著者
朴 光駿
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.6, pp.51-67, 2010-03

東アジア国家・地域では共通的にみられる現象であるが,韓国においても少子高齢化が急速に行われている。そして,2005年少子高齢化に対処するために「低出産・高齢社会基本計画」が策定され,さまざまな政策プログラムが実施されている。同計画は大きく3部門からなっており,その1つが「低出産対策部門」である。 低出産対策は中央政府と地方政府のレベルで行われていて,莫大な公費が投入されている。本稿はその具体的な政策プログラムを考察し,その課題を提示することを研究目的としている。そのためには,韓国において出生率が急激に低下した原因に対する分析が必要であり,その原因については統計学的説明と社会経済的説明に区分して議論している。もし,少子化の真の原因に対する事実認識を誤ってしまうと,政策の実効性が期待できないにもかかわらず莫大な財源負担だけが残る可能性もあるのでこの点についての論議は重要である。 低出産対策のプログラムについては,中央政府プログラムと自治体プログラム,そして国民年金における出産クレジット制度とに分けて紹介している。韓国の福祉低出産対策少子高齢化社会出生率低下東アジア福祉
著者
篠原 由利子
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.15, pp.45-59, 2019-03-01

日本での精神疾患の治療は非自発的入院である医療保護入院から開始されることが多い。入院を望まない大多数の患者が民間単科精神科病院の閉鎖的な空間で入院期間を過ごすことになる。これら民間精神科病院では、いまだに医療法の特例許可により一般科より少ない基準の職員配置でよいとされている。ICFの定着、障害者の自立や完全な社会参加、差別禁止法など障害者の人権に関する国際的な動きが活発化しているなか、わが国で特に際立つのが非自発的入院の多さと精神科医療機関の閉鎖性である。このような環境の中では人権侵害が起きやすく、また現に起こってきた負の歴史がある。密室性や閉鎖性をはらむ精神科医療の人権侵害を監視し、適正な医療の提供を審査する機関が都道府県に設置されている精神医療審査会である。昭和63年の設置以来、時々の精神科医療の傾向と施策、あるいは人権意識の変化の影響を受けつつ幾度かの改正がなされたが、最近では機能不全をきたしているとの批判も少なくない。ここでは、これまでの改正内容をふり返りつつ、直近の平成25年の法改正以降もなお解決されていない人権擁護上の問題を明確にし、精神医療審査会が本来果たすべき人権擁護機関としての機能について論じていく。精神障害者の人権精神医療審査会医療保護入院
著者
村岡 潔
出版者
佛教大学
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.137-146, 2013-03-01

本稿は,筆者の造語である「隠謀学」についての最初のイントロダクションです。隠謀学は,この世の日常茶飯事に満ち溢れている数々の隠謀(プロット)を解読するための一種の論理学であり,行動科学であり,文化的解剖学(アナトミー)です。また,性善説で生きている人に対する性悪説の世界観からのツッコミであり,人生において駆け引き上手になるための手引きでもあります。例えば,「金儲けの話」「死ぬまで保障される保険」「骨董屋の店先の掘り出し物」「水子供養のための金の仏像」「健康食品」などのうまい話は,すべて隠謀の可能性を秘めているからです。むろん,隠謀学は,日常生活に隠された罠を見抜くためにこそあれ,逆に隠謀力を増進するためのものでもありません。本文では,事例を踏まえながら,隠謀主義の特徴である「錯覚化」「モデル化」「権威的錯覚化」「偶然化」などの作用について解説し,最後に簡単に脱隠謀化の処方箋を提示しました。
著者
篠原 由利子
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.16, pp.39-63, 2020-03-01

1950年代-1960年代にかけて日本政府はWHOに精神衛生全般の専門顧問を招聘した。戦前からほぼ手つかずであった精神衛生施策、精神医療に対する助言、指導を請うためであった。戦前から家族依存、民間依存であった精神障害者対策は、戦後に新しい精神衛生施策や精神医療の導入をめざすが、結局日本特有の民間依存の大規模な隔離収容施設の建設を食い止めることができず、現在なお精神病床の削減を果たせないままである。戦後日本の精神医療を振り返るとき、最後のWHO顧問となったデビッド・クラーク博士の勧告(1968年のクラーク勧告)をどう取り上げるかが一つの基軸となる。熱心で緻密な調査報告は、ことに当時の精神病院の状況を正確に分析している。それらはその後の施策に反映させるべきであった。しかし当時の厚生省が自ら招聘したにもかかわらず、その勧告を全く無視したといわれている。本稿では4度にわたるWHO報告に関連させて、戦後日本の精神医療を方向づけた1950年代から1960年代の精神衛生施策、精神科治療、学会等専門職団体の動きをふりかえり、日本の精神医療に今なお横たわる課題の歴史的検証をする。クラーク勧告戦後精神医療地域精神衛生公衆衛生施策
著者
岡﨑 祐司
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.16, pp.21-37, 2020-03-01

