という相異なる視点から考察していたのだと考えられる。ここから先に述べたレリヴァンス概念の三様の解釈の意義を明らかにする。すなわち、彼は、 (1) 日常生活者の視点、 (2) 現象学的反省の視点、 (3) 観察者の視点という三視点のそれぞれに応じてレリヴァンス概念を別の意味で使用したという仮説を呈示する。以上の考察に基づき、レリヴァンス問題の特異性を論じた上で、レリヴァンス論の継承方向を検討する。
著者
三隅 一人
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.716-733, 2009-03-31 (Released:2010-04-01)
参考文献数
35
被引用文献数
1

本稿は,社会関係資本のSSM的な階層研究への導入に際して突きあたる原理問題を,機会の平等に照らして考察する.まず,社会関係資本を導入した階層研究の展開をおさえつつ,その導入が改めて問いかける労働市場と社会構造との関係に関わる原理問題を確認する.機能主義階層論のコトバでいえば,それは社会関係資本が抱え込む機会の平等(それが指標する労働市場の機能性)に照らした両義性の問題である.階層研究に求められるのはその両義性をそれとして分析し,社会関係にもとづく機会の平等を語るためのコトバである.本稿ではこの問題にアプローチする例解を思考実験的に示す.それは,当該の社会が初職入職をもっぱら社会関係資本に依存すると仮定した場合,そこでの機会の平等はいかなるものか,そしてそれはどういう階層性を帯びて表れるのか,という思考実験である.また,この思考実験を比較階層文化論の準拠枠に展開する目論見から,国際比較を試みる.2005年SSMの日本・韓国・台湾の調査データでみると,友人先輩関係資本および台湾における家族親戚関係資本は,それへの依存が必ずしも機会の平等を損なうものではないことが示される.また,そこでの移動パターンは,そもそもの学歴バイアスや産業構造の成熟度を反映して国ごとに違いを呈しつつも,それぞれに一定のホワイトカラー階層を生成する力を秘めている.
著者
藤崎 宏子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.604-624, 2013 (Released:2015-03-31)
参考文献数
38
被引用文献数
1

1970年代以降の福祉国家再編の過程で, 家族を中心とする私的な関係性のなかで対応されてきたケアが社会問題として位置づけられ, 独自の政策的対応を必要とするようになった. しかしながらこの過程は, 単線的に, そしてスムーズに進んだわけではない. とりわけ家族主義的な規範が根強い日本社会では, ケアを「家族」に繋ぎとめようとする抵抗勢力がかたちを変えつつ存在し続けている. 本稿では, 70年代以降のケア政策の動向を追うことにより, 各年代の政策が前提とする, あるいは期待する家族モデルがどのように変容してきたかを明らかにすることを目的とした. 取り上げる政策範疇は子育てと高齢者介護における「労働」「費用」への支援策とし, 主要な分析資料は各種政策文書に求めた. 分析の結果, 70~80年代には子育て支援・高齢者介護政策ともに, 性別役割分業型家族を前提としたケア政策が採られたが, 90年代以降にはそのモデルは分岐していく. 子育て支援策においては, 男女の雇用環境の変化とこれにともなう家族の変容が認識されつつも, なお「男性稼ぎ手家族」を完全に放棄できない現状がある. 高齢者介護政策では, 高齢者の居住形態や介護態勢の多様化を受けて, 少なくとも制度設計上は「個人単位」が前提とされるようになった. ただし, 両領域ともに政策の家族モデルと社会的現実との齟齬は大きく, 多くの課題が残されている.
著者
穐山 新
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.2-18, 2015 (Released:2016-06-30)
参考文献数
52

本稿の目的は, 比較歴史社会学的な手法を用いて, シティズンシップにおける「共同社会」を統合する原理を, 戦前期における日本と中国の社会的権利をめぐる思想と政策を通じて明らかにしていくことにある. 日本でも中国でも共通して, 「社会連帯」を通じて共同社会に能動的に貢献できる人格を生み出していくことがめざされていたが, 「社会連帯」の否定的な対概念である, 怠惰な依存者を生み出すものとしての「慈善」に対する理解には, 以下のような相違が見られた.日本における「慈善」は, 篤志家の施与や温情による救済という, 救済者のパターナリズムを意味した. それゆえ, 方面委員制度として具体化されたように, 「社会連帯」の理念ではそうした非対称的な関係を解消するための, 家庭・地域の日常的な場における社交や, 救済者がみずからの優越的地位を自己否定する「無報酬の心」が強調された. それに対して中国における「慈善」は, 慈善事業を運営する個々の郷紳の人格的能力という偶然性に依拠した「組織性」を欠いた救済 (「各自為政」) を意味した. そのため, 中国で「社会連帯」を可能にするためには, 何よりもまず「組織」の形成および確立と, そうした組織を束ねて運営する能力を有する「人」の発掘と育成が課題となった.以上の検討を通じて本稿では, 救済者の自己犠牲の精神と組織への強力なコミットメントという, 両者における共同社会を統合する原理の違いが生み出されたことを明らかにした.
著者
山口 一男
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.231-252, 1999-09-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

本稿は潜在クラス分析と関連する回帰分析を用いて性別役割態度の潜在クラスと社会階層との関連について日本および米国の既婚女性を分析し結果を比較する。潜在クラスについては日本では「性別役割支持型」, 「性的平等支持・職業志向型」, 「性的平等支持・非職業志向型」の3クラス, 米国では「性別役割支持・両立否定型」, 「性別役割支持・両立肯定型」, 「性的平等支持型」の3クラスが存在する事を示し, 潜在クラスの割合が本人, 夫, 父親の階層属性にどう関連しているかを明らかにする。また「性別役割支持型」対「性的平等支持型」の割合比へのそれらの属性の影響を日米で比較する。最後に分析結果の理論的意味と今後の展望を議論する。