介護保険は、国民の介護保障への期待を達成することはできない。なぜなら、構造的な問題を抱えているからである。給付が現金給付・事業者の代理受領方式であり、必要充足原則、普遍主義を確立できないからである。給付を現物給付化するべきである。国民最低限についての研究上の課題があるが、ナショナル・ミニマムの一環に社会サービスを位置づける検討が重要である。要介護高齢者の自立・予防は保険者機能の強化に位置づけるべきではなく、地方自治体の保健福祉政策として確立すべきである。介護保険改革現物給付必要充足原則普遍主義保険者機能強化
著者
永和 良之助
出版者
佛教大学
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.19-36, 2008-03-01

介護保険の実施により高齢者介護事業は激変したが,本稿は,措置の時代から高齢者介護をほぼ一手に担ってきた社会福祉法人経営が,この介護保険の実施によりどのように変化したのかを明らかにする目的の下に著したものである。研究方法としては,公文書公開制度を活用し,社会福祉法人が経営する高齢者介護事業の内部資料を入手・分析する方法を採った。資料分析の結果,高齢者介護事業を営む社会福祉法人の多くが,介護保険実施以降,事業収入を大きく伸ばし,高利益を得,事業拡大していることが明らかとなった。だが,それは,人件費抑制,利用者のサービス経費の抑制によるものであり,これまでの「労働集約型産業」である社会福祉事業の姿を大きく歪めるものである。のみならず,かかる法人経営の高齢者施設(特別養護老人ホーム)では,利用者の生活は一層貧しくなり,介護職員の労働環境も荒廃していることを具体的に論証した。無論,すべての社会福祉法人が営利主義的傾向を強めているわけでも,利用者の生活が貧しくなり,介護労働が荒廃しているわけでもなL、。むしろ,介護保険になり,営利主義的社会福祉法人と非営利社会福祉法人の二極分化は,一層顕著になった。介護保険で「経営の自由」を得た社会福祉法人は,「自由」を得たがゆえに自己の本当の姿を露わにせざるを得なかったからである。本稿では,「経営の自由」を得た社会福祉法人(経営者)がその「自由」をどのように行使したかも論述した。本稿は,介護保険制度それ自体を論じるものではないが,社会福祉法人の経営変化,利用者の生活変化,介護労働の変化を通して,介護保険制度の持つ問題点にも言及している。
著者
植田 章
出版者
佛教大学
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-17, 2008-03-01

本稿は,障害者自立支援法による福祉サービスの提供と新たな事業体系への移行が福祉施設・事業所の運営と福祉実践にどのような影響をもたらしているのか,人員,設備および運営に関する基準からその問題点を明らかにした。知的障害者入所更生施設における業務調査では,障害者支援の特徴や固有の専門性として,問題対応型の支援の提供にとどまらず,予防的な視点からも支援が提供されている点,基本的な日常生活支援や外出支援においては,利用者のわずかな変化への気づきを通して,事態を予測した対応が随所でなされている点,生活全体を支援する視点を疎かにしていない点が浮き彫りになった。また,職員の働きかけが,職員聞の連携,集団性の確保と利用者の日常的な関係づくり,利用者の「想いや意欲」に寄り添う姿勢を重視してなされている点も明らかになった。障害者自立支援法の新たな事業移行では,施設入所支援等の「暮らしの場」が位置づけられているが,不十分な職員配置基準や設備基準,低い報酬問題に見るように,その移行は必ずしも容易ではなく,業務調査で浮き彫りにされた福祉実践の専門性を担保するものとはなってはいない。こうした点から,あらためて暮らしの場を支える機能と専門性を検討することの重要性について論じた。
著者
岡﨑 祐司
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.15, pp.1-22, 2019-03-01

介護保険改定により、「自立」への誘導が強化され権力的運営構造が強化されている。ケアとはなにか、その本質を看過しているところに根本問題がある。そこでケア政策の前提としてケア論をさぐる。社会福祉理論においては生活「状態」、社会問題分析を基礎にしているが、人間の生・生活という活動的側面を含めて考察するべきである。生活主体の権利保障、実践者と対象者の相互作用が明らかになる。ケア政策の目標はケアの社会的保障である。介護保険自立生活のケア相互作用ケア政策
著者
植田 章
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.37-50, 2018-03-01

障害者の高齢化が進むにつれて,障害者支援の現場でも新しい課題が持ち上がっている。とくに,作業活動を軸に支援を提供する日中活動の場では,利用者の加齢に合わせ,どのような内容を提供していけばよいのかといった悩みや,人生の後半をこのまま変わらずに過ごすことでよいのかといった迷いが生じている。 本小論は,現場の課題に着目し,NPO 法人大阪障害者センターの「障害者の高齢期を支える支援プログラム開発プロジェクトチーム」で取り組んだ知的障害者を対象とした高齢期の支援プログラムの開発モデルの提案と,高齢期支援プログラムの基本的な考え方について述べたものである。 開発モデル案として一つは,「健康づくり」を目的とした活動を取り上げ,客観的なアセスメントによる身体機能の把握が基礎になること,知的障害者の場合,自らの身体の不調を認識したり,表現したりすることが困難な場合が多いことから,日常的に健康チェックを行ったり,様子を注意深く観察したり,丁寧に本人に聞き取るなどして,プログラムを実行することが望ましいことを明らかにした。二つめは,その人の過去の出来事や社会とのつながりについて回想する「自分史の振り返り」プログラムを取り上げている。こうした取り組みから,元気に社会で活躍した時期の記憶が,その人にとって生きる励みになるということを浮き彫りにした。 さらに,開発モデル案をふまえて高齢期の日中活動の考え方として,中年期・高齢期においては身体機能の低下を防ぎ,生活能力を維持・向上するための「生活プログラム」をベースに展開されることが求められてくることと,これまでと同様に,障害者が生産的な活動に参加することを通して,生き甲斐や達成感を持つことができるような支援も続けていかなくてはならないことについても述べている。高齢知的障害者支援プログラム日中活動介護保険制度
著者
村岡 潔
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.16, pp.65-77, 2020-03-01

本稿は、福祉や医療の現場おけるケアテイカーが、病気や障害に苦しむクライエントのライフスタイルを適切に理解し、効果的な援助を行なうための鍵となる有用な観念として、患者や障害者等のクライエントの私秘的言語とその世界および心身像の概念をとり上げる。徘徊など認知症の周辺症状(行動・心理症状)は、一見、無意味な困った行動とされてきたが、ケアテイカーが、その背景にあるクライエントの意味付けを探すことは、その内的意識に心を寄せることになる。第I節では、I・ハッキングの私秘的言語と公共的言語の観念を敷衍し、そこからクライエントにとって私秘的世界と公共的世界の違いを対比した。特に私秘的世界は、内言や内的意識とつながっており、クライエントの理解に不可欠な観念であることを示した。第II節では、C・ヘルマンに従いつつ、本稿での階層性(個的心身像、ミクロとマクロの社会的心身像)を持つクライエントの心身像を定義し、私秘的世界とのつながりについても言及した。第III節では、ケアテイカーが、クライエントの内言を探り、その私秘的世界を見ることに成功するならば、クライエントのライフスタイルをよりよく理解できる鍵となりえることを指摘し、こうしたケアテイカーのクライエントへのアプローチとして「異邦人的接遇」を紹介した。第IV節では、「夕暮れ症候群」など認知症のクライエントの抱える問題を具体的示しつつ、そこに含まれる私秘的世界への異邦人的接遇のあり方を示した。第V節では、自閉スペクトラム症の人からの「非定型発達者」も「定型発達者」も、その私秘的世界が異なっているとしても、その価値には差がないというステートメントを提示した。クライエントとケアテイカー私秘的世界と公共的世界心身像認知症異邦人的接遇
著者
永和 良之助
出版者
佛教大学
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.39-56, 2011-03-01

本稿は,増加していると言われながらも不明な点の多い介護事故の現状を明らかにすることを目的としている。アプローチの方法としては,事業者から提出された事故報告書を公文書公開制度によって入手し分析する手法を採っている。この「生の」第一次資料を一枚一枚分析した結果,介護事故は圧倒的に転倒事故が多いことや,その発生状況も明らかになったが,本稿の研究上の意義は,これまで詳らかでなかった介護過失 (介護ミス) の現状を明らかにした点にあり,(1)事業者による介護過失が相当数起きていること,(2)過失の直接原因は,介護技術の未熟さと介護知識の不足や,介護従事者の不注意や安全保持の怠慢などにあること,(3)過失の結果,利用者が死亡,骨折を負うなど重大な被害が多数生じていること,(4)にもかかわらず損害賠償の実施件数は極めて少ないことなどを論証している。
著者
小林 美津江
出版者
佛教大学社会福祉学部
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
no.17, pp.109-130, 2021-03-01

本研究の目的は,障害者政策における第二次大戦後のコロニー収容と,現代の市場化後の地域生活には共通する排除と隔離が存在するのか,またその蓋然性があるのかについて分析し,今後の障害者政策に示唆を得ることである。研究の背景には,障害者支援の場がコロニーからグループホームに移行したが,問題を起こすと事業主が警察に通報し精神病院に入院させたり,行方不明や自殺するケース等が起こっている。分析対象は,旧優生保護法と厚生白書,海外のコロニーとその思想の輸入,福祉実践家への影響,コロニー設立時の状況,公的福祉の後退と市場化後の現状,障害者福祉のあり方等である。分析結果は,コロニー収容には国の経済発展を背景にした社会防衛論と優生思想に基づく障害者の排除と隔離が存在した。市場化後の状況にも利潤優先による排除と隔離が発生していた。結論は,コロニー収容時代だけでなく市場化後も排除は起こり続けており,その蓋然性があった。障害者を権利の主体者として事業を行えるのは公的福祉であり,そのための再検討が求められる。コロニー収容社会防衛論優生思想公的福祉の後退市場化
著者
村岡 潔
出版者
佛教大学
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.89-104, 2007-03-01

本稿は,近代医学にとって人体実験がどのような機能を果たしているかについての考察である。「人体実験」という言葉は,日本の医学界の文脈では,一般に,忌避される傾向があり,代わりに「臨床試験」とか「治験」という耳になじみやすい言葉に置きかえられて流通している。これは,20世紀のナチス・ドイツや日本軍の七三一部隊の行なった非人道的人体実験との混同を避けるためと思われるが,近代医学が日進月歩すべきとする価値観に支えられている限り,医学研究でも日常臨床でも,人体実験,すなわち「人間を対象とする実験」は不可欠である。なぜなら,新たな医薬・治療法の開発において動物実験の結果を直ちに患者に応用することができないことからそれは自明であろう。この論考は,その視点に立って,主に,日常臨床における医師-患者関係というミクロの医療環境における医療行為に伴う一回性的体験実験の問題に焦点を当てたケース・スタディである。特に18世紀から19世紀の「英雄医学」や「大外科時代」の事例と,最近の出来事として慈恵大学青戸病院や埼玉医科大学医療センターにおける医療過誤の事例とを比較しながら,そこに通底する実験性の問題を分析した。また,C・ベルナールらの19世紀の人体実験に関する考察や事例から,近代医学の人体実験不可避性ならびに,そうした人体実験への意志の起源についても言及した。
著者
杉原 努
出版者
佛教大学
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.31-45, 2015-03-01

日本は世界でも群を抜いて多数の精神科ベッドおよび長期入院者があり,その対応は精神保健福祉政策の喫緊の課題である。そこで,長期入院者への退院支援に関する先行研究の論点を明らかにするとともに,退院を困難にしている要因の検証を行った。さらに,先行研究が着目した研究視点をカテゴライズした。その結果,17 の概念,5つのサブカテゴリー,2 つのカテゴリーに分類できた。一つのカテゴリー(表2 の番号1 から9) では,日本の精神科医療政策の問題点が明らかになった。地域における社会資源整備の遅れにより長期入院を生じさせてしまった現状があった。もう一つのカテゴリー(表2 の番号10 以降) では,考え方や実践における退院支援の観点が明らかになった。退院支援方法の確立と地域における支援システムの形成がなされつつある現状があった。これらは,長期入院者の社会的復権に向けた取り組みの一つとして位置づけられよう。本稿では主に前者のカテゴリー内容について論じる。後者のカテゴリー内容については第2 稿に示す。
著者
村岡 潔
出版者
佛教大学
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.67-73, 2014-03-01

本稿は,前回の隠謀学入門を受けて,その続編として執筆した。最初に,前回のまとめとして隠謀学の定義を簡単にまとめた。ついで,隠謀学的推論の基礎として,まず,「イベント」の単純パズル化について解説し,次に,隠謀学的営為においては等身大の思考が重要である旨を示唆しつつ,「隠謀学的サーブ権」について言語学的な観点から解説した。最後に,コジコジとジョージ・ムーンを取り上げ,隠謀学的等身大の生き方について若干のコメントを述べた。
著者
藤松 素子
出版者
佛教大学
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.39-56, 2012-03-01

「地域福祉の時代」と言われて久しいが,地域福祉とはどのようなものであり,どのような要件のもとに成立しうるのかについての議論は曖昧なまま,個別の実践に対する評価,援助技法についての効果測定がなされているのが現状である。また,近年,国家や地方自治体に対応困難な地域課題を地域住民の自発的な活動 (「新たな支え合い」) 等により解決することを期待する政策が展開されている。そもそも,地域福祉は国家政策と切り離して成立しえるものではない。コミュニティが崩壊・弱体化した日本社会において,地域福祉を推進していくためには,私たちの地域生活基盤を支える国家政策,地方自治体政策が機能していることが必要条件となる。また,地域福祉促進の重要な担い手である社会福祉協議会が本来的な機能を遂行していくための政策を持ち得ているのか,地域福祉計画が地域住民の生活を維持・発展させていくために機能しているのかについても批判的な検討を深めていく必要がある。
著者
植田 章
出版者
佛教大学
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.19-32, 2010-03-01
被引用文献数
3

障害のあるなしにかかわらず,老化には個人差がある。ダウン症者においては壮年期にさしかかった頃にアルツハイマー症状を呈したり,身体的機能の低下をもたらすなどの「早期老化」傾向が確認されているが,知的障害のある人たちの「老い」が一律的に早いということではない。しかし,彼らが被ってきた社会的な不利益が壮年期・高齢期の暮らしを大きく規定していることは確かであり,このことは,知的障害のある人たちの加齢研究の重要な視点と言える。 本小論では,筆者が実施した「知的障害のある人(壮年期・高齢期)の健康と生活に関する調査」の結果をふまえ,健康保持と日常的な生活アセスメントの重要性や環境要因についての検討の必要性,高齢化する家族に対応した支援のあり方など,壮年期・高齢期の人たちの地域での暮らしをより豊かなものにしていくための生活支援の実践的課題について明らかにした。さらに,終末期を含めて後期高齢期の支援には,ただただ健康や疾患に配慮するだけの消極的な支援ではなく,「人生の満足」を追求した積極的な視点が求められていることも示した。
著者
伊部 恭子
出版者
佛教大学
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
vol.9, 2013-03-01

本稿の目的は,社会的養護を受けた人々への生活史聞き取り調査(2007?2010年度に実施) から,家庭復帰をした人とその家族関係・社会関係に焦点をあて,支援に関する課題を考察することである。ここでは,社会的養護のなかで,主に施設ケアを取り上げる。施設への入所前,入所中,退所後という時間的経過のなかで,当事者が,その生活とおかれている状況,家族関係,社会関係をどのようにとらえてきたのか,どのような困難や課題があり,どのように対処したのか等を明らかにし,支援の過程に則して課題を考察した。生活史インタビューの結果,家庭復帰後にも多様な生活困難,生活課題,家族関係・社会関係における葛藤や困難,課題が生じていることが明らかになった。支援の過程,すなわちアドミッションケア,インケア,リービングケア,アフターケアにおいて考慮すべき点として,特に,退所後の支援を見通したインケアにおける支援のあり方が,当事者の生と生活の力を育み,施設退所後に困難等を抱えた時の対処の仕方や課題解決の仕方に活かされる可能性,インケアと並行して親支援を行うことの重要性が確認された。引き続き,当事者の生活と支援について,時間軸に着目して分析し,回復に向けた支援に関する考察を深めていくことを課題とする